1. くすりの 研究を した 人は、なにを しんぱいしたの?
1. 薬を見つけた本人が、いちばん心配したこと
1. フレミングの警告(1945年)── 少なすぎる量が耐性菌を育てる
ペニシリンという くすりを 見つけた フレミングは、1945ねんに ノーベルしょうを もらう ときの 話で、こんな しんぱいを のべた と つたえられて います[5]。
いつか だれでも ペニシリンを 買える ように なる。そのとき、よく 知らない 人が すこししか つかわないと、菌を つよく してしまうかもしれない、という 話です。
くすりを 見つけた 人が、まず 「その あと」を 考えて いました。
ペニシリンの発見で1945年にノーベル賞を受けたフレミングは、その講演で、実験室では菌を殺せないくらい薄い薬にさらすと、菌が薬に耐えるようになると話したと伝えられています[5]。
さらに、いつか誰でも店でペニシリンを買える時代が来れば、知識のない人が少なすぎる量を使い、菌を耐性にしてしまう危険がある、とも警告しました[5]。薬の使い方が問題になることを、講演で警告していました。
では、少なすぎる量の薬は、菌に何をするのでしょうか。
ペニシリンの功績でノーベル賞を受けたフレミングは、1945年12月11日の講演で、致死量に満たない濃度の薬に菌をさらせば耐性にできると述べ、さらに、誰でも薬を買える時代に、知識のない者が過少量を使って菌を耐性にする危険を警告した[5]。なお、この講演の原文は本稿の作成時にサイトから開けず、引用は二次的な紹介で確認したものである。
この警告が問いとして残したのは、薬にさらされた菌の集団の中で何が起きるのかという点だ。
2. くすりは 菌を かえるの?
2. 薬は菌を変えるのではなく、生き残りやすさを分ける
2. 選択と増殖 ── 薬は耐性菌が生き残りやすい環境をつくる
たくさんの 菌の 中には、くすりに 少し つよい 菌が まざって いる ことが あります。
くすりを つかうと、よわい 菌は へります。つよい 菌だけが のこって、その あと ふえます[3]。
ひろい 教室で、雨の 日に かさを もって きた 人だけが そとで あそべる ような ものです。かさを もった 人が のこり、ふえて いきます。ただし 本当の 菌は、かさを 自分で えらんで もって くる のでは ありません。
大人の 体が くすりに 「なれる」のでは ないのです。かわるのは 菌の ほうです[1]。
「慣れる」のは人の体ではない
厚生労働省は、薬剤耐性を、薬が効かない、または効きにくくなることと説明します。原因は、抗微生物薬を必要のない場面で使ったり、種類・量・期間が標準から外れたりする使い方にあるとされます[1]。変わるのは人の体ではなく、菌の側です。
生き残って、増えて、広がる
米国のCDCは、こう説明します。薬にさらされても耐えた菌は生き残って増え、ほかの菌にも広がります。生き残った菌のDNAには耐える性質があり、それが別の菌へ伝わることがあります[3]。
もともと少し耐える菌がまざっていた集団に薬が入ると、耐えない菌が先に減り、耐える菌が空いた場所で増えます。薬は、耐性のある菌が生き残りやすい状況をつくると考えると分かりやすいでしょう。
厚生労働省は、薬剤耐性を抗微生物薬が効かなくなる、または効きにくくなることと説明し、その要因を抗微生物薬の不適正使用としている。これは、必要のないときに使うことと、種類・量・期間が適切でない使い方の2つに分けて説明される[1]。変化するのは宿主ではなく菌である。
CDCの説明では、耐性菌は生き残って増殖し、他の菌にも広がる。生き残った菌のDNAにある耐性の性質は、他の菌へ伝わりうる[3]。集団に薬が加わると感受性菌が減り、耐性菌が相対的に増える。つまり薬は、集団の中で耐性菌が生き残りやすい条件をつくる。
WHOは、耐性の発生と拡大を促す要因を、抗菌薬の誤用・過剰使用に加え、衛生的な水や衛生設備の不足、家庭・医療機関・農場での感染予防の不足、ワクチンや診断へのアクセス不足などとしている[2]。ただ、生き残りだけでは説明できない現象が、日本で観察された。
3. ひとつの くすりで、よっつの くすりが きかなく なった?
3. 1つの薬を使ったのに、4つの薬が効かなくなった赤痢
3. 日本の赤痢(1957年ごろ〜)── 複数の薬に同時に耐える菌
せきりは、おなかが とても いたくなる びょうきです。日本では 1957ねんごろから、せきりの 菌の 中に、いくつもの くすりが きかない ものが ふえて きました[4]。
おどろくのは、いくつもの くすりに たえる 菌が 見つかった ことです[4]。
くすりを ひとつずつ つかっただけなら、こんなに いくつも きかなく なるのは ふしぎです。「のこる」だけでは、せつめいしきれません。
4つ同時という不思議
日本では1957年ごろから、赤痢菌の中に、ストレプトマイシン、サルファ剤、クロラムフェニコール、テトラサイクリンなど、複数の薬に耐える株の割合が増えていきました[4]。
研究者たちが注目したのは、複数の薬への耐性が報告されたことでした[4]。1つの薬を使っただけで、4つの耐性がそろったのはなぜでしょう。
一まとめで動いている?
もし4つの耐性が「一組」で、菌から菌へ動くとしたらどうでしょう。次の章は、その考えを確かめた研究の話です。
日本では1957年以降、赤痢菌の中でストレプトマイシン、サルファ剤、クロラムフェニコール、テトラサイクリンなどの複数の薬に耐性を示す株が、大きく増えつつある割合を占めるようになった。複数の薬への耐性が報告された[4]。
個々の耐性が独立に突然変異と選択で生じるなら、複数の薬への耐性が同時に広がるのは説明しにくい。この違和感が、耐性が一組で伝達される可能性への出発点になった。これは総説の記述を踏まえた筆者の整理であり、当時の研究者の推論の細部を再現したものではない。
4. くすりが きかない ちからは、うつるの?
4. 耐性は「うつる」── 大腸菌から赤痢菌へ
4. R因子の発見(1959〜60年)── 耐性の水平伝達を日本の研究が示した
日本の 研究者たちは、おなかに すんでいる 大腸菌と せきりの 菌の あいだで、くすりに たえる 力が わたされる のでは ないか、と 調べました。
1959ねんと 1960ねんに、大腸菌と せきりの 菌の あいだで、この 力が うつる ことが、日本で 見せられました[4]。
この 力を はこぶ ものは 「R因子」と よばれ、菌が じかに ふれあう とき、わたされます[4]。
びょうきの 人の 記ろくを よく 見て、「なぜ?」と 考えつづけた ことが、せかいの 発見に つながりました。
菌の種類をこえる受け渡し
総説には、赤痢菌と大腸菌のあいだで耐性が移ることを、日本で落合ら(1959)と秋葉ら(1960)が最初に示した、とあります。耐性を運ぶ因子はR因子と呼ばれ、菌どうしが直接ふれあうことで、染色体とは別に広がります。つまり、大腸菌から赤痢菌へ耐性が伝わるしくみです[4]。
病気の広がりの記録を見ながら「これは生き残りだけでは説明がつかない」と考えつづけた観察が、菌どうしで耐性が伝わるしくみを見つけた、ということです。
総説(渡辺、1963)は、赤痢菌と大腸菌のあいだで薬剤耐性が伝達されることを、日本で落合ら(1959)と秋葉ら(1960)が最初に実証したと記す。耐性を担う因子はR因子と呼ばれ、菌どうしの直接接触によって、染色体とは独立に伝達される[4]。
この発見は、耐性の獲得を「突然変異+選択」だけでなく「遺伝因子の水平伝達」にも広げた。耐性をもつ遺伝因子が別の種類の菌へ移るということである。前章の複数薬への同時耐性は、一組の因子がまとめて伝達されるという見方と整合する。
5. いま、せかいでは どのくらい?
5. いま、耐性菌はどこまで広がっているのか
5. 現在の広がりと、ワンヘルスの対策
いまも、この 力は プラスミドなどを つかって、ちがう しゅるいの 菌にも わたされて います[6]。日本の けんきゅうじょなどでは、その うごきを 見はる しくみを つくろうと しています[6]。
WHOの 2023ねんの 発表では、けんさで 分かった 菌の びょうきの、およそ 6つに 1つが、くすりの きかない ものでした[2]。
くすりを 正しく つかう ことは、この 広がりを おさえる ための 大事な 取りくみの ひとつです。日本でも、国を あげて すすめて います[1]。
くすりが きかなく なる ことは、人だけの もんだいでは ありません。どうぶつや のうじょう、まわりの しぜんも かかわって いると 考えられ、みんなで 見る 「ワンヘルス」という 考え方が すすめられて います[2]。
プラスミドと、菌どうしの受け渡し
現在でも、薬剤耐性遺伝子はプラスミドなどの動く遺伝因子に乗って他の菌に伝わります。菌の種類をこえた水平伝達が問題になっており、国立感染症研究所などは、家畜・環境・食品・臨床から得た耐性菌のプラスミドを調べ、耐性遺伝子の動きを監視する体制づくりを目指しています[6]。
数字で見る今
WHOによれば、2023年に世界で検査により確認された細菌感染のおよそ6件に1件(約17%)が、抗菌薬に耐性でした。東南アジアと東地中海の地域では約3件に1件でした[2]。世界の推計では、2019年に細菌の薬剤耐性が直接の原因となった死者は127万人、関連した死者は約495万人とされます[7]。これらは推計値で、127万人と495万人は「直接」と「関連」で意味が違います。
厚生労働省は、対策がなければ2050年に年間1,000万人以上の死亡が予想されるとして、適切な薬を、必要な場合に限り、適切な量と期間で使う運動を進めています。これは対策をしなかった場合の仮定にもとづく将来推計です[1]。
人・動物・環境をいっしょに見る
耐性は人の中だけの問題ではなく、動物や農場、環境も関わります。日本の対策は「ワンヘルス」の考え方で進められ、WHOも農業・食料システムでの抗菌薬の使用の削減や、環境への流出の抑制を目標に挙げています[2]。
耐性遺伝子は現在もプラスミドなどの可動性遺伝因子を介して他の菌に伝わり、菌種をこえた水平伝達が問題になっている。国立感染症研究所などは、家畜・環境・食品・臨床由来の耐性菌でプラスミドの配列を調べ、耐性遺伝子の動きを監視する体制の構築を目指している[6]。ただし、この点は報告書の要約に基づく記述で、本文は確認していない。
WHOは、2023年に世界の検査確認された細菌感染の約6件に1件(約17%)が抗菌薬耐性で、東南アジアと東地中海地域では約3件に1件だったとする[2]。分母は全感染ではなく、検査で確認された細菌感染である。死者数については、2019年に細菌の薬剤耐性が直接の原因となった死者が127万人、関連した死者が約495万人という推計がある[7]。直接と関連は別の量で、いずれも推計値であり、この数字は原論文でなく報告の要旨で確かめたものだ。
厚生労働省は、対策がなければ2050年に年間1,000万人以上の死亡が予想されるとして、「適切な薬を、必要な場合に限り、適切な量と期間で」使う国民運動を進める(2023〜2027年のアクションプラン)。これは対策をとらなかった場合の仮定に基づく将来推計である[1]。
ここで、耐性が人だけの問題でないことも重要になる。日本の対策は動物・環境を含む「ワンヘルス」で進められ、WHOも農業・食料システムでの抗菌薬使用の削減と環境への流出の抑制を目標に挙げる[2]。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
おうちの 人に 「びょうきの 記ろくを 見て ふしぎに 思った 人が いたんだって」と 話して みましょう。あなたなら、どんな ことを 「なぜ?」と 思うか、考えて みます。
もっと 知りたい ときは、日本の 厚生労働省の ホームページで 「AMR」を さがして みましょう。おうちの 人と いっしょに 読めます。
今日できること:病気の記録を見て「なぜ?」と考え、新しい発見につなげた人たちの話を、家族や友だちに話してみましょう。自分の身の回りで、生き残るものが「選ばれる」例がほかにないか、考えるのも楽しいでしょう。
公式情報:厚生労働省「薬剤耐性(AMR)について」は日本語で読めます。この記事は医療の助言ではありません。薬の使い方は、医師や薬剤師の説明に従ってください。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:厚生労働省・WHO・CDCなどの公的機関の資料と、日本の赤痢研究に関する総説などを使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- 厚生労働省「薬剤耐性(AMR)について」。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120172.html (薬剤耐性の定義、不適正使用、2050年の推計、国民運動について)
- WHO「Antimicrobial resistance」(ファクトシート)。https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/antimicrobial-resistance (拡大の要因、2023年の割合、ワンヘルスについて)
- 米国CDC「About Antimicrobial Resistance」。https://www.cdc.gov/antimicrobial-resistance/about/index.html (生き残り・増殖・耐性の受け渡しについて)
- 渡辺の総説(Bacteriological Reviews, 1963)。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC441171 (日本の赤痢の多剤耐性とR因子の発見について。検索要約で確認した部分あり)
- Alexander Fleming, Nobel Lecture, 1945(NobelPrize.org)。https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/1945/fleming/lecture/ (少なすぎる量の使用への警告について。二次的な紹介で確認)
- 厚労科研(国立保健医療科学院)「厚生労働科学研究成果データベース」。https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/25077 (プラスミドによる水平伝達と監視について。要約で確認)
- Antimicrobial Resistance Collaborators, The Lancet (2022)(PubMed)。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35065702/ (2019年の推計死者数について)
なおした ところ
更新履歴
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