1. かゆみって、なんの ために あるの?
1. かゆみは、体が出す「何かが来た」という警告
1. かゆみの定義 ── 異物の侵入を知らせる防御反応
かゆみは、いやな かんじです。でも、なにも いい ことが ない わけでは なさそうです。
体の そとから、よくない ものが はいって きた ときに、「はやく とって」と しらせる はたらきが ある、と せつめいされています[1]。
かゆいと、手が かってに いきますよね。かゆみは、「かきたい」という きもちを つくる かんじ、と いわれます。
かゆみの定義
かゆみは、医学の世界では「掻きたいという欲望を起こさせる不快な感覚」と定義されています。ただ不快なだけではなく、異物が体に入ってくることを知らせる、防御反応の面もあると説明されています[1]。
皮膚に何かが付いたとき、かゆみで気づいて払いのける。そう考えると、「かきたくなる」ことにも意味がありそうです。この意味が、あとの章で少し複雑になります。
かゆみは、東北大学の医療系メディアで「掻破したいという欲望を起こさせる不快な感覚」と定義され、異物の体内侵入を警告する防御反応の面があると説明されている[1]。掻破とは、掻くことだ。
警告として働くなら、掻くという行動は異物を払う側の反応に当たる。ただし、この見方は、後の章で述べるように、慢性のかゆみでは当てはまりにくくなる。
2. かゆみだけ かんじない マウスが いた
2. かゆみ専用の神経がある ── かゆみだけを消したマウス
2. かゆみと痛みは別の経路で伝わるのか ── GRPR発現神経を除いたマウス(2009年)
かゆみは、皮膚の したに ある 神経が つたえます。この 神経の なかまが、かゆみに かかわって います[8]。
では、かゆみと いたみは おなじ ものなのでしょうか。
ある けんきゅうでは、せきずいの ある 神経の なかまを とりのぞいた マウスを しらべました。すると、かゆく なる ものを つけても、あまり かかなく なりました。でも、いたい ことに たいする うごきは かわりませんでした[3]。
かゆみには、いたみとは べつの みちが ある らしい、と 考えられて います。ただ、これは マウスの じっけんです。
かゆみは、どの神経が運ぶのか
皮膚にある神経のうち、細くて信号がゆっくり伝わる「C線維」が、かゆみに関わっています[8]。かゆみと痛みが別の経路で伝わるのかは、次のマウスの実験が手がかりになります。
かゆみだけが消えたマウス
2007年に、脊髄の表面近くにある受容体(GRPR)が、かゆみの伝達に関わると報告されました[4]。2009年の研究では、この受容体をもつ脊髄の神経細胞を取り除いたマウスで、試したどのかゆみの刺激でも、掻く行動が大きく減りました。ところが、痛みに対する行動は変わりませんでした[3]。
かゆみと痛みには別の回路がある、という見方を支える結果です。ただしこれはマウスの実験で、人でまったく同じとは書かれていません。
3. かゆみの もとは、ひとつでは ない
3. かゆみの原因物質はヒスタミンだけではない
3. 末梢の受容体の多様性 ── ヒスタミン非依存のかゆみ
かゆみ どめの くすりを ぬっても、かゆみが とまらない ことが あります。
その わけは、神経の さきに、かゆみを かんじる しくみが いくつも あるから、と せつめいされて います。ヒスタミンという ものを かんじる しくみは、その ひとつに すぎません[2]。
たとえば、マラリアという びょうきの くすりの ひとつは、かゆみを おこす ことが あり、かゆみを かんじる しくみが しらべられて きました[5]。
4. かくと らくに なるのに、あとで かゆく なる
4. かくと痛みが出て、脳の物質がかゆみを強める
4. 掻破とセロトニン ── 5-HT1AとGRPR神経の活性化(2014年)
かくと、ほんの すこし、いたみが 出ます。この いたみを おさえる ために、のうが セロトニンという ものを 出す、と マウスの けんきゅうで わかりました[6]。
ところが、この セロトニンが、せきずいの かゆみの 神経を はたらかせて、かゆみを つよく して しまうと いいます[6]。
たとえると、うるさい 音を けそうとして、もっと おおきな 音を 出して しまうような もの です。ただし、ほんとうの しくみは、もっと ふくざつです。
せきずいには、かゆみを おさえる 神経も ある、と マウスで しらべられました[7]。
かくと、脳がセロトニンを出す
かくと、皮膚には弱い痛みが生じます。マウスの研究では、この痛みを抑えるために脳がセロトニンを出しますが、セロトニンは脊髄で5-HT1A受容体を通じて、かゆみを伝えるGRPR神経を活性化し、かゆみを強めるとされました(2014年、Neuron)[6]。
楽になろうとしてかいたことが、かゆみを強める方向にも働く。そんな「裏目」の連鎖が、神経の中で起こりうるという報告です。人でも同じ仕組みが働くかは、マウスの研究だけでは言えません。
かゆみにブレーキをかける神経
脊髄には、かゆみを抑える神経(抑制性の介在ニューロン)もあります。これを欠くマウスは、皮膚に傷ができるほど掻くようになりました(2010年、Neuron)[7]。痛みとかゆみの間の抑制に関わる可能性が示されています。
Zhao らは2014年に、マウスで、掻くことで生じる弱い痛みを抑えるために脳がセロトニンを放出し、これが脊髄で5-HT1A受容体を介してGRPR神経を活性化し、かゆみを増強することを報告した。WashU の解説記事では、この結果を「掻くと脳がセロトニンを出し、かゆみが強まる」と説明している[6]。ヒトでも同じ仕組みが働くかは、マウスの研究だけでは言えない。
抑制の側では、Ross らが2010年に、Bhlhb5由来の抑制性介在ニューロンを欠くマウスが、自分で皮膚に傷をつくるほど掻くことを示した[7]。痛みとかゆみの間の抑制に関わる可能性が示されたが、掻くと一時的に楽になる仕組みそのものは、この研究からは言えない。
5. 皮膚の ほうでも、おこって いる
5. 皮膚の側でも悪循環が進む
5. 掻くと皮膚のバリアが壊れ、神経が表皮に伸びて閾値が下がる
かくと、皮膚の まもる ちからが よわく なります。よくない ものが はいりやすく なるので、それに すぐ きづく ために、神経が 皮膚の ひょうめんに ちかい ところまで のびて くる、と せつめいされて います[1]。
すると、ちょっとした ことでも かゆく なります。かゆみの かんじやすさが、かわって しまうのです。これが 「かゆみと かく ことの ぐるぐる」です[8]。
6. かく ことは、ぜんぶ わるい こと?
6. かくことには得もあるらしい ── 2025年の報告
6. 掻破の利点 ── 皮膚の細菌を減らすという報告(2025年)
2025ねんに、マウスの みみを しらべた けんきゅうが ありました。かくと、いたみを かんじる 神経から ものが 出て、皮膚の かゆみの はんのうが つよく なりました。同時に、皮膚の うえの 細菌の 一つが へりました[9]。
かく ことには、わるい ところと、いい ところの 両方が ある かも しれません。でも、これも マウスの はなしです。
かくと炎症が強まるが、細菌は減った
2025年にScienceに載った研究では、マウスの耳で、かくと痛みを感じる神経からサブスタンスPという物質が出て、肥満細胞を活性化しました。その結果、好中球が集まって皮膚の炎症が強まりました。同時に、皮膚の表面にいる黄色ブドウ球菌は減りました[9]。
かくことは、炎症を強める損と、細菌を減らす得の両方をもつことになります。ただ、マウスの耳の実験なので、人の長引くかゆみでも得が上回るとは言えません。
Liu らは2025年1月30日付のScienceで、マウスの実験により、掻くと痛みを感じる神経からサブスタンスPが放出され、肥満細胞を活性化して好中球を集め、皮膚の炎症を強めることを報告した。同時に、皮膚表面の黄色ブドウ球菌は減った[9]。
この報告は、掻破が炎症を悪化させるだけでなく、宿主防御としても働きうることを示す。ただしマウスの耳での結果で、ヒトの慢性のかゆみで利点が損を上回るとは言えない。ここまで見てきた悪循環と合わせて、掻破は状況によって利害が変わる行動、と見るのが妥当だろう。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
かゆく なった とき、かく まえに、どんな かゆみか ことばに して みましょう。「ちくちく」「じわじわ」など、きめなくて いいです。かゆみに にんげんの かんじ方が あることに きづきます。
ひどい かゆみが つづく ときは、おうちの 人に はなして、おいしゃさんに みて もらいましょう。
今日できること:かゆくなったとき、かく前に一呼吸おいて、「ちくちく」「じわじわ」「むずむず」のどれに近いかを言葉にしてみます。感覚の違いを言葉にすることが、かゆみに種類がありそうだという話への入口になります。
公的情報:日本皮膚科学会の皮膚瘙痒症診療ガイドラインは一般向けの解説がなく難しいので、まず日本語のMSDマニュアル家庭版「かゆみ」から読むと分かりやすいです[10]。ここには、体重減少・疲労・寝汗があるときや、重いかゆみがあるときは受診が勧められる、と書かれています。この記事は医療の助言ではなく、症状の相談は医師にしてください。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:日本皮膚科学会のガイドライン、医療系の解説、論文の抄録と紹介記事を使った。何に使ったかは項目の最後に書いている。
- 東北大学医療系メディアLIFE「かゆみのメカニズムと皮膚バリア機構」。https://www.life.med.tohoku.ac.jp/knowledge/32970/ (かゆみの定義、防御反応、バリアと神経の悪循環について)
- 順天堂 GOOD HEALTH JOURNAL。https://goodhealth.juntendo.ac.jp/pickup/000005.html (C線維、かゆみの受容体の多様性、抗ヒスタミン薬が効かない理由について)
- Sun et al., Cellular basis of itch sensation, Science 325:1531 (2009)。https://doi.org/10.1126/science.1174868 (GRPR発現神経を除いたマウスで掻く行動が減った実験について)
- Sun and Chen, A gastrin-releasing peptide receptor mediates the itch sensation in the spinal cord, Nature (2007)。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17653196/ (GRPRとかゆみの関わりについて)
- Central circuit mechanisms of itch, Nature Communications (2020)。https://www.nature.com/articles/s41467-020-16859-5 (MrgprA3とクロロキンによるかゆみについて)
- WashU「Why scratching makes you itch more」(2014)。https://source.washu.edu/2014/10/why-scratching-makes-you-itch-more/ (掻くとセロトニンが出てかゆみが強まるマウス研究の紹介について)
- Ross et al., Loss of inhibitory interneurons in the dorsal spinal cord and elevated itch in Bhlhb5 mutant mice, Neuron 65:886 (2010)。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20346763/ (かゆみを抑える神経を欠くマウスについて)
- 日本皮膚科学会「皮膚瘙痒症診療ガイドライン2020」。https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/souyouGL2020.pdf (神経線維の表皮内侵入とかゆみ閾値の低下について)
- ScienceDaily「Scratching promotes allergic inflammation and host defense」(2025-01-30、Science論文の紹介)。https://www.sciencedaily.com/releases/2025/01/250130161631.htm (掻くと炎症が強まり黄色ブドウ球菌が減ったマウス実験について)
- MSDマニュアル家庭版「かゆみ」。https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/17-...(かゆみ) (かくことの悪循環と受診の目安について)
なおした ところ
更新履歴
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