1. ノミは どのくらい とぶの?
1. 実際に測ると、どのくらい跳ぶのか
1. 測定値 ── ネコノミとイヌノミの跳躍
ノミが どのくらい とぶのか、けんきゅうする 人たちが ネコノミと イヌノミを つかって はかりました。
ネコノミは、よこには だいたい 20センチ ほど とびました。いちばん とおくまで とんだ ノミは、48センチでした。
たかさは、はんぶんの ノミが 13センチ ぐらいの たかさを とびこえました。いちばん たかく とんだ ネコノミは、17センチでした。
ノミは体長2〜3ミリほどの小さな虫ですが、とても高く跳ぶことで知られています。実際にはどのくらい跳べるのでしょうか。研究チームが、まだ血を吸っていないネコノミとイヌノミの若い成虫を使って、跳ぶ距離と高さを測っています[1]。
横方向は、ネコノミが平均19.9センチ、いちばん遠くまで跳んだ個体が48センチでした。イヌノミは平均30.4センチで、ネコノミより長く跳ぶ結果でした[1]。
高さは、直径9センチの筒を1センチずつ高くしていき、底に置いた10匹のうち何匹が筒の上に跳び出せるかを数えて調べています。半数のノミが跳び越えた高さは、ネコノミで13.2センチ、イヌノミで15.5センチ。最も高く跳んだ個体は、ネコノミが17センチ、イヌノミが25センチでした[1]。
百科事典などには「30センチほど」と書かれていることもあります[7]。跳ぶ高さは、ノミの種類や測り方によって変わります。この記事では、条件がはっきり書かれた測定値を中心に使います。
ノミの跳躍力は「体長の何十倍」と語られることが多い。では、実際に測るとどのくらいなのか。研究チームは、まだ吸血していないネコノミ(Ctenocephalides felis)とイヌノミ(C. canis)の若い成虫を使って、跳ぶ距離と高さを測定した[1]。
水平方向の跳躍距離は、ネコノミが平均19.9±9.1センチ(最小2センチ、最大48センチ)、イヌノミが平均30.4±9.1センチ(3〜50センチ)で、イヌノミのほうが有意に長かった[1]。
高さは、直径9センチの円筒を1センチきざみで高くしていき、底に置いた10匹のうち何匹が筒の上に跳び出せるかを数える方法で評価した。半数の個体が跳び越えた高さは、ネコノミで13.2センチ、イヌノミで15.5センチ。最も高く跳んだ個体は、ネコノミが17センチ、イヌノミが25センチだった[1]。
百科事典などには「高さ30センチほど」と書かれていることもある[7]。個体差が大きいうえ、種類や測定方法、ノミの状態によって値は変わる。この記事では、条件が明記された測定値を中心に使う。
2. からだの おおきさと くらべると
2. 体の大きさとくらべてみる
2. 「体長の何倍」で見る
ネコノミの からだの ながさは、2〜3ミリです。いちばん たかく とんだ 17センチは、その 50ばい いじょうです。
もし 人間が ノミと おなじ わりあいで とべたら、100メートルに ちかい たかさ、あるいは それ いじょうに なります。
でも、これは くらべやすく する ための けいさんです。人間の からだで おなじ ことが できる わけでは ありません。
ネコノミの成虫の体長は、オスで約2ミリ、メスで約3ミリです[7]。いちばん高く跳んだ17センチを体長と比べると、およそ57倍から85倍にあたります(この倍率は、この記事のために計算したものです)。
ほかの研究でも、ノミの種類をまとめて、垂直にはおよそ体長の50〜100倍、水平には5〜100倍という数字が紹介されています[4]。
身長170センチの人が同じ倍率で跳べたとしたら、およそ100〜145メートルの高さになります。ただし、これは大きさを比べやすくするための計算です。人の体で同じことができるわけではありません。
体長1ミリに満たないスナノミ(人や動物の皮ふに入りこむノミ)は、足に集まるのは「あまり跳べないからだ」と思われてきました。でも2024年の測定では、垂直に平均4〜4.6センチ、水平に平均6.4〜8センチ跳ぶことがわかり、研究チームは、ほかのノミと同じくらい跳べると結論しています[4]。
ネコノミの成虫の体長は、オスで約2ミリ、メスで約3ミリだ[7]。最大の高さ17センチを体長で割ると、約57倍(メス)から約85倍(オス)になる(この倍率は本記事の計算)。
ノミの種類を通した文献では、垂直におよそ体長の50〜100倍、水平に5〜100倍という値が報告されてきたと整理されている[4]。ここで挙げた値はその範囲に収まる。
身長170センチの人が同じ倍率で跳べたとすると、約100〜145メートルになる。ただしこれは大きさを比べるための単純計算で、体の大きさが変わると、筋肉やバネの働きも同じようには拡大できない。
体長1ミリ未満のスナノミ(Tunga penetrans)は、雌が人や動物の皮ふに潜りこみ、おもに足を侵す。このことから「跳躍力が弱いのではないか」という俗説があったが、2024年の測定では、垂直の平均が雌40ミリ・雄46ミリ、水平の平均が雌64ミリ・雄80ミリで、ほかのノミに劣らない跳躍力だと結論された。足に集まる理由は、跳躍力の弱さではなく、宿主の行動への適応かもしれないとされる[4]。
3. きんにくだけでは まにあわない
3. 筋肉だけでは間に合わない
3. 1967年の計算 ── 筋肉では追いつかない
ノミが ジャンプする とき、あしで じめんを けって、ぐんと はやく なるまでの じかんは、1びょうを 1000こに わけた うちの 1こぶん ぐらいです。とても みじかい じかんです。
1967ねんの けんきゅうでは、この みじかい じかんに、きんにくが ちぢむ ちからだけで ひつような ちからを だすのは むずかしい、と かんがえました。
ノミの跳躍にはどんなしくみがあるのでしょうか。1967年の研究は、ウサギノミの跳躍を調べました。
この研究の計算では、ウサギノミが高さ3.5センチ跳ぶのに必要なエネルギーは約2.25エルグ(0.000000225ジュール)で、それをおよそ1000分の1秒(0.75〜1ミリ秒)の間に、0.37〜0.5ミリの短い距離で出さなければなりません[2]。
研究者は、これは筋肉が直接はたらくだけでは説明できない、と結論しました[2]。エネルギーの量というより、それを出すまでの時間が短すぎる、という問題です。
ノミの跳躍のしくみを考えた研究に、1967年に発表されたBennet-Clark(ベネット=クラーク)とLucey(ルーシー)の論文がある。対象はウサギノミ(Spilopsyllus cuniculi)だった。
研究者たちの計算によると、高さ3.5センチの跳躍に必要なエネルギーは約2.25エルグ(1エルグは10⁻⁷ジュールなので、約2.25×10⁻⁷ジュール)で、これを0.75〜1ミリ秒(1000分の1秒)の間に、0.37〜0.5ミリの距離で出さなければならない[2]。
彼らは、これは筋肉が直接はたらくだけでは説明できないと結論した[2]。問題は、エネルギーの大きさそのものより、それを出すまでの時間の短さにある。
4. ばねに ちからを ためる
4. バネにためて、一気に放つ
4. レジリンのパッドと、留め具のしくみ
そこで ノミは、からだの なかの ばねを つかって います。ばねには、レジリンと いう、ゴムのように のびちぢみする ものが ふくまれて います。
まず、きんにくで ばねを ちぢめて、ちからを ためます。そして、とめて いた ところを はずすと、ちからが いっきに でて、ぐんと ジャンプ できます。
ゴムを ひっぱって、手で おさえて おいて、ぱっと はなす ときと にて います。
よく とぶ ノミほど、おおきな ばねを もって いる ことも わかって います。
その答えとして考えられたのが、バネにエネルギーをためておき、一気に放つしくみです。
ノミの胸には、レジリンという弾力のあるタンパク質を含むパッドがあります。まず筋肉が縮んで、このパッドにエネルギーをため、別の筋肉が留め具のような部分をはずすと、ためたエネルギーが一気に解放されて後ろ脚が動く、というものです[2]。
さらに、よく跳ぶ種類ほど、大きなレジリンのパッドを持っていることもわかりました[2]。
この考え方は、その後もノミの跳躍を説明する土台になっています。2011年の研究も、「ノミがバネにエネルギーをためて放出して跳ぶことは、長く確立した考え」として出発しています[3]。
昆虫の脚の節は、付け根から順に、基節・転節・腿節・脛節・跗節と呼ばれる[8]。
1967年の論文が提案したしくみは次のとおりだ。後ろ脚の腿節を押し下げる筋肉は、背中側の板(背板)に付いている。この筋肉が縮むと、背板と胸の側板のあいだにあるレジリンのパッドにエネルギーがたまる。休んでいるとき、押し下げ筋の腱は関節に対して「行きすぎた位置」(オーバーセンター)にあり、脚が動かないよう留まっている。もう一つの筋肉がこの腱を引いてその位置からはずすと、ためたエネルギーで腿節が一気に押し下げられる[2]。
レジリンは、昆虫の体にある弾性タンパク質だ[3]。エネルギーの見積もりは、押し下げ筋が片側で約1.96エルグ、レジリンのパッドが片側で約4エルグとされ、種ごとに比べると、よく跳ぶ種ほどレジリンのパッドが大きかった[2]。
筋肉が直接エネルギーを出すのではなく、バネにいったん蓄えて、留め具で解き放つ。この二段構えなら、筋肉が縮むのに時間がかかっても、放出だけを一瞬で行える、というのが論文の考え方だ。
2011年の研究も、「ノミは、バネにエネルギーをためて放出して跳ぶ」という考えを、長く確立してきた前提として出発している[3]。
5. あしの どこで じめんを ける?
5. 脚のどこで地面を蹴るのか
5. 高速度カメラの決着 ── 2011年の研究
では、あしの どこで じめんを おして いるのでしょうか。ふたつの かんがえが ありました。ひとつは、あしの つけねに ちかい ところ。もうひとつは、あしの さきの ほうです。
2011ねんに、とても はやい カメラで ノミの ジャンプを とって しらべました。1びょうに 5000まいも しゃしんを とる カメラです。
その けっか、あしの さきの ほうで じめんを おして いる ことが わかりました。
バネの力を地面にどう伝えるのかについては、二つの考えがありました。一つは、バネが広がる力が、後ろ脚の付け根に近い「転節」という部分を地面に押しつける、という考え。もう一つは、力が脚を通って、すねにあたる「脛節」の先と足先で地面を押す、という考えです[3]。
2011年、サットンとバローズは、ハリネズミノミ10匹の跳躍を、1秒に5000コマの高速度カメラで撮影し、51回の跳躍を分析しました[3]。
体長1.8ミリ、体重0.7ミリグラムのこのノミは、約1.4ミリ秒の加速で、秒速およそ1.3メートルで飛び出しました[3]。
88%の跳躍では転節が地面に触れていましたが、動き出しから約0.6ミリ秒後には、転節は地面から離れていました。それでも加速は続き、離陸まで下がりませんでした。研究チームはここから、ノミは脛節の先で地面に力を伝えていると結論しました[3]。
バネの力を地面へ伝える経路については、二つの仮説が並んでいた。ロスチャイルドの仮説は、バネが広がる力が後ろ脚の転節(脚の付け根に近い節)を地面に押しつける、というもの。ベネット=クラークの仮説は、バネの力が脚の付け根まわりのトルクとなり、腿節と脛節を通って、脛節の先と跗節(足先の節)が地面を押す、というものだ[3]。
サットンとバローズ(2011年)は、ハリネズミノミ(Archaeopsyllus erinacei)10匹の跳躍を、毎秒5000コマ・露光時間0.067ミリ秒の高速度カメラで撮影し、51回の跳躍を分析した。1匹あたり3〜9回(中央値5回)跳んでいる[3]。
体長は1.8±0.19ミリ、体重は0.7±0.16ミリグラム。加速にかかった時間は約1.4ミリ秒、離陸速度は約1.3 m/sだった(転節が地面に触れていた跳躍での値は、それぞれ1.4±0.24ミリ秒、1.3±0.22 m/s)[3]。
この2つの平均値を割ると、平均の加速度は約930 m/s²、重力加速度(9.8 m/s²)の約95倍になる(この倍率は本記事の概算)。
88%の跳躍では転節が地面に触れていたが、動き出しの約0.6ミリ秒後には、転節は明らかに地面から離れていた。それでも加速は下がらず、離陸まで続いた。この結果は、力が転節ではなく、脛節の先と跗節で地面に伝わるというベネット=クラークの仮説を支持する[3]。
跳び出す角度は平均39度(28〜52度)で、幅は約24度しかない。バッタが約80度の幅を使うのと比べて、ノミの跳び出す角度はほぼ決まっている[3]。
6. なんの ために ジャンプ するの?
6. 何のために跳ぶのか
6. 跳躍の目的 ── 飛べないノミが動物に近づくには
ノミには はねが なくて、そらを とぶ ことは できません。
ノミは、いぬや ねこなど、あたたかい どうぶつの からだに すんで、ちを すって くらします。
どうぶつが ちかくに くると、からだの あたたかさや うごき、ゆれ、いきなどを かんじとって さがす、と いわれて います。ジャンプは、ちかづいた どうぶつに とびつく ための ものだと かんがえられます。
じぶんでも やって みる
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
ノミは 見つけにくいので、かわりに バッタや カエルの ジャンプを しらべて みましょう。
あんぜんな ばしょで できる こと
- スマホの スロー どうがで とって みる。おうちの 人と いっしょに、バッタや カエルの ジャンプを とって みましょう。
- たかさを くらべる。とんだ たかさが、からだの ながさの なんばいか、くらべて みましょう。
きょう 出て きた ことばを 1つだけ ノートに 書いて おきましょう。「レジリンって なに?」だけで じゅうぶんです。
ノミそのものは、家の中では見つけにくいので、身近な虫で比べてみましょう。
今日できること
- スマホのスロー動画で撮ってみる。家の人と一緒に、バッタやカエルの跳ぶようすを撮ってみましょう。
- 体長との比を計算してみる。跳んだ高さを体の長さで割って、ノミの57〜85倍と比べてみましょう。
気になった言葉を1つだけ書いておくと、あとで調べる入口になります。「レジリンって、ほかの虫にもあるの?」だけでも十分です。
ノミの跳躍を、身近な虫の跳躍と比べてみると、この記事の数字が実感しやすくなる。
手を動かして確かめる
- スロー動画で跳躍を撮って、距離・高さ・体長を比べる。バッタやカエルを、定規と一緒に撮影して、跳んだ高さを体長で割ってみる。
- 加速度を概算してみる。動画のコマ数と、離陸までの動きの大きさから、この記事のように速度と加速時間を推定してみる。
一次情報にあたる
跳躍のしくみの研究は、Journal of Experimental Biology に掲載されており、論文の要旨はネットで読める。研究ごとに調べた種(ウサギノミ、ハリネズミノミ、ネコノミ、スナノミ)が違うことにも注意して読むと、数字のちがいの理由が見えてくる。
気になった数字や言葉を1つだけノートに記録しておこう。「約1.4ミリ秒で秒速およそ1.3メートル」という一文でもかまわない。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
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出典について:学術論文の要旨と公的機関の解説を中心に使い、百科事典は補足に使っています。
- Cadiergues MC, Joubert C, Franc M.「A comparison of jump performances of the dog flea, Ctenocephalides canis and the cat flea, Ctenocephalides felis felis」Veterinary Parasitology(2000年)。 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10962162/ (ネコノミとイヌノミの跳躍距離・高さの測定についての論文。要旨を確認)
- Bennet-Clark HC, Lucey ECA.「The Jump of the Flea: A Study of the Energetics and a Model of the Mechanism」Journal of Experimental Biology(1967年)。 https://doi.org/10.1242/jeb.47.1.59 (ウサギノミの跳躍に必要なエネルギーと、レジリンのパッドを使うしくみについての論文。要旨を確認)
- Sutton GP, Burrows M.「Biomechanics of jumping in the flea」Journal of Experimental Biology(2011年)。 https://doi.org/10.1242/jeb.052399 (ハリネズミノミの跳躍を高速度カメラで分析し、脛節の先で地面に力を伝えることを示した論文)
- Hyuga A, et al.「Myth or truth: investigation of the jumping ability of Tunga penetrans (Siphonaptera: Tungidae)」Journal of Medical Entomology(2024年)。 https://doi.org/10.1093/jme/tjad143 (スナノミの跳躍の測定と、ノミ全体の跳躍倍率の文献整理についての論文。要旨を確認)
- CDC(アメリカ疾病予防管理センター)のノミに関する解説ページ。 https://www.cdc.gov/fleas/about/index.html (ノミが宿主を探す手がかりと、ノミが関わる病気についての公的機関の解説)
- Wikipedia「ノミ」。 https://ja.wikipedia.org/wiki/ノミ (翅が退化して飛べないこと、成虫が恒温動物の体表で吸血して暮らすことについての出典)
- Wikipedia「ネコノミ」。 https://ja.wikipedia.org/wiki/ネコノミ (ネコノミの成虫の体長についての出典)
- Wikipedia「昆虫」。 https://ja.wikipedia.org/wiki/昆虫 (昆虫の脚の節の名前についての出典)
なおした ところ
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