1. 2900年 前の かさ
1. 2900年前の傘と、いまの傘
1. 変わっていないもの ── 構造
かさを ひらいて、 下から 見あげて ください。
3つの ぶひんで できて います。
- まん中の ぼう 手で もつ ところ
- ほね まん中から そとへ ひろがる ぼう
- ぬの ほねの 上に はって ある
この 3つです。
2900年 前の タイルに かかれた かさも、 この 3つで できて いました[1]。
もっと 前から あったと 言う 人も います。
「エジプトの かべ絵に、 4000年 前の かさが ある」と。
でも、それは たしかめられませんでした。
この きじでは、たしかめられた ことだけを 書く ことに します。
それでも 2900年です。
その あいだ ずっと、 かさは 同じ かたちを して います。
傘を開いて、下から見上げてみてください。
部品はたくさんありますが、大きく見ると3つです。
| 部分 | 役割 |
|---|---|
| 中棒(なかぼう) | 手で持つ、中心の柱 |
| 骨 | 中心から放射状にのびて、布を支える |
| 生地 | 骨の上に張られ、雨や日ざしを受ける面 |
2900年前のタイルに描かれた傘も、この3つでできています[1]。
「4000年前のエジプト」の話
傘の歴史を調べると、 「4000年前のエジプトの壁画に傘が描かれている」という説明をよく見かけます。
管理人も探してみましたが、 博物館などの元の資料では確かめられませんでした。
なので、この記事では書かないことにします。
確かめられたのは、大英博物館の所蔵品としてのタイル。 こちらは紀元前9世紀のアッシリアです[1]。
それでも、2900年です。じゅうぶん長い。
ほかの道具と比べる
同じ時間で、ほかの道具はどうなったでしょう。
- 明かり たき火 → ろうそく → ランプ → 電球 → LED
- 文字を書く道具 石 → 筆 → ペン → 印刷 → 画面
- 移動 歩く → 馬 → 馬車 → 汽車 → 自動車 → 飛行機
どれも、途中でまったく別の仕組みに置きかわりました。
傘は、そうなっていません。 支える仕組みそのものは、ずっと同じです。
傘の設計を、部品の数ではなく構造で見てみます。
傘の構造
傘は、次の3要素からできています。
- 中心の支柱(中棒)── 荷重を手に伝える軸
- 放射状の骨(親骨・受骨)── 支柱から外へのびて膜を支える
- 張られた膜(生地)── 雨や日ざしを受ける面
この構造は、1本の軸から放射状に部材を出し、その上に面を張る という形にまとめられます。
そして、大英博物館のタイルに描かれた紀元前9世紀の傘も、 同じ構造をしています[1]。
「4000年前」説について
傘の起源として「約4000年前のエジプトやペルシャの壁画・彫刻」が しばしば挙げられます。
ただし、この記事では博物館などの一次的な資料で確認できませんでした。 そのため、確認できた最古の例として、大英博物館の所蔵品を使っています。
時計の記事でも書きましたが、 よく引用される年代ほど、元をたどると出所が曖昧なことがあります。
変わらなかったことの異常さ
2900年という時間で、多くの道具は原理ごと置きかわりました。
| 用途 | 原理の変化 |
|---|---|
| 照明 | 燃焼 → 白熱 → 放電 → 半導体 |
| 時刻 | 影 → 水 → 振り子 → 水晶 → 原子 |
| 記録 | 刻む → 書く → 刷る → 磁気 → 電荷 |
| 雨よけ | 軸+骨+膜(変化なし) |
時計は、影から原子の振動まで、 測る原理そのものが何度も入れかわりました。
傘には、それが起きていません。 置きかわったのは材料だけです。次の章で見ます。
2. かわったのは、ざいりょうと たたみ方
2. 変わったのは、材料とたたみ方
2. 変わったもの ── 材料と機構
かたちは 同じ。
でも、ざいりょうは かわりました。
むかしの ほねは、木や たけです。
かさの だんたいに よると、 いまの ほねは こう いう ものだそうです[2]。
- てつ いちばん 多い。7わり くらい
- グラスファイバー 2わり くらい
- カーボン 1わり くらい
ぬのも かわりました。
むかしは あぶらを ぬった かみや きぬ。
いまは ポリエステルと いう 水を はじく ぬのです。
そして、大きく かわった ことが もう ひとつ あります。
たためるように なりました。
おりたたみがさの ばねの ほねが できたのは、 1954年です[3]。
いまから 70年ちょっと 前。
2900年の うち、 さいごの 70年の できごとです。
形は変わっていません。でも、中身はすっかり変わりました。
骨の材料
昔は木や竹でした。いまは金属や樹脂です。
割合については、日本洋傘振興協議会(傘の業界団体)が こう説明しています[2]。
| 材料 | 使われている割合[2] | 特徴 |
|---|---|---|
| 鉄 | 約7割 | 復元力が強い。だから親骨によく使われる |
| グラスファイバー(GF) | 約2割 | ─ |
| カーボンファイバー(CF) | 約1割 | 近年は航空機の需要に取られて、材料が手に入りづらい |
骨の数は8本がいちばん多く、 多いもので24本、少ないもので4本のスクエア型があります[2]。
生地の材料
和傘は、油をひいた紙。洋傘は、絹や綿から始まりました。
いまはポリエステルなどの化学繊維が主流です。 水を吸わないので、軽くて乾きやすい。
たためるようになった
日本洋傘振興協議会によると、 スプリング式の折りたたみ骨が発明されたのは1954年(昭和29年)です[3]。
この記事が扱っている2900年のうち、最後の70年ほどの出来事にあたります。
日本に洋傘が来た日
日本の記録も面白いので、並べておきます[3]。
| 年 | できごと[3] |
|---|---|
| 1804年 (文化元年) | 長崎に入港した中国からの唐船の積み荷に「黄どんす傘一本」の記述。 洋傘として特定できる最古の記録とされる |
| 1881年 (明治14年) | 東京本所に洋傘製造会社が設立される |
| 1889〜92年 (明治22〜25年)頃 | 洋傘の純国産化が実現したと言われている |
| 1954年 (昭和29年) | スプリング式の折りたたみ骨が発明される |
たった1本から始まっているのが面白いところです。
構造が変わらない一方で、材料と機構は入れかわり続けました。
骨の材料
以下は、日本洋傘振興協議会(傘の業界団体)の説明によるものです[2]。
| 材料 | 割合[2] | 性質[2] |
|---|---|---|
| 鉄 | 約7割(親骨) | 復元力が強い |
| グラスファイバー(GF) | 約2割 | ─ |
| カーボンファイバー(CF) | 約1割 | 近年は航空機需要に材料を取られ、入手しづらい |
| CFとGFの混合材 | ─ | CFの使用量を減らせ、風を受けたときのしなり過ぎも抑えられる |
| アルミニウム | ─ | 軽量なので、受骨や中棒によく使われる |
注目したいのは、親骨の7割がいまも鉄であることです。 理由としてJUPAが挙げているのは「復元力が強い」こと[2]。 風でひっくり返っても戻る、という性質です。
カーボンが1割にとどまっている理由も書かれています。 航空機の需要に材料を取られて、手に入りづらいというものです[2]。
性能だけで材料が決まるわけではない、という例になっています。
機構 ── 折りたたみ
構造を変えずに機能を増やした例が、折りたたみ機構です。
日本洋傘振興協議会は、 1954年(昭和29年)にスプリング式の折りたたみ骨が発明されたとしています[3]。
これは重要な変化です。中棒を伸縮させ、骨を折れるようにしただけで、 「使わないときの体積」という制約が大きく緩みました。
そして、基本構造には手を触れていません。 軸+骨+膜のまま、たためるようにしただけです。
日本での受容
| 年 | できごと[3] |
|---|---|
| 1804年(文化元年) | 長崎に入港した唐船の舶載品目に「黄どんす傘一本」。 洋傘として特定できる最古の記録とされる |
| 1881年(明治14年) | 東京本所に洋傘製造会社が設立される |
| 1889〜92年(明治22〜25年)頃 | 洋傘の純国産化が実現したと言われている |
| 1954年(昭和29年) | スプリング式の折りたたみ骨が発明される |
伝来から純国産化まで、およそ85年かかっています。
3. なぜ、かたちが かわらないの?
3. なぜ、形は変わらないのか
3. なぜ構造が変わらないのか ── 条件から考える
さて、ここからが この きじの いちばん 考えたい ところです。
なぜ、かさの かたちは かわらないの?
かさが やる ことを、 ならべて みましょう。
- あたまの 上に ひろい やねを つくる
- かた手で もてる
- つかわない ときは ほそく なる
- やすい
この 4つを ぜんぶ やろうと すると、 どう なるでしょう。
ひろい やねを、かた手で ささえたい。
いちばん かるいのは、 まん中を 1本の ぼうで ささえる やり方です。
そして、ほそく したい。
だから、やねは たためる もので ないと いけません。
かたい 板では たためない。
ほねを ひろげて、ぬのを はる。
この かたちが、いちばん つごうが よさそうです。
かさが かわらないのは、 はやくから いい かたちに たどりついたから かも しれません。
(これは、この サイトを 書いて いる 人が かんがえた せつめいです。)
ここが、この記事のいちばん考えたいところです。
なぜ、傘の形は変わらないのでしょう。
傘に求められること
傘が満たさないといけない条件を、並べてみます。
- 面積 頭と肩をおおう広さの屋根がいる
- 片手 もう片方の手は空けておきたい
- 収納 使わないときは細くなってほしい
- 安さ なくしても困らない値段でないと困る
- 軽さ ずっと持って歩ける重さでないといけない
条件から形が決まっていく
この条件を順に当てはめると、形が絞られていきます。
1. 広い面を、片手で支える
いちばん軽く済むのは、中心1点で支える方法です。 はしを持つと、てこの原理でずっと大きな力が要ります。
2. 細くしまいたい
屋根が固い板だと、たためません。 だから、たためる材料である必要があります。
3. たためる材料は、そのままでは形を保てない
布はふにゃふにゃです。屋根の形になりません。
だから、骨で支えることになります。
4. 中心から支えるなら、骨は放射状になる
中心の軸 + 放射状の骨 + 張られた膜。
条件をぜんぶ満たそうとすると、この形になってしまう。
変わらないのは、よくできているから
傘が変わらないのは、誰も改良しなかったからではありません。
むしろ逆です。早い段階で、条件に対する答えにたどり着いてしまった。
鍵の記事で、 古代エジプトのピンタンブラー錠の原理が、 いまの鍵にも使われているという話を書きました。
問題の条件が変わらなければ、答えも変わらない。 傘も同じです。
ここまでの説明は、管理人が条件から考えたものです。 誰かがそう説明しているのを引いたわけではありません。
構造が2900年変わっていないのはなぜか。 傘が満たすべき制約条件から考えてみます。
制約条件
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 被覆面積 | 人体の頭部と肩をおおう面積が必要 |
| 片手保持 | もう一方の手は自由でなければならない |
| 収納体積 | 非使用時に小さくなる必要がある |
| 質量 | 長時間の携行に耐える軽さが必要 |
| コスト | 消耗品として許容される価格でなければならない |
制約から構造を導く
この制約を順に適用すると、設計の自由度が消えていきます。
- 片手保持と質量の制約 → 支持点は少ないほうがよい。 周縁を支えると曲げモーメントが大きくなり、部材が重くなります。 中心1点での支持が、最も軽く済みます
- 収納体積の制約 → 被覆面は剛体では成立しません。 可撓性のある膜である必要があります
- 膜は自立しない → 形状を保つ骨組みが要ります
- 中心支持 + 骨組み → 中心から外へ向かう放射配置が導かれます
- コストの制約 → 部品点数と加工の複雑さに上限がかかります
中心軸 + 放射状の骨 + 可撓性の膜。
上の制約を重く見るなら、この構造が有力な解になります。
「進化していない」は正しいか
この見方をとると、「傘は進化していない」という言い方は、 評価を取り違えていることになります。
- 構造は変わっていない ── 制約が変わっていないから
- 材料は変わり続けた ── 加工技術が変わったから
- 機構は増えた ── 折りたたみ、自動開閉
変わっていないのは構造だけで、それ以外は変わっています。
構造が変わるとしたら
では、どうなれば構造が変わるでしょうか。 制約が変われば、変わるはずです。
- 片手保持が不要になったら ── 身につける形(フード付きの服)に置きかわります。 実際、自転車や作業では、そうなっています
- 収納が不要になったら ── 固定式の屋根、アーケード、地下道になります。 これも、すでに実現しています
- 雨に濡れることが問題でなくなったら ── 撥水性の高い衣服で済みます
面白いのは、これらがすべて「傘の代わり」として実在していることです。
傘が使われ続けているのは、 「片手で持てて、たためて、安い」という組み合わせを ほかの雨具が同じようには実現していないから、と考えられます。
この章の説明は、管理人が制約条件から組み立てた解釈です。 特定の文献にもとづくものではありません。
4. かさの ほかの あまぐ
4. 傘以外の雨具は、なぜ主役にならないのか
4. 代替手段 ── 雨具の系譜と、傘が残る理由
あまぐは、かさだけでは ありません。
- レインコート きる あまぐ
- みの わらで つくった むかしの あまぐ
- ポンチョ あたまから かぶる ぬの
- ながぐつ 足を まもる
マッキントッシュと いう スコットランドの かがくしゃが、 ぬのを 水に つよく する やり方を 見つけました[4]。
ガスを つくる ときに 出る ざいりょうと、 天ねんゴムを つかう やり方を 見つけ、 とっきょを とりました[4]。
でも、はじめは 人気が ありませんでした。
くさかったからです[4]。
いまの レインコートは くさく ありません。
それでも、みんな かさを つかいます。
なぜでしょう。
きたり ぬいだり するのが めんどうだからです。
かさは、ひらくだけ。
1びょうで つかえます。
雨をしのぐ道具は、傘だけではありません。
| 雨具 | 特徴 |
|---|---|
| レインコート・カッパ | 両手が空く。風に強い。着脱に時間がかかる |
| 蓑(みの) | わらなどで作った、日本で長く使われた雨具 |
| ポンチョ | 頭からかぶる。荷物ごとおおえる |
| 長靴・レインシューズ | 足元をおおう。傘と併用する |
| 屋根・アーケード | 雨具を持たなくてよい。動く範囲が限られる |
布を防水する方法を見つけた人
着る雨具の歴史でよく名前が挙がるのが、 スコットランドの化学者チャールズ・マッキントッシュです。
科学博物館グループの資料によると、彼は ガス産業から出る廃棄物とラテックス(天然ゴム)を使って 布を防水する方法を発見し、特許を取りました[4]。
1824年には、マンチェスターに防水製品の工場が建てられます[4]。
売れなかった理由
ところが、最初はうまくいきませんでした。
資料にはこう書かれています(英語の原文を管理人が訳したものです)。
マッキントッシュの防水製品は、最初は上流社会に人気がなかった。 いやなにおいがしたからである[4]
いい機能を持っていても、それだけでは広まらない。 使う人が我慢できるかどうかのほうが効きます。
いまでも、傘が主役なのはなぜか
レインコートは、においの問題を解決しました。 軽くて、通気性もある製品があります。両手も空きます。
それでも、街で多いのは傘です。なぜでしょう。
着脱にかかる時間だと考えられます。
- 傘 ── 開く。1秒
- レインコート ── 出す、広げる、着る、袖を通す、閉める。数十秒
- 着たあと ── 脱ぐ、たたむ、濡れたまましまう
雨は降ったりやんだりします。 「切り替えの速さ」が、そのまま使いやすさになるのです。
自転車や作業のように両手を使う場面では、 きちんとレインコートが選ばれています。
雨具は、雨の量ではなく、その人の動き方で選ばれているわけです。
傘以外の雨具は数多くあります。 にもかかわらず、傘が置きかわっていない理由を考えます。
着る雨具と、防水布の特許
着る雨具にかかわる技術で、記録が残っている早い例が、 スコットランドの化学者チャールズ・マッキントッシュの防水布です。
Charles Macintosh, a chemist and textile businessman, discovered and patented a method of using waste products from the gas industry together with latex to waterproof cloth.[4]
ガス産業から出る廃棄物とラテックス(天然ゴム)を使って布を防水する方法です。 1824年にはマンチェスターの Chorlton-on-Medlock に工場が建ちました[4]。
注目したいのは、その後の記述です。
Macintosh's waterproofs were not initially popular with polite society, as they had an unpleasant smell.[4]
性能が優れていても、受容されるとは限らない。 釣り道具の記事でも、 技術より流通や使い勝手が普及を決める場面がありました。
傘と代替手段の比較
| 傘 | レインウェア | 屋根・アーケード | |
|---|---|---|---|
| 両手の自由 | 片手がふさがる | 自由 | 自由 |
| 着脱の時間 | ほぼ0 | 数十秒 | 不要 |
| 強風耐性 | 低い | 高い | 高い |
| 移動の自由 | 高い | 高い | 経路に限定される |
| 初期コスト | 低い | 中 | 極めて高い |
傘が占めている位置
この表を見ると、傘が優れているのは着脱の時間とコストだけです。 ほかの項目では負けています。
それでも傘が主流なのは、 都市生活での雨のあり方に、この2つが合っているからだと考えられます。
- 雨は断続的:降ったりやんだり、屋内に入ったり出たり。 切り替えの多い環境では、着脱コストが繰り返し発生します
- 移動時間が短い:駅から会社まで数分。 この時間なら、強風耐性より着脱の速さが効きます
- 紛失が前提:置き忘れが起きるため、 価格が低いことが実用上の条件になります
逆に、条件が変われば別の雨具が選ばれます。 自転車、屋外作業、登山では、レインウェアが標準です。
雨具の選択は、雨量ではなく行動様式で決まっているということになります。
比較表と、傘が選ばれる理由の分析は、管理人がまとめたものです。 出典にもとづく調査結果ではありません。
5. かさは どこで つくられて いる?
5. 傘はどこで作られているのか
5. 生産と流通 ── 貿易統計から見る
かさは、かんたんな 見た目を して います。
でも、ぶひんは 40〜50こも あります[5]。
そして、その ぶひんは べつべつの 会社が つくって います[5]。
ほねの さきに つける 小さな ぶひんだけを つくる 会社も あるそうです[5]。
では、その かさは どこで つくられて いるのでしょう。
2025年、日本に 入って きた かさは 8812万本です[6]。
どこから 来たと 思いますか。
お金の がくで 見ると、こう なります[6]。
- 中国 8わり
- カンボジア 2わり ちかく
ほとんど この 2つの 国です[6]。
ねだんは、1本 499円くらい[6]。
ぶひんが 40〜50こ ある ものが、 この ねだんで 買えます。
傘は単純に見えますが、部品はたくさんあります。
部品点数は40〜50個にも上る[5]
分業で作られている
日本洋傘振興協議会は、傘づくりの特徴をこう説明しています。
基本的に「分業制」で作られることだ。つまり、各パーツはそれぞれ専門業者により製造され、 洋傘メーカーはそれらのパーツを仕入れ、組み立てて商品にする[5]
たとえば、骨の先端につける「露先」というパーツだけを 専門に作る業者がいる、と書かれています[5]。
数字で見る
では、その傘はどこで作られているのでしょう。 傘の会社が財務省の貿易統計を集計して公開している資料から見てみます[6]。
| 2025年[6] | |
|---|---|
| 輸入数量 | 8,812万本 |
| 輸入総額 | 439億5,643万円(過去最高額) |
| 平均単価 | 498.9円 |
| 中国から | 351億9,619万円(金額シェア80%) |
| カンボジアから | 80億2,836万円(金額シェア18%) |
金額で見ると、2か国で98パーセントを占めています (本数のシェアではありません)。
499円という数字
注目したいのは、平均単価です。
40〜50個の部品を組み立てたものが、平均499円で輸入されている。
2章で、カーボンが1割にとどまっている理由として 「航空機の需要に材料を取られて手に入りづらい」というJUPAの説明を挙げました[2]。
平均499円という数字と並べてみると、 値段の制約も効いていそうだと想像できます。 ただし、これは管理人の推測です。
最後に、傘の生産と流通を数字で見ます。
製造の構造
部品点数は40〜50個にも上る[5]
基本的に「分業制」で作られることだ。つまり、各パーツはそれぞれ専門業者により製造され、 洋傘メーカーはそれらのパーツを仕入れ、組み立てて商品にする[5]
釣り道具や 万年筆と同じで、 部品ごとに専門業者が分かれる産業構造です。
貿易統計
財務省貿易統計を、傘の製造販売会社が集計して公開している資料によると、 2025年の傘の輸入は次のとおりです[6]。
| 項目 | 値[6] |
|---|---|
| 輸入数量 | 8,812万本 |
| 輸入総額 | 439億5,643万円(過去最高額を更新) |
| 平均単価 | 498.9円(2010年比で約2.8倍、2020年比で約1.7倍) |
| 折りたたみ傘 | 263億6,396万円 |
| 長傘 | 175億9,247万円 |
| 中国 | 351億9,619万円(シェア80%) |
| カンボジア | 80億2,836万円(シェア18%) |
集計に使われている統計品目番号は 660191000(折畳み式のもの)と 660199000(その他のもの)[6]。 上の金額は、660110000(ビーチパラソルその他これに類する傘)を除いた合計です。 記事中の「長傘」は 660199000 を指す通称で、正式な品名ではありません。
この数字が示すこと
- 生産の集中:金額ベースで2か国が98パーセント。 極めて集中した供給構造です
- 単価の上昇:平均単価は2010年比で約2.8倍。 数量は増えていないのに金額が過去最高ということは、 単価の上昇が金額を押し上げていることになります
- 折りたたみが金額で上回る:3章で「機構の追加」と書いた折りたたみ傘が、 金額では長傘を超えています
コストが設計を縛る
2章で、親骨の7割が依然として鉄であることを見ました[2]。 JUPAが挙げている理由は、鉄の復元力の強さと、 カーボンが航空機需要で入手しづらいことでした[2]。
そこに平均単価499円という数字を並べると、 価格も効いているのではないかと考えたくなります。 ただしこれは管理人の推測で、出典が述べていることではありません。
いずれにせよ、3章で見た「制約が構造を決める」という話は、 材料の選択にも当てはまりそうです。
輸入統計の数値は、民間企業が財務省貿易統計を集計して公開している資料によります。 一次資料は財務省貿易統計です。
6. じぶんの かさを 見て みる
6. 自分の傘を観察してみる
6. 自分で確かめる
いえに ある かさを、 よく 見て みましょう。
- ほねを かぞえる。 何本 ありますか。8本 でしたか。
- ほねを さわる。 つめたければ 金ぞく。 しなれば グラスファイバーかも しれません。
- ぶひんを かぞえる。 ほねの さき、まん中の ぼう、 ひらく ときの ばね。いくつ ありますか。
- ふるい 絵を さがす。 きょうかしょや ずかんで、 むかしの 人が かさを もって いる 絵を さがして みましょう。
かさを ぶんかいしては いけません。
ばねが 入って いて、あぶないからです。
この記事の話は、手元の傘で確かめられます。
- 骨を数える。8本ですか。それとも6本、16本ですか。 本数と生地の張り具合を比べてみてください
- 骨の材料を見分ける。 冷たくて重ければ鉄。しなって軽ければグラスファイバー。 とても軽ければカーボンかもしれません
- 部品を数える。露先、ろくろ、はじき、石突。 40〜50個という数を実感できます
- 値段と重さを比べる。 安い傘と高い傘で、どこが違うのか。 骨の材料か、生地か、本数か
- 絵の中の傘を探す。 歴史の教科書、美術館、図鑑。 傘が描かれていたら、構造を見てみてください
やってはいけないこと
傘を分解しないでください。 開閉のためのばねが入っていて、外れると危険です。 折れた骨の先も鋭くなっています。
関連する記事
- 鍵はなぜ、その鍵でしか開かないのか (古い原理が現役で使われている話)
- 万年筆はなぜ書けるのか (役割ごとに材料を選び分ける話)
観察する
- 骨の本数と生地の張りを比べる: 本数が多いほど円に近づき、生地の間のたわみが小さくなります。 手元の傘で、本数と見た目の関係を確かめる
- 材料を推定する:質量と剛性から、鉄・グラスファイバー・カーボンを推定する。 価格帯との対応を見る
- 部品を数える:分解せずに、目視で数えられる部品を列挙する。 40〜50個という数字とどれくらい合うか
- 制約を変えて考える:3章の制約表のうち1つを外したら、 どんな形の雨具が最適になるか設計してみる
- 統計を自分で引く:財務省貿易統計で、 品目番号 660199000(長傘)などを検索し、年次推移を見る
調べる入口
- 日本洋傘振興協議会(JUPA) ── 歴史、傘づくりの構造
- 財務省貿易統計 ── 品目別の輸入数量と金額
- Science Museum Group Collection「Charles Macintosh & Co」
考えてみると面白いこと
- ほかに「構造が変わっていない道具」はあるか。 はさみ、コップ、椅子、ほうき。何が共通しているか
- 「進化していない」と「完成している」は、どう見分けられるか
- ビニール傘が普及したことで、失われたものはあるか
- 価格が先に決まっている製品では、技術革新はどこに向かうのか
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
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英語の出典について:The British Museum は英国の大英博物館の収蔵品データベース、Science Museum Group Collection は英国の科学博物館グループの収蔵品データベースです。
- The British Museum, Collection online「wall-tile」(Museum number 90859/Registration number N.1035、コレクションページの識別子は W_N-1035) https://www.britishmuseum.org/collection/object/W_N-1035 (焼成した粘土のタイルが、パラソルの下に立つアッシリア王 ── おそらくアッシュールナツィルパル2世 ── を描いた物語的な場面の一部であること。アッシュールナツィルパル2世の治世が紀元前9世紀であることは、一般に知られている年代です)
- 日本洋傘振興協議会(JUPA)「傘の骨編」 https://www.jupa.gr.jp/column/uq-bone/ (「親骨は復元力が強い鉄を使うことが多く、7割を占めるよ。そのほかGFは約2割、CFは約1割」、アルミニウムは「軽量なので、受骨や中棒によく使われるよ」、骨の本数は「8本が一番多いかな」「最大で24本」「最小は4本のスクエア型のパラソル」。カーボンファイバーについて「最近CFは航空機需要に取られて材料が手に入りづらい」との記述もあります。なお「CFの使う量を減らせるし、風を受けたときのしなり過ぎも抑え」られるという説明は、GF単体ではなくCFとGFの混合材についてのものです。)
- 日本洋傘振興協議会(JUPA)「洋傘の歴史」 https://www.jupa.gr.jp/column/history/ (1804年(文化元年)に長崎へ入港した唐船の舶載品目に「黄どんす傘一本」の記述があり、洋傘として特定できる最古の記録とされること。1881年(明治14年)に東京本所に洋傘製造会社が設立されたこと。洋傘の純国産化が1889〜92年(明治22〜25年)頃と言われること。1954年(昭和29年)にスプリング式の折りたたみ骨が発明されたこと)
- Science Museum Group Collection「Charles Macintosh & Co」 https://collection.sciencemuseumgroup.org.uk/people/ap31229/charles-macintosh-co (Charles Macintosh が化学者かつ繊維事業者であり、ガス産業の廃棄物とラテックスを用いて布を防水する方法を発見して特許を取得したこと。1824年にマンチェスターの Chorlton-on-Medlock に防水製品の工場が建てられたこと。防水製品が当初は上流社会に人気がなく、その理由がいやなにおいだったこと)
- 日本洋傘振興協議会(JUPA)「傘づくりニッポン Vol.1」 https://www.jupa.gr.jp/column/division-of-labor/ (傘の部品点数が40〜50個にも上ること。基本的に分業制で作られ、各パーツは専門業者が製造し、洋傘メーカーが仕入れて組み立てること。「露先」というパーツだけを専門に作る業者がいること)
- アンベル株式会社「傘の輸入統計(2025年更新版)|財務省貿易統計による年別輸入推移と市場規模の変化」(2026年2月2日調査) https://www.amvel.net/import/ (2025年の輸入総額439億5,643万円が過去最高額であること、輸入数量8,812万本、平均単価498.9円(2010年比で約2.8倍、2020年比で約1.7倍)、折りたたみ傘263億6,396万円・長傘175億9,247万円、中国351億9,619万円(シェア80%)・カンボジア80億2,836万円(シェア18%)、統計品目番号。傘の製造販売会社が財務省貿易統計を集計して公開している資料で、一次資料は財務省貿易統計です。)
「約4000年前のエジプトの壁画に傘が描かれている」という説明は、 この記事では採用していません。 複数のサイトで見かけますが、博物館などの一次的な資料で確認できなかったためです。 確認できた最古の例として、大英博物館の所蔵品を挙げています。 より古い例をご存じの方は、ご連絡フォームからお知らせください。
第3章の「なぜ形が変わらないのか」と、第4章の雨具の比較は、 管理人が条件から組み立てた解釈です。 特定の文献にもとづくものではありません。 別の説明のしかたもありうると思います。
和傘の油紙、洋傘の絹や綿、現在のポリエステルといった生地の材料、 蓑・ポンチョ・長靴といった雨具の例は、 一般によく知られている内容として書いています。個別の出典は示していません。
なおした ところ
更新履歴
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