1. 月と おなじだと おもわれて いた
1. 月と同じだと思われていた
1. 1965年まで信じられていた「同じ面」説
月は、いつも おなじ 面を 地きゅうに むけて いる。うらがわは、地きゅうから 見る ことが できない。
水星も、月と おなじ ように、いつも おなじ 面を たいように むけて いると、ながい あいだ 思われて いた。でも、それは まちがいだったと、あとに なって わかった[1]。
月は、いつも同じ面を地球に向けている。裏側は、地球から見ることができない。
水星も、月と同じように、いつも同じ面を太陽に向けていると、長いあいだ思われていた。でも、それは間違いだったと、あとになって分かった[1]。
月が、常に同じ面を地球に向けていることはよく知られている(公転と自転の周期が一致する「1対1の潮汐固定」という状態だ)。
1879年、イギリスの天文学者ジョージ・ダーウィンは、地球と月のあいだの潮汐摩擦が両者の自転・公転を長い時間をかけて変化させることを論じ、月の自転が地球との潮汐相互作用によって公転周期と一致するまで遅くなったことを説明した。この考えが類推され、太陽に最も近く強い潮汐力を受ける水星も、同じように1対1で太陽に同期しているはずだと考えられるようになった。1965年より前、水星は「常に同じ面を太陽に向けている」というのが天文学の定説だった[1]。
2. でんぱを あてて しらべたら、ちがった
2. 電波を当てて調べたら、違っていた
2. 1965年、アレシボ天文台のレーダー観測
1965年、アメリカの天文台で、大きな電波のさらを つかって、水星に むけて でんぱを とばす じっけんが おこなわれた。水星に あたって かえって きた でんぱを しらべると、水星が どれくらいの はやさで まわって いるかが わかる[2]。
けっかは、みんなの よそうと ちがった。水星は、たいようの まわりを 1しゅう する あいだに、1かいだけ まわって いるのでは なかった。1.5かい まわって いる ことが わかった[2]。
3. なぜ、1かいでは なく 1.5かい まわるのか
3. なぜ、1回ではなく1.5回自転するのか
3. 楕円軌道と潮汐力が生む「3対2共鳴」
月は まん丸に ちかい みちを とおって 地きゅうの まわりを まわって いる。でも 水星が たいようの まわりを まわる みちは、月より つぶれた だ円の 形を して いる[3]。
水星が たいように いちばん ちかづく ところでは、たいようの ひっぱる ちからが とくに つよく なる。この つよい ちからと、水星が まわる はやさの バランスで、水星は 1かいでは なく、1.5かい まわる かたちで おちついたのだと かんがえられて いる[3]。
月は真ん丸に近い道を通って地球のまわりを回っている。でも水星が太陽のまわりを回る道は、月より押しつぶされた、だ円の形をしている[3]。
水星が太陽に一番近づくところでは、太陽の引っぱる力がとくに強くなる。この強い力と、水星が回る速さのバランスで、水星は1回ではなく、1.5回自転するかたちで落ち着いたのだと考えられている[3]。
水星の公転軌道の離心率(軌道がどれだけ円からずれているかを示す値)は0.206で、太陽系の8惑星のなかで最も大きい。近日点(太陽に最も近づく点)では、遠日点に比べて太陽からの潮汐力が大きく強まる[3]。
月のように離心率がほぼ0の円軌道であれば、公転周期と自転周期が完全に一致する1対1の状態(潮汐固定)に落ち着きやすい。しかし水星のように離心率が大きい軌道では、太陽の潮汐力によって自転がしだいに遅くなっていく過程で、水星の形がわずかに球からゆがんでいることによるトルクが潮汐トルクと釣り合う場面が生じ、1対1まで遅くなりきる前に3対2の状態でつかまって安定してしまう。この安定解の存在は、レーダー観測と同じ1965年、イタリアの数学者ジュゼッペ・コロンボによる理論計算で示された[3]。
4. 日の出から つぎの 日の出まで、176にち
4. 日の出から次の日の出まで、176日
4. 「自転周期」と「太陽日」は、なぜ違うのか
水星が 1かいまわる じかん(59にち)と、水星の「1にち」(176にち)は、べつの ものだ。水星は まわりながら、たいようの まわりも すすんで いる。だから、水星の 上に 立って 見た たいようが、まえと おなじ ばしょに もどって くるまでには、もっと じかんが かかる[4]。
水星に すんで いる 人が いたら、日の出から つぎの 日の出までに、水星は たいようの まわりを 2しゅうも して しまう[4]。
水星が1回自転する時間(59日)と、水星の「1日」(176日)は、別のものだ。水星は自転しながら、太陽のまわりも進んでいる。だから、水星の上に立って見た太陽が、前と同じ場所にもどってくるまでには、もっと時間がかかる[4]。
水星に住んでいる人がいたら、日の出から次の日の出までに、水星は太陽のまわりを2周もしてしまう[4]。
「恒星日」(星を基準にした自転周期、約59日)と「太陽日」(その星の表面から見て、太陽が同じ位置にもどってくるまでの時間、約176日)は別の概念だ。地球ではこの差はわずか約4分だが、水星では劇的に大きくなる。
水星は自転しながら同時に公転もしているため、太陽が天球上で同じ位置に戻るには、単純な1回転以上の自転が必要になる。水星は3回自転する間に2回しか公転しないため、太陽日は恒星日の約3倍、すなわち約176日になる。水星の住人がもしいれば、日の出から次の日の出までのあいだに、水星はまるまる2回、太陽のまわりを公転することになる[4]。
5. 月は、なぜ ぴったり 1かいなのか
5. 月は、なぜぴったり1回なのか
5. 月の1対1同期と、水星の3対2同期の分かれ道
月の まわる みちは、水星に くらべて ずっと まん丸に ちかい。だから、地きゅうから うける ちからは、いつも あまり かわらない。その ため 月は、いちばん おちつく かたち、つまり ぴったり 1かい まわる かたちに なった[5]。
水星は みちが つぶれた 形だった ため、1かいでは なく 1.5かい まわる かたちに なった。おなじ ように たいようや 地きゅうから ひっぱられて いても、みちの 形が ちがうと、おちつく さきも ちがって くる[5]。
月の回る道は、水星に比べてずっと真ん丸に近い。だから、地球から受ける力は、いつもあまり変わらない。そのため月は、一番落ち着くかたち、つまりぴったり1回自転するかたちになった[5]。
水星は道がつぶれた形だったため、1回ではなく1.5回自転するかたちになった。同じように太陽や地球から引っぱられていても、道の形が違うと、落ち着く先も違ってくる[5]。
月は、地球との潮汐相互作用によって自転がしだいに遅くなり、公転周期と一致する1対1の状態(潮汐固定)まで同期した。月の公転軌道の離心率は0.055とほぼ円に近く、公転中ずっと地球からの潮汐力の強さがあまり変化しない。
一方、水星は離心率0.206という大きくつぶれた軌道を持つため、自転が遅くなっていく途中の3対2の状態で安定してしまい、1対1まで遅くなりきることがなかった。同じ潮汐力による同期現象でも、軌道の形しだいで行き着く先が変わる[5]。
じぶんでも しらべて みる
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
水星の ほかにも、じてんが ふしぎな わく星が ある。金星は、ほかの わく星と ぎゃくむきに じてんして いる。図かんや インターネットで、金星の「1日」と「1年」、どちらが ながいか しらべて みよう。
水星のほかにも、自転がふしぎな惑星がある。金星は、ほかの惑星と逆向きに自転している。図鑑やインターネットで、金星の「1日」と「1年」、どちらが長いか調べてみよう。
水星のほかにも、自転に個性のある惑星がある。金星は他の惑星と自転の向きが逆(逆行自転)で、しかも自転周期(約243日)が公転周期(約225日)より長い。天体ごとの自転周期・公転周期・軌道の離心率を調べ、なぜそのような自転になったのかを考えてみると、それぞれの天体がたどってきた歴史の違いが見えてくる。ジュゼッペ・コロンボは、水星の3対2共鳴を理論的に解き明かしただけでなく、その5年後には、探査機マリナー10号を何度も水星に接近させる軌道も別に発見している。その話は「水星まで8年かかるのはなぜ」の記事で扱っている。
しらべた ところ
参考にした情報源
参考にした情報源
- フリー百科事典『ウィキペディア』「水星」「自転と公転の同期」。 https://ja.wikipedia.org/wiki/水星 https://ja.wikipedia.org/wiki/自転と公転の同期 (1879年にジョージ・ダーウィンが地球の潮汐力による月の自転減速を示したこと、この類推から1965年より前は水星も太陽に対して1対1で潮汐固定していると考えられていたことはウィキペディア「水星」「自転と公転の同期」による)
- Pettengill, G. H. and Dyce, R. B. (1965) "A Radar Determination of the Rotation of the Planet Mercury", Nature誌、フリー百科事典『ウィキペディア』「水星」「アレシボ天文台」。 https://www.nature.com/articles/2061240a0 https://ja.wikipedia.org/wiki/水星 https://ja.wikipedia.org/wiki/アレシボ天文台 (1965年、ゴードン・ペッティンギルとロルフ・ダイスがプエルトリコのアレシボ天文台のレーダー観測により、水星の自転周期が公転周期の3分の2にあたる約59日であることを発見したことはPettengill and Dyce (1965)の公開抄録による。アレシボ天文台の口径が305mであることはウィキペディア「アレシボ天文台」による。この発見がそれまでの1対1同期説を覆したことはウィキペディア「水星」による)
- Colombo, G. (1965) "Rotational Period of the Planet Mercury", Nature誌、フリー百科事典『ウィキペディア』英語版「Mercury (planet)」、天文学辞典(日本天文学会)「離心率」。 https://www.nature.com/articles/208575a0 https://en.wikipedia.org/wiki/Mercury_(planet) https://astro-dic.jp/eccentricity/ (水星の軌道離心率が0.206で太陽系の8惑星中最大であること、3対2のスピン軌道共鳴が太陽の潮汐力によって生じたものであることは英語版ウィキペディア「Mercury (planet)」による。1965年にジュゼッペ・コロンボの理論計算により、太陽の潮汐トルクと水星の慣性楕円体の非対称性によるトルクが釣り合うことで3対2共鳴が安定解になりうることが示されたことはColombo (1965)による)
- フリー百科事典『ウィキペディア』英語版「Mercury (planet)」。 https://en.wikipedia.org/wiki/Mercury_(planet) (水星の公転周期が87.9691日、自転周期(恒星日)が58.646日、太陽日が約176日であり、3対2共鳴の結果として太陽日が恒星日の約3倍になることはウィキペディア英語版「Mercury (planet)」による)
- NASA Science「Tidal Locking」、フリー百科事典『ウィキペディア』「月」「離心率」。 https://science.nasa.gov/moon/tidal-locking/ https://ja.wikipedia.org/wiki/月 https://astro-dic.jp/eccentricity/ (月がかつてもっと速く自転していたが、地球との潮汐相互作用による摩擦でエネルギーを失い、自転が公転周期と一致するまで遅くなったことはNASA Scienceによる。月の公転軌道の離心率が0.055とほぼ円に近いことはウィキペディア「月」による)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
- 初版を公開。
このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。