1. ひみつの ノートに かかれた けいさん
1. ひみつのノートに書かれた計算
1. まだ理論が完成する前の計算
アインシュタインが「じゅうりょくで 光が まがる」と いう りろんを かんせいさせたのは 1915年でした。でも じつは、その 3年も 前の 1912年、まだ りろんが とちゅうだった ころから、 このことを ひとりで けいさんして いたのです [1]。
もし ある ほしの すぐ よこを、もっと とおくの ほしの 光が とおったら、その 光は じゅうりょくで まがって、まるで むしめがねを とおした ように、大きく 見えるかも しれない。 アインシュタインは そう かんがえました [1]。
でも アインシュタインは、この げんしょうを じっさいに 見る ことは できないだろうと おもい、この けいさんを、しばらく だれにも 見せませんでした[1]。
アインシュタインが「重力で光が曲がる」という理論を完成させたのは1915年でした。でもじつは、その3年も前の1912年、まだ理論がとちゅうだったころから、このことをひとりで計算していたのです[1]。
もしある星のすぐよこを、もっと遠くの星の光が通ったら、その光は重力で曲がって、まるで虫めがねを通したように、大きく見えるかもしれない。アインシュタインはそう考えました[1]。
しまいこまれた計算
でもアインシュタインは、この現象を実際に見ることはできないだろうと思い、この計算を、しばらくだれにも見せませんでした[1]。
一般相対性理論の完成は1915年だが、その原型となる計算の一部は、それより3年も早い1912年、ベルリンを訪れた際のアインシュタインのノートにすでに記されていた[1]。
手前の重い天体(レンズ天体)のすぐそばを、背後にある別の天体の光が通過するとき、その光は重力によって進路を曲げられる。うまく配置がそろえば、背後の天体の像が拡大されて見えるはずだ、とアインシュタインは気づいていた[1]。
しまいこまれた計算
しかし、2つの星が空でぴったり重なって見えるほど正確に並ぶ確率は極めて低く、アインシュタインはこの効果が実際に観測されることはまずないだろうと結論づけた。彼はこの計算を公表せず、長くしまいこんでいた[1]。
2. お皿あらいの しごとを して いた 人が、アインシュタインに たのんだ
2. お皿あらいの仕事をしていた人が、アインシュタインを説得した
2. 無名の技術者が、アインシュタインを説得した
1936年、ルディ・マンドルと いう 人が、アインシュタインを たずねて きました。マンドルは、オーストリアで でんきの べんきょうを した 人でしたが、当時は アメリカで、お皿あらい などの しごとを して くらして いました [2]。
マンドルは、じぶんも おなじ アイデアを かんがえついて いて、 アインシュタインに「これを 発ぴょうして ほしい」と たのみました[2]。
アインシュタインは さいしょ、ことわりました。でも マンドルは あきらめず、なんども てがみを 送りつづけました。さいごに アインシュタインは、けいさんを やりなおして、ろんぶんを 発ぴょうしました。1936年12月の ことです [2]。
1936年、ルディ・マンドルという人が、アインシュタインをたずねてきました。マンドルは、オーストリアで電気の勉強をした人でしたが、当時はアメリカで、お皿あらいなどの仕事をしてくらしていました[2]。
マンドルは、自分もおなじアイデアを考えついていて、アインシュタインに「これを発表してほしい」とたのみました[2]。
あきらめなかった人
アインシュタインは最初、ことわりました。でもマンドルはあきらめず、なんども手紙を送りつづけました。さいごにアインシュタインは、計算をやりなおして、論文を発表しました。1936年12月のことです[2]。
ウィーンで電気工学を学んだルディ・マンドルは、失業と事業の失敗が続いたのち、アメリカに渡り、ウェイターや皿洗いといった仕事で生計を立てていた。そんな中で彼は、独学で重力レンズの着想にたどり着き、1936年4月17日、プリンストンのアインシュタインのもとを訪ねた[2]。
他の著名な科学者たちがマンドルの話を相手にしなかった中、アインシュタインは彼と母国語のドイツ語で会話し、敬意をもって応じたという[2]。
あきらめなかった人
アインシュタインは当初、この現象は観測できないだろうと考え、論文の執筆に消極的だった。しかしマンドルの粘り強い働きかけを受け、依頼された計算をやり直し、1936年12月に学術誌『サイエンス』へ論文「重力場における光の偏向による恒星のレンズ的作用」を発表した。論文の冒頭で彼はこう記している。「先日、R・W・マンドル氏が私を訪ね、彼の依頼で行った計算の結果を発表してほしいと頼んできた」[2]。
3. ほしより ぎんがなら、じゅうりょくレンズが 見つかるかも
3. 星より銀河なら、重力レンズが見つかるかもしれない
3. ツビッキーの飛躍
アインシュタインの ろんぶんには「この げんしょうを じっさいに 見る ことは、まず ないだろう」と 書かれて いました [1]。
ところが、これとは ちがう かんがえを 持って いた 学者が いました。スイスの ツビッキーです。1937年、ツビッキーは 「ほしどうしでは むりでも、ぎんがどうしなら、大きさも きょりも ぜんぜん ちがうから、見つけられるかも しれない」 と ろんぶんに 書いたのです[1]。
アインシュタインの論文には「この現象を実際に見ることは、まずないだろう」と書かれていました[1]。
銀河なら話がちがう
ところが、これとはちがう考えを持っていた学者がいました。スイスのツビッキーです。1937年、ツビッキーは「星どうしでは無理でも、銀河どうしなら、大きさも距離もぜんぜんちがうから、見つけられるかもしれない」と論文に書いたのです[1]。
アインシュタインは1936年の論文の中で、「この現象が観測される可能性は大きくない」と述べていた[1]。
銀河なら話がちがう
ところが、スイス出身の天文学者フリッツ・ツビッキーの見方は異なった。1937年、彼は「星どうしの場合とは異なり、銀河(当時の呼び方では「銀河系外星雲」)どうしであれば、この問題はまったく違う様相を呈する」と記した[1]。
銀河は星よりもはるかに大きく重いため、精密な位置の一致がなくても観測しやすい像のずれや分裂を生み出せる。ツビッキーは、銀河や銀河団には目に見える星の量だけでは説明できないほどの質量(のちに暗黒物質と呼ばれることになるもの)があることをすでに見抜いており、この着想が銀河規模での重力レンズ予言につながった[1]。
4. 40年後に 見つかった、さいしょの れい
4. 40年後に見つかった、最初の例
4. 空白の40年をこえて、1979年の発見
ツビッキーの よそうから、なんと 40年あまりも、だれも じっさいに 重力レンズを 見つける ことは できませんでした。
1979年、やっと さいしょの れいが 見つかりました。とおくの クエーサー(とても あかるい てんたい)を みて いたら、 おなじ ものの 光が、なぜか 2つに わかれて 見えたのです [1]。
その あと、1985年には、よつばの クローバーの ような かたち(アインシュタイン・クロス)の レンズが 見つかりました。くわしい かんそくで、4つに わかれて 見える ことが たしかめられました[1]。1988年には、わの ような かたち(アインシュタイン・リング)の こうほも ほうこくされました[6]。
ツビッキーの予想から、なんと40年あまりも、だれも実際に重力レンズを見つけることはできませんでした。
クエーサーの二重像
1979年、やっと最初の例が見つかりました。遠くのクエーサー(とても明るい天体)を見ていたら、おなじものの光が、なぜか2つに分かれて見えたのです[1]。
そのあと、1985年には、よつばのクローバーのようなかたち(アインシュタイン・クロス)のレンズが見つかりました。くわしい観測で、4つに分かれて見えることが確かめられました[1]。1988年には、輪のようなかたち(アインシュタイン・リング)の候補も報告されました[6]。
ツビッキーの予言から、実際の重力レンズが発見されるまでには、約40年の空白があった。
クエーサーの二重像
1979年、デニス・ウォルシュ、ロバート・カースウェル、レイ・ウェイマンの3人が、クエーサー(非常に明るく輝く、遠方銀河の中心にある天体)Q0957+561の観測中に、わずか約6秒角しか離れていない、ほぼ同一のスペクトルを持つ2つの像を発見した。これが史上初めて確認された重力レンズである[1]。
その後、1985年には、遠方のクエーサーQSO 2237+0305と手前の銀河の組み合わせが、重力レンズ系として報告された[5]。発見時の観測では像が分かれて見えていなかったが、のちの高解像度の観測で、クエーサーの像が四つ葉のクローバー状の4つに分かれていることが確認され、「アインシュタイン・クロス」と呼ばれるようになった[1]。1988年には、電波源MG1131+0456が、背景天体の像が楕円状の輪に引きのばされた「アインシュタイン・リング」の候補として報告された[6]。
5. なぜ、わっかや じゅうじに 見えるの?
5. なぜ、輪や十字に見えるの?
5. 天然の虫めがねのしくみ
手に もった むしめがねを うごかすと、うしろに ある ものの 見えかたが、大きく なったり、ゆがんだり します。 じゅうりょくレンズでも、おなじ ような ことが おこります。
手前の おもい ぎんがと、うしろの てんたいと、地きゅうが ちょうど 1本の せんの上に ならぶと、光が ぐるりと まがって、わっかの かたちに 見える ことが あります。 すこし ずれて ならぶと、じゅうじや、いくつかの てんに わかれて 見える ことも あります[1]。
手にもった虫めがねを動かすと、うしろにあるものの見えかたが、大きくなったり、ゆがんだりします。重力レンズでも、おなじようなことがおこります。
ならびかたで見えかたが変わる
手前の重い銀河と、うしろの天体と、地球がちょうど1本の線の上にならぶと、光がぐるりと曲がって、輪のかたちに見えることがあります。すこしずれてならぶと、十字や、いくつかの点に分かれて見えることもあります[1]。
手持ちの虫めがねを動かすと、背後の物体の見えかたが拡大されたり、ゆがんだりする。重力レンズでも、これと似た現象が起こる。
ならびかたで見えかたが変わる
手前のレンズ天体(銀河や銀河団)と、背後の光源天体、そして地球がほぼ一直線上に並ぶと、光は手前の天体を中心に対称に曲げられ、背景の像がリング状に引きのばされる(アインシュタイン・リング)。並びが完全でない場合は、複数の像や、弧状に引きのばされた像として観測される[1]。
この現象は、レンズ天体の質量が大きく、光源・レンズ・地球の並びや質量の分布などの条件が合うほど、強く現れやすい。つまり重力レンズは、目に見える星や銀河の量だけでなく、その場所に実際にどれだけの質量(暗黒物質を含む)が存在するかを測定する道具にもなる。
6. いまも つかわれて いる、うちゅうの どうぐ
6. いまも使われている、宇宙の道具
6. 現在の応用、暗黒物質から系外惑星まで
いまでは、じゅうりょくレンズは、うちゅうを しらべる 大じな どうぐに なって います。
目に 見えない「あんこくぶっしつ」と よばれる ものが、 どこに、どれくらい あるかを しらべる ために つかわれたり [3]、とても とおい ぎんがを、 もっと 大きく、あかるく 見る ために つかわれたり して います。
さいきんでは、この しくみを つかって、たいようけい の そとに ある わくせいを 見つける けいかくも すすんで います [3]。
いまでは、重力レンズは、宇宙を調べる大事な道具になっています。
見えないものを見つける道具
目に見えない「暗黒物質」と呼ばれるものが、どこに、どれくらいあるかを調べるために使われたり[3]、とても遠い銀河を、もっと大きく、明るく見るために使われたりしています。
最近では、このしくみを使って、太陽系の外にある惑星を見つける計画もすすんでいます[3]。
現在、重力レンズは天文学の重要な観測手法の1つになっている。
見えないものを見つける道具
遠方銀河や銀河団を通過する光の、わずかなゆがみ(弱い重力レンズ効果)を統計的に解析することで、その場所に目に見えない質量(暗黒物質)がどのように分布していると考えられるかを地図化できる。また、銀河団の強い重力レンズ効果を利用して、背景にあるきわめて遠方の銀河を拡大・増光し、通常なら観測できないような初期宇宙の天体を観測する手法も広く使われている。
近年では、恒星が別の恒星の手前を横切る際に生じる一時的な増光(マイクロレンズ現象)を利用して、太陽系外惑星を発見する手法も実用化されている。この方式は、恒星の光そのものではなく重力の効果を利用するため、どの恒星にも属さずにさまよう浮遊惑星も検出できるという利点がある。NASAのナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡は、2026年8月30日に打ち上げられ、観測開始に向けた試験が進められている[4]。この手法によって1,000個以上の太陽系外惑星を発見すると見込まれている[3]。
じぶんでも やって みる
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
じぶんでも、光の まがりかたを たしかめて みましょう。
あんぜんな ばしょで できる こと
- 虫めがねを つかって、うしろの ものの 見えかたを かんさつして みる。 きょりや かくどを かえると、見えかたが どう かわるか ためして みましょう。(※ちゅうい:ぜったいに 虫めがねで たいようを 見ては いけません。目を いためて しまいます)
- コップに 水を 入れて、うしろの もじが どう 見えるか しらべて みる。 水も、光を まげる はたらきを します。
きょう 出て きた ことばを 1つだけ ノートに 書いて おきましょう。「じゅうりょくレンズを さいしょに かんがえたのは アインシュタインだった」だけで じゅうぶんです。
自分でも、光の曲がりかたを確かめてみましょう。
今日できること
- 虫めがねをつかって、うしろのものの見えかたを観察してみる。きょりや角度をかえると、見えかたがどうかわるかためしてみましょう。(※注意:絶対に虫めがねで太陽を見てはいけません。目をいためてしまいます)
- コップに水を入れて、うしろの文字がどう見えるか調べてみる。水も、光を曲げるはたらきをします。
気になった言葉を1つだけ書いておくと、あとで調べる入口になります。「フリッツ・ツビッキーって、どんな人だったの?」だけでも十分です。
虫めがねや水を使った簡単な実験で光の屈折を体感したり、有名な重力レンズの画像を検索して観察したりすると、この記事で扱った内容がより具体的につかめます。
手を動かして確かめる
- 「Einstein ring」「Einstein cross」で画像検索して、実際に観測された重力レンズの写真を見てみる。ハッブル宇宙望遠鏡やJWSTが撮影した、美しい実例が数多く見つかります。
- フリッツ・ツビッキーが、なぜ銀河の質量に疑問を持つようになったのか調べてみる。暗黒物質という考え方そのものの出発点にもなった研究です。
一次情報にあたる
Wikipediaの「Gravitational lens」の項目には、この記事で扱った歴史がより詳しくまとめられています。
気になった数字や言葉を1つだけノートに記録しておきましょう。「最初の重力レンズが見つかったのは1979年」という一文でもかまいません。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
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出典について:Wikipediaと、科学ジャーナリズムのサイトを使っています。
- Gravitational lens - Wikipedia(英語版)。 https://en.wikipedia.org/wiki/Gravitational_lens (1912年のアインシュタインのノート、1937年のツビッキーの論文、1979年の最初の重力レンズ発見、1985年のアインシュタイン・クロス、1988年のアインシュタイン・リングについての解説)
- "The amateur who helped Einstein see the light" - Science News。 https://www.sciencenews.org/blog/context/amateur-who-helped-einstein-see-light (ルディ・マンドルの経歴、1936年4月17日のアインシュタインとの面会、1936年12月の論文発表の経緯についての解説)
- "NASA's Roman Space Telescope will use gravity as a magnifying glass to find distant planets" - The Conversation。 https://theconversation.com/nasas-roman-space-telescope-will-use-gravity-as-a-magnifying-glass-to-find-distant-planets-291511 (重力マイクロレンズ法を使った太陽系外惑星探索と、NASAのナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡についての解説)
- NASA「NASA's Dark Universe-Seeking Nancy Grace Roman Space Telescope Launches」(2026年8月30日)。 https://www.nasa.gov/news-release/nasas-dark-universe-seeking-nancy-grace-roman-space-telescope-launches/ (ローマン宇宙望遠鏡の打ち上げ日と、打ち上げ後の試験・観測開始までの予定についてのNASA公式発表)
- Huchra ほか「2237+0305: a new and unusual gravitational lens」The Astronomical Journal(1985年)。 https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/1985AJ.....90..691H/abstract (QSO 2237+0305が重力レンズ系として報告された、1985年の発見論文)
- Hewitt ほか「Unusual radio source MG1131+0456: a possible Einstein ring」Nature(1988年)。 https://doi.org/10.1038/333537a0 (電波源MG1131+0456が「アインシュタイン・リングの候補」として報告された、1988年の論文)
なおした ところ
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