このサイトは、ほんの入り口です

ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

ごせんぞの 草は、どうして かたい 実を つけて いたの?

石のように硬い実をつける草が、どうやって主食になったのか

トウモロコシの栽培化 ── テオシントから約9000年、殻・枝分かれ・穂軸の変化

分野:自然

とうもろこしの ごせんぞは、メキシコに はえていた、ほそい 草です。実は ほんの すこししか つかず、しかも 石みたいに かたい から に つつまれて います。

この 草が、どうして 今の 大きな とうもろこしに なったのか。畑と いでんしの 両方から、たどって みましょう。

小指より小さい穂に、ほんの数粒の実。しかも実は、ほとんどかめないほど硬い殻に包まれている。トウモロコシの祖先は、そういう草だと説明されています。

この草は、どこで、いつ、どうやって今の姿になったのでしょうか。遺伝子の研究と、遺跡から出た古い穂軸の両方を見ていきます。

トウモロコシはすべて、メキシコ南部で約9000年前に一度だけ起きた栽培化に由来するとされる[1]。祖先は野生の草テオシントで、硬い殻・多数の枝・小さな穂という、今の作物とは大きく違う姿をしていた[3][4]。

このメモでは、殻や枝分かれに関わる遺伝子と、遺跡から出た穂軸や古代DNAの結果を突き合わせ、「途中の姿」がどこまで分かっているかをたどる。

読み方を切り替えられます。画面の上にある「よみかた」のボタンで、小学校低学年むけ・小学校高学年むけ・中学生むけの3つの書き方に切り替わります。むずかしいと思ったら、いつでもやさしい方に戻ってください。選んだ読み方はブラウザが覚えているので、次に別の記事を開いたときも同じ読み方で始まります。

1. どんな 草だったの?

1. 祖先は、メキシコの乾いた森の草

1. テオシント ── 野生の祖先の姿と分布

この 草の なまえは、テオシントです。今も メキシコの 南西の、雨が ふる 時期と ふらない 時期が ある 森に、はえて います[2]。

ほは、小指より 小さい と いわれます[4]。そこに 実が ほんの すこし。実は 石のように かたい から(ほの 一部)で、まもられて います[3]。

今の とうもろこしは、から が なくて、実が はだかです。この ちがいが、とても 大きな ちがいです。

今も自生している草

トウモロコシの野生の祖先は、テオシントという草の仲間です。メキシコ南西部、バルサス川の中流域にある、雨季と乾季のある熱帯の森に、今も生えていることが、遺伝子の調べでわかっています[2]。

殻に包まれた少数の実

テオシントの穂は、小指より小さいと紹介されることがあります[4]。実の数は少なく、ひと粒ずつが、硬い穎(実を包む部分)などからできた殻に守られています。1本の穂には小穂が5〜15個、2列に並ぶとされます[3]。トウモロコシの実は殻に包まれておらず、はだかです。

トウモロコシの野生の祖先は、メキシコ南西部のバルサス川中流域の、季節的に乾く熱帯林に現在も自生するテオシント(Zea mays subsp. parviglumis)とされる。これは分子データにもとづく結論である[2]。

テオシントの穂は、5〜15個の小穂が2列に並ぶ構造で、実は硬い穎と穂軸の一部からなる殻に個別に包まれる。トウモロコシの実は殻に包まれない裸の実である[3]。穂の大きさは「小指より小さい」と紹介されるが[4]、これは解説記事の表現で、実測値ではない。

2. いつ、どこで はじまったの?

2. 約9000年前、メキシコ南部で

2. 単一起源 ── 遺伝マーカーと遺跡の証拠

とうもろこしは、すべて おなじ ところから はじまった、と かんがえられて います。メキシコの 南の ほうで、九千年ぐらい 前の こと です[1]。

この 話は、二百六十四本の とうもろこしと、ちかい 草の DNAを 見くらべて わかりました。

ずっと あとに なって、その 近くの いせきで、石の どうぐに のこった つぶが 見つかりました。八千七百年 いじょう 前の 人が、とうもろこしを つかって いた しょうこ です[2]。

遺伝子から見えた「一度きり」の始まり

世界のトウモロコシが、どこから来たのか。264本の株を、99か所のDNAの目印で比べた研究では、すべてのトウモロコシが、メキシコ南部での一度の栽培化から生まれたと報告されました。時期はおよそ9000年前です[1]。

石器に残った小さな証拠

バルサス川の流域にあるシワトキストラ岩陰遺跡では、石器にデンプンの粒と、植物の細胞に残るガラス質の粒が付いていました。これらから、少なくとも8700年前にトウモロコシとカボチャの栽培種が使われていたとされます[2]。ただしこれは利用の証拠で、現代のような穂軸そのものが出たわけではありません。

Matsuokaらは、264個体を99のマイクロサテライト(短い繰り返しのDNA目印)で調べ、すべてのトウモロコシは約9000年前にメキシコ南部で起きた1回の栽培化に由来すると報告した[1]。

物的な証拠としては、バルサス川流域のシワトキストラ岩陰遺跡で、石器に残るデンプン粒とプラントオパール(植物の細胞に残るガラス質)から、少なくとも8700暦年前にトウモロコシとカボチャの栽培種が使われていたことが示された[2]。これは利用の痕跡であり、現代型の穂軸が出土したという意味ではない。

3. から を ぬいだ、えだが へった

3. 殻をぬぎ、枝が減った ── 遺伝子の研究

3. tga1とtb1 ── 殻と枝分かれを切り替える遺伝子

テオシントと とうもろこしの ちがいを うむ、いでんしが いくつか 見つかって います。

ひとつは tga1(ティージーエーワン)。かたい から を、はだかの 実に かえる ことに、大きく かかわると いわれます[5]。この いでんし だけで 全部 かわった わけでは ありません。

もうひとつは tb1(ティービーワン)。たくさんの えだを、一本の くきに かえる はたらきが あります[6]。

たとえば、小さな 木の えだを ぜんぶ きって、一本の みきに 力を あつめる ように します。ただし 本当は、切る のでは なく、はじめから えだが のびにくく なった のです。

殻をぬぐ遺伝子

tga1(teosinte glume architecture1)は、テオシントとトウモロコシの違いを大きく左右する場所として、1993年の研究で注目されました[5]。この遺伝子の変化が、硬い殻を「はだかの実」に変えるのに関わったと考えられています。ただ、1つの遺伝子だけで変わったとまでは言えません。

枝を減らす遺伝子

tb1(teosinte branched1)は、たくさんの枝に分かれる形から、1本の茎に大きな穂がつく形への切り替えに関わります。1997年に単離され、トウモロコシ型のtb1は、テオシント型の約2倍の強さで働くと報告されました[7]。遺伝子そのものの変化というより、働き方が変わったことが、違いの一因とされます。

のちの研究では、tb1がtga1などほかの栽培化に関わる遺伝子も調節しており、複数の遺伝子が網の目のようにつながって選ばれてきたことが示されました[6]。

たとえるなら、庭木の枝を切りそろえて一本の幹に力を集めるようなことです。ただし実際に切ったのではなく、はじめから枝が伸びにくくなったと考えられています。

tga1は、テオシントとトウモロコシの差を大きく制御する座位として、Dorweilerらが1993年に報告した[5]。硬い殻(穎果を包む構造)を裸の実へ切り替える鍵の遺伝子と考えられるが、この形質が1遺伝子だけで説明できるとは限らず、「大きく関わる」にとどめておく。

tb1は、テオシント型の多数の枝分かれから、1本の茎に大きな穂をつける形への切り替えに関わる。Doebleyらが1997年に単離し、トウモロコシ型のアレルは、テオシント型の約2倍の発現量を示す。塩基配列の違いよりも発現の違いが、形の違いの一因とされる[7]。

後の解析で、tb1は細胞周期の中心的な遺伝子とtga1の両方を調節し、tb1ネットワークの複数の成員が選抜の標的になったとみられることが示された[6]。栽培化は、単一の遺伝子ではなく、つながった遺伝子群への選択として進んだと読める。

4. とちゅうの すがた

4. 途中の姿 ── 古い穂軸が語ること

4. 穂軸の考古学 ── ギラ・ナキッツと古代DNA

いせきから 出た 古い ほじくは、「とちゅうの すがた」を おしえて くれます。

メキシコの ギラ・ナキッツの どうくつから 出た ほじくは、六千二百年ぐらい 前の もの です。実が しっかり じくに ついて いて、人が 手で はずして うえる ひつようが ありました[8]。

もっと あとの、五千三百年ぐらい 前の ほじくは、長さが 二センチ より 短く、実は 八れつ でした[9]。今の とうもろこしと くらべると、ずっと 小さいです。

ギラ・ナキッツ洞窟の穂軸

メキシコ・オアハカのギラ・ナキッツ洞窟から出た穂軸は、直接の年代測定で約6250暦年前(放射性炭素では5400年前)と示され、2001年の時点ではアメリカ大陸で最古とされました。実が硬い軸に固くついていて、人が手で外して植える必要のある特徴をもちます[8]。8700年前の証拠はデンプンの粒で、穂軸ではありません。

古代DNAが語る「中間の姿」

メキシコのテワカン谷から出た、約5310年前の穂軸のゲノムが調べられました。テオシントより今のトウモロコシに近いものの、まだ途中の姿でした。実をやわらかくする遺伝子の型はすでにもっていましたが、まだ途中の姿で、長さは2cm未満、実は8列だったとされます。数千年をかけて少しずつ変わったと考えられています[9]。

メキシコ・オアハカのギラ・ナキッツ洞窟の穂軸は、直接年代測定で約6250暦年前(放射性炭素年代で5400年前)とされ、2001年時点でアメリカ大陸最古の穂軸だった。実が硬い軸に固く付き、人が手で外して植える必要のある形質を示す[8]。8700年前のデンプン粒の証拠とは種類が違い、穂軸そのものの最古ではあっても、利用の最古ではない。

Ramos-Madrigalらは、テワカン谷の約5310年前の穂軸のゲノムを解析した。現代のトウモロコシに近いが中間的な姿で、実を軟らかくする遺伝子の型をすでに持つ一方、穂軸は8列・長さ2cm未満だった。形質は数千年かけて少しずつ変わったと解釈されている[9]。

5. しあげは どこで?

5. 仕上げは南米でも進んだ

5. 栽培化の最終段階 ── 複数の場所という仮説

2018ねんの けんきゅうでは、まだ とちゅうの とうもろこしが、六千五百年 いじょう 前に、南アメリカの 西南に とどいた と かんがえられて います[4]。

そこで 長い 時間を かけて、今の すがたに ちかく なって いった、と いう ことです。しあげは、ひとつの ばしょ では なかった かもしれません。

はじまりは 一かい、しあげは あちこち。この 二つは、ぶつかる はなし では ありません。

南アメリカでの続き

2018年の解析では、部分的に栽培化されたトウモロコシが、少なくとも6500年前に南アメリカ南西部のアマゾンへ届き、そこで長い年月をかけて、完全な作物へ育っていったことが示されました。最後の段階は、複数の場所で起きたのかもしれません[4]。

「一度きり」と「各地で仕上げ」

始まりは、メキシコ南部の一度の栽培化だとされます[1]。仕上げが各地で進んだ可能性は、その後の別の研究で示されたものです。矛盾しているのではなく、見ている段階が違います。

Kistlerらの2018年の解析は、部分的に栽培化されたトウモロコシが少なくとも6500年前に南米南西部アマゾンへ到達し、そこで長期間かけて完全な作物へ発達した可能性を示した。最終段階は複数の場所で起きたかもしれない[4]。以上は解説記事にもとづく。

「起源は1回」[1]と「最終段階は複数の場所」は、見ている段階が異なる。栽培化を1点の出来事でなく、数千年の過程として見る必要がある。

自分でも しらべて みたく なったら

自分でも調べてみたくなったら

自分でも調べてみたくなったら

ゆでた とうもろこしを 見る ときは、つぶが 何れつ ならんで いるか、かぞえて みましょう。おうちの 人の とうもろこしと、くらべても おもしろいです。

本を さがすなら、図書館で「とうもろこし」「さいばい」の 本を たのんで みましょう。

今日できること:ゆでたトウモロコシの粒を、1列ずつ数えてみてください。テワカン谷の古い穂軸(8列)と、列の数を比べられます。家族が食べているものと数を比べても、おもしろいでしょう。

調べるなら:図書館で、トウモロコシの歴史や栽培の本を探してみましょう。遺跡の話は、博物館の展示にもあります。

遺伝子の側の議論は、tb1[6]とtga1[5]の原論文の要旨が、英語だが短くて読みやすい。遺跡の側は、バルサス川流域の調査[2]とギラ・ナキッツ洞窟の穂軸[8]の論文が出発点になる。

起源が1回か、各地の仕上げがどこまで独立かは、今も研究が続く。新しい古代DNAの結果が出るたびに、図が書き換わる。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

出典について:学術論文の要旨・公開論文と、研究者の所属機関などによる解説記事を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。

  1. Matsuoka et al. (2002) A single domestication for maize shown by multilocus microsatellite genotyping. PNAS. https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.052125199 (約9000年前・メキシコ南部での単一起源について。要旨で確認)
  2. Piperno et al. (2009) Starch grain and phytolith evidence for early ninth millennium B.P. maize from the Central Balsas River Valley, Mexico. PNAS. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2664064 (祖先の自生地とシワトキストラ遺跡の証拠について)
  3. Earth@Home "Evolution: Teosinte and the domestication of maize". https://evolution.earthathome.org/grasses/andropogoneae/maize-domestication/ (穂の構造と、殻のある実・はだかの実の違いについて)
  4. Smithsonian解説・phys.org (2018) Scientists overhaul corn domestication story. https://phys.org/news/2018-12-scientists-overhaul-corn-domestication-story.html (テオシントの穂の大きさの表現と、南米での最終段階について。Kistler et al. 2018 の解説)
  5. Dorweiler et al. (1993) Teosinte glume architecture 1: a genetic locus controlling a key step in maize evolution. Science. https://www.science.org/doi/10.1126/science.262.5131.233 (tga1が殻と実の違いに大きく関わることについて。検索結果の要旨で確認)
  6. tb1ネットワークに関する論文(PMC5629337)。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5629337 (tb1が枝分かれとtga1を調節し、複数の遺伝子が選ばれたことについて)
  7. Doebley, Stec, Hubbard (1997) The evolution of apical dominance in maize. Nature. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9087405/ (tb1の単離と発現量が約2倍であることについて。要旨で確認)
  8. Piperno & Flannery (2001) The earliest archaeological maize (Zea mays L.) from highland Mexico. PNAS. https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.98.4.2101 (ギラ・ナキッツ洞窟の穂軸の年代と特徴について。検索結果で確認)
  9. phys.org (2016) Genome sequence of 5,300-year-old maize cob (Ramos-Madrigal et al., Current Biology の解説). https://phys.org/news/2016-11-genome-sequence-year-old-maize-cob.html (テワカン谷の穂軸のゲノムと中間の姿について)

なおした ところ

更新履歴

更新履歴(改版の記録)

  •  初版を公開。

このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。