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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

人工内耳は、おとを どうやって きこえる ように するの?

人工内耳はなぜ聞こえを支えられるのか ── 音を「電気の信号」に作りかえる仕組み

人工内耳の構成と信号経路 ── 蝸牛の電極列による聴神経刺激、マッピング、1957年から1994年の保険適用まで

分野:技術

ほちょうきは、おとを おおきく して みみに とどけます。ところが、おとを おおきく しないで、「でんきの しんごう」に つくりかえる きかいが あります。

その 名まえは、人工内耳です。みみの おくの いたんだ ところを よけて、しんけいに ちょくせつ つたえます。どんな しくみなのか、見て みましょう。

音を大きくして耳へ届けるのが補聴器です。ところが人工内耳は、音を大きくせず、電気の信号に作りかえて、耳の奥の神経へ直接送ります。世界では2019年12月の時点で、約73万台が登録されていると報告されています。

音を電気に変えて、どうして「聞こえ」になるのでしょうか。装置のつくり、電極の工夫、聞こえるまでの練習、開発の歴史が分かります。

人工内耳は、補聴器のように音を増幅して届ける装置ではない。傷んだ部分を迂回し、聴神経を電気で直接刺激する[3]。米国国立衛生研究所(NIH)の機関NIDCDは、2019年12月時点で約73万6900台が世界で登録・埋め込みされたと報告する(台数であり、両耳の人は2台に数える)[3]。

なぜ電気刺激がことばの聞き取りにつながるのか。このメモでは、構成と信号経路、電極列の設計、術後のマッピングとリハビリ、1957年の実験から日本の1994年の保険適用までの歴史が分かる。

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1. ほちょうきと、なにが ちがうの?

1. 「大きくする」のではなく「作りかえる」

1. 補聴器との違い ── 増幅と迂回

ほちょうきは、おとを おおきくして、みみに とどけます。いたんだ みみでも、おおきければ きこえる ことが あるからです[3]。

人工内耳は、やり方が ちがいます。みみの おくの いたんだ ところを よけて、しんけいに でんきで しげきを おくります[3]。

たとえば、こわれた はしを わたらずに、べつの みちを とおって むこうがわへ いく ようなものです。ただし ほんとうは、みちを つくるのは、でんきの しんごうです。

補聴器は音を届け、人工内耳は道を変える

NIDCDの説明では、補聴器は音を増幅して、傷んだ耳でも感じ取れるようにします。人工内耳は、耳の傷んだ部分を迂回して、聴神経を直接電気で刺激します[3]。

内耳へ音を伝える方法も違います。補聴器は空気の振動のまま、人工内耳は電気信号にして伝えます[2]。

だれのための装置か

対象は、内耳が傷んで起きる感音難聴です。外耳や中耳の不調による難聴は、薬や手術で回復が期待できます。感音難聴は、補聴器で聞こえを補えても、機能そのものの回復は今の医学では難しいと説明されています。人工内耳は、そのときの選択肢の一つです[1]。

NIDCDは、補聴器は音を増幅して傷んだ耳に届け、人工内耳は耳の傷んだ部分を迂回して聴神経を直接電気で刺激すると区別する[3]。全日本ろうあ連盟の資料も、内耳への伝達手段が補聴器では空気振動、人工内耳では電気信号である点を違いとして挙げる[2]。

対象は内耳の障害による感音難聴である。外耳・中耳の障害(伝音難聴)は薬物や手術で回復が期待できるのに対し、感音難聴は補聴器で聞こえを補えても機能の回復は現在の医学では困難とされ、人工内耳が選択肢になる[1]。これは耳鼻咽喉科医による解説にもとづく一般的な説明で、個々の適応は医師の診断による。

2. そうちは、どんな ぶひんで できているの?

2. 体の外の部品と、体の中の部品

2. 構成 ── 体外装置・受信装置・電極と信号経路

人工内耳は、みみの そとと なかに わかれて います[1]。

そとには、マイクと、おとを しんごうに かえる きかいと、おくる コイルが あります。なかには、うけとる そうちと、でんきょくが あります[1]。

そとと なかは、ひふを はさんで、じしゃくで くっつきます[1]。おとの しんごうは、この ひふの ところを とおって、なかへ すすみます。

そのあと、でんきょくから しんけいへ、そして のうへ とどきます[2]。

体の外にあるもの

耳の後ろにかける体外装置は、マイク、スピーチプロセッサ、送信コイル、ケーブルからできています[1]。マイクが拾った音をプロセッサが信号に処理し、送信コイルから送り出します。

皮膚の下にあるもの

手術で、耳の後ろの皮膚の下に受信装置を、蝸牛の中に電極を入れます。体の外と中は、磁石で皮膚をはさんでつながります[1]。

信号は、送信コイルから体内の受信コイル、電極、聴神経を通って、脳に伝えられます[2]。皮膚に穴をあけずに、電気の信号だけが体の中へ入っていく形です。

体外装置はマイク・スピーチプロセッサ・送信コイル・ケーブルで構成され、体内には受信装置と電極が埋め込まれる。体外と体内は磁石で頭皮を介して接続される[1]。

信号経路は、マイクで拾った音声がプロセッサで信号処理され、送信コイルから体内の受信コイル、電極、聴神経を経て脳へ至る[2]。電極は蝸牛の中に留置される[1]。機種ごとの部品の細部や電極の本数は、ここで使った資料には機種別の公式値がなく、本メモでは述べない。

3. でんきょくは、おとの たかさを どう つたえるの?

3. 電極は「場所」で音の高さを伝える

3. 電極列と場所コーディング

みみの おくの かたつむりの かたちを した ぶぶんを、かぎゅうと いいます。かぎゅうは、ばしょに よって、うけもつ おとの たかさが ちがいます[4]。

人工内耳の でんきょくは、かぎゅうの なかに ならんで います。でんきょくごとに、しんけいの べつの ばしょに しんごうを おくります[4]。

ピアノで たとえると、けんばんを 1つずつ おす ようすに にて います。ただし ほんとうは、ピアノの ように きれいな おとが そのまま きこえるのでは ありません。

蝸牛の中の「音の地図」

蝸牛は、場所によって受け持つ音の高さが違います。人工内耳の電極は、蝸牛の中に並ぶ電極列(電極アレイ)で、電極ごとに聴神経の別の場所へ信号を送ります[4]。耳の中の「場所と高さ」の対応をまねた設計です。

HyperPhysicsの解説では、人工内耳はおよそ20のチャンネルを使い、場所の対応をまねた刺激をしているとあります[4]。ただしチャンネルの数は機種によって違い、20はおおよその目安です。

ピアノの鍵盤を、低い方から高い方へ順に押していく様子に似ています。ただし本当は、鍵盤のように一つ一つの音がそのまま聞こえるのではありません。

電極は蝸牛内に留置される複数の電極列(電極アレイ)で、電極ごとに聴神経の異なる領域へ信号を送る[4]。蝸牛は位置により担当する音の高さが異なるため、これを模した「場所説(place theory)」的な刺激になる。HyperPhysicsは、人工内耳が約20チャンネルを用いると解説する[4]。ただしチャンネル数は機種で異なり、20は目安にすぎない。

4. きこえるように なるまでには、なにが いるの?

4. 「聞こえる」までの調整とリハビリ

4. マッピングとリハビリテーション ── 聴力の数値とことばの聞き取り

しゅじゅつを したら、すぐに ことばが わかる ように なるわけでは ありません[1]。

人工内耳の おとは、きかいで つくった おとのように きこえる と いわれます。あたらしい きこえ方に なれるには、じかんが かかります[3]。

そこで、「マッピング」という ちょうせいを、なんども うけます。子どもでは、まわりの おとなや せんもんの人の ささえが たいせつです[2]。

きこえ方は、もとの みみとは おなじでは ありません。だから、じまくや、くちの うごきを 見ること、手話など、おとの ほかの ほうほうを つかう 人も います[2]。

小さな音は聞こえても、ことばはこれから

全日本ろうあ連盟の資料によると、人工内耳では聴力の測定値(聴覚閾値)が平均で30dB(デシベル)ほどまで補われ、小さな音まで聞こえるようになります。ただし、ことばとして聞き取るにはリハビリが必要です[2]。30dBは平均なので、全員がこの値になるわけではありません。

音の聞こえ方も、もとの耳とは違います。NIDCDは、人工内耳で聞くのは通常の聞こえとは違い、学んだり学び直したりするのに時間がかかると説明します[3]。

マッピングという調整

術後は、マッピングと呼ばれる調整を続けて受けます。子どもでは、専門家の継続的な支援が欠かせないとされます[2]。

手術の合併症は頻度が低いものの、めまいや感染、まれに顔面神経の麻痺などがあります。生まれつきの子では、聞こえやことばの理解に大きな個人差があるとも指摘されています[2]。字幕、読話、手話などの補助も有効とされます[2]。

全日本ろうあ連盟の見解は、人工内耳は聴覚閾値が平均30dBまで補償されるので小さな音まで聞こえるが、ことばとして聞けるようになるにはリハビリテーションが必要だと述べる[2]。30dBは平均値で、全員が同じ値になるわけではない。術後は「マッピング」と呼ばれる調整を継続的に受ける必要があり、子どもでは専門家の継続的な支援が欠かせない[2]。

NIDCDは、人工内耳を通した聞こえは通常の聞こえと異なり、習得(または再習得)に時間がかかると記す[3]。聞こえる音は機械的に合成された音で、術直後から誰もがことばを聞き取れるわけではなく、根気強いリハビリが重要だとされる[1]。字幕・読話・手話などの補助も有効とされる[2]。

合併症は頻度が低いが、めまい、術後感染、まれに顔面神経麻痺がある。生まれつきの難聴の子では、術後の聞き取りやことばの理解に幅広い個人差があることを銘記すべきとされる[2]。なお同連盟の見解は、人工内耳を選ばない人や手話への配慮も述べており、聞こえの技術は選択肢の一つとして読む必要がある。

5. だれが、いつ、はじめたの?

5. 1957年の実験から、日本の保険適用まで

5. 開発史 ── 1957年の聴神経刺激から1994年の保険適用まで

いまから 60ねん いじょう まえ、1957ねんの フランスで、ふたりの 研究者が ためしました。ちょくせつ しんけいに でんきを ながすと、ある 人が おとを かんじたのです[5]。ただし、その ききめは すう週間しか つづかなかった と いわれます。

その あと、オーストラリアと オーストリアで、でんきょくを たくさん ならべた そうちが つくられました。おなじ ころ、べつべつに すすめられた といわれます[5]。

日本では、1994ねんに、けんこうほけんが つかえる ように なりました[1]。

1957年、電気で「音を感じた」

1957年、フランスのジュールノとエイリエス(表記は資料により揺れがあります)が、聴神経に電極を当てて電流を流したところ、患者が音を感じたと伝えられています。ただし、その効果は数週間しか続きませんでした[5]。

多チャンネル型へ

1978年、オーストラリアのクラークらが、20個の電極を並べた多チャンネルの試作機を開発しました。同じころオーストリアでも多チャンネル型が埋め込まれ、二つのチームは独立に開発したとされます[5]。どちらが世界で最初かは、資料により言い方が分かれるため、ここでは言い切りません。

認可と保険

米国FDAは、1984年に成人向けの単一チャンネル、1987年に成人向けの多チャンネル、1990年に2歳以上の子ども向けの多チャンネルを承認しました[5]。日本では1994年に健康保険の適用になり、友の会による署名活動があったといわれます[1]。

1957年、フランスのジュールノとエイリエス(表記に揺れあり)が聴神経に電極を当てて電流を流し、患者が音を感じたと総説は伝える。効果は数週間で失われた[5]。

1978年にはオーストラリアのクラークらが20電極の多チャンネル試作機を開発した[5]。オーストリアのチームも1977年末〜78年に多チャンネル型を埋め込んでおり、両者は独立に開発したとされる。このため「世界初の多チャンネル」とは言い切れない。クラークの手術日など個別の細部は、ここで使った資料では原文を確かめていない。

米国FDAの承認は、1984年に成人向け単一チャンネル、1987年に成人向け多チャンネル、1990年に2歳以上の小児向け多チャンネル[5]。日本では、治療の開始は1985年とされる(この年は二次資料の要約による)。1994年に健康保険の適用となり、友の会が署名活動を行った[1]。

6. いまは、どこまで ひろがって いるの?

6. 使う人が増え、対象も広がってきた

6. 適応の変遷 ── 件数の増加、EAS、小児基準の改訂

日本で しゅじゅつを うける 人は、2015ねんに 1年で 1000けんを こえ、そのあとも ふえて いると いわれます[1]。

2014ねんには、ひくい おとが のこって いる 人の ために、「きこえる ぶぶんは そのまま、きこえにくい ぶぶんは でんきで」という しくみも つかえる ように なりました[6]。

たいせつな ことは、きこえ方も、えらぶ 方ほうも、人に よって ちがう ことです。人工内耳は、そのなかの 1つです。

日本での広がり

日本の手術件数は、2015年に年1000件を超え、その後も増えているといいます[1]。世界では、2019年12月の時点で約73万6900台が登録されています。台数なので、両耳に入れた人は2台と数えます[3]。

対象の広がり

2014年には、低い音に聴力が残る高音急墜型の難聴のための、残存聴力活用型(EAS)が使えるようになりました。残った聴力を音響刺激で、聞こえにくい高い音を電気刺激で補う、両方を合わせた方法です[6]。2017年には成人の適応が広がり、2022年には小児の基準が改訂されて、1歳未満にも対応するようになったと説明されています[1]。

ただし、適応の年齢や聴力の条件は変わることがあり、この記事は個々の判断の助けにはなりません。気になるときは、耳鼻咽喉科で確かめてください。

日本の手術件数は2015年に年1000件を超え、その後も増加している[1]。世界の登録台数は、2019年12月時点で約73万6900台である[3]。

適応も変わってきた。残存聴力活用型(EAS)は、補聴器では効果が不十分な、低音域に残存聴力がある高音急墜型感音難聴を対象に、音響刺激と電気刺激を併用する。厚生労働省の通知は2013年9月付で、保険での使用開始は2014年とされる(年を混同しやすい)[6]。その後、2017年に成人の適応拡大、2022年の小児基準改訂で1歳未満にも対応した[1]。

2022年改訂の基準そのもの(年齢・聴力の数値)は原文を取得しておらず、本メモは数値を書かない。適応は変わりうるため、個別の判断は医師と各学会の最新の基準による。

7. もっと しりたく なったら

7. 自分でも調べてみたくなったら

7. 自分でも調べてみたくなったら

今日できること。あるく とき、いつもより ゆっくり、まわりの おとを 1つずつ かぞえて みましょう。おとを きく みちは、ひとつだけでは ありません。

としょかんの 本で、「みみ」「かぎゅう」を しらべても よいでしょう。おうちの人と いっしょに、テレビの じまくを つけて みるのも、きこえを ささえる 1つの しゅだんを しる きっかけに なります。

今日できること

テレビや動画に字幕を出して、番組を見てみましょう。音で聞く道と、文字で受け取る道がどう違うかに気づけます。音がなくても、内容を受け取る方法があることが分かります。

出かけてできること

図書館の医学や耳の本の棚で、「蝸牛」の断面図を探してみてください。かたつむりのような形の中に、電極が入る場所を想像できます。

公式情報を見るなら

全日本ろうあ連盟の見解は、当事者の立場から人工内耳を考える資料です。医療のことは、耳鼻咽喉科で相談できます。この記事は、個々の治療をすすめるものではありません。

資料を読む

全日本ろうあ連盟の見解[2]は、人工内耳の仕組みだけでなく、選ばない人や手話への配慮を含む当事者の立場を知る資料だ。NIDCDの解説[3]は英語の一次資料で、補聴器との区別と登録台数の出典になっている。開発史は、ENTtodayの総説[5]から原著へたどれる。

確かめたい点

蝸牛のどちら側が低音・高音を担当するかの細部、日本の機種ごとの電極数、2022年改訂の基準の数値は、本メモでは扱えていない。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会などの公式資料で、最新の内容を確かめられる。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

本文の[ ]の番号は、下の資料の番号です。医療の判断ではなく、仕組みの紹介として使っています。

  1. メディカルノート「人工内耳」(耳鼻咽喉科医の解説) https://medicalnote.jp/nj_articles/231002-001-QC (構成、感音難聴、日本の件数・適応・保険)
  2. 全日本ろうあ連盟「人工内耳に対する見解:論点」 https://www.jfd.or.jp/info/2016/20161201-ci-kenkai.pdf (信号経路、聴力の測定値、マッピング、合併症)
  3. NIDCD(米国国立衛生研究所)Cochlear Implants https://www.nidcd.nih.gov/health/cochlear-implants (補聴器との違い、登録台数)
  4. HyperPhysics(ジョージア州立大学)Cochlear Implants https://hyperphysics.gsu.edu/hbase/Sound/cochimp.html (電極列とチャンネル数)
  5. ENTtoday「History of the Cochlear Implant」 https://www.enttoday.org/article/history-of-the-cochlear-implant/ (開発史、FDA承認)
  6. 厚生労働省 通知(平成25年9月20日) https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/130920a1.pdf (残存聴力活用型の対象)

なおした ところ

更新履歴

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