かみの けの ひみつ

髪の毛のひみつ ── 色も太さもカールも、なぜ人それぞれなのか

髪の毛のひみつ ── ケラチン、メラニン、毛根の形

分野:からだ

まわりの 人の あたまを 見て みて ください。

まっ黒な 人。茶いろの 人。 まっすぐな 人。くるくるの 人。 太い 人。細い 人。

おなじ「かみの け」なのに、 どうして こんなに ちがうのでしょう。

それに、切っても いたく ないのは なぜでしょう。

1本の かみの けを、 中まで のぞいて みましょう。

まわりの人の頭を見てみてください。 まっ黒な人、茶色い人。まっすぐな人、くるくるの人。太い人、細い人。

同じ「髪の毛」という部品なのに、なぜこんなに違うのでしょう。

しかも髪は、切っても痛くありません。 指を切ったら痛いのに、髪は平気です。爪もそうですね。

じつは、この2つは同じ答えにつながっています。 1本の髪の毛を、中までのぞいてみます。

髪の色、太さ、くせ。どれも人によって大きく違います。 同じ器官なのに、なぜここまで差が出るのか。

そして、切っても痛くないのはなぜか。

この2つは、じつは同じ事実から説明できます。 髪の毛は、すでに死んだ細胞でできているということです。

この記事では、1本の毛の構造から始めて、 色・太さ・カールが決まるしくみ、 パーマやブリーチが髪に何をしているのか、 そして日本人がいつから毎日髪を洗うようになったのかまでをたどります。

読み方を切り替えられます。 画面の上にある「よみかた」のボタンで、小学校低学年むけ小学校高学年むけ中学生むけの 3つの書き方に切り替わります。むずかしいと思ったら、いつでもやさしい方に戻ってください。 選んだ読み方はブラウザが覚えているので、次に別の記事を開いたときも同じ読み方で始まります。

1. かみの けは、3つの そうで できて いる

1. 1本の中は、3つの層になっている

1. 毛髪の構造 ── キューティクル・コルテックス・メデュラ

かみの けを 1本 ぬいて、 とても 大きな レンズで 見たと しましょう。

中は、3つに 分かれて います。

  • そとがわ……うろこの ような ものが、 上から 下へ びっしり かさなって います。
  • まん中……いちばん あつい ところ。 ここに 色の もとが 入って います。
  • しん……いちばん おく。 ない かみの けも あります。

そとがわの うろこは、 中を まもる ために あります。

このうろこが めくれると、 かみの けは ぱさぱさに なります。

そして いちばん 大じな こと。

かみの けは、もう 生きて いません。

生きて いるのは、 あたまの 皮の 中に ある ねっこの ところだけ。

そこから 出た ぶんは、 もう 死んだ ものが かたまって できて います。

だから、切っても いたく ないのですね。

髪の毛を1本ぬいて、うんと大きなレンズで見たとします。 中は3つの層に分かれています。

髪の3つの層
場所やっていること
キューティクルいちばん外側うろこ状に重なって、中身を守る。健康な髪で4〜10枚[1]
コルテックスまん中髪の85〜90%を占める。色のもとが入っている[1]
メデュラいちばん芯やわらかい組織。細い髪には無いこともある[1]

うろこがめくれると

外側のキューティクルは、根元から毛先に向かってうろこのように重なっています。 このうろこがめくれたり欠けたりすると、 中の水分やタンパク質が逃げて、ぱさぱさになります。

リンスやトリートメントが「表面を整える」と言われるのは、この層の話です。

髪は、もう生きていない

そして、いちばん大事なことがあります。

目に見えている髪の毛は、すでに死んだ細胞のかたまりです。

生きているのは、頭皮の中にある根元の部分だけ。 そこで細胞が分裂して、押し出されながら固まっていきます。 外に出てきたときには、もう生きていません。

だから切っても痛くないし、血も出ない。 そして、いったん傷んだ髪は自分では治らないということでもあります。 傷んだ部分は、切るしかありません。

毛髪は、中心から外に向かって3層構造をとります。

毛髪の3層構造
位置特徴
キューティクル(毛表皮)最外層硬く扁平な細胞が4〜10枚重なる[1]。内部の保護
コルテックス(毛皮質)中間層毛髪の85〜90%を占める[1]。メラニンを含み、太さと柔軟性を決める
メデュラ(毛髄質)中心やわらかいタンパク質による多孔質構造[1]。細い毛では欠けることがある

主成分はケラチン

毛髪の主成分は ケラチン という繊維状のタンパク質です。 特徴は、シスチン というアミノ酸を多く含むこと[1]

シスチンは硫黄を持っていて、 となりの分子どうしを橋のようにつなぎます(シスチン結合)。 この橋が多いほど、丈夫でしっかりした構造になります。

髪を焼くと独特のにおいがするのは、この硫黄のためです。 そしてこの橋こそが、パーマの標的になります(5章)。

死んだ細胞である、という前提

押さえておくべき点があります。 目に見えている毛髪は、すでに死んだ細胞(角化した細胞)の集合体です。

生きているのは頭皮内部の 毛根 だけ。 毛母細胞が分裂し、押し上げられながら角化して、 外に出るころには代謝を終えています。

ここから、いくつもの性質が導かれます。

  • 切っても痛くない。神経も血管も通っていない
  • 傷んだ髪は再生しない。皮膚のように治らない
  • だから「髪を治す」商品は、正確には表面を補って見た目と手触りを整えている
  • 逆に、根元の環境(頭皮・栄養・ホルモン)は、これから生える髪に影響する

「髪は死んでいる」という一点を押さえると、 ヘアケアの説明の多くが整理して読めるようになります。

2. 色は、2つの つぶで きまる

2. 色を決めているのは、2種類のつぶ

2. メラニン ── 2種類の色素の配合で決まる

かみの けの 色は、 中に 入って いる つぶで きまります。

この つぶには、2しゅるい あります[2]

  • 黒っぽい つぶ
  • 赤っぽい・黄いろっぽい つぶ

黒っぽい つぶが たくさん ある 人は、 黒い かみの けに なります[2]

つぶの りょうが 少ないと、 うすい 色に なります[2]

では、白い かみの けは どうでしょう。

じつは、つぶが ほとんど 入って いないのです[2]

白い ものが 足された のでは ありません。 色が 入らなく なっただけ。

どうして 入らなく なるのか。

じつは、それは まだ よく わかって いません[2]

あんなに 身ぢかな ことなのに、 わからない ことが のこって いるのですね。

髪の色を決めているのは、コルテックスの中にある メラニン という色素です。 メラニンには2種類あります[2]

2種類のメラニン
名前
ユーメラニン黒〜褐色系[2]
フェオメラニン黄〜赤色系[2]

この2つの組み合わせと量で、髪の色が決まります。

  • ユーメラニンが多く、総量も多い → 黒髪[2]
  • メラニンの総量が少ない → ブロンド[2]
  • どちらもほとんど含まない → 白髪[2]

白髪は「白くなる」のではない

ここが面白いところです。

白髪は、白い色が足されたのではありません。 色が入らなくなっただけです。 もともとの髪は、色のついていない状態がふつうで、 そこにメラニンが渡されて黒くなっている。

色を作る細胞(メラノサイト)のはたらきが落ちたり、 髪を作る細胞に色が渡されなくなったりすると、白いまま出てきます[2]

まだ分かっていないこと

では、なぜはたらきが落ちるのでしょう。

加齢、遺伝、ストレス、高い熱、薬の影響などが挙げられていますが、 そのしくみはよく分かっていないとされています[2]

毎日鏡で見ているものなのに、まだ答えの出ていない問いが残っている。 科学って、そういうところがあります。

毛髪の色は、コルテックスに含まれる メラニン によって決まります。 メラニンは ユーメラニン(黒〜褐色系)と フェオメラニン(黄〜赤色系)の2種類に分けられます[2]

髪の色は、この2種類の比率総量で決まります。

メラニンと髪色の対応
メラニンの状態髪の色
ユーメラニンが多く、総量も多い黒髪[2]
総量が少ないブロンド[2]
いずれもほとんど含まない白髪[2]

白髪は「色の付加」ではなく「色の欠如」

白髪は白い色素が加わった状態ではなく、メラニンがほぼ無い状態です[2]。 毛髪の既定の状態が無色で、そこにメラニンが供給されて着色される、 という順序になっています。

白髪化は、

  • メラノサイト(色素を作る細胞)の機能低下
  • 毛母細胞へのメラニンの受け渡しが行われなくなること

によって起きるとされます[2]

未解明であることを、そのまま書く

原因として加齢・遺伝・ストレス・高熱・薬の副作用などが挙げられますが、 メラノサイトの機能が低下する原因は、よく分かっていないと 明記されています[2]

身近な現象ほど「もう分かっている」と思われがちですが、 実際には未解明の部分が残っていることが少なくありません。 分かっていないことを、分かっていないと確認できるのは、 調べものとしてはむしろ収穫です。

3. くるくるは、あなの 形で きまる

3. くせ毛かどうかは、生えぎわで決まっている

3. 毛根の形 ── 断面が円か楕円か

つぎは、くるくるの ひみつです。

かみの けを、 ちょうど 半分に 切った ところを そうぞうして みて ください。

まっすぐな かみの 人は、 その 形が まるいです[3]

くるくるの 人は、 だ円(つぶれた まる)に なって います[3]

では、どうして 形が ちがうのでしょう。

ねっこの 形が ちがうからです[3]

あたまの 皮の 中に、 かみの けを 作る ところが あります。

そこが まがって いたり、 つぶれて いたり すると、 出て くる かみの けも そうなります。

くせが 強い 人ほど、 ねっこの 形の ゆがみも 大きいのです[3]

だから、まっすぐに のばしても、 しばらく すると もどって きます[3]

出て くる ところが かわって いないからですね。

次はカールの話です。ここも、答えは「形」にあります。

髪の毛を輪切りにしたところを想像してください。

  • 直毛:断面が円に近い[3]
  • くせ毛:断面が楕円になっている[3]

平べったい断面の毛は、まっすぐには伸びにくく、ねじれたりうねったりします。

では、なぜ断面が違うのか

毛根の形が違うからです[3]

髪は、頭皮の中にある毛根で作られて、そこから押し出されてきます。 つまり毛根は、髪を作るのようなものです。

型が丸ければ丸い髪が、型がゆがんでいればゆがんだ髪が出てきます。 くせが強いほど、毛根の変形も大きいとされています[3]

だから、いつか戻る

ここから、よく知られた現象が説明できます。

ストレートパーマやヘアアイロンでまっすぐにしても、 時間がたつと元のくせが出てきます[3]

手を入れられるのはすでに生えている部分だけで、 これから生えてくる部分の型は変わっていないからです。

太さも同じで、コルテックスの量が多いほど太い髪になります。 日本人には太めの髪が多いことが知られています。

毛髪の形状(直毛かくせ毛か)は、毛髪そのものの断面形状に対応します。

  • 直毛:断面が円に近い[3]
  • くせ毛:断面が楕円[3]

そしてこの断面形状を決めているのは、毛根の形です。 毛髪の断面が変形するのは毛根の形が変形しているためで、 くせが強いほど変形の度合いが大きいとされます[3]

毛根は「型」である

毛根は、毛髪を押し出す鋳型として働きます。 断面が楕円になれば、毛は一方向に曲がりやすくなり、 伸びるにつれてねじれやうねりとして現れます。

ここから重要な帰結が出ます。

ストレートパーマやヘアアイロンで直せるのは、すでに生えた部分だけ。 毛根の形は変わらないので、 効果が弱まれば元のくせが現れます[3]。 新しく生えてくる部分は、最初からくせを持っています。

形質としての髪

髪の色・太さ・くせは、いずれも複数の遺伝的要因が関わる形質です。 単純に「親のどちらかから受け継ぐ」という形にはなりません。

注意したいのは、この違いに優劣はないということです。 髪の形状の地域差は、それぞれの環境で長い時間をかけて生じたもので、 どれかが標準というものではありません。 流行によって「よい髪型」の基準が入れかわってきたことも、 6章で見るとおりです。

4. かみの けにも じゅみょうが ある

4. 抜けるのは、悪いことではない

4. 毛周期 ── 成長期・退行期・休止期

あさ、まくらに かみの けが ついて いた。

しんぱいに なりますか。

じつは、ふつうの ことです。

かみの けには じゅみょうが あります。

1本の かみの けは、 だいたい 4年から 6年で ぬけます[4]

そして、また 新しいのが 生えて きます。

のびる 早さも わかって います。

じぶんの かみの けの 先が いつ 生まれたか、 計算して みると おもしろいですよ。

かたに とどく 長さなら、 2年 くらい 前の ものです。

朝、まくらに髪がついている。ブラシに何本もからんでいる。 心配になりますが、これは正常なことです。

髪には 寿命 があります。

伸びる速さと寿命

髪が伸びる速さ
期間伸びる長さ
1日約0.3ミリ[4]
1か月約1センチ[4]
1年約15センチ[4]

そして、1本の髪の寿命は 約4〜6年[4]

計算してみてください。 1年で15センチなら、腰まで伸ばすには何年かかるでしょう。 そして寿命が4〜6年なら、伸ばせる長さには限りがあることになります。

「どこまでも伸びる」わけではないのです。

抜けるまでの3段階

髪は、ずっと伸び続けて突然抜けるのではありません。段階があります。

  1. 伸びている時期……いちばん長い。数年続く
  2. 止まる時期……2〜3週間[4]
  3. 休む時期……数か月[4]。このあいだに、下から新しい髪が育つ

休んでいる髪は、洗ったりとかしたりする程度の 数グラム以下の力で抜けます[4]

つまり、抜けたのは「引き抜かれた」のではなく、 もう抜ける準備ができていたということです。

毛髪は無限に伸び続けるわけではなく、 一定の周期で生え変わります。これを 毛周期(ヘアサイクル) といいます。

毛周期の3段階
時期期間起きていること
成長期周期の大部分毛母細胞が分裂し、毛が伸び続ける
退行期2〜3週間[4]細胞分裂が止まり、成長が終わる
休止期数か月[4]毛が保持されたまま、下で次の毛が準備される

伸長速度は1日あたり約0.3mm、1か月で約1cm、1年で約15cm。 1本の寿命は約4〜6年とされています[4]

「伸ばせる長さ」には上限がある

この2つの数字を掛け合わせると、髪を伸ばせる長さの見当がつきます。

年15cm × 寿命4〜6年 = おおよそ60〜90cm。 (いずれも平均的な値からの概算です。)

個人差が大きい(成長期の長さが人によって違う)ため幅がありますが、 どこまでも伸びるわけではないことは、この計算から分かります。

脱毛は異常ではない

休止期の毛は、洗髪やブラッシング程度の 数グラム以下の力で脱落します[4]

つまり、抜けた毛は「抜かれた」のではなく、 すでに脱落する状態にあったものです。 頭髪はおよそ10万本あり、それぞれが独立した周期を持つため、 常に一定数が休止期にあります。

抜け毛の量が急に増えた、地肌が見えるようになった、 といった変化がある場合は、自己判断せず皮膚科などにご相談ください。 この記事は、正常な毛周期の説明であって、診断の手引きではありません。

5. パーマは、中の「はし」を つなぎかえて いる

5. パーマとブリーチは、髪に何をしているのか

5. シスチン結合の切断と再結合 ── パーマの化学

パーマを かけると、 まっすぐな かみが くるくるに なります。

どうやって いると 思いますか。

じつは、中の つなぎ目を 一ど 切って、 べつの ところで つなぎなおして いるのです。

かみの けの 中には、 細い ものどうしを つなぐ 小さな はしが たくさん かかって います。

パーマは、こういう じゅんばんです。

  1. くすりで、その はしを 切る
  2. まるい ぼうに まいて、形を かえる
  3. べつの くすりで、はしを かけなおす

切って、まげて、とめる。それだけです。

色を ぬく ブリーチは、また べつです。

こちらは、中に ある 色の つぶを こわして 出て いけるように します。

どちらも、かみの けに とっては けっこう 大へんな ことです。

そして かみの けは、 いたんでも じぶんでは なおりません

パーマをかけると、まっすぐな髪がくるくるになります。 しかも、洗っても取れません。何をしているのでしょう。

橋を切って、かけ直す

1章で、髪はケラチンというタンパク質でできていると書きました。 このケラチンどうしは、小さな橋のようなつながりで結ばれています。

パーマは、この橋を操作します。

  1. 1剤で、橋を切る(髪はやわらかくなる)[5]
  2. ロッドに巻いて、形を変える
  3. 2剤で、新しい位置に橋をかけ直す[5]

切って、曲げて、とめる。 形が「そういうもの」として固定されるので、洗っても戻りません。

ストレートパーマも、やっていることは同じです。 曲げる方向が逆なだけ。

ブリーチは別のこと

色を抜くブリーチは、まったく別の操作です。 こちらは中にあるメラニンを分解して、色を薄くします

薬はキューティクルの隙間から中へ入っていくので、 外側の層にも負担がかかります。

だから、傷む

どちらも髪の内部に薬を届ける操作です。 そして1章で見たとおり、髪は死んでいるので自分では治りません

「傷んだ髪を補修する」と言われる商品の多くは、 正確には足りなくなった成分を外から補って、 見た目と手触りを整えているものです。 元どおりに戻しているわけではありません。

このしくみを知っていると、 何が起きているかを自分で判断できるようになります。

パーマは、毛髪内部の化学結合を操作する処理です。

標的はシスチン結合

1章のとおり、ケラチンはシスチンを多く含みます[1]。 シスチンは硫黄を介して、隣り合うポリペプチド鎖を橋のように結びます (シスチン結合/ジスルフィド結合)。

この結合は強く、髪の形を保つ主要な要因になっています。 パーマは、ここを狙います。 1剤でシスチン結合を還元して切断し、2剤で酸化して再結合させる、 というのがパーマの基本的なしくみです[5]。 アルカリ剤は毛髪を膨潤させ、還元剤を浸透しやすくする役割を持ちます[5]

パーマの工程
工程やること化学的には
1剤薬剤で結合を切る還元。チオグリコール酸やシステインが水素を与え、シスチン結合を切断する[5]
成形ロッドに巻いて形を作る切れた状態のまま、鎖の位置関係をずらす
2剤新しい位置で結合させる酸化。臭素酸塩や過酸化水素が酸素を放出し、切断したシスチン結合を再結合させる[5]

還元して切り、変形させ、酸化して固定する。 洗っても落ちないのは、形が化学結合として保持されているためです。

歴史 ── 熱から薬へ

パーマの歴史は、この化学にたどりつくまでの過程でもあります。

パーマの歴史
できごと
1905年ドイツのネッスラーが、ホウ砂と加熱器具による「ネッスルウェーブ」を発表[6]
1920年ごろアメリカで実用化され、急速に普及[6]
1923年ごろ日本にアメリカから電髪(電気パーマ)の器具が輸入されたとされる[6]
1930〜1935年日本で電髪が営業に取り入れられ、大流行[6]
1939〜1940年戦時下で「パーマネントはやめましょう」の標語が出される[6]
1940年代アメリカでチオグリコール酸を用いた研究が進み、加熱しない「コールドパーマ」が登場[6]
1956年日本で「コールドパーマネントウェーブ用剤基準」が制定[6]

注目したいのは、1939年からの数年です。 髪型が国の方針の対象になった時期がありました。 髪は個人のものであると同時に、社会の中に置かれているものでもある、 ということが分かります。

ブリーチと、不可逆性

ブリーチはメラニンを酸化分解して脱色する処理で、 パーマとは目的も対象も異なります。 いずれも薬剤をキューティクルの間隙から内部へ浸透させるため、 外層にも影響が及びます。

そして1章の前提が効いてきます。 毛髪は死んだ細胞であり、損傷は自己修復されません。

したがって「傷んだ髪を補修する」という表現は、 厳密には失われた成分を外部から補い、表面の状態を整えていることを指します。 損傷そのものが元に戻るわけではありません。 外から補って整えることはできますが、 傷んだ構造そのものが元に戻るわけではない、というのが構造から導かれる理解です。

6. むかしの 人は、あまり あらわなかった

6. 毎日洗うようになったのは、最近のこと

6. 洗髪の歴史 ── 年1回から毎日へ

さいごに、おもしろい 話を します。

むかしの 人は、どれくらい かみを あらって いたと 思いますか。

いまから 1000年 ほど 前。

なんと、1年に 1回 くらいでした[7]

長い かみを あらうのは 大しごとで、 かわかすのにも 何時間も かかったからです。

江戸えど時代でも、1か月に 1回か 2回[7]

では、いつから 毎日に なったのでしょう。

  • 1955年 こなの シャンプーが 出る[7]
  • 1960年 水の ような シャンプーが 出る[7]
  • 1990年代の なかごろ わかい 女の人が、やっと 毎日に なる[7]

まだ 30年 ほどしか たって いません。

「あたりまえ」だと 思って いた ことが、 じつは 新しい ことだった。

そういう ことは、ほかにも たくさん ありそうです。

最後に、少し意外な話をします。

昔の人は、どれくらい髪を洗っていたと思いますか。

洗髪の頻度の移り変わり
時代洗う回数
平安時代年に1回ほど[7]
江戸時代月に1〜2回(江戸の女性)[7]
昭和30年ごろ5日に1回[7]
1980年代週に2〜3回[7]
1990年代半ばほぼ毎日(10〜20代女性)[7]

平安時代は年に1回です。長い髪を洗うのは一日がかりの大仕事で、 乾かすだけでも大変だったからです。

何で洗っていたのか

シャンプーはありません。明治のころまでは、 油汚れを落とすために粘土や火山灰を使い、 仕上がりをよくするためにふのり(海藻)や卵白を使っていました[7]

大正から昭和のはじめに「髪洗い粉」が登場し、そのあとは早い展開です。

  • 1955年 粉末シャンプー発売[7]
  • 1960年 液体シャンプー発売、普及[7]
  • 1961年 家庭用リンス登場[7]

「毎日洗う」は新しい習慣

そして10代から20代の女性がほぼ毎日洗うようになったのは、 1990年代半ばだとされています[7]

まだ30年ほどしかたっていません。 お父さんお母さんの子どものころには、まだ当たり前ではなかったのです。

なお、ここに挙げた数字は特定の調査で見られた傾向です。 誰もがそうだった、という意味ではありません。

「昔からそうだった」と思っていることが、 じつはごく最近始まったことだった。 そういう例は、探すとあちこちにあります。

洗髪の頻度は、日本でも大きく変わってきました。

洗髪頻度の推移
時期頻度
平安時代年1回ほど[7]
江戸時代月1〜2回(江戸の女性)[7]
昭和戦後月1〜2回[7]
昭和30年ごろ5日に1回[7]
1980年代週2〜3回[7]
1990年代半ばほぼ毎日(10〜20代女性)[7]

洗浄剤の変遷

明治期までは、油性の汚れを落とすために粘土や火山灰が用いられ、 仕上がりの感触を整えるためにふのりや卵白が使われました[7]。 大正から昭和初期に「髪洗い粉」が普及し、その後は次のように進みます。

  • 1955年 粉末シャンプー発売[7]
  • 1960年 液体シャンプー発売・普及[7]
  • 1961年 家庭用リンス登場[7]
  • 2001年 弱酸性シャンプーが家庭向けに上市[7]

習慣は、技術と設備に規定される

頻度の変化は、清潔への意識だけで説明できるものではありません。 それを可能にする条件がそろって初めて成立します。

  • 洗浄剤(適切に脱脂でき、扱いやすいもの)
  • 給湯設備(水道と、湯を沸かす手段)
  • 乾かす手段(ドライヤーの普及)
  • それに使える時間

平安時代の「年1回」は不潔だったからではなく、 長い髪を洗って乾かすことが、 設備の面でも時間の面でも大仕事だったからです。

ほぼ毎日洗うという習慣が広まったのは、1990年代半ば以降とされています[7]。 ただし出典の数値は調査対象が限定されており(江戸期は江戸の女性、 1990年代半ばは10〜20代女性)、全人口の平均ではありません。 傾向として読むべき数字です。 自分にとっての「当たり前」が、いつからの当たり前なのかを確かめると、 見え方が変わります。

7. じぶんでも しらべて みる

7. 自分でも調べてみたくなったら

7. 自分で確かめる ── 手元でできる観察

かみの けは、いつでも 手もとに あります。

  • ぬけた 毛を 見て みる。 はしの ほうに、白くて 丸い ものが ついて いる ことが あります。 ついて いない ものも あります。形を くらべて みましょう。
  • のばして みる。 ぬけた 毛の りょうはしを もって、そっと 引っぱります。 けっこう つよいです。
  • まわりの 人と くらべる。 色、太さ、くるくる ぐあい。1人ずつ ちがいます。
  • おうちの 人に 聞いて みる。 「子どもの ころ、毎日 かみを あらって いた?」

この記事の内容は、ほとんど手元で確かめられます。

  • 抜けた毛の根元を見る。白っぽくふくらんだ部分がついていることがあります。 (見た目だけで「自然に抜けた」「途中で切れた」を判断することはできません。 形のちがいを眺めるだけにしてください。)
  • 引っぱってみる。抜けた毛の両端を持って軽く引くと、 意外なほど丈夫だと分かります。ケラチンの橋のおかげです。
  • 長さから年数を計算する。1年で約15センチ[4]。 自分の毛先は、いつ生まれたものでしょう。 (これは平均の値で、人や年齢、体調によってかなり変わります[4]。)
  • 家族に聞く。「子どものころ、毎日髪を洗っていた?」 6章の表が本当かどうか、確かめられます。

関連する記事

材料が常に手元にある、めずらしい分野です。

やってみる

  1. 根元を観察する:抜けた毛の根元に白い膨らみがあるか見る。 ただし外見だけで脱落か切断かを判定することはできず、 部位の名称を同定することもできない。形のちがいを観察するにとどめる
  2. 長さから経過時間を推定する:年約15cmから逆算する[4]。 毛先が何年前のものか分かる
  3. 断面を推測する:直毛の人とくせ毛の人で、 毛を指でよじったときの戻り方を比べる
  4. 家族に聞き取りをする:世代ごとの洗髪頻度を聞く。 6章の統計が自分のまわりでも成り立つか確かめられる

調べる入口

考えてみると面白いこと

  • 「死んだ細胞」を手入れするとはどういうことか。何を目的にしているのか
  • 髪型が国の方針の対象になった時期があったのはなぜか(5章)
  • 身近なのに未解明の現象(白髪など)は、なぜ調べにくいのか

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

この記事は、下にあげた公開情報をもとに書いています。 文章や図を無断で転載してはいません。 用語の定義など、短く引用した部分は、どこから引いたかを示しています。 リンク先の内容や、リンク先で起きたことについて、当サイトは責任を負いません。

  1. 花王 ヘアケアサイト「髪の構造」 https://www.kao.com/jp/haircare/hair/1-3/ (キューティクル4〜10枚、コルテックスが85〜90%、メデュラの構造、主成分がケラチンでシスチンを多く含むこと)
  2. 花王 ヘアケアサイト「髪の色」 https://www.kao.com/jp/haircare/hair/1-5/ (ユーメラニンとフェオメラニン、黒髪・ブロンド・白髪の対応、白髪化のしくみと、その原因がよく分かっていないこと)
  3. 日本毛髪科学協会「直毛とくせ毛」 https://www.jhsa.jp/hair-skin-knowledge/hair-knowledge/straight-and-curly-hair/ (直毛の断面は円に近く、くせ毛は楕円。断面の変形は毛根の形の変形による。くせが強いほど変形が大きい。ストレート効果が弱まると元のくせが出ること)
  4. 花王 ヘアケアサイト「髪の成長」 https://www.kao.com/jp/haircare/hair/1-2/ (1日約0.3mm・1か月約1cm・1年約15cm、寿命約4〜6年、退行期2〜3週間、休止期数か月、数g以下の力で脱落すること)
  5. 日本パーマネントウェーブ液工業組合「パーマのメカニズム ── 毛髪内部の3つの側鎖結合」 https://www.perm.or.jp/about-perm/mechanism/ (1剤でシスチン結合を還元して切断し、2剤で酸化して再結合させること。チオグリコール酸やシステインが水素を与えて切断し、臭素酸塩や過酸化水素が酸素を放出して再結合させること。アルカリ剤が毛髪を膨潤させて還元剤の浸透を助けること。ウェーブパーマとストレートパーマは仕組みが同じであること)
  6. 日本パーマネントウェーブ液工業組合「パーマの歴史」 https://www.perm.or.jp/about-perm/history-of-perms/ (1905年ネッスラー、1920年ごろアメリカで実用化、1923年ごろ日本へ電髪の器具が輸入されたとされること、1930〜1935年の流行、1939〜1940年の標語、1940年代のコールドパーマ、1956年の用剤基準)
  7. 花王 ヘアケアサイト「洗髪/頭皮と毛髪のケア」 https://www.kao.com/jp/haircare/history/14-1/ (洗髪頻度の推移、明治までの粘土・火山灰・ふのり・卵白、1955年粉末シャンプー、1960年液体シャンプー、1961年家庭用リンス、2001年弱酸性シャンプー)

パーマの化学(シスチン結合を還元で切り、酸化で結び直す)は、 出典[1]のケラチンとシスチンの説明と、出典[5]の薬剤の変遷を もとに組み立てた説明です。工程の名前や薬剤名は、 実際の製品や施術によって異なります。

なおした ところ

更新履歴

更新履歴(改版の記録)

  •  初版を公開。

このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。 誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、 その理由をこの欄に残します。