1. カモノハシの おすは、なぜ どくの トゲを もつのか
1. カモノハシのオスは、なぜ毒のトゲを持つのか
1. カモノハシの毒は、狩りのためでも身を守るためでもない
カモノハシは、くちばしが あって、たまごを うむのに、ちちで 子どもを そだてる、ふしぎな どうぶつです。オーストラリアに すんで います。
おとなの おすの カモノハシは、うしろ足に、どくを 出す トゲを もって います。この どくは、こどもを うむ きせつに、とくに 強く なると いわれて います[1]。
この どくの おもな やくわりは、てきから 身を まもる ことでも、えものを つかまえる ことでもなく、おなじ おす どうしが めすを めぐって あらそう ときの ぶきだと 考えられて います[1]。
けもの(ほにゅうるい)なのに、どくを もつ カモノハシ。この「どく」と いう ことば、じつは 中みが 一とおりでは ありません。
2. かんで つかう どくと、さわると あぶない どくの ちがい
2. かんで使う毒と、触ると危ない毒の違い
2. 「venom」と「poison」── 入り方でみる毒の違い
じつは、どくには 大きく 分けて 2つの タイプが あります。1つは、キバや ハリを つかって、あいての 体に 直せつ 入れる どく。もう 1つは、さわったり 食べたり すると 体に 入って くる どくです[2]。
ヘビや ハチは、前の タイプ。えものを つかまえる ためや、てきと たたかう ために、キバや ハリで どくを 入れます。
いっぽう フグや ある しゅの カエルは、あとの タイプ。じぶんから せめる ためでは なく、食べられそうに なった ときに、あいてを 弱らせる ための どくです[2]。
どくを もつ 生きもの じしんは、その どくで 平気なのでしょうか。
3. コブラは、なぜ じぶんの どくで へいきなのか
3. コブラは、なぜ自分の毒で平気なのか
3. 受容体の変化が、コブラを自分の毒から守っている
コブラの ような どくヘビは、どくを 体の 中で つくって います。では、じぶんの どくで、じぶんが まいって しまう ことは ないのでしょうか。
2020年の けんきゅうに よると、コブラの なかまは、どくを うけとる 体の ぶひんの 形が、少し ちがって いるのだそうです。この ちがいの おかげで、じぶんの どくが きき にくく なって いると 考えられて います[3]。
どくが きく しくみは、かぎと かぎあなの かんけいに たとえられます。どくと いう「かぎ」が、体の 中の「かぎあな」に ぴったり あうと、どくが きいて しまいます。コブラは、この かぎあなの 形が すこし ちがうので、じぶんの どくの かぎが うまく ささらないのです。ただし ほんとうは、体の しくみは かぎと かぎあなほど たんじゅんでは なく、たんぱくしつどうしの こまかい くみあわせで できて います。
ただし、これは かんぜんな 「へいき」では ありません。もし、いちどに とても たくさんの どくが 体に 入って しまえば、コブラでも あぶない ことが あります。じつは、この しくみを べつの どうぶつも、それぞれ 自分の 力で 手に 入れて いました。
コブラのような毒ヘビは、毒を体の中で作っています。では、自分の毒で、自分がまいってしまうことはないのでしょうか。
2020年の研究によると、コブラの仲間は、毒を受け取る体の部分の形が、少し違っているのだそうです。この違いのおかげで、自分の毒が効きにくくなっていると考えられています[3]。
ただし、これは完全な「平気」ではありません。もし、一度にとてもたくさんの毒が体に入ってしまえば、コブラでも危ないことがあります。実は、この仕組みを別の動物も、それぞれ自分の力で手に入れていました。
コブラなどのコブラ科の毒ヘビは、自らの神経毒を無効化する仕組みを進化させてきた。2020年の研究では、コブラ科に共通する神経伝達物質の受容体(ニコチン性アセチルコリン受容体)の一部に、他の科には見られない特有のアミノ酸配列があることが示された[3]。
この配列の違いにより、自分自身が作る神経毒が受容体に結合しにくくなり、結果として自分の毒に対する耐性が生じると考えられている。この耐性は、コブラ科の共通祖先の段階で一度獲得されたとみられる[3]。
ただし、これは絶対的な免疫ではない。受容体への結合を防ぐ仕組みだけでは、一度に大量の毒が体内に入った場合には対応しきれず、毒ヘビ自身にも深刻な影響が及ぶことがある[3]。実は、この仕組みを系統的に離れた動物たちが、それぞれ独自に手に入れていた。
4. どくヘビを 食べる どうぶつも、おなじ しくみを 手に 入れた
4. 毒ヘビを食べる動物も、同じ仕組みを手に入れた
4. マングースとハチミツアナグマは、独立に同じ耐性を進化させた
マングースや、ハチミツアナグマと いう どうぶつは、どくヘビを 食べる ことで 知られて います。
じつは、これらの どうぶつも、コブラと よく にた しくみで、どくヘビの どくが きき にくく なって います[3]。
おもしろいのは、コブラの なかまと、マングースや ハチミツアナグマは、それぞれ べつべつに、おなじような しくみを 手に 入れた、と 考えられて いる ことです。これを「しゅうれん しんか」と いいます[3]。
コブラとは べつの どうぶつが、おなじ かいけつさくに たどりつきました。どくを もつ どうぶつは、ほかにも まだ います。
5. ほかにも どくを もつ けものや 鳥が いる
5. ほかにも毒を持つ哺乳類や鳥がいる
5. ほかにも毒を持つ哺乳類・鳥がいる
スローロリスと いう、目の 大きな サルの なかまも、どくを もって います。うでの つけねから 出る あぶらと、つばを まぜて どくを 作り、てきから 身を まもったり、じぶんの 子どもの 毛に ぬって まもったり すると いわれて います[4]。
ソレノドンと いう、ネズミに にた どうぶつは、下の 前歯の みぞから どくを 出します。トガリネズミの なかまにも、どくを もつ ものが います。トガリネズミは、つかまえた 虫を どくで しびれさせて、生きた まま とって おく ためだ、と いう 考えかたも あります(まだ はっきりとは 決まって いません)[4]。
鳥にも、どくを もつ ものが います。ニューギニアの ズグロモリモズと いう 鳥は、羽に どくを もって います。1989年、ある 学しゃが、この 鳥に さわった あと、口が しびれた ことから、はっけんされました[5]。どくを もつのは、どうぶつだけなのでしょうか。
スローロリスという、目の大きなサルの仲間も、毒を持っています。腕の付け根から出る油と、唾液を混ぜて毒を作り、敵から身を守ったり、自分の子どもの毛に塗って守ったりするといわれています[4]。
ソレノドンという、ネズミに似た動物は、下の前歯の溝から毒を出します。トガリネズミの仲間にも、毒を持つものがいます。トガリネズミは、捕まえた虫を毒でしびれさせて、生きたまま取っておくためだ、という考え方もあります(まだはっきりとは決まっていません)[4]。
鳥にも、毒を持つものがいます。ニューギニアのズグロモリモズという鳥は、羽に毒を持っています。1989年、ある学者が、この鳥に触ったあと、口がしびれたことから、発見されました[5]。毒を持つのは動物だけなのでしょうか。
スローロリスは、毒を持つことが確認されている唯一の霊長類である。上腕内側の分泌腺から出る油分と唾液を混ぜ合わせて毒を作り、捕食者への防御に加え、その毒を子どもの体毛に塗りつけて保護する行動も報告されている[4]。
ソレノドン(キューバソレノドン、ヒスパニオラソレノドンなど)は、下顎の切歯にある溝から毒性の唾液を注入する。トガリネズミの複数種も毒を持つことが知られており、捕らえた獲物を麻痺させて生きたまま貯蔵するための適応だとする説があるが、大型の獲物を制圧するための道具だとする説もあり、決着していない[4]。
鳥類では、1989年、鳥類学者ジャック・ダンバッカーがニューギニアでズグロモリモズを扱った際、偶然口や唇に触れて痺れを感じたことから、羽毛に猛毒バトラコトキシン類を含むことが発見された(1992年の原論文ではホモバトラコトキシンと報告されている[7])。この毒は、南米の毒ガエルが持つものと同系統の物質で、鳥は食べた甲虫から体内に取り込んでいるとみられている[5]。毒を持つのは動物だけなのだろうか。
6. しょくぶつにも、どくが あるものが ある
6. 植物にも、毒があるものがある
6. 植物の毒 ── スイセンとニラは、なぜ見分けにくいのか
どくを もつのは、どうぶつだけでは ありません。しょくぶつにも、どくを もつ ものが あります。
たとえば スイセンと いう 花には、どくが あります。この 花の 葉は たべられる ニラの 葉に、球根(きゅうこん、土の 中の まるい ぶぶん)は タマネギや ニンニクに、形が よく にて います。
日本では、スイセンを ニラなどと まちがえて 食べて しまい、気もちが 悪く なる 事こが、じっさいに おきて います。中には、なくなって しまった 人も います[6]。
そだてて いる 花や 野さいが、にた 形を して いる ときは、とくに 気を つける ひつようが あります。
毒を持つのは、動物だけではありません。植物にも、毒を持つものがあります。
たとえばスイセンという花には、毒があります。この花の葉は食べられるニラの葉に、球根はタマネギやニンニクに、形がよく似ています。
日本では、スイセンをニラなどと間違えて食べてしまい、気持ちが悪くなる事故が、実際に起きています。中には、亡くなってしまった人もいます[6]。
育てている花や野菜が、似た形をしているときは、特に気をつける必要があります。
じぶんでも やって みる
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
近くの こうえんや 花だんに、どくを もつ しょくぶつが ないか、大人と いっしょに たしかめて みましょう。
どうぶつずかんや 図かんを ひらいて、どくを もつ どうぶつを 見つけたら、その どくが 「かんで 入れる どく」なのか、「食べると あぶない どく」なのかを、ずかんの せつめいから よみとって みて ください。
しょくぶつや どうぶつを 見つけても、じっさいに さわったり、口に 入れたり しないで ください。しゃしんや ずかんで しらべるだけに しましょう。
近くの公園や花だんに、毒を持つ植物がないか、大人と一緒に確かめてみましょう。
動物図鑑や本をひらいて、毒を持つ動物を見つけたら、その毒が「かんで入れる毒」なのか、「食べると危ない毒」なのかを、図鑑の説明から読み取ってみてください。
植物や動物を見つけても、実際に触ったり、口に入れたりしないでください。写真や図鑑で調べるだけにしましょう。
しらべた ところ
参考にした情報源
参考にした情報源
- Australian Platypus Conservancy「Platypus venom and spurs」。 https://platypus.asn.au/platypus-venom-and-spurs/ (成熟したオスのカモノハシが後肢の蹴爪から毒を分泌すること、繁殖期に毒の分泌がピークを迎えること、毒がオス同士の競争のために進化したと考えられていること)
- Natural History Museum(ロンドン)「Bite or be bitten: What is the difference between poison and venom?」。 https://www.nhm.ac.uk/discover/bite-or-be-bitten.html (venom〔注入型の毒〕とpoison〔接触・摂取型の毒〕の違い、それぞれの進化的な目的の違い)
- Khan MA, Dashevsky D, Kerkkamp H, et al. "Widespread Evolution of Molecular Resistance to Snake Venom α-Neurotoxins in Vertebrates." Toxins (Basel), 12(10), 638, 2020。 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7601176/ (コブラ科のヘビが受容体の変異により自己の神経毒に耐性を持つこと、マングースやラーテルが独立に類似の耐性を収れん進化させたこと)
- Wikipedia(英語版)「Venomous mammal」。 https://en.wikipedia.org/wiki/Venomous_mammal (スローロリス・ソレノドン・トガリネズミなど毒を持つ哺乳類のリスト、スローロリスが油と唾液を混ぜて毒を作ること、トガリネズミの毒の役割について食料保存説と狩猟補助説が対立していること)
- McGill University Office for Science and Society「The pitohui bird contains deadly batrachotoxin」。 https://www.mcgill.ca/oss/article/did-you-know/pitohui-bird-contains-deadly-batrachotoxin (1989年、鳥類学者ジャック・ダンバッカーがズグロモリモズに触れた後に痺れを感じたことから発見された経緯、毒がバトラコトキシンであること、食べた甲虫由来と考えられていること)
- 厚生労働省「有毒植物による食中毒に注意しましょう」。 https://www.mhlw.go.jp/stf/web_magazine/closeup/47.html (スイセンとニラ等の誤食による食中毒が2009〜2018年に48件・患者180人発生したこと、死亡事例が1件含まれること、栽培・収穫時の注意点)
- Dumbacher JP, Beehler BM, Spande TF, Garraffo HM, Daly JW. "Homobatrachotoxin in the genus Pitohui: chemical defense in birds?" Science, 258(5083), 799-801, 1992。 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1439786/ (1992年、ズグロモリモズを含むPitohui属3種の羽毛・皮膚からホモバトラコトキシンが検出されたことを報告した原論文)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。