1. くちばしは、とりの「て」なの?
1. くちばしは鳥の「手」の代わり
1. くちばしの働き ── 採食だけでなく巣造り・羽づくろい
わたしたちは、ものを つかんだり、はこんだり するとき、てを つかいます。とりには てが ありません。かわりに、くちばしを つかいます。
くちばしは、たべものを とる だけでは ありません。すを つくったり、はねを きれいに したりも します[1]。
くちばしは、いろいろな どうぐが はいった どうぐばこのようです。きり、ピンセット、ペンチ。とりの しゅるいごとに、ちがう どうぐが ついて いる ように 見えます。
ただし ほんとうは、とりが どうぐを えらんで いるのでは ありません。たべかたに あった かたちの くちばしが、のこって きたと かんがえられて います。
2. どんな かたちが あるの?
2. キツツキ・ワシ・ヘラサギ ── 形は道具に似ている
2. 形と採食法 ── 錐・鉤・へら・木靴
キツツキの くちばしは、きりのように とがって います。木に あなを あけるのに ぴったりです[1]。
ワシや タカの くちばしは、さきが するどく まがって います。つかまえた えものを ひきさく ときに、ひっかかりそうな かたちです。
ヘラサギの くちばしは、へらのように ひらたい かたちです。みずの なかの むしや こざかなを はさんで とります[1]。
ハシビロコウは、木の くつのように ぶあつい くちばしを もつと いわれます。ハイギョや ナマズを とるのに あって いると されて います[3]。
3. たねを わる くちばし、どろに さす くちばし
3. 硬い種を割る太い形、干潟の泥にさす細長い形
3. 国立科学博物館の解説にみる形と食物 ── 種子食と干潟の採餌
かたい たねを たべる とりには、ふとくて みじかい くちばしを もつ ものが います。スズメや イカルが そうです[2]。
ひがたに いる チュウシャクシギは、ほそくて まがった くちばしを カニの あなに さしこみます。
オオソリハシシギは、したに まがった くちばしを どろの なかに さしこみます。さきの ほうで さわって、カニなどを さがします[2]。
みずの ある ところと、かたい たねの ある ところ。すんで いる ばしょに あわせて、くちばしの かたちも ちがいます。
国立科学博物館の教材解説には、次のような例があります[2]。
硬い種子を割って食べるイカルやスズメは、太くて短いくちばしをもっています。力をかけて殻をくだくには、厚みがあって短い形が向いているようです。
干潟にいるチュウシャクシギは、カニの巣穴にくちばしを差し込んで獲物をとります。そのため、細長く曲がったくちばしをもっています。
オオソリハシシギは、下に大きく曲がったくちばしを泥に差し入れ、触覚を使ってカニなどをさぐります。目で見えない獲物を、くちばしの先の感覚で見つけているわけです。
国立科学博物館のくちばし教材の解説は、硬い種子を割るイカル・スズメは太く短い嘴、干潟のチュウシャクシギはカニの巣穴に差し込む細長く曲がった嘴、オオソリハシシギは下に大きく曲がった嘴を泥に差し入れ触覚でカニなどをさぐる、と紹介する[2]。
種子食は太く短い嘴(力をかけやすい)、干潟の底生動物食は細長く曲がった嘴(穴や泥に届く)、という対応が読み取れる。
4. さきが ×に なった くちばし
4. 先が交差したイスカのくちばし
4. イスカ類 ── 球果に合わせた嘴の大きさ
イスカと いう とりの くちばしは、うえと したの さきが ×の ように まじわって います[7]。
まつぼっくりを 見た ことは ありますか。かさの ような うろこが かさなって、そのあいだに たねが かくれて います。イスカは、そこから たねを とりだすのに むいて いると いわれます。
イスカの なかまには、いくつか しゅるいが あります。それぞれ、すきな まつぼっくりに あわせて、くちばしの おおきさが ちがう ようです[7]。
イスカ(英語名クロスビル)は、上下のくちばしの先が交差しています。この形は、針葉樹の球果(松かさなど)の鱗の間に隠れた種子を取り出すのに向いている、と紹介されています[7]。
イスカの仲間は種類ごとに、くちばしの大きさが好みの針葉樹の球果に合うようになっている、と英国鳥類学協会(BTO)の書評は伝えています。同じ交差くちばしでも、細かい大きさが食べ物に合わせて分かれているようです。
イスカ類(crossbill)は上下の嘴先が交差し、球果の鱗の間に隠れた種子の取り出しに適する。種ごとに、嘴の大きさが好みの針葉樹の球果に合うよう適応しているとされる[7]。
この記述は英国鳥類学協会(BTO)による書籍の書評による。
5. とおい なかまでも、にる ことが あるの?
5. 遠い仲間でも似る傾向と、ハチドリの花
5. 収れんの傾向と限界 ── 類縁が遠くても似るが、1対1ではない
くちばしの かたちは、たべものと たべかたに あわせて できて います。だから、おなじ ような ものを たべる とりは、とおい なかまでも、にた くちばしに なる ことが あります[1]。
ただし、かならず にる わけでは ありません。「にやすい」くらいの はなしです。
ハチドリは、はなの みつを すいます。くちばしの ながさや まがりかたは、はなの かたちと あって いる ことが おおいようです。
でも、ハチドリの なかまは、いろいろな はなの みつを すいます。「この はなは、この ハチドリだけ」と、1つずつ きまって いるわけでは ありません[8]。
6. フィンチの くちばしは、なにが ちがうの?
6. ダーウィンフィンチ ── 14の形と3つの数
6. ダーウィンフィンチの嘴形状 ── 3つのパラメータによる記述(Campàsら 2010)
ガラパゴスの しまに、フィンチと いう ことりが います。フィンチは、しまや しゅるいに よって、くちばしの かたちが すこしずつ ちがいます。
じめんで たねを たべる フィンチの なかでは、ふとくて ふかい くちばしの ことりは、おおきくて かたい たねが とくいです。ほそい くちばしの ことりは、ちいさくて やわらかい たねが とくいだと いわれます[4]。
この くちばしの おおきさは、おやから こどもに つたわります。
あるとき、フィンチの くちばしの かたちは、14しゅるいに わけられました。そして、その ちがいは、たった 3つの かずで あらわせる と ほうこくされました[5]。
ガラパゴス諸島のダーウィンフィンチのうち種子を食べる種では、太くて深いくちばしの鳥は大きくて硬い種子を、細いくちばしの鳥は小さくて軟らかい種子を、効率よく食べるとされています。くちばしの大きさは、親から子に伝わります[4]。
2010年、ハーバード大学のグループ(Campàsら)が、フィンチのくちばしの形を調べました。14の異なるくちばしの形が見つかり、それらは3つの大きなグループに分けられました。
そして、形の違いは、「深さ」と「長さ」の拡大縮小、およびずれ(せん断)という、3つのパラメータだけで表せると報告されました[5]。
ここで数えたのは「14の鳥」ではなく、「14のくちばしの形」です。
意外なのは、多様に見える形が、少ない数で表せることです。数で表せることと、その形がどう作られるかを説明することは別です。
7. かたちは、どうやって できるの?
7. 形の大きさにかかわる遺伝子 ── Bmp4とカルモジュリン
7. 発生と遺伝子 ── Bmp4・カルモジュリン、ニワトリ胚での実験
くちばしの かたちは、たまごの なかで ひなが そだつ ときに つくられます。
フィンチでは、「Bmp4」と いう いでんしの はたらきかたが、くちばしの はばと ふかさに かかわると いわれます。「カルモジュリン」は、ながさに かかわると いわれて います[5]。
ニワトリの たまごで、この Bmp4 を ふやす と、くちばしが おおきく なりました。へらすと ちいさく なりました[6]。
ただし、これだけで すべてが きまる わけでは ありません。
くちばしの形は、卵の中で育つ途中の段階(胚)で決まります。ダーウィンフィンチでは、Bmp4という遺伝子の働き方(発現)がくちばしの幅と深さに、カルモジュリンという遺伝子の働き方が長さに関わる、と紹介されています[5][9]。ただし「関わる」のであって、これだけで形が決まるとは書かれていません。
ニワトリとアヒルの胚を使った実験もあります。ニワトリの胚にBMP4を加えると、くちばしの長さ・幅・深さがどれも大きくなりました。BMP4の働きをおさえると、くちばしは小さくなりました[6]。アヒルは、もともとBMP4の発現が高く、くちばしの成長する部分が2か所あります。
これは胚での実験で、ひなが育つうちに形が変わったという話ではありません。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
いえの ちかくで
にわや こうえんで、スズメなど 見える とりの くちばしを、とおくから 見て みましょう。ふとい か ほそい か、なにを たべて いるか、見て みます。見えない ときは、ずかんで しらべます。とりには、ちかづきすぎたり、さわったり しません。
ずかんで
とりの ずかんで、くちばしの かたちが ちがう とりを 3しゅるい えらび、なにを たべる とりか しらべて みましょう。
こうしきの 情報
こくりつ かがく はくぶつかんの くちばしの きょうざいにも、かたちと たべものの れいが のって います。
身近な鳥で
公園や庭で、見かけた鳥のくちばしを、離れた場所から観察してみてください。見つからなければ、図鑑で確かめても大丈夫です。太いか細いか、長いか短いかと、何を食べているかを並べて見ると、見えてくるものがあるかもしれません。鳥には近づきすぎず、さわらないようにします。
図鑑で
図鑑から、くちばしの形が大きく違う鳥を数種選び、食べ物との組み合わせを表にしてみます。
公式情報
国立科学博物館のくちばし教材の解説PDFに、形と食べ物の例が載っています。
身近な鳥で
公園などで、スズメなどのくちばしの形と採食行動を、距離を保って観察する。鳥に近づかず、触れない。
資料を読むなら
国立科学博物館のくちばし教材の解説PDF、Campàsら(2010、PNAS)、Abzhanovら(2004、Science)などの原典に当たり、形の違いを表すパラメータと、遺伝子の働きの関係を確かめられる。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
今回は、辞典の記述、博物館の教材解説、大学・書評の紹介記事、論文を突き合わせた。国立科学博物館の解説・ハシビロコウの辞典・フィンチの遺伝子の話は、検索で見た抜粋や紹介記事によるもので、原文全体は未確認。
- コトバンク「嘴」(百科事典マイペディア・ブリタニカ国際大百科事典) https://kotobank.jp/word/%E5%98%B4 (くちばしの働き・形と食べ物・収れんの傾向)
- 国立科学博物館 くちばし教材解説 https://web.kahaku.go.jp/learning/learningtool/download/kuchibashi_worksheet_kaisetsu.pdf (種を割る形・干潟の鳥・くちばしの触覚)
- コトバンク「ハシビロコウ」 https://kotobank.jp/word/ハシビロコウ (ハシビロコウのくちばし)
- Peter and Rosemary Grant(Wikipedia英語版) https://en.wikipedia.org/wiki/Peter_and_Rosemary_Grant (フィンチのくちばしの大きさと種子)
- Harvard SEAS「Simple math explains dramatic beak shape variation in Darwin's finches」 https://seas.harvard.edu/ (14の形・3つのパラメータ・Bmp4とカルモジュリン)
- ニワトリとアヒルのくちばし発生の論文(PMC4380220) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4380220 (BMP4を加える・抑える実験)
- BTO 書評 Crossbills and Conifers https://www.bto.org/ (イスカのくちばしと球果)
- ハチドリのくちばしと花の対応(Integrative and Comparative Biology 2021、Missouri State) https://bearworks.missouristate.edu/articles-cnas/3465 (ハチドリと花の対応の傾向)
- ダーウィンフィンチのくちばしの研究(PMC2851900) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2851900 (Bmp4・カルモジュリンの関わり)
なおした ところ
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