1. 生きものの はかせが いない ちょうさたい
1. 生きものの博士がいない調査隊
1. 生物学者を連れていかなかった理由
アメリカの ちょうさせんが、ガラパゴスしょとうの ちかくの 海に むかいました。もくてきは、海の そこの ちけいと、 水の せいぶんを しらべる ことでした[1]。
この ちょうさたいには、地しつ学者や 化学者は いましたが、 生きものを しらべる 学者は 1人も いませんでした [1]。ふかい 海の そこは、光が とどかず、しょくぶつも そだたない、「さばく」の ような ばしょだと おもわれて いたからです。
2. 「さばくの はずでは?」
2. 「砂漠のはずでは?」
2. 潜水艇アルビン号が照らしたもの
1977年2月17日、ちょうさたいは、せんすいてい「アルビンごう」 で、水しん 2500メートルの 海の そこへ もぐりました [1]。
あかりに てらしだされたのは、あたたかい 水が わきだす ばしょの まわりに あつまる、白い チューブワームや、大きな ハマグリの むれでした[1]。
リーダーの コリスは、がくせいに こう たずねました。 「ふかい海って、さばくの はずじゃ なかったっけ?」 [1]。そこには、だれも よそうして いなかった、いきものだらけの せかいが 広がって いたのです。
1977年2月17日、調査隊は、潜水艇「アルビン号」で、水深2500メートルの海の底へもぐりました[1]。
おどりだすほどの おどろき
明かりに照らしだされたのは、あたたかい水がわきだすばしょのまわりに集まる、白いチューブワームや、大きなハマグリの群れでした[1]。
リーダーのコリスは、学生にこうたずねました。「深い海って、砂漠のはずじゃなかったっけ?」[1]。あまりの発見に、チームのメンバーは、うれしさのあまりとびはねて、おどりだしたと伝えられています[1]。
1977年2月17日、ガラパゴス海嶺で713回目の潜航を行った潜水艇アルビン号は、水深約2,500メートルの海底に到達した[1]。
おどりだすほどの おどろき
投光器に照らし出されたのは、温かい熱水が噴き出す場所の周囲に密集する、白い管状の生物(チューブワーム)、大型の二枚貝、カニなど、誰も想像していなかった生物群集だった[1]。調査隊のリーダー、ジャック・コリスは学生に「深海って、砂漠みたいなものじゃなかったっけ?」と尋ねたという[1]。
地球化学者ジョン・エドモンドはのちに、その瞬間の興奮を「みんな飛び跳ねて踊り出した。まるでコロンブスの気分だった」と語っている[1]。生物標本を保存する薬品が足りなかったため、パナマで買ったロシア製の強いウォッカを使って、採集した貝の標本を保存したという逸話も残っている[1]。
3. 光の かわりに、ガスを エネルギーに
3. 光のかわりに、ガスをエネルギーに
3. 光合成ではなく、化学合成というしくみ
しょくぶつは、たいようの 光を つかって エネルギーを つくります(こうごうせい)。でも、水しん2500メートルの 海の そこには、光は とどきません。
この ばしょでは、かわりに「りゅうかすいそ」と いう ガスが エネルギーの もとに なって いました。海の そこの わきでる お湯には、この ガスが たくさん とけて います。さいきん (とても ちいさな いきもの)は、この ガスを つかって、 エネルギーを つくりだす ことが できるのです [3]。この しくみを「かがくごうせい」 と よびます。
植物は、太陽の光をつかってエネルギーをつくります(光合成)。でも、水深2500メートルの海の底には、光はとどきません。
硫化水素をエネルギーに変える
このばしょでは、かわりに「硫化水素」というガスがエネルギーのもとになっていました。海の底のわきでるお湯には、このガスがたくさんとけています。細菌(とてもちいさな生きもの)は、このガスをつかって、エネルギーをつくりだすことができるのです[3]。このしくみを「化学合成」と呼びます。
太陽光の届かない深海では、光合成による一次生産(無機物から有機物をつくり出すこと)は成り立たない。ではこの生態系は、何をエネルギー源にしているのか。
硫化水素をエネルギーに変える
熱水噴出孔の噴出水には、海底の岩石と反応して溶け出した硫化水素が高濃度で含まれている。ここに生息する微生物(化学合成細菌)は、この硫化水素を酸素と反応させることで得られるエネルギーを使い、二酸化炭素から有機物を合成する[3]。この過程を化学合成と呼ぶ。
光合成が太陽光をエネルギー源とするのに対し、化学合成は無機化合物の化学反応をエネルギー源とする。このしくみのおかげで、化学合成細菌は、地球上でもっとも生命の存在が難しいと考えられていた深海底で、生態系全体を支える一次生産者としての役割を果たすことができる。
4. 口も おなかも ない、ふしぎな むし
4. 口もおなかもない、ふしぎな生きもの
4. 消化管を持たないチューブワーム
ねっすい ふんしゅつこうの まわりで いちばん 目立つ いきものが、 白い くだの ような すがたの「チューブワーム」です。
この いきものには、口も、たべものを しょうかする ための おなかも ありません。かわりに、からだの中に、化学ごうせいを する さいきんを たくさん すまわせて います。この さいきんが つくって くれた えいようを もらって いきて いるのです [3]。
熱水噴出孔のまわりでいちばん目立つ生きものが、白い管のようなすがたの「チューブワーム」です。
細菌と一体になった体
この生きものには、口も、食べものを消化するためのおなかもありません。かわりに、体の中に、化学合成をする細菌をたくさん住まわせています。この細菌がつくってくれた栄養をもらって生きているのです[3]。
熱水噴出孔生態系を象徴する生物が、ハオリムシ(学名Riftia pachyptila、和名は羽織虫)とも呼ばれる大型のチューブワームである。
細菌と一体になった体
この生物には口も消化管もなく、独力で栄養を摂取する手段を持たない。かわりに、体内の「トロフォソーム」と呼ばれる特殊な器官に、硫黄酸化細菌を大量に共生させている[3]。
ハオリムシは、血液中の特殊なヘモグロビン(血液を赤くする、酸素などを運ぶ色素たんぱく質)で熱水流体や周囲の海水に含まれる硫化水素と酸素を細菌に届け、細菌が化学合成でつくり出した有機物を栄養源として利用する。宿主と細菌が互いに利益を得ながら1つの生物のように機能する、高度に特殊化した共生関係を結んでいる。
5. あついのに、いきものだらけの ばしょ
5. あついのに、生きものだらけの場所
5. 常識をくつがえした生態系
ねっすい ふんしゅつこうから 出て くる お湯の おんどは、300どを こえる ことも あります。でも その まわりには、 チューブワームや カニ、エビ、さかななど、たくさんの いきものが あつまって います[2]。
この はっけんまで、「いきものは、たいようの 光が なければ いきて いけない」と かんがえられて いました。でも ねっすい ふんしゅつこうの まわりでは、その じょうしきが あてはまらなかったのです。
熱水噴出孔から出てくるお湯の温度は、300度をこえることもあります。でもそのまわりには、チューブワームやカニ、エビ、魚など、たくさんの生きものが集まっています[2]。
くつがえった「常識」
この発見まで、「生きものは、太陽の光がなければ生きていけない」と考えられていました。でも熱水噴出孔のまわりでは、その常識があてはまらなかったのです。
熱水噴出孔から噴き出す流体の温度は、300度をこえることもある。その周辺の低温域には、チューブワームのほか、二枚貝、エビ、カニ、固有種の魚など、多様な生物が密集する豊かな生態系が広がっている[2]。
くつがえった「常識」
この発見以前は、太陽光に直接依存しない大規模な生態系は知られていなかった。熱水噴出孔生態系は、太陽エネルギーに直接依存しない生態系がこの地球上に存在することを初めて示した点で、生物学史上の画期的な発見となった。
6. うちゅうにも あるかも しれない
6. 宇宙にもあるかもしれない
6. 500以上の発見と、地球外生命探査への広がり
その後、せかいじゅうの 海を しらべた ところ、にた ような ねっすい ふんしゅつこうが、500か所 いじょうも 見つかって います[2]。
学者たちは、太陽の 光が とどかない ばしょでも いきものが いきられる ことを しって、ある ことを かんがえはじめました。 木せいの 月「エウロパ」や、土せいの 月「エンケラドゥス」 には、こおりの下に 海が あると かんがえられて います [4]。もし そこにも ねっすい ふん しゅつこうが あれば、地きゅう いがいの ばしょにも いきものが いるかも しれないのです。
その後、世界中の海を調べたところ、似たような熱水噴出孔が、500か所以上も見つかっています[2]。
地球のそとにも、いきものがいるかも
学者たちは、太陽の光がとどかない場所でも生きものが生きられることを知って、あることを考えはじめました。木星の月「エウロパ」や、土星の月「エンケラドゥス」には、氷の下に海があると考えられています[4]。もしそこにも熱水噴出孔があれば、地球以外の場所にも、生きものがいるかもしれないのです。
その後、世界中の海底調査により、活動中の熱水噴出孔フィールドが同様に500か所以上で確認されている[2]。2000年代には、大西洋中央海嶺で「ロストシティ」と呼ばれる、より低温でアルカリ性の熱水系も発見され、生命の起源をめぐる議論を見直すきっかけにもなっている[4]。
地球のそとにも、いきものがいるかも
太陽エネルギーに依存しない生態系の存在は、地球外生命探査への大きなヒントにもなっている。木星の衛星エウロパや土星の衛星エンケラドゥスには、分厚い氷の下に液体の海が存在すると考えられており、探査機カッシーニはエンケラドゥスの水プルーム(噴出物)の中に、熱水活動を示す有力な証拠とされるシリカ(ガラスや砂の主成分となる、二酸化ケイ素の物質)の微粒子を検出した[4]。太陽光の届かない氷衛星の海底にも、地球の熱水噴出孔と同じしくみで生きものが存在する可能性が、真剣に考えられている。
じぶんでも やって みる
7. 自分でも調べてみたくなったら
7. 自分でも調べてみたくなったら
じぶんでも、光の ない ばしょの いきものに ついて しらべて みましょう。
あんぜんな ばしょで できる こと
- チューブワームや アルビンごうの しゃしんを、インターネットで さがして 見て みる。 どんな 見た目か、かぞくと いっしょに かくにんして みましょう。
- 「こうごうせい」と「かがくごうせい」の ちがいを、 じぶんの ことばで せつめいして みる。 この きじで しょうかいした ないようを つかって みましょう。
きょう 出て きた ことばを 1つだけ ノートに 書いて おきましょう。「光が なくても いきものが いきられる ばしょが ある」だけで じゅうぶんです。
自分でも、光のない場所の生きものについて調べてみましょう。
今日できること
- チューブワームやアルビン号の写真を、インターネットでさがして見てみる。どんな見た目か、家族といっしょに確認してみましょう。
- 「光合成」と「化学合成」のちがいを、自分の言葉で説明してみる。この記事で紹介した内容をつかってみましょう。
気になった言葉を1つだけ書いておくと、あとで調べる入口になります。「エンケラドゥスって、どんな星なの?」だけでも十分です。
光合成と化学合成のしくみを比較したり、熱水噴出孔生態系の写真や映像を検索したりすると、この記事で扱った内容がより具体的につかめます。
手を動かして確かめる
- 光合成と化学合成、それぞれのエネルギー源・原料・生成物を表にまとめてみる。何が同じで、何が違うのかを整理してみましょう。
- エウロパ・エンケラドゥスの探査計画について調べてみる。NASAやESAが計画している、氷衛星探査ミッションがあります。
一次情報にあたる
WHOI(ウッズホール海洋研究所)の特設ページには、1977年の発見にいたる経緯が、より詳しくまとめられています。
気になった数字や言葉を1つだけノートに記録しておきましょう。「熱水噴出孔が発見されたのは1977年」という一文でもかまいません。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
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出典について:研究機関・政府機関・専門誌の解説サイトを使っています。
- "1977: Astounding Discoveries" - Woods Hole Oceanographic Institution(ウッズホール海洋研究所)。 https://www.whoi.edu/feature/history-hydrothermal-vents/discovery/1977.html (1977年2月17日のアルビン号による発見、調査隊の構成、コリス・エドモンドの発言、標本保存の逸話についての解説)
- "Benchmarks: February 17, 1977: Hydrothermal vents are discovered" - EARTH Magazine。 https://www.earthmagazine.org/article/benchmarks-february-17-1977-hydrothermal-vents-are-discovered (発見の概要と、その後500以上の熱水噴出孔が発見されたことについての解説)
- "Hydrothermal Vents and Volcanoes" - NOAA Ocean Exploration(アメリカ海洋大気庁)。 https://oceanexplorer.noaa.gov/education/hydrothermal-vents-volcanoes-educators/ (化学合成のしくみ、硫化水素と化学合成細菌、チューブワームの共生関係についての解説)
- "Enceladus's Hydrothermal Vents Could Revolutionize the Search for Extraterrestrial Life" - Scientific American。 https://www.scientificamerican.com/article/enceladus-s-hydrothermal-vents-could-revolutionize-the-search-for-extraterrestrial-life/ (ロストシティの発見、エンケラドゥスの熱水活動の証拠、地球外生命探査への応用についての解説)
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