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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

からいものを たべると、どうして 「あつい!」って おもうの?

辛さは味ではなく「熱さ」に近い? 舌の神経が受け取っているもの

辛味の受容体TRPV1 ── カプサイシンと熱・酸への共通応答、鳥の低感受性、ワサビとサンショオール

分野:からだ

からい カレーを たべると、くちの なかが かっと あつく なります。ふうふう しても、おさまりません。

この 「あつい」は、どこから くるのでしょう。しらべて みると、からさの しょうたいは、あじとは すこし ちがう ものでした。

辛いものを食べて「熱い!」と声が出たとき、口の中の温度が本当に上がったわけではありません。それなのに、なぜ熱く感じるのでしょうか。

この疑問をたどると、辛さを感じる受容体が、熱を感じる受容体でもあったという話に行き着きます。鳥やワサビ、山椒の話も、同じ受容体の仲間から見えてきます。

唐辛子の辛味成分カプサイシンは、口の感覚神経の受容体TRPV1を活性化する[1]。TRPV1は43℃以上の熱や酸でも活性化される[2]。辛味が「熱い」に似るのは、この重なりによると考えられている。

このメモでは、1997年のTRPV1の発見、鳥がカプサイシンを感じにくい理由、ワサビ(TRPA1)と山椒(しびれ)の別の経路を、公的機関の情報と総説・論文を突き合わせて追う。仮説として語られている部分は、そう区別して書く。

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1. からさは、あじ なの?

1. 辛さは「味」なのか

1. 辛味は痛覚・温度感覚の刺激として説明される

あまい、しょっぱい、すっぱい、にがい、うまい。これは、舌したで わかる あじです。

からさは、この なかまとは すこし ちがうと いわれます。くちの 神経しんけいが、いたい とか あつい と いう しらせを おくって いるからです[2]。

そのしらせと、においが いっしょに なって、あの からい カレーの 「おいしさ」に なると かんがえられて います[2]。

痛みと温度の感覚として

甘味・塩味・酸味・苦味・うま味が舌で受け取られるのに対し、唐辛子などの辛さは、口の中の感覚神経が受け取る痛みや温度の感覚として説明されます。川端二功さんの総説は、辛味成分が神経のTRPV1という受容体で受け取られ、痛覚と温度感覚が刺激されると述べています[2]。

そこに香りが合わさって独特の風味になり、脳がそれをまとめて「おいしい」と認識するのだと考えられています[2]。痛覚・温度感覚の刺激という記述を、ここでは「味覚ではない」と言いかえています。

川端(2013)の総説は、口腔内の感覚神経に発現するTRPV1で辛味成分が受容されて痛覚と温度感覚が刺激され、香りと合わさって独特の風味となり、脳が統合して「おいしさ」を認識すると考えられている、とまとめる[2]。

農林水産省の解説も、カプサイシンの辛味は舌上の灼熱感として認識されるとする[1]。なお「辛味は基本五味に含まれない」という直接の記述は、参照した資料では確認していない。上の整理は、痛覚・温度感覚の刺激という記述からの言いかえである。

2. あつさと からさは、おなじ かぎあな

2. 熱さと辛さは、同じ「鍵穴」で感じる

2. TRPV1は43℃以上の熱・酸・カプサイシンで開く

くちの 神経しんけいには、受容体じゅようたいと いう、しらせを うけとる ぶぶんが あります。かぎあなの ような ものです。

とうがらしの からさの もとは、この かぎあなに ぴたっと はまります。じつは おふろの おゆが あつすぎる ときにも、おなじ かぎあなが はたらきます。

ただし 本当の かぎと かぎあなとは ちがい、ひとつの 受容体じゅようたいが、ちがう しゅるいの しらせにも はんのうします[2]。

あついスープに からい ものを 入れると、よけいに からく かんじる ことが あります。いっしょに はたらくと、つよく なるためだと されて います[2]。

ひとつの受容体が、いくつもの合図に応える

TRPV1は、唐辛子の辛味成分カプサイシンだけでなく、43℃以上の熱や酸でも活性化される受容体です[2]。43℃は、人が痛いと感じ始める温度のあたりだとされていて、TRPV1は痛みの受容体としても働きます。

辛さと熱さが同じ受容体につながっていると考えると、辛いものを食べたときに「熱い」と感じることの説明がつきます。43℃という数字は「以上」で、痛み域の目安です。

温かいスープで辛さが増す?

辛味成分と熱が同時にあると、どちらか一方のときより強く活性化するとされ、温かいスープの辛味が強く感じられる理由の一つと考えられています[2]。

TRPV1は、カプサイシンのほか、43℃以上の温度刺激や酸(H+)でも活性化される多刺激受容型のイオンチャネルである[2][1]。43℃は痛みを感じ始める温度であり、TRPV1は痛覚受容体としても働く。

辛味成分と熱が同時に加わると、単独より強く活性化するとされ、温かいスープで辛味が強く感じられる一因と考えられている[2]。ただし「43℃」は痛み域の目安であり、固定の閾値ではない。

3. かぎあなを みつけた けんきゅうグループ

3. 熱の受容体を探して、辛さの受容体に出会った

3. 1997年の同定とノーベル賞(2021年)

デイビッド・ジュリアスさんたち 研究けんきゅうグループは、とうがらしの からさを うけとる かぎあなを さがしました。

その 遺伝子いでんしを つきとめて みると、その かぎあなは あつさにも はんのうする ことが わかりました[3]。

この 発見は、1997ねんに 発表されました。のちに ジュリアスさんは、ノーベルしょうを もらって います[3]。

唐辛子から始まった探し物

1997年、デイビッド・ジュリアスらの研究グループは、唐辛子の辛味に反応する受容体の遺伝子を突き止めました。この受容体は、のちにTRPV1と名づけられます。調べていくと、辛味成分だけでなく、体に害を及ぼすほどの熱にも反応することがわかりました[3]。

ジュリアスは2021年、温度と触覚の受容体の発見によって、アーデム・パタプティアンとともにノーベル生理学・医学賞を受けました[3]。

Julius(Nature 389: 816–824, 1997)は、カプサイシンに応答する受容体の遺伝子をクローニングした。のちにTRPV1と命名されたこの分子は、温度感覚を担う神経細胞で特異的に発現し、カプサイシンと有害な熱の両方に応答した[3]。

2021年のノーベル生理学・医学賞は、温度と触覚の受容体の発見に対し、Juliusと、Ardem Patapoutianに授与された[3]。

4. とりは、からくないの?

4. 鳥は唐辛子を辛く感じにくいという報告

4. 鳥類TRPV1とカプサイシンへの感受性の低さ

とうがらしを つついて たべる 鳥が います。ある けんきゅうでは、鳥の からさを かんじる かぎあなは、からさの もとに はんのうしにくいと ほうこくされています[4]。

かぎあなの かたちが、ほんの すこし ちがうと いわれます。すべての 鳥が そうかどうかは、まだ わかっていません。

鳥が たべると、たねが とおくへ はこばれる ことが あります。これが とうがらしに とって どんな とくに なるかは、かんがえ方の ひとつ(かせつ)で、たしかめられた 話では ありません[4]。

反応しにくい受容体

カプサイシンへの感じやすさは、動物の種によってちがいます。ある研究によると、鳥類のTRPV1は、カプサイシンが結合する部分に1か所の変異があり、カプサイシンに反応しにくいと報告されています。すべての鳥にあてはまるかは、確かめられていません[4]。

なぜそうなったのか

唐辛子は哺乳類には食べられにくく、種子を遠くまで運ぶ鳥には食べてもらえる、という説明があります。ただし、これは「そう考えられている」仮説で、そのために進化したと言い切れる話ではありません[4]。

鳥類のTRPV1は、カプサイシン結合部位に1つの点変異を保持しており、カプサイシンに対する感受性が低い(この論文の報告では非感受性)と報告されている。全鳥類に一般化できるかは未確認である[4]。

これに関連して、トウガラシが哺乳類には食べられにくく、種子を遠くへ運ぶ鳥には食べられる、という種子散布上の利点が考えられている。ただし、この説明は仮説であり、この点変異が種子散布のために選ばれたと断定できる資料は、参照した範囲にはない[4]。

5. わさびは、はなに ツーン!

5. ワサビの刺激は、別の受容体と鼻

5. ワサビ:AITCとTRPA1

わさびを たべると、はなが ツーンと します。これも、からさと おなじ なかまの かぎあなが かんけいします。

すりおろした わさびからは、アリルイソチオシアネートと いう ものが できます。これが TRPA1と いう べつの かぎあなに はたらくと、ツンと した いたさが おきると いわれて います[2]。

わさびの からさは、したよりも はなや のどに、ツンと くる ことが あると 言われます[5]。

TRPV1の仲間、TRPA1

ワサビのツンとした刺激は、すりおろすと生じるアリルイソチオシアネート(AITC)が、TRPA1という受容体に働いて感じる痛みだと説明されています。TRPA1はTRPV1と同じTRPチャネルの仲間です[2]。ペパーミントの涼しさは、TRPM8という別の仲間が関わるとされます[2]。

舌より鼻・喉にもくる

ワサビの刺激は、舌だけでなく鼻や喉にもツンとした刺激として感じられることがある、と一般向けの解説にあります[5]。

ワサビのツンとした刺激(痛み)は、すりおろしで生成されるアリルイソチオシアネート(AITC)が、TRPA1に作用して生じる。TRPA1は、TRPV1と同じTRPチャネルファミリーに属する。ペパーミントの涼感はTRPM8による[2]。

ワサビの刺激は、舌だけでなく鼻や喉にもツンとした刺激として感じられることがある、と一般向けの解説は述べる[5]。この点は査読論文ではなく解説資料に依るので、感覚の記述にとどめる。

6. さんしょうの 「びりびり」は?

6. 山椒の「しびれ」は痛みだけでは説明できない

6. サンショオールとKCNK3・KCNK18

さんしょうを たべると、くちが びりびり します。これは、とうがらしの からさとは ちがう かんじです。

さんしょうの ものも TRPV1に はたらきますが、からさは とうがらしより ずっと よわいと いわれます[2]。

びりびり する ところは、べつの しくみが かんけいして いると、研究で しめされました。いたい 神経しんけいだけでなく、さわった ことを つたえる 神経しんけいも うごかすと しめされました[2]。

辛味は弱く、しびれは別の仕組み

山椒の成分サンショオールもTRPV1を活性化しますが、辛味の強さはカプサイシンよりずっと低いとされます[2]。

麻酔薬にも似たしびれは、TRPV1だけでは説明できません。ヒドロキシα-サンショオールが、カリウムチャネルのKCNK3とKCNK18を抑えることで、痛覚だけでなく、触覚に分類される感覚神経まで活性化することが、Bautistaらによって示されました[2]。

山椒のサンショオールもTRPV1を活性化するが、辛味の強さはカプサイシンよりはるかに低い。しびれ(麻酔薬に似た感覚)はTRPV1のみでは説明できず、Bautistaらは、ヒドロキシα-サンショオールがKCNK3とKCNK18を抑制し、痛覚だけでなく触覚に分類される感覚神経も活性化することを示した[2]。

辛さ・熱さ・冷たさ・しびれは、TRPチャネルやカリウムチャネルなど、複数の分子が分担している。「辛い」の一語の下に、少なくとも別々の経路がある。

「からさ」を もっと しりたく なったら

自分でも調べてみたくなったら

自分でも調べてみたくなったら

おうちで できる こと

おうちの 人と、しょくひんの ふくろの うしろを 見て みましょう。こしょう、わさび、さんしょうなど、からい ものが 入って いるでしょうか。

むりに たべて くらべたり しない ように しましょう。とうがらしに さわった 手で、目や はなを こすっては いけません。

今日できること

家にある香辛料やチューブ入りのワサビの、原材料表示を読んでみましょう。「唐辛子」「わさび」「山椒」のどれが入っているかで、この記事の話とつながるはずです。

辛いものを無理に食べたり、家族に食べさせたりする必要はありません。

公的な情報を読む

農林水産省のカプサイシンの解説ページに、食品の安全の観点からのまとめがあります。

今日できること

香辛料やチューブ入りワサビの原材料表示を読み、唐辛子・ワサビ・山椒などが、どの製品に使われているかを見る。辛いものを試すことまでは求めない。

資料を読む

  • 農林水産省「カプサイシンに関する詳細情報」:性質と受容体についての解説
  • 川端二功「スパイスの化学受容と機能性」日本調理科学会誌46(1):辛味・ワサビ・山椒を1本で整理した総説
  • Nature 1997(389: 816–824):TRPV1の同定(英語)

辛いものの摂取や、目・鼻への刺激には、無理をしないこと。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

本文の参照番号は、下の資料の番号と対応しています。英語の資料は、junior の資料案内と出典欄にのみ置いています。

  1. 農林水産省「カプサイシンに関する詳細情報」 https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/capsaicin/syousai/ (カプサイシンとTRPV1、灼熱感)
  2. 川端二功「スパイスの化学受容と機能性」日本調理科学会誌46(1), 2013 https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience/46/1/46_1/_pdf (TRPV1、ワサビ、山椒の総説)
  3. Hot to touch(PMC総説), 2021 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8560496/ (TRPV1の発見とノーベル賞)
  4. Conservation of Tubulin-Binding Sequences in TRPV1 throughout Evolution, PLoS ONE, 2012 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3322131/ (鳥のTRPV1とカプサイシン)
  5. カガクなキッチン「アリルイソチオシアネート」 https://kagakucook.com/allyl-isothiocyanate/ (ワサビの揮発の説明。一般向けの解説)

なおした ところ

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