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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

こうもりは どうして つかれずに さかさまで ぶらさがれるの?

コウモリはなぜ疲れずにぶら下がれるのか 足の腱のしかけと、落ちて飛び立つ暮らし

コウモリの腱ロック機構と逆さの姿勢 足指の構造・細い後肢・飛び立ちと天井への着地

分野:生きもの

てつぼうに ぶらさがると、ひとは すぐ うでが つかれて しまいます。

ところが こうもりは、さかさまに ぶらさがった まま やすんで います。どうして つかれないのでしょうか。あしの ひみつと、とびたつ ときの ふしぎを 見て いきます。

鉄棒に数十秒ぶら下がるだけで、人は腕がだるくなります。ところがコウモリは、頭を下にしたまま、ねぐらで休んでいます。

疲れないのは、足の指の腱に、力を入れなくても固定されるしかけがあるからだと説明されています。そのしかけと、逆さまの暮らしのつごうのよさ、そして天井に止まるむずかしさを、動物学の資料からたどります。

コウモリの多くの種は、足指の屈筋腱と腱鞘がラチェットに似た構造でかみ合い、ほとんど筋力を使わずにぶら下がれる(腱ロック機構)[1][2]。後肢は特に細く[4]、高い所から落ちるだけで飛び始められる一方[6]、逆さの姿勢のまま天井に止まるのは力学的に難しい課題とされる[4]。

確かなことと、まだ説明がつかない点を分けながら整理する。

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1. さかさまは、らくなの?

1. 手でにぎらず、爪で引っかける

1. ぶら下がりの基本 ぶら下がるための足の向き

ひとが ぶらさがる ときは、手で ぎゅっと にぎって、うでの きんにくを ずっと つかいます。だから つかれます。

こうもりは ちがいます。ながい つめを えだや てんじょうに ひっかけて、その つめで からだを ささえます[3]。さらに、あしの ゆびには、つかれにくくする しくみが あります。

うしろあしは、ひざが うしろむきに なるように、ぐるっと 180ど まわって ついて いると いわれます[3]。この むきなので、ぶらさがる のに つごうが よいようです。

人は鉄棒を握ってぶら下がるので、腕の筋肉で体を支え続けることになります。コウモリの場合、爪で天井や枝に引っかけて体重を支えます[3]。

後ろ足は約180度回転していて、膝が後ろ向きになっている、とテキサス州公園野生生物局の教員向け資料は説明しています[3]。頭を下にして引っかかる姿勢に合った足の向きです。

ただ、握らないだけでは説明が足りません。引っかけたまま、指を曲げる筋肉が休んでいても外れないしかけが、足の中にあります。

TPWDの教員向け資料によれば、コウモリは爪で体重を支えて懸垂し、後肢は約180°回転して膝が後方を向く[3]。同資料は、足指の腱のロックによってエネルギーを使わずにぶら下がれるとも述べる[3]。

握力で支える人の懸垂とは、支え方の原理が違う。以下で、そのロックの構造を見る。

2. あしの 中で、なにが かたまるの?

2. 腱とさやがかみ合うしかけ

2. 腱ロック機構(TLM)の構造

ゆびを まげる すじの ひもを 「けん」と いいます。この けんは、「さや」と いう くだの 中を とおって います。

こうもりの さやの 内がわには、小さな でこぼこが あります。けんの ほうにも こぶが あって、この ふたつが かみ合うと、けんが その 場で とまります[2]。

ぎざぎざの 歯が かみ合って、もどらない けっそくバンドに にて います。ゆびを まげる きんにくが 休んでも、ゆびは にぎった ままに なると 説明せつめいされて います[2]。

ただし けっそくバンドは、本当の しくみと 同じでは ありません。たとえ、です。

足の指を曲げる筋肉は、腱(けん)という丈夫なひもで指先につながっています。腱は、腱鞘(けんしょう)という細いさやの中を通ります。

コウモリのさやの内側には、小さなひだ(うね)が並んでいます。腱のほうにもこぶのある部分があり、両方がかみ合うと、腱が固定されます。バット・コンサベーション・インターナショナルは、指を曲げる筋肉が縮むのをやめても、固定されたままになると説明しています[2]。

引っぱると入っていくのに、逆には戻らない結束バンドの歯のようなしくみで、「腱ロック機構」と呼ばれます。結束バンドはあくまでたとえで、実際の構造は骨と腱の細かなつくりです。

このしくみは15科のコウモリで調べられ、大半の種で腱の腹側にこぶのある部分が見つかったと、1993年の論文の抄録にあります[1]。

屈筋腱と腱鞘のかみ合いは、Quinn & Baumel(1993)が15科のコウモリで形態を調べ、ラチェットに似た構造でほとんど筋力を使わずにぶら下がれるようにすると記している。大半の種で、腱の腹側に結節のある領域が確認された[1]。

BCIの解説は、腱鞘の内側の小さな隆起がラチェットとして働き、屈筋が収縮を止めても腱を固定したままにする、としている[2]。

ただし確認されたのは大半の種であり、全種に備わるとは限らない。

3. あしが 細いと、なにが むずかしいの?

3. 細い足は、地面が苦手

3. 細い後肢と地上での制約

こうもりの うしろあしの ほねは、ほにゅうるいの 中でも とくに 細いと いわれます[4]。とぶ ために、からだを かるく したのだろうと 考えられて います。

そのぶん、おりる ときの ショックで あしを いためやすいそうです[4]。

じゃあ 「ほねが よわいから 地めんを あるけない」のでしょうか。それは まだ 決められません。ある 研究では、あるけない しゅるいの ほうが、あしに 大きな 力が かかって いました[8]。ほねの つよさだけでは 説明せつめいできないようです。

ちすいこうもりは 地めんを はしれる れいがいとして 知られて います[7]。

コウモリの後ろ足の骨は、哺乳類の中でも特に細いことが知られています。飛ぶために体重を減らし、重心を前に寄せる適応と考えられています[4]。そのぶん、着地の衝撃で足を痛めやすい、と同じ論文は述べています。

では、骨が弱いから地面を歩けないのでしょうか。2005年の研究は、少なくともチスイコウモリとの比較では、この仮説を支持しませんでした。歩けない種のほうが、後ろ足にかかる力は大きかったのです[8]。筋線維の性質や神経と筋肉の制御など、骨の強さ以外の要因が示唆されています。

コウモリ全般が地上で動けないわけではありません。チスイコウモリは、地面を走れる例外として知られています[7]。

コウモリの後肢骨は哺乳類のなかでも特に細く、飛翔のために総質量を減らし重心を前方へ寄せる適応と推定される。その結果、着地の衝撃で損傷しやすい[4]。

Riskin et al.(2005)は、「大腿骨が弱すぎて地上を動けない」という後肢強度仮説を検証し、少なくともチスイコウモリとの比較では支持されなかったと報告した。地上で動けない種のほうが大きな後肢の力を受けており、筋線維の性質や神経筋制御など骨強度以外の要因が示唆される[8]。「骨が弱いから歩けない」と断定はできない。

また、地上を走れるチスイコウモリは例外である[7]。

4. とびたつ ときは、どうするの?

4. 高い所から、落ちるだけで飛び始める

4. 飛翔開始のジャンプと落下離陸

おおくの こうもりは、どうくつや やねうら、木の 上で やすみます。とびたつ ときは、そこから 空中に おちる だけで、とび はじめられます[6]。

高い ところから ぽとっと おちると、そのまま とびはじめられます。細い あしで 地めんを けらなくても いいのです。

いっぽう、地めんに いる 時間が 長い しゅるいは、じゅうりょくに さからって とびあがらなければ なりません[6]。

そのときは、つばさの きんにくが 力を 出して ジャンプします。しらべた 5しゅるいの こうもりで そうでした[6]。

洞窟・屋根裏・木でねぐらをとるコウモリの多くは、宙に落ちるだけで飛び始められます。これは、2011年の論文が「多くの種で飛び立ちはそれほど難しくない」と述べている点です[6]。逆さにぶら下がっていれば、足を離すだけで飛行に入れる、という暮らし方に合っています。

一方、地上で過ごす時間が長い種は、重力に逆らって飛び立たなければなりません。調べられた食虫性の5種は、地面からのジャンプで、翼の筋肉が力を出していました[6]。主役は後ろ足ではなく翼です。

チスイコウモリでは、ジャンプで上向きの力を出すのは胸側の前肢で、後ろ足は体の姿勢を安定させる役目と報告されています[7]。

ただし「落ちるために逆さまになった」と決めることはできません。飛び始めやすいという事実は、逆さの暮らしと合っている、というところまでです。

J. Exp. Biol.(2011)の論文は、多くの種では飛び立ちは特に困難でなく、洞窟・屋根裏・樹木でねぐらをとり、空間に落下するだけで飛行を開始できるとする。地上時間が長い種は重力に逆らって離陸する必要がある[6]。

調べた食虫性5種では、いずれも翼の筋肉が力を出して地面から跳んでいた[6]。チスイコウモリでは前肢が上向きの推力を生み、後肢は姿勢の安定と方向づけを担うとされる(Schutt et al. 1997)[7]。

「落下離陸のために逆さの姿勢が進化した」という因果は、これらの資料からは導けない。あくまで整合的な事実である。

5. てんじょうに とまるのは かんたん?

5. 逆さの姿勢のまま、天井に止まる

5. 天井への着地という力学的課題

こうもりは ふつう、頭を 下に して とまります。でも、その しせいでは、その場で ふわふわ うかぶ ことが できません[4]。

てんじょうに とまる には、空中で くるっと まわるような うごきで、つめを てんじょうに とどかせます。細い あしを いためないよう、そっと つく 必要ひつようが あります[4]。

2015ねんの 報告ほうこくでは、こうもりが 空中で くるっと はんてんして、てんじょうに とまる とき、うごく いきおい(かんせい)を うまく つかって いると されました[5]。

コウモリは通常、頭を下にしてねぐらにとまりますが、その姿勢ではホバリングできません。天井に止まるには、宙返りのような動きで爪を天井に届かせ、細い後ろ足を傷めないようそっと着く必要があります[4]。逆さにぶら下がるのが楽でも、そこへ止まるまでが力学的な課題になっています。

2015年にPLOS Biologyで報告された観察では、コウモリが空中で反転して天井に止まるとき、慣性(動いている勢い)を利用していると紹介されています[5]。日本語で読める紹介記事があります。

コウモリは通常頭を下にして止まるが、その姿勢ではホバリングできないため、天井への着地は生体力学的な課題となる。爪を天井に届かせつつ、細い後肢を傷めない穏やかな接触が求められる[4]。

ナショナル ジオグラフィック日本版は、PLOS Biology(2015年11月16日)の報告として、コウモリが空中で反転して天井に止まる際に慣性力を利用していると紹介する[5]。翼の使い方などの詳細は、この紹介からは述べない。

6. まだ わからない ことは?

6. 分かっていないこと

6. 未解決の点

けんの しくみが、すべての こうもりに あるのかは、まだ はっきり しません。しらべられた おおくの しゅるいで 見つかった、と いうところまでです[1]。

また、「なぜ さかさまに なったのか」も 答えは 決まって いません。とびたちやすい という いい ところは あるようですが、そのために なったとは いえません。

腱ロックがすべてのコウモリにあるのかは、はっきりしていません。調べられたのは15科で、大半の種で腱にこぶのある部分が見つかったという報告です[1]。

なぜコウモリが逆さにぶら下がる暮らしになったのかも、決着していません。飛び立ちやすいという利点は確認されていますが、それが理由で進化した、とまでは言えません。

ただ、足のしかけ、細い後ろ足、落ちて飛び立つ暮らしが、たがいに合っているのは確かなようです。

残る論点は2つある。第一に、腱ロックがコウモリ全種に備わるか。抄録は「大半の種」にとどまる[1]。第二に、逆さの姿勢が飛び立ちやすさのために進化したのか。事実(落下離陸のしやすさ[6])は整合的だが、因果の裏づけはない。

ロックの構造[2]、細い後肢[4]、落下離陸[6]が互いに矛盾しない、というのが現時点の整理である。

7. ふくろを フックに かけて みよう

7. 手で持つ・引っかける、を比べる

7. 出口 引っかけて支える/原典に当たる

おもい ふくろを、手で ぎゅっと にぎって もって みます。しばらく すると、手が つかれますね。

つぎに、ふくろの もち手を、あんていした いすの せもたれに ひっかけて みます。手を はなしても、ふくろは おちません。ささえて いるのは、ひっかかって いる ところです。

こうもりの あしは、これに すこし にて います。でも、本当は けんが かたまる しくみで、にぎる 力を ゆるめても はなれません。そこは ちがいます。

おもすぎる ふくろは つかわないで、足に おとさないように しましょう。

重すぎない買い物ぶくろを、手で握ったまま腕を下ろして、どれくらい持っていられるか試してみてください。次に、持ち手を安定した椅子の背もたれに引っかけます。手を離しても落ちません。

支えているのは、握る力ではなく、引っかかっている場所です。コウモリの足は、そこにさらに、指の腱が固定される工夫を足したものと考えられます。ただし、本物のしくみは、ふくろとはまったく別物です。足の上に落とさない重さにとどめてください。

写真や動物園の展示でコウモリを見る機会があれば、足の指がどこに引っかかっているかを見てみてください。

出口は2つ。第一に、重すぎない袋を手で持ったときと、安定した椅子の背もたれに掛けたときで、支え方の違いを比べる。コウモリの腱ロックは、引っかけに加えて腱が固定されるしくみで、袋とは構造が異なる。足に落とさない重さにとどめる。

第二に、原典に当たる。腱ロック機構の解説はBCI[2]、後肢と着地はRiskin et al.(2009)[4]、天井への反転は日本語のナショジオ記事[5]から入るとよい。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

アクセス日はいずれも2026-09-29。原文が確認できなかったものは、抄録や検索結果の抜粋、紹介記事に基づく。

  1. Quinn & Baumel, Journal of Morphology 216:197-208, 1993(抄録)。 https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/jmor.1052160207 (腱ロック機構の構造と、調べられた科の数について。検索結果の抜粋のみ確認)
  2. Bat Conservation International「Where the Upside is Down」。 https://www.batcon.org/where-the-upside-is-down/ (腱鞘のひだと腱のかみ合いについて)
  3. Texas Parks & Wildlife「Background for Teachers (Hanging Around with Bats)」。 https://tpwd.texas.gov/education/resources/keep-texas-wild/hanging-around-with-bats/background-for-teachers (爪で支えること、後ろ足の向きについて)
  4. Riskin et al., Journal of Experimental Biology 212:945, 2009「Bats go head-under-heels」。 https://journals.biologists.com/jeb/article/212/7/945/19086/Bats-go-head-under-heels-the-biomechanics-of (細い後ろ足、天井への着地について)
  5. ナショナル ジオグラフィック日本版「コウモリの天井への反転着地」の紹介記事(PLOS Biology 2015の紹介)。 https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/111800326/ (空中で反転して天井に止まる観察について。原論文は未確認)
  6. Journal of Experimental Biology 214:2182, 2011「No apparent ecological trend to the flight-initiating jump performance of five bat species」。 https://journals.biologists.com/jeb/article/214/13/2182/10319/No-apparent-ecological-trend-to-the-flight (落下による飛び立ちと、翼の筋肉のジャンプについて)
  7. Schutt et al., Journal of Experimental Biology 200:3003, 1997/Riskin & Hermanson, Nature 434:292, 2005。 https://journals.biologists.com/jeb/article-abstract/200/23/3003/7660/The-Dynamics-of-Flight-Initiating-Jumps-in-the?redirectedFrom=fulltext (チスイコウモリの飛び立ちジャンプと地上での例外について。検索結果の要約のみ確認)
  8. Riskin et al., Journal of Experimental Biology 208:1309, 2005「Testing the hindlimb-strength hypothesis」。 https://journals.biologists.com/jeb/article/208/7/1309/15998/Testing-the-hindlimb-strength-hypothesis-non (骨の強さと地上での動きの関係について)

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