1. アイスクリームで、ふしぎな ことが おきた
1. 13歳の生徒が、アイスクリームで気づいたこと
1. 1963年、ムペンバの観察 ── 対象は水ではなかった
1963年、アフリカの タンザニアの 学校で、13さいの ムペンバさんが アイスクリームを 作って いました。ぎゅうにゅうと さとうを まぜた ものを、れいとうこに いれて こおらせます。
ムペンバさんは、あつい まま いれた ほうが、さきに かたまる ことに 気が つきました。そう つたえられて います。
先生は、それは まちがいだと いったそうです。ムペンバさんは、それでも 気に なって いました。
1963年、タンザニアの学校でアイスクリーム作りをしていた13歳のエラスト・ムペンバさんは、牛乳と砂糖を混ぜた液を、熱いまま冷凍庫に入れたほうが先に凍ることに気づいた、と伝えられています[1]。
先生や同級生には信じてもらえなかったと伝えられます。ここで大切なのは、ムペンバさんが見たのは純粋な水ではなく、牛乳と砂糖の液だったことです。あとで「水の話」として広まりますが、はじまりはアイスクリームでした。
1963年、当時13歳のタンザニアの生徒エラスト・ムペンバは、学校でアイスクリームを作る際、牛乳と砂糖の混合液を熱いまま冷凍庫に入れたほうが先に凍ることに気づいたとされる[1]。周囲には疑われたとも伝えられるが、その細部は二次資料による。
この現象が後に「ムペンバ効果」と呼ばれ、水の話として語られるようになった点には注意がいる。最初の観察の対象は、純水ではなく牛乳と砂糖の液である。
2. 先生は しんじなかった。そこで、どうしたの?
2. 物理学者との実験と、ずっと昔からあった話
2. 1969年の共著論文と、古い記述
ムペンバさんの 話を きいて、いっしょに 実験を した 人が います。ダルエスサラームの 大学に いた、オズボーンさんです。
ふたりは、1969年に 論文を 出しました。ただ、オズボーンさんは 「この 実験は あらっぽい。もっと きちんと しらべる ひつようが ある」と いったと されて います。
じつは、「あつい 水の ほうが はやく こおる」という 話は、ずっと 昔にも ありました。ギリシャの アリストテレスや、イギリスの ベーコンも、にた ことを 書いて います。
3. こおる のを はかる のは、むずかしい
3. 2016年、「証拠はない」という再検討
3. Burridge & Linden(2016)── 測定の高さ1cmで結果が変わりうる
2016年、イギリスの 研究者 二人が、これまでの 研究を しらべ、じぶんたちでも 実験を しました。そして、「はっきりした しょうこは ない」と まとめました。
おどろくのは、温度を はかる 高さが、たった 1センチ ずれる だけで、あつい ほうが はやく ひえるように 見える 結果が でる ことが ある、と しめした ことです。
水は、0度に なっても すぐには こおらない ことも あります。ふしぎですが、こおり はじめる 時こくは、入れものの 表面や 水に まじった ものに よって かわります。
2016年、バリッジさんとリンデンさんは、過去の研究を調べ、自分たちでも実験して、「ムペンバ効果の意味のある観察を支える証拠はない」と結論しました[3]。1969年のデータについても、ばらつきが大きく、その後47年間ほかの研究で再現されていないことを疑問視しています[3]。ただし、ムペンバさんの観察そのものを、うそだと決めているわけではありません。
この論文では、温度を測る高さが1cmずれるだけで、ムペンバ効果があるように見える結果が出うる、とも示されました[3]。「1cmで必ず逆転する」という意味ではなく、測り方しだいで見え方が変わりうる、ということです。
もう一つの難しさは、水が0℃を下回っても凍らない過冷却です。凍り始めるきっかけは、容器表面の細かな違いや水の不純物に左右され、最も精密な実験でも制御がとても難しいとされます[3]。バリッジさんたちは、凍り始める時刻ではなく、水が目標の温度に下がるまでの時間を比べても、熱い水が先に冷える結果は得られなかったとしています[3]。
2016年、Burridge と Linden は、過去の報告の検討と自身の実験から、「ムペンバ効果の意味のある観察を支える証拠はない」と結論した(Scientific Reports 6, 37665)[3]。1969年のデータは「物理的にもっともらしい傾向からのばらつきが大きい」こと、以後47年間ほかの研究で再現されていないことも疑問点に挙げる[3]。これは二人の評価であり、ムペンバ本人の観察が偽物だという主張ではない。
同論文は、温度を記録する高さの誤差がわずか1cmでも、効果があるかのような誤った印象を生みうると示した[3](この細部は論文の要約経由の情報で、原文PDFでは確認していない)。
過冷却(かれいきゃく)と核形成(かくけいせい)も論点になる。凍結の開始は容器表面の微細な違いや水の不純物に左右され、最も精密な実験でも制御が非常に難しい。Burridge らは、凍結開始の時刻ではなく、水が目標温度に達するまでの時間を比べても、熱い水が先に冷える結果は得られなかったとする[3]。
4. 「ちがう」と いう 人も いた
4. 反論と、決まっていない原因
4. Katz の反論と、水で提案された諸説
この 二人の まとめに、「ちがう」と いった 人も います。カッツさんは、「二人は こおる 速さの 話を、ひえる 速さの 話として あつかって いる」と いいました。
「ミネラルの おおい 硬水なら おきる」という 考えです。けれど、これは みんなが みとめた 考えでは ありません。
ほかにも、とけて いる 気体、じょうはつ、水の つぶの つながり方など、いろいろな かんがえが あります。でも、どれか ひとつに は きまって いません。
5. ガラスの たまで わかった、あつい ほうが はやい ふしぎ
5. 水ではなく、光で捕まえたガラス玉の実験
5. Lu & Raz(2017)の理論と Kumar & Bechhoefer(2020)の実験
2017年、ルーさんと ラズさんは、水に かぎらず、あつい ものの ほうが はやく おちつく ことが ある、という 理論を 出しました[5]。
2020年には、それを たしかめる 実験が 行われました。光で ガラスの 小さな たまを つかまえ、くぼみが 2つ ある ところで うごかします。はじめが あつい ほうが、ずっと はやく ひくい 温度に なじんだと、ほうこくされて います[6]。
たとえば、2つの くぼみの ある 坂に ビー玉を おく 場面を 思い うかべて ください。つよく ゆれて いる ビー玉は、一つの くぼみに ながく とどまらず、はやく おちつく 道を 見つけやすい、と いうわけです。ただし ほんとうは、目に 見えないほど 小さな たまで、光を つかった 実験です。
これは 水が こおる 実験では ありません。
2017年、ルーさんとラズさんは、水に限らず、ある条件では「熱い系のほうが低い温度の系より速く冷える」ことが起こりうるという理論を、3つの系で示しました。逆に、冷たい系のほうが速く温まる場合も予測しています[5]。
2020年には、バーコファーさんらが、これを実験で確かめました。光のピンセットで捕まえたガラス玉が、2つのくぼみのある地形の中で動く、という単純な系です。初めが熱い状態のほうが、低い状態より、指数関数的に速く冷えたと報告されています[6]。
たとえば、くぼみが2つある坂にビー玉を置く場面を想像してください。強く揺れているビー玉のほうが、一つのくぼみにとどまらず、落ち着ける場所へ移りやすい、というイメージです。ただし実際の実験は、目に見えないほど小さな玉を光で動かしたもので、坂もビー玉も比喩にすぎません。
これは水が凍る実験ではありません。「熱いほうが速く落ち着く」ことがありうる、という現象の一例です。
2017年、Lu と Raz は、水に限らない一般的な枠組みで、ある条件下では熱い系が低温の系より速く冷える現象(マルコフ的ムペンバ効果)が起こりうると、イジング模型などの3つの系で理論的に示した。冷たい系が速く温まる場合も予測している(PNAS 114, 5083)[5]。
2020年、Kumar と Bechhoefer(バーコファー)は、光ピンセットで捕捉したコロイド粒子(ガラス玉)が二重井戸型のポテンシャル中を動く単純な系で、初期温度が高い状態のほうが、低い状態より指数関数的に速く冷える現象を実験で示した(Nature 584, 64–68)[6]。理論の予測する「異常緩和」に沿う結果とされる(細部は要約経由で、原文では確認していない)。
これは水が凍る実験ではない。水での成立はこれとは別の問いである。
6. まだ わからない ことと、じぶんで しらべる ために
6. 未決着の問いと、自分で確かめる道すじ
6. 現状のまとめと、資料の探し方
ガラス玉の 実験は、「あつい ほうが はやく おちつく」ことが ありうる ことを しめす、つよい しょうこの ひとつだと、Quantaという 記事は しょうかい して います。けれど、それが 水の こおりかたに そのまま あてはまるかは、まだ きまって いません[2]。
今日できること:つめたい 水を、大きさの ちがう 入れものに 入れて、れいとうこで こおる のを 大人と いっしょに 見て みましょう。おなじ 水でも、入れものが ちがうと、こおり方は かわるでしょうか。あつい おゆは つかいません。
もっと 知りたい 人は、図書室で 「こおり」や 「温度」の 本を さがして みて ください。
Quantaの記事などは、コロイドの実験を「熱いほうが速く落ち着く」効果の最も強い証拠としつつ、それが水の凍り方にそのまま当てはまるかは未解決だとまとめています[2]。水で本当に起きるのかも、まだ決着していません。
今日できること:冷たい水を、深さや形の違う容器に同じ量ずつ入れ、大人と一緒に冷凍庫に入れて、時々様子を見てみましょう。どちらが先に凍り始めるか、予想と比べます。熱いお湯は使いません。
もっと調べたくなったら、同じ水を、ふたのある容器とない容器に入れて、大人と一緒に冷凍庫で比べてみましょう。ふたの有無で、凍り始めるまでの様子が変わるか、時々見て書きとめると、蒸発が関わるのかを考える手がかりになります。
現時点での整理は次のとおり。(1) 水でのムペンバ効果は、測定条件と過冷却に強く左右され、再現性に疑問が出ている[3]。(2) 硬水など、水固有の条件での成立を主張する反論もあるが、査読前の段階の議論である[4]。(3) 単純な系では、初めが熱いほうが速く緩和する現象が、理論と実験で示されている[5][6]。Quanta は、コロイド実験をこの効果の最も強い証拠とする一方、水にそのまま当てはまるかは未解決とまとめる[2]。
今日できること:出典欄の論文の要旨(abstract)を読み、「証拠はない」「理論的に予想される」「実験で示した」がそれぞれ何について言っているか、主語を書き分けてみる。
出かけてできること:大学や図書館の物理・熱力学の入門書で、過冷却、相転移、緩和という言葉を引いてみる。日本語の一次資料は、今回は確認できていない。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
論文は要旨、解説記事は概要をたよりに書いています。細部を確かめたい人は、原文を読んでください。
- Skeptical Inquirer, "The Rise and Fall of the Mpemba Effect," 2023. https://skepticalinquirer.org/2023/06/the-rise-and-fall-of-the-mpemba-effect/ (1963年の観察と、アリストテレスやベーコンの記述について)
- Quanta Magazine, "Does Hot Water Freeze Faster Than Cold? Physicists Keep Asking," 2022. https://www.quantamagazine.org/does-hot-water-freeze-faster-than-cold-physicists-keep-asking-20220629/ (1969年の論文と、現在の位置づけについて)
- Burridge and Linden, "Questioning the Mpemba effect," Scientific Reports 6, 37665, 2016. https://www.nature.com/articles/srep37665 (再検討の結論、測定の高さ、過冷却について)
- J. I. Katz, "Reply to Burridge and Linden," arXiv:1701.03219. https://arxiv.org/abs/1701.03219 (反論の内容について)
- Lu and Raz, PNAS 114, 5083, 2017. https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.1701264114 (一般化された理論について)
- Kumar and Bechhoefer, Nature 584, 64–68, 2020. https://www.nature.com/articles/s41586-020-2560-x (ガラス玉の実験について)
- Wikipedia, "Mpemba effect." https://en.wikipedia.org/wiki/Mpemba_effect (水で提案された説明の一覧について)
なおした ところ
更新履歴
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