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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

せみは どうして あんなに 大きな こえで ないて いるの?

小さな体で大きな声を出すセミ ── 音をつくる膜と、空っぽの腹

セミの発音機構 ── ティンバルのクリック音と、腹部ヘルムホルツ共鳴器による増幅

分野:生きもの

夏の 木の 上から、大きな こえが ふって きます。声を 出して いるのは、手に のる ほどの 小さな むしです。

あの こえは、体の どこで、どうやって 作られるのでしょう。中を のぞくと、ふしぎな 作りが 見えて きます。

木の上のセミは、体は小さいのに、声はずっと遠くまで届きます。あの声が出てくる場所は、のどではありません。腹です。

腹の中には、音の粒をつくる膜と、それを大きくする空洞があります。論文や博物館の資料をたどりながら、その二段がまえの仕組みを見ていきます。

セミの鳴き声は、オスの腹部第1節にある発音膜(ティンバル)が発音筋で変形して出すクリック音を、気管が広がってできた腹部の空洞が共鳴させて放射することで生じる[7][3]。

このメモでは、膜の構造[4]、筋収縮の頻度と音の振動数のずれ[5]、共鳴器としての腹部[7][8]を、一次の論文と日本語の解説を突き合わせて整理する。

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1. だれが うたって いるの?

1. 鳴くのはオスだけ ── 腹に楽器をもつ

1. 発音器官はオスの腹部にある

せみの 声を 出すのは、おとなの オスだけです[1]。メスは うたいません[2]。

オスの おなかには、音を 出す ぶひんが そろって います。メスは、音を 出す ための 体の つくりが オスと ちがいます[2]。

オスの おなかの 中は、ほとんど からっぽに 見える しゅるいも います[1]。空気の 入った 大きな 空間です。この からっぽが、あとで だいじな やくめを します。

音を出すのは成虫のオス

セミが鳴くのは、成虫になったオスだけです。オスの腹の中には、音を出す筋肉(発音筋)と、音の元になる膜(発音膜)、音を大きくする共鳴室、腹弁などがそろっています[1]。

メスは体のつくりがちがう

メスは、鳴くのに必要な体の部分がオスとは異なります。そのためメスは鳴けません[2]。腹の中には卵巣が入っている、という説明もあります[1]。

ヒグラシなど大きな種類では、オスの腹を輪切りにするとほとんど空洞に見える、とされています[1]。

鳴くのは成虫のオスに限られ、腹腔内に発音筋・発音膜・共鳴室・腹弁などの発音器官が発達する[1]。メスは発音に必要な構造がオスと異なり、鳴かない[2]。

共鳴室は気管が広がったもので腹部の大部分を占め、ヒグラシやヒメハルゼミなどの大型種では腹部断面がほぼ空洞に見えるという[1]。この空洞の役割は第4節で扱う。

2. 音の もとは、へこむ まく

2. 「パキッ」とへこむ膜 ── ティンバル

2. 発音膜(ティンバル)の構造とクリック音の発生

おなかの 上の ほうに、左と 右に 一つずつ、すじの 入った まくが あります。これが 音の もとです[3]。

むしの 中の きんにくが この まくを ひっぱると、まくが ぺこっと へこんで 「パキ」と 鳴ります。きんにくが ゆるむと もどって、また 音が 出ます[3]。

下じきの すみを ゆびで おして、はなすと ぺこぺこ 鳴るのに にて います。ただし セミの まくは、すじが じゅんばんに おれて いくので、一つの 音では なく、音の れんぞくに なると いわれます[4]。

腹の第1節にある、すじの入った膜

発音膜(ティンバル)は、オスの腹の第1節の左右に一つずつあり、すじ状の「肋」が入っています[3]。発音筋が膜を引くとへこんで「パキ」と音が出て、筋肉がゆるむと膜が元に戻ってまた音が出ると説明されています[3]。

順番に折れる肋

オーストラリアのセミ(ミナミアブラゼミの仲間)では、長い肋と短い肋が交互に並んだ膜が調べられました。筋肉が縮むと肋が一本ずつ内側へ折れ曲がり、クリック音が続けて出る、という報告です[4]。

プラスチックの下敷きの端を押すと、ぺこっと音が出ます。膜の音も、そうした「へこむ音」が連なったものだとイメージすると分かりやすいかもしれません。ただし、日本の種類でも同じ形かどうかは、この資料だけでは分かりません。

ティンバルは腹部第1節に左右一対ある肋入りの膜で、発音筋(tymbal muscle)の収縮で陥入し「パキ」というクリックを生じ、弛緩で復元するときにも音が出る[3]。

Young & Bennet-Clark(1995)が調べたCyclochila australasiaeでは、ティンバルは長短の肋が交互に並ぶ両凸の膜で、後方に不規則な形のティンバル板をもつ。筋収縮に伴い肋が順に内側へ座屈し、一連のクリックが出る[4]。日本産の種にどこまで当てはまるかは、種ごとの違いを見て考える必要がある。

3. きんにくより 早い 音?

3. 筋肉の動きより、ずっと速い音

3. 筋収縮の頻度と鳴き声の振動数のずれ

ある しゅるいの せみの 声は、一びょうに 三百かい ぐらい ふるえる、とても はやい 音です[6]。でも、きんにくが 一びょうに ちぢむ 数は、百かいより 少ない と 考えられて います[5]。

どうして、はやい 音が 出るのでしょう。きんにくが 一回 ちぢむと、まくの すじが じゅんに おれて いき、その たびに 「パキ パキ」と 何回も 鳴るからです[5]。

きんにくが ちぢむ うごきに あわせて、まくが たくさん 鳴る しくみです。

1回の収縮で、何回もクリック

日本のセミ4種の発音筋を調べた研究では、構造は昆虫の飛ぶ筋肉に近いものでした。多くは、1回の神経の合図で1回縮む「同期型」とされますが、その中の1種(P. capitata)では、神経の合図と縮み方の対応がずれる「非同期型」の可能性も指摘されています[5]。

一方、鳴き声の振動数は、調べられた種の一つで1秒あたり234〜389回に達します[5]。教育サイトも、セミは1秒に300〜400回ほどの音の波を出せると説明しています[6]。

数がこれだけ違うのは、1回の筋収縮で複数のクリックが出るためと考えられています。筋肉が縮む頻度は、1秒に100回を下回ると見込まれています[5]。

解説では、1回の収縮で「肋の数の2倍」のパルスが出ると説明されています[3]。

Iwamoto(2017)は日本産セミ4種(ツクツクボウシ属など)の発音筋を調べ、多くは同期型(1収縮に1神経信号)とされながら飛翔筋型の構造をもつことを示した。ただしP. capitataは非同期型の可能性が指摘されている。複数のクリックが1収縮で生じるため、収縮頻度は約100Hz未満と見込まれる一方、Platypleura capitataの鳴き声の振動数は234〜389Hzに及ぶ[5]。

教育サイトの「1秒に300〜400の音波」[6]とは桁が整合する。ただし種・条件は明示されていない。岩本(2018)の解説では、1収縮あたりのパルス数が肋数の2倍と説明されている[3]。

4. おなかの 中の からっぽ

4. 空っぽの腹が、音を大きくする

4. 腹部の空洞 ── ヘルムホルツ共鳴器としての空気袋と鼓膜

まくの 音は、それだけでは 小さな 音です。これを 大きくするのが、おなかの 中の 大きな ふくろです。中は 空気で いっぱいです[7]。

あきびんの 口に 息を ふくと「ぼー」と 鳴ります。びんの 中の 空気が ふるえて、音が 大きくなるからです。せみの おなかにも、びんに にた しくみが あると 考えられて います[7]。

びんの 音が まわりに 出るのは、口の ところ。せみでは、音は おなかの うすい まくなど、おなかの 一部から 外へ 出ると 考えられて います[7]。

空気の袋が「びん」になる

腹の大部分を占める大きな空気の袋は、気管が広がってできたものです[1]。1992年の研究では、この空気の袋を「びんの中の空洞」、腹にある薄い膜(鼓膜)を「びんの口」に見立てたモデルが提案されました。ヘルムホルツ共鳴器と呼ばれる、空きびんと同じ種類の共鳴です[7]。

この研究で調べたセミでは、音は主に鼓膜から外へ放射されました。ティンバルの音が空洞の中で響き、鼓膜から外へ出ていきます。ただし、鼓膜だけが出口とは限りません。腹弁は、音色の調整に関わるともいわれます[10]。

実験室の話と、外で聞く声

この結果はオーストラリアの種などで調べられたものです。日本のセミにも同じ仕組みがある可能性があります。細かい寸法や割合は、種によって異なるかもしれません。

Bennet-Clark & Young(1992)は、雄セミの腹部が、大きな空気袋を空洞、薄い鼓膜(tympana)を頸部とするヘルムホルツ共鳴器を形成し、音は主に鼓膜から放射されるとするモデルを示した[7]。

共鳴室は気管の拡張に由来し、大型種では腹部の大部分を占める[1]。腹弁の動きが音色を調整するという解説もある[10]。

Tymbal(英語版Wikipedia)は、種によっては106dB(音圧レベル)を超える音を出し、昆虫の発音では最大級と述べるが[11]、dB値は種や測定距離で大きく変わるため、一つの数字として扱わない。

5. 音を あわせる ひみつ

5. 共鳴のタイミングに合わせる

5. クリック列の共鳴周波数への整合

ぶらんこを おす とき、ちょうど いい ときに おすと、どんどん 大きく ゆれます。まくの 音は、おなかの ふくろが ゆれやすい 早さに あわせて つづきます[7]。

オーストラリアの ある せみでは、まくの 音が 二回か 三回 つづくと、しぜんの 鳴き声と にた、ながく のびる 音に なりました[7]。

ただし ぶらんこは 人が おしますが、せみの 音は まくが 自分で 出して います。

音の粒をそろえる

1992年の研究によると、オーストラリアのセミでは、ティンバルの音は、腹の空洞が揺れやすい振動数に合わせて連なった形で出ています[7]。ブランコを、揺れる速さに合わせて押すのと似ています。

オーストラリアのセミを使ったこの研究では、共鳴するクリックが2〜3回続くと、自然の鳴き声に似た、長くゆっくり減っていく音になりました。このときの音の高さは約4.3キロヘルツでした[7]。

ただし、ブランコは人が押しますが、セミの膜は自分で折れて音を出します。ここは、たとえと少しちがうところです。

この研究で調べたオーストラリアのセミでは、ティンバルは腹部共鳴器の固有振動数に整合したパルス列を与える。C. australasiaeでは、共鳴する2〜3個のクリックが連なると、自然の鳴き声に近い、長くゆっくり減衰する音パルスが得られた(約4.3kHz)[7]。

6. こえの たかさは、なにで きまる?

6. 声の高さと種類のちがい

6. 空洞の体積と音の高さ ── 種ごとの鳴き声の違い

せみの 声の 高さは、おなかの ふくろの 大きさなどで きまる、と いわれます[8]。大きな 体の せみは、ひくい 声に なりやすい とも いわれます。

ただし これは そうなりやすい、という 話で、ぜんぶの せみが そうとは かぎりません。

せみの しゅるいごとに、ふくろの 大きさや、おなかの ふたの 動かし方が ちがいます。だから、声も ちがう、と いわれて います[10]。

空洞の大きさで、高さがきまる

共鳴する音の高さは、空洞の体積と鼓膜の面積などで決まります。体が大きいセミは低い声になる傾向がある、と説明されています[8]。空きびんの口に息を吹いたとき、びんの形や口の大きさが同じなら、中の空気が多いほど低い音になるのと同じ考え方です。

ブラダーゼミ(ふくろのような腹をもつ種)の研究では、鳴き声の共鳴は約850ヘルツでした。これとは別に、空洞の有効な体積を増やすと共鳴の周波数が下がることも示されています。また、腹部が伸びると、外に出る音の振幅が約2倍になった、という結果もあります[9]。

種類ごとの声のちがい

種類ごとに空洞の大きさや腹弁の動き方が違うため、鳴き声も違ってくる、とされています[10]。

Bennet-Clark & Young(1994)は、腹部空洞と鼓膜がティンバルに駆動されるヘルムホルツ共鳴器として働くことを前提に、鳴き声の周波数が体サイズと関係する枠組みを示した。体が大きいほど低い傾向だが、原文では式の形で示され、傾向以上には読まない[8]。

Cystosoma saundersii(ブラダーゼミ)では鳴き声の共鳴周波数は約850Hzだった。また別の結果として、有効体積を増やすと共鳴周波数が下がり、腹部が伸びると放射音の振幅が約2倍になった[9]。

種間で鳴き声が異なるのは、空洞の大きさや腹弁の動きの違いによるとされる[10]。

自分でも しらべて みたく なったら

自分でも調べてみたくなったら

自分でも調べてみたくなったら

今日 できること

あきの ペットボトルか あきびんの 口に、くちびるを あてて、そっと 息を ふいて みましょう。「ぼー」と 鳴ったら、水を すこし 入れて、もう一度 ふきます。おなじ いれものに 水を たして、いきの つよさを なるべく そろえて ふきます。空気の 部分が 小さくなると、音の 高さは どう かわるでしょう。せみの おなかの からっぽと、同じ 考え方です。水は こぼさないように、あさい 入れものの 上で やります。

出かけて できること

としょかんの ずかんで、せみの おなかの 中の ずを さがして みましょう。からっぽが どのくらい 大きいか、くらべて みられます。

くわしく 知りたい とき

はくぶつかんの せみの ページに、せみの 体や 声の しつもんが のって います[2]。

今日できること

空のペットボトルや空きびんの口に、そっと息を吹いて鳴らします。容器を1つに決め、同じ容器に水を少しずつ足して、息の強さをなるべくそろえながら、音の高さがどう変わるかを聞き比べてください。水はこぼれてもよい浅い入れ物の上で行います。ヘルムホルツ共鳴器のモデルを、家の中で確かめる実験です。

出かけてできること

図書館で、セミの図鑑や昆虫の解説書を探し、腹の断面図を見てみましょう。空洞の大きさを、種類ごとに見比べられます。

もっと調べるなら

大阪市立自然史博物館のセミのページ[2]と、国立国会図書館のレファレンス協同データベース[10]が入り口になります。メスが鳴かない理由や、種ごとの声のちがいを調べたいときに開いてみてください。

今日できること

空のペットボトルの口を吹いて共鳴音を出し、水を少しずつ入れて空気の体積を減らしたときの音の高さの変化を聞き比べる。浅い入れ物の上で行う。ヘルムホルツ共鳴器の体積と周波数の関係(第6節)を、家庭で確かめる方法になる。

資料を読むなら

岩本(2018)の解説[3]は日本語で読める。一次資料として、Young & Bennet-Clark(1995)[4]と、Bennet-Clark & Young(1992)[7]が土台になる。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

記事で使った資料の一覧。それぞれ、どの事実に使ったかを添えた。

  1. セミ - Wikipedia(日本語) https://ja.wikipedia.org/wiki/セミ (オスだけが鳴くこと、共鳴室の位置、空洞の説明)
  2. 大阪市立自然史博物館 セミQ&A https://www2.omnh.jp/learning/ent/semi/questions.html (メスに発音膜がないこと)
  3. 岩本裕之「セミの鳴き声を作る仕掛け」生物物理58(5), 245(2018) https://www.jstage.jst.go.jp/article/biophys/58/5/58_245/_pdf (ティンバルと発音筋の説明)
  4. Young & Bennet-Clark (1995) J Exp Biol 198:1001 https://journals.biologists.com/jeb/article/198/4/1001/6996/The-Role-of-the-Tymbal-in-Cicada-Sound-Production (膜と肋の構造)
  5. Iwamoto (2017) Zoological Letters 3:15 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5581462/ (発音筋の収縮頻度と鳴き声の振動数)
  6. Ask A Biologist(アリゾナ州立大学) https://askabiologist.asu.edu/cicada-sound (1秒あたりの音の波の数)
  7. Bennet-Clark & Young (1992) J Exp Biol 173:123 https://journals.biologists.com/jeb/article/173/1/123/737/A-Model-of-the-Mechanism-of-Sound-Production-in (腹部の共鳴器モデル、クリック列)
  8. Bennet-Clark & Young (1994) J Exp Biol 191:291 https://journals.biologists.com/jeb/article/191/1/291/6772/The-Scaling-of-Song-Frequency-in-Cicadas (声の高さと空洞の大きさ)
  9. Bennet-Clark & Young (1998) J Exp Biol 201:701 https://journals.biologists.com/jeb/article/201/5/701/7873/Sound-Radiation-by-the-Bladder-Cicada-Cystosoma (ブラダーゼミの共鳴)
  10. レファレンス協同データベース(国立国会図書館) https://crd.ndl.go.jp/reference/entry/index.php?id=1000136523&page=ref_view (空洞と腹弁、種類ごとの違い)
  11. Tymbal - Wikipedia(英語) https://en.wikipedia.org/wiki/Tymbal (音の大きさの目安)

なおした ところ

更新履歴

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