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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

ちいさな じしゃくを かさねたら、でんきの とおりかたが ふしぎに かわった

数%のはずが半分に ── 薄い磁石の重ね膜が見せた「巨大磁気抵抗」

巨大磁気抵抗(GMR)── 1988年の二つの発見から、ハードディスクのヘッドとノーベル賞まで

分野:技術

1988ねん、ある けんきゅうしゃたちは、とても うすい じしゃくの まくを かさねて、でんきの とおりにくさを しらべました。かわっても ほんの すこしと おもっていたのに、はんぶんくらいまで さがったのです。

どうして、じしゃくの むきで でんきの とおりかたが かわるのでしょう。この きじを よむと、ふたりの はっけんと、それが ハードディスクで つかわれるまでの みちのりが わかります。

1988年、フランスとドイツの研究者が、ほぼ同じころ別々に、薄い磁石の膜を重ねると電気の通りにくさが大きく変わることを見つけました。片方の研究では、予想していた数%の変化をはるかに超え、抵抗がほぼ半分に下がったと伝えられています。

なぜ、磁石の向きだけで電気の流れ方が変わるのでしょうか。そして、実験室の現象が、どうやってパソコンの部品になったのでしょうか。この記事を読むと、二人の発見の違いと、1997年のハードディスクヘッド、2007年のノーベル賞までのつながりが分かります。

1988年、アルベール・フェール(フランス)とペーター・グリュンベルク(ドイツ)は、別々に、鉄とクロムの薄い重ね膜で電気抵抗が大きく変わる現象を報告した[1]。フェールの重ね膜では、4.2K(約−269℃)で抵抗率がほぼ半分に下がった。研究者は数%程度の変化を予想していたという[3][4]。

では、なぜ磁石の向きの違いが抵抗の差になるのか。極低温の現象が、なぜ実用になったのか。この記事を読むと、巨大磁気抵抗(GMR)の二つの発見ルートの違いと、1997年のハードディスクヘッド、2007年のノーベル物理学賞に至る流れが分かる。

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1. すうパーセントの はずが、どうして はんぶんに なったの?

1. 数%のはずが、抵抗は半分になった

1. フェールの実験 ── 予想の数%に対し、約2分の1の低下

フランスの フェールさんの ぐるーぷは、てつと クロムという きんぞくを、とても うすく かさねた まくを つくりました。クロムの そうの あつさは、1ミリの 100まんぶんの 1より うすい、0.9ナノメートルです[3]。

これに つよい じしゃくを あてると、でんきの とおりにくさが ほとんど はんぶんに なりました[3]。けんきゅうしゃたちは、かわっても すうパーセントと おもっていたそうです[4]。

ただし、この はんぶんは、マイナス269ど という ものすごい ひくい おんどでの はなしです。ふつうの へやでは ありません。

では、おなじ ころ、ほかの ひとは どんな ことを みつけたのでしょう。

フランスのアルベール・フェールの研究グループは、分子線エピタキシー法という方法で、鉄とクロムを原子の数個分の厚さで交互に重ねた膜を作りました。クロムの層の厚さは0.9ナノメートル(1ミリの約100万分の1)です[3]。

この膜を、絶対零度に近い4.2K(約−269℃)に冷やし、2テスラという強い磁場をかけたところ、抵抗率がほぼ半分に下がりました。論文は、この大きな変化を「電子の通り方が、スピンという性質によって変わるため」と解釈しました[3]。研究者たちは数%程度の変化を予想していたと紹介されています[4]。

ただし、この「半分」は、極低温での値です。室温の部屋でそのまま起きたわけではありません。では、同じ1988年に、別の研究室は何を見つけていたのでしょうか。

フェールの組は、分子線エピタキシー法で、鉄(Fe)とクロム(Cr)を原子数個分の厚さで重ねた膜を作った。Cr層が9Å(0.9nm)の膜では、4.2K・磁場2Tで抵抗率が約2分の1に下がり、論文はこれを「巨大磁気抵抗」と呼んで、伝導電子のスピンに依存した伝わり方によると解釈した[3]。計算すると、1nmは1mmの100万分の1なので、0.9nmはほぼそれと同じ桁になる。

この論文はPhysical Review Letters誌で、2003年時点で6番目に多く引用された論文として紹介された。予想は数%程度で、約2分の1というのは、桁がちがう驚きだったという[4]。ただし、4.2Kでの測定値であり、室温の値ではない点が、実用化まで残る課題になる。

同じ年、別の場所で、条件のちがう実験が行われていた。それが次の章である。

2. おなじ ねんに、べつの ひとも なにを みつけたの?

2. 同じ1988年、ドイツでは「室温」で別の道が開かれていた

2. グリュンベルクの3層膜 ── 変化は小さいが室温

ドイツの グリュンベルクさんの ぐるーぷは、てつ・クロム・てつの 3まいを かさねた まくを しらべました。ふたつの てつの じしゃくの むきが ぎゃくだと、でんきが とおりにくくなる ことを、ふつうの へやの おんどで みつけました[5]。

かわりかたは 1.5パーセントと、ちいさめでした。でも、へやの おんどで おきた ことが、あとで だいじに なります[6]。

ふたりは べつべつに はっけんしました。ふたりは、べつべつの じっけんで、おなじ げんしょうを みつけました。

では、どうして じしゃくの むきで でんきの とおりかたが かわるのでしょう。

ドイツのペーター・グリュンベルクの研究グループは、鉄・クロム・鉄の3層の膜を調べていました。2枚の鉄の磁石の向きが逆向き(反平行)にそろうと、電気抵抗が高くなることを、室温で見つけました[5]。

変化は1.5%と小さいものでした。それでも、室温で起きたことが、あとで大きな意味を持ちます[6]。フェールの重ね膜は約30層で、4.2Kでの低下が50%でした。一方、グリュンベルクの3層膜は1.5%ですが、室温です。二人の論文は同じ1988年で、投稿はグリュンベルクが先、掲載はフェールが先とされています[6]。

フェールは、グリュンベルクらが1986年に見つけた、クロムの薄い層をはさんだ鉄の層どうしの結合に刺激されて、自分が研究していたスピンの電気の流れを薄膜で調べられる技術が整ったと考えた、と紹介されています[4][7]。二人は、お互いの仕事を意識しつつ、別々の道から同じ現象にたどりつきました。

グリュンベルクの組は、Fe/Cr/Feの3層膜で、2枚のFe層の磁化が反平行にそろうと抵抗が高くなることを、室温で見いだした。変化は1.5%と小さい[5](資料により約3%という記載もあるが、本稿はPhysics World・Physics Todayの1.5%を採る[6])。

二つの発見は対照的である。フェールの約30層では4.2Kで50%の低下、グリュンベルクの3層では室温で1.5%。投稿はグリュンベルクが先、掲載はフェールが先とされる[6]。フェールは、グリュンベルクらが2年前に見つけたCr層をはさむFe層どうしの反強磁性的な結合に刺激され、自分が研究していたスピン依存の電気伝導を、薄膜技術で調べられる段階になったと考えたという[4][7]。

2007年のノーベル物理学賞は、1988年にそれぞれ独立にGMRを発見した二人に贈られた[1]。では、磁石の向きで抵抗が変わる、その共通の理由は何か。

3. じしゃくの むきで、どうして でんきの とおりかたが かわるの?

3. 磁石の向きで電気の通りやすさが変わる ── ごく弱い磁気にも反応する

3. 反平行と平行 ── スピン依存の伝わり方が抵抗差を生む

でんきは、「でんし」という ちいさな つぶが ながれる ことです。でんしには、じしゃくに にた せいしつ(スピン)が あります。

うすい じしゃくの そうが ならんでいる とき、でんしの とおりやすさは、そのでんしの せいしつと、じしゃくの むきの くみあわせで かわる、と かんがえられました[3]。

たとえば、おなじ むきの かぎを もつ ひとだけが あけられる ドアが ならんで いる ところを おもいうかべて ください。ドアの むきが そろっていれば とおりやすく、ちがうと とおりにくい のです。ただし ほんとうの でんしは かぎを もちません。

この けっかを つかうと、ごく よわい じしゃくの へんかを、でんきの ちがいに できます[2]。

では、これは なにに やくだったのでしょう。

電気の正体は、電子の流れです。電子には「スピン」という、小さな磁石のような性質があります。フェールの論文は、この大きな抵抗の変化を、電子のスピンに応じた通り方の違いによるものと解釈しました[3]。

重ねた膜では、隣り合う磁石の層の向きがそろったときと、逆向きになったときで、電子の通りやすさが大きく変わります。そのため、ごく弱い磁気の変化が、電気抵抗の大きな違いとして取り出せます[2]。

たとえるなら、同じ向きの鍵を持つ人だけが開けられるドアが並んでいて、ドアの向きがそろうと通りやすく、そろわないと通りにくい、という感じです。実際の電子は鍵を持たず、あくまで性質の違いによる通り方の差です。

弱い磁気の変化を、電気の信号に変えられるなら、何かの「目」になるかもしれません。それは、ハードディスクの中で現実になりました。

GMRでは、ごく弱い磁気の変化が、電気抵抗の大きな違いを生む[2]。フェールの論文は、これを伝導電子のスピンに依存した伝わり方によると解釈した[3]。隣り合う磁性層の磁化が平行のときと反平行のときで抵抗が異なる、というのが、グリュンベルクの3層膜の結果とも一致する[5]。

実用の観点で重要なのは、非常に弱い磁気の変化が抵抗の大きな差に変換される点である。磁気ヘッドは、ディスク上の弱い磁気の向きを読み取るセンサーだからだ。ここで残る問題が、極低温や強磁場でなくても動くか、量産できるか、ということだった。

ここが、論文の発見から製品までの距離になる。

5. わたしたちの まわりでは、どれくらい つかわれたの?

5. 50億個のヘッドと、「数原子の厚さ」の応用

5. GMRヘッドの普及 ── 2007年時点で50億個以上、容量は約10倍

GMRヘッドは、まえの タイプの ヘッドに かわって、2007ねんの ころまでに 50おく こ いじょう つくられました。ディスクの ようりょうは 10ばいに なった と いわれます[6]。

ノーベルしょうの せつめいでは、すうげんしの あつさの そうで できた しくみを つかう、ナノテクノロジーの さいしょの おおきな ようとの ひとつ とされています[1]。

こんど、パソコンや ゲームきの かたちを みる ときは、ちいさな きかいの なかで、ごく よわい じしゃくの かわりめが よみとられている ことを おもいだして みて ください。

GMRヘッドは、従来のAMRヘッドに置き換わりました。2007年の時点で50億個以上が作られ、ディスクの容量は約10倍になったと紹介されています[6]。ただし「約10倍」は当時の記述で、最新の数字ではありません。

ノーベル賞の解説は、GMRの利用を、数原子の厚さの層でできた構造を使う、ナノテクノロジーの最初の大きな応用の一つと位置づけました[1]。

二人は、極低温で半分になる膜と、室温で1.5%だけ変わる膜という、まったく別の道から同じ現象に出会いました。そのあと、IBMの研究者たちが、室温で動く形に作り直しました。

GMRヘッドは従来のAMRヘッドに置き換わり、2007年当時までに50億個以上が作られ、ディスク容量は約10倍になった[6]。この「約10倍」は2007年当時の記述で、現在の値ではない。

ノーベル賞の解説は、GMRの利用を、数原子の厚さの層でできた構造を使う、ナノテクノロジーの最初の大きな応用の一つと位置づけた[1]。

流れをまとめると、1988年の二つの発見は、極低温で大きく、室温では小さいという対照的な結果だった。そのあと、IBMの研究者たちが、室温・量産・低磁場という条件に合う構造(スピンバルブ)に作り直して、ヘッドとして使える形にした。

自分でも しらべて みたく なったら

自分でも調べてみたくなったら

自分でも調べてみたくなったら

きょう できること

おうちに ふるい パソコンや ハードディスクが あれば、おうちの ひとと いっしょに、ラベルの もじを みて みましょう。ふたを あけては いけません。

しらべて みよう

としょかんで、「ノーベルしょう」や「じしゃく」の ほんを さがして、フェールさんと グリュンベルクさんの ことが のっているか、みて みましょう。

今日できること

家にある古いパソコンや外付けハードディスクのラベルを見て、容量や型番を調べてみましょう。分解はしないでください。

調べてみよう

図書館で、「ノーベル賞」「磁石」の本をさがし、フェールとグリュンベルクの紹介が、この記事と同じかどうかを見比べてみましょう。

今日できること

家にあるHDDやパソコンの仕様欄で、記録容量と読み取り方式の表記を探してみる。ただし分解はしないこと。

調べてみよう

家にある古いパソコンや外付けHDDと、最近のSSD搭載機の仕様欄を見比べ、記録容量や記録方式の違いを書き出してみる。古い機種ほど容量が小さいかどうかを、自分の目で確かめられる。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

今回は、スウェーデン王立科学アカデミーの発表と、論文要旨、物理学会誌の解説を突き合わせた。

  1. スウェーデン王立科学アカデミー「Nobelpriset i fysik 2007」 https://www.kva.se/en/news/nobelpriset-i-fysik-2007-2/ (受賞の内容・1997年のヘッド・ナノテクノロジーの位置づけ)
  2. ScienceDaily「Nobel広報の引用記事」(2007年) https://www.sciencedaily.com/releases/2007/10/071009083859.htm (弱い磁気の変化と抵抗の関係)
  3. Baibich et al., Phys. Rev. Lett. 61, 2472 (1988) 要旨 https://nucssp.rmki.kfki.hu/articles/catalog/88/baibich.prl.61.2472.1988.html (フェールの実験の数値・解釈)
  4. APS News「PRL Top Ten #6」(2003年) https://www.aps.org/apsnews/2003/03/prl-top-ten-6 (予想の数%・引用数・1986年の刺激)
  5. Physics World「Nobel prize recognizes GMR pioneers」 https://physicsworld.com/a/nobel-prize-recognizes-gmr-pioneers/ (グリュンベルクの3層膜・1.5%)
  6. Physics Today「Discoverers of giant magnetoresistance win this year's physics Nobel」 https://physicstoday.aip.org/news/discoverers-of-giant-magnetoresistance-win-this-years-physics-nobel (二人の発見の比較・50億個・約10倍)
  7. 日本国際賞 グリュンベルク略歴 https://www.japanprize.jp/en/prize_prof_2007_grunberg.html (1986年の論文)
  8. SPINTEC「GMR heads oral history panel at the Computer History Museum」 https://www.spintec.fr/gmr-heads-oral-history-panel-at-the-computer-history-museum (スピンバルブの発明)
  9. Parkin, Phys. Rev. Lett. 71, 1641 (1993) 要旨 https://nucssp.rmki.kfki.hu/articles/catalog/93/parkin.prl.71.1641.1993.html (界面で起きるスピン依存散乱)

なおした ところ

更新履歴

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