じてんしゃは、なぜ たおれないの?

なぜ自転車は倒れずに走れるのか

なぜ自転車は倒れずに走れるのか

分野:技術

とまって いる じてんしゃは、手を はなすと すぐに たおれます。でも、はしって いる じてんしゃは、なかなか たおれません。ふしぎだと 思った ことは ありませんか。

じつは この なぞ、かがくしゃたちも 長い あいだ 正しい こたえを 見つけられずに いました。この きじでは、その ふしぎを 見て いきます。

止まっている自転車は、手をはなすとすぐにたおれます。でも、走っている自転車は、なかなかたおれません。ふしぎだと思ったことはありませんか。

「前の車輪がくるくる回っているから」と説明されることが多いのですが、じつはこの説明だけでは足りないことが、近年の実験で分かってきました。

この記事では、自転車が倒れない理由をめぐる、100年以上にわたる科学者たちの探求を見ていきます。

止まっている自転車は、手をはなすとすぐに倒れる。しかし走っている自転車は、なかなか倒れない。あたりまえに思えるこの現象の理由を、じつは科学は長いあいだ正確に説明できていなかった。

「前輪の回転が生むジャイロ効果のおかげ」という説明が広く信じられてきたが、1970年の実験や、2011年に発表されたオランダの研究チームによる検証によって、その説だけでは説明がつかないことが明らかになってきた。1817年の発明から、いまも完全には解けていない自転車の安定のなぞをたどる。

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1. うまが たりなくて うまれた のりもの

1. 馬が足りなくて生まれた乗り物

1. 起源 ── 馬の代わりとして生まれた自転車

1815年、いんどねしあで 大きな 火山の ばくはつが おこりました。その えいきょうで、つぎの年、ヨーロッパは 夏でも さむい 天気が つづき、さくもつが そだたず、食べものが たりなく なりました。たくさんの 人が くるしみ、馬の えさも なくなって、馬を かう ことが むずかしく なりました。

こうした 時代の 1817年、ドイツの はつめいかカール・フォン・ドライスは、馬の かわりに なる のりものを かんがえたと いわれて います。2つの 車りんを 前と うしろに ならべ、じめんを 足で けって すすむ、ペダルの ない のりものです。マンハイムの まちで はじめて のった とき、いつもの おうふくの みちのりを、4分の1の 時間で すすめました[1]

その後、車りんの 大きさを そろえ、くさりで うごかす 「セーフティー じてんしゃ」が 1885年に イギリスで つくられました。これが、いまの じてんしゃの かたちの もとに なりました[2]

馬がいなくて、こまった時代

1815年、インドネシアで大きな火山の噴火が起きました。このえいきょうで翌1816年、ヨーロッパは夏でも寒い天気が続き、農作物が育たず、多くの人が食料不足に苦しみました。馬のえさとなる飼料も足りなくなり、馬を飼うことが難しくなりました。

こうした時代の1817年、ドイツの発明家カール・フォン・ドライスは、馬の代わりになる乗り物を考えたといわれています。2つの車輪を前とうしろに並べ、地面を足でけって進む、ペダルのない乗り物です。マンハイムの街で初めて乗ったとき、いつもの往復の道のり(8〜9マイル、約13〜14km)を、4分の1の時間で進めました[1]

いまの形に近づいた1885年

その後、前後の車輪の大きさをそろえ、くさり(チェーン)で後輪を動かす「ローバー・セーフティー・バイシクル」が、1885年にイギリスのジョン・ケンプ・スターレーによって作られました。それまでの大きな前輪の自転車より安定しており、いまの自転車の基本の形に近いものでした[2]

背景には、1815年にインドネシアで起きた大規模な火山噴火があったと考えられている。この影響で翌1816年、ヨーロッパは「夏のない年」と呼ばれる異常な冷夏に見舞われ、農作物が不作となり、深刻な食料不足に見舞われた。馬のえさとなる飼料も不足し、多くの馬が失われた。

こうした状況の中で1817年、ドイツの発明家カール・フォン・ドライスは、馬の代わりになる乗り物として「ラウフマシーネ」(走る機械)を考案したと伝記研究者は説明している。2つの車輪を前後に並べ、地面を足でけって進む、ペダルのない乗り物だ。マンハイムの街で行った最初の走行では、いつもの往復の道のり(8〜9マイル、約13〜14km)を、4分の1の時間で走りきったという[1]

その後、大小の車輪を持つ危険な「ペニー・ファージング」の時代を経て、1885年、イギリスのジョン・ケンプ・スターレーが、前後の車輪の大きさをそろえ、チェーンで後輪を駆動する「ローバー・セーフティー・バイシクル」を発表した。従来の大車輪式より安定した、後輪駆動・二輪同サイズという基本設計は、いまの自転車にもほぼそのまま受けつがれている[2]

2. どうして、はしって いると たおれないの?

2. どうして、走っていると倒れないのか

2. 問い ── 走行中の自転車が自立するのはなぜか

じてんしゃを とめて、手を はなすと、すぐに かたむいて たおれて しまいます。ところが、おなじ じてんしゃでも、 あるていど はやく はしらせて 手を はなすと、しばらくは たおれずに すすみつづけます。

この ちがいは、なぜ おきるのでしょうか。むかしから、 「前の 車りんが くるくる まわって いるから」(この はたらきを「ジャイロこうか」と いいます)と せつめい されて きました。 でも、この せつめいだけでは、じゅうぶん ではない ことが、 あとに なって わかって きます。

自転車を止めて手をはなすと、すぐにかたむいて倒れてしまいます。ところが、同じ自転車でも、ある程度速く走らせて手をはなすと、しばらくは倒れずに走りつづけます。

この違いは、なぜ起きるのでしょうか。昔から、「前の車輪がくるくる回っているから」(この働きを「ジャイロ効果」といいます)と説明されてきました。でも、この説明だけでは十分ではないことが、あとになって分かってきます。

自転車を止めて手をはなすと、重心が支持点の真上からずれた瞬間に倒れてしまう。ところが同じ自転車でも、ある程度の速度で走らせたまま手をはなすと、しばらくのあいだ倒れずに走りつづける。手放し運転が成立するのはこのためだ。

この違いはなぜ生まれるのか。20世紀の初めごろから広く信じられてきたのは、「前輪が高速で回転することで生まれるジャイロ効果(角運動量保存)が、自転車を起き上がらせる」という説明だった。しかし、この説明だけでは不十分だということが、後年の実験によって明らかになっていく。

3. こわれる はずの じてんしゃが、こわれなかった

3. 1970年、こわれるはずの自転車が、こわれなかった

3. 1970年 ── デイヴィッド・ジョーンズの「乗れない自転車」計画

1970年、イギリスの かがくしゃ デイヴィッド・ジョーンズは、 「前の 車りんの かいてんが たいせつなら、その かいてんを けせば、じてんしゃは たおれる はずだ」と かんがえたそうです。

そこで、前の 車りんの よこに、ぎゃく むきに まわる もう 1つの 車りんを つけた「のれない じてんしゃ」を つくりました。ところが、じっさいに はしらせて みると、ふつうに のれて しまったのです[3]

1970年、イギリスの科学者デイヴィッド・ジョーンズは、「前の車輪の回転が大切なら、その回転を消してしまえば、自転車は倒れるはずだ」と考えたといいます。

そこで、前の車輪のとなりに、逆向きに回るもう1つの車輪をつけて、回転の力を打ち消した「乗れない自転車」を作りました。「のれない」という名前をつけたのに、実際に走らせてみると、ふつうに乗れてしまったのです[3]

1970年、イギリスの科学者デイヴィッド・ジョーンズは、雑誌「フィジックス・トゥデイ」に発表した論文で、この通説を検証しようとしたという。前輪の回転が本当に自立の決め手なら、その回転を人為的に打ち消せば、自転車は倒れるはずだと考えたのだ。

ジョーンズは、前輪のわきに地面には触れない逆回転の車輪を取り付け、前輪の角運動量(ジャイロ効果のもと)を打ち消す「乗れない自転車(Unridable Bicycle)」を製作した。ところが、実際に走らせてみると、この自転車はふつうに乗ることができた。少なくとも、ジャイロ効果だけが乗車中の安定の理由ではないことを、身をもって示す結果になった[3]

4. 2011年、もう1つの りゆうも しらべてみたら

4. 2011年、もう一つの説も確かめてみたら

4. 2011年 ── 「トレイル」説も、決め手ではなかった

ジャイロこうか だけでは ないと わかった あと、「前の 車りんが、ちょっと ななめに とりつけられて いる こと (トレイル)が だいじなんだ」と いう べつの せつめいが ひろまりました。

2011年、オランダの けんきゅうチームが、ジャイロこうかも トレイルも りょうほう なくした、とくべつな じてんしゃを つくりました。おして はしらせて みると、この じてんしゃも、たおれずに はしりつづけました[4]

もう一つの説、「トレイル」

ジャイロ効果だけでは足りないと分かったあと、「前輪が少しななめに取りつけられていること(トレイルといいます)が大事なんだ」という、別の説明が広まりました。

2011年、オランダのデルフト工科大学とアメリカのコーネル大学の研究チームが、ジャイロ効果もトレイルの効果も両方なくした、特別な自転車を作りました。「ツー・マス・スケート」と名づけられたこの自転車を、人を乗せずに押して走らせてみると、これもやはり倒れずに走りつづけたのです[4]

本当に大事だったのは、重さのかたより

研究チームは、「ジャイロ効果もトレイルの効果も、自立の役には立つが、どちらも絶対に必要というわけではない」と結論づけました。本当に大事なのは、自転車全体の重さのかたより方、とくにハンドルまわりの重心の位置だということが分かってきました[4]

ジャイロ効果だけでは説明が不十分だと分かったあと、有力視されたのが「トレイル」(フォークの傾きにより、前輪の接地点が操舵軸よりわずかに後ろにずれている構造)による、キャスター効果という説明だった。

2011年、オランダのデルフト工科大学、コーネル大学、ウィスコンシン大学ストート校などの研究チームが、科学誌「サイエンス」に論文を発表した。彼らは、ジャイロ効果を打ち消す反回転の車輪を備え、かつトレイルをわずかにマイナス(前輪の接地点が操舵軸より前)にした「ツー・マス・スケート」という実験用自転車を製作した[4]

この自転車を人を乗せずに押し出すと、横に押されて傾いても自然にまっすぐな走行へ戻り、自立走行することが確認された。研究チームは、「ジャイロ効果とトレイルは自立の助けにはなるが、どちらも不可欠ではない」とし、自転車全体の質量分布、とくにハンドル・前輪まわりの重心の位置が重要だと結論づけた。「自転車が安定するためには、かえってハンドルまわりの動き自体が不安定である必要がある。自転車が倒れ始めたら、ハンドルはそれよりも素早く切れなければならない」という、直感に反する指摘も示されている[4]

5. いまも のこる、なぞ

5. いまも残っている、なぞ

5. 現在の理解 ── 単純な一つの答えはない

けっきょく、じてんしゃが たおれない りゆうは、1つの げんいんでは せつめいできない ことが わかりました。 車りんの まわる ちから、車りんの とりつけかた、そして じてんしゃぜんたいの おもさの かたよりが、いっしょに はたらいて、たおれにくく して いるのです。

ほうきを てのひらに 立てて バランスを とる ときの ことを おもいだして みて ください。ほうきが かたむいた ほうに、 てのひらを すばやく うごかすと、たおれずに すみますね (ただし 本当は、じてんしゃには 手の かわりに、かたむきに あわせて ハンドルと 前の 車りんが しぜんに むきを かえる うごきが あります)。じてんしゃも にた しくみで、 かたむきを じぶんで なおしながら、すすんで いるのです。

1つの答えではなかった

けっきょく、自転車が倒れない理由は、1つの原因だけでは説明できないことが分かってきました。車輪の回転する力、前輪の取りつけかた、そして自転車全体の重さのかたよりが、いっしょに働いて、倒れにくくしているのです。

ほうきを手のひらに立ててバランスを取るときのことを思い出してみてください。ほうきがかたむいたほうに、手のひらをすばやく動かすと、たおれずにすみますね(ただし本当は、自転車には手のかわりに、かたむきに合わせてハンドルと前輪が自然に向きを変える動きがあります)。自転車も似たしくみで、かたむきを自分で直しながら進んでいるのです。

いまでは、手をはなして走る「手放し運転」も、こうした自立のしくみがあってこそ成り立つ乗り方だと考えられています。

結局のところ、自転車が自立走行できる理由は、単一の原因では説明できず、車輪の角運動量、前輪の操舵まわりの幾何学的な構造、そして自転車全体の質量分布が、複雑に絡み合って生み出している現象だということが分かってきた。

たとえるなら、ほうきを手のひらに立ててバランスを取るときのようなものだ。ほうきが傾いた方向に、手のひらをすばやく動かして支点を追いかけると、倒れずにすむ(ただし本当は、自転車では人の手ではなく、傾きに応じてハンドル・前輪が自然に切れる動きが、支点を追いかける役割をしている)。自転車は、傾きを検知して自動的に軌道を修正する、一種の自己制御するしくみを備えている。

この分野は、200年近い自転車の歴史の中でも、いまだに研究が続いている領域だ。低速でのふらつき、手放し運転での安定性、設計によって乗り心地がどう変わるかなど、すべてが解明されているわけではない。

じぶんでも やって みる

自分でも調べてみたくなったら

自分でも調べてみたくなったら

あんぜんな ばしょで、じてんしゃの うごきを かんさつして みましょう。

あんぜんな ばしょで できる こと

  • おそい スピードと はやい スピードで、ふらつきかたを くらべて みる。 おとなの人と いっしょに、かならず ヘルメットを かぶって、 あんぜんな ひろい ばしょで ためして みましょう。
  • とまって いる じてんしゃを、そっと おしてみる。 ハンドルが どちらに うごくか、見て みましょう。
メモの すすめ

きょう 出て きた ことばを 1つだけ ノートに 書いて おきましょう。「トレイルって なに?」だけで じゅうぶんです。

安全な場所で、自転車の動きを観察してみましょう。

今日できること

  • おそいスピードとはやいスピードで、ふらつきかたをくらべてみる。おとなの人といっしょに、必ずヘルメットをかぶって、安全な広い場所でためしてみましょう。
  • 止まっている自転車を、そっとおしてみる。ハンドルがどちらに動くか、見てみましょう。
メモのすすめ

気になった言葉を1つだけ書いておくと、あとで調べる入口になります。「ジャイロ効果って、ほかに何に使われているの?」だけでも十分です。

止まっている自転車のハンドルをそっと押して、前輪の傾きと操舵の関係を観察すると、この記事で扱ったしくみが実感しやすくなります。

手を動かして確かめる

  • 止まった自転車を横に少しかたむけてみる。手を触れなくても、ハンドルが自然にどちらへ切れるか観察してみましょう。
  • 動画サイトで「手放し運転」の映像を見てみる。速度によって安定性がどう変わるか、比べてみましょう。

一次情報にあたる

Physics TodayやTU Delftの公式サイトには、実験の詳しい解説や動画が公開されています。

メモのすすめ

気になった数字や言葉を1つだけノートに記録しておきましょう。「2011年の実験の名前はツー・マス・スケート」という一文でもかまいません。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

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出典について:研究機関・専門誌の公開情報を使っています。

  1. Cycling UK「200 years since the father of the bicycle Baron Karl von Drais invented the 'running machine'」。 https://www.cyclinguk.org/cycle/draisienne-1817-2017-200-years-cycling-innovation-design (1815年の火山噴火と「夏のない年」、1817年のドライスによる発明についての解説)
  2. John Kemp Starley - Wikipedia(英語版)。 https://en.wikipedia.org/wiki/John_Kemp_Starley (1885年のジョン・ケンプ・スターレーによるローバー・セーフティー・バイシクル、後輪駆動・同サイズ車輪による安定性についての解説)
  3. Physics Today「From the archives: The stability of the bicycle」(1970年掲載論文の紹介)。 https://physicstoday.aip.org/features/from-the-archives-the-stability-of-the-bicycle (1970年、デイヴィッド・ジョーンズによる「乗れない自転車」実験についての解説)
  4. EurekAlert!(TU Delft発表)「Why does a moving bicycle not fall over? TU Delft casts aside some old theories」。 https://www.eurekalert.org/news-releases/908183 (2011年の「ツー・マス・スケート」実験と、Science誌掲載論文の結論についての公式発表)

なおした ところ

更新履歴

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