1. 1ぴきの サルが はじめた こと
1. 1頭のサルが始めた「イモ洗い」
1. 1953年の幸島 ── イモ洗いの観察と「文化をもつサル」
幸島に すむ ニホンザルは、京都大学の 人たちが 長く 見て きました[3]。
1953ねんに、1ぴきの 子ザルが、イモを 小川で あらいはじめた と つたえられて います[2]。すると、ほかの サルも、同じ ことを するように なりました。
そのころ、「文化は 人間だけの もの」と 考える 人が おおい ようでした。だから この はっけんは、大きな おどろきでした[2]。
幸島のニホンザルは、京都大学が1948年から調査を続けていて、約70年ぶんの系譜の記録があります[3]。
串間市の案内によると、1953年に1頭の子ザルが小川でイモを洗い始め、しだいに他のサルも同じ行動をとるようになりました。1つの行動が他の個体に伝わり続けることが「文化」とされ、当時の「人間以外は文化をもたない」という通念に合わない発見だったといいます[2]。
最初に洗ったサルの名前や年齢は、複数の解説で見かけますが、ここでは触れません。
京都大学の霊長類研究の紹介では、小川でサツマイモを洗い土を落とす1頭のサルの行動が群れの仲間に広がったこと、それゆえ幸島のサルが「文化をもつサル」として国際的に注目されたことが述べられている[1]。串間市の案内も、1953年に1頭の子ザルが洗い始め、他のサルが同じ行動をとるようになったとする[2]。
ここでの「文化」は、1つの行動が他の個体に伝わり続けることを指す使い方で、当時の「人間以外は文化をもたない」という通念に反する発見と位置づけられている[2]。同じ島では、砂と麦を水で分ける「むぎ洗い」も見られる。
京都大学は1948年から調査を続け、約95頭(2019年時点)の約70年ぶんの系譜記録がある[3]。最初にイモを洗った個体の名前・年齢・餌付けの開始年も解説には出てくるが、本稿では使わない。
2. ぜんいんが あらうわけでは ない?
2. 全員がやるわけではない ── 母から子へ、家族の中で
2. 洗わないサルもいる ── 家族内の社会的学習
おどろくのは、ここです。幸島の サルは、ぜんいんが イモを あらうわけでは ありません[3]。
あらう しかたは、母ザルから 子ザルへ、家ぞくの 中で 見て うけつがれる そうです[3]。
クラスで いつのまにか はやった あそびを、だれかに 見て おぼえた ことが ありませんか。それに 少し にて います。ただし、サルは ことばで おしえては いません。
京都大学の広報記事によると、イモ洗いはすべてのサルがするわけではありません。母親から子へ、家族の中で、見て学ぶかたちで受け継がれるといいます[3]。
学校で、教わったわけでもないのに、いつのまにか友だちの遊びをまねしていた、という経験に似ています。ただし、サルが人間のように言葉で教えているわけではありません。
ここが大事な点です。1頭ずつが自分で思いついたのではなく、仲間から学ぶ道すじで行動が続いていることが、動物の「文化」と呼ばれる例の一つになっています。
京都大学の広報記事によれば、幸島でもイモ洗いは全個体が行うわけではなく、母親から子へ、家族の中で観察を通じて受け継がれる[3]。
ここに「文化」という語の使い方の要点がある。1頭ずつが独立に思いつくのではなく、仲間から学ぶ経路で行動が続くことが、動物の「文化」と呼ばれる例の一つになる。以下は、研究がこの語をどう使ってきたかの事例として読んでほしい。
3. チンパンジーは、むれごとに ちがう?
3. チンパンジーの行動は、群れごとに39種類ちがう
3. 7か所・151年ぶんの突き合わせ ── 39種の行動と「組み合わせ」
アフリカの チンパンジーの 研究者たちは、7つの 場所の 長い 記ろくを くらべました。ぜんぶで 151年ぶんです[4]。
すると、ある むれでは ふつうなのに、ほかの むれでは しない 行動が 39しゅるい 見つかりました。道具を つかう、けづくろいを する、なかよくなる ときの しぐさ、などです[4]。
えさの ちがいでは うまく いえない 行動だと、研究者は 考えました。むれごとの 行動の くみあわせが、その むれの 「らしさ」に なって いる ようです。
1999年、Whiten らの研究チームが、アフリカ7か所のチンパンジーの長期調査を突き合わせ、合計151年ぶんの観察をくらべました[4]。
その結果、道具の使い方、毛づくろい、求愛など39種類の行動が、ある群れでは習慣になっているのに、他の群れでは見られないことがわかりました。餌の種類や環境の違いでは説明できないものを数えたといいます[4]。ただし39種類は、この7か所を比べて見つかった数で、チンパンジー全体の数ではありません。
この論文が注目したのは、行動の「組み合わせ」でした。群れごとに習慣の組み合わせがちがうことが、人間の文化の特徴に似ていて、他の動物では確かめられていなかったとしています[4]。
4. イルカは、だれから まなぶの?
4. イルカの海綿は、母から娘へ
4. シャーク湾のハンドウイルカ ── ミトコンドリアDNAで見えた母系
西オーストラリアの 海に、えさを さがす とき、海綿を 道具に つかう イルカが います。海綿は、やわらかい 海の いきものです[5]。
この つかい方は、おかあさんから むすめへ、つたわって いる ようでした。遺伝だけでは うまく いえない、と 研究する 人は 考えました[5]。
西オーストラリアのシャーク湾では、ハンドウイルカの一部が、餌を探すときに海綿(スポンジ)を道具に使います。論文は、遺伝や環境では説明できないとして、海のほ乳類ではじめての「物質文化」の例とみなしました[5]。
ミトコンドリアDNAという、母親から子に伝わるDNAを調べたところ、この行動はほぼ1つの母系だけで、母から娘へ受け継がれていました。ただし論文は慎重で、「どうやら道具」といった書き方をしていて、全例が母から娘というわけでもありません[5]。
2005年の PNAS 論文は、シャーク湾のハンドウイルカの一部が餌探しに海綿を道具として使う行動を、遺伝や環境では説明できない、海のほ乳類初の「物質文化」の例として分類した。ミトコンドリアDNAの分析では、この行動は、ほぼ単一の母系の内側で母から娘へ、垂直に伝わっていた[5]。
ここで注意したいのは、論文の書き方が慎重な点だ。「どうやら道具」という言い方をしており、「ほぼ」母系のみで、全例ではない。母から娘の伝達が「文化」の根拠として示されるとき、遺伝でもなく環境でもないと言える理由が、母系のDNAという別の証拠で補われている。
5. クジラの 新しい えさとりは、どう ひろがった?
5. 1頭から始まったクジラの漁は、27年で広がった
5. ザトウクジラのロブテイル摂食 ── 1980年から2007年の広がり
クジラも、あたらしい えさの とり方を おぼえます。ザトウクジラは、しっぽで 水面を たたいて、魚を あつめる ことが あります[6]。
この とり方は、1980ねんに 1頭で 見つかりました。そのあと、27ねんかけて、むれの 中で ひろがりました[6]。2007ねんまでに、およそ 4わりの クジラが やって いるのが 見られました[7]。
ひろがった とき、その 前に えさの ニシンが へって いた ことも わかって います[7]。
ザトウクジラの「ロブテイル摂食」は、尾で水面をたたいて魚を集める餌のとり方です。1980年に1頭で確認されたあと、27年にわたって群れの中で広がりました[6]。
2007年までに、この個体群のおよそ40%が行っているのが観察されています。メイン湾のホエールウォッチング船の観察者が集めた記録によるものです[7]。40%は「見られた」割合で、実際はもっと高いかもしれません。
この漁がはじめて見られた1980年は、それまでの主な餌のニシンが減ったあとでした。ニシンが減ったあとに新しい餌のとり方が現れた、という順番です[7]。
Allen らは2013年の Science 論文で、ザトウクジラのロブテイル摂食が、1980年に1頭で確認された後、27年にわたり群れの中で広がったことを、ネットワークを使った伝播の分析で調べた。社会的な伝達を含むモデルは、含まないモデルより、統計的な支持が6〜23桁大きかった[6]。この「桁」は統計モデルの支持の比で、広がった個体数の倍率ではない。
2007年までに、この個体群の約40%が行っているのが観察された(メイン湾のホエールウォッチング船の観察記録)。40%は観察された割合であり、実際はさらに高い可能性がある。1980年はそれまでの主な餌のニシンが減った後にあたり、獲物のイカナゴの分布も、広がる速さに関係した[6][7]。
6. 小さな 鳥も、まわりに あわせるの?
6. 野鳥の実験 ── 2羽が教えたやり方が広がった
6. シジュウカラの実験 ── 2羽の新しい餌のとり方と「同調」
野の 鳥の シジュウカラで、実験が おこなわれました。2わの 鳥に 新しい えさの とり方を おしえると、そのあと むれの 中で ひろがりました。およそ 4分の 3の 鳥が おぼえた、と 書かれて います[8]。
ほかの むれへ うつった 鳥は、りょうほうの やり方を 知って いると、あたらしい むれで 多い 方を えらぶ ことが 多かった そうです[8]。
野生のシジュウカラで、実験者が2羽に新しい餌のとり方を教えたところ、鳥どうしのつながりをたどって、平均で約75%にまで広がった、と紹介されています[8]。
両方のやり方に接した鳥は、新しい群れの多数派のやり方を選ぶ傾向がありました。研究者は、こうした「多数派に合わせる」働きが、行動が定着して残ることを支えていると解釈しています[8]。75%は「約」の数字として読んでください。
Aplin らは2015年の Nature 論文で、野生のシジュウカラに実験的に新しい餌のとり方を2羽に教えると、社会的なつながりを通して個体の平均約75%に広がったと報告した。別の群れに移った個体のうち、両方のやり方に接した鳥は、新しい群れの多数派のやり方を選ぶ傾向があった[8]。
この実験は、2羽から広げた餌のとり方を「定着した文化」と見なし、その維持に多数派への同調が働くと解釈する。75%は約の数字として扱う。
Allen らは、鯨類が歌の伝統に加えて摂食の伝統も複数維持しており、これが「人間以外の文化の頂点の1つ」とする見方を強める、と結論する[6]。「頂点」は論文の主張で、定説とは限らない。
7. 「百ぴき目の サル」は ほんとう?
7. 「百匹目のサル」の話は、観察記録とちがう
7. 「百匹目のサル現象」と、記録された獲得率
「百ぴき目の サル」という 話を きいた ことが ある かも しれません。100ぴき目が おぼえた しゅんかん、むれ ぜんぶに 一気に ひろがった、という 話です。
でも、この 話は、つくり話だと 書かれて います。書いた 人が、あとから くわしい ところを 自分で つくった と みとめた そうです[9]。
ほんとうの 幸島では、イモを あらう ことを おぼえた サルの わりあいは、1958ねんの 3月で 56.6%、1962ねんの 夏でも 73.4%と 書かれて います[9]。一日で ぜんぶ、という 記ろくは ないようです。
8. じぶんでも たしかめて みたく なったら
8. 自分でも調べてみたくなったら
8. 自分でも調べてみたくなったら
やってみよう。ことばを つかわずに、見せるだけで、おうちの 人に おりがみの おり方を 1つ つたえて みましょう。どこまで つたわるでしょうか。つたわる ところと、つたわらない ところを、メモします。
サルも クジラも、ことばでは なく、見て おぼえるのかも しれません。ほんとうに そう なのか、京都大学や くしましの ページを、おうちの 人と 読んで みましょう。
次のようなことを、試したり調べたりできそうです。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った出典。論文の数字は、要旨や研究ポータルの記述、解説記事にもとづく。
- 京都大学広報誌『紅萠』施設探訪 霊長類研究所 https://www.kyoto-u.ac.jp/kurenai/201603/shisetsu/index.html (1953年のイモ洗いと「文化をもつサル」)
- 串間市「幸島」(観光スポット) https://www.city.kushima.lg.jp/enjoy/touristspots/cat2/post-20.html (1953年の行動、文化とされた理由、むぎ洗い)
- ザッツ・京大「芋を洗うサル。ほんとにいるの??確かめに行ってきました!」 https://www.thats.pr.kyoto-u.ac.jp/2019/01/17/6171/ (全員はしない・母から子へ・調査の長さ)
- Whiten et al. “Cultures in chimpanzees” Nature 399, 682–685 (1999) https://research-portal.st-andrews.ac.uk/en/publications/cultures-in-chimpanzees/ (39種の行動と組み合わせ)
- Krützen et al. “Cultural transmission of tool use in bottlenose dolphins” PNAS (2005) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1157020 (イルカの海綿と母系)
- Allen et al. “Network-based diffusion analysis reveals cultural transmission of lobtail feeding in humpback whales” Science (2013) https://research-portal.st-andrews.ac.uk/en/publications/network-based-diffusion-analysis-reveals-cultural-transmission-of/ (ロブテイル摂食の広がりと分析、鯨類の見方)
- phys.org “Humpback whales able to learn from others, study finds” (2013) https://phys.org/news/2013-04-humpback-whales.html (40%・ニシンの減少・観察の集め方)
- Aplin et al. “Experimentally induced innovations lead to persistent culture via conformity in wild birds” Nature (2015) https://www.nature.com/articles/nature13998 (シジュウカラの実験。数字は検索抜粋)
- 謎解き超常現象「百匹目の猿現象」 https://www.nazotoki.com/hundredth_monkey.html (百匹目のサルの話と獲得率。二次資料)
なおした ところ
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