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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

おなじ へやに いるのに、じぶんだけ かに さされるのは なぜ?

蚊に「よく寄られる人」はいるのか ── 遺伝・細菌・お酒・血液型、証拠の強さを比べる

蚊に寄られやすさの個人差 ── 肌のにおい・遺伝率・皮膚細菌・飲酒・ABO式血液型の研究(2004〜2022年)

分野:生きもの

みんなで キャンプを して いるのに、かに さされるのは いつも おなじ 人。そんな ことは ありませんか。ただの 気のせいなのか、しらべた 人たちが います。

ひとつの 答えは まだ ありません。いろいろな かんがえを、しょうこの つよさと いっしょに 見て いきます。

同じ部屋、同じ時間に外にいたのに、蚊に刺されたのは自分だけ。これは気のせいなのか、それとも本当に「寄られやすい人」がいるのか。

実験で確かめた研究をたどると、原因の候補は遺伝、皮膚の細菌、お酒、血液型といくつも出てきます。ただし、どの説明も証拠の強さがちがいます。それを見比べていきます。

蚊に寄られやすさには個人差があることが、実験で示されている。原因の候補としては、肌のにおい成分[1]、遺伝[2]、皮膚の細菌[3]、飲酒[4]、血液型[5]などが報告されている。

このメモでは、それぞれの研究が何をどこまで調べたのか、著者自身が限界をどう書いているのかを、原典ベースで突き合わせる。「O型が刺されやすい」は広く知られた話だが、研究ごとに結果が割れることも含めて確認する。

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1. きのせいでは ないの?

1. 「寄られやすさ」は、実験で測れる

1. 個人差の測定 ── 64人の肌のにおいを蚊に選ばせた実験(2022年)

2022年に、64人が きょうりょくした 研究が ありました。人の はだの においを、かに えらばせる のです。

すると、よく よられる 人と、あまり よられない 人が、はっきり わかれました。いちばん よられた 人は、つぎの 人の 4ばい。あまり よられなかった 2人と くらべると、100ばい いじょうでした[1]。

この ちがいは、なんか月 たっても あまり かわりませんでした[1]。ただ、つかった かは ネッタイシマカで、しらべた のは におい だけです。日本の かで おなじ ことが おきるとは、まだ いえません。

蚊に選ばせる実験

2022年の研究では、19〜57歳の64人が協力しました。それぞれの肌のにおいを蚊に選ばせて、どれくらい寄られるかを点数にしました[1]。

数か月たっても変わらない差

いちばん寄られた人は次の人の4倍、最も寄られなかった2人と比べると100倍以上の点数でした。この差は数か月たっても安定していて、蚊の系統を変えても同じ傾向でした[1]。

ただし、この研究で使った蚊はネッタイシマカで、調べたのは肌のにおいだけです。日本の蚊でも同じかどうかは、この研究からは分かりません。蚊が人を見つける順序は、別のメモで扱っています。

De Obaldiaらは、19〜57歳の64人の肌のにおいをネッタイシマカに選ばせ、寄られやすさを点数化した。最も寄られた人は次点の約4倍、最も寄られなかった2人の100倍以上の点数を示し、この差は数か月にわたって安定していた。2系統の野生型の蚊でも同様だった[1]。

ここでの「個人差」は、実験室のネッタイシマカと肌のにおいだけの結果である。また、皮膚のカルボン酸の量との関係も調べられているが、著者自身が、カルボン酸の量が直接の原因だとは結論できないと述べている[1]。相関であって、因果は未確認ということだ。

2. ふたごを くらべると、なにが わかるの?

2. 双子を比べると、遺伝の影響が見えてくる

2. 双子研究 ── 一卵性18組・二卵性19組と遺伝率0.62(2015年)

おなじ 家で そだつ 人は、たべものも すむ ところも にて います。それでも、ちがいが あるのでしょうか。それを 見る ために、ふたごの 手の においを 使った 研究が あります。

いちらんせいの ふたごは、いでんの もとが そっくりです。にらんせいの ふたごは、ふつうの きょうだいくらい にて います。

いちらんせいの ふたごの ほうが、かに よられる ぐあいが にて いました。いでんの えいきょうは 0.62と 見つもられました[2]。

ただし、これは 「62%が いでんで きまる」という 意味では ありません。人の あつまりで 見た ときの 数字です。

遺伝の影響を調べる方法

一卵性の双子は、遺伝子がほぼ同じです。二卵性の双子は、ふつうのきょうだいと同じくらい違います。この差を使えば、においの好みに遺伝がどれだけ関わるかを推定できます。

2015年の研究には、女性の一卵性18組と二卵性19組が協力しました。手のにおいを蚊に選ばせたところ、一卵性のほうが、双子どうしの寄られやすさが似ていました。遺伝の影響を表す数字は0.62と推定されました[2]。

数字の読み方

0.62は、この集団での推定です。ある人の62%が遺伝で決まる、という意味ではありません。著者自身も、標本が小さく結論の精度に限りがあること、対象が閉経後の女性の手のにおいとネッタイシマカ1種だけであること、どの化学物質が違いを生むかは不明であることを書いています[2]。

Fernández-Grandonらは、女性の一卵性双生児18組と二卵性双生児19組の手のにおいに対するネッタイシマカの反応を比較し、一卵性のほうが双子間の類似が大きいことを見いだした。相対的な誘引性の狭義の遺伝率は0.62(標準誤差0.124)と推定された[2]。

遺伝率は集団についての推定値であり、個人の何割が遺伝で決まるかを示すものではない。著者自身が、標本が小さく精度に限りがあること、対象が閉経後の女性の手のにおいとネッタイシマカ1種に限られること、違いを生む化学物質と関与する遺伝子は未特定であることを挙げている[2]。

3. はだの ばいきんも かんけい するの?

3. 皮膚にすむ細菌の数と種類

3. 皮膚細菌叢と誘引性 ── 男性48人の調査(2011年)

人の はだには、たくさんの ちいさな 生きものが すんで います。さいきんと いう ものです。はだの うえで くらして います。

2011年の 研究では、おとこの 人 48人を しらべました。かに つよく よられる 人は、はだの さいきんの 数が 多く、しゅるいは すくない ようでした[3]。

ただし、つかった かは マラリアを はこぶ ハマダラカで、日本では ふつう 見ません。子どもや 女の人で おなじかは、わかって いません。

皮膚にすむ細菌を調べる

皮膚には、たくさんの細菌がすんでいます。2011年の研究では、20〜64歳の男性48人の皮膚の細菌を調べ、蚊に寄られやすさと比べました[3]。

マラリアを運ぶハマダラカに強く寄られた人は、寄られにくい人より、皮膚の細菌が多く、種類は少ない傾向がありました[3]。

この結果が言えること・言えないこと

対象は男性で、蚊はハマダラカです。日本にいる蚊や、女性・子どもについては、この研究からは分かりません。細菌が寄られやすさの原因なのか、寄られやすい人にたまたま多いだけなのかも、この結果だけでは決められません。

Verhulstらは、20〜64歳の男性48人の皮膚細菌叢を調べ、マラリア媒介蚊Anopheles gambiaeに強く誘引される人は、誘引されにくい人より皮膚の細菌の存在量が有意に多く、多様性が低いと報告した[3]。

対象は男性のみで、蚊はハマダラカである。日本の蚊、女性、子どもへの一般化は未確認だ。また、この結果は関連を示すもので、細菌が誘引性を生む原因かどうかは、この研究のみでは決まらない。

4. おさけを のむと、どうなるの?

4. お酒を飲むと蚊に寄られやすくなった、理由は不明

4. 飲酒実験 ── ブルキナファソの男性43人とハマダラカ(2010年)

アフリカの ブルキナファソで、おとこの 人 43人が きょうりょく した 研究が あります。25人は 土地の おさけ、18人は 水を のみました。

おさけを のんだ 人の においは、のんで 15ふん ほど あとに、かを 近づけました。水を のんだ 人は、かわりませんでした[4]。

いきの にさんかたんそや 体の あつさが ふえたから、とは いえませんでした。どうして おさけで かわるのか、けんきゅうした 人たち 自身も、まだ わからないと 書いて います[4]。

お酒を飲む人と、水を飲む人

2010年にブルキナファソで、男性43人が協力した実験があります。25人が地元のお酒ドロ(アルコールは約3%)を、18人が水を飲みました。飲んで約15分後の全身のにおいを、ハマダラカに選ばせました[4]。

お酒を飲んだ人の周りでは、蚊が飛び立ち、近づく割合が上がりました。水を飲んだ人では変わりませんでした[4]。

息や体温では説明できなかった

「息の二酸化炭素が増えたから」「体温が上がったから」と考えたくなりますが、この実験では、寄られやすさの増加はそれらでは説明できませんでした。研究者自身が、理由は今のところ不明だと書いています[4]。飲む量と刺されやすさの一般的な法則、というわけではありません。

Lefèvreらは、ブルキナファソで男性志願者43人を、ドロ(アルコール約3%)を飲む25人と水を飲む18人に分け、飲用後約15分の全身のにおいに対するAn. gambiaeの反応を調べた。ドロの飲用後は蚊の活性化と誘引の割合が高まり、水では変化がなかった[4]。

増加は、呼気の二酸化炭素量や体温の変化では説明されなかった。著者は、飲酒後に誘引性が高まる直接の理由は現時点で不明としている[4]。対象は男性、蚊はハマダラカ、飲料は1種類であり、飲酒量と誘引性の一般則としては読めない。

5. 「O がたが さされやすい」は ほんと?

5. 「O型が刺されやすい」は、どこまで言えるか

5. ABO式血液型 ── 2004年の着地試験と、割れる先行研究

「O がたは かに さされやすい」と 聞いた ことが ある 人も いるでしょう。2004年の 研究では、64人の はだに ヒトスジシマカを とまらせました。

いちばん とまられたのは O がたでした。じゅんばんは O、B、AB、A です。でも、はっきり ちがいが あったのは、O と A の あいだだけでした[5]。

ほかの 研究では、ちがう こたえも あります。「O がた だけ」とは いえません[5][6]。

64人の皮膚にヒトスジシマカを止まらせる

2004年の研究では、64人の皮膚に、口を切り取ったヒトスジシマカのメスを止まらせました。血を吸わないようにしたうえで、どれくらい止まられるかを数えたのです[5]。

止まられた数は、O型が最も多く、O、B、AB、Aの順でした。ただし、統計的に意味のある差があったのは、O型とA型の間だけでした[5]。

研究ごとに結果は割れる

同じ研究では、体液に血液型物質を出す「分泌型」の人で、O型の分泌型のほうがA型の分泌型より止まられる割合が高い結果でした(83.3%と46.5%)。ただ、皮膚に血液型の糖を塗った実験でも、血液型ごとの差は十分には説明できませんでした[5]。

O型を好んだ古い報告もありますが[6]、蚊の種類や方法によって、AB型やA型が多く刺されたとする研究もあるとされ、結果は一致していません。

Shiraiらは、64人のボランティアを対象に、口部を切除したヒトスジシマカのメスによる着地試験を行った。O型が最も多く着地され、O>B>AB>Aの順だったが、有意差があったのはO型とA型の間だけだった[5]。

同研究では、分泌型どうしでは、O型への着地の割合(83.3%)がA型(46.5%)より有意に高かった。ただし、皮膚に血液型抗原を塗った実験でも、血液型ごとの差は十分には説明されなかった[5]。

O型を好むとする1972年(ハマダラカ)の報告[6]などがある一方、AB型やA型が好まれたとする研究もあるとされ、蚊の種や方法により一致しない。断定は避ける。「O型が刺されやすい」は、1つの研究に根拠があるが弱い、という位置づけになる。

6. かは、ひとつだけで きめて いるの?

6. 蚊は、いくつもの手がかりで判断している

6. 複数の手がかり ── 二酸化炭素・熱・においの組み合わせ

かは、人の いきの にさんかたんそに よって きます。そこから、ねつや においも たよりに して いると いわれます[7]。

日本の せつめいでも、かは いろいろな センサーを つかって、ちを すう かどうかを きめて いる とされて います。だから、ひとつだけで きまる わけでは ありません[8]。

この メモで 見た かんがえは、どれも ぜんぶを せつめい できて いません。ちょうど、いくつかの ヒントが かさなって、ある 人が 「よられやすい」と なる のかも しれません。

息の二酸化炭素が入り口

人の息には二酸化炭素が約4%含まれ、蚊を活発にして引きつけます。二酸化炭素を感じられない変異蚊では、二酸化炭素があるときの熱や乳酸への反応も見られませんでした。二酸化炭素が、ほかの手がかりへの反応を助けているようです[7]。

1つだけでは決まらない

二酸化炭素は、ほかの手がかりへの反応を助けることが示されています。日本の一般向けの解説でも、血液型のような1つの特徴だけでは決まらないと説明されています[8]。

ここまでの研究は、においの成分、遺伝、皮膚の細菌、お酒、血液型と、別々の方向から見ています。どれか1つが正解というより、いくつもの要素が重なっている可能性がありそうです。ただし、日本の蚊で個人差の原因を調べた研究は、今回見つけた範囲では血液型の研究しかありませんでした。

ヒトの呼気に約4%含まれる二酸化炭素は、蚊の強い行動活性化物質・誘引物質である。二酸化炭素を感知できない変異蚊では、二酸化炭素があるときの熱や乳酸への反応も見られなかった。二酸化炭素が他の手がかりへの反応を助けると解釈されている[7]。

日本の一般向け解説でも、蚊は二酸化炭素・視覚・嗅覚・湿度・温度などを使って吸血の可否を判断するため、血液型のような単一の特徴では決まらないとされる[8]。

ここまでに見た研究は、蚊の種(ネッタイシマカ・ハマダラカ・ヒトスジシマカ)、対象者(女性のみ・男性のみ)、方法(においの選択・着地)がそれぞれ違い、単純に足し合わせられない。日本の蚊で個人差の原因を調べた研究は、今回の調査ではヒトスジシマカの血液型研究以外に見つけられなかった。公的機関の資料でも、原因を直接扱うものは見つけられなかった。

自分でも しらべて みたく なったら

自分でも調べてみたくなったら

自分でも調べてみたくなったら

かに さされた とき、ばしょと じかんと、そのとき なにを して いたかを、おうちの 人と いっしょに ノートに 書いて みましょう。人ごとに ちがう ことが、ほんとうに あるのか、ふしぎに 思えて きます。

本や ホームページで しらべるなら、日本語の 「かの せつめい」を さがして みて ください。

今日できること:蚊に刺されたときに、時間・場所・そのときしていたことをメモしてみましょう。数日分たまったら、刺された時間帯や場所に共通点がないかを見てみましょう。ただし、少数の記録では原因は決められません。「自分の体質のせい」と考える前に、条件のちがいを疑ってみてください。

調べるなら、日本の蚊の生態について、国立感染症研究所や厚生労働省の日本語の資料があります。

今回の記事で扱った論文のうち、2022年のCell論文[1]、2015年の双子研究[2]、2010年の飲酒実験[4]は、いずれも無料で読める。とくに、著者自身が限界や不明な点を書いている考察の部分は、結論の強さを測るうえで読む価値がある。

血液型の研究[5]は、要旨だけでなく本文で、被験者の数や方法を確かめたい。日本語では、日経Goodayの解説[8]が入り口になる。なお、この記事は医療上の助言ではない。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

出典について:蚊の誘引性に関する原著論文(2004〜2022年)と、日本語の一般向け解説を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。

  1. De Obaldia et al. (2022) Cell。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10069481/ (64人の肌のにおい、4倍・100倍、安定性、因果は結論できない点)
  2. Fernández-Grandon et al. (2015) PLoS ONE。https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371%2Fjournal.pone.0122716 (双子研究、遺伝率0.62、著者が述べる限界)
  3. Verhulst et al. (2011) PLoS ONE。https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371%2Fjournal.pone.0028991 (皮膚の細菌と寄られやすさ)
  4. Lefèvre et al. (2010) PLoS ONE。https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371%2Fjournal.pone.0009546 (飲酒実験、息や体温では説明できなかった点)
  5. Shirai et al. (2004) Journal of Medical Entomology 41(4)。https://academic.oup.com/jme/article/41/4/796/885285 (血液型と着地試験、分泌型。要旨レベルの確認)
  6. Wood et al. (1972) Nature 239, 165。https://www.nature.com/articles/239165a0 (古い血液型の報告があること。原文は未確認)
  7. McMeniman et al. (2014) Cell。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24581501/ (二酸化炭素が他の手がかりのスイッチになる点。要旨レベル)
  8. 日経Gooday「『O型は刺されやすい』ってホント?」。https://gooday.nikkei.co.jp/atcl/report/16/062300031/062300004/ (蚊は複数の手がかりを使うという日本語の解説)

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