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ここに書いてあることは、誰かが実際に手を動かして調べ、考え、作り上げてきたものを拾い集めています。専門の本や論文、作品、そしてそれを生み出した人たち。気になったことがあれば、ぜひそのおおもとに直接ふれてみてください。このメモには書ききれない熱を、感じてもらえると思います。

さいせい いりょうは、どこまで きて いるの?

再生医療は、どこまで来ているのか

再生医療は、どこまで来ているのか

分野:からだ

24こ の いでんしを 1つずつ へらして いく。じっけんしつで、そんな ねばりづよい さぎょうが つづけられて いた。

さいごに のこったのは、たった 4つ。この 4つの いでんしが、さいせい いりょうの 大きな とびらを ひらいた。

24個の遺伝子を1つずつ減らしていく。実験室で、そんなねばり強い作業が続けられていた。

最後に残ったのは、たった4つ。この4つの遺伝子が、再生医療の大きな扉を開いた。

24個の候補遺伝子から、1つずつ除いて効果を確かめる。シャーレの上でくりかえされた、この地道な引き算の実験が、再生医療という分野の大きな扉を開いた。

皮ふや腸の粘膜は数日から数週間で入れかわるのに、神経細胞や心筋細胞はほとんど再生しない。この差をこえて、失われた組織を人工的に作り出そうとするのが再生医療だ。

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1. 24こから 引き算して、4つの いでんしを 見つけた

1. 24個から引き算して、4つの遺伝子を見つけた

1. 24個の候補遺伝子から、山中因子を絞りこむ

2006年、京都大学の 山中 伸弥しんや 教授きょうじゅたちは、皮ふの さいぼうを、なんでも なれる さいぼう(iPSさいぼう)に かえる ほうほうを 見つけた。まるで、大きく なった さいぼうの 時計の はりを、うまれた ばかりの ころまで まきもどす ような ことだ(ただし ほんとうに 時計が あるのでは なく、さいぼうの じょうたいを もとに もどす、と いう ことだ)[1]

はじめ、24この いでんしの 中の どれが ひつようかが わからなかった。そこで だいがくいんせいだった 高橋 和利かずとしさんが、「1つずつ へらして ためして みよう」と ていあんした。ねばりづよく ためした けっか、さいごに のこったのが たった 4つの いでんしだった[1]

2006年、京都大学の山中伸弥教授たちは、皮ふの細胞を、何にでもなれる細胞(iPS細胞)に変える方法を見つけた[1]

はじめ、24個の遺伝子の中のどれが必要かがわからなかった。そこで大学院生だった高橋和利さんが、「1つずつ減らして試してみよう」と提案した。ねばり強く試した結果、最後に残ったのが、たった4つの遺伝子だった[1]

2006年、京都大学の山中伸弥教授らの研究チームは、皮ふなどの体細胞に特定の遺伝子を導入することで、受精卵に近い状態まで巻きもどした「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」を作ることに成功した。当初、ES細胞で活発にはたらく遺伝子の中から24個を初期化の候補として選び、この24個をまとめて細胞に導入したところ、うまく初期化が起こった[1]

どの遺伝子が本当に必要なのかを調べるため、当時大学院生だった高橋和利は、24個から1つずつ遺伝子を除いて23個を導入するという「引き算」の実験を提案した。この地道な実験を繰り返した結果、最終的にOct3/4・Sox2・Klf4・c-Mycの4つの遺伝子に絞りこまれた。この4因子は「山中因子」と呼ばれ、2006年にマウスの体細胞から、2007年にはヒトの体細胞からもiPS細胞の作製に成功したことが発表された[1]

2. じゅせいらんを つかわずに、なんでも なれる さいぼうを つくれる

2. 受精卵を使わずに、何にでもなれる細胞を作れる

2. ES細胞とはちがい、受精卵を必要としない

iPSさいぼうより 前から、「ESさいぼう」と いう、なんでも なれる さいぼうが あった。でも これは、じゅせいらん(赤ちゃんに なる まえの たまご)を こわして つくる ひつようが あった[2]

iPSさいぼうは、じぶんの 皮ふなどから つくれる。じゅせいらんを こわす ひつようが なく、じぶんの さいぼうから つくれば、いしょく した ときの きょぜつはんのうを おさえられる ばあいが おおい(ただし、かならず おきないと いう わけでは ない)[2]

iPS細胞より前から、「ES細胞」という、何にでもなれる細胞があった。でもこれは、受精卵(赤ちゃんになる前のたまご)をこわして作る必要があった[2]

iPS細胞は、自分の皮ふなどから作れる。受精卵をこわす必要がなく、自分の細胞から作れば、移植したときの拒絶反応をおさえられる場合が多い(ただし、必ず起きないというわけではない)[2]

iPS細胞が登場する以前から、あらゆる細胞に分化できる万能細胞として「ES細胞(胚性幹細胞)」が知られていた。ES細胞は、発生初期の胚(受精卵が育ったもの)を壊して作る必要があり、将来子どもになる可能性を持つ胚を破壊することへの倫理的な抵抗から、厳しい規制をかける国も多かった[2]

iPS細胞は、患者自身の皮ふなどの体細胞から作ることができ、受精卵を破壊する必要がない。また、患者自身の細胞から作った場合は、他人の細胞を移植したときに起こりうる拒絶反応を抑えられる可能性が高いという利点がある。ただし、細胞の種類にかかわらず、拒絶反応が絶対に起きないと保証されているわけではなく、他人由来の細胞を使う場合はHLA型(白血球の型)などの適合性が関わってくる[2]

3. 2014年、目の びょうきに iPSさいぼうを つかった しゅじゅつが おこなわれた

3. 2014年、目の病気にiPS細胞を使った手術が行われた

3. 2014年、iPS細胞から作った網膜の細胞が世界で初めて移植された

2014年、目の びょうきの かんじゃさんに、その 人 じしんの iPSさいぼうから つくった もうまくの さいぼうを いしょくする しゅじゅつが おこなわれた。この さいぼうは、理化学研究所の 高橋 政代まさよさんたちが つくった ものだ。せかいで はじめての こころみだった[3]

2014年、目の病気の患者さんに、その人自身のiPS細胞から作った網膜の細胞を移植する手術が行われた。この細胞は、理化学研究所の高橋政代さんたちが作ったものだ。世界ではじめての試みだった[3]

2014年9月12日、加齢黄斑変性という目の病気の患者に対し、iPS細胞由来の網膜色素上皮細胞シートを移植する手術が行われた。この細胞シートは、理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダー(当時)らの研究チームが、患者自身の皮ふ細胞から作ったものだ。移植手術を行ったのは栗本康夫医師らの手術チームであり、iPS細胞から作製した組織を移植する世界初の臨床手術だった[3]

4. パーキンソンびょうの ちりょうも、しけんが すすんで いる

4. パーキンソン病の治療も、試験が進んでいる

4. パーキンソン病治療の治験、2025年に安全性が示された

京都大学の 高橋 じゅんさんたちは、のうの びょうき「パーキンソンびょう」の かんじゃさんに、iPSさいぼうから つくった しんけいの もとに なる さいぼうを いしょくする ちりょうを すすめて いる。2018年に さいしょの しゅじゅつが おこなわれた[4]

京都大学の高橋淳さんたちは、脳の病気「パーキンソン病」の患者さんに、iPS細胞から作った神経のもとになる細胞を移植する治療を進めている。2018年に最初の手術が行われた[4]

京都大学の高橋淳教授らのチームは、脳内のドパミンを作る神経細胞が減っていくパーキンソン病の患者に対し、iPS細胞から誘導したドパミン神経前駆細胞を脳内に移植する医師主導治験を進めている。この治験で使われたのは、患者自身の細胞ではなく、拒絶反応が起きにくいよう選ばれた健康な提供者由来のiPS細胞だった(このしくみは5章でくわしく説明する)。2018年に治験が始まり、7名を対象に安全性が評価され、そのうち6名を対象に有効性の評価も行われた[4]

2025年4月には、移植したドパミン神経前駆細胞が生着してドパミンを実際に産生していることや、腫瘍形成などの重い有害事象が見られなかったことが確認され、安全性と、臨床的に意味のある効果が得られる可能性が示唆されたとする結果が学術誌『ネイチャー』に発表された。ただし、長期的な追跡など、さらなる検討が必要とされている[4]

5. がんに なる リスクが、まだ のこって いる

5. がんになるリスクが、まだ残っている

5. がん化リスクを減らし、iPS細胞をあらかじめ作って備える

4つの いでんしの 中の「c-Myc」は、さいぼうを うまく かえる いっぽうで、できた iPSさいぼうが がんの ような できものに なりやすいと いう もんだいが あった。今は、べつの いでんし(L-Myc)に かえる ことで、この もんだいを へらせる ように なって きた[5]

いしょくの たびに その人の さいぼうから じかんを かけて iPSさいぼうを つくると、時間も おかねも かかる。そこで、いろいろな 人の からだの タイプに あう iPSさいぼうを あらかじめ たくさん つくって おく「iPSさいぼう ストック」と いう しくみも つくられて いる[5]

4つの遺伝子の中の「c-Myc」は、細胞をうまく変える一方で、できたiPS細胞ががんのようなできものになりやすいという問題があった。今は、別の遺伝子(L-Myc)に変えることで、この問題を減らせるようになってきた[5]

移植のたびにその人の細胞から時間をかけてiPS細胞を作ると、時間もお金もかかる。そこで、いろいろな人の体のタイプに合うiPS細胞をあらかじめたくさん作っておく「iPS細胞ストック」というしくみも作られている[5]

山中因子のうち「c-Myc」は、初期化を効率よく進める一方で、がん遺伝子として知られ、できたiPS細胞やその由来細胞が腫瘍化しやすくなる原因の1つとされてきた。その後の研究で、特定の実験条件下では、c-Mycの代わりに近縁の遺伝子であるL-Mycを使うことで、腫瘍形成のリスクを抑えつつ効率や万能性を保ったままiPS細胞を作れることが示された。ただし、これによって、あらゆる条件・用途でがん化のリスクがなくなったわけではなく、安全性の確認は今も研究が続く課題である[5]

患者ごとに一からiPS細胞を作製すると、時間とコストがかかるという課題もある。この課題に対応するため、京都大学iPS細胞研究所では、日本人に多いHLA型(白血球の型)を均一に持つ健康な提供者の細胞からあらかじめiPS細胞を作り、備蓄しておく「iPS細胞ストック」事業が進められている。4章で紹介したパーキンソン病の治験でも、このストックに近い考え方で選ばれた提供者由来の細胞が使われ、患者とのHLA型が一致していた人・していなかった人の両方が含まれたが、明確な臨床的な差は認められなかったという。ストック事業は、HLA型が適合する患者の割合を増やし、個別に作製する時間とコストを減らすための取り組みであり、すべての患者への適合や拒絶反応の回避を保証するものではない[5]

「iPSさいぼう」と いう ことばを、ニュースの 中で さがしてみよう

「iPS細胞」という言葉を、ニュースの中で追いかけてみよう

研究機関の公開情報から、再生医療の最新の動きを追う

テレビや ニュースの サイトで「iPSさいぼう」と いう ことばを 見つけたら、どんな びょうきを なおそうと して いるのか、よんで みよう。

テレビやニュースのサイトで「iPS細胞」という言葉を見つけたら、どんな病気を治そうとしているのか、読んでみよう。

京都大学iPS細胞研究所(CiRA)などの研究機関は、一般向けにわかりやすい解説やニュースを公開している。臨床応用が進んでいる分野・まだ研究段階の分野を見くらべながら、最新の動きを追ってみてほしい。

しらべた ところ

参考にした情報源

参考にした情報源

  1. 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)「研究概要 山中伸弥」、フリー百科事典『ウィキペディア』「高橋和利」、リバネス「iPS細胞は、こうして生まれた」、Takahashi & Yamanaka(2006)原論文(Cell/PubMed)。 https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/research/yamanaka_summary.html https://ja.wikipedia.org/wiki/高橋和利 https://lne.st/2012/12/20/ips-3/ https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16904174/ (24個の初期化候補遺伝子を選びまとめて導入したこと、Oct3/4・Sox2・Klf4・c-Mycの4因子に絞りこんだこと、2006年にマウスの体細胞からiPS細胞の作製に成功したことは原論文(Cell、PubMed掲載)による。大学院生だった高橋和利が1つずつ遺伝子を除く「引き算」の実験を提案したことはウィキペディア「高橋和利」による。リバネスの解説記事は100個から24個への絞りこみ、24個から1つを除いた23個を導入する引き算の実験の概要を裏づける。2007年にヒトの体細胞でもiPS細胞の作製に成功したことはCiRAの研究概要による。所要期間の詳細は一次資料で確認できなかったため本文では明記していない)
  2. インターフェックスWeek「ES細胞とは?iPS細胞との違いや活用が期待される分野を解説!」、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)「iPS細胞とは?よくある質問」。 https://www.interphex.jp/hub/ja-jp/blog/article_016.html https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/faq/faq_ips.html https://www.cira-foundation.or.jp/e/provision-of-ips-cells/homozygous/ (ES細胞が胚盤胞(発生初期の胚)を壊して作られること、胚を破壊することへの倫理的な抵抗から規制をかける国が多いこと、iPS細胞が受精卵を破壊せず体細胞から作れることはインターフェックスWeekおよびCiRAのFAQによる。自分自身の細胞から作った場合に拒絶反応を抑えられる可能性が高い一方、必ず防げるわけではなく他人由来の細胞ではHLA型などの適合性が関わることは、後述のiPS細胞ストックに関するCiRA Foundationの解説とあわせて確認した)
  3. 日本経済新聞「世界初のiPS再生医療(2014年)」、日経サイエンス「iPS細胞を使って網膜を再生する:高橋政代」、理化学研究所2014年9月12日付発表。 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO52718830Y9A121C1TJN000/ https://www.nikkei-science.com/201405_008.html https://www.riken.jp/en/news_pubs/news/2014/20140912_1/ (2014年9月12日に理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダー(当時)らの研究チームが開発した患者自身のiPS細胞由来の網膜色素上皮細胞シートを、栗本康夫医師らの手術チームが加齢黄斑変性の患者に移植する世界初の臨床手術を行ったことは理化学研究所の一次発表による。研究の経緯や意義は日本経済新聞および日経サイエンスの記事による)
  4. 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「iPS細胞を用いたパーキンソン病に対する細胞移植治療の医師主導治験がスタート」、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)「安全性と有効性が示唆」プレスリリース、Nature誌2025年掲載の治験結果原論文。 https://www.amed.go.jp/news/release_20180730-02.html https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/250417-000000.html https://www.nature.com/articles/s41586-025-08700-0 (京都大学の高橋淳教授らが2018年にiPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病治療の医師主導治験を開始したことはAMEDの発表による。7例を対象に安全性が評価されそのうち6例を対象に有効性も評価されたこと、HLA型が均一になるよう選ばれた健康なドナー由来の細胞が使われ患者とのHLA適合・非適合の両方が含まれたが臨床的な明確な差は認められなかったこと、2025年4月に移植細胞の生着・ドパミン産生の確認や重い有害事象がなかったこと、安全性と臨床的な効果が得られる可能性が示唆されたことはNature誌原論文による)
  5. サイエンスポータル「がん化の心配が少ないiPS細胞作製法発見」、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)「iPS細胞とは?よくある質問」、CiRA Foundation「HLAホモ接合体由来iPS細胞」解説。 https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20100727_01/index.html https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/faq/faq_ips.html https://www.cira-foundation.or.jp/e/provision-of-ips-cells/homozygous/ (山中因子のうちc-Mycががん遺伝子として知られ作製したiPS細胞の腫瘍化の一因となってきたこと、特定の実験条件でc-Mycの代わりにL-Mycを用いると腫瘍形成のリスクを抑えつつ効率や万能性を保てることが示されたことはサイエンスポータルの記事による。あらゆる条件でがん化リスクがなくなったわけではないことは同記事の内容を踏まえた限定である。患者ごとの作製にかかる時間・コストの課題、日本人に多いHLA型を均一に持つ健康な提供者由来のiPS細胞を備蓄する「iPS細胞ストック」事業が個々の患者への適合や拒絶反応の回避を保証するものではないことはCiRAのFAQおよびCiRA Foundationの解説による)

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