なぜ、ぐるぐる まわると めが まわるの?

目が回る仕組み ── ぐるぐる回ると、なぜ景色が動いて見えるのか

目が回る仕組み ── 前庭器官の錯覚と、訓練による脳の適応

分野:からだ

ゆうえんちの コーヒーカップや、こうえんの まわる あそびぐで、ぐるぐる まわった あと、きゅうに 止まったのに けしきが まだ うごいて 見えた ことは ありませんか。

じつは、この なぞを とく きっかけは、あるお医者さんが きいた、ある 人の 何げない 一言でした。みみの おくで、いったい 何が おきて いるのでしょう。

遊園地のコーヒーカップや、公園の回る遊具で、ぐるぐる回ったあと、急に止まったのに景色がまだ動いて見えたことはありませんか。

実はこのなぞを解くきっかけは、ある医師が聞いた、ある人の何気ない一言でした。この小さな気づきは、のちにノーベル賞を受賞する発見につながります。耳の奥で、いったい何が起きているのでしょうか。

遊園地のコーヒーカップや、公園の回転遊具で回ったあと、急に止まったのに景色がまだ動いて見えた経験がある人は多いだろう。

この現象を解き明かす手がかりは、20世紀初め、ある医師が患者から聞いた何気ない一言にあった。この観察は、のちにノーベル生理学・医学賞を受賞する発見へとつながる。耳の奥にある小さな器官で何が起きているのか、そしてこの仕組みは、なぜ人によって、動物によって、機械によって違って見えるのかをたどる。

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1. おゆの あたたかさで めまいが かわると 気づいた 人

1. お湯の温度でめまいが変わることに気づいた医師

1. お湯の温度でめまいが変わることに気づいた医師

1900年代の はじめ、オーストリアの まちに、ロベルト・バラーニと いう みみの お医者さんが いました。当時は、みみの びょうきを なおす ために、みみの 中を お湯で あらう ことが よく 行われて いました。

ある日、みて もらいに 来た 人が「ぬるい お湯だと めまいが しないのに、あつい お湯だと めまいが する」と 話しました。多くの 人なら 聞き ながして しまいそうな この 一言を、バラーニは 見のがしませんでした。

お湯の あたたかさを 少しずつ かえながら しらべて いくと、あたたかさに よって、めが かってに ちいさく ゆれ動く ことが 分かりました[1]。この しらべかたは、いまも みみの けんさで つかわれて います。

この はっけんで、バラーニは 1914年、ノーベルしょうを うける ことに 決まりました。でも、そのころ ヨーロッパは 大きな せんそうの さいちゅうで、バラーニは せんそうの 医者として はたらいて いる とちゅう、てきの 国に つかまって しまって いたのです[1]。しょうを うけとれたのは、それから 何年も あとの ことでした。では、この おゆの じっけんは、いったい 何を あきらかに したのでしょう。

1900年代の初め、オーストリアの街に、ロベルト・バラーニという耳の医師がいました。当時は、耳の病気の治療で、耳の中をお湯で洗うことがよく行われていました。

ある日、患者が「ぬるいお湯だとめまいがしないのに、熱いお湯だとめまいがする」と話しました。多くの人なら聞き流してしまいそうなこの一言を、バラーニは見逃しませんでした。

お湯の温度を少しずつ変えながら調べていくと、温度によって、目が勝手に小さく揺れ動くことが分かりました[1]。この調べ方は、いまも耳の検査で使われています。

この発見で、バラーニは1914年、ノーベル賞を受けることに決まりました。しかしそのころヨーロッパは第一次世界大戦のさなかで、バラーニは軍医として従軍中、敵国の捕虜になってしまっていたのです[1]。賞を受け取れたのは、それから何年もあとのことでした。では、このお湯の実験は、いったい何を明らかにしたのでしょうか。

1900年代初め、オーストリア=ハンガリー帝国の耳科医ロベルト・バラーニは、ウィーンで中耳炎などの患者の耳を温水で洗浄する治療を日常的に行っていた。

ある患者が「ぬるめのお湯だとめまいがしないのに、熱すぎるお湯だとめまいがする」と訴えた。多くの医師なら聞き流したかもしれないこの一言を、バラーニは見過ごさなかった。

水の温度を変えながら患者の反応を系統的に調べると、温度によって目が細かく不随意に動く現象(眼振)が起き、その方向が温度によって逆転することを発見した[1]。この「温度眼振反応」(カロリックテスト)は、内耳の状態を調べる検査法として、今も医療現場で使われている。

この功績により、1914年、バラーニのノーベル生理学・医学賞受賞が決まった。ところが当時ヨーロッパは第一次世界大戦のさなかで、バラーニは軍医としてオーストリア軍に従軍中、プシェミシル要塞の戦いでロシア軍の捕虜となり、中央アジアのメルヴという町の収容所に送られていた。授賞式に出席できたのは、スウェーデンなどの外交努力による捕虜交換が実現した1916年のことだった[1]。では、このお湯の実験は、耳の中の何を明らかにしたのだろうか。

2. みみの おくを ながれる「みず」が、めまいを おこす

2. 耳の中を流れる「水」が、めまいを起こす

2. 半規管の中の対流が、めまいを起こす

バラーニが しらべて いたのは、みみの おくに ある、うずまきの ような かたちを した 3本の くだです。この くだの 中には、水のような ものが いっぱいに つまって いて、頭の うごきを かんじる センサーの やくわりを して います。

みみの そとから あたたかい ものを あてると、中の 水のような ものが おふろの お湯と おなじように、あたたかい ぶぶんが 上に、つめたい ぶぶんが 下に うごきます。ひやすと、ぎゃくむきに うごきます。ただし 本とうは、おふろの お湯では なく、くだの 中に とじこめられた とくべつな えきたいです。これは びょういんで する けんさの やり方なので、おうちで まねを しては いけません。

くだの 中で この 水が うごくと、のうは「頭が まわって いる」と いう、まちがった しんごうを うけとって しまいます。これが、おゆの あたたかさで めまいが かわる りゆうです。

でも、これは あくまで おゆで むりやり だます やりかた。では、本とうに ぐるぐる まわった ときは、みみの 中で 何が おきて いるのでしょう。

バラーニが調べていたのは、耳の奥にある、輪っかのような形をした3本の管です。「半規管」と呼ばれ、中には液体がいっぱいに詰まっていて、頭の動きを感じるセンサーの役割をしています[2]

耳の外側から温度刺激を与えると、中の液体がお風呂のお湯と同じように、温かい部分が上に、冷たい部分が下に動きます。冷やすと、逆向きに動きます[2]。ただし本当は、お風呂のお湯ではなく、管の中に閉じ込められた特別な液体です。これは医療機関で行う検査の方法なので、自宅でまねをしてはいけません。

管の中でこの液体が動くと、脳は「頭が回っている」という、間違った信号を受け取ってしまいます。これが、お湯の温度でめまいが変わる理由です。

でも、これはあくまでお湯で無理やりだますやり方。では、本当にぐるぐる回ったときは、耳の中で何が起きているのでしょうか。

バラーニが調べていたのは、内耳にある前庭器官の一部、「半規管」と呼ばれる輪っか状の3本の管である。管の中は内リンパという液体で満たされ、頭の回転を感知するセンサーの役割を果たす[2]

医療機関で行う検査では、外耳道に注いだ水が体温より温かい(およそ44℃以上)か冷たい(およそ30℃以下)かによって、体温との温度差から半規管内の内リンパに対流が起こり、上昇するか下降するかが決まる。この対流の向きによって、目が細かく動く方向(眼振の向き)が逆転する[2]。これは検査設備のもとで行われる方法であり、自宅で耳に水を入れて試してはいけない。

管の中で内リンパが動くと、脳はそれを「頭の回転」による信号として解釈してしまう。これが、水温だけでめまいと眼振が起きる理由である。

しかしこれは、温度差という人工的な方法で半規管を「だます」やり方にすぎない。では、実際に体を回転させたときには、耳の中で何が起きているのだろうか。

3. まわるのを やめても、みみの 中の 水は すぐには 止まらない

3. 回転が止まっても、耳の中の水はすぐ止まらない

3. 回転が止まっても、内リンパは慣性で動きつづける

じっさいに 体を ぐるぐる まわすと、みみの 中の くだも いっしょに まわり、中の 水が うごいて「まわって いる」と かんじます。

もんだいは、まわるのを やめた しゅんかんです。くだじたいは すぐに 止まりますが、中の 水は、そのまま しばらく うごきつづけて しまいます。バケツの 中の 水を いきおいよく まわしてから 止めても、水だけは しばらく まわりつづけるのと おなじです。ただし 本とうは、バケツでは なく、みみの おくの ほそい くだの 中で おきて いる ことです。

すると のうは、目で 見た けしきは 止まって いるのに、みみからは「まだ まわって いる」と いう しんごうを うけとり、二つの かんじかたが くいちがって しまいます。この くいちがいが、まわった あとに めまいが おきる おもな りゆうです。

この とき、目は かってに 細かく ゆれ動きます。けしきが グルグル 見えるのには、この 目の うごきも かんけいして います。この かんじかたは、数びょうから 数十びょうくらい つづくことが 多く、人に よって かかる 時間は ちがいます[3]

実際に体をぐるぐる回すと、耳の中の管も一緒に回り、中の液体が動いて「回っている」と感じます。

問題は、回転をやめた瞬間です。管自体はすぐに止まりますが、中の液体は、そのまましばらく動きつづけてしまいます。バケツの中の水を勢いよく回してから止めても、水だけはしばらく回りつづけるのと同じです。ただし本当は、バケツではなく、耳の奥の細い管の中で起きていることです。

すると脳は、目で見た景色は止まっているのに、耳からは「まだ回っている」という信号を受け取り、二つの感じ方が食い違ってしまいます。この食い違いが、回転後のめまいが起こるおもな理由です。

このとき目は勝手に細かく揺れ動きます。景色がグルグル見えるのには、この目の動きも関係しています。この感じ方は数秒から数十秒くらい続くことが多く、人によってかかる時間は違います[3]

実際に体を回転させると半規管も一緒に回転し、その中の内リンパが動いて回転を感知する。

問題は回転を止めた直後に起きる。半規管の壁(骨でできた管)は体と一緒に急に止まるが、中の内リンパは慣性により、しばらく同じ方向へ動きつづけてしまう[3]

すると脳は、目で見た景色は静止しているのに、内耳からは「まだ回転している」という信号を受け取り、視覚と平衡感覚が食い違う。この感覚の食い違いが、回転後に起こるめまい(回転性めまい、vertigo)のおもな理由とされる。このとき眼球は不随意に細かく動く(回転後眼振)。景色が回って見えるのも、この眼球運動が関係していると考えられる。

半規管の構造上、この揺れ戻しにはおよそ数秒から数十秒の時間スケールがあるとされ、条件や個人差によって、回転後のめまいがおさまるまでの時間も変わる[3]。では、この仕組みは誰にでも同じように起きるのだろうか。

4. れんしゅうで、めまいを かんじにくく できる

4. 訓練で、めまいを感じにくくできる

4. 訓練によって、脳がめまいの信号を抑えるようになる

では、だれでも おなじように 目が まわるのでしょうか。バレエの おどり手や、フィギュアスケートの せん手は、何回も くるくる まわっても へいきな かおを して います。

2013年、イギリスの だい学の けんきゅうチームが、バレエの おどり手 29人と、ボートの せん手 20人に、くらい へやで いすに すわって もらい、まわる じっけんを しました[4]

すると、おどり手は 目の うごきは おなじように おきて いるのに、「めまいを かんじる」じかんが みじかい ことが 分かりました。のうを しらべると、めまいを かんじる ぶぶんの はたらきが、おどり手だけ よわまって いました[4]

つまり、みみは おなじ しんごうを 送って いるのに、長年の れんしゅうで、のうが その しんごうを「気に しない」ように なって いたのです。では、この しくみは、人間だけの ものなのでしょうか。

では、誰でも同じように目が回るのでしょうか。バレエダンサーやフィギュアスケーターは、何回転もしても平気な顔をしています。

2013年、イギリスの大学の研究チームが、バレエダンサー29人と、ボート選手20人に、暗い部屋でいすに座ってもらい、回転する実験をしました[4]

すると、ダンサーは目の動きは同じように起きているのに、「めまいを感じる」時間が短いことが分かりました。脳を調べると、めまいを感じる部分の働きが、ダンサーだけ弱まっていました[4]

つまり、耳は同じ信号を送っているのに、長年の練習で、脳がその信号を「気にしない」ようになっていたのです。では、この仕組みは、人間だけのものなのでしょうか。

では、この仕組みは誰にでも同じ強さで働くのだろうか。バレエダンサーやフィギュアスケーターは、何十回転もしても平然としているように見える。

2013年(発表は2015年、Cerebral Cortex誌)、ロンドンのインペリアル・カレッジの研究チームは、女性バレエダンサー29人とボート選手20人を対象に、暗い部屋で回転いすに座らせる実験を行った[4]

結果、ダンサーは回転後の眼振とめまいの自覚が「分離」しており、めまいの持続時間が短かった。脳をスキャンすると、めまいの知覚に関わる小脳の一部が、ダンサーで縮小していた[4]

つまり内耳自体は同じ信号を送っているのに、長年の訓練によって、脳がその信号を「無視」するように適応していたのである。バレエの回転技法「スポッティング」(一点を見つめ続け、体が回った後に首だけ素早く戻す)の訓練が、この脳の適応に関わっている可能性があると研究チームは指摘している[4]。では、この仕組みは人間だけのものなのだろうか。

5. さかなも 鳥も、おなじ「まわりを かんじる くだ」を もって いる

5. 魚も鳥も、同じ「回転を感じる管」を持っている

5. 半規管は脊椎動物に共通する、進化的に古い仕組み

半きかん(この 3本の くだの 名まえ)は、さかなや かえる、鳥、けものまで、せぼねを もつ 生きものに 広く 見られる、とても 古くから ある しくみです[6]

鳥には、おもしろい とくぎが あります。体を まわしても、頭だけを その場に とめて おける のうりょくです。にわとりや はとを もって、体を ゆっくり まわして あげると、頭が くうちゅうに とまった ままの ように 見えます[7]

この とくぎは、体を まわす ときは とても じょうずに はたらきますが、体を 横に ゆらす ときは あまり はたらかない ことも 分かって います[7]。とくいな うごきと、にがてな うごきが あるのです。

半規管(この3本の管の名前)は、魚やカエル、鳥、けものまで、背骨を持つ生きものに広く見られる、とても古くからある仕組みです[6]

鳥には、面白い特技があります。体を回しても、頭だけをその場に留めておける能力です。ニワトリやハトを持って、体をゆっくり回してあげると、頭が空中に止まったままのように見えます[7]

この特技は、体を回すときはとても上手に働きますが、体を横に揺らすときはあまり働かないことも分かっています[7]。得意な動きと、苦手な動きがあるのです。

半規管を含む前庭器官は、魚類・両生類・鳥類・哺乳類まで、脊椎動物に広く共通する、進化的にきわめて古い仕組みである。基本的な構造と機能は、脊椎動物の初期から現在までほとんど変わっていないとされる[6]

鳥には、人間にはない特技がある。体が回転しても、頭だけを空間に固定できる「頭部安定化」の能力である。ハトを使った2017年の実験では、体を左右に回転させる刺激を与えても、頭部はほぼ完璧に安定し、暗闇でも同様に機能した[7]

興味深いことに、同じ実験で体を平行移動させて揺らした場合には、頭部はほとんど安定化されず、体の動きに大きく追従してしまうことも分かった。研究チームは、回転時の安定化には前庭器官だけでなく、視覚以外の別の感覚系も関わっている可能性を指摘している[7]。つまり鳥が得意なのは「回転」への対処であって、「移動の揺れ」への対処ではない。

6. れんしゅうを つんだ うちゅうひこうしも、じゅうりょくが ない ところでは 目が まわる

6. 訓練を積んだ宇宙飛行士も、無重力では目が回る

6. 無重力では、訓練を積んだ宇宙飛行士も新しいめまいに直面する

鳥の この とくぎも、おどり手が めまいを かんじにくく なる ことも、地きゅうで、重力を かんじられる ばしょで たしかめられて きました。では、重力を かんじられない ところでは、どう なるのでしょう。バレエの おどり手が 地上で みにつけた ちからも、うちゅうと いう まったく 新しい ばしょでは、おなじように つかえるとは かぎりません。

うちゅうひこうしの おおくは、ロケットで 打ち上がった あとの 数日間、気もちが 悪く なったり、目が まわったり、上下左右の かんかくが 分からなく なったり します。この しょうじょうが 出る 人は、うちゅうひこうしの 7わりちかくに のぼると いう ほうこくも あります[8]

りゆうは、じゅうりょくが ない ところでは 体の かたむきを かんじる ための 手がかりが かわり、目で 見た じょうほうと、体が かんじる じょうほうが くいちがって しまう ことです[5]

たいてい 2日から 3日ほどで 体が なれますが、人に よっては もっと 長く かかる ことも あります[8]。地きゅうに もどった 直後にも、ぎゃくむきの めまいが おきる ことが あります[5]。「まわって いない」のに めまいが おきる ところが、おもしろい ところです。では、この「かんかくの くいちがい」は、生きものだけの ものなのでしょうか。

鳥のこの特技も、ダンサーがめまいを感じにくくなることも、地球で、重力を感じられる場所で確かめられてきました。では、重力を感じられない場所では、どうなるのでしょうか。バレエダンサーが地上で身につけた力も、宇宙という全く新しい場所では、同じように使えるとは限りません。

宇宙飛行士の多くは、ロケットで打ち上がったあとの数日間、気持ちが悪くなったり、目が回ったり、上下左右の感覚が分からなくなったりします。この症状が出る人は、宇宙飛行士の7割近くにのぼるという報告もあります[8]

理由は、無重力では体の傾きを感じるための手がかりが変わり、目で見た情報と、体が感じる情報が食い違ってしまうことです[5]

たいてい2日から3日ほどで体が慣れますが、人によってはもっと長くかかることもあります[8]。地球に戻った直後にも、逆向きのめまいが起きることがあります[5]。「回っていない」のにめまいが起きるところが、面白いところです。では、この「感覚の食い違い」という仕組みは、生き物だけのものなのでしょうか。

鳥の頭部安定化も、バレエダンサーの脳の適応も、地球で重力を感じられる環境のもとで確認されてきた仕組みである。では、重力そのものを感じられない宇宙では、どうなるのだろうか。バレエダンサーが地上での訓練によって身につけた適応も、宇宙という全く新しい環境では、そのまま通用するとは限らない。

宇宙飛行士の多くが、打ち上げ後数日間、吐き気やめまい、方向感覚の喪失などの症状を経験する。「宇宙適応症候群」と呼ばれるこの症状は、報告によって割合は異なるが、NASAは飛行士の最大73%に起こるとしている。症状の重さには個人差が大きく、通常は2〜3日、人によってはそれ以上続く[5][8]

原因は、無重力によって、重力方向を感知する耳石器官(前庭器官のうち、傾きと直線加速度を感じる部分)が受け取る手がかりが変わり、前庭系と視覚系が矛盾した運動状態を報告してしまうことにある[5]

地球への帰還後にも、前庭系が重力へ再適応する過程で、数日間にわたり同様の症状が続くことがある[5]。回転していなくても、感覚どうしが食い違えばめまいは起きる。では、この「感覚の食い違い」という仕組みは、生き物だけのものなのだろうか。

7. きかいの 中にも、耳と にた ぶひんが 入って いる

7. 機械の中にも、耳と似た部品が入っている

7. ロボットの姿勢センサーは、前庭器官と役割分担がそっくり

半きかん(回てんを かんじる)と、耳せききかん(かたむきを かんじる、もう一つの ぶひん)の やくわりは、じつは ロボットや スマートフォンの 中に 入って いる「IMU」と よばれる そうちと、そっくりです。

ジャイロセンサーと いう ぶひんが 半きかんの やくわりを、かそくどセンサーと いう ぶひんが 耳せききかんの やくわりを して います。この しくみに ついては、「ロボットは どうやって たおれずに あるくの?」の 記事で くわしく 見て います。

おもしろい ことに、きかいの センサーにも、人間と にた 弱点が あります。ジャイロセンサーは、時間が たつと 少しずつ ずれて しまうのです。そのため、べつの センサーの じょうほうと くみあわせて、ずれを なおす ひつようが あります。

半規管(回転を感じる)と、耳石器官(傾きを感じる、もう一つの部分)の役割は、実はロボットやスマートフォンの中に入っている「IMU」と呼ばれる装置と、そっくりです。

ジャイロセンサーという部品が半規管の役割を、加速度センサーという部品が耳石器官の役割をしています。この仕組みについては、「ロボットはどうやって転ばず歩くのか」の記事で詳しく見ています。

面白いことに、機械のセンサーにも、人間と似た弱点があります。ジャイロセンサーは、時間が経つと少しずつずれてしまうのです。そのため、別のセンサーの情報と組み合わせて、ずれを直す必要があります。

半規管(回転を感知)と耳石器官(傾きと直線加速度を感知)という前庭器官内部の役割分担は、実はロボットやドローン、スマートフォンに搭載される「IMU(慣性計測装置)」というセンサーの構成と同じ発想になっている。ジャイロセンサーが半規管に、加速度センサーが耳石器官に対応する。IMUの詳しい仕組みと、ロボットの姿勢制御への使われ方は「ロボットはどうやって転ばず歩くのか」でたどった。

興味深いのは、機械のセンサーにも生物と似た弱点があることだ。ジャイロセンサーは、時間の経過とともに小さな誤差が蓄積していく「ドリフト」という問題を抱えており、単独では長時間の姿勢を正しく保てない。そこで、短時間は正確だが誤差が蓄積するジャイロセンサーと、長時間は安定しているが細かい揺れに弱い加速度センサーの情報を組み合わせ、互いの弱点を補い合う。

じぶんでも やって みる

自分でも調べてみたくなったら

自分でも調べてみたくなったら

ゆうえんちや こうえんで、ぐるぐる まわる あそびに のった あとの ことを おもいだして みて ください。目を あけて いた ときと、目を つぶって いた ときで、めまいの かんじかたに ちがいは ありましたか。

いま ためして みたいなら、ものが 何も ない、ひろくて やわらかい ばしょで、まわる いす(かいてんいす)に すわって、ゆっくり 10回ほど おなじ むきに まわって みて ください。止まった すぐ あとに、目を あけた ときと、目を つぶった ときを くらべて みましょう。

あんぜんの ために

まわるのは、テーブルや かいだんの ない、ひろい ばしょで、大人と いっしょに やりましょう。気もちが 悪く なったら すぐに やめて ください。立ったまま まわると たおれる きけんが あるので、まわる いすに すわって まわるのが あんぜんです。ふだんから 車よいしやすい 人、みみや 首の びょうきの ある 人は、この じっけんを しないで ください。首を いきおいよく うごかす ことも しないで ください。

遊園地や公園で、ぐるぐる回る遊具に乗ったあとのことを思い出してみてください。目を開けていたときと、目をつぶっていたときで、めまいの感じ方に違いはありましたか。

いま試してみたいなら、物が何もない、広くて柔らかい場所で、回るいす(回転いす)に座って、ゆっくり10回ほど同じ向きに回ってみてください。止まったすぐあとに、目を開けたときと、目をつぶったときを比べてみましょう。

安全のために

回るのは、テーブルや階段のない、広い場所で、大人と一緒にやりましょう。気持ちが悪くなったらすぐにやめてください。立ったまま回ると倒れる危険があるので、回るいすに座って回るのが安全です。ふだんから乗り物酔いしやすい人、耳や首の病気がある人は、この実験をしないでください。首を勢いよく動かすこともしないでください。

自分の体で確かめる

遊園地や公園の回転遊具に乗ったあと、目を開けていたときと閉じていたときで、めまいの感じ方に違いがあったか思い出してみる。いま確かめたければ、家具のない広い場所で回転いすに座り、ゆっくり10回ほど同じ方向に回転したあと、目を開けた状態と閉じた状態を比べてみる。

原典で確かめる

  • バラーニの生涯と発見をまとめた総説を読んでみる。[1]
  • バレエダンサーの脳の適応を報告した研究論文を読む。[4]
安全のために

回るのは、家具や階段のない広い場所で、大人と一緒に行うこと。気持ちが悪くなったらすぐにやめること。立ったまま回ると転倒の危険があるため、いすに座って回ること。ふだんから乗り物酔いしやすい人や、前庭疾患・頸部の疾患がある人はこの実験を行わないこと。首を勢いよく動かす動作もしないこと。

しらべた ところ

参考にした情報源

参考にした情報源

  1. Bracha A, Tan SY. "Robert Bárány (1876–1936): The Nobel Prize-winning prisoner of war." Singapore Medical Journal, 56(1), 5–6, 2015。 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4325576/ (バラーニによるカロリック反応の発見の経緯、1914年のノーベル賞受賞決定、第一次世界大戦での捕虜生活、1916年の解放と受賞までの経緯)
  2. Wikipedia「Caloric reflex test」。 https://en.wikipedia.org/wiki/Caloric_reflex_test (温水・冷水による半規管内リンパの対流と、眼振の方向が温度で逆転する仕組み。検査に用いる水温の目安)
  3. Wikipedia「Vestibular system」。 https://en.wikipedia.org/wiki/Vestibular_system (回転停止後も内リンパが慣性で動きつづけ、cupulaが中立位置に戻るまでの時間定数がおよそ20秒であること)
  4. Nigmatullina Y, Hellyer PJ, Nachev P, Sharp DJ, Seemungal BM. "The neuroanatomical correlates of training-related perceptuo-reflex uncoupling in dancers." Cerebral Cortex, 25(2), 554–562, 2015。doi: 10.1093/cercor/bht266 https://doi.org/10.1093/cercor/bht266 (バレエダンサー29人とボート選手20人の回転いす実験。ダンサーでは眼振とめまいの自覚が分離し、めまいの知覚に関わる小脳領域が縮小していたこと)
  5. Wikipedia「Space adaptation syndrome」。 https://en.wikipedia.org/wiki/Space_adaptation_syndrome (宇宙飛行士が経験する症状の概要、前庭系と視覚系の感覚の食い違いという原因、帰還後の再適応症状)
  6. Straka H, Zwergal A, Cullen KE. "Vestibular animal models: contributions to understanding physiology and disease." Journal of Neurology, 263 (Suppl 1), 10–23, 2016。 https://link.springer.com/article/10.1007/s00415-015-7909-y (前庭器官の構造・機能が魚類から哺乳類まで脊椎動物全体で驚くほど保存されていること)
  7. Theunissen LM, Troje NF. "Head Stabilization in the Pigeon: Role of Vision to Correct for Translational and Rotational Disturbances." Frontiers in Neuroscience, 11, 551, 2017。 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5633612/ (ハトの頭部安定化は回転刺激に対しては暗闇でもほぼ完璧に働く一方、平行移動刺激に対してはほとんど働かないこと)
  8. NASA「Fundamentals of Human Health」。 https://www.nasa.gov/reference/fundamentals-of-human-health/ (宇宙適応症候群が宇宙飛行士の最大73%に、打ち上げ後2〜3日(人によってはそれ以上)続くという、NASAによる現行の数値)

なおした ところ

更新履歴

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