このサイトは、ほんの入り口です

ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

ミツバチは くらい すの 中で、どうやって 花の ばしょを 教えるの?

暗い巣の壁で踊るミツバチは、花の方向と遠さをどう伝えるのか

ミツバチの尻振りダンス ── 角度が方向、長さが距離。フォン・フリッシュの解読と2005年のレーダー追跡

分野:生きもの

ミツバチは、花を 見つけて すに 帰ると、なかまの 前で ダンスを おどります。すの 中は くらくて、たいようも 見えません。

それでも、なかまは 花の ほうこうと とおさを 知る ようです。どんな ふうに 教えて いるのか、いっしょに 見て いきましょう。

ミツバチが花のありかを見つけて巣に帰ると、巣の壁の上でお尻を振りながら歩き回る動きを始めます。周りの仲間が集まってきます。

巣の中は暗く、太陽も見えません。それなのに、どうして「あっち、これくらい先」が伝わるのでしょうか。角度と長さに秘密があります。この暗号を解いた研究と、それを疑った科学者に答えを出した実験を見ていきます。

セイヨウミツバチは、花粉・蜜・水などのありかを見つけると、巣の垂直な壁面で「尻振りダンス(8の字ダンス)」を踊り、方向と距離を仲間に伝えるとされる[1]。直進部分の傾きが方向、長さが距離に対応する。

このメモでは、その符号化の仕組み[1][2]と、解読者フォン・フリッシュ[1]、「仲間はにおいで見つけているだけではないか」という反論[4]、2005年のレーダー追跡による検証[5]を、複数の資料で突き合わせてたどる。

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1. くらい かべで、おしりを ふる

1. お尻を振って進み、8の字を描いて戻る

1. 尻振りダンスの形 ── waggle phase と return phase

ミツバチが おどる ところは、すの 中の かべです。はなを 見つけた ハチは、おしりを ひだりみぎに ふりながら、まっすぐ すすみます。

そのあと、ぐるっと まわって、はじめの ところへ もどります。つぎは はんたいの まわりで もどります。これを くりかえすと、8の 字に なります[1]。

この ダンスは、かふん、みつ、水など、なかまに 教えたい ものが あるときに おどられると いわれます。

ふる部分と、戻る部分

ダンスは二つの部分でできています。お尻を左右に振りながらまっすぐ進む部分と、円を描いて出発点に戻る部分です。戻るときは、右回りと左回りを交互にくり返すので、全体が8の字になります[1]。

何を伝えたいときに踊るのか

花粉や蜜、水など、餌場を見つけたときに踊ると説明されています[1]。大事なのは、まっすぐ進む部分です。ここに、方向と距離の情報がこめられています。

ダンスは2相からなる。尻を左右に激しく振りながら短く直進する「尻振り相」と、円弧を描いて出発点に戻る「復帰相」である。復帰相は右回りと左回りが交互に現れ、全体として8の字を描く[1]。

踊る対象は花粉・蜜・水などの餌場である[1]。情報を担うのは尻振り相で、次章以降の方向・距離はいずれもこの直進部分から読み取られる。

2. 「うえ」が たいように なる

2. 「上」を太陽の向きに置きかえる

2. 方向の符号化 ── 鉛直方向を基準にした太陽との角度

すの かべは、じめんに たいして まっすぐ 立って います。かべの 上は、そらの ほうです。ミツバチは、この 「うえ」を、たいように 見たてて います。

まっすぐ 上に すすめば、「たいようの ほうへ」です。すこし ななめに すすめば、たいように たいして その ぶんだけ ずれた ほうへ、という いみに なります[1]。

ただし、「上」は あくまで ものさしの ひとつで、いつも たいように むかう ことでは ありません。

暗い巣の中に、太陽を持ちこむ

巣の壁はほぼ垂直に立っています。ミツバチは、この壁の真上(重力と反対の向き)を、太陽の方向に見立てるようです。尻振りしながら進む直線部分が、真上からどれだけ傾いているかで、方角を表します[1]。

その傾きは、巣から見て「太陽の方向」と「花の方向」のあいだの角度に対応します[1]。花が太陽の方向にあるなら、まっすぐ上に進むことになります。

基準は「上」であって、太陽ではない

注意したいのは、上向きが「太陽に向かって行け」という意味ではないことです。「上」はものさしの目盛りの0にあたります。花が太陽と反対にあれば、傾きは大きくなります。

方向は、尻振り相の直進部分が鉛直(重力の上向き)となす角で表される。この角が、巣から見た太陽の方位と餌場の方位のあいだの角度に対応する[1]。巣の暗い壁面で、重力を基準に太陽を代用する符号化である。

誤解しやすいのは、「上向き=太陽に向かう」ではなく、「上向き=太陽の方位」という基準の置き方である点だ。餌場が太陽と同じ方位なら垂直に進み、その差が大きいほど傾く。

3. 長く ふると、とおい ところ

3. 尻振りの長さが距離になる

3. 距離の符号化 ── 1秒≒1kmという目安と円形ダンス

とおさは、おしりを ふりながら すすむ「ながさ」で つたえます。ながく ふるほど、はなは とおい ところに あります[1]。

ダンスが 1びょう つづくと、およそ 1キロメートル さきを あらわす、と いう 目やすが あります[2]。ハチが 1びょうで 1キロ とぶ わけでは ありません。

はなが ちかい ときは、8の 字が くずれて、まるい ダンスに なります。ちかさは、80メートルくらいと いう ものも あります[3]。

1秒が、およそ1キロ

距離は、直進する部分の時間の長さで表されます。長いほど遠く、農研機構の資料には、ダンスが1秒続くとおよそ1km先にあたる、と書かれています[2]。

これは目安です。「1kmを1秒で飛ぶ」という意味ではなく、正確な値ではありません。

近いときは円になる

花が近いと、8の字はくずれて円形のダンスになります。その境目は、80m以内が目安とされます[3]が、資料によって差があります。

距離は尻振り相の継続時間で表され、長いほど遠い。農研機構の資料では、ダンス1秒がおよそ1kmにあたるとされる[2]。ただし、これは目安である。

餌場が近いと8の字が崩れて円形ダンスになる。境界は80m前後を目安とする資料がある[3]が、資料によって差がある。

4. たいようは うごくのに、どうする?

4. 動く太陽と、雲に隠れた太陽

4. 太陽方位の時刻補正 ── 太陽コンパス

たいようは、一日の うちに、すこしずつ うごきます。それなのに、ダンスの 角度が ずれて しまっては こまります。

ダンスを する ハチは、時こくに よる たいようの ようすの かわりかたを おぼえて いて、それを ならして つたえる と いわれます[1]。

太陽は時間とともに空を動くので、そのままでは角度がずれていきます。ダンスをするハチは、時刻に応じて太陽の位置がどう変わるかを学んでいて、その動きを補正して方向を伝えると説明されています[1]。

雲で太陽が見えないときの手がかりは、この補正とは別の話です。ハチが何を手がかりに、どうやって時刻の変化を知るのかは、この記事の資料では詳しく分かりませんでした。

太陽方位は時刻とともに変化する。ダンスをするハチは、方位角が時刻の関数として変わることを学習し、太陽の時間依存の動きを補正して方向を伝えるとされる[1]。曇天時の手がかり(空の偏光パターンなど)はこの補正とは別の話で、今回の資料では扱えていない。

補正を支える感覚・時計のしくみは、今回の資料では詳しく扱えていない。

5. あんごうを とき あかした 人

5. 暗号を読み解いたフォン・フリッシュ

5. フォン・フリッシュとノーベル賞(1973年)

この ダンスの いみを といた のが、カール・フォン・フリッシュと いう 科学者です。ハチの ダンスが ことばの ように はたらくと 考えました[1]。

1973ねん、ノーベルしょうを もらいました。ほかの 二人の 科学者と いっしょに、です。

ダンスに意味があることを解き明かしたのは、動物の行動を研究したカール・フォン・フリッシュです。ハチが踊るときの角度と長さを観察して読み解いた仕事は、1973年のノーベル生理学・医学賞につながりました[1]。ローレンツ、ティンバーゲンと共同の受賞です。

カール・フォン・フリッシュは尻振りダンスを解読し、1973年にノーベル生理学・医学賞をローレンツ、ティンバーゲンとともに受賞した[1]。

6. 「においで さがした だけ?」の うたがい

6. 「においで探しただけでは」という疑いと、レーダー

6. 反論とハーモニックレーダー追跡(Riley et al., 2005)

ダンスの いみを うたがう 科学者も いました。「なかまは、ダンスを 読んだ のでは なく、においで さがして いる だけ では」と いう 考えです[4]。

2005ねんに、ハチに 小さな レーダーの そうちを つけて、とんだ みちを おいかける じっけんが ありました。ダンスを 見た ハチの おおくは、はなの ちかくまで まっすぐ とんで いきました[5]。

ぴったり はなに つくのでは なく、ちかくに ついて から、さがす ように とびます。

疑いの声

ダンスは暗号ではなく、仲間はにおいをたどって餌場に着いているだけではないか、と考えた科学者もいました[4]。ダンスと、においと、どちらが効いているのかは、簡単には分けられません。

ハチにレーダーを付けて追う

2005年、リレーらの研究チームは、ダンスを見た蜂に小さな発信器を付け、飛んだ経路をレーダーで追いました。多くの蜂は、餌場の付近まで一直線に飛び、そこで正確な位置を探すように飛び回りました[5]。

巣から最大250m離れた場所で放した蜂も、餌場があった方向に向かって飛んだと報告されています[4]。においだけでは説明しにくい結果です。

反論は、仲間が抽象的な暗号を読んでいるのではなく、においを追って餌場に達しているだけだ、というものだった[4]。

Rileyらは2005年、ダンスを見た蜂にハーモニックレーダー用の小型発信器を付け、飛行経路を追跡した。多くの蜂は餌場の付近へ直行し、そこで位置を探す飛行に長い時間を使った[5]。「餌場にぴたりと着く」のではなく、付近まで直行して探す点に注意。

巣から最大250m離れた地点で放した蜂も、巣で受け取ったベクトルに沿って餌場の方向へ飛んだ[4]。ただし、この結果は報道資料経由であり、原論文(Nature 435)は今回確認していない。

7. いまも わからないこと

7. 動画から読み取る技術と、これから

7. 自動解読 ── 30分の動画に数日かかっていた作業

ダンスを 動画に とって、いみを 読みとる しごとは、とても じかんが かかります。日本の 研究所では、コンピューターに よみとらせる ほうほうが つくられました[2]。

むかしは、30ぷんの 動画を 読むのに、なん日も かかって いたそうです。

ダンスの動画から意味を読み取るのは、地道な作業です。農研機構は、動画から尻振りダンスを自動で見つけ出して解読する方法を開発しました。これまでは、30分の動画を解読するのに数日かかっていたそうです[2]。

ダンスの意味は解読されても、ハチが暗い巣の中でどう受け取っているのか、ダンスのどの部分が本当に大事なのかは、まだ調べる余地が残っています。

農研機構は、動画からダンスを自動で抽出・解読する方式を開発した。従来、30分の動画の解読には数日を要していた[2]。

ダンスの符号化が確かめられても、受け手がどの感覚で情報を得て、どの要素が本質的なのかは、より詳しい研究が必要な段階にある、と考えられる。ロボットで再現する研究もあるが、今回の資料では確認が足りないため扱わない。

自分でも しらべて みたく なったら

自分でも調べてみたくなったら

自分でも調べてみたくなったら

おうちの 中で、ミツバチに なって みましょう。ゆかから てんじょうへ むかう ほうを 「上」と きめます。おうちの 人に、ぜんぜん 見えない 場所を、うでで まっすぐ ゆびさして もらいます。

「上」から どれだけ ずれて いるか、かみに かいて ください。つぎに、その かみを 見て、おなじ ばしょが わかるか ためして みます。

今日できること:壁の真上(床から天井へ向かう向き)を「上」と決めて、家族が台所など見えない場所を指さした角度を、紙の上に矢印で描いてみましょう。矢印だけで、別の人がその場所を当てられるか試します。距離は、矢印の横にゆらす回数で足すなど、自分で決めて構いません。

公式情報:農研機構のプレスリリース「尻振りダンスを自動解読」は日本語で読めます。

日本語で確かめられる資料として、農研機構のプレスリリース[2]がある。距離の目安や解読の自動化について、一次情報が読める。

Rileyらの追跡実験は、報道資料[4][5]で概要を追える。原論文(Nature 435, 205–207)に当たれば、実験の設計や数値をさらに確かめられる。1つの資料に頼らず、複数を突き合わせて読むこと。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

数字の一部は資料によって差があるため、目安として扱っています。事実は下の資料をもとにしています。

  1. The Apiarist「The waggle dance」 https://theapiarist.org/the-waggle-dance/ (ダンスの形・方向・時刻補正・ノーベル賞)
  2. 農研機構 プレスリリース(尻振りダンスを自動解読) https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niaes/130830.html (距離の目安・自動解読)
  3. ミツバチのダンス(Wikipedia) https://ja.wikipedia.org/wiki/ミツバチのダンス (円形ダンスの目安)
  4. ScienceDaily(2005年5月) https://www.sciencedaily.com/releases/2005/05/050512114116.htm (反論・放す実験)
  5. phys.org(2005年5月) https://phys.org/news/2005-05-bees-equipped-radar-waggle-controversy.html (レーダー追跡)

なおした ところ

更新履歴

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