1. どうして 首を まわす ひつようが あるの?
1. 目が動かないから、首で見回す
1. 眼球の固定と強膜輪
わたしたちは、あたまを うごかさなくても、目だけ うごかして よこを 見られます。
フクロウは ちがいます。京都市の 動物園の どうぶつえんの ひとの ブログでは、目の まわりの うすい 骨が リングのように 目を おさえて いて、キョロキョロ できないと 書かれて います[1]。
この リングは 「きょうまくりん」と いいます。目が うごきにくい 分、見たい ほうに 首ごと むける ひつようが あります。
人は、顔を正面に向けたままでも、目玉だけを動かして横を見られます。フクロウは事情がちがいます。京都市動物園の飼育員のブログによると、フクロウの目は「強膜輪(きょうまくりん)」という、目の周りにあるリング状の薄い骨に固定されていて、キョロキョロと動かせないそうです[1]。
見たい方向があれば、目ではなく頭ごと向けることになります。首が大きく回る理由の入口は、ここにあるようです。ただし「まったく動かない」という言い方は動物園の説明で、この記事では学術論文で確かめていません。「ほとんど動かせない」くらいに受け取っておきます。
京都市動物園の飼育員ブログによれば、ホンドフクロウの眼球は、眼の周囲にある強膜輪(きょうまくりん)というリング状の薄い骨に固定され、目を動かすことができない[1]。見たい方向へは頭ごと向けるほかない、というのが、首の可動域の大きさを考えるときの出発点になる。
ただし「全く動かない」は動物園側の表現なので、本稿では「ほとんど動かせない」程度の強さで扱う。
2. 首の 骨は なんこ あるの?
2. 首の骨は人の2倍、14個
2. 頸椎14個 ── 人の2倍
首の 中には、つみ木のように 骨が ならんで います。これを 「けいつい」と いいます。
ひとの けいついは 7こです。フクロウの 一しゅ、アメリカメンフクロウでは 14こ あると 研究で しらべられました[2]。ちょうど 2ばいです。
つみ木が 多い ほど、すこしずつ ひねっても、ぜんぶ たすと 大きく まわれそうです。ただし ほんとうの 首は、つみ木より ずっと ふくざつです。
ちなみに、ほかの 鳥の けいついの かずは、しゅるいで ちがいます。「鳥は みんな 14こ」では ありません。
3. どれくらい まわるの?
3. 「270度」と「360度」── 数字が食いちがうわけ
3. 回転角 ── 270度と360度の食い違い
2013ねんに、アメリカの ジョンズ・ホプキンス大学の チームが、フクロウは 左にも 右にも 270どまで 頭を 回せると つたえました[3]。
270どは、ぐるっと 1しゅうの 4ぶんの 3です。左と 右、どちらにも です。あわせて 270どでは ありません。
270どは、生きた フクロウで 知られて いる 角度です。その あとの 研究には、ほねの しらべから、「ぜんぶ 1しゅう 回れる」と 考える ものも あります[5]。ただし、生きた フクロウが 1しゅう 回すのを たしかめた わけでは ありません。
ジョンズ・ホプキンス大学の発表では、フクロウは「どちらの方向にも最大270度」まで頭を回せるとされています[3]。270度は1周の4分の3にあたります。左に270度、右にも270度で、合計が270度という意味ではありません。
アメリカメンフクロウの研究では、生きた個体のX線透視、死んだ個体での首の強制回転、CTによる復元を組み合わせ、「270度を超える」回転が調べられました[4]。首の上のほうでは骨をねじるように軸回転し、下のほうでは横に傾ける動きを組み合わせて、回転を大きくしていると考えられています。
ところが別の研究は、首の骨1つずつの動きは鳥として特別ではなく、首をコイルのように使う配分によって、全周360度の回転も可能だと述べています[5]。270度は生きたフクロウで知られている回転角です。360度は、標本で確かめた首の姿勢から「生きていても可能」と考える研究で、生きたフクロウが実際に360度回すのを確かめた結果とは区別が必要です。この記事では、控えめに「270度ほど」と書きます。
回転角については、ジョンズ・ホプキンス大学の発表が「どちらの方向にも最大270度」としている[3]。これは片側ごとの値であり、合計ではない。
Krings et al.(2017)は、アメリカメンフクロウについて、生きた個体のX線透視、死亡個体での強制回転、CT再構成を用い、頭部が270°を超えて回転しうることを報告している[4]。頸部の上部での軸回転(ヨー)と、下部での横方向の傾き(ロール)を組み合わせて全体の回転を大きくしていると解釈されている。
一方、Journal of Morphology の論文は、椎骨1つずつの可動域は軸回転を除けば鳥類として特別ではなく、頸部をコイル状に使う可動性の配分によって全周360°の回転が可能だとする[5]。270°は生きた個体で知られる回転角である。360°は標本で確認された姿勢をもとに生体でも可能とする見解で、生きた個体が実際に360°回すことを確認した結果とは区別が必要である(両論文とも原文は未確認で、要旨のみを参照した)。
4. 血管は ちぎれないの?
4. 血管を守る、大きな穴と近道
4. 椎骨動脈まわりの適応
首を ひねりすぎると、血管が きずつく ことが あります。ひとでは、ひねった とき、血管の 内がわが のびて さけ、血の かたまりが できる ことが あるそうです[7]。
フクロウの 首は どうでしょう。血管が とおる 骨の 穴が、中の 血管の はばの 10ばいも ありました[6]。
ストローを ふとい パイプに とおすと、パイプを ゆらしても ストローは ぶつかりにくいですね。それに にた しくみだと 考えられて います。ただし ほんものの 血管は ストローより ずっと やわらかいです。
ほかにも、血管が 首の 高い ところから 入る、細い 近道の 血管が ある、などの ちがいが 見つかりました[7]。
人の場合、首を強くひねると、首の血管の内側の膜が伸びて裂け、できた血の塊が脳へ飛んで脳卒中を起こす可能性があると説明されています[7]。フクロウの首には、血管を守る構造が報告されています。
ジョンズ・ホプキンス大学のチームは、血管まわりの工夫を4つ報告しました[7]。1つ目は、椎骨動脈(首の骨を通って脳へ血を運ぶ血管)が通る骨の穴が大きいこと。穴の直径が、通る動脈の直径の約10倍ありました[6]。首の骨14個のうち12個で見られたと紹介されています。
ストローを太いパイプに通すと、パイプを動かしてもストローは引っかかりにくくなります。血管にもそれに近い余裕があるのでしょう。ただ、本物の血管はストローよりずっとやわらかいものです。
2つ目は、この動脈が首の高い位置(12番目の頸椎)から入ること。他の鳥では14番目です。3つ目は、2本の血管を結ぶ細い連絡血管があること。4つ目は、頭の付け根に血をためる収縮性の部分があることです[7]。4つ目は「首を回している間も脳に血を保つ」という説明で、実験で完全に確かめられたかどうかは分かっていません。
ヒトでは、頸部を強くひねると頸動脈や椎骨動脈の内膜が伸展して裂け、血栓が剥がれて脳卒中や塞栓の原因となりうる、と説明されている[7]。
ジョンズ・ホプキンス大学チームは、フクロウの血管系について4つの適応を報告した[7]。①椎骨動脈(ついこつどうみゃく)が通る横突孔(おうとつこう)が、動脈の直径の約10倍あり[6]、14個の頸椎のうち12個で見られた。10倍は穴の直径であり、面積や血管の太さの比ではない。②椎骨動脈が首の高い位置、12番目の頸椎から入る(他の鳥では14番目)。③頸動脈と椎骨動脈をつなぐ細い連絡血管がある。④頭の付け根に、血液をためる収縮性の部分がある。
④は、回転中も脳への血流を保つ役目を持つという説明で、実験で完全に証明されたかは未確認である。
5. だれが、どうやって しらべたの?
5. フクロウの首をどう調べたのか
5. 医療イラストレーターが率いた調査と受賞作品
この しらべを 中心で すすめたのは、医学の ための 絵を かく 「医療イラストレーター」の ファビアン・デ・コック=メルカードさんたちです[7]。
3しゅるいの フクロウ 12わが、しぜんに しんだ あと、その からだを しらべました。血管に、X線に うつる くすりを 入れて しゃしんを とり、ていねいに かいぼうして 絵に して いきました[3]。
「絵を かく 人」が、フクロウの ひみつを 見えるように した 研究です。この 発表は、ろんぶんでは なく、絵や 図の 賞を とった さくひんとして しょうかいされました。
この報告を率いたのは、医療イラストレーターのファビアン・デ・コック=メルカードさんです。医学や生きものの体の図を描く専門家で、ジョンズ・ホプキンス大学のチームを引っ張りました[7]。
調べたのは、3種のフクロウ12羽の体です。自然死したフクロウだったと伝えられています[6]。血管に、X線に写る造影剤を注入して撮影し、その後に解剖して、描いてスキャンしました[3]。
この成果は、2013年2月1日号のScience誌で、アメリカ国立科学財団(NSF)の「科学・工学ビジュアライゼーション・チャレンジ」2012年のポスター・グラフィック部門の1位作品として紹介されました[7]。査読つきの論文で証明された結果ではなく、図と絵の力で見せた作品として評価された、という点は押さえておきたいところです。
6. まだ わからない ことは?
6. 分かっていないこと
6. 未解決の点
まず、270どは 生きた フクロウで 知られた 角度で、360どは ほねの しらべから 考えられた ものです。生きた フクロウが 1しゅう 回すのを たしかめた わけでは ありません。つぎに、血を ためる ばしょが ほんとうに 首を 回す ときに はたらくのかも、しっかり しめされた わけでは ありません。
それでも、目が うごきにくい ことと、骨の かずと、血管の とおり みち。3つが あわさって、ぐるりと 回せるのだと 考えられて います。
ここまでの話には、まだ決着していない点が残っています。①回転角。270度は生きた個体で知られる値、360度は標本をもとにした見方で、生きた個体が実際に360度回すかは確かめられていません。②血流。頭の付け根の貯留部が、首を回している間に本当に脳へ血を送り続けているのかは分かっていません。
それでも、動きにくい目、多い首の骨、大きな穴と近道のある血管という3つが重なって、フクロウの首が大きく回る、と考えられています。
7. 「つつ」で、フクロウの 見え方を ためして みよう
7. 筒をのぞいて、「目が動かない」を体験してみる
7. 出口 ── 筒を通して見る/原典に当たる
ラップの しんを つかうか、紙を まるめて テープで とめて、つつを 作ります。
つつを かたほうの 目に あて、もう かたほうの 目は とじて、まっすぐ 見ます。目だけ うごかしても、つつで 見える ところは ほとんど かわりません。よこを 見たい ときは、つつごと 首を むけますね。
フクロウの 目が うごきにくいと いうのも、こんな 感じなのかも しれません。ただし、ひとの 目は つつの 中でも うごくので、ほんものの フクロウとは ちがいます。
首は ゆっくり うごかして、むりに まわさないでください。いたく なったら すぐ やめましょう。
ラップの芯を使うか、紙を丸めてテープで止めて筒を作ります。片目に当て、もう片方の目は閉じて、まっすぐ前を見てください。目玉を動かしても、筒で見える範囲はほとんど変わりません。横のものを見たいときは、筒ごと首を向けることになります。
フクロウの目が動かしにくいというのは、このような不便さなのかもしれません。ただ、人の目は筒の中でも動くので、本物のフクロウとはちがいます。
首はゆっくり動かし、無理に回さないでください。痛みを感じたらすぐにやめます。
動物園でフクロウを見る機会があれば、何かを見るときに目と頭のどちらが動いているか、観察してみてください。
出口は2つ。第一に、筒(キッチンペーパーの芯や、丸めてテープで止めた紙)を片目に当て、もう片方は閉じて前を見て、目だけを動かした場合と筒ごと向けた場合の、筒で見える範囲の違いを比べる。首は無理に回さない。人の眼は筒の中でも動くので、フクロウの眼球固定とは同一ではない。
第二に、原典に当たる(以下は任意で、英語の資料が多い)。Krings et al.(2014)は英語の論文で、PMCで公開されており[2]、頸椎の写真と記載が確認できる。血管の話は、ジョンズ・ホプキンス大学の発表[7]とSmithsonian誌の記事[6]から入るとよい。日本語では京都市動物園の飼育員ブログが手がかりになる[1]。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
アクセス日はいずれも2026-09-29。原文が確認できなかったものは、要旨や検索結果の抜粋、および転載記事に基づく。
- 京都市動物園 飼育員ブログ「ここがすごい!ホンドフクロウ」。 https://zoo.city.kyoto.lg.jp/zoo/enjoy/blog/breeder-blog/20230123-70085.html (強膜輪と眼球の固定、頸椎の数について)
- Krings et al., PLoS ONE 9(3):e91653, 2014. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3961260/ (アメリカメンフクロウの頸椎の記載について)
- ScienceDaily「Johns Hopkins」発表の転載(2013年)。 https://www.sciencedaily.com/releases/2013/01/130131144102.htm (270度、調べた個体と方法について)
- Krings et al., Journal of Anatomy 231(1):12-22, 2017. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/joa.12616 (首の関節の動きと調べ方について。検索結果の抜粋のみ確認)
- Journal of Morphology「Are owls technically capable of making a full head turn?」。 https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/jmor.21669 (360度回転の説について。検索結果の抜粋のみ確認)
- Smithsonian Magazine「Solving the Mystery of Owls' Head-Turning Abilities」。 https://www.smithsonianmag.com/science-nature/solving-the-mystery-of-owls-head-turning-abilities-9561557/ (穴の大きさと調べた個体について)
- EurekAlert!「ジョンズ・ホプキンス大学」発表。 https://www.eurekalert.org/news-releases/469762 (血管の4つの適応、研究チーム、ヒトの血管のリスクについて)
なおした ところ
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