1. うまれた ばかりは、ふつうの 顔
1. 生まれたては、ふつうの魚の顔
1. 生まれた直後は左右対称:変態期に起こること
ヒラメや カレイは、うまれた ばかりの ときは、ふつうの 魚と 同じ 顔を して います。目は、頭の 左と 右に ひとつずつ。体も 左右 同じ 形です[1]。
ところが、赤ちゃんの 魚が 大きく すがたを かえる 時期に、かたほうの 目が うごきはじめます。頭の てっぺんを こえて、はんたいの がわへ、ゆっくり 進みます。ある 研究の しょうかいでは、うまれて 20日から 40日ぐらいと されますが、日数は 魚の なかまや 水の あたたかさで かわります[2]。
そのころ、目の ある がわだけ、体の 色が 黒っぽく なって いきます[2]。
2. 目は、右? 左?
2. 「左ヒラメに右カレイ」の見分け方
2. 右側眼と左側眼:「左ヒラメに右カレイ」
目が あつまる がわは、なかまごとに だいたい きまって います。右に あつまる 魚も いれば、左に あつまる 魚も います[1]。
むかしから、「左ヒラメに 右カレイ」と いいます。目の ある 黒い がわを 上に して、おなかを 手前に むけた とき、頭が 左なら ヒラメ、右なら カレイ、という おぼえ方です[9]。
この おぼえ方は、左手と 右手の 手ぶくろに ちょっと にて います。形は 同じでも、向きが はんたいです。ただし ほんとうは、手ぶくろは 左右が はじめから きまって いますが、ヒラメや カレイの 目は、うまれた あとに うごきます。
黒いのは、目の ある がわです。うらがわは 白いです[3]。
3. 目を おす ものは なに?
3. 目を動かす力は、骨の変化だとされる
3. 眼下の骨化と甲状腺ホルモン:ソレアの研究
では、目を おして うごかして いるのは、何でしょう。シタビラメの なかまを しらべた 研究では、目の 下に ある ほねが、目の ない がわで かたまって いく ことが、目の 動きの 一ばん 大きな 力だと 考えられて います[4]。
ほねが かたまる ことには、こうじょうせんという ところから 出る ホルモンが かかわると されます。くすりで ほねが かたまるのを じゃました ときは、目の 動きも じゃまされました[4]。
この ほねの かたまり方は、しらべられた ほかの 魚でも 同じでした。ほかの なかまにも 通じる しくみではないかと、研究した 人たちは 考えて います。ただ、これは 研究した 人たちの 考えで、たしかめられた ことでは ありません。
4. 目が うごく 前から、はじまって いる
4. 目が動く前から、変化は始まっている
4. 前庭系とpitx2:目の移動に先行するもの
おもしろい ことに、目が うごく 前から、体の かたちや およぎ方が かわりはじめる、と いう 研究も あります。ヒラメの なかまの 研究では、頭の ほねの ちがいや、体を よこに かたむけて およぐ ようすが、目が 動く 前に あらわれて いました。バランスを とる しくみが かわる ことが かかわるのでは、と 考えられて います[5]。
もう ひとつ、ヒラメの 研究では、「ピットエックスツー」と よばれる 遺伝子が、目が 動く 前に、脳の 左がわで もう 一度 はたらく ことが わかりました。その あとで、目が 動きはじめます[6]。この 遺伝子は、体の 中の 左右を きめる ものと して しられて います。
どちらの がわへ 目が 行くかの 手がかりも、目が 動く 前から 体の 中に あるのかもしれません。
横に傾いて泳ぐのが先
ヒラメの仲間を調べた研究では、頭の骨の非対称や、体を横に傾けて泳ぐ行動が、目が動く前から現れていました。目の位置に合わせた行動というより、甲状腺ホルモンによる平衡感覚(前庭)の系の変化が関わる可能性が示されています[5]。
左右を決める遺伝子が、もう一度働く
ヒラメの研究では、体の内臓の左右を決める遺伝子pitx2が、変態前の脳の左側(手綱核という部分)でもう一度働き、その後で目が動き始めると報告されています[6]。手綱核は、左側眼のヒラメでは右へ、右側眼では左へずれるといいます[6]。
目の向きの手がかりは、目が動く前から、脳や平衡感覚の側にあるのかもしれません。ただし、ここは研究の途中の話で、まだ確かな結論とはいえません。
5. 5000万年 前の 化石は、どうなって いる?
5. 約5000万年前の化石では、目が途中で止まっていた
5. アンフィスチウムとヘテロネクテス:Friedman 2008
むかしの ヒラメや カレイの なかまは、どんな ようすだったのでしょう。イタリアや フランスで 見つかった 5000万年 前ごろの 化石に、アンフィスチウムと ヘテロネクテスという 魚が います[7]。
この 魚たちは、頭の ほねが 少し ゆがんで いましたが、目の うごきは とちゅうで とまって いて、大人に なっても、目が 頭の りょうがわに のこって いました[7][8]。
しかも、見つかった アンフィスチウムの 化石の 中には、右の 目が 動いた ものも、左の 目が 動いた ものも ありました[7]。
この 化石を しらべた 人は、ヒラメや カレイの 目の むきは、とつぜん きまったのでは なく、少しずつ すすんだと 考えました。ただし、これは この 化石の 研究での 話です[7]。
途中の姿を残した化石
変態で目が移ることは知られていても、その途中にあたる化石がなく、起源は謎でした。2008年の研究で、約5000万年前(始新世)のイタリア北部やフランスで見つかったアンフィスチウムと、新しい属のヘテロネクテスが報告されました[7][8]。
どちらも頭の骨が少し非対称で、目の移動は不完全でした。成長したあとも、目が頭の反対側にとどまっている個体が見られます[8]。
右へ動く個体も、左へ動く個体も
アンフィスチウムでは、右の目が動いた標本も、左の目が動いた標本もありました。現生のように向きが決まっていなかったわけです[7]。この研究をしたFriedmanは、「突然生まれた怪物」のような変化ではなく、非対称は徐々に進んだことを示す、と述べています[7]。近年は起源をめぐって別の議論もあるので、これはこの化石研究での見方です。
Friedman(2008, Nature 454: 209–212)は、変態での眼球移動は知られていたが移行型の化石がなく起源が不明だった点を指摘し、約5000万年前(始新世)のイタリア北部・フランスの化石、アンフィスチウム(Amphistium)と新属ヘテロネクテス(Heteronectes)を報告した[8][7]。両者はやや非対称な頭骨をもつ原始的な異体類で、成体でも眼窩の移動が不完全で、目は頭の反対側に残っていた[8][7]。
アンフィスチウムでは、右の目が動いた標本も左の目が動いた標本もあり、現生種のような向きの固定はなかった。Friedmanは、これが「突然生じた」説を退け、非対称は徐々に進んだことを示すと述べた[7]。年代は大学の発表に由来し、起源をめぐる近年の遺伝子解析による議論には触れていないので、この結論は「この化石研究では」と限って読む。
6. 見分ける 手がかりと、めずらしい 魚
6. 例外のヌマガレイと、口の形
6. 例外:ヌマガレイ、側面逆位、口の形
「左ヒラメに 右カレイ」には、めずらしい 魚が います。ヌマガレイは、カレイの なかまなのに、日本の 近くでは ほとんどが 左に 目が あります[9]。アラスカの 海では、7わりぐらいが 左だと いわれます[1]。
ごく まれに、左右が ぎゃくに なった 魚も います[9]。
もっと たしかな 手がかりは、口です。ヒラメは 口が 大きくて とがった 歯が あり、小さな 魚を 食べる 魚が 多いです。カレイは 口が 小さく、ゴカイや 小さな エビなどを 食べる 魚も います[3]。
7. さかな屋さんで、口と 目を 見て みよう
7. 魚売り場で、口と目を見比べてみる
7. 出口:自分でも調べてみたくなったら
さかな屋さんや スーパーで、ヒラメや カレイを 見かけたら、まず 口を 見て みましょう。大きいか、小さいか。つぎに、黒い がわを 上に して、頭が 左か 右かを 見ます。魚には さわらず、ながめるだけに します。お店に なければ、水族館や、さかなの ほんでも できます。
「口は 大きいのに、頭は 右」の ような 魚が いたら、おぼえ方に 合わない 魚です。お店の 人に、名前を きいて みるのも いいですね。
魚売り場や水族館でヒラメやカレイの仲間を見かけたら、まず口の大きさを見て、大きければヒラメ、小さければカレイと予想します。そのあと、黒い側を上、腹を手前にして頭の向きを確かめ、「左ヒラメに右カレイ」に合うか照らし合わせます。魚には触らず、見るだけにしましょう。
「口は小さいのに頭は左」のような魚がいたら、名札を見てみてください。ヌマガレイのような例外に出会えるかもしれません。売っていなければ、図鑑やインターネットの写真でも試せます。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:辞典の記述、水産団体・魚の解説サイトの記事、論文とその要旨や大学の発表を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- Wikipedia日本語版「カレイ目」。https://ja.wikipedia.org/wiki/カレイ目 (右側眼・左側眼、目の移動、地域ごとの割合について。二次資料)
- カラパイア(東北大学の研究の紹介記事)。https://karapaia.com/archives/51592081.html (変態の時期の目安と体色の変化について。二次資料)
- 魚食普及推進センター(大日本水産会)。https://osakana.suisankai.or.jp/s-other/6420 (黒い側と白い側、ヒラメとカレイの口の違いについて)
- Scientific Reports 2018「thyroid hormone asymmetric responsive centre」。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6095868/ (眼下の骨化と甲状腺ホルモンについて。ソレアが対象)
- Journal of Experimental Biology 2006「Asymmetric craniofacial remodeling and lateralized behavior」。https://journals.biologists.com/jeb/article/209/4/610/16488/Asymmetric-craniofacial-remodeling-and-lateralized (傾いて泳ぐ行動と平衡感覚の変化について)
- Suzuki et al. 2009, Development, Growth & Differentiation(PubMed要旨)。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19843151 (pitx2と手綱核、目の移動の順序について)
- EurekAlert!(シカゴ大学の発表)。https://www.eurekalert.org/news-releases/669656 (約5000万年前の化石と、右にも左にも動いた標本について。二次資料)
- Friedman 2008, Nature 454: 209–212「The evolutionary origin of flatfish asymmetry」。https://www.nature.com/articles/nature07108 (化石での目の移動の不完全さについて。要旨の範囲で使用)
- サカナト。https://sakanato.jp/96/ (左ヒラメに右カレイ、ヌマガレイ、側面逆位について。二次資料)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。