1. くろい インクが、いろに わかれる ふしぎ
1. 黒いインクが、色に分かれる不思議
1. 黒色インクは、なぜ複数の色に分かれるのか
紙を ほそながく きって、はしから 2cmくらいの ところに、くろい 水せいペンで てんを かきます。
はんたいがわの はしを 水に つけると、水が 紙を のぼって いきます。
すると、てんの いろが、いくつかの いろに わかれて いきます[1]。
くろい インクなのに、なぜ こんな ことが おきるのでしょう。
細長く切った紙のはしに黒い水性ペンで点を描き、反対側のはしを水につけると、水が紙をゆっくりのぼっていきます。すると、点の色が、思いがけない色に分かれていきます(ペーパークロマトグラフィーという実験です)[1]。
黒いインクは、本当は1つの色ではなく、いくつかの色が混ざってできているのでしょうか。
そもそも、インクには、どんな色のもとが入っているのでしょうか。
細長い紙のはしに黒い水性ペンで点を描き、反対側のはしを水につけると、水が紙をのぼるにつれて、点の色が複数の色に分かれていく(ペーパークロマトグラフィー)[1]。
黒い水性ペンのインクは単色ではなく、複数の色素の混合物であることがある。
インクの色のもとは、何でできているのか。
2. 色の もとには 2しゅるい ある
2. 色のもとは、染料と顔料の2種類
2. 色材の分類:染料と顔料
インクの 色の もとには、大きく 分けて 2しゅるい あります。「せんりょう」と「がんりょう」です。
せんりょうは、水に とけます。とけた 色が、紙に しみこみます。
がんりょうは、水に とけません。こまかい つぶの まま、紙の うえに のこります[2]。
この ちがいが、インクの せいしつを 大きく かえます。
3. なぜ 紙に のこるのか
3. インクが紙にしみこみ、残るしくみ
3. 毛細管現象と、繊維への定着
紙は、とても 細い せんい(くきの ような もの)が たくさん あつまって できて います。
せんいと せんいの あいだには、目に 見えない すきまが あります。
水や、水に とけた せんりょうは、この すきまを 通って、するする 上に のぼって いきます[4]。
インクが かわくと、せんいの あいだに からみついて、とれにくく なります。
紙は、とても細い繊維がたくさん集まってできています。繊維と繊維のあいだには、目に見えないすきまがたくさんあります。
水や、水に溶けた染料は、このすきまを通って、まるで細い管の中を水が上っていくように、自然に広がっていきます。これを毛細管現象といいます[4]。
インクが乾くと、染料や顔料が繊維のあいだに入りこんだまま固まり、こすったくらいでは取れなくなります。
では、昔の人は、このしくみをどうやって利用していたのでしょうか。
紙は微細なセルロース繊維が絡み合って構成されており、繊維間には目に見えない毛細管状のすきまが無数にある。
水や、水に溶けた染料は、この毛細管状のすきまを通って浸透していく(毛細管現象)[4]。
インクが乾燥すると、色素が繊維のあいだに取りこまれた状態で固定され、機械的に強く付着する。これが、インクをこすったり洗ったりしても消えにくい理由の一つである。
では、歴史上、このしくみはどのように利用されてきたのか。
4. むかしの インクの ものがたり
4. あとから黒くなる、昔のインクの物語
4. 没食子インク:酸化で現れる黒
むかし、中東や ヨーロッパでは「ぼっしょくしインク」という くろい インクが つかわれて いました[5][6]。
おもしろいのは、書いた 直後は、うすい はいいろで、ほとんど 見えないくらい だった ことです。
しばらく 空気に ふれて いると、だんだん こく なって、くろく かわって いきます[5]。
しかも、紙の せんいに からみついて かわくので、こすったり あらったり しても、消えにくく なります[5]。
でも、この むかしの インクは、書いた ときに 色が うすくて、字が 見づらいという こまった 点も ありました。いまの インクは、どう やって いるのでしょう。
「没食子インク(鉄インク)」という黒いインクの最初のレシピは、中東で9世紀ごろに現れ、ヨーロッパでは12世紀ごろから広まって、19世紀ごろまで手紙や公文書を書くのに使われていました[6]。
このインク、書いたばかりのときは、うすい灰色でほとんど見えないくらいです。
ところが、空気中の酸素に触れていると、含まれる鉄の成分がゆっくり変化して、少しずつ濃い紫黒色に変わっていきます[5]。処方によって色や変化の速さには違いがありますが、書いた文字が、あとから浮かび上がるように黒くなっていく。当時の人は、こうしてこのインクを使っていました。
しかも乾くと、紙の繊維に強くからみついてしまうため、こすったり洗ったりしても消しにくいインクでした[5]。
ただし、書いたばかりのときは色が薄く読みづらいという弱点もありました。「消えない」と「読みやすい」、この2つを両立させるために、いまのインクはどんな工夫をしているのでしょうか。
「没食子インク(鉄没食子インク)」と呼ばれる黒いインクの最初のレシピは、中東で9世紀ごろに現れ、ヨーロッパでは12世紀ごろから19世紀ごろにかけて、筆記・記録用に広く使われた[6]。
没食子インクは、虫こぶ(没食子)から得られる没食子酸やタンニン酸と、硫酸鉄(II)を混ぜて作る。一般的なしくみとして、書いた直後は鉄が2価のイオン(Fe2+)の状態にあるため、ほぼ無色・薄灰色にしか見えない(処方によって色や変化の速さには違いがある)[5]。
空気中の酸素によって鉄が2価から3価のイオン(Fe3+)に酸化されると、不溶性の黒い色素ができて、時間とともに濃い紫黒色に変わっていく[5]。
乾いたインクは紙の繊維のあいだに深く浸透し、繊維に絡みついて固まるため、機械的に強く付着し、こすったり洗ったりしても消えにくい[5]。
一方で、書いた直後は薄く読みにくいという弱点もあった。「消えない」ことと「読みやすい」ことを、現代のインクはどう両立させているのか。
5. いまの インクの つかいわけ
5. 今のインクは、道具によって使い分けられている
5. 現代のインクの使い分け:万年筆・朱肉・プリンター
いまの 万年筆の インクは、おもに「せんりょう」で できて います。水に とけやすく、なめらかに 書けて、色も きれいに 出ます[7]。
でも、はんこの「しゅにく」は、多くが「がんりょう」で できて います。しゅにくは、いちど おしたら なんねんも のこさなければ いけないので、水や 光に つよい インクが むいて います[9]。
「なめらかに 書ける」か、「ずっと きえない」か。何を だいじに するかで、つかう インクが かわります。
いまの万年筆用インクは、水と染料を主な材料に、にじみを調整する成分や、乾かないようにする成分、雑菌が増えないようにする成分などが加えられています[8]。染料インクは水に溶けて発色がきれいで、ペン先の中でトラブルが起きにくいという長所があります[7]。
一方、朱肉(実印や重要な書類に使う赤い印を押すための道具)は、一度押したら何年も残さなければなりません。そのため、水や光に強い油性の顔料がよく使われます[9]。
スタンプ台は、何度も連続して押す場面で使われることが多いため、乾きが早い染料インキを選ぶ製品も多いといいます(製品によって染料・顔料はさまざまです)[10]。
プリンターのインクも、同じトレードオフを抱えています。染料インクは紙に染みこんで発色がきれいですが水に濡れるとにじみやすく、顔料インクはにじみにくく耐光性に優れています[11]。「なめらかに書ける・鮮やかに映る」染料と、「消えない・にじまない」顔料。目的に応じて、この2つが使い分けられています。
現代の万年筆用インクは、色材(染料または顔料)と水を軸に、書き味やインクの寿命を支える複数の成分が加えられている。粘度やにじみを調整する界面活性剤、酸性度を保つpH調整剤、乾燥を防ぐ保湿剤、雑菌の繁殖を抑える防腐剤などである[8]。染料インクは水に溶けやすく発色が良い一方、水に濡れるとにじみやすく、光による退色(色あせ)も起こりやすい[7]。
対照的に、朱肉は一度の押印で何年も残さなければならないため、水や光に強い油性顔料がよく使われる[9]。スタンプ台は連続してなつ印する場面が多いため、乾きが早い染料インキを選ぶ製品も多い(製品によって染料・顔料はさまざまである)[10]。
インクジェットプリンターも同じトレードオフを抱えている。染料インクは紙に染みこんで色鮮やかに発色するが水に濡れるとにじみやすく、顔料インクはにじみにくく耐光性・保存性に優れる[11]。「なめらかに書ける・鮮やかに映る」染料と、「消えない・にじまない」顔料。目的に応じて、この2つが使い分けられている。
6. 色が うすく なったり、わかれたり する わけ
6. 色があせる理由、分かれる理由
6. 退色のしくみと、黒いインクが色に分かれる理由
せんりょうは、光に あたると、すこしずつ 色が うすく なって いきます。がんりょうは、光に つよく、色が のこりやすいです[2]。
さいしょの といに もどりましょう。くろい インクを 水に つけると、色が わかれるのは なぜでしょう。
じつは、くろい 水せいペンの 中には、いくつかの 色の せんりょうを まぜて いる ものが あります。紙の 上を のぼる いきおいは、色によって バラバラです。水に とけやすい 色は、かけっこの はやい 子の ように どんどん さきへ すすみ、紙の せんいに くっつきやすい 色は、足が おもく なった ように どんどん おそく なります。ただし 本当は、目に 見える レースでは なく、目に 見えない くらい 小さな つぶの うごきです。この すすみかたの ちがいによって、色が わかれて 見える わけです[12]。
1本の くろい ペンの 中に、いろんな 色が かくれて いました。
染料は、太陽の光(紫外線)に当たり続けると、色素の分子が少しずつ壊れて、色があせていきます。顔料は、この光による劣化に強いという特徴があります[2]。
ここで、最初の問いに戻りましょう。黒い水性インクを水につけると、なぜ色が分かれていくのでしょうか。
実は、黒い水性ペンの中には、複数の色の染料を混ぜて黒色を作っているものがあります。それぞれの染料は、水に溶けやすさや紙の繊維への吸着しやすさが少しずつ違うため、紙の上を移動する速さに差が生まれます。水に溶けやすい染料は水といっしょに速く進み、紙の繊維に吸着されやすい染料はゆっくりとしか進まず、取り残されます[12]。
その結果、進んだ距離の違いとして、色が分かれて見えるようになるのです。1本の黒いペンの中には、実はいくつもの色が隠れていました。
染料は紫外線などの光を受け続けると、色素分子の構造が徐々に分解され、退色(色あせ)が進む。顔料は分子の集合体として物理的・化学的に安定しているため、光による劣化に強い[2]。
ここで、冒頭の問いに戻る。黒い水性インクを水につけると、なぜ色が分かれるのか。
黒色水性インクの中には、単色の色素ではなく、複数の染料を混合して黒色を作り出しているものがある。色素ごとに、水に溶けやすいか・紙の繊維に引っかかりやすいかという性質が違うため、紙の上を進む速さに差が出る。水と仲が良い色素はどんどん先へ進み、繊維とくっつきやすい色素はその場でブレーキがかかる。この進んだ距離の違いが、目に見える色の分離として現れる[12]。
1本の黒いペンの中には、実は複数の色素が隠れていたのである。
じぶんでも やって みる
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
家に ある くろい 水せいペンで、じっさいに ためして みましょう。
やって みる
- 紙を ほそながく きって、はしから 2cmの ところに 点を かく。はんたいの はしを、水を 入れた コップに つける[1]。
- いろんな 色の ペンで ためして、わかれかたを くらべて みる。
水を こぼさない ように、テーブルに タオルを しいて やりましょう。ペンの インクは ふくに つくと とれにくいので、気を つけましょう。紙を きる ときは、おうちの 人と いっしょに、はさみを ゆっくり つかいましょう。つかった コップは、じっけんの あとで のみものに つかわず、よく あらいましょう。
家にある黒い水性ペン(水性サインペンやフェルトペン)で、実際にペーパークロマトグラフィーを試してみましょう。
やってみる
- コップに少し水を入れ、細長く切った紙(幅5mm〜1cm、長さ15cmくらい)のはしから2cmのところに、水性ペンで点を描く。点を描いた反対側のはしを割りばしに挟み、紙のはしがコップの水につかるようにする[1]。
- ペンのメーカーや色によって、分かれ方が違うかどうかを比べてみる。
水をこぼさないよう、机の上にタオルなどを敷いてから行いましょう。ペンのインクは服につくと取れにくいので気をつけましょう。紙を切るときははさみで手を切らないよう注意し、使ったコップは実験後に飲みものへ使わず、よく洗いましょう。
自分の手で確かめる
- コップに少し水を入れ、幅5mm〜1cm・長さ15cmほどに切った紙のはしから2cmの位置に、水性ペンで点を描く。反対側のはしを割りばしに挟み、点を描いた側の紙のはしがコップの水面につかるように調整する[1]。
- 複数のペン(メーカーや色違い)で試し、分かれ方の違いを比べる。
原典で確かめる
- 色材学会誌の解説記事で、染料と顔料の違いをもっと詳しく読む。粒子の状態・分散のしくみが専門的に説明されている[3]。
- 没食子インクの化学的なしくみについて、詳しい解説記事を読む。鉄イオンの酸化反応が説明されている[5]。
水をこぼさないよう、机の上で行い、ペンのインクが服につかないよう気をつけましょう。紙を切るときははさみの扱いに注意し、使ったコップは実験後に飲みものへ使わず、よく洗いましょう。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
この記事は、下にあげた公開情報をもとに書いています。文章や図を無断で転載してはいません。もっと正確に知りたいときは、必ず下の出典にあたってください。リンク先の内容や、リンク先で起きたことについて、当サイトは責任を負いません。
出典について:産業技術総合研究所、色材学会誌(J-Stage)、サクラクレパス、セーラー万年筆、dig-it、トンボ鉛筆、エプソン、ハンブルク大学写本文化研究センター、Wikipediaなどの公開情報を使いました。朱肉・スタンプ台の使い分けは、印鑑の販売事業者による解説記事(cocomo・シャチハタ館)を参考にしており、公式な業界標準ではない点にご注意ください。このメモは、これらの機関・企業のものではなく、個人のまとめです。
- 産業技術総合研究所「ペーパークロマトグラフィー」(サイエンス・タウン)。 https://www.aist.go.jp/science_town/dream_lab/13/ (実験の手順、水性ペンのインクが色に分かれる観察)
- サクラクレパス「顔料と染料の違い」。 https://www.craypas.co.jp/press/feature/007/sa_pre_0008.html (染料は水に溶ける・顔料は溶けない、耐光性の違い)
- 伊藤征司郎「顔料概論」『色材』83巻7号、308–316頁、2010年(J-Stage)。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/shikizai/83/7/83_7_308/_pdf (顔料は分子状態でなく粒子状態で分散して定着すること、染料との対比)
- トンボ鉛筆「インク誘導について(毛細管現象)」。 https://www.tombow.com/mamechishiki/m29/ (紙の繊維の隙間を水やインクが上る毛細管現象の説明)
- Wikipedia「没食子インク」。 https://ja.wikipedia.org/wiki/没食子インク (成分、鉄イオンの酸化による発色、紙の繊維への定着。使用時期は[12]とあわせて確認した)
- University of Hamburg, Centre for the Study of Manuscript Cultures「Iron-gall ink」(Profiling Guide)。 https://www.csmc.uni-hamburg.de/profiling-guide/materials/writing-substances/black-inks/iron-gall-ink.html (中東での最初のレシピは9世紀、ヨーロッパのレシピは12世紀以降という使用時期の整理)
- セーラー万年筆「インクの染料と顔料の違いについて」。 https://sailor.co.jp/faq/fountain-pen-ink-type/ (万年筆用の染料インク・顔料インクそれぞれの特徴、耐水性・耐光性)
- Dig-it「万年筆インクの種類・使い方・入れ方・お手入れ方法の基本」。 https://dig-it.media/shumibun/article/751744/ (インクの主成分:色材・水・機能付与剤〔界面活性剤・pH調整剤・保湿剤・防腐剤〕)
- cocomo(印鑑販売事業者のコラム)「朱肉とスタンプ台の違いは?法的効力と間違えたときの対処法」。 https://cocomo-s.com/blogs/column/syuniku-pad (一般的な朱肉が油性顔料を使う理由、長期保存への適性)
- シャチハタ館(印鑑販売店のFAQ)「染料インキと顔料インキの違いは何ですか?」。 https://shachihata.hankoya.com/faq/st_ink03.html (染料インキ・顔料インキの粒子の大きさの違い、乾燥速度)
- エプソン「今さら聞けない染料インク顔料インクの違い」。 https://www.epson.jp/katsuyou/photo/article/ink/ (プリンターの染料インク・顔料インクの紙への定着の違い)
- THE WONDER「ペーパークロマトグラフィーとは?色が変わる仕組みを実験で学ぼう!」。 https://thewonder.it/article/147/description/ (色素の親水性の違いによって紙を上昇する速さが異なり、色が分離するしくみ)
なおした ところ
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