なぜ 生きものは、老いておいて 死ぬの?

なぜ生き物は老いるのか?死ぬのか?

なぜ生き物は老いるのか? 死ぬのか? ── 細胞の老化と進化のしくみ

分野:生きもの

人も どうぶつも、年を とると、からだが かわって いきます。 そして、いつか 死んで しまいます。

なんで、そう いう ことに なって いるのでしょうか。

この きじでは、生きものが 老いておいて 死ぬ わけを 見て いきます。

人も動物も、年をとると、体が変わっていきます。そして、いつか死んでしまいます。

なんで、そういうことになっているのでしょうか。

この記事では、生き物が老いて死ぬわけを見ていきます。

「なぜ生き物は死ぬのか」という問いは、長く生物学の大きなテーマでした。細胞のレベルでも、進化のレベルでも、それぞれの答えが見つかりつつあります。

この記事では、細胞にも寿命があるという発見、老いにくい生き物の例、そして「死は生き物の進化にとって必要なものだった」という考え方までをたどります。

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1. さいぼうにも、じゅみょうが ある

1. 細胞にも、寿命がある

1. ヘイフリック限界 ── 1961年の発見

からだは、とても 小さな つぶ「さいぼう」が たくさん あつまって できて います。さいぼうは、ぶんれつ(わかれて ふえる こと)を くりかえして、からだを つくったり、 なおしたり して います。

でも、1つの さいぼうが ぶんれつ できる かいすうには かぎりが あります。1961年、ヘイフリックと いう 学者が、 人の さいぼうは やく40〜50かい ぶんれつすると、それ いじょう ふえなく なる ことを 見つけました [1]

体は、小さな「細胞」の集まり

体は、とても小さな粒「細胞」がたくさん集まってできています。細胞は、分裂(分かれて増えること)をくり返して、体をつくったり、なおしたりしています。

1961年、分裂の回数に限りがあると分かった

でも、1つの細胞が分裂できる回数には限りがあります。1961年、レナード・ヘイフリックらが、人の細胞は約40〜50回分裂すると、それ以上は増えなくなることを発見しました[1]。この発見は「ヘイフリック限界」と呼ばれています。

人体は約37兆個の細胞から構成され、細胞は分裂によって数を増やし、体の維持と修復を行っています。しかし、この分裂回数には上限があることが分かっています。

1961年、レナード・ヘイフリックらは、ヒトの胎児由来の細胞を培養する実験を通じて、体細胞が約40〜50回分裂すると増殖を停止する現象を発見しました[1]。この上限は「ヘイフリック限界」と呼ばれ、細胞にも寿命があることを示す最初の科学的な証拠の1つとなりました。

2. じゅみょうの かいすうけん「テロメア」

2. 寿命の回数券「テロメア」

2. テロメア ── 分裂回数を数えるしくみ

さいぼうの 中には、せつめい書のような もの(いでんし)が あります。その はしっこに「テロメア」と いう ぶぶんが あり、ぶんれつする たびに、すこしずつ みじかく なって いきます[2]

バスの「かいすうけん」が つかう たびに 1まい へって いくのと にた しくみです(ただし 本当は、きっぷでは なく、いでんしの はしっこが みじかく なります)。 テロメアが みじかく なりきると、その さいぼうは ぶんれつ できなく なるのです。

細胞の中にある「設計図」の端っこ

細胞の中には、体の設計図のようなもの(遺伝子)があります。その端っこに「テロメア」という部分があり、分裂するたびに、少しずつ短くなっていきます[2]

分裂の回数を数える「回数券」

バスの「回数券」が使うたびに1枚減っていくのと似たしくみです(ただし本当は、切符ではなく、遺伝子の端っこが短くなります)。テロメアが短くなりきると、その細胞は分裂できなくなるのです。1978年、エリザベス・ブラックバーンらがテロメアの塩基配列を明らかにし、のちのテロメアとテロメラーゼの研究が2009年のノーベル生理学・医学賞につながりました[2]

染色体の末端には「テロメア」と呼ばれる、特定の塩基配列が繰り返される構造があります。細胞分裂のたびにDNAが複製されますが、この複製の仕組み上、末端部分は完全には複製されず、分裂のたびにテロメアが短縮していきます[2]

テロメアが一定の長さより短くなると、細胞はそれ以上分裂できなくなります。これがヘイフリック限界の分子レベルの正体だと考えられています。1978年にエリザベス・ブラックバーンらがこのテロメアの塩基配列を明らかにし、テロメアを伸長する酵素「テロメラーゼ」の発見とあわせて、2009年のノーベル生理学・医学賞の対象となりました[2]

3. わかがえる クラゲが いる

3. 若返るクラゲがいる

3. ベニクラゲ ── 若返りをくり返す生き物

ベニクラゲと いう、1センチにも みたない 小さな クラゲが います。この クラゲは、けがや ひもじさなどで ピンチに なると、大人の すがたから、赤ちゃんの すがたに もどって、 また せいちょうし なおす ことが できます [3]

この わかがえりを くりかえせる ため、「不老不死ふろうふしの クラゲ」とも よばれます。ただし、天てきに 食べられたり、 びょうきに なったり すれば、ふつうに 死んで しまいます [3]

ピンチになると、赤ちゃんの姿に戻る

ベニクラゲという、1センチにも満たない小さなクラゲがいます。このクラゲは、けがや飢えなどでピンチになると、大人の姿から、幼い姿(ポリプ)に戻って、また成長し直すことができます[3]

「不老不死」でも、天敵には勝てない

この若返りをくり返せるため、「不老不死のクラゲ」とも呼ばれます。ただし、天敵に食べられたり病気になったりすれば、若返る前にふつうに死んでしまいます[3]

ベニクラゲ(Turritopsis dohrnii)は、老化・損傷・飢餓などのストレスを受けると、成体の姿から幼生に近いポリプの状態へと逆戻りし、再び成長するというライフサイクルの逆転を起こせる生き物です。この現象は「分化転換」と呼ばれ、役割の決まった細胞が別の細胞へと作り替えられることによって起こります[3]

研究の結果、ベニクラゲは若返りの性質を持たない近縁種と比べて、細胞の修復や保護にかかわる遺伝子の数が2倍多く、DNAの複製や修復に関係する遺伝子の働きにも特徴があることが分かっています[3]。ただし、これは老化のプロセスを回避できるという意味での「不死」であり、捕食や感染症による死は避けられません。

4. 老けふけにくい ねずみが いる

4. 老けにくいねずみがいる

4. ハダカデバネズミ ── 老化とがんに強い理由

ハダカデバネズミと いう どうぶつは、ふつうの ねずみと おなじ くらいの 大きさなのに、じゅみょうが やく30年 あります[4]。ふつうの ねずみの じゅみょうが 2〜3年くらいな ことを かんがえると、とても 長生きです。

しかも、がんにも なりにくい ことが わかって います [4]

ふつうのねずみの10倍長生きする

ハダカデバネズミという動物は、ふつうのねずみと同じくらいの大きさなのに、寿命が約30年あります[4]。ふつうのねずみの寿命が2〜3年くらいなことを考えると、とても長生きです。

老化やがんを防ぐしくみ

寿命の8割の期間、老化の兆候を示さないうえ、がんにもなりにくいことが分かっています[4]。研究では、老化した細胞が体内にたまりにくいしくみや、細胞が異常に増えるのを防ぐ特殊な物質を出していることが明らかになっています。

ハダカデバネズミは、体の大きさがマウスとほぼ同等でありながら、寿命は約30年に達します。生存期間の約8割にわたって老化の兆候をほとんど示さず、加齢にともなう死亡率の上昇も見られないという、哺乳類としては例外的な特徴を持ちます[4]

この動物は、飼育下でがんにもきわめてなりにくいことで知られています。がんを抑える遺伝子ARFの働き方や、ERASという遺伝子の変異、老化した細胞(老化細胞)が体内にたまりにくいしくみなどが、近年の研究で明らかになってきました[4]

5. 生きものが 死ぬのは、わざと なのか

5. 生き物が死ぬのは、わざとなのか

5. なぜ死ぬのか ── 「変化と選択」という考え方

東京大学の 小林たけひこ先生は、「死ぬ しくみが あるからこそ、 生きものは しんかできる」と かんがえて います [5]

いきものは、ちがう すがたの こどもを つくり(へんか)、 まわりに あった すがたの ものだけが のこって いきます (せんたく)。もし だれも 死なずに、ずっと おなじ すがたの ままだったら、まわりの かんきょうが かわった ときに、 みんな いっしょに こまって しまうかも しれません [5]

「変化と選択」という進化のしくみ

東京大学の小林武彦先生は、「死ぬしくみがあるからこそ、生き物は進化できる」と考えています[5]

死は、次の世代に命をつなぐこと

生き物は、少しずつちがう姿の子どもをつくり(変化)、まわりの環境に合った姿のものだけが生き残っていきます(選択)。もしだれも死なずに、ずっと同じ姿のままだったら、環境が変わったときに、みんな一緒に困ってしまうかもしれません。死は、次の世代に命をつなぐしくみの一部だという考え方です[5]

東京大学定量生命科学研究所の小林武彦教授は、著書『生物はなぜ死ぬのか』などで、死という現象を進化の必然として説明しています。教授によれば、進化とは「変化」していろいろな個体ができ、その環境に適したものが「選択」的に生き残るというプログラムです[5]

もし個体が死なずに存在し続ければ、この「変化と選択」のサイクルが働かず、集団は環境の変化に適応できなくなります。死によって古い個体が入れ替わり続けることが、種としての生命の連続性を維持するために必要だった、というのがこの考え方の核心です。RNAが壊れては作り直されるという分子レベルの現象にも、同じ「作っては壊す」循環が見られると指摘されています[5]

じぶんでも やって みる

自分でも調べてみたくなったら

自分でも調べてみたくなったら

いろいろな 生きものの じゅみょうを、しらべて みましょう。

あんぜんな ばしょで できる こと

  • いろいろな どうぶつの じゅみょうを しらべて みる。 イヌ、ネコ、カメなど、どうぶつに よって じゅみょうが ちがう ことを しらべて みましょう。
  • 1年前の じぶんと くらべて みる。 せが のびたか、できなかった ことが できるように なったか、思い出して みましょう。
メモの すすめ

きょう 出て きた ことばを 1つだけ ノートに 書いて おきましょう。「テロメアって なに?」だけで じゅうぶんです。

いろいろな生き物の寿命を、調べてみましょう。

今日できること

  • いろいろな動物の寿命を調べてみる。イヌ、ネコ、カメなど、動物によって寿命がちがうことを調べてみましょう。
  • 1年前の自分と比べてみる。身長が伸びたか、できなかったことができるようになったか、思い出してみましょう。
メモのすすめ

気になった言葉を1つだけ書いておくと、あとで調べる入口になります。「ハダカデバネズミって、どこにいるの?」だけでも十分です。

身近な生き物の寿命や、細胞分裂のしくみを調べると、この記事で扱った内容が身近に感じられます。

手を動かして確かめる

  • いろいろな生き物の寿命を表にまとめる。人、イヌ、ネコ、カメ、ハダカデバネズミなど、体の大きさと寿命の関係を比べてみましょう。
  • 小林武彦教授の著書を読んでみる。『生物はなぜ死ぬのか』(講談社現代新書)など、図書館で探してみましょう。

一次情報にあたる

国立長寿医療研究センターのサイトには、老化研究についての解説が公開されています。

メモのすすめ

気になった数字や言葉を1つだけノートに記録しておきましょう。「ヘイフリック限界、約40〜50回」という一文でもかまいません。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

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出典について:百科事典・研究機関・専門メディアの公開情報を使っています。

  1. Wikipedia「ヘイフリック限界」。 https://ja.wikipedia.org/wiki/ヘイフリック限界 (1961年のレナード・ヘイフリックによる細胞分裂回数の上限の発見についての解説)
  2. Wikipedia「テロメア」。 https://ja.wikipedia.org/wiki/テロメア (テロメアの構造、1978年の解明、2009年のノーベル生理学・医学賞についての解説)
  3. 理科実験レシピ「不死身クラゲの『若返り』を可能にする遺伝子の秘密を発見!」。 https://www.rikelab.jp/post/4738.html (ベニクラゲの分化転換と、若返りにかかわる遺伝子についての解説)
  4. 国立長寿医療研究センター「老化知らずのハダカデバネズミはなにもの?」。 https://www.ncgg.go.jp/ri/labo/17.html (ハダカデバネズミの寿命と、老化・がん耐性についての公式解説)
  5. PRESIDENT Online「『なぜ生物は死ぬのか』という問いは間違い」(小林武彦教授インタビュー)。 https://president.jp/articles/-/82998 (小林武彦教授の「変化と選択」という進化論、死の役割についての解説)

なおした ところ

更新履歴

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