1. ペダルの ない のりものから、いまの じてんしゃまで
1. ペダルのない乗り物から、いまの自転車の形まで
1. 1817年のペダルなしの乗り物から、1885年の現在に近い形まで
1817年、ドイツの はつめいかカール・フォン・ドライスは、馬の かわりに なる のりものを かんがえたと いわれて います。2つの 車りんを 前と うしろに ならべ、じめんを 足で けって すすむ、ペダルの ない のりものです。マンハイムの まちで はじめて のった とき、いつもの おうふくの みちのりを、4分の1の 時間で すすめました[1]。
その後、車りんの 大きさを そろえ、くさりで うごかす 「セーフティー じてんしゃ」が 1885年に イギリスで つくられました。これが、いまの じてんしゃの かたちの もとに なりました[2]。
ペダルのない乗り物から
1817年、ドイツの発明家カール・フォン・ドライスは、馬の代わりになる乗り物を考えたといわれています。2つの車輪を前とうしろに並べ、地面を足でけって進む、ペダルのない乗り物です。マンハイムの街で初めて乗ったとき、いつもの往復の道のり(8〜9マイル、約13〜14km)を、4分の1の時間で進めました[1]。
いまの形に近づいた1885年
その後、前後の車輪の大きさをそろえ、くさり(チェーン)で後輪を動かす「ローバー・セーフティー・バイシクル」が、1885年にイギリスのジョン・ケンプ・スターレーによって作られました。それまでの大きな前輪の自転車より安定しており、いまの自転車の基本の形に近いものでした[2]。
1817年、ドイツの発明家カール・フォン・ドライスは、馬の代わりになる乗り物として「ラウフマシーネ」(走る機械)を考案したと伝記研究者は説明している。2つの車輪を前後に並べ、地面を足でけって進む、ペダルのない乗り物だ。マンハイムの街で行った最初の走行では、いつもの往復の道のり(8〜9マイル、約13〜14km)を、4分の1の時間で走りきったという[1]。
その後、大小の車輪を持つ危険な「ペニー・ファージング」の時代を経て、1885年、イギリスのジョン・ケンプ・スターレーが、前後の車輪の大きさをそろえ、チェーンで後輪を駆動する「ローバー・セーフティー・バイシクル」を発表した。従来の大車輪式より安定した、後輪駆動・二輪同サイズという基本設計は、いまの自転車にもほぼそのまま受けつがれている[2]。
2. どうして、はしって いると たおれにくいの?
2. どうして、走っていると倒れにくいのか
2. 問い ── 走っている自転車が倒れにくいのはなぜか
じてんしゃを とめて、手を はなすと、すぐに かたむいて たおれて しまいます。ところが、人が のって いない じてんしゃでも、いきおいよく おし出すと、しばらく たおれずに すすむ ことが あります。
この ちがいは、なぜ おきるのでしょうか。むかしから、 「前の 車りんが くるくる まわって いるから」(この はたらきを「ジャイロこうか」と いいます)と せつめい されて きました。 でも、この せつめいだけでは、じゅうぶん ではない ことが、 あとに なって わかって きます。
自転車を止めて手をはなすと、すぐにかたむいて倒れてしまいます。ところが、人が乗っていない自転車でも、いきおいよく押し出すと、しばらく倒れずに走ることがあります。
この違いは、なぜ起きるのでしょうか。昔から、「前の車輪がくるくる回っているから」(この働きを「ジャイロ効果」といいます)と説明されてきました。でも、この説明だけでは十分ではないことが、あとになって分かってきます。
自転車を止めて手をはなすと、重心が支持点の真上からずれた瞬間に倒れてしまう。ところが、人が乗っていない自転車でも、ある程度の速度で押し出すと、しばらくのあいだ倒れずに走ることがある。
この違いはなぜ生まれるのか。20世紀の初めごろから広く信じられてきたのは、「前輪が高速で回転することで生まれるジャイロ効果(角運動量保存)が、自転車を起き上がらせる」という説明だった。しかし、この説明だけでは不十分だということが、後年の実験によって明らかになっていく。
3. 前の 車りんの かいてんを けした じてんしゃにも、のれた
3. 1970年、前の車輪の回転を消した自転車にも、乗れた
3. 1970年 ── 前輪の回転を打ち消した「乗れない自転車」に、それでも乗れた
1970年、イギリスの かがくしゃ デイヴィッド・ジョーンズは、 「前の 車りんの かいてんが たいせつなら、その かいてんを けせば、じてんしゃは たおれる はずだ」と かんがえたそうです。
そこで、ぎゃく むきに まわる まるい ばんを つけて、かいてんの ちからを けした「のれない じてんしゃ」を さがしました。ところが、この じてんしゃにも のれました。手を はなして のるのは、やっと できる ていどだったそうです[3][5]。
1970年、イギリスの科学者デイヴィッド・ジョーンズは、「前の車輪の回転が大切なら、その回転を消してしまえば、自転車は倒れるはずだ」と考えたといいます。
そこで、ハンドルのほうに逆向きに回る円盤をつけて、前の車輪の回転の力を打ち消した「乗れない自転車」を探しました。ところが、この自転車にも乗れたのです。手放しで乗るのは、かろうじてできる程度だったそうです[3][5]。
1970年、イギリスの科学者デイヴィッド・ジョーンズは、雑誌「フィジックス・トゥデイ」に発表した論文で、この通説を検証しようとしたという。前輪の回転が本当に自立の決め手なら、その回転を人為的に打ち消せば、自転車は倒れるはずだと考えたのだ。
ジョーンズは、ハンドル側に逆回転の円盤を取り付け、前輪の回転によるジャイロ効果(前輪が自分で向きを変えようとする力)を打ち消す「乗れない自転車(Unridable Bicycle)」を探した。ところが、この自転車にも乗ることができた。2011年の論文によると、手放しでもかろうじて乗れたという。ジョーンズは、ジャイロ効果だけが傾きとハンドルの動きを結びつけているのではないと考えた[3][5]。
4. 2011年、車りんの とりつけかたの こうかも なくした じてんしゃも、たおれなかった
4. 2011年、前輪の取りつけ方の効果も消した自転車が、倒れずに走った
4. 2011年 ── 前輪の取りつけ方(トレイル)の効果も消した自転車が、自立した
ジョーンズは、ジャイロこうか のほかに、「ハンドルを きる ときに まわる 線(じく)より、前の 車りんが じめんに ついている ところが ちょっと うしろに ある こと(トレイル)も だいじだ」と かんがえました。そして、のちに「ジャイロこうかか トレイルが ひつようだ」と いう せつめいが ひろまりました[5]。
2011年、オランダの けんきゅうチームが、ジャイロこうかも トレイルも りょうほう なくした、とくべつな じてんしゃを つくりました。おして はしらせて みると、この じてんしゃも、たおれずに はしりつづけました[4]。
もう一つの説、「トレイル」
ジョーンズは、ジャイロ効果のほかに、「前輪が地面にふれている点が、ハンドルの回る軸より少し後ろにあること(トレイルといいます)が大事だ」と考えました。実際に、前輪の接地点を軸より前にずらすと、ジョーンズは手放しで乗れなくなったそうです。のちに「ジャイロ効果かトレイルが必要だ」という説明が広まりました[5]。
2011年、オランダのデルフト工科大学とアメリカのコーネル大学の研究チームが、ジャイロ効果もトレイルの効果も両方なくした、特別な自転車を作りました。「ツー・マス・スケート」と名づけられたこの自転車を、人を乗せずに押して走らせてみると、これもやはり倒れずに走りつづけたのです[4]。
本当に大事だったのは、重さのかたより
研究チームは、「ジャイロ効果もトレイルの効果も、自立の役には立つが、どちらも絶対に必要というわけではない」と結論づけました。ほかにも大事なものがあり、すべてが組み合わさっています。とくに、ハンドルと前輪まわりの重さのかたよりも大切です。この自転車では、その部分の重さの中心が、ハンドルの回る軸より前で、後ろのフレームの重さの中心より低い位置にありました[5]。
ジョーンズ自身は、ジャイロ効果のほかに「トレイル」(ハンドルの回る軸=操舵軸の傾きにより、前輪の接地点が、操舵軸の延長線が地面に届く点よりわずかに後ろにずれている構造。正のトレイル)が大切だと考えた。実際にトレイルを負(接地点が操舵軸より前)にすると、彼は手放しで乗れなくなったという。その後、ジャイロ効果かトレイルのどちらか(または両方)が必要だという見方が広まった[5]。
2011年、オランダのデルフト工科大学、コーネル大学、ウィスコンシン大学ストート校などの研究チームが、科学誌「サイエンス」に論文を発表した。彼らは、ジャイロ効果を打ち消す反回転の車輪を備え、かつトレイルをわずかにマイナス(前輪の接地点が操舵軸より前)にした「ツー・マス・スケート」という実験用自転車を製作した[4]。
この自転車を人を乗せずに押し出すと、横に押されて傾いても自然にまっすぐな走行へ戻り、自立走行することが確認された。研究チームは、「ジャイロ効果とトレイルは自立の助けにはなるが、どちらも不可欠ではない」とし、ほかの要素とも複雑に絡み合うが、とくに操舵部(ハンドル・フォーク・前輪)の質量分布も重要だとした。この自転車では、操舵部の重心が操舵軸より前にあり、後部フレームの重心より低い位置にある[5]。
5. 1つの りゆうでは なく、いろいろな ものが くみあわさって いる
5. 1つの理由ではなく、いろいろなものが組み合わさっている
5. 現在の理解 ── 単純な一つの答えはなく、自転車によっても違う
けっきょく、じてんしゃが たおれにくい りゆうは、1つの げんいんでは せつめいできない ことが わかりました。 車りんの まわる ちから、車りんの とりつけかた、 じてんしゃぜんたいの おもさの かたよりなど、いろいろな ものが くみあわさって、たおれにくく なる ことが あります。 くみあわせかたしだいで、じぶんで たちなおる じてんしゃも あれば、 そうでない じてんしゃも あります。
ほうきを てのひらに 立てて バランスを とる ときの ことを おもいだして みて ください。ほうきが かたむいた ほうに、 てのひらを すばやく うごかすと、たおれずに すみますね (ただし 本当は、じてんしゃには 手の かわりに、かたむきに あわせて ハンドルと 前の 車りんが しぜんに むきを かえる うごきが あります)。じてんしゃも にた しくみで、 かたむきを じぶんで なおしながら、すすんで いるのです。
1つの答えではなかった
けっきょく、自転車が倒れにくい理由は、1つの原因だけでは説明できないことが分かってきました。車輪の回転する力、前輪の取りつけかた、自転車全体の重さのかたよりなど、いろいろな要素が組み合わさって、倒れにくくなることがあります。組み合わせかたしだいで、自分で立て直す自転車もあれば、そうでない自転車もあります。
ほうきを手のひらに立ててバランスを取るときのことを思い出してみてください。ほうきがかたむいたほうに、手のひらをすばやく動かすと、たおれずにすみますね(ただし本当は、自転車には手のかわりに、かたむきに合わせてハンドルと前輪が自然に向きを変える動きがあります)。自転車も似たしくみで、かたむきを自分で直しながら進んでいるのです。
ただし、ここで調べられたのは、人が乗っていない自転車の動きです。人が乗ると、乗っている人もハンドルや体を動かしてバランスをとるので、同じ話にはなりません。
結局のところ、自転車が自立走行できる理由は、単一の原因では説明できず、車輪の角運動量、前輪の操舵まわりの幾何学的な構造、そして自転車全体の質量分布が、複雑に絡み合って生み出している現象だということが分かってきた。
たとえるなら、ほうきを手のひらに立ててバランスを取るときのようなものだ。ほうきが傾いた方向に、手のひらをすばやく動かして支点を追いかけると、倒れずにすむ(ただし本当は、自転車では人の手ではなく、傾きに応じてハンドル・前輪が自然に切れる動きが、支点を追いかける役割をしている)。条件がそろった自転車では、傾いた側へ前輪が切れることで、傾きを自分で直す動きが生まれる。
また、ここで調べられたのは人が乗っていない自転車で、乗る人が操作するときの安定は、関連はあるが同じ話ではないと研究者は述べている。2011年の論文は、前輪の回転と正のトレイルをもつ設計でも、どんな速度でも安定しないものがあることも示した。この分野は、200年近い自転車の歴史の中でも、いまだに研究が続いている領域で、すべてが解明されているわけではない。
じぶんでも やって みる
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
あんぜんな ばしょで、じてんしゃの うごきを かんさつして みましょう。
あんぜんな ばしょで できる こと
- じてんしゃを おして あるきながら、すこし だけ かたむけて みる。 おとなの人と いっしょに、くるまの こない ひろい ばしょで、 のらずに ためして みましょう。
- まえの 車りんが どちらに むくか、見て みる。 じてんしゃに よって ちがう かも しれません。手を はなして のる ことは、しないで ください。
きょう 出て きた ことばを 1つだけ ノートに 書いて おきましょう。「トレイルって なに?」だけで じゅうぶんです。
安全な場所で、自転車の動きを観察してみましょう。
今日できること
- 自転車を押して歩きながら、少しだけ横にかたむけてみる。おとなの人といっしょに、車の来ない広い場所で、乗らずにためしてみましょう。
- 前の車輪がどちらに向くか、見てみる。自転車によってちがうかもしれません。手をはなして乗ることは、しないでください。
気になった言葉を1つだけ書いておくと、あとで調べる入口になります。「ジャイロ効果って、ほかに何に使われているの?」だけでも十分です。
自転車を押して歩きながら傾きと前輪の向きの関係を観察すると、この記事で扱ったしくみが実感しやすくなります。
手を動かして確かめる
- 自転車を押して歩きながら、少しだけ横にかたむけてみる。前輪がどちらへ切れるか観察してみましょう。車の来ない広い場所で、乗らずに行います。
- ゆっくり押す場合と、少し速く押す場合で、前輪の反応を比べてみる。自転車によって結果が違うこともあります。確かめるために手放しで乗ることは、しないでください。
一次情報にあたる
Physics TodayやTU Delftの公式サイトには、実験の詳しい解説や動画が公開されています。
気になった数字や言葉を1つだけノートに記録しておきましょう。「2011年の実験の名前はツー・マス・スケート」という一文でもかまいません。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
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出典について:研究機関・専門誌の公開情報を使っています。
- Cycling UK「200 years since the father of the bicycle Baron Karl von Drais invented the 'running machine'」。 https://www.cyclinguk.org/cycle/draisienne-1817-2017-200-years-cycling-innovation-design (1817年のドライスによる発明についての解説)
- John Kemp Starley - Wikipedia(英語版)。 https://en.wikipedia.org/wiki/John_Kemp_Starley (1885年のジョン・ケンプ・スターレーによるローバー・セーフティー・バイシクル、後輪駆動・同サイズ車輪による安定性についての解説)
- Physics Today「From the archives: The stability of the bicycle」(1970年掲載論文の紹介)。 https://physicstoday.aip.org/features/from-the-archives-the-stability-of-the-bicycle (1970年、デイヴィッド・ジョーンズによる「乗れない自転車」実験についての解説)
- EurekAlert!(TU Delft発表)「Why does a moving bicycle not fall over? TU Delft casts aside some old theories」。 https://www.eurekalert.org/news-releases/908183 (2011年の「ツー・マス・スケート」実験と、Science誌掲載論文の結論についての公式発表)
- J. D. G. Kooijman ほか「A Bicycle Can Be Self-Stable Without Gyroscopic or Caster Effects」Science 332(6027):339–342、2011年4月15日。 https://gwern.net/doc/technology/2011-koojiman.pdf (査読つき論文。PDF版の本文を確認した。ジョーンズの実験(手放しでかろうじて乗れたこと、トレイルを負にすると手放しで乗れなくなったこと)、トレイルの定義、実験用自転車の重心の位置についてはこの論文による。2011年の論文が「人が乗っていない自転車の自己安定」を扱っていること、前輪の回転と正のトレイルがあっても不安定な設計があることも同論文による。[3]の本文は要約でしか確認できていない)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
- 3章・4章を修正。ジョーンズの実験は論文では手放しで「かろうじて」乗れた程度であること、トレイルはフォークの傾きでなく操舵軸との位置関係であること、ジョーンズ自身がトレイルを重視していたこと、実験用自転車の重心の位置を一次資料(Science論文)で確認して直し、出典[5]を追加。
- 題名と見出しを具体的な形に直し、「倒れない」と言い切る表現を「倒れにくい」に改めた。1章の火山噴火の話を省き、手放し運転を促すように読める記述と「やってみよう」を、自転車を押して歩く安全な観察に置きかえ、人が乗っていない自転車を扱った研究であることと、自転車によって自己安定が異なることを足した。理由:問いに直接関係しない枝話を減らし、危険な行動を勧めないため。
- 5章のまとめで、3つの要素が必ず一緒に働くように読める書き方を、4章の実験結果に合わせて「いろいろな要素が組み合わさって倒れにくくなることがある」に直しました。低学年むけ4章では、トレイルの位置の説明を分かりやすくしました(先生の目での読み直しによる)。
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