1. GPSは、じかんを つかって いちを しらべる
1. GPSは、時間を使って位置を調べる
1. GPSは時間で位置を測る
うちゅうには、GPSの ための 人工えいせいが たくさん とんで います。それぞれの えいせいは、「いま、ここに います」と いう でんぱを、正かくな とけいで はかった 時こくと いっしょに おくって います[1]。
スマホは、その でんぱが とどくまでに かかった 時間から、 えいせいまでの きょりを けいさんします。いくつかの えいせいからの きょりを あわせる ことで、いまいる ばしょが わかる しくみです。
この しくみが うまく いくには、えいせいの とけいが、地上の とけいと どれだけ ずれて いるかを、ぴたりと しって いなければ なりません。ほんの すこしの ずれでも、きょりの けいさんが くるって しまうからです。その ずれの 大きさは、えいせいが でんぱに のせて おしえて います[2]。
宇宙には、GPSのための人工衛星がたくさん飛んでいます。それぞれの衛星は、「いま、ここにいます」という電波を、正確な時計で測った時刻といっしょに送っています[1]。
スマホは、その電波が届くまでにかかった時間から、衛星までのきょりを計算します。いくつかの衛星からのきょりを合わせることで、いまいる場所がわかるしくみです。
このしくみがうまくいくには、衛星の時計が地上の時計とどれだけずれているかを、正確に知っていなければなりません。ほんのすこしのずれでも、きょりの計算がくるってしまうからです。残ったずれの大きさは、補正の値として衛星が電波にのせて送り、受信機の計算に使われます[2]。
GPS(全地球測位システム)は、高度約20,200kmの中軌道を、1日に2周するペース(約12時間で1周)で回る人工衛星のネットワークだ[1]。それぞれの衛星は、原子時計で刻んだ正確な時刻とともに、自分の位置情報を電波で送信している。
受信機(スマホやカーナビ)は、複数の衛星から届いた電波の「送信時刻」と「受信時刻」の差から、光の速さをもとに衛星までの距離を求め、その距離と衛星の位置情報を組み合わせて自分の位置を計算する。この方式が成り立つための重要な条件の1つが、衛星の時計とGPS時刻のずれをきちんと扱うことだ。わずか100万分の1秒(マイクロ秒)の時計のずれが、電波が進む距離にして約300mもの誤差につながりうる。
2. はやく うごくと、じかんが おそくなる
2. 速く動くと、時間がおそくなる
2. 特殊相対性理論、速さが生む時間のずれ
GPSえいせいは、時そく 1まん4千kmくらいの、とても はやい スピードで、地きゅうの まわりを とんで います [3]。
アインシュタインの かんがえかたに よると、はやく うごく ものほど、じかんの すすみかたが ゆっくりに なります [2]。だから GPSえいせいの とけいは、地上に くらべて、1日に やく7マイクロびょう (1マイクロびょうは、1びょうを 100まんに わけた 1つぶん)だけ、おそく すすんで しまいます[3]。
3. 重力が よわいと、じかんが はやくなる
3. 重力が弱いと、時間がはやくなる
3. 一般相対性理論、重力が生む時間のずれ
では、たかさは じかんに どんな えいきょうを あたえるので しょうか。GPSえいせいは、地上から やく2万200kmも はなれた たかい ところを とんで います[1]。
たかい ところほど、地きゅうの じゅうりょくが すこし よわく なります。そして じゅうりょくが よわい ばしょほど、じかんの すすみかたは はやく なるのです[2]。 この ため GPSえいせいの とけいは、地上に くらべて、1日に やく45マイクロびょうも、はやく すすんで しまいます [3]。
4. さしひくと、まいにち 38マイクロびょう
4. 差し引くと、毎日38マイクロ秒
4. 差し引き38.6マイクロ秒、放っておくとどうなるか
はやく うごく ことで「7マイクロびょう おそく」、じゅうりょくが よわい ことで「45マイクロびょう はやく」。この 2つを さしひくと、GPSえいせいの とけいは、地上より 1日に やく 38マイクロびょう、はやく すすんで しまいます [3]。
わずかな ずれに 見えますが、この ずれを なおさないと、いちの ごさは 1日で 10km いじょうにも なって しまう、と せつめい されて います[3]。ちずアプリで じぶんの いる ばしょが、となりの まちに なって しまうような ものです。
速く動くことで「7マイクロ秒おそく」、重力が弱いことで「45マイクロ秒はやく」。この2つを差し引くと、GPS衛星の時計は、地上より1日に約38マイクロ秒、はやく進んでしまいます[3]。
わずかなずれに見えますが、このずれを直さないと、位置の誤差は1日で10km以上にもなってしまう、と説明されています[3]。地図アプリで自分のいる場所が、となりの町になってしまうようなものです。
特殊相対性理論による遅れ(約7.2マイクロ秒/日)と、一般相対性理論による進み(約45.9マイクロ秒/日)を差し引くと、GPS衛星の時計は地上の時計より1日あたり約38.6マイクロ秒はやく進むことになる[2]。
この程度のずれは無視できそうに思えるかもしれない。だが電波は光の速さで進むため、38.6マイクロ秒のあいだに、電波は約11.6km進む。補正しなければ、衛星との距離を見積もる時刻情報にこの規模のずれが生じ、GPSの時刻同期や測位の精度を保てなくなる。入門的な説明では、この状態が続くとGPSの位置情報は数分ほどで使い物にならなくなり、誤差は1日でおよそ10km以上にまで積み重なるとも説明される[3]。高精度測位ではセンチメートル級の精度も目指されるGPSにとって、これは致命的な大きさだ。
5. 1977年、たしかめてから きりかえた
5. 1977年、確かめてから切りかえた
5. 1977年、NTS-2衛星の「相対性スイッチ」
GPSの もとに なった けいかくで、1977年に うちあげられた NTS-2と いう えいせいには、うちゅうで はじめての、せいみつな「セシウムげんしどけい」が つまれて いました [4]。
でも 当時は、アインシュタインの かんがえかたが、どれくらい 正しいのか、うちゅうでも 本当に なりたつのか、ぎじゅつ者 たちの あいだでも かくしんが 持てて いませんでした [4]。
そこで ぎじゅつ者たちは、とけいを ほせいする「スイッチ」を えいせいに つけて おきました。まず 20日かん、ほせいなしで とけいを うごかして、じっさいの ずれを はかったのです。 けっか、よそうした ずれと ほとんど おなじ おおきさの ずれが 見つかりました[4]。それを たしかめてから、はじめて スイッチを 入れて、ほせいを はじめました。
GPSのもとになった計画で、1977年に打ち上げられたNTS-2という衛星には、宇宙ではじめての、精密な「セシウム原子時計」が積まれていました[4]。
でも当時は、アインシュタインの考え方が、どれくらい正しいのか、宇宙でも本当に成り立つのか、技術者たちのあいだでも確信が持てていませんでした[4]。
そこで生まれた「相対性スイッチ」
そこで技術者たちは、時計を補正する「スイッチ」を衛星につけておきました。まず20日間、補正なしで時計を動かして、実際のずれを測ったのです。結果、予想したずれとほとんど同じ大きさのずれが見つかりました[4]。それを確かめてから、はじめてスイッチを入れて、補正を始めました。
GPSの前身にあたる計画で、1977年6月23日に打ち上げられたNTS-2衛星には、セシウム原子の振動を基準にした、当時としてはきわめて精密な「セシウム原子時計」が、史上はじめて軌道上に搭載されていた[4]。
当時、軌道上の時計に相対論的な補正が必要になることは認識されていたものの、その大きさと符号(進むのか遅れるのか)については技術者のあいだでも確信が持てておらず、相対性理論の効果そのものを疑う声さえあった[4]。
そこで生まれた「相対性スイッチ」
そこで技術者たちは、地上からの指令で時計の補正をオン・オフ切り替えられる装置(周波数シンセサイザ)を、あらかじめ衛星に組み込んでおいた。打ち上げ後、補正をオフにしたまま約20日間クロックを運用し、実際のずれを測定したところ、地上に対して1兆分の442.5(442.5×10⁻¹²)だけ周波数(時計が時を刻むペース)が速いという結果が得られた。これは一般相対性理論が予測していた1兆分の446.5(446.5×10⁻¹²)と、誤差1%程度の範囲でよく一致していた[4]。この結果を確認したうえで、技術者たちは約20日後に補正スイッチを入れた。
6. いまは、うちあげる前に ちょうせいして いる
6. いまは、打ち上げる前に調整している
6. 打ち上げ前からの周波数調整というしくみ
NTS-2で ほせいが 正しいと わかった あと、いまの GPSえいせいでは、もっと かんたんな ほうほうで ずれを なおして います。
じつは、うちあげる 前から、えいせいの とけいの きざむ はやさを、ほんの すこしだけ おそく なるように つくって おくのです[5]。そうすると、 うちゅうに 出た とたん、じゅうりょくの えいきょうで とけいが はやく なり、地上から 見たときに、ちょうど 正しい はやさに もどる ように なって いるのです。
NTS-2で補正が正しいとわかったあと、いまのGPS衛星では、もっと簡単な方法でずれを直しています。
打ち上げ前の1回の調整だけで済ませる
じつは、打ち上げる前から、衛星の時計の刻む速さを、ほんのすこしだけおそくなるようにつくっておくのです[5]。そうすると、宇宙に出たとたん、重力の影響で時計がはやくなり、地上から見たときに、ちょうど正しい速さにもどるようになっているのです。
NTS-2による検証以降、GPS衛星は打ち上げの段階からあらかじめ相対論的効果を織り込んだ設計になっている。衛星の周波数は、地上の基準である10.23MHzよりわずかに低い、10.22999999543MHzに工場出荷時から調整されている[5]。
軌道上で相対論的効果と相殺する
軌道上に出ると、速さによる遅れ(約7.2マイクロ秒/日)と重力による進み(約45.9マイクロ秒/日)を差し引くと、時計は地上より1日あたり正味約38.6マイクロ秒ぶん速く進む。そのため周波数も、そのぶん高く「見える」ようになる[2]。あらかじめ遅く刻ませておいた時計が、軌道上での相対論的な効果を受けることで、地上から見るとちょうど10.23MHzに戻る。理論的に予測されたずれを、打ち上げ前の1回の周波数調整だけで相殺している。
じぶんでも やって みる
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
じぶんでも、GPSと 時間の かんけいを たしかめて みましょう。
あんぜんな ばしょで できる こと
- スマホの ちずアプリで、いまの いちの せいかくさを 見て みる。 アプリの中に「せいかくさ〇〇m」と でて いる ことが あります。それが なにを あらわして いるか、かぞくと 話して みましょう。
- 1マイクロびょうが どれくらい みじかいか、けいさん して みる。 1びょうを 100まんに わけた 1つぶんです。ひかりは その あいだに、どれくらい すすむでしょうか。
きょう 出て きた ことばを 1つだけ ノートに 書いて おきましょう。「もし ほせいを しなかったら、GPSえいせいの とけいは、まいにち 38マイクロびょう ずれて しまう」だけで じゅうぶんです。
自分でも、GPSと時間の関係を確かめてみましょう。
今日できること
- スマホの地図アプリで、いまの位置の正確さを見てみる。アプリの中に「精度〇〇m」と出ていることがあります。それが何を表しているか、家族と話してみましょう。
- 1マイクロ秒がどれくらい短いか、計算してみる。1秒を100万に分けた1つぶんです。光はそのあいだに、どれくらい進むでしょうか。
気になった言葉を1つだけ書いておくと、あとで調べる入口になります。「NTS-2の相対性スイッチって、本当にスイッチだったの?」だけでも十分です。
GPSの誤差補正のしくみを、実際の数値で確かめてみると、この記事で扱った内容がより具体的につかめます。
手を動かして確かめる
- 光の速さ(秒速約30万km)を使って、38.6マイクロ秒が何kmに相当するか計算してみる。本文中の「約11.6km」という数字を、自分で確かめてみましょう。
- ほかの人工衛星の時計補正も調べてみる。GPS以外にも、みちびき(準天頂衛星システム)やガリレオ(欧州の衛星測位システム)など、同じように時計の補正が必要な衛星測位システムがあります。
一次情報にあたる
Neil Ashbyの総説論文「Relativity in the Global Positioning System」には、GPSに関わる相対論的効果がより詳しくまとめられています。
気になった数字や言葉を1つだけノートに記録しておきましょう。「相対論の補正をしなければ、GPS衛星の時計は1日に38.6マイクロ秒ずれてしまう」という一文でもかまいません。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
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出典について:公的機関のページ、大学の解説ページ、査読を経た総説論文、専門誌の記事を使っています。
- Space Segment - GPS.gov(アメリカ政府公式サイト)。 https://www.gps.gov/space-segment (GPS衛星の軌道高度・約20,200km、1日に2周する軌道周期についての解説)
- Error analysis for the Global Positioning System - Wikipedia(英語版)。 https://en.wikipedia.org/wiki/Error_analysis_for_the_Global_Positioning_System (特殊相対性理論による1日あたり約7,214ナノ秒の遅れ、一般相対性理論による約45,850ナノ秒の進み、差し引き約38,640ナノ秒という数値についての解説)
- Richard Pogge, "Real-World Relativity: The GPS Navigation System"(オハイオ州立大学)。 https://www.astronomy.ohio-state.edu/pogge.1/Ast162/Unit5/gps.html (約7マイクロ秒・約45マイクロ秒・差し引き約38マイクロ秒という概算値、補正しない場合の1日あたり約10kmの位置誤差、2分で測位が使えなくなるという解説)
- Neil Ashby, "Relativity in the Global Positioning System", Living Reviews in Relativity(査読誌、PMC公開版)。 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5253894/ (1977年6月23日のNTS-2衛星打ち上げ、初の軌道上セシウム原子時計、20日間の無補正観測と測定値・予測値の比較についての解説)
- "Inside the box: GPS and relativity" - GPS World(専門誌)。 https://www.gpsworld.com/inside-the-box-gps-and-relativity/ (打ち上げ前に衛星の時計を10.22999999543MHzに調整しておくという、現在の補正方法についての解説)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
- タイトルと低学年・中学生むけの「メモのすすめ」が、「GPSは毎日ずれを直している」という、実際のしくみ(打ち上げ前の1回の周波数調整で相対論的な効果を相殺している)とは異なる印象を与える書き方になっていたため修正。タイトルを「1日約38マイクロ秒の差をどう補正しているのか」に変更し、メモの文言にも「もし補正をしなければ」という条件を明記した。本文中の説明(5章・6章)はもともと正しい内容だったため変更していない。
- 中学生むけの導入と1章(低学年・高学年むけ)の「衛星の時計が地上の時計と完全に(ぴたりと)そろっていることが欠かせない」を、「どれだけずれているかを正確に知っていることが欠かせない」に直し、残ったずれは補正値として航法メッセージで送られることを足した。理由: 実際の衛星時計にはずれが残り、それを補正値で扱うため。
- 低学年むけで「マイクロびょう」の大きさを言いかえ、高学年むけで衛星の速さを東京〜大阪にたとえ、中学生むけで「38.6マイクロ秒は電波が約11.6km進む時間」と言い切りすぎを直し、時間のずれと周波数のずれの書き分けを整えました(先生の目での読み直しによる)。
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