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しゅわを しらない こどもたちが、ぶんぽうを そだてたよ

手話を知らない子どもたちが集まり、文法を育てた:ニカラグア手話の話

手話を知らない子どもたちが文法を育てた:ニカラグア手話と、手話の文法のしくみ

分野:からだ

むかし、しゅわは「てまね」と よばれた ことが ありました。でも いまは、ちゃんとした ことばだと されています。てと かおで、どうやって ぶんを つくるのでしょう。

手話は、昔は「手まね」と呼ばれ、身ぶりの寄せ集めのように見られたことがありました。今では、音声の言葉とは別の文法をもつ言語だと考えられています。ニカラグアでは、手話を知らない子どもたちが学校に集まり、世代を重ねて手話の文法を育てていきました。その話を軸に、手の動きの部品、顔の役目の順に見ていきます。

手話は、かつて「手まね」と呼ばれ劣った言葉とされたが、現在では独自の文法体系をもつ言語と位置づけられている[1]。ニカラグアでは、聴こえない子どもたちが世代を重ねて手話の文法を育てていった。この研究を手がかりに、手の形・位置・動きという部品や、眉やあごなどの顔の動きが文法をどう作るのかを見て、手話が言語であるという意味を考える。

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1. どうして「てまね」と よばれたの?

1. 「手まね」と呼ばれた時代があった

1. 「手まね」から言語へ:見方の転換

みなさんは、「あ、いま てで はなしてる」と おもった ことは ありますか。しゅわで はなす ひとの てを みると、すごい はやさで うごいています。

むかしは、しゅわは「てまね」と よばれ、ものの ようすを てで まねするだけの、おとった ことばだと いわれました[1]。いまは ちがいます。

ぜんにほん ろうあれんめいという だんたいは、しゅわは「てと かおの うごきで ぶんを つくる、めで みる ことば」で、こえの ことばと おなじ ねうちが あると のべています[1]。

手話で話している人の手は、目にも止まらない速さで動きます。それを見ると、身ぶりを次々につなげているだけのように思えるかもしれません。

実際、昔は手話は「手まね」と呼ばれ、物事やその様子を手で表す、劣った言葉だと言われてきました[1]。全日本ろうあ連盟は、その後の研究者たちによって、日本語とは異なる文法体系をもつ言語だと認識されるようになったと述べています[1]。

同じ連盟は、手話言語を「手の形、位置、動きをもとに、表情なども使う、視覚を用いた言語」で、音声言語と対等だと説明しています[1]。この記事では、手話の文法のしくみを見ていきます。

手話を「身ぶりの寄せ集め」と見る見方は根強かった。全日本ろうあ連盟は、かつて手話は手まねと呼ばれ、物事やその様子を手で表現する劣った言葉と言われてきたが、研究者たちの仕事によって日本語とは異なる文法体系をもつ言語と認識されるようになった、と整理している[1]。

では、その「文法」とは何か。同連盟は、手話言語を手の形・位置・動きをもとに、表情なども活用する独自の文法体系をもつ視覚言語で、音声言語と対等な言語だとしている[1]。ただし、連盟自身は「日本手話」と「日本語対応手話」という二分のしかたには異論を述べており、区分の扱いは立場が分かれる。この記事では、二種類あると決めつけず、手話が言語であるという点に絞って書く。

2. たんごは、なにと なにで できているの?

2. 一つの単語は「三つの部品」でできている

2. 単語の構造:手の形・位置・動き(ストーキー1960)

おなじ てでも、かたちが ちがえば べつの ことばに なります。しゅわの たんごは、「てのかたち」「てを おく ところ」「てのうごき」の みっつが あわさって できています[3]。

「かき」と「かぎ」は、てんてんが あるか ないかだけで、べつの ことばに なりますね。しゅわも、ぶひんを ひとつ かえると べつの ことばに なる ことが あります。ただし ほんとうは、おとと てのうごきは べつの ものです。

むかしの がくしゃは、しゅわの たんごを この みっつに わけて しらべ、「しゅわにも、ことばの ぶひんが ある」と しめしました[3]。

1960年、アメリカの言語学者ストーキーは、アメリカ手話の単語を「手の形」「手の位置」「手の動き」の三つの要素に分けられることを示しました[3]。三つのうち一つだけを入れ替えると、別の単語になる例があることも示し、手話の中に、音声言語の「音」にあたる部品の構造があることを明らかにしました[3]。

後の研究者は、はじめ手の形に含まれていた手のひらの向きを、四つ目の要素として独立させています[3]。

たとえば、日本語の「かき」と「かぎ」は、濁点があるかどうかだけで別の言葉になります。手話でも、手の形だけ、位置だけを変えると別の言葉になる、という考え方です。もちろん、音と手の動きは別のものなので、たとえは目安にとどめてください。

手話が言語である根拠の一つは、単語が意味のない小さな部品に分解でき、部品を入れ替えると別語になるという構造である。言語学者ウィリアム・ストーキーは1960年の『Sign Language Structure』で、アメリカ手話(ASL)の単語を手の形(dez)・位置(tab)・動き(sig)の三つの側面に分解し、ミニマルペア(一つの要素だけが異なる語の対)を示すことで、手話にも音韻にあたる構造があることを示した[3]。Stokoeの手の形(dez)には向きも含まれていたが、後にKyleとWollらが向き(orientation)を独立した第四の要素として切り出した[3]。

なお、この記述は二次資料(百科事典的な解説)に基づく。原典の確認と、日本手話における具体的な語例の収集は、読者の宿題として残る。

3. かおの うごきも ぶんぽうなの?

3. 手が同じでも、顔がちがえば意味が変わる

3. 非手指標識(NM):手指標識が同じでも意味が変わる

しゅわで だいじなのは、てだけでは ありません。まゆ、あご、かた、めの うごきも、ぶんを つくる ひとつの ぶひんです[2]。

ある がっこうの しりょうには、「てが おなじでも、かおの うごきが ちがうと、いみが かわる」と かかれています[2]。

ふつうの かいわでも、おなじ「そう」でも、かおで「そうなの?」や「そうだね」に かわりますね。しゅわでは、その かおの うごきが、きまりとして つかわれています。

「あの子、来たよ」と「あの子、来たの?」は、声の高さで区別できます。手話では、その役目を、眉、あご、肩、目の動きなどが担うことがあります。

手話を教える明晴学園の資料は、こうした顔や体の動きを「NM」と呼んで、文法の要素の一つに挙げています。そして「手の形が同じでも、NMが違うと意味が変わる」と説明しています[2]。ほかの要素として、指さし(人や物を指す)なども、文法の部品として並べられています[2]。

手話を「手の動きだけ」と考えると、この顔の役割を見落とします。手話で話す人の顔を、ぜひ思い出してみてください。

手の形が同じでも、意味が変わることがあるのはなぜか。明晴学園の資料は、日本手話の文法要素として、手指標識のほか、NM(Non-Manuals、非手指標識。目や眉、あご、肩などの動き)、CL(classifier、類別詞)、PT(pointing、指さし。人称や指示代名詞など)、RS(referential shift、指示対象シフト)を挙げ、「手指標識が同じでもNMが違うと意味が変わる」と述べる[2]。つまり顔の動きは表情の飾りではなく、文法の一部として扱われている。

この資料は、日本手話を日本語とは異なる文法構造をもつ独自の言語と位置づけ、1878年開設の京都盲唖院のろう生徒の共同体から生まれた自然言語と説明している[2]。なお、1878年は京都盲唖院の開設年であって、手話そのものの起源をこの年に決める意味ではない。NMが具体的にどの文法機能(疑問、否定など)を担うかの詳細は、ここでは断定しない。

4. てを おしえられなかった こどもたちは、どうしたの?

4. 手話のない国で、子どもたちが集まったとき

4. ニカラグアでの手話の成立(1970年代後半〜)

ニカラグアという くにでは、1970ねんだいの おわりまで、みんなで つかう しゅわは なかったと いわれます[4]。おおくの ひとは、かぞくとだけ つうじる、じぶんたちの みぶりを つかっていました。

そこで、マナグアの がっこうに、きこえない こどもたちが あつまりました。1981ねんまでに、やく200にんが かよいました[4]。せんせいは しゅわを しらず、スペインごで おしえました[4]。

それでも こどもたちは、こうていや バスの なかで みぶりを かわしました。すると、みんなに つうじる きまりが、だんだん できていきました[4]。

ニカラグアでは1970年代後半まで、聴こえない人たちの共同体も手話もなかったと報告されています。多くの人は、家族とだけ通じる自分たちの身ぶり(ホームサインと呼ばれます)を使っていました[4]。

ところが、首都マナグアの特別支援学校に聴こえない子どもたちが集まり、1981年までに約200人が通うようになります。先生たちは手話を知らず、授業はスペイン語でした。それでも子どもたちは、校庭やバスの中で身ぶりを交わすうちに、共通の体系にまとまっていったと報告されています[4]。

つまり、手話を教わらずにできたのではなく、教える人がいない中で、子どもたち同士が作っていったのです。この手話は、いまではニカラグア手話と呼ばれています。

手話は、聴こえない人の共同体があれば自然に生まれるのか。それを示すのがニカラグアの例である。Coppolaと Soによれば、同国では1970年代後半まで聴こえない人の共同体も手話も存在せず、多くは家族内でのみ通じるホームサインを使っていた[4]。ところが1970年代後半にマナグアの特別支援学校に聴こえない子どもが集まり、1981年までに約200人が在籍した。教師は手話を知らずスペイン語で教えたが、子どもたちは校庭やバスの中で互いに身ぶりを交わし、共通の体系に収束していった[4]。

注意したいのは、「教わらずにできた」のではなく、教える側が手話を持たない状況で子ども同士が作った点である。また、ここで研究の対象になったのは、実験のために集められた子どもではなく、学校に通う子どもたち自身が作った言語であり、研究者はその成立過程を観察・記録した側にある。

5. あとから くる こどもほど、じょうずに なるの?

5. 世代を重ねるごとに、文法が整っていった

5. 世代による変化:様子と経路の分離と階層構造(2004)

この しゅわは、そのあとも つぎの こどもたちに つたわり、かわっていきました。

さいしょの せだいは、ものが ころがりながら おりる ばめんを、ひとつの てのうごきで まとめて あらわしました。あとから きた せだいは、「ころがる ようす」と「おりる みち」を わけて、じゅんばんに ならべました[5]。

この けんきゅうでは、いちばん あとで おぼえた いちばん わかい こどもたちが、より なめらかに しゅわを つかっていたと ほうこくされています[5]。

ニカラグア手話は、そのあとに入ってきた子どもたちによって、さらに変わっていきました。2004年の研究では、動きを表すときの違いが報告されています[5]。

最初の世代は、「ころがりながら下る」のような動きの「様子」と「経路」を、一つの手の動きに同時にこめました。次の世代は「様子だけ」「経路だけ」を分けて、順番に並べます。こうして、句の中に入れて使える階層のある構造ができていきました[5]。

この研究では、最も新しく手話を学んだ最年少の子どもたちが、より流暢に手話を使っていたと報告されています[5]。子どもが一人で言語を発明したのではなく、世代を重ねて整っていった、というのがこの研究のポイントです。

この手話は、その後に入学した世代によってさらに変化した。Senghasらの2004年の研究(Siegalの紹介記事を参照)によると、第1世代は動きの「様子」(回転しながらなど)と「経路」(下る、など)を一つの手の動きに同時に込めた。これに対し、第2・第3世代は様子だけ、経路だけを別々の動きとして分け、順番に並べ、句に組み込める階層構造を作った[5]。

この研究では、最も新しく手話を習得した最年少の子どもたちが、より流暢に手話を使っていたと報告されている[5]。ここで重要なのは、ジェスチャーの体系が世代を追って文法をもつ言語へ整っていったという点であり、一人の子どもが言語を発明したという話ではない。ニカラグア手話はその後も使い手が増え、2004年時点で約800人(4〜45歳)とされる[5]。この数字は当時のものである。

6. せかいじゅうで おなじ しゅわなの?

6. 世界共通ではない、国や共同体ごとの手話

6. 手話は複数ある:言語としての承認

いいえ、せかいじゅうで おなじでは ありません。ニカラグアの しゅわは、せかいに かずひゃくも ある、それぞれ べつの しゅわの ひとつです[5]。

こえの ことばと おなじで、くにや あつまりごとに ちがう しゅわが あります。

2006ねん、こくれんの しょうがいしゃけんり じょうやくでは、「ことば」に「こえの ことば」と「しゅわ」が ふくまれると さだめられました[6]。にほんでも 2011ねんに、ほうりつで「ことば(しゅわを ふくむ)」と かかれたと、ろうあれんめいは のべています[1]。

ニカラグア手話は、世界に数百ある、それぞれ固有の手話言語の一つとされています[5]。手話は国ごと、共同体ごとに別々にあり、世界共通ではありません。

手話が言語であることは、法律のうえでも確かめられてきました。2006年12月に国連で採択された障害者権利条約は、第2条で「言語」を「音声言語及び手話その他の形態の非音声言語」と定義しています[6]。日本でも、2011年8月に成立した改正障害者基本法に「言語(手話を含む)」と書かれたと、全日本ろうあ連盟は述べています[1]。

ここまで見てきたとおり、手話は、手の形・位置・動きに顔の動きも合わせて意味を作る、独自の言語です。

手話は世界共通なのか。Siegalによれば、ニカラグア手話は世界に数百ある固有の手話言語の一つにすぎない[5]。国ごと・共同体ごとに別の手話があり、共通語ではない。日本手話も、1878年開設の京都盲唖院のろう生徒の共同体から生まれた自然言語という位置づけで語られている[2]。

制度面でも、この見方は次第に取り入れられてきた。国連の障害者権利条約(2006年12月採択)は第2条で「言語」を「音声言語及び手話その他の形態の非音声言語」と定義する[6]。日本では2011年8月成立の改正障害者基本法が「言語(手話を含む)」と明記したと、全日本ろうあ連盟は整理している[1]。なお、国の単独の手話言語法については、本記事の資料では確認できていない。

7. じぶんでも しらべてみたく なったら

7. 自分でも調べてみたくなったら

7. 自分でも調べてみたくなったら

きょう できること

かぞくや ともだちと、こえを だす ことなく、みぶりだけで「きょう あった こと」を つたえあって みましょう。さいしょは つうじなくても、なんども くりかえすと、「この みぶりは、これを あらわす」という きまりが、じぶんたちの あいだに できて くるかも しれません。ニカラグアの こどもたちの ことを おもいだせます。ただし これは、ほんものの しゅわでは ありません。

ほかに できること

まちの こうみんかんや としょかんで、しゅわの ほんや、しゅわ こうざの おしらせが ないか、さがして みましょう。

今日できること

家族や友だちと、声を出さずに、身ぶりだけで「今日あったこと」を伝え合ってみましょう。最初は通じなくても、繰り返すうちに、自分たちの間だけの決まりができるかもしれません。ニカラグアの子どもたちが体験した最初の段階に、ほんの少し近いあそびです。ただし、これは本物の手話ではありません。手話には、何世代もかけて整ってきた文法があります。

調べる手がかり

全日本ろうあ連盟や、地元の手話サークル・手話講座の案内を見ると、手話を学べる場所が見つかります。実際に手話で話す人に会うときは、手だけでなく顔も見ながら、会話を楽しんでください。

資料の読み方

手話の文法を学ぶには、日本語の入門書と、言語学の論文の二段階がある。この記事では、NMの具体的な役割(疑問文・否定文など)、日本手話の語順、空間を使った動詞の変化(動詞の一致)を、資料の確認が済んだ範囲を超えては書かなかった。これらは、日本手話学会や大学の研究者の資料で調べることができる。

やってみよう

声を出さずに身ぶりだけで一日の出来事を伝え合い、繰り返すうちに決まりが生まれるかを観察してみる。ホームサインの疑似体験にすぎず、手話とは別のものである点は忘れないこと。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

本文の[ ]は、下の資料の番号です。ウェブの資料は2026年9月30日に確かめました。

  1. 全日本ろうあ連盟「『手話の捉え方』について」(文部科学省『聴覚障害教育の手引』への意見)https://www.mext.go.jp/content/20230228-mxt_tokubetu01-000027851_02.pdf (手話言語の説明・手まねと呼ばれた歴史)
  2. 明晴学園の早期支援(厚生労働省検討会ヒアリング資料、2021)https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000758932.pdf (日本手話の文法要素・NM)
  3. Stokoe notation(Wikipedia)https://en.wikipedia.org/wiki/Stokoe_notation (手の形・位置・動きの分解。二次資料)
  4. Coppola & So (2005) Abstract and Object-Anchored Deixis, BUCLD 29 https://languagecreationlab.uconn.edu/wp-content/uploads/sites/644/2014/03/coppolaso_2005.pdf (ニカラグアの学校の成立)
  5. Siegal (2004) Signposts to the Essence of Language, Science 305 https://langev.com/pdf/siegal04sciencemag.pdf (世代による変化・使い手の数)
  6. 内閣府『障害者白書』付録・障害者権利条約 https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/h25hakusho/zenbun/furoku_05.html (言語の定義)

なおした ところ

更新履歴

更新履歴(改版の記録)

  •  初版を公開。
  •  調べた側の事情を述べる文(「確かめられなかった」など)を減らし、読みやすく整えた(事実・数字・出典は変えていない)。

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