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ここに書いてあることは、誰かが実際に手を動かして調べ、考え、作り上げてきたものを拾い集めています。専門の本や論文、作品、そしてそれを生み出した人たち。気になったことがあれば、ぜひそのおおもとに直接ふれてみてください。このメモには書ききれない熱を、感じてもらえると思います。

カラス いがいにも、どうぐを つかう どうぶつは いるの?

カラスだけじゃない ── 道具を使う動物たち

カラスだけじゃない ── 道具を使う動物たち

分野:生きもの

どうぐを 作って つかうのは、人間だけ。

1960年まで、学しゃたちは そう しんじて いた。

道具を作って使うのは、人間だけ。

1960年まで、学者たちはそう信じていた。

道具を作り、使うのは人間だけ。1960年まで、科学者たちはそう考えていた。ところが、タンザニアの森で、その定説はあっさりとくつがえされることになる。

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1. チンパンジーが、木の えだで シロアリを つりあげた

1. チンパンジーが、木の枝でシロアリを釣りあげた

1. 1960年、チンパンジーが道具を使い、定説が覆った

1960年10月、タンザニアの もりで、わかい けんきゅうしゃ ジェーン・グドールは、ある チンパンジーを かんさつして いた[1]。その チンパンジーは、草の くきの はっぱを むしりとり、それを シロアリづかの あなに さしこんで、くっついて きた シロアリを たべて いた[1]。「どうぐを 作って つかうのは 人間だけ」と かんがえられて いた じだいに、この はっけんは 大きな さわぎに なった[1]

1960年10月、タンザニアの森で、若い研究者ジェーン・グドールは、ある チンパンジーを観察していた[1]。そのチンパンジーは、草の茎の葉をむしりとり、それをシロアリ塚の穴にさしこんで、くっついてきたシロアリを食べていた[1]。「道具を作って使うのは人間だけ」と考えられていた時代に、この発見は大きな騒ぎになった[1]

1960年10月、タンザニアのゴンベ・ストリームで、若手研究者ジェーン・グドールは、のちに「デイビッド・グレイビアード」と名づけられるチンパンジーが、草の茎から葉を取り除いて加工し、その茎をシロアリ塚に差し込んでシロアリを釣り上げ、食べる様子を観察した[1]。当時、道具の製作と使用は人間だけに固有の能力とされていた。グドールの師であった古人類学者ルイス・リーキーは、この報告を受けて「大変だ、人間と道具を定義し直すか、チンパンジーを人間として受け入れなければ」と評したと伝えられている[1]

2. ラッコには、おきにいりの 石が ある

2. ラッコには、お気に入りの石がある

2. ラッコは貝を割るための石を選び、体に保管している

ラッコは、おなかの 上に 石を のせて、その 石に 貝を たたきつけて わって たべる[2]。じつは 多くの ラッコに、ずっと つかいつづける「おきにいりの 石」が あることが わかって いる[2]。その 石は、わきの したの ゆるんだ 皮ふを ポケットのように つかって、しまって おく[2]

ラッコは、おなかの上に石をのせて、その石に貝をたたきつけて割って食べる[2]。実は多くのラッコに、ずっと使いつづける「お気に入りの石」があることが分かっている[2]。その石は、わきの下のゆるんだ皮ふをポケットのように使って、しまっておく[2]

ラッコは、貝や甲殻類などの硬い殻を持つ獲物を、腹の上に乗せた石に打ちつけて割って食べる[2]。カリフォルニア沿岸で196頭のラッコを追跡した調査では、多くの個体が決まった1つの石を数か月から数年、時には成体になってからずっと使いつづけ、脇の下のたるんだ皮膚を袋のように使ってその石を保管していることが確認された[2]。また、別の調査地では、捨てられた貝殻の割れ方が片側に偏っていたことから、その生息地のラッコの多くは右利きではないかと示唆されている[2]

3. タコが、ヤシの からを もちはこんで よろいに した

3. タコが、ヤシの殻を持ち運んでよろいにした

3. メジロダコはヤシの殻を運搬し携帯シェルターとして利用する

インドネシアの 海で、「メジロダコ」と いう タコが、二つに われた ヤシの みの からを、体の 下に かかえて はこぶ ようすが 見つかった[3]。あぶない ときには、その からの 中に かくれる。せなかに からを かかえたまま 20メートルも 歩く ことも あった[3]。せぼねの ない どうぶつが 道具を つかう ことが わかった、はじめての れいだった[3]

インドネシアの海で、「メジロダコ」というタコが、二つに割れたヤシの実の殻を、体の下にかかえて運ぶようすが見つかった[3]。危ないときには、その殻の中にかくれる。背中に殻をかかえたまま20メートルも歩くこともあった[3]。背骨のない動物が道具を使うことが分かった、はじめての例だった[3]

2009年、研究者ジュリアン・フィンらは、1999年から2008年にかけてインドネシアの北スラウェシとバリの沿岸で観察した野生のメジロダコ(Amphioctopus marginatus)について報告した。このタコは、二つ割りにしたヤシの実の殻を体の下にかかえて最大20メートル運び、必要なときには殻を組み合わせて中に隠れる携帯用のシェルターとして利用していた[3]。研究チームは、これを無脊椎動物における初の道具使用の報告だとしている[3]

4. ゾウが、ふみ台を じぶんで ひらめいた

4. ゾウが、踏み台を自分でひらめいた

4. アジアゾウは試行錯誤なしに道具の利用法をひらめいた

アメリカの どうぶつえんで、カンジュラと いう 名の アジアゾウが、たかい ところに つるされた くだものを ほしがった[4]。カンジュラは、ちかくに あった プラスチックの ブロックを あしもとまで ころがして きて、その 上に 前あしを のせて 台に すると、はなで くだものを とった[4]。なんども ためす ことなく、いきなり この ほうほうを 思いついたのだろう[4]

アメリカの動物園で、カンジュラという名のアジアゾウが、高いところにつるされた果物をほしがった[4]。カンジュラは、近くにあったプラスチックのブロックを足もとまで転がしてきて、その上に前足をのせて台にすると、鼻で果物をとった[4]。何度も試すことなく、いきなりこの方法を思いついたと見られている[4]

2011年、ワシントンD.C.のスミソニアン国立動物園で、アジアゾウ3頭を対象にした実験が行われた。研究者が果物のついた枝を、ゾウの鼻が届かない高さに吊るしたところ、3頭のうち7歳の雄「カンジュラ」だけが、飼育環境でふだんから見慣れていたプラスチックのブロックを枝の下まで転がしてきて前脚を乗せ、踏み台として使うことで果物を鼻でもぎ取った。その後も、ブロックやタイヤを使って同様の行動を繰り返した[4]。目立った試行錯誤を経ずに解決策にたどり着いたことから、洞察による問題解決の例として報告されている[4]

5. サルには、3000年つづく「石きの じだい」が ある

5. サルには、3000年続く「石器の時代」がある

5. ブラジルのオマキザルは3000年続く石器使用の伝統を持つ

ブラジルの こくりつこうえんに すむ ヒゲオマキザルと いう サルは、かたい 木の みを われる石で わって たべる[5]。この こうえんの ちそうを しらべると、すくなくとも 2400年から3000年 まえの 石きが 見つかり、ときどき とぎれながらも、長い あいだ 石を つかう くらしが つづいて きたと 見られて いる[5]。しかも、木の みの かたさに あわせて、つかう 石の 大きさを かえて きたらしい[5]

ブラジルの国立公園に住むヒゲオマキザルというサルは、かたい木の実を、石で割って食べる[5]。この公園の地層を調べると、少なくとも2400〜3000年前の石器が見つかり、ときどき途切れながらも、長いあいだ石を使う暮らしが続いてきたと見られている[5]。しかも、木の実のかたさに合わせて、使う石の大きさを変えてきたようだ[5]

ブラジルのセラ・ダ・カピバラ国立公園に生息するヒゲオマキザル(Sapajus libidinosus)は、丸みを帯びた石を木の実や種子を割るための道具として使う。2019年に発表された研究によれば、公園内のさまざまな年代の地層から出土した石を分析した結果、少なくとも2400〜3000年前の石器が確認され、約450世代にわたって(必ずしも切れ目なく続いたわけではないものの)この石器使用の伝統が保たれてきたとみられている[5]。さらに、食べ物の硬さに応じて使用する石の大きさが時代とともに変化してきたとみられ、人類以外の動物で初めて、長期にわたる道具の変遷が確認された事例とされている[5]

6. なぜ、こんなに ちがう どうぶつたちが 道具を つかうのか

6. なぜ、こんなに違う動物たちが道具を使うのか

6. 系統の離れた動物での道具使用は収斂進化と考えられる

チンパンジー、ラッコ、タコ、ゾウ、サル。これらは 生きものの なかまとしては、おたがいに ぜんぜん ちがう グループに ぞくして いる。それでも 道具を つかう どうぶつが、あちこちの グループに いるのは、道具を つかう ことが、生きのこる うえで やくに 立つからだと かんがえられて いる[6]

チンパンジー、ラッコ、タコ、ゾウ、サル。これらは生きものの仲間としては、お互いにぜんぜん違うグループに属している。それでも道具を使う動物が、あちこちのグループにいるのは、道具を使うことが、生き残るうえで役に立つからだと考えられている[6]

チンパンジー(霊長類)、ラッコ(哺乳類だが霊長類とは遠縁)、メジロダコ(頭足類、脊椎動物ですらない)、ゾウ(長鼻類)、オマキザル(霊長類だがヒトとは別系統)。これらは進化的に大きく離れたグループに属している。それにもかかわらず、それぞれの環境の中で道具を使う行動が独立に見られることから、道具の使用は特定の系統だけに限られた特殊な能力ではなく、似た課題に直面した生物が独立に似た解決策にたどり着く「収斂進化」の一例である可能性が考えられる。ただし、ここで紹介した事例だけから、それぞれの能力がどのような進化的経路をたどったかまで確定できるわけではない[6]

まわりの どうぶつを、よく かんさつして みる

まわりの動物を、よく観察してみる

まわりの動物を、よく観察してみる

こうえんに いる カラスや、いえで かって いる ペットを、よく 見て みよう。えさを とる ときや、あそんで いる ときに、なにかを「どうぐ」のように つかって いる しゅんかんが あるかもしれない。

公園にいるカラスや、家で飼っているペットを、よく見てみよう。えさを取るときや、遊んでいるときに、何かを「道具」のように使っている瞬間があるかもしれない。

身近な動物の行動を、道具使用という視点であらためて観察してみよう。カラスが硬いものを道路に置いて車に割らせようとしたり、飼い犬がおもちゃを前脚で踏んで固定したりする様子も、案外このテーマの延長線上にあるかもしれない。

しらべた ところ

参考にした情報源

参考にした情報源

  1. ジェーン・グドール・インスティテュート・ジャパン「ジェーン・グドールについて」、Jane Goodall's Good for All News「Now we must redefine man, or accept chimpanzees as…humans?」。 https://www.jgi-japan.info/about-jane-goodall/ https://news.janegoodall.org/2019/07/24/now-we-must-redefine-man-or-accept-chimpanzees-ashumans/ (1960年10月、ジェーン・グドールがゴンベ・ストリームでチンパンジー「デイビッド・グレイビアード」が加工した草の茎でシロアリを釣って食べる様子を観察したことは1点目の出典による。ルイス・リーキーが「道具を再定義するか、人間を再定義するか、チンパンジーを人間として受け入れるかしかない」と評したとされることは2点目の出典による)
  2. UC Santa Cruz News「Sea otters use tools when feeding to survive a changing world」、ナショナルジオグラフィック日本版「ラッコが道具を使う謎、考古学の手法で迫る」。 https://news.ucsc.edu/2024/05/sea-otters-tools/ https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/040200199/ (カリフォルニア沿岸で196頭のラッコを追跡した調査で、多くの個体が決まった石を数か月〜数年、時には成体になってからずっと使いつづけ、脇の下のたるんだ皮膚を袋状に使って保管していることが確認されたことは1点目の出典による。別の調査地で、捨てられた貝殻の割れ方の偏りから、その生息地のラッコの多くが右利きではないかと示唆されたことは2点目の出典による)
  3. ナショナルジオグラフィック日本版「ココナツの殻を運ぶ知能の高いタコ」。 https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/2061/ (2009年、ジュリアン・フィンらが1999〜2008年にインドネシア北スラウェシ・バリ沿岸で観察した野生のメジロダコが、ヤシの実の殻を体の下にかかえて最大20m運び携帯シェルターとして利用していたこと、これが無脊椎動物における初の道具使用の報告とされることは同出典による)
  4. ナショナルジオグラフィック日本版「アジアゾウ、道具の使い方をひらめく」、スミソニアン国立動物園「Major Elephant Cognition Study」。 https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/4761/ https://nationalzoo.si.edu/news/major-elephant-cognition-study-comes-out (2011年、スミソニアン国立動物園でアジアゾウ3頭を対象に実験が行われ、そのうち7歳の雄「カンジュラ」が、届かない高さに吊るされた果物を、飼育環境で見慣れていたプラスチックのブロックを踏み台にして取ったこと、目立った試行錯誤なしにこの解決策にたどり着いたとされることは両出典による)
  5. ナショナルジオグラフィック日本版「サルにも『石器時代』、3000年継続中で石器も変化」、UCL(ロンドン大学)「Capuchin monkeys have been using stone tools for over 3,000 years」。 https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/062600373/ https://www.ucl.ac.uk/news/2019/jun/capuchin-monkeys-have-been-using-stone-tools-around-3000-years (ブラジル・セラ・ダ・カピバラ国立公園のヒゲオマキザルが少なくとも2400〜3000年前から石を使って木の実を割ってきたこと、この伝統が約450世代にわたり必ずしも連続的ではない形で保たれてきたとされることは2点目の出典による。食べ物の硬さに応じて使う石の大きさが時代とともに変化してきたとみられ、人類以外で初めて長期にわたる道具の変遷が確認された事例とされることは両出典による)
  6. フリー百科事典『ウィキペディア』「収斂進化」。 https://ja.wikipedia.org/wiki/収斂進化 (系統的に離れた複数の生物が、同様の環境・生態的地位に対応する中で、それぞれ独立に似た形質・能力を獲得する現象が「収斂進化」と呼ばれることは同出典による)

なおした ところ

更新履歴

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