このサイトは、ほんの入り口です

ここに書いてあることは、誰かが実際に手を動かして調べ、考え、作り上げてきたものを拾い集めています。専門の本や論文、作品、そしてそれを生み出した人たち。気になったことがあれば、ぜひそのおおもとに直接ふれてみてください。このメモには書ききれない熱を、感じてもらえると思います。

おとで 「見る」 しくみ

音で「見る」しくみ ── エコーロケーション

音で「見る」しくみ ── エコーロケーション

分野:生きもの

目が 見えない 人の 中に、口の 中で 「チッ」と 鳴らす 音だけで、へいや 車の いちが わかる 人が いる。

音を 出して、はね返って くる 音を 聞くだけで、まわりの ようすが わかるのだ。この ふしぎな 力は、じつは コウモリや イルカも つかって いる。

目が見えない人の中に、口の中で「チッ」と鳴らす音だけで、壁や車の位置が分かる人がいる。

音を出して、はね返ってくる音を聞くだけで、まわりの様子が分かるのだ。この不思議な力は、実はコウモリやイルカも使っている。

視覚障害のある人の中に、舌打ちのクリック音だけで、壁の位置や物の形を言い当てる人がいる。音を発し、その反響を聞き取ることで、周囲の空間を「見る」のだ。

この能力はエコーロケーション(反響定位)と呼ばれ、コウモリやイルカが古くから使ってきた感覚でもある。18世紀の実験から、1938年の決定的な発見を経て、そのしくみは少しずつ解き明かされてきた。

読み方を切り替えられます。画面の上にある「よみかた」のボタンで、小学校低学年むけ小学校高学年むけ中学生むけの3つの書き方に切り替わります。むずかしいと思ったら、いつでもやさしい方に戻ってください。選んだ読み方はブラウザが覚えているので、次に別の記事を開いたときも同じ読み方で始まります。

1. 目かくしされても、コウモリは とべた

1. 目かくしされても、コウモリは飛べた

1. スパランツァーニは、コウモリが耳で飛ぶことを見つけた

むかし、イタリアの 学者が、コウモリを つかって じっけんを した。コウモリの 目を ぬので おおって、まっくらな 中を とばせても、コウモリは かべに ぶつからずに とびまわれた[1]

ところが、コウモリの 耳を ふさいで しまうと、とびたつ ことすら できなく なった。目では なく、耳で 何かを 感じとって いる らしい ことが、あとの じだいに なって わかった[1]

昔、イタリアの学者ラザロ・スパランツァーニが、コウモリを使って実験をした。コウモリの目を布でおおって、真っ暗な中を飛ばせても、コウモリは壁にぶつからずに飛びまわれた[1]

ところが、コウモリの耳をふさいでしまうと、飛び立つことすらできなくなった。目ではなく、耳で何かを感じとっているらしいと、その後の学者たちがつきとめた[1]

18世紀、イタリアの博物学者ラザロ・スパランツァーニは、コウモリに目隠しをしても、真っ暗な中でも障害物を避けて飛行できることを実験で確かめた。視覚を奪ってもコウモリの飛行に問題はなかった[1]

ところが耳までふさぐと、コウモリは飛び立つことさえできなくなった。スパランツァーニは、コウモリが視覚以外の何らかの感覚を使っていると結論づけたが、それが聴覚だとまでは特定できなかった。1798年、スイスの学者ルイ・ジュリーヌが同様の実験を重ね、コウモリが夜間の飛行や狩りに聴覚を使っているという結論に達した[1]

2. コウモリは、人には 聞こえない 音を 出して いた

2. コウモリは、人には聞こえない音を出していた

2. 1938年、グリフィンがコウモリの超音波を発見した

コウモリが 耳で 何かを して いる らしい と わかってから、なが年、その しょうたいは なぞの ままだった。人の 耳には、コウモリの 声が ほとんど 聞こえなかったからだ[2]

1938年、アメリカの 学生 ドナルド・グリフィンは、人には 聞こえない 高い 音を とらえる きかいを つかって、コウモリを しらべた。すると、コウモリは とんで いる あいだじゅう、ずっと 高い 音(ちょうおんぱ)を 出しつづけて いる ことが わかった[2]

コウモリが耳で何かをしているらしいと分かってから、長年、その正体はなぞのままだった。人の耳には、コウモリの声がほとんど聞こえなかったからだ[2]

1938年、アメリカの学生ドナルド・グリフィンは、人には聞こえない高い音をとらえる機械を使って、コウモリを調べた。すると、コウモリは飛んでいるあいだじゅう、ずっと高い音(超音波)を出しつづけていることが分かった[2]

聴覚が関わることは分かっても、その正体は長らく不明だった。1920年、イギリスの生理学者ハミルトン・ハートリッジは、コウモリが人間の可聴域を超える超音波を使っているのではないかと理論的に提唱した[2]

1938年、ハーバード大学の学生だったドナルド・グリフィンは、物理学者ジョージ・ピアースが開発した超音波検出器を使ってコウモリを調べ、コウモリが常時、超音波域の音声を発していることを実証した。その後、グリフィンは生理学者ロバート・ガランボスと共同研究を進め、コウモリの口をふさぐと障害物を避けられなくなることなどを確かめて、コウモリが超音波の反響で周囲を把握していることを証明した。この現象は、1944年までにグリフィン自身によって「エコーロケーション(反響定位)」と名付けられた[2]

3. コウモリは、はね返って くる 音で、きょりや 大きさが わかる

3. コウモリは、はね返ってくる音で、きょりや大きさが分かる

3. コウモリは、反響の時間差から獲物の種類まで聞き分ける

コウモリは、口や 鼻から、人には 聞こえない 高い 音を 出す。その 音が、木や むしに ぶつかって はね返って くる。コウモリは、はね返って くるまでの 時間で、そこまでの きょりを はかって いる[3]

音が すぐに はね返れば、近くに 何か ある ということだ。時間が かかれば、遠くに 何か ある ということだ。ボールを かべに なげて、もどって くるまでの 時間で きょりを はかるような ものだ(ただし ほんとうは ボールでは なく、音を つかって いる)。コウモリは この しくみで、大きさや、それが むしなのかどうかまで、聞きわけて いると いわれる[3]

コウモリは、口や鼻から、人には聞こえない高い音を出す。その音が、木や虫にぶつかってはね返ってくる。コウモリは、はね返ってくるまでの時間で、そこまでの距離をはかっている[3]

音がすぐにはね返れば、近くに何かあるということだ。時間がかかれば、遠くに何かあるということだ。コウモリはこのしくみで、大きさや、それが虫かどうかまで、聞き分けているといわれる[3]

コウモリは口(種によっては鼻)から超音波を発し、周囲の物体に反射して戻ってくるまでの時間から、対象物までの距離を計測する。音が返ってくるまでの時間の長短が、そのまま距離の情報になる[3]

反響音の強さや周波数の変化からは、対象物のおおよその大きさや形、飛んでいる昆虫の種類までも判別できるとされる。獲物に接近すると発する音の間隔を短くし、より精密な位置情報を得ようとする行動も知られている[3]

4. イルカは、おでこに ある「メロン」で 音を あつめる

4. イルカは、おでこにある「メロン」で音を集める

4. イルカは、頭の「メロン体」で音を前方へ飛ばす

コウモリと 同じ しくみを、海の 中で つかって いる どうぶつも いる。イルカだ。イルカも、人には 聞こえない 高い 音を 出して、まわりの ようすを しらべて いる[4]

イルカの おでこには、しぼうで できた「メロン」と よばれる まるい ぶぶんが ある。イルカは、はなの あなの 下で 音を 作り、それを このメロンで まとめて、前方へと おくりだして いる[4]

コウモリと同じしくみを、海の中で使っている動物もいる。イルカだ。イルカも、人には聞こえない高い音を出して、まわりの様子を調べている[4]

イルカのおでこには、脂肪でできた「メロン」と呼ばれる丸い部分がある。イルカは、鼻の穴が変化した部分に空気を送って音を作り、それが頭の中を通ってメロンに伝わる。メロンは、音をレンズのように集めて、前方へまっすぐ送りだしている[4]

ハクジラ類に属するイルカも、超音波によるエコーロケーションを行う。イルカは頭部にある「音声唇(フォニックリップ)」という、鼻の穴が変化してできた構造に空気を送り込み、振動させることで超音波のクリック音を発生させる[4]

発生した音は鼻腔内の脂肪体を振動させながら頭部を通り、「メロン体」と呼ばれる音響脂肪のかたまりに達する。メロン体はレンズのように音波を集束させ、形を変えながら前方へ指向性の高いビーム状に放射する役割を果たす。反射して戻ってきた音は下顎の骨を通じて内耳へ伝わり、獲物や障害物の位置を把握する[4]

5. したうちの 音で、町を あるく 人が いる

5. 舌打ちの音で、町を歩く人がいる

5. ダニエル・キッシュは、舌打ちの反響で周囲を把握する

アメリカに、ダニエル・キッシュと いう 人が いる。子どもの ころから、目が 見えない かわりに、口を 「チッ」と ならして、まわりの ようすを たしかめる ように なった[5]

この 音が かべや 車に あたって はね返って くるのを 聞きわける ことで、キッシュさんは、りょうりを したり、りょこうを したり、ひとりで 出かけたり して いる。この 力は、れんしゅうすれば 人に 教える ことも できると いう[5]

アメリカに、ダニエル・キッシュという人がいる。子どものころから、目が見えないかわりに、口を「チッ」と鳴らして、まわりの様子をたしかめるようになった[5]

この音が壁や車にあたってはね返ってくるのを聞き分けることで、キッシュさんは、料理をしたり、旅行をしたり、ひとりで出かけたりしている。この力は、練習すれば人に教えることもできるという[5]

アメリカのダニエル・キッシュは、幼いころに視力を失った。子どものころから舌打ちによるクリック音を自力で発するようになり、その反響を空間情報として認識する術を身につけていった[5]

クリック音は物体にあたって反射し、その反響を耳でとらえて脳がイメージに変換する。キッシュは視覚障害者支援団体「ワールド・アクセス・フォー・ザ・ブラインド」を主宰し、この技術を他の視覚障害者に指導している。研究によれば、エコーロケーションは訓練によって習得可能な技能であり、熟練者では視覚に関わる脳の領域が反響音の処理に使われていることも報告されている[5]

6. 大きな 船の 事こが、音で さぐる きかいを 生んだ

6. 大きな船の事故が、音でさぐる機械を生んだ

6. タイタニック号の事故が、水中のソナー技術を生んだ

コウモリや イルカの しくみは、人間の どうぐにも いかされて いる。「ソナー」と よばれる きかいは、音を 出して、はね返って くる 音で、水の 中の ものを さがす[6]

この きかいが 生まれた きっかけの 1つは、1912年に 大きな 船が こおりざんに ぶつかって しずんだ じこだった。海の 中に かくれた こおりざんを、はやく 見つける ほうほうが ひつように なったのだ[6]

コウモリやイルカのしくみは、人間の道具にも生かされている。「ソナー」と呼ばれる機械は、音を出して、はね返ってくる音で、水の中のものをさがす[6]

この機械が生まれたきっかけの1つは、1912年に大きな船(タイタニック号)が氷山にぶつかって沈んだ事故だった。海の中に隠れた氷山を、早く見つける方法が必要になったのだ[6]

1912年のタイタニック号沈没事故は、海面下に隠れた氷山などの障害物を探知する技術の必要性を強く印象づけた。1915年、フランスの物理学者ポール・ランジュバンは超音波を使う探知装置の研究を始めた。最初の送波器は静電容量式(振動コンデンサー式)だったが、1917年には石英の圧電効果を使った送受波器の開発に取り組み、1918年に特許を出願した[6]

第一次世界大戦では、敵潜水艦を探知する必要性からこの技術が急速に発展した。まず水中の音をただ聞き取るハイドロフォン(のちのパッシブソナー)が実用化され、1915年には陸上の聴音局が、1916年以降は艦艇でも使われるようになった。いっぽう、自ら音を発して反響をとらえる能動型のソナーは、1918年までに試作・試験が進んだ段階で、実際に広く使われるようになったのは戦後のことである[6]

音の はね返りを、じぶんの 耳で たしかめる

音の反響を、自分の耳でたしかめる

音の反響を、自分の耳でたしかめる

目を とじて、へやの かべに 向かって 手びょうしを すると、かべに 近い ときと、遠い ときで、聞こえる 音が ちがう ことに 気づくかもしれない。

目を閉じて、部屋の壁に向かって手拍子をすると、壁に近いときと、遠いときで、聞こえる音の感じがちがうことに気づくかもしれない。静かな場所と、物が多い部屋でも、聞こえ方は変わってくる。

静かな室内で目を閉じ、壁や家具に向かって手拍子を打つと、物との距離や、壁と開いた空間との違いによって、返ってくる音の質がわずかに変化することに気づけるかもしれない。慣れてくると、目を開けたまま歩きながら試すのもおもしろい。エコーロケーションの動画や研究を紹介する資料も公開されている。

しらべた ところ

参考にした情報源

参考にした情報源

  1. フリー百科事典『ウィキペディア』「反響定位」「ラザロ・スパランツァーニ」、English Wikipedia "Animal echolocation"。 https://ja.wikipedia.org/wiki/反響定位 https://en.wikipedia.org/wiki/Animal_echolocation (18世紀にラザロ・スパランツァーニがコウモリに目隠しをしても障害物を避けて飛行できるが耳をふさぐと飛べなくなることを実験で確かめたこと、1798年にルイ・ジュリーヌが同様の実験からコウモリが聴覚を使っているという結論に達したこと)
  2. English Wikipedia "Animal echolocation"、ナショナルジオグラフィック日本版「人にもできる! 音で周囲を知覚する『反響定位』のしくみ」、University of Bristol "A history of biosonar research"。 https://en.wikipedia.org/wiki/Animal_echolocation https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/21/020500061/ https://www.biosonar.bris.ac.uk/chapters/2/griffin2.htm (1920年にハミルトン・ハートリッジがコウモリの超音波利用を理論的に提唱したこと、1938年にジョージ・ピアースが開発した超音波検出器をドナルド・グリフィンが使いコウモリが超音波を発していることを実証したこと、その後グリフィンがロバート・ガランボスとの共同研究でコウモリの口をふさぐと障害物を避けられなくなることを確認したこと、1944年までにグリフィンが「エコーロケーション」という語を作ったこと)
  3. ナショナルジオグラフィック日本版「人にもできる! 音で周囲を知覚する『反響定位』のしくみ」。 https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/21/020500061/ (コウモリが口や鼻から超音波を発し反響が戻るまでの時間で距離を測ること、反響音の強さや周波数の変化から大きさ・形・獲物の種類まで判別できるとされること)
  4. Dolphin Communication Project "How does echolocation work?"、フリー百科事典『ウィキペディア』「反響定位」(クジラ節)。 https://www.dolphincommunicationproject.org/helpie_faq/how-does-echolocation-work/ https://ja.wikipedia.org/wiki/反響定位 (イルカが鼻の穴の変化した「音声唇(フォニックリップ)」に空気を送って超音波を発生させること、音が鼻腔内の脂肪体を振動させながら頭部を通りメロン体という音響脂肪のかたまりに達すること、メロン体が音波を集束させるレンズのように機能し形を変えて前方へビーム状に放射すること)
  5. ライブドアニュース「一部の視覚障害者は、自ら発した『音の反射』から景色を“見る”ことができる」、ナショナルジオグラフィック日本版「音で世界を『見る』」、World Access for the Blind公式サイト。 https://news.livedoor.com/article/detail/13778130/ https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20130620/355092/ https://www.worldaccessfortheblind.net/node/355 (ダニエル・キッシュが網膜芽細胞腫のため生後13か月までに両眼を失ったこと、舌打ちによるクリック音を自力で身につけ反響から空間情報を得ていること、視覚障害者支援団体World Access for the Blindを主宰しこの技術を指導していること、訓練で習得可能な技能とされること)
  6. コトバンク「ソナー」、y-history.net「潜水艦」。 https://kotobank.jp/word/ソナー-314758 https://www.y-history.net/appendix/wh1501-041.html (1912年のタイタニック号沈没事故が水中探知技術の必要性を高めたこと、1915年にポール・ランジュバンが水晶の圧電効果を利用した超音波送受波器「エコー位置」を発明したこと、第一次世界大戦中にハイドロフォンが1915年に地上局、1916年に艦載型として実用化されたこと、1918年までに英米が能動型ソナーシステムを構築したこと)

なおした ところ

更新履歴

更新履歴(改版の記録)

  •  初版を公開。

このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。