1. うみの たかさは いつも ちがうのに、0メートルは どこ?
1. 上がり下がりする海に、「0m」はあるのか
1. 潮位は絶えず変わる ── 平均海面という考え方
うみに いくと、しおが みちて いたり、ひいて いたり します。うみの たかさは、つきや 太ようの うごき、かぜ、あたたかさ、かいりゅうで、いつも かわります[1]。
これでは、「ここが 0メートル」と きめられません。そこで、ながい あいだ ずっと はかって、その へいきんを とります。すると、ほぼ ひとつの たかさに おちつくと いわれます[1]。これを「へいきんかいめん」と よびます。
ためしに、一日の たいじゅうを 毎日 はかって みましょう。朝と 夜で ちがっても、ひと月の へいきんなら、その 人の ふだんの おもさが 見えて きます。うみの へいきんも、それに にて います。ただし ほんとうは、うみの ほうが ずっと ながく はかる ひつようが あります。
では、日本の 0メートルは、どこの うみで、どれだけ はかった へいきんなのでしょう。
海辺に立つと、潮が満ちて岸に近づいたり、引いて遠ざかったりします。海面は、月や太陽の動き、風、気温、海流の変化で、絶えず高さが変わっています[1]。
これでは「今の海面が0m」とは決められません。そこで、長い年月ずっと観測して平均します。すると、海面はほぼ一定の高さを示すとされます。これが平均海面です[1]。
体重にたとえると、朝と夜では数値が変わっても、1か月の平均なら、その人のふだんの重さが見えてきます。海面の平均も同じ考え方ですが、実際には、それよりずっと長い観測が必要です。
では、日本の標高0mは、どこの海の、どれだけの期間の平均なのでしょうか。
海面は、月・太陽の動き、風、気温、海流によって絶えず変化する。しかし長期間連続して観測して平均すると、ほぼ一定の高さを示す。これを平均海面という[1]。高さの基準として、瞬間の海面ではなく平均を使うのは、変動する値から、変動の影響を薄めて基準を取り出すためである。
ここで、基準の値は平均をとる期間の長さで決まるという点に注意したい。日本の標高0mは、どこで、どれだけの期間の平均なのか。次の章で、その答えを見る。
2. 6ねん 3か月、川の 出口で なにを して いたの?
2. 隅田川の河口で、潮の高さを6年3か月読み続けた
2. 霊岸島量水標 ── 6年3か月の潮位平均が東京湾平均海面になる
日本の 0メートルの もとは、東京の 川の 出口に あります。むかしの 名まえは れいがんじま、いまの 東京都 中おう区 新川あたりです。すみだ川が うみに そそぐ ところです[1]。
ここには「りょうすいひょう」と いう、しおの たかさを よむ めもりが たって いました。1873ねんに つくられました[2]。
1873ねんの 6月から 1879ねんの 12月まで、よみつづけました。ぬけた 4か月を のぞくと、6ねんと 3か月ぶんです[1]。その へいきんが、日本の 0メートルに なりました。
川が海に出る場所に立てた「目盛り」
観測場所は、霊岸島(れいがんじま)です。今の東京都中央区新川で、隅田川の河口にあたります[1]。ここに、潮の高さを読むための目盛りである量水標(りょうすいひょう)が、明治6年(1873年)に設けられました[2]。
観測は、明治6年6月から明治12年(1879年)12月まで続きました。4か月の欠測を除くと、6年3か月ぶんです。その潮位の平均が、東京湾平均海面(T.P.)で、日本の標高0mの基準になっています[1]。
今も残る、この観測のなごり
この観測のなごりは、今も東京の港に残っているようです。東京港の潮位表では、潮の高さをA.P.(荒川工事基準面)で表します。A.P.は霊岸島の観測を解析して決めた基準面で、A.P.+1.1344mがT.P.±0mにあたる、と説明されています[8]。
霊岸島量水標(れいがんじまりょうすいひょう)は、現在の東京都中央区新川、隅田川河口にあった。明治6年(1873年)に設置され[2]、明治6年6月から12年12月の間、4か月の欠測を除く6年3か月の潮位が観測された。この平均が東京湾平均海面(T.P.)で、日本の標高の基準(0m)である[1]。
観測結果は近くの水準標石にも付されたと、中央区の文化財説明は記す。横棒が標高を示す「不」の字形の几号水準点(きごうすいじゅんてん)である[2]。
この観測データは、別の基準面にもなった。東京港の潮位表は、荒川工事基準面(A.P.)を霊岸島の観測を解析した基本水準面とし、A.P.+1.1344m=T.P.±0mと示す[8]。同じ観測から、用途の違う2つの「0」が生まれたことになる。
だが、海の平均を出しても、山や町の高さは測れない。では、その0mを、どうやって陸へ持ちこむのか。
3. うみの 0メートルを、どうやって 山まで もって いくの?
3. 海の平均を、陸の一点に写す ── 日本水準原点
3. 日本水準原点 ── 水晶板の0を東京湾平均海面上24.500mと定める
うみの へいきんは、海に いかないと わかりません。でも 山や 町の たかさを はかる ときに、いちいち うみまで いけません。
そこで、りくに 「ここが もとの 点」と いう しるしを つくりました。1891ねん、東京の ながた町に「日本すいじゅんげんてん」が できました[3]。
たてものの なかに、すいしょうの いたが あります。その いたの めもりの 0が、もとの 高さです。うみの へいきんより 24.5メートル 上と きめられました[3]。
ふじさんの 高さ 3776メートルも、この 点から はかって います[3]。ものさしの はしっこの 0の めもりを、りくの 一か所に とめて おいた、と 思うと わかりやすいかも しれません。ただし ほんとうは、その 一点から 日本じゅうへ、すこしずつ はかりつないで いきます。
ところが、この もとの 点は、うごく ことが ありました。
海の平均を出しても、山の高さを測るたびに海へ行くわけにはいきません。実際に土地を測るには、地上のどこかに高さの基準となる点が必要です[3]。
そこで明治24年(1891年)、陸地測量部(国土地理院の前身)が東京・永田町に日本水準原点を造りました。建物の中にある水晶板の目盛りの0が、高さの基準です。その高さは、東京湾平均海面上24.500mと決められました[3]。
この建物は日本水準原点標庫で、平成8年(1996年)に東京都指定有形文化財になりました[3]。富士山の高さも、この日本水準原点を基準に測っていて、東京湾平均海面からの高さが3776mです[3]。
定規の端の「0」の目盛りを、陸の一か所に固定した、と考えると分かりやすいでしょう。ただし実際には、その一点から全国へ、順々に高さの差を測りつなぐ作業が続きます。
動かないはずの基準点ですが、そこが地震で動いたことがあります。
実際に土地の高さを測るには、地上のどこかに基準点が必要だ。そのため陸地測量部(国土地理院の前身)は、明治24年(1891年)に東京・永田町に日本水準原点を造り、水晶板目盛りの0を東京湾平均海面上24.500mとした[3]。海の平均値を、陸に固定した点の高さの数値として置き換えたわけだ。
収める建物の日本水準原点標庫は、平成8年(1996年)に東京都指定有形文化財となった。標庫は通常は扉が閉じており、年に一度ほど一般公開される[3]。富士山の3776mも、この原点を基準に測った、東京湾平均海面からの高さである[3]。
ここで大事なのは、基準が「海面そのもの」から「陸の一点の数値」に移った点だ。海面は動いても平均値は決まる。しかし陸の点は、地面の動きを受ける。次章で見るように、実際に24.500mは維持できなかった。
4. うごかない はずの 点が、じしんで 2.4センチ しずんだ
4. 動かないはずの基準点が、地震で沈んだ
4. 原点数値の改正 ── 1928年の24.4140mと、2011年の24.3900m
1923ねんの かんとうだいしんさいの あと、日本すいじゅんげんてんの 高さは、24.414メートルに なおされました[4]。土地が うごいたので、すうじを あわせなおしたのです。
2011ねんの 東北の おおきな じしんの あとは、じっさいに はかって、2.4センチ しずんで いたと わかりました。そこで 24.390メートルに なおされました[4]。
2.4センチは、ゆびの はばより 小さい 長さです。でも、日本の 高さの もとが かわるので、きちんと なおします。すうじを なおすのは、1928ねん いらい 2回目でした[4]。
つまり、日本の 高さの ものさしは、ときどき「あわせなおす」ものです。では、もっと 大きな 日本ぜんたいは、どうなって いるのでしょう。
24.500mから24.390mへ
創設のとき24.5000mと決められた原点数値は、関東大震災(1923年)の後、昭和3年(1928年)3月に24.4140mに改められました。東北地方太平洋沖地震(2011年)の後は、平成23年(2011年)10月に24.3900mになり、現在の値です[1][4]。
2011年の改正は、実測にもとづき、改正量は2.4cmの沈降でした。原点数値の改正は、昭和3年以来2度目です[4]。
数字を並べてみると
創設から今までに、原点の数値は、合計で11cm下がりました(24.500mから24.390mを引いた値です)。標高0mの基準である東京湾平均海面は変えず、それを写した陸の点の値が、地殻変動に合わせて書き直されてきたことになります。
ただし、基準を写した一点を守ることと、日本全体の高さを正しく保つことは、別の話です。
日本水準原点の原点数値は、明治24年に24.5000mと決められた。その後、関東地震(1923年)などの地殻変動の影響で、昭和3年(1928年)3月に24.4140mへ改められた。さらに東北地方太平洋沖地震(2011年)の後、平成23年(2011年)10月に24.3900mとなり、これが現在の値である[1][4]。
2011年の改正では、実測にもとづく改正量は2.4cmの沈降だった。原点数値の改正は昭和3年以来、2度目である[4]。創設値と現在値の差は、24.500m−24.390m=0.110m、すなわち約11cmである(この差の計算は本稿による)。
ここで、「基準を変えた」のではない点に注意が必要だ。標高0mを定義する東京湾平均海面はそのままで、陸の点の数値が、実際の地面の動きに合わせて書き直された。基準の「点」は、地面といっしょに動く。では、点が動くなら、その点から測りつなぐ全国の標高は、どうなるのか。
5. 日本ぜんぶの 高さを、あわせなおすと どうなる?
5. 全国の標高を、衛星で測り直した令和7年
5. 水準測量の累積誤差と、令和7年(2025年)の標高成果の改定
これまでは、げんてんから すこしずつ、高さの ちがいを はかって つないで いく 方ほうでした。日本じゅうを はかるのに、10ねんほど かかると いわれます[6]。
この やり方には、こまる ところが ありました。げんてんから とおく なるほど、ずれが たまって しまうのです[6]。ちきゅうの うごきで、高さが すこしずつ かわる ことも あります。
そこで 2025ねん 4月1日、こくどちりいんは、山の 上の しるしや 石の しるしなどの 高さの もとめかたを、えいせいを つかった あたらしい やりかたに あらためました[5]。ちきゅうの うごきで たまった ずれと、とおくで たまった ずれを、なおすためです。
ただし、0メートルの もとを かえたのでは ありません。しるしの 高さの もとめかたを、あたらしくしたのです[5]。おきなわでは、かわる 長さは 大きくても 5センチほどと されて います[5]。
ふじさんでも、えいせいで はかった 三かくてんの 高さが、5センチ 高く なりました。でも、いつも いわれる 3776メートルは、そのままです[10]。
10年以上かかる測量と、積もる誤差
原点から高さの差を測りつなぐ水準測量には、弱点がありました。全国を測るのに10年以上かかり、測る距離が長くなるほど誤差も積もっていくのです[6]。そのうえ、地殻変動で土地の高さも少しずつ変わります。
そこで令和7年(2025年)4月1日、国土地理院は、電子基準点・三角点・水準点などの標高を、水準測量にもとづく値から、衛星測位にもとづく最新の値(測地成果2024)に改定しました。長年の地殻変動で累積したずれと、距離で累積した誤差をなくすためです[5]。
変えたのは、基準ではなく求め方
0mの基準(東京湾平均海面)を変えたのではありません。基準点の標高値の求め方が新しくなったのです[5]。衛星測位で分かる高さは、地球をなめらかな楕円体に見立てた面からの高さです。標高にするには、海面を陸へ延ばした面(ジオイド)との差であるジオイド高が要り、今回は新しいジオイド・モデル「ジオイド2024」を使っています[6][5]。
改定量は場所で違います。試算では、沖縄地方が最大でマイナス5cm程度でした[5]。富士山でも、国土地理院の発表を伝える報道によると、三角点の標高が3775.56mと、従来の3775.51mより5cm高くなりました。ただし最高点はそれより高く、四捨五入した公式の高さは3776mのままです[10]。
従来の水準測量は、原点から高さの差を順につないで全国を測るため、10年以上かかり、測る距離に応じて誤差が累積する[6]。これに地殻変動が加わり、標高成果にずれが溜まっていた。
そのため国土地理院は令和7年(2025年)4月1日、電子基準点・三角点・水準点などの標高成果を、水準測量を基盤とする値から衛星測位を基盤とする最新の値(測地成果2024)に改定した。ねらいは、地殻変動で累積したずれと、水準測量の距離で累積した誤差の解消である[5]。
衛星測位(GNSS)で得られるのは楕円体高なので、標高にするには、東京湾平均海面を陸へ仮想的に延ばした面であるジオイドからの高さ、すなわちジオイド高が必要になる。改定では新しいジオイド・モデル「ジオイド2024」を使う[6][5]。
ここでも、東京湾平均海面という0mの定義を変えたのではなく、基準点の標高値の求め方を更新した点が重要だ[5]。改定量は場所や点の種類で異なり、試算では沖縄地方で最大−5cm程度である[5]。
富士山では、国土地理院の発表を伝える報道によれば、三角点の標高が3775.56m(従来3775.51m)と5cm高くなった。しかし最高点は三角点より高く、四捨五入した公式の高さは3776mのままで、山頂の高さの改訂ではない[10]。
6. うみの 高さは、どこでも 同じ?
6. 日本の海面は、どこでも同じ高さなのか
6. 離島の標高原点と、日本海側・太平洋側の海面差
ここまで 「東京の うみ」を もとに して きました。でも、日本には たくさんの しまが あります。
とおい しまは、本土と ちがって、その しまの うみの へいきんから 高さを きめて います。はちじょうじまは かみなとこう、ちちじまは 二見こう、みやこじまは たいらこう、いしがきじまは いしがきこうの うみです。いまは 42の しまが、そうして います[7]。
また、日本海がわの うみは、太平洋がわより へいきんで 20センチほど 高いと いわれます。とくに 夏から 秋は、ちがいが 大きく なります[9]。
だから 東京の うみを もとに した 高さは、その 場所の 近くの うみの たかさと、いつも 同じとは かぎりません。
ここまで、東京湾の平均海面を基準にしてきました。しかし日本には、本土から離れた島がたくさんあります。
離島は、本土とは別に、それぞれの島の平均海面から高さを定めています。八丈島は神湊港(底土港)、父島は二見港、宮古島は平良港、石垣島は石垣港の平均海面です。令和7年4月現在、42の離島が対象です[7]。
本土の中でも、海面は一様ではありません。日本海側と太平洋側では海面の高さに差があり、とくに夏から秋に差が大きくなるといわれます。そのため、東京湾を基準にした標高が、近くの実際の海面と一致しない地域もあります[9]。差は場所や季節で変わります。
離島の高さは、本土と別に、各島の平均海面から定められている(測量法第11条第1項第3号)。八丈島は神湊港(底土港)、父島は二見港、宮古島は平良港、石垣島は石垣港の平均海面を基準とし、令和7年4月現在で42の離島が対象になる[7]。
本土でも、海面は水平ではない。日本海側と太平洋側では海面の高さに差があり、この差は夏から秋に大きいといわれる[9]。そのため、東京湾平均海面を基準にした標高は、地域によっては近くの実際の海面とは一致しない。差は場所や季節で変わる。
基準は1つに決めたほうが使いやすい。しかし、それは「どこでも海面が同じ高さ」という意味ではない。この点を知っておくと、標高の数字の見え方が少し変わる。
7. じぶんでも しらべて みたく なったら
7. 自分でも調べてみたくなったら
7. 自分でも調べてみたくなったら ── 原点・検潮所跡・公式情報
おうちの 人と、じぶんの 家の 高さを しらべて みませんか。国土地理院の 「地理院地図」で、住んで いる 場所の 高さが 見られます。
そとに 出られる ときは、東京都 中おう区 新川に ある「れいがんじま けんちょうじょ あと」を たずねて みましょう。日本の 0メートルが うまれた 場所に 近い ところです[2]。
日本すいじゅんげんてんの たてものは、ふだんは とびらが とじて います。年に 一度ほど、一ぱんに こうかい されます[3]。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文の数値・年号は、国土地理院・国土交通省・中央区の資料を中心に確かめました。東京港の潮位表、ニュース、解説記事は補助として使っています。
- 国土地理院「よくある質問」(広報)(標高の基準、平均海面、日本水準原点の数値) https://www.gsi.go.jp/kohokocho/FAQ1.html (東京湾平均海面・原点数値)
- 中央区「霊岸島検潮所(量水標)跡」 https://www.city.chuo.lg.jp/a0052/bunkakankou/rekishi/bunkazai/kuminbunkazai/reiganjimakenchoshoryosuihyoato.html (量水標と観測期間)
- 国土交通省「日本水準原点の施設を一般公開!」 https://www.mlit.go.jp/common/001048486.pdf (日本水準原点・標庫・富士山)
- 国土地理院「平成23年 日本水準原点の原点数値の改正」 https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/suijun-2000seika.html (原点数値の改正)
- 国土地理院「全国の標高成果の改定」(公共測量資料) https://www.gsi.go.jp/shidou/data/hyokoukaitei.pdf (令和7年の標高成果の改定)
- tabi-mag「日本のジオイド」 https://tabi-mag.jp/geoid/ (水準測量の弱点・ジオイド)
- 国土地理院「離島の標高原点」 https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/ritohyokogenten.html (離島の標高の基準)
- 東京都港湾局「東京港潮位表」 https://www.kouwan.metro.tokyo.lg.jp/yakuwari/tokyokochouihyo2024.pdf (A.P.とT.P.の関係)
- tabi-mag「東京湾平均海面」 https://tabi-mag.jp/tokyopeil/ (日本海側と太平洋側の海面差)
なおした ところ
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