1. あなが 大きいのに、なぜ?
1. 穴が粒より大きいのに、粒は止まる
1. 空孔径より小さい粒子も捕集される ── 「ふるい」では説明できない
マスクの ぬのを 大きく して 見ると、あなの 大きさは、およそ 5〜10マイクロメートル。マイクロメートルは、1ミリの 千分の 一です[1]。
いっぽう、空気中の ほこりの 中には 2.5マイクロメートルより 小さい つぶも あります。あなの ほうが 2〜4ばい ほど 大きい ことに なります。
あなが 大きい ことは、悪い ことでは ありません。空気が とおりやすく、息が しやすく なります[1]。
2〜4倍大きい穴
不織布マスクのフィルターの平均空孔径は5〜10マイクロメートル。PM2.5の上限である2.5マイクロメートルと比べると、穴は2〜4倍の大きさです[1]。粒がもっと小さければ、差はさらに開きます。
大きな穴は、息をするために必要
この大きな空孔は、空気を通す通気性を保つ役目をしているといわれます[1]。穴を小さくしすぎると、息をするのが苦しくなってしまいます。粒を止めることと、息をしやすくすることは、同時に成り立たせる必要があります。
不織布マスクのフィルターの平均空孔径は5〜10μmで、対象とされる粒子(PM2.5は直径2.5μm以下)より大きい。この大きな空孔が通気性を確保しているとされる[1]。空孔径は粒子径の2〜4倍(2.5μmとの比)であり、0.1μm級の粒子と比べれば50〜100倍にもなる。
単純に「穴より小さい粒は通り抜ける」なら、このフィルターは役に立たない。ところが産業衛生の資料は、ウイルスと同レベルの大きさの粒子もフィルターで捕集されると述べ、「ウイルスは小さいのでマスクでは捕集できない」というネット上の記述を、実際とは異なるものとして挙げている[3]。捕集の仕組みが、ふるいとは別にあるということになる。
2. マスクは 「ふるい」じゃなくて 「くっつけるもの」
2. からみ合った繊維に、粒がくっつく
2. 粒子は繊維に衝突して付着する ── 5種類のしくみ
マスクの ぬのを けんびきょうの ように 大きく すると、ほそい せんいや、少し 太い せんいが、ぐちゃぐちゃに からみ合って います[2]。
空気が この 中を とおるとき、ほこりや ちりは、せんいに ぶつかって くっつく ことが あります。あみで こして いるのでは なく、せんいに くっつけて いるのです。
ふるいは、あなより 大きい ものを 止めます。マスクは、あなより 小さくても、せんいに 当たった つぶの 一部が、くっついて のこります。ぜんぶ つかまえる わけでは ありません。
拡大すると見えるもの
さいたま市のサイエンスナビは、マスクを拡大した写真では、細い繊維や太い繊維がいろいろに複雑にからみ合っている様子が見られる、と紹介しています[2]。ほこりやちりはその繊維にくっつけて捕らえる、という説明です。
なぜ「くっつく」のか
産業衛生の資料では、粒が繊維にぶつかると、粒と繊維の間に分子間力がはたらき、繊維の表面に固定される、と説明されています[3]。この捕まえ方には、拡散・さえぎり・慣性衝突・重力沈降・静電気力の5種類があり、粒の大きさや繊維の太さ、電気を帯びているかどうかに強く影響されるそうです[3]。
大切なのは、どの仕組みでも「粒が繊維に近づき、触れる」ことが出発点になっている点です。
顕微鏡写真では、不織布マスクは太さの異なる繊維が複雑にからみ合った構造として見える[2]。粒子は空孔を素通りするとは限らず、繊維に衝突して付着する。
フィルターの捕集は、繊維に衝突した粒子と繊維の間に分子間力がはたらき、繊維表面に固定される現象である。主な機構は、拡散・さえぎり・慣性衝突・重力沈降・静電気力の5種類で、粒子径・繊維径・粒子や繊維の電荷に強く影響される[3]。どの機構が支配的になるかは、粒径・気流速度・繊維の太さによって変わる[8]。
ふるいは「通れるかどうか」を大きさで決めるが、フィルターは「繊維に触れた粒子の一部が付着して残るかどうか」で決まる。捕集効率が100%とは限らない。判断の基準が別物である。
3. 小さい つぶは、じぶんから 当たりに いく
3. 小さい粒ほど、不規則に動いて繊維に当たる
3. ブラウン拡散 ── 小さい粒子ほど動き回って繊維に当たる
とても 小さい つぶは、空気の 中で、まっすぐ すすみません。ふらふらと ゆれ うごきます。
たとえば、目かくしを して、木が たくさん はえた 林の 中を あるくと、木に ぶつかりやすいでしょう。小さな つぶも、ゆれながら すすむ ので、せんいに ぶつかりやすく なります。
ただし 本当は、つぶが 目かくしを して いるのでは ありません。まわりの 空気の 分子が ぶつかって、つぶを ゆらして いるのです[3]。この ゆれを、ブラウン運動と いいます。
空気の分子に押されてふらつく
粒がとても小さくなると、空気の分子がぶつかる影響を無視できなくなります。すると粒は、気流に乗って進みながら、ランダムに動くようになります。これがブラウン運動で、粒が小さいほど活発になります[3]。
動き回るほど、繊維に当たりやすい
ふらつけば、繊維にぶつかる回数が増えます。だから粒が小さいほど、拡散による捕集効率は高くなり、その効果が目立つのは主に0.1マイクロメートル以下の粒だと説明されています[3]。
アメリカの労働安全衛生局(OSHA)の説明を伝えた記事にも、最も小さい粒は絶えず動き回るため、繊維に当たって付着する可能性が高い、とあります[4]。N95というマスクについての話ですが、仕組みは同じ種類のものです。
4. いちばん とおりやすいのは、中くらいの つぶ
4. 意外にも、通りぬけやすいのは中くらいの粒
4. 最も通過しやすいのは中間の粒径(MPPS)── 大きい粒も小さい粒も捕まりやすい
それでは、いちばん 小さい つぶが いちばん つかまりやすくて、大きい つぶは にげやすいのでしょうか。そうでは ありません。
大きい つぶは、せんいに ぶつかりやすいので、つかまります。小さい つぶは、ふらふら うごいて、つかまります。
その まんなかの 大きさの つぶは、どちらの しかたも あまり うまく はたらかず、いちばん とおりぬけやすい ことが あります[5]。
二つの仕組みの「谷間」
大きめの粒には、繊維にぶつかる慣性衝突や、繊維のすぐそばを通ってくっつくさえぎりが働きやすく、それより小さい粒には、ブラウン拡散や静電気力が働きやすいといわれます[6]。目安は1マイクロメートルあたりです。
いちばん通りやすい大きさ
その中間、0.3マイクロメートル前後の粒は、気流に沿って動きがちで、拡散も慣性も効きにくくなります。そのため、大きい粒や小さい粒より通りぬけやすい大きさになり、MPPS(最も通りやすい粒径)と呼ばれます[5]。
アメリカの検査機関NIOSHは、この0.3マイクロメートルをN95の試験に使ったと報告されています[5]。ただし、0.3は試験用の代表的な値で、実際のフィルターでは別の大きさが最も通りやすくなることもあります。
慣性衝突とさえぎりは1μm以上の大きめの粒子に、それ以下の粒子にはブラウン拡散や静電気力が働きやすいといわれる[6]。この報告は抗菌フィルタの試験の考察部分であり、マスクそのものの試験ではない。
両者の間、約0.3μmの粒子は気流に沿って動きやすく、拡散も慣性も効きにくいため、大きい粒子や小さい粒子より通過率が高い。これが最も通過しやすい粒径(MPPS)で、NIOSHはN95の試験に0.3μmを用いた[5]。OSHAの解説でも、N95は0.3μmより小さい粒子も大きい粒子も、0.3μm前後よりよく捕集するとされる[4]。
「小さいほど捕まりやすい」を単純化して覚えると、この谷間を落とす。0.3μmは試験用の代表値であり、帯電したフィルターの実測は次章の通りである。
5. せいでんきも、てつだって いる
5. 静電気が、小さな粒を引きよせる
5. 帯電したフィルターは粒子を引きつけ、その電荷は弱まることがある
下じきを こすると、かみの けが くっつく ことが あります。せいでんきの ちからです。
マスクの せんいにも、つくる ときに せいでんきを もたせた ものが あります。その ちからで、小さな ほこりを ひきよせて くっつけると いわれます[7]。
ただ、この せいでんきは、しめり気などで 弱く なる ことが あるそうです。
製造のときに電気を帯びさせる
東京大学生産技術研究所の杉原研究室は、マスクの静電気(エレクトレット)は製造工程の帯電処理でつけられ、細かい粒の侵入を防ぐのに役立つと説明しています[7]。
電気を取りのぞくと、どうなるか
この電気は、湿気などで弱まることがあるといわれます[7]。
アメリカの研究では、帯電したN95などの実測で、最も通りやすい粒の大きさは40〜50ナノメートル付近でした。イソプロパノールというアルコールで電気を取り除くと通りぬけが増え、最も通りやすい大きさは200〜400ナノメートル付近に移りました[5]。
この研究の対象はN95などのマスクで、ふつうの不織布マスクにそのまま当てはまるとは限りません。
マスクの静電気(エレクトレット)は製造工程の帯電処理で与えられ、微細なエアロゾルの侵入防止に働く。この帯電は湿気などで弱まることがある、と杉原研は述べる[7]。これは研究室の記述であり、弱まる速さや程度を示す値ではない。
Rengasamyらの報告では、帯電したN95などの実測MPPSは40〜50nm付近だった。イソプロパノール処理で電荷を除くと通過率が上がり、MPPSは機械的な捕集機構だけの場合の範囲(200〜400nm付近)に移った。低通過率・中通過率の防じんマスクでは、通過がそれぞれ約100倍・約6倍に増えた[5]。対象はN95・P100・防じんマスクで、一般の不織布マスクへ直接当てはめることはできない。
一般の不織布マスクで静電気がどの程度効いているかの定量値は、今回の資料には出てこなかった。
6. いちばん たいせつなのは、かおとの すきま
6. フィルターより先に、顔との密着を見る
6. 顔との隙間から入る空気には、捕集機構は働かない
ウイルスや ほこりから まもる ための マスクでは、どんなに よい ぬのでも、かおと マスクの 間に すきまが あると、空気は らくな ほうへ 入ります。ぬのを とおらずに、すきまから 入って しまうのです[3]。
ぬのの 中の しくみが すごくても、すきまが あれば、その力は 出せません。マスクの 上と 横を ぴったり かおに つけることが、大じだと いわれます。
空気は通りやすいほうを通る
産業衛生の資料は、防護のためにいちばん重要なのは顔とマスクの密着性だと述べます。防護を目的に使うマスクでは、顔との間に隙間があると、息を吸うときにその隙間から外の空気が入り、マスク本来の性能が出ないからです[3]。
ここまで見てきたフィルターの仕組みは、空気がフィルターを通ったときにだけ働きます。鼻の横や頬に隙間があれば、そこを通った空気には何も起こりません。
産業衛生の資料は、防護目的で最も重要なのは顔とマスクの密着性(フィット)だと述べる。隙間があると、吸気時にそこから有害物質を含む外気が流入し、マスク本来の性能が出ない[3]。
拡散・さえぎり・静電気力は、空気がフィルターを通過する場合にだけ働く。フィルター単体の性能がどれほど高くても、隙間から入る空気はその効果を受けない。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
今日 できること
マスクを 一まい 出して、あかるい ほうに かざして みましょう。ひかりが どのくらい すけるか、見て みてください。
もう 一つ。マスクを つけて、手を マスクの よこに 当てて、ゆっくり 息を はいて みます。空気が すきまから 出て くるか、感じて みましょう。ただし、息を つよく はいたり、くるしく なるまで つづけたり しないで ください。
本で しらべる
いちばん 下に かいた さいたま市の ページには、マスクを 大きく うつした しゃしんが あります。おうちの 人と いっしょに 見て みてください。
今日できること
マスクを明かりにかざして、光がどのくらい透けるか、場所によるむらがあるかを見てみてください。繊維そのもののからみ方は、下の拡大写真で確かめられます。マスクを破いたりする必要はありません。
マスクをつけて手のひらを横に当て、ゆっくり息を吐くと、隙間から空気が漏れるかどうかが感じられます。ただし、強く吐いたり、息苦しくなるまで続けたりしないでください。
資料で確かめる
さいたま市のサイエンスナビ[2]には拡大写真があります。仕組みの整理は、産業衛生学会フォーラムの資料[3]が、拡散・さえぎり・慣性衝突などの区別を詳しく書いています。
今日できること
マスクを光にかざすと、透け方のむらが見える。繊維の重なり方は拡大写真[2]で確かめる。なお、隙間の有無は、マスクの縁に手を当ててゆっくり息を吐き、空気が漏れる方向を感じることで確かめられる。ただし、強く吐いたり、苦しくなるまで続けたりしない。
資料を読む
捕集機構の整理は、湯浅久史(興研)「マスクメーカーの知見」(産業衛生学会フォーラム2021)[3]が読みやすい。帯電の効果を測った英語の論文[5]もあるが、対象はN95などである点に注意する。まずは日本語の資料[3]と[7]から読むとよい。
この資料では、一般の不織布マスクで静電気がどの程度効くかの定量値や、繊維の太さの実測値は得られなかった。ここは自分で探す余地のある部分だ。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文の事実は、次の資料を突き合わせて確かめました。原文を確かめた資料と、検索の抜粋にとどまる資料があり、後者は控えめな書き方にしています。
- 科学技術振興機構 研究開発戦略センター(CRDS)「科学技術の潮流」コラム(244) https://www.jst.go.jp/crds/column/choryu/244.html (空孔径5〜10μmとPM2.5の大きさ)
- さいたま市 サイエンスナビ https://www.city.saitama.lg.jp/sciencenavi/tanoshimu/004/p074665.html (マスクの拡大写真と繊維のからみ合い)
- 湯浅久史(興研)「マスクメーカーの知見」産業衛生学会フォーラム2021 https://plaza.umin.ac.jp/jsoh-ohe/files/sanei94/forum2021_yuasa.pdf (捕集機構5種・拡散・フィット)
- Safety+Health誌「OSHA updates FAQs to address particle sizes and N95s」 https://www.safetyandhealthmagazine.com/articles/20459-osha-updates-faqs-to-address-particle-sizes-and-n95s (N95はふるいでないという解説。OSHA文書そのものではない)
- Rengasamy ら Sci Rep(PMC7357396) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7357396 (最も通りやすい粒径と電荷の効果。対象はN95等)
- 群馬県繊維工業試験場 技術情報(R6_001) https://www.tec-lab.pref.gunma.jp/wp-content/uploads/R6_001.pdf (粒の大きさと機構の関係。抗菌フィルタ試験の考察)
- 東京大学生産技術研究所 杉原研究室「マスクチャージャー」 https://sugiharalab.iis.u-tokyo.ac.jp/?p=2325 (マスクの帯電と、その消えやすさ)
- 環境省掲載資料(粒子捕集の基礎スライド) https://www.env.go.jp/content/900484669.pdf (支配的な機構は粒径・気流速度・繊維径で変わる。著者名は未特定)
なおした ところ
更新履歴
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