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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

貝は どうして、ほとんど 力を つかわずに 口を とじて いられるの?

貝は、なぜ疲れずに殻を閉じ続けられるのか

二枚貝の閉殻筋と「キャッチ」── 靭帯との拮抗、ツイチンによる切り替え、残る謎

分野:生きもの

おみそしるの あさりは、火に かけると 口を あけます。ところが、生きて いる 貝は、口を とじたまま じっと して います。

あける 力が はたらいて いるのに、どうして とじ つづけられるのでしょう。しかも、ほとんど つかれない しくみが あるようです。いっしょに 見て みましょう。

火を通した貝が口を開くのは、閉じる力が抜けるからだと説明されます。逆にいえば、生きている貝は、開こうとする力にずっと逆らって殻を閉じているのです。

ずっと力を出し続けたら、ふつうの筋肉は疲れてしまいます。貝の筋肉には、エネルギーをほとんど使わずに力を保つ「キャッチ」というしくみがあり、そのスイッチ役のタンパク質まで調べられています。

二枚貝の殻は、蝶番の靭帯によって常に開く向きに力を受けており、閉殻筋が引っぱることで閉じる[1]。閉じた状態を保つ間、閉殻筋の一部は「キャッチ」と呼ばれる状態に入り、ATPをほとんど消費せずに張力を保つ[3]。

このメモでは、靭帯との拮抗、ホタテの閉殻筋の二層構造、キャッチの定義、スイッチ役とされるツイチン、旧説の否定と未解決の点を、複数の資料でつき合わせて整理する。

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1. 貝は、いつも あけられそうに なって いる

1. 貝の殻には、開こうとする力がはたらいている

1. 拮抗する二つの力 ── 靭帯と閉殻筋

あさりや ほたてなどの 貝は、二まいの から で できて います。その つなぎ目には 「じんたい」と いう ものが あり、いつも から を あける 向きに 力が かかって います[1]。

とじる ときは、貝柱(かいばしら)が から を ひっぱります[1]。あける 力と とじる 力の 引っぱりあいで、あき方が 決まるのです[2]。

たとえば、本の おくに 消しゴムを はさんで とじると、手を はなした とき 本は すこし あきます。とじて おくには 力が いります。貝も、それに 少し にて います。ただし、本当の 貝の つくりは、もっと ふくざつです。

つなぎ目のばね

二枚貝の殻の蝶番には靭帯があり、常に殻を開く向きに力がはたらいています。殻を閉じるのは、貝柱(閉殻筋)が二枚の殻を引っぱる力です[1]。火を通した貝が開くのは、閉じる側の力が抜けて、開く側の力が残るからだと考えられます。

力のつり合いで、開き方が決まる

Wikipediaには、開こうとする靭帯と、閉じようとする閉殻筋が拮抗することで、開き方を調節している、とあります[2]。たとえとして、外側の靭帯は本の背表紙、内側の靭帯は本の奥にはさんだ消しゴムのようだ、と紹介されています。閉じた本の奥に消しゴムがあれば、手を離すと本は少し開きます。貝は、その開こうとする力に、筋肉で逆らっています。

二枚貝の蝶番には靭帯があり、常に殻を開く向きに力が入っている。閉殻筋(貝柱)が二枚の殻を引っぱることで、殻は閉じる[1]。

日本語版Wikipediaは、開こうとする靭帯と閉じようとする閉殻筋が拮抗することで、貝は開き方を調節すると述べる。外靭帯を本の背表紙、内側の靭帯を本の奥にはさんだ消しゴムにたとえる説明も添えられている[2]。この見方では、殻が閉じている間、閉殻筋は靭帯の力に逆らって張力を出し続けていることになる。

2. ホタテの 貝柱には、二つの 部分が ある

2. ホタテの貝柱は、二種類の筋肉でできている

2. ホタテの閉殻筋 ── 横紋筋と平滑筋の分業

ホタテの 貝柱は、とても 大きいです。ふつうの 貝には 貝柱が 二つ ありますが、ホタテは 前の 一つが なくなり、大きな 一つだけが のこって います[2]。

その 貝柱を 見ると、クリーム色の 部分と、そのわきの 三日月の 形を した 白い 部分に 分かれて いるそうです[3]。

クリーム色は、すばやく ちぢんで、ホタテが パクパク して およぐ ときに はたらきます。白い ほうは、ずっと 力を 出し つづけて、から を とじて おく ときに はたらくと せつめいされて います[3]。

ひとつだけ残った、大きな貝柱

ホタテガイでは、巨大な後閉殻筋が殻の中央の大きな部分を占め、前閉殻筋は消えています。この大きな筋肉が、食材として知られる貝柱です[2]。

すばやい筋肉と、粘り強い筋肉

ホタテの閉殻筋は、クリーム色の横紋筋と、そのわきにある三日月状の白い平滑筋からできている、と解説されています[3]。横紋筋は素早く縮み、殻をパクパクさせて泳ぐときに使われます。平滑筋は持続的な力を出し、殻を閉じておくときに使われるとされます。

この二つの分担は、日本語の解説で紹介されているホタテの例です。ほかの二枚貝がすべて同じ配置とは限りません。

ホタテガイでは、巨大な後閉殻筋が殻の中央を占め、前閉殻筋は消失している(単筋)。この後閉殻筋が、食材の貝柱にあたる[2]。

『化学と生物』の解説によれば、ホタテの閉殻筋はクリーム色の横紋筋と、その脇に付く三日月状の白色の平滑筋からなる。横紋筋は素早い収縮を担い、殻を開閉して泳ぐときに働く。平滑筋は持続的な力を担い、殻を閉じておく場面に対応するとされる[3]。

この分業の記述はホタテについてのもので、他の二枚貝が同じ配置をもつとは限らない。

3. 「キャッチ」って なに?

3. エネルギーをほとんど使わない「キャッチ」

3. キャッチ状態の定義 ── 低エネルギーで張力を保つ

白い 部分は、力を 出し つづけて いる あいだ、エネルギーを ほとんど 使って いない ことが わかりました[3]。

とびらが かけがねで とめられて いる ようすに にて いるので、この ふしぎな ようすを 「キャッチ」と よびます[3]。

ただし、まったく 使わない わけでは ありません。ほんの 少しだけ 使って いると、調べた 研究は つたえて います[5]。

この しくみは、貝が から を とじ つづける ときに 役に たつと いわれます。海岸の 岩に くっつく ムラサキイガイは、強い 波に まけないためにも 使うと 考えられて います[4]。

扉の留め金のように

解説によれば、閉殻筋は収縮し続けている間、エネルギー(ATP)をほとんど消費していないことが分かりました。扉が留め金で閉じられている様子に似ているため、「キャッチ(キャッチ収縮)」と呼ばれます[3]。

総説論文では、キャッチは、筋肉を縮ませる合図(カルシウムイオン)が静止時の水準に戻ったあとも、長く続く高い張力を、ごく低いエネルギー消費で保つ状態とされています。ムラサキイガイ属の前足糸牽引筋などで詳しく調べられてきました[4]。

「ほとんど」であって「ゼロ」ではない

NICTのニュースでは、キャッチ状態でもわずかにエネルギーは消費されていると紹介されています[5]。「エネルギーを使わない」ではなく「ほとんど使わない」が正確な言い方です。

何の役に立つのか

総説論文は、殻を閉じ続けることや、ムラサキイガイが強い波に逆らって足糸で岩に付着し続けることに役立つ可能性があるとしています[4]。

キャッチの特徴は、収縮し続けている間のATP消費がほとんどないことである。扉が留め金で閉じられている様子に似ることから、この名がついた[3]。総説(Int J Mol Sci 2020)は、キャッチを「Ca²⁺が静止レベルに戻った後も、長く続く高い張力を極めて低いエネルギー消費で保つ状態」と定義し、ムラサキイガイ属の前足糸牽引筋(ABRM)などで詳しく調べられてきたと述べる[4]。

ただし消費はゼロではない。NICTのニュースによれば、キャッチ状態でもわずかなエネルギー消費があり、ATP分解速度で測ると斜紋筋のほうが多く消費していた[5]。この「斜紋筋」がどの貝の筋肉かは、参照した範囲では確認できておらず、種を特定しない。

キャッチは、殻を閉じ続ける場面のほか、ムラサキイガイが強い波に逆らって足糸で岩に付着し続ける場面に役立つ可能性があるとされる[4]。

4. スイッチの 役を する たんぱくしつ

4. キャッチを入れたり切ったりする「ツイチン」

4. ツイチンによる切り替え ── リン酸化とキャッチの解除

キャッチを 入れたり 切ったり する スイッチの 役を するのは、「ツイチン」という たんぱくしつだと せつめいされて います[5]。

きんにくは、細い 糸と 太い 糸が すべりあって ちぢみます。ツイチンが ふつうの 形の ときは、その 二つを つなぐので、力が そのまま たもたれます[5]。

神経しんけいから 合図が つたわると、ツイチンに 「リンさん」という ものが くっついて、つなぎが はずれます。すると キャッチが とけて、貝の 力が ぬけます[4]。

二本の糸をつなぐ留め具

筋肉は、アクチンとミオシンという二種類のタンパク質の糸がすべり合って縮みます。NICTのニュースでは、ツイチン(トゥイッチン)がスイッチの役割を果たし、筋肉がキャッチ状態で大きな力を保ったり、キャッチを解除してだらりと緩んだりする、と紹介されています。リン酸が付いていないツイチンは、ミオシンとアクチンの両方に結びつき、張力を保つとされます[5]。

ゆるめる合図はセロトニン

総説論文では、神経から出るセロトニンが細胞内のcAMPを増やし、プロテインキナーゼAがツイチンにリン酸を付けます。するとキャッチが終わる、という流れが説明されています[4]。リン酸が付くか外れるかで、留め具が切り替わるわけです。

NICTのニュースは、ツイチン(トゥイッチン)がスイッチとして働き、筋肉がキャッチ状態で大きな力を維持したり、キャッチを解除して弛緩したりすると述べる。リン酸化されていないツイチンは、ミオシンとアクチンの両方に結合して張力を保つ[5]。

総説論文では、脱リン酸化状態のツイチンがアクチンとミオシンと三者の複合体をつくり、張力を保つとされる。神経が放出するセロトニン(5-HT)がcAMPを増やし、プロテインキナーゼAがツイチンをリン酸化すると、キャッチが終わる[4]。

5. まだ わかって いない こと

5. 昔の説は否定され、しくみは完全にはわかっていない

5. 旧説の否定と未解決の点

むかしは、「太い 糸の 先の 動きが おそく なる から、力が たもたれる」と 考えられて いました。

ところが、その 先が 力を 出せない ときでも キャッチが おきる、という 実験じっけんの 結果けっかが 出て、この 考えは ちがうと されました[6]。

今も、キャッチの しくみは 全部は わかって いない と、研究者は 書いて います[4]。

昔の説がくつがえった

もともとは、キャッチはミオシンの頭部の動きが遅くなるために起こる、と考えられていました。しかし、ミオシン頭部が力を出せない状態でもキャッチを引き起こし、保てるという実験結果が出て、この説は否定されました[6]。

今もつづく研究

多くの研究があるにもかかわらず、キャッチの仕組みは完全には分かっていない、と2020年の総説は書いています[4]。ツイチンがスイッチ役だとしても、その先で何が起きているのかは、これからも調べられていきます。

キャッチの機構は、従来「ミオシン頭部のクロスブリッジ・サイクルが遅くなるため」と考えられた。しかし、ミオシン頭部が力を出せない条件でもキャッチを誘導・維持できるという実験結果が報告され、この説は否定された[6]。

2020年の総説は、多くの研究があるにもかかわらず、キャッチの機構は完全には解明されていないと述べる[4]。ツイチンがスイッチとして働くことは示されているが、張力保持の分子的な仕組みの全体像は、まだ研究の途中にある。

自分でも しらべて みたく なったら

自分でも調べてみたくなったら

自分でも調べてみたくなったら

おうちの 人と、消しゴムを 一つ よういして みましょう。本の おくに はさんで とじると、手を はなした とき どうなるかな。本を 手で おさえつづけるのは、どんな 気もちかな。

ホタテを 見る ときが あったら、貝柱の 白い ところと、クリーム色の ところを さがして みましょう。

もっと 知りたい ときは、「魚食ぎょしょく普及ふきゅう推進すいしんセンター」の ホームページに、貝の 話が のって います。おうちの 人と 見て みましょう。

今日できること:本の奥に消しゴムをはさんで閉じ、手を離すと本がどうなるかを見ます。そのあと、消しゴムをはさんだ本を手で閉じて押さえ続けると、どこが疲れるでしょうか。貝の筋肉が出している力と比べて、考えてみます。カッターなどの刃物は使わないでください。

出かけてできること:ホタテが貝つきで売られている機会があれば、貝柱の断面を見て、白い部分とクリーム色の部分の位置を確かめてみます。ホタテのしくみが、ほかの貝と同じとは限りません。

公式情報:大日本水産会の魚食普及推進センターに、日本語の貝の解説があります[1]。

今日できること:本の奥に消しゴムをはさんで閉じ、手を離したときの開き方を確かめる。消しゴムをはさんだ本を手で閉じて押さえ続けるときに手にかかる負担を、貝の閉殻筋がキャッチで担っている仕事と比較する。

資料:日本語では、『化学と生物』の解説[3]とNICTニュース[5]が、キャッチとツイチンの入り口としてよい。英語の総説[4]には、歴史と未解決の論点がまとまっている。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

出典について:水産団体の解説、日本語版Wikipedia、学会誌の解説、公的研究機関のニュース、英語の総説論文を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。

  1. 魚食普及推進センター(大日本水産会)「二枚貝が開く理由」。https://osakana.suisankai.or.jp/s-other/5541 (靭帯と貝柱の力の向きについて)
  2. Wikipedia日本語版「閉殻筋」。https://ja.wikipedia.org/wiki/閉殻筋 (靭帯と閉殻筋の拮抗、ホタテの貝柱について)
  3. 『化学と生物』「二枚貝が殻を閉じ続ける分子機構〜キャッチ収縮〜」。https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=1766 (キャッチの説明、ホタテの横紋筋と平滑筋について)
  4. Int J Mol Sci 2020「Catch State in Molluscan Smooth Muscle: A Historical Perspective」。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7589332/ (キャッチの定義、役割、ツイチンのリン酸化、未解決の点について)
  5. NICTニュース1309号「生体分子の省エネルギーメカニズム」。https://www.nict.go.jp/publication/NICT-News/1309/01.html (ツイチンのスイッチ役、わずかなエネルギー消費について)
  6. 「The highly efficient holding function of the mollusc 'catch' muscle is not based on decelerated myosin head cross-bridge cycles」。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2842747/ (旧説が否定されたことについて)

なおした ところ

更新履歴

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