GPSは、まいにち じかんの ずれを なおしている

GPSと相対性理論 ── 毎日38マイクロ秒を直している話

GPSと相対性理論 ── 毎日38マイクロ秒を直している話

分野:宇宙・天文

スマホの ちずアプリが、いまいる ばしょを ぴたりと 当てて くれるのは、うちゅうを とぶ GPSえいせいの とけいの おかげです。でも その とけいは、ほうっておくと、地上の とけいと すこしずつ ずれて いって しまいます。

この きじでは、なぜ ずれるのか、そして どうやって その ずれを なおして いるのかを 見て いきます。

スマホの地図アプリが、いまいる場所をぴたりと当ててくれるのは、宇宙を飛ぶGPS衛星の時計のおかげです。でもその時計は、ほうっておくと、地上の時計とすこしずつずれていってしまいます。

この記事では、なぜずれるのか、そしてどうやってそのずれを直しているのかを見ていきます。

GPSは、衛星から届く電波が「何時何分何秒に送られたか」を読み取り、地上に届くまでの時間差から距離を計算して位置を求めている。だからこそ、衛星の時計が地上の時計と完全にそろっていることが欠かせない。

ところが、アインシュタインの相対性理論によれば、衛星の時計は地上の時計と同じようには進まない。動く速さのために少し遅れ、重力が弱いために少し進む。差し引くと1日あたり約38マイクロ秒のずれになる。理論を信じきれなかった技術者たちが実際に確かめた1977年の逸話から、いまの補正方法までをたどる。

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1. GPSは、じかんを つかって いちを しらべる

1. GPSは、時間を使って位置を調べる

1. GPSは時間で位置を測る

うちゅうには、GPSの ための 人工えいせいが たくさん とんで います。それぞれの えいせいは、「いま、ここに います」と いう でんぱを、正かくな とけいで はかった 時こくと いっしょに おくって います[1]

スマホは、その でんぱが とどくまでに かかった 時間から、 えいせいまでの きょりを けいさんします。いくつかの えいせいからの きょりを あわせる ことで、いまいる ばしょが わかる しくみです。

この しくみが うまく いくには、えいせいの とけいと、地上の とけいが、ぴたりと そろって いなければ なりません。ほんの すこしの ずれでも、きょりの けいさんが くるって しまうからです。

宇宙には、GPSのための人工衛星がたくさん飛んでいます。それぞれの衛星は、「いま、ここにいます」という電波を、正確な時計で測った時刻といっしょに送っています[1]

スマホは、その電波が届くまでにかかった時間から、衛星までのきょりを計算します。いくつかの衛星からのきょりを合わせることで、いまいる場所がわかるしくみです。

このしくみがうまくいくには、衛星の時計と、地上の時計が、ぴたりとそろっていなければなりません。ほんのすこしのずれでも、きょりの計算がくるってしまうからです。

GPS(全地球測位システム)は、高度約20,200kmの中軌道を、1日に2周するペース(約12時間で1周)で回る人工衛星のネットワークだ[1]。それぞれの衛星は、原子時計で刻んだ正確な時刻とともに、自分の位置情報を電波で送信している。

受信機(スマホやカーナビ)は、複数の衛星から届いた電波の「送信時刻」と「受信時刻」の差から、光の速さをもとに衛星までの距離を求め、その距離と衛星の位置情報を組み合わせて自分の位置を計算する。この方式が成り立つための重要な条件の1つが、衛星の時計とGPS時刻のずれをきちんと扱うことだ。わずか100万分の1秒(マイクロ秒)の時計のずれが、電波が進む距離にして約300mもの誤差につながりうる。

2. はやく うごくと、じかんが おそくなる

2. 速く動くと、時間がおそくなる

2. 特殊相対性理論、速さが生む時間のずれ

GPSえいせいは、時そく 1まん4千kmくらいの、とても はやい スピードで、地きゅうの まわりを とんで います [3]

アインシュタインの かんがえかたに よると、はやく うごく ものほど、じかんの すすみかたが ゆっくりに なります [2]。だから GPSえいせいの とけいは、地上に くらべて、1日に やく7マイクロびょう (1マイクロびょうは 100まん分の1びょう)だけ、おそく すすんで しまいます[3]

GPS衛星は、時速1万4千kmくらいの、とても速いスピードで、地球のまわりを飛んでいます[3]

アインシュタインの考え方によると、速く動くものほど、時間の進み方がゆっくりになります[2]。だからGPS衛星の時計は、地上にくらべて、1日に約7マイクロ秒(1マイクロ秒は100万分の1秒)だけ、おそく進んでしまいます[3]

GPS衛星は、秒速約3.9km(時速にして約1万4千km)で地球を周回している[2]。アインシュタインの特殊相対性理論によれば、観測者に対して速く動く時計ほど、進み方がゆっくりになる(時間の遅れ)[2]

この効果により、GPS衛星の時計は地上の時計にくらべて、1日あたり約7.2マイクロ秒だけ遅れて進む[2]。速さによって生じるこのずれだけを見れば、衛星の時計は地上より「少し遅い」ということになる。

3. 重力が よわいと、じかんが はやくなる

3. 重力が弱いと、時間がはやくなる

3. 一般相対性理論、重力が生む時間のずれ

では、たかさは じかんに どんな えいきょうを あたえるので しょうか。GPSえいせいは、地上から やく2万200kmも はなれた たかい ところを とんで います[1]

たかい ところほど、地きゅうの じゅうりょくが すこし よわく なります。そして じゅうりょくが よわい ばしょほど、じかんの すすみかたは はやく なるのです[2]。 この ため GPSえいせいの とけいは、地上に くらべて、1日に やく45マイクロびょうも、はやく すすんで しまいます [3]

では、高さは時間にどんな影響をあたえるのでしょうか。GPS衛星は、地上から約2万200kmもはなれた高いところを飛んでいます[1]

高いところほど、地球の重力がすこし弱くなります。そして重力が弱い場所ほど、時間の進み方ははやくなるのです[2]。このためGPS衛星の時計は、地上にくらべて、1日に約45マイクロ秒も、はやく進んでしまいます[3]

では、高度は時間にどう影響するのだろうか。GPS衛星が周回する高度約20,200kmでは、地表にくらべて地球の重力がわずかに弱い[1]

一般相対性理論によれば、重力が弱い(時空のゆがみが小さい)場所ほど、時計は速く進む。これは、重力が強い場所ほど時計が遅れる「重力による時間の遅れ」の裏返しにあたる[2]。この効果により、GPS衛星の時計は地上の時計にくらべて、1日あたり約45.9マイクロ秒だけ速く進む[2]。速さによる7.2マイクロ秒の遅れよりも、重力によるこの効果の方がはるかに大きい。

4. さしひくと、まいにち 38マイクロびょう

4. 差し引くと、毎日38マイクロ秒

4. 差し引き38.6マイクロ秒、放っておくとどうなるか

はやく うごく ことで「7マイクロびょう おそく」、じゅうりょくが よわい ことで「45マイクロびょう はやく」。この 2つを さしひくと、GPSえいせいの とけいは、地上より 1日に やく 38マイクロびょう、はやく すすんで しまいます [3]

わずかな ずれに 見えますが、この ずれを なおさないと、いちの ごさは 1日で 10km いじょうにも なって しまう、と せつめい されて います[3]。ちずアプリで じぶんの いる ばしょが、となりの まちに なって しまうような ものです。

速く動くことで「7マイクロ秒おそく」、重力が弱いことで「45マイクロ秒はやく」。この2つを差し引くと、GPS衛星の時計は、地上より1日に約38マイクロ秒、はやく進んでしまいます[3]

わずかなずれに見えますが、このずれを直さないと、位置の誤差は1日で10km以上にもなってしまう、と説明されています[3]。地図アプリで自分のいる場所が、となりの町になってしまうようなものです。

特殊相対性理論による遅れ(約7.2マイクロ秒/日)と、一般相対性理論による進み(約45.9マイクロ秒/日)を差し引くと、GPS衛星の時計は地上の時計より1日あたり約38.6マイクロ秒はやく進むことになる[2]

この程度のずれは無視できそうに思えるかもしれない。だが電波は光の速さで進むため、38.6マイクロ秒のずれは距離にして約11.6kmに相当する。補正しなければ、衛星との距離を見積もる時刻情報にこの規模のずれが生じ、GPSの時刻同期や測位の精度を保てなくなる。入門的な説明では、この状態が続くとGPSの位置情報は数分ほどで使い物にならなくなり、誤差は1日でおよそ10km以上にまで積み重なるとも説明される[3]。高精度測位ではセンチメートル級の精度も目指されるGPSにとって、これは致命的な大きさだ。

5. 1977年、たしかめてから きりかえた

5. 1977年、確かめてから切りかえた

5. 1977年、NTS-2衛星の「相対性スイッチ」

GPSの もとに なった けいかくで、1977年に うちあげられた NTS-2と いう えいせいには、うちゅうで はじめての、せいみつな「セシウムげんしどけい」が つまれて いました [4]

でも 当時は、アインシュタインの かんがえかたが、どれくらい 正しいのか、うちゅうでも 本当に なりたつのか、ぎじゅつ者 たちの あいだでも かくしんが 持てて いませんでした [4]

そこで ぎじゅつ者たちは、とけいを ほせいする「スイッチ」を えいせいに つけて おきました。まず 20日かん、ほせいなしで とけいを うごかして、じっさいの ずれを はかったのです。 けっか、よそうした ずれと ほとんど おなじ おおきさの ずれが 見つかりました[4]。それを たしかめてから、はじめて スイッチを 入れて、ほせいを はじめました。

GPSのもとになった計画で、1977年に打ち上げられたNTS-2という衛星には、宇宙ではじめての、精密な「セシウム原子時計」が積まれていました[4]

でも当時は、アインシュタインの考え方が、どれくらい正しいのか、宇宙でも本当に成り立つのか、技術者たちのあいだでも確信が持てていませんでした[4]

そこで生まれた「相対性スイッチ」

そこで技術者たちは、時計を補正する「スイッチ」を衛星につけておきました。まず20日間、補正なしで時計を動かして、実際のずれを測ったのです。結果、予想したずれとほとんど同じ大きさのずれが見つかりました[4]。それを確かめてから、はじめてスイッチを入れて、補正を始めました。

GPSの前身にあたる計画で、1977年6月23日に打ち上げられたNTS-2衛星には、セシウム原子の振動を基準にした、当時としてはきわめて精密な「セシウム原子時計」が、史上はじめて軌道上に搭載されていた[4]

当時、軌道上の時計に相対論的な補正が必要になることは認識されていたものの、その大きさと符号(進むのか遅れるのか)については技術者のあいだでも確信が持てておらず、相対性理論の効果そのものを疑う声さえあった[4]

そこで生まれた「相対性スイッチ」

そこで技術者たちは、地上からの指令で時計の補正をオン・オフ切り替えられる装置(周波数シンセサイザ)を、あらかじめ衛星に組み込んでおいた。打ち上げ後、補正をオフにしたまま約20日間クロックを運用し、実際のずれを測定したところ、地上に対して1兆分の442.5(442.5×10⁻¹²)だけ周波数(時計が時を刻むペース)が速いという結果が得られた。これは一般相対性理論が予測していた1兆分の446.5(446.5×10⁻¹²)と、誤差1%程度の範囲でよく一致していた[4]。この結果を確認したうえで、技術者たちは約20日後に補正スイッチを入れた。

6. いまは、うちあげる前に ちょうせいして いる

6. いまは、打ち上げる前に調整している

6. 打ち上げ前からの周波数調整というしくみ

NTS-2で ほせいが 正しいと わかった あと、いまの GPSえいせいでは、もっと かんたんな ほうほうで ずれを なおして います。

じつは、うちあげる 前から、えいせいの とけいの きざむ はやさを、ほんの すこしだけ おそく なるように つくって おくのです[5]。そうすると、 うちゅうに 出た とたん、じゅうりょくの えいきょうで とけいが はやく なり、地上から 見たときに、ちょうど 正しい はやさに もどる ように なって いるのです。

NTS-2で補正が正しいとわかったあと、いまのGPS衛星では、もっと簡単な方法でずれを直しています。

打ち上げ前の1回の調整だけで済ませる

じつは、打ち上げる前から、衛星の時計の刻む速さを、ほんのすこしだけおそくなるようにつくっておくのです[5]。そうすると、宇宙に出たとたん、重力の影響で時計がはやくなり、地上から見たときに、ちょうど正しい速さにもどるようになっているのです。

NTS-2による検証以降、GPS衛星は打ち上げの段階からあらかじめ相対論的効果を織り込んだ設計になっている。衛星の周波数は、地上の基準である10.23MHzよりわずかに低い、10.22999999543MHzに工場出荷時から調整されている[5]

軌道上で相対論的効果と相殺する

軌道上に出ると、速さによる遅れ(約7.2マイクロ秒/日)と重力による進み(約45.9マイクロ秒/日)を差し引いた、正味約38.6マイクロ秒/日ぶんだけ周波数が速く「見える」ようになる[2]。あらかじめ遅く刻ませておいた時計が、軌道上での相対論的な効果を受けることで、地上から見るとちょうど10.23MHzに戻る。理論的に予測されたずれを、打ち上げ前の1回の周波数調整だけで相殺している。

じぶんでも やって みる

自分でも調べてみたくなったら

自分でも調べてみたくなったら

じぶんでも、GPSと 時間の かんけいを たしかめて みましょう。

あんぜんな ばしょで できる こと

  • スマホの ちずアプリで、いまの いちの せいかくさを 見て みる。 アプリの中に「せいかくさ〇〇m」と でて いる ことが あります。それが なにを あらわして いるか、かぞくと 話して みましょう。
  • 1マイクロびょうが どれくらい みじかいか、けいさん して みる。 1びょうを 100まんに わけた 1つぶんです。ひかりは その あいだに、どれくらい すすむでしょうか。
メモの すすめ

きょう 出て きた ことばを 1つだけ ノートに 書いて おきましょう。「GPSえいせいの とけいは、まいにち 38マイクロびょう ずれる」だけで じゅうぶんです。

自分でも、GPSと時間の関係を確かめてみましょう。

今日できること

  • スマホの地図アプリで、いまの位置の正確さを見てみる。アプリの中に「精度〇〇m」と出ていることがあります。それが何を表しているか、家族と話してみましょう。
  • 1マイクロ秒がどれくらい短いか、計算してみる。1秒を100万に分けた1つぶんです。光はそのあいだに、どれくらい進むでしょうか。
メモのすすめ

気になった言葉を1つだけ書いておくと、あとで調べる入口になります。「NTS-2の相対性スイッチって、本当にスイッチだったの?」だけでも十分です。

GPSの誤差補正のしくみを、実際の数値で確かめてみると、この記事で扱った内容がより具体的につかめます。

手を動かして確かめる

  • 光の速さ(秒速約30万km)を使って、38.6マイクロ秒が何kmに相当するか計算してみる。本文中の「約11.6km」という数字を、自分で確かめてみましょう。
  • ほかの人工衛星の時計補正も調べてみる。GPS以外にも、みちびき(準天頂衛星システム)やガリレオ(欧州の衛星測位システム)など、同じように時計の補正が必要な衛星測位システムがあります。

一次情報にあたる

Neil Ashbyの総説論文「Relativity in the Global Positioning System」には、GPSに関わる相対論的効果がより詳しくまとめられています。

メモのすすめ

気になった数字や言葉を1つだけノートに記録しておきましょう。「GPS衛星の時計は1日に38.6マイクロ秒ずれる」という一文でもかまいません。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

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出典について:公的機関のページ、大学の解説ページ、査読を経た総説論文、専門誌の記事を使っています。

  1. Space Segment - GPS.gov(アメリカ政府公式サイト)。 https://www.gps.gov/space-segment (GPS衛星の軌道高度・約20,200km、1日に2周する軌道周期についての解説)
  2. Error analysis for the Global Positioning System - Wikipedia(英語版)。 https://en.wikipedia.org/wiki/Error_analysis_for_the_Global_Positioning_System (特殊相対性理論による1日あたり約7,214ナノ秒の遅れ、一般相対性理論による約45,850ナノ秒の進み、差し引き約38,640ナノ秒という数値についての解説)
  3. Richard Pogge, "Real-World Relativity: The GPS Navigation System"(オハイオ州立大学)。 https://www.astronomy.ohio-state.edu/pogge.1/Ast162/Unit5/gps.html (約7マイクロ秒・約45マイクロ秒・差し引き約38マイクロ秒という概算値、補正しない場合の1日あたり約10kmの位置誤差、2分で測位が使えなくなるという解説)
  4. Neil Ashby, "Relativity in the Global Positioning System", Living Reviews in Relativity(査読誌、PMC公開版)。 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5253894/ (1977年6月23日のNTS-2衛星打ち上げ、初の軌道上セシウム原子時計、20日間の無補正観測と測定値・予測値の比較についての解説)
  5. "Inside the box: GPS and relativity" - GPS World(専門誌)。 https://www.gpsworld.com/inside-the-box-gps-and-relativity/ (打ち上げ前に衛星の時計を10.22999999543MHzに調整しておくという、現在の補正方法についての解説)

なおした ところ

更新履歴

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