1. ゴロゴロは、うれしい ときだけ?
1. 満足のときだけではない、ゴロゴロの場面
1. ゴロゴロが出る場面 ── 満足だけではない(von Muggenthaler 2001)
ゴロゴロは、ねこが ごきげんな ときの 音だと 思われて います。たしかに、なでて もらって いる ときに よく 聞きます。
でも、ある 研究の 発表では、ねこは 大きな けがを したときや、こわい ときにも ゴロゴロ いう と 書かれて います[5]。
ですから、ゴロゴロ = うれしい、と 決めて しまうのは、少し 早いようです。
いつ鳴らすのか
ゴロゴロは、なでられて目を細めているときの音だと考えられがちです。けれども、2001年にアメリカの音響学会で発表された報告は、ねこが満足のときだけでなく、大けがをしたときや怖いときにも鳴らすと述べています[5]。
つまり、音だけで気持ちを言い当てるのは簡単ではないようです。この問いが、あとの章で出てくる「何のために鳴らすのか」につながります。
von Muggenthaler(2001)の学会要旨は、ねこが満足しているときだけでなく、重傷を負ったときや怯えているときにも purr を出すと述べている[5]。ゴロゴロを「機嫌のよさの表れ」と単純に読むことはできない、というのがこの章の出発点になる。
なお、この要旨は学会発表の段階のもので、後の章で扱う治癒仮説とあわせて読む必要がある。
2. どんな 音なの?
2. ネコ科の仲間が出す、ふつうより低い音
2. 音の性質 ── 25〜150Hzの低周波(44頭の録音)
ゴロゴロは、ひくい 音です。音は、ふるえの はやさで たかい ひくいが 決まります。ゴロゴロは、1秒に 25回から 150回ほど ふるえる 音だと されます[4]。
ためして みましょう。じぶんの のどに 手を あてて、ひくい 声で 「うー」と 出して みます。手に ふるえが つたわります。ゴロゴロも、あの ふるえの なかまです。
1秒に何回ふるえるか
音の高さは、1秒間に何回ふるえるか(周波数、単位はヘルツ)で決まります。2001年の報告では、チーター、オセロット、ピューマ、飼いねこなど44頭のネコ科の動物を録音したところ、すべてが25〜150ヘルツの強い音を出したそうです[4]。
25ヘルツなら、1秒に25回のふるえです。自分の喉に手を当てて低い声を出すと、ふるえが指に伝わります。ゴロゴロもそういう振動の一種です。
3. むかしから 言われて きた せつめい
3. 約50年、定説だった「喉の筋肉が細かく動く」説
3. 従来説 ── 神経信号による喉頭筋の周期的収縮(約半世紀前〜)
ゴロゴロは、のどの ほうで 出ます。のどの 中には、こえを 出す ための ひだが あります。これを 声帯と いいます。
むかしの 考えでは、のうから 合図が 出て、のどの きんにくが ぎゅっ、ゆるむ、ぎゅっ、ゆるむ、と くりかえし うごくと されて いました[1]。
この 考えは、およそ 50年も まえから ありました。
脳から筋肉へ、合図をくり返す
従来の説明では、脳から周期的に神経の信号が送られ、喉の奥にある喉頭(こうとう)の筋肉が縮んだりゆるんだりをくり返すことで、声帯が細かくふるえて音が出るとされてきました[1]。この説は、半世紀ほど前の研究にさかのぼるといいます。
従来の説明は、脳の神経振動子が周期的な信号を喉頭筋に送り、声帯周辺の筋が収縮と弛緩をくり返して低周波の音を出す、というものだった[1]。約半世紀前の研究に由来する。
この説は、喉の筋肉の動きを音の源とみなすもので、次の章の実験がその前提に問いを投げかけた。
4. 2023ねん、 ちがう ヒントが 出た
4. 解剖した喉に空気を通すと、低い音が出た
4. 摘出喉頭実験(Herbstら 2023, Current Biology)
2023ねんに、オーストリアの ウィーン大学の 人たちが、ふしぎな 実験を しました。
なくなった かいねこ 8ひきの のどを とり出して、空気を 通して みたのです。すると、きんにくも のうの 合図も ないのに、ゴロゴロに にた ひくい 音が 出ました[2]。
ただし、これは 生きた ねこの ことでは ありません。生きて いる ときに、きんにくが どのくらい はたらくかは、まだ わかって いません[1]。
研究した 人たちも、これで むかしの 考えが まちがいだと 決まった とは 言って いません。
5. のどに 小さな かたまりが あった
5. 声帯に埋まった「パッド」は手がかりになるか
5. 声帯のパッド ── 結合組織のかたまり(最大約4mm)
どうして ひくい 音が 出るのでしょう。手がかりの ひとつが、声帯に うまって いる、小さな かたまりです。大きい ものでも 4ミリ ぐらいだと されます[3]。
4ミリは、こめつぶより、少し 小さい くらいです。
この かたまりが、ふるえを ゆっくりに して、ひくい 音を 出しやすく して いる かもしれない、と 考えられて います[3]。ただ、まだ 「かもしれない」の だんかいです。
4ミリの結合組織
同じ研究の要旨には、ねこの声帯の中に、結合組織でできた「パッド」が埋まっていて、大きいものでは4ミリほどになると書かれています[3]。お米一粒より少し小さい大きさです。
このパッドが、声帯を重くして、ゆっくりした低いふるえを助けている可能性が示されました。ただし、あくまで可能性の段階で、本当にそうなのかは今後の研究に待つところです。
Herbstら(2023)の要旨によると、声帯(plica vocalis)には結合組織性のパッドが吻背側に埋め込まれており、最大約4mmに達する[3]。このパッドが低周波の発声を助ける要因になっている可能性が示された。
ただし、機能の裏づけは摘出喉頭での観察に基づく。生きたねこでの役割は、今後の検証が必要である。
6. なんの ために 鳴らすの?
6. 何のために鳴らす? 要求・治癒などの諸説
6. 目的をめぐる諸説 ── 要求のpurr(McComb 2009)と治癒仮説(2001)
ゴロゴロを 鳴らす わけは、ひとつでは ないと 考えられて います。
ひとつは、ごはんを ねだる ときです。ある 研究で、ごはんを ほしがる ときの ゴロゴロには、ニャーと いう 鳴き声に にた 高い 音が まざって いる と はっぴょう されました[6]。
ねこを かった ことが ない 人にも、この ゴロゴロは 「いそいで いる」「あまり 気もち よくない」と 聞こえたそうです[6]。
高い 音を とりのぞくと、いそいで いない ように 聞こえました[7]。人が 赤ちゃんの 声に 気づきやすい ことと、かんけいが あるのかも しれません。まだ だれにも、たしかな ことは いえません。
もうひとつは、けがを なおす ちからです。ゴロゴロの ふるえの はやさが、ほねを 元気に する ちりょうで つかわれる ふるえに にて いる ので、なおる のを たすけるかも しれない、という 考えが あります[5]。これは 考えの だんかいで、ほんとうに なおるかは しめされて いません。
ごはんをねだるゴロゴロ
2009年、マコーム(McComb)らは、えさをねだるときのゴロゴロには、ニャーという鳴き声に似た高い成分がまぎれていると報告しました[6]。ねこを飼ったことのない人でも、この音を「より切迫していて、あまり心地よくない」と感じたそうです。
その高い成分だけを取り除いた音は、切迫していないと感じられました[7]。人が赤ちゃんの声に気づきやすいことと関係があるのかもしれません。ねこが人をだましていると決めつけられるものではありません。
治癒に役立つのでは、という仮説
先の2001年の報告は、ゴロゴロの周波数が、骨の成長や骨折の治療に使われる振動の範囲と重なると指摘し、「治癒に役立つのでは」と提案しました[5]。ただし、これは学会要旨の段階の仮説です。ゴロゴロで人や骨が治ると示したものではありません。
ほかにも、自分をなだめるためなど、いくつもの説があります。どれか一つに決められる段階ではありません。
McCombら(2009)は、餌を要求するときの purr には、鳴き声(meow)に似た高周波成分が埋め込まれ、ねこを飼った経験のない人でも「より切迫していて不快」と評価したと報告した[6]。この成分だけを取り除いた合成音は、切迫感が有意に下がって聞こえた[7]。この音の特徴が、人が乳児の声に気づきやすいことと関係している可能性はあるが、なぜそう聞こえるのかはまだ確かめられていない。
治癒仮説(von Muggenthaler 2001)は、ゴロゴロの周波数が骨の成長・骨折治療に使われる振動域に重なることを根拠にする[5]。学会要旨の段階の提案で、生きたねこで治癒が早まることを直接示した証拠は、資料の範囲では確認できていない。目的は要求・自己鎮静・治癒などの諸説があり、一つには決まらない。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
おうちに ねこが いる人は、ゴロゴロが 聞こえた とき、ねこが なにを して いたか、見て みましょう。ごはんの 前か、ねむる 前か。むりに さわったり、おいかけたり しては いけません。
ねこが いない 人は、じぶんの のどに 手を あてて、「うー」と ひくい 声を 出して みます。ふるえが、どんな ときに 強く なるかを 感じて みましょう。
今日できること:ねこと暮らしている人は、ゴロゴロが聞こえたときの様子(ごはんの前か、眠る前か、ほかにも何かあったか)を記録して、音の聞こえ方に違いがあるか気にしてみてください。ねこがいやがるときは、さわらずにそっとしておきます。ねこと暮らしていない人は、自分の喉に手を当てて低い声を出し、振動を感じてみると、ゴロゴロの「ふるえ」のイメージがつかめます。
調べるなら:ねこの体のことや具合の相談は、獣医師にしてください。この記事は医療の助言ではありません。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:論文の要旨や大学・解説サイトの記事を使った。原論文の本文は開けなかったものがあり、要旨と複数の解説をつき合わせた範囲で書いている。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- phys.org「Cat larynx can purr without cyclical neural input」(Herbst 2023の解説記事、2023年10月)。https://phys.org/news/2023-10-cat-larynx-purring-cyclical-neural.html (従来説の内容・研究者が従来説を完全には否定しないと述べたこと)
- Herbst et al. (2023), Current Biology.https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(23)01230-7 (摘出した喉頭の実験と、20〜30Hz前後の低い音について)
- Herbst et al. (2023) の要旨(PubMed)。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37794583 (声帯のパッドの大きさについて)
- von Muggenthaler (2001), The felid purr: A healing mechanism? Journal of the Acoustical Society of America 110.https://pubs.aip.org/asa/jasa/article/110/5_Supplement/2666/550913/The-felid-purr-A-healing-mechanism (ネコ科44頭の録音と周波数について)
- 同上の要旨(Astrophysics Data System)。https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/2001ASAJ..110R2666V/abstract (けがや怖いときにも鳴らすこと・治癒仮説について)
- McComb et al. (2009), The cry embedded within the purr, Current Biology(PubMed)。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19602409/ (要求のゴロゴロに混ざる高い成分について)
- McComb et al. (2009), Current Biology 本文ページ。https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(09)01168-3 (高い成分を取り除くと切迫感が下がったことについて)
なおした ところ
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