1. うしろの わは、どうして おおきいの?
1. 大きな後輪と小さな前輪 ── 車いすの基本の形
1. 後輪駆動式の構造 ── 大きな後輪と小さな前輪
まちで 見る くるまいすの おおくは、おおきな わが うしろに 2つ、ちいさな わが まえに 2つ あります[1]。
うしろの おおきな わの そとがわには、もう ひとつ、ほそい わっかが ついて います。じぶんで すすむ ひとは、この わっかを 手で おして、くるまいすを うごかします[4]。
まえの ちいさな わは、むきを かえる やくめを して います。
2. くるまいすは、いつ ごろ できたの?
2. 自分で進む椅子から折りたたみ式へ
2. 1655年の自走椅子と1932〜33年のX型フレーム
いまから 370ねんほど まえの 1655ねん、からだが うごかしにくい 22さいの とけいづくりの ひとが、じぶんで すすむ いすを つくったと つたえられて います。ステファン・ファルフラーという ひとです[4]。
わは 3つで、ハンドルを まわすと、はぐるまが うごいて すすむ しくみでした。とても ふるい じそうの いすの ひとつと いわれて います。
1932ねんごろには、ハリー・ジェニングスさんが、ともだちの ハーバート・エベレストさんの ために、おりたためる くるまいすを かんがえました。はこびやすい かたちの はじまりの ひとつです[5]。
1655年、下半身がまひしていた22歳の時計職人ステファン・ファルフラーが、三輪で、クランクと歯車を使って自分で進む椅子を作ったと伝えられています[4]。「世界初」といわれることもありますが、これは資料の言い方で、最古級とされるものの一つと考えておくのがよさそうです。
もう一つの転機が1930年代です。鉱山の事故で下半身がまひした友人ハーバート・エベレストのために、技術者のハリー・ジェニングスが、鋼管でできたX型フレームの折りたたみ式車いすを考えました。折りたたみ式を考えた年は、資料により1932年と1933年で分かれます。二人が会社を作ったのは1933年です[5]。
折りたためると、車のトランクに積んで出かけられます。車いすが「使う道具」から「持ち歩ける道具」に近づいた一歩でした。
自走できる車いすの最古級として、1655年に下半身まひの時計職人ステファン・ファルフラー(22歳)が、クランクと歯車を用いる三輪の自走椅子を作ったとされる。「世界初」は資料側の言い方で、ここでは「最古級」にとどめる。1595年にスペインでフェリペ2世用の椅子が作られたが、自走の仕組みはなかった[4]。
折りたたみ式のX型フレーム(鋼管)は、技術者ハリー・ジェニングスが、鉱山事故で下半身まひになった友人ハーバート・エベレストのために考案した。考案の年は資料により1932年と1933年に分かれる。会社の設立は1933年で、二人はEverest & Jennings社を設立した[5]。日本語の一次資料は未確認である。
3. うしろへ たおれる ことは あるの?
3. 座っていないと、後ろへ倒れやすい
3. 後方転倒 ── 車いすは歩行訓練用ではない
くるまいすは、ひとが すわって つかう ものです。テクノエイドきょうかいの しりょうには、ひとが すわって いないと バランスが わるく、うしろへ ひっくりかえりやすい ものも ある、と 書かれて います[1]。
おおきな わが うしろに あるぶん、かたちに よっては、こうなる ことが あるのでしょう。
なので、あいて いる くるまいすを、あそびで おしたり、ひっぱったり しないで ください。くるまいすは、つかって いる ひとに たずねないで うごかさないで ください。
テクノエイド協会が集めたヒヤリハット事例の資料には、車いすは歩行の訓練用には設計されていないので、人が座っていないとバランスが悪く、後ろへ倒れやすいものもある、という説明があります[1]。
人が座っているときは、体の重さがシートにかかって、全体のバランスが取れています。空の車いすは、その重さがなくなるので、ちょっとしたことでも倒れるおそれがあります。形によってちがいがあることは、資料にも書かれています。
実際に倒して確かめることは、危険なので勧めません。次の章から、「倒れやすさ」を設計でどう調整しているかを見ます。
テクノエイド協会のヒヤリハット事例は、車いすは歩行訓練用には設計されておらず、無人の状態ではバランスが悪く後方へ転倒しやすいものもある、と注意している[1]。
後輪が後方にあり、前輪が小さい構造では、重心と車軸の位置関係が転倒のしやすさを左右する。次章の研究は、この関係を「車軸の位置」という設計値で扱っている。倒す実験は危険であり、この記事では書かない。
4. しゃじくを まえに ずらすと どうなるの?
4. 車軸を前へずらすと ── 動かしやすさと倒れやすさ
4. 後輪車軸位置のトレードオフ ── 直進操作性と後方転倒
しゃじくは、わの まんなかを とおる ぼうです。この しゃじくを まえに ずらした くるまいすを、しらべた けんきゅうが あります[2]。
けんきゅうでは、しゃじくを まえに おくと、うしろへ ひっくりかえる きけんが あがる、と ほうこくされて います。まっすぐ すすみやすく なると いう、まえの けんきゅうも しょうかいされて います。
うごかしやすさと、たおれにくさは、いっしょに よく できない かも しれません。
後輪の車軸、つまり大きな車輪の中心を通る軸を前へずらすとどうなるか。手動車いすで坂を下る場面を調べた2018年の論文では、車軸を前に置くと後方へ転倒する危険が上がると報告されています。まっすぐ進むときの操作のしやすさが上がる、という先行研究も、この論文で紹介されています[2]。
この論文でいう「操作のしやすさ」は、直進のときのものです。曲がるときの小回りとは別の話なので、混ぜないほうがよさそうです。
動かしやすさと安定は、どちらかを上げるともう一方が下がる関係にあります。車いすの設計は、この引っぱり合いのどこに置くかを決める仕事でもあります。
2018年の手動車いす降坂時の安定性に関する研究は、後輪車軸を前に置くと後方転倒のリスクが高まると報告している。同論文は、直進経路における操作性が向上するという先行研究の記述も引いている[2]。この二点から、安定性と操作性はトレードオフの関係にあると整理されている。
ここでの操作性(maneuverability)は直進の軌道についてのもので、旋回半径のような小回りの指標とは別である。今回の資料には、小回りを数値で比べたものはなく、旋回半径の数字は書かない。
5. バスケットの くるまいすは、なにが ちがうの?
5. バスケットボール用の車いすと転倒防止のキャスター
5. 競技用の車軸位置とリアキャスター
バスケットボールで つかう くるまいすは、ふだん つかう ものより、しゃじくが まえに あります[3]。すると、すばやく むきを かえる ことが できます。
うしろへ たおれやすく なる ため、うしろに、たおれないための ちいさな わ(リアキャスター)が ついて います[3]。
まえに ずらして うごきやすく して、うしろに ささえを たして、バランスを とって います。
4章の「車軸を前へ」と同じ向きの工夫が、競技用の車いすにも見られます。江戸川区のパラスポーツ用具の紹介ページによると、バスケットボール用の車いすは、日常用より車軸の中心が前にあり、素早い方向転換ができます[3]。
後ろへ倒れやすくなるため、後ろには転倒防止のリアキャスターが付いています[3]。
研究[2]と、この紹介ページ[3]は、別々の資料で、条件もちがいますが、方向は重なります。車軸を前へ寄せると倒れやすさが増し、競技用ではそれを後ろの小さな車輪が支えています。
江戸川区のパラスポーツ用具紹介によると、バスケットボール用車いすは、日常用より車軸の中心が前にあり、素早い方向転換が可能である。後方へ転倒しやすくなるため、転倒防止のリアキャスターを備える[3]。
これは、前章の研究[2](車軸を前へ動かすと後方転倒リスクが上がる)と、方向が重なる。ただし[2]は降坂時の安定性の研究、[3]は競技用具の紹介で、条件は同じではない。[2]が引く直進操作性と、[3]の素早い方向転換は、同じ効果とは言えない。
6. タイヤが はの じに なって いるのは、なぜ?
6. 八の字の車輪 ── 角度は大きいほどよいのか
6. 後輪のキャンバー(八の字)と角度の比較
きょうぎ用の くるまいすの うしろの わは、うえが せまく、したが ひろい「はちのじ」に なって います。これを キャンバーと いいます[3]。
はちのじに すると、ターンが しやすくなり、よこに たおれにくく なる こうかが あると いわれて います[3]。ひとが あしを すこし ひらいて ふんばると たおれにくいのに、すこし にて います。ただし、なぜ そう なるのかは、この しりょうでは はっきりしません。
では、はちのじの かくどは、おおきい ほど いいのでしょうか。せんしゅで くらべた けんきゅうが あります[6]。
20メートルを はしる はやさは、18どと 20どは、どちらも 24どより はやかった、と ほうこくされて います。おおきければ いいとは かぎらないようです。
競技用車いすの後輪は、上が内側に、下が外側に開いた八の字に付けられています。この角度をキャンバーといいます。江戸川区の紹介ページでは、ターンがしやすくなることと、横方向の安定性が高まることが、特徴として挙げられています[3]。
では、角度は大きいほどよいのでしょうか。車いす競技の選手で、後輪の角度を変えて比べた研究があります[6]。
20メートル走のタイムは、18度と20度は、どちらも24度より速く、まっすぐ動く速さは、15度、18度、20度が24度より速かった、と報告されています。24度は、抵抗が増えるために、直進では不利だったようです。
ただし、対象は競技をする選手です。ふだん使う車いすの、ちょうどよい角度を示したものではありません。
競技用車いすの後輪は、負のキャンバー(八の字)に取り付けられる。江戸川区のパラスポーツ用具紹介は、ターンのしやすさと横方向の安定性の向上を効果として挙げ[3]、Wikipedia(英語版)にも、強い負のキャンバーは安定性をもたらし、鋭いターンに役立つという趣旨の記述がある[4]。物理的な理由は、これらの資料からは断定できない。
キャンバー角を比べた研究(車いす競技選手が対象)では、20m走のタイムは18度(5.89±0.47秒)と20度(5.93±0.47秒)が24度(6.05±0.45秒)より短く、直進移動は15度・18度・20度が24度より速かった[6]。24度は抵抗が増え、直進に不利とされる。角度は大きいほどよいとは限らない。
この結果は競技選手についてのもので、日常用の車いすの推奨角を示すものではない。
つぎは、なにを しらべて みる?
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
きょう できること
まちで くるまいすを 見かけたら、うしろの わの おおきさと、まえの わの ちいささを、ちらっと 見て みましょう。じろじろ 見たり、さわったり、しゃしんを とったり するのは やめましょう。
かみに、おおきな わと ちいさな わを かいて みましょう。うしろの ちいさな わが、なにを ささえて いるか、かんがえて みましょう。
今日できること
町で車いすを見かけたら、後輪と前輪の大きさのちがいを、そっと観察してみましょう。人が乗っている車いすを、じろじろ見たり、触ったり、写真を撮ったりするのはやめましょう。
家にある紙に、大きな後輪と小さな前輪の横向きの絵を描いてみましょう。後ろ向きに倒れる向きを矢印で書き、後ろの小さな車輪がどこを支えるか考えると、リアキャスターの役目が見えてきます。
公式の情報
テクノエイド協会や、江戸川区のパラスポーツ用具のページが、日本語で読めます。
今日できること
資料[3]のようなパラスポーツ用具の紹介ページを読み、日常用と競技用で、車軸の位置・リアキャスターの有無・キャンバー角がどう書き分けられているかを表にまとめてみる。
資料を読むなら
車軸位置の論文[2]と、キャンバー角の論文[6]は、どちらも英語の要旨から読める。条件(対象・測った動き)が違うので、結論の対象を分けて読むとよい。日本語では、JIS規格の寸法(全幅700mm以下・全長1,200mm以下・全高1,090mm以下)が、石川県のバリアフリー整備の手引きに書かれている[7]。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
車輪の配置・転倒の注意・競技用車いすの工夫・歴史の各章で、次の資料を使いました。
- 公益財団法人テクノエイド協会「ヒヤリハット事例130」 https://www.techno-aids.or.jp/hiyari/teaching_inst_print.php?id=130 (後輪駆動式の分類・後方転倒の注意)
- Manual wheelchair downhill stability, Journal of NeuroEngineering and Rehabilitation, 2018 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6219167/ (車軸位置と安定性・操作性)
- 江戸川区「パラスポーツ用具」 https://www.city.edogawa.tokyo.jp/e028/sports/sports/parasports/dekirusengen/yougu.html (競技用車いすの車軸・リアキャスター・キャンバー)
- Wikipedia「Wheelchair」 https://en.wikipedia.org/wiki/Wheelchair (ハンドリム・初期の車いす・キャンバー)
- History Hit「When was the wheelchair invented?」 https://www.historyhit.com/when-was-the-wheelchair-invented/ (X型フレームの折りたたみ式)
- Effects of Rear-Wheel Camber on Maximal Effort Mobility Performance in Wheelchair Athletes, University of Groningen https://research.rug.nl/en/publications/the-effects-of-rear-wheel-camber-on-maximal-effort-mobility-perfo/ (キャンバー角と走行速度)
- 石川県「バリアフリー整備の手引き」 https://www.pref.ishikawa.lg.jp/kenju/bf-tebiki/documents/bf0103.pdf (JIS規格の寸法上限)
なおした ところ
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