1. びじゅつかんに、ばねが かざって ある?
1. 1934年、美術館に機械部品が並んだ
1. 「Machine Art」展(1934年)── MoMAが機械部品を彫刻のように見せた
1934ねんの ニューヨークで、ふしぎな てんらんかいが ひらかれました。かざられたのは、タイプライターの ばね、ボールベアリング(じくうけ)、ボートの エンジンに つける プロペラ、トースター、なべ、けんびきょうなどです[2]。
ばねを、えの ように ながめる ひとが いたのでしょうか。かざり方にも くふうが ありました。ふるい たてものの かざりを かべで かくして、しろくて すっきりした へやに し、だいの うえに のせて、ちょうこくのように 見せたと いわれます[2]。
この てんらんかいを ひらいた のは、MoMAの たてものの ぶもんを 作った フィリップ・ジョンソンです。この 1934ねんの てんが、あとの デザインの コレクションの「もと」に なりました[1]。
でも、ばねに どんな よい ところが あるのでしょう。
1934年3月5日から4月29日まで、MoMAでは「Machine Art(機械の芸術)」展が開かれました。建築部門の初代ディレクター、フィリップ・ジョンソンが選んだのは、タイプライターのキャリッジのばね、自己調心玉軸受け、船外機のプロペラ、トースター、レジスター、鍋、顕微鏡、コンパス、理科用のフラスコなどでした[2]。
見せ方も、ふつうの工場の展示とは違いました。褐色砂岩の古い建物の飾りを壁や天井で隠し、白く清潔な空間にして、部品を台座に載せて彫刻のように見せたと紹介されています。有名人が審査する「美しさコンテスト」もあったとされますが、この点は要約による情報です[2]。
MoMAの公式プレスリリースは、この1934年の展覧会を、同館のデザイン・コレクションの「核」になったものとして挙げています[1]。展覧会は、その後4年間に19の会場を巡回したそうです[3]。
とはいえ、机の上のばねが「美しい」というのは、どういう意味なのでしょうか。
MoMAは、建築・デザイン部のコレクションの核が、1934年の工業デザイン展「Machine Art」(3月5日〜4月29日)にあると、自らのプレスリリースで述べている[1]。選ばれた物は、タイプライターのキャリッジのばね、自己調心玉軸受け、船外機のプロペラ、トースター、レジスター、鍋、顕微鏡、コンパス、理科用フラスコなどで、いずれも用途が先にあって形が決まった実用品である[2]。
展示は、旧来の砂岩造りの建物の装飾を覆って白い空間にし、部品を台座に載せて彫刻のように見せる方法をとったとされる。ここに、審査員に著名人を迎えた「美しさコンテスト」があったという記述もあるが、要約による情報にとどまる[2]。展覧会は4年間で19会場を巡回した[3]。
プレスリリースによれば、ジョンソンが建築部門(1932年新設)のディレクターを務めたのは1932〜1934年と1946〜1954年で、部門名が「建築・デザイン部」に変わったのは1949年である[1]。では、実用品を彫刻のように並べることが、なぜ「デザインの展示」になるのか。次章以降の収蔵品から考えたい。
2. ものが なくても、あつめられる?
2. 「@」を集める ── 物がなくても収蔵できる
2. 2010年の「@」── 物の所有を前提にしない収蔵
メールの アドレスに ある「@」の きごうを、知って いますか。この きごうも、MoMAの コレクションに くわえられました。
2010ねん3がつ22にちに、キュレーター(てんじを 考える ひと)の パオラ・アントネッリさんが、はっぴょうしました[4]。
ふしぎですね。しゅうぞうの たいしょうは、「@」という きごうそのもので、はこに しまえる 「もの」では ありません。それでも、デザインの なかまとして むかえられた のです。
では、パックマンの ような、ゲームは どうなのでしょう。
ばねやプロペラは、手に取れる「物」です。ところが2010年3月22日、MoMAは電子メールで使われる記号「@」を建築・デザイン部のコレクションに加えると発表しました。発表したのは、キュレーターのパオラ・アントネッリさんです[4]。
収蔵の対象は「@」という記号そのもので、箱にしまえる実物ではありません。それでも収蔵されたという点が、ニュースになりました。物として手元に置けないものも、収蔵の対象になりうる、ということを示す出来事でした。
1934年の展覧会では、選ばれたのは部品や道具でした。2010年には、形のない「記号」まで対象になりました。この間に、何が起きたのでしょうか。
MoMAは2010年3月22日(月曜)、電子メールで広く使われる記号「@」を建築・デザイン部のコレクションに加えると、キュレーターのパオラ・アントネッリが発表した。収蔵の対象は記号そのもので、箱にしまえる実物ではない点が注目された[4]。
物として手元に置けないものも収蔵の対象になりうることを示す出来事として、この収蔵は受け止められた。
1934年の「物」から2010年の「記号」へと、収蔵の対象は大きく動いた。この間の動きを、次章のゲームの収蔵が示している。
3. ゲームは、どこが「デザイン」なの?
3. パックマンやテトリスが選ばれた理由
3. 2012年のビデオゲーム収蔵 ── 「インタラクション・デザイン」という見方
2012ねん、MoMAは ゲームを あつめると はっぴょうしました。パックマン(1980ねん)、テトリス(1984ねん)、シムシティ2000(1994ねん)など、14この ゲームが、さいしょに えらばれました[5]。あとで 26この ゲームも こうほに なりました[5]。
どうして ゲームを えらんだの でしょう。キュレーターの アントネッリさんは、ゲームは「げいじゅつか どうか」より、「デザインの ものさしで えらんだ」と こたえたと つたえられて います[6]。
ゲームは、ボタンを おすと、がめんが うごきます。あそぶ ひとと、ゲームの あいだの やりとりも、デザインだと 考えたのです。
MoMAは2012年に、ビデオゲーム14本を最初に収蔵しました。パックマン(1980年)、テトリス(1984年)、シムシティ2000(1994年)、ザ・シムズ(2000年)、塊魂(2004年)、Portal(2007年)、Canabalt(2009年)などが含まれます。さらに26本が候補に挙がりました[5]。
アントネッリさんは、ゲームを「インタラクション・デザインの傑出した例」として選んだと説明しました。「ゲームは芸術ではない」と言ったのではなく、芸術でもあるけれど、今回はデザインの見方で選んだ、という説明です[6]。
ボタンを押すと画面が応える、その「やりとり」の作りを、ばねの形と同じように、デザインとして見た、ということです。
MoMAは2012年に、1980〜2009年の初期の14本(パックマン1980、テトリス1984、Another World 1991、Myst 1993、ヴィブリボン1999、シムシティ2000(1994)、ザ・シムズ2000、EVE Online 2003、塊魂2004、Dwarf Fortress 2006、flOw 2006、Portal 2007、Passage 2008、Canabalt 2009)を収蔵し、さらに26本を候補とした[5]。
アントネッリ上級キュレーターは、これらを「インタラクション・デザインの傑出した例」として選んだと述べた。原文の趣旨は「ゲームも芸術だが、今回はデザインの視点で選んだ」であり、「ゲームは芸術ではない」という意味ではない[6]。
ここで対象になったのは、ゲームソフトを動かしたときの体験、つまり人と画面のやりとりである。物の所有を前提にしない点では、2010年の「@」とつながる。ただし、購入・寄贈・使用許諾といった収蔵の具体的な形は、ゲーム・@・絵文字で同じとは限らず、確認した資料には書かれていないので、ここでは扱わない。
4. たった 12×12の えが、どうして?
4. 12×12ピクセルの絵文字が収蔵された
4. 2016年の初期絵文字 ── 制約の中で作られた「視覚言語の種」
ケータイの メールで つかう「えもじ」も、MoMAに はいって います。2016ねん10がつ、NTTドコモが 1999ねんに 出した、さいしょの えもじ 176こが あつめられました[7]。
その えは、たての 12、よこの 12の ますに、てんを ならべて できて います[7]。いまの スマホの えより、ずっと ちいさな えです。
ちいさな ますの なかで、ひと目で わかる えを 作るのは、むずかしい しごとです。それを 作った ひとの くふうが、デザインとして みとめられました。
2016年10月、MoMAは1999年にNTTドコモが世に出した絵文字の原型176種を、建築・デザイン部のコレクションに加えました。開発を率いたのは栗田穣崇さんです。1つの絵は12×12ピクセルしかありません[7]。
MoMAは、これらを「新しい視覚言語の成長の種をまいた、ささやかな傑作」と紹介したと伝えられています[7]。収蔵されたのは2016年で、1999年は絵文字が作られた年です。
絵文字の作り方や広がりについては、このサイトの別の記事にゆずります。ここで大事なのは、小さな点の並びのような、ごく小さな「絵」も、美術館が認めたデザインになったということです。
2016年10月(英文記事は10月27日付)、MoMAは、NTTドコモが1999年に発表した初期の絵文字176種(各12×12ピクセル)を建築・デザイン部に収蔵した。開発を率いたのは栗田穣崇である。MoMA側は「新しい視覚言語の急成長の種をまいた、ささやかなデザインの傑作」という趣旨で説明した[7]。
収蔵は2016年、制作は1999年で、年代を取り違えないよう注意したい。絵文字の開発事情は既存の記事に詳しく、ここでは繰り返さない。
ここまでの収蔵を並べると、1934年の部品、2010年の記号、2012年のゲーム、2016年の点描の絵と、対象が広がっているのが分かる。では、美術館は何をものさしに、これらを同じ「デザイン」と呼んだのか。
5. ばねも ゲームも えもじも、なにが おなじ?
5. 選ぶときのものさしは何だったのか
5. 収蔵の広がりと、キュレーターの示した見方
ここまで、ばね、@、ゲーム、えもじを 見て きました。どれも、つかう ひとの てや 目に あわせて、かたちが きまって いる ものです。
これは、この きじを 書いた ひとの 見方です。MoMAが そう 決めたと、はっきり 書いた しりょうを、見つけた わけでは ありません。
けれども、アントネッリさんは、ゲームを「デザインの ものさしで えらんだ」と はなして います[6]。ものの かたちだけでなく、つかい方や やりとりまで、デザインの なかまだと 考えて いる ようです。
1934年のばねも、2012年のゲームも、2016年の絵文字も、使う人の手や目、頭に合わせて、形ややりとりが決められている点は共通しています。ただし、これは資料を読んだ私たちの見方で、MoMAが公式にそう定義したという資料は確認できていません。
一方で、アントネッリさんがゲームについて「デザインの見方で選んだ」と述べたこと[6]、1934年の展覧会が「デザイン・コレクションの核」とされていること[1]は、資料から言えます。物から記号、体験へと、対象は広がっています。
この記事に出てきた収蔵の詳細は、MoMAの公式ページで確かめるのが確実です。要約だけを根拠にした部分は「とされる」と書きました。
1934年の機械部品、2010年の「@」、2012年のゲーム、2016年の絵文字を並べると、対象は「実物」から「実物のない記号」「体験」「点描の小さな絵」へ広がっている。共通するのは、使う人に合わせて形ややりとりが決められている点だと読めるが、これは本稿の解釈であり、MoMAが公式にそう定義した資料は確認していない。
資料から言えるのは、次の3点である。①1934年の機械展がデザイン・コレクションの核になった[1]。②ゲームはインタラクション・デザインの例として、芸術かどうかではなくデザインの視点で選ばれた[6]。③「@」という記号が、建築・デザイン部の収蔵対象になった[4]。
展示品の一覧や会期、「@」に関する引用は二次資料に基づくため、確認したい人は公式ページに当たってほしい。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
今日できること
おうちの どうぐを ひとつ えらんで、「どうして この かたちなの?」を 考えて みましょう。たとえば、ホッチキスや、ペットボトルの ふたです。てに もって、さわりながら、ゆびが おさまる ところや、まがった ところを さがします。
出かけてできること
ちかくの はくぶつかんや びじゅつかんに いったら、えや ちょうこく いがいの、どうぐや いすなどが かざられて いないか、さがして みましょう。
こうしきの 情報
えらんだ どうぐを、おうちの ひとに 見せて、「これは どうして この かたちなんだと 思う?」と きいて みましょう。じぶんの 考えと くらべると、おもしろいですよ。
今日できること
身の回りの道具を1つ選び、「なぜこの形なのか」を、手で持ちながら考えてみてください。たとえばホッチキスやペットボトルのふたなら、指が当たる場所、曲がった部分、へこみが何のためにあるのかを探せます。
出かけてできること
近くの博物館や美術館に行ったら、絵や彫刻以外に、椅子や道具、機械のような「使うためのもの」が展示されていないか探してみてください。それがどんな理由で選ばれたのか、説明の札も読むと手がかりになります。
公式情報
選んだ道具を、家族や友だちに見せて「なぜこの形だと思う?」と聞いてみましょう。自分の考えと人の考えを比べると、形に込められた工夫がいくつも見つかります。
今日できること
身近な道具を1つ選び、なぜその形なのかを、手で持って確かめてみる。指の当たる位置、曲がり、へこみが何を助けているかを言葉にできるか試すとよい。
出かけてできること
近くの博物館や美術館で、絵画や彫刻以外の、実用品の展示を探す。なぜ選ばれたのかを、解説の文章から読み取る。
公式情報
選んだ道具の形について、自分の考えを書き出し、家族や友人の考えと比べてみるとよい。同じ道具でも、注目する点が人によって違うことに気づける。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
MoMAの公式資料で直接確認できたのは、プレスリリースの1点。ほかの展示品の一覧や日付、ゲーム・@・絵文字の収蔵は、報道や解説記事による。
- MoMA press release (Philip Johnson, From Bauhaus to Pop) https://assets.moma.org/documents/moma_press-release_332962.pdf (1934年展が核になったこと・部門の沿革)
- MoMA「Machine Art」展ページ https://www.moma.org/calendar/exhibitions/1784 (展示品と見せ方。本文は未取得で、検索結果の要約による)
- Hyperallergic「The Men Behind MoMA's Taste for Modernist Design」 https://hyperallergic.com/255892/the-men-behind-momas-taste-for-modernist-design/ (巡回展・会期)
- SVA Blog「Pola gets the @ sign」 https://design.sva.edu/blog/pola-gets-sign/ (「@」の収蔵発表)
- NBC News「MoMA acquires 14 video games」 https://www.nbcnews.com/tech/tech-news/moma-acquires-14-video-games-permanent-collection-flna1c7342403 (収蔵したゲームの一覧)
- WBUR「MoMA video game」 https://www.wbur.org/news/2012/11/30/moma-video-game (キュレーターの説明)
- It's Nice That「MoMA acquires first-ever emojis」 https://www.itsnicethat.com/news/moma-acquires-first-ever-emojis-by-shigetaka-kurita-271016 (絵文字の収蔵)
なおした ところ
更新履歴
更新履歴(改版の記録)
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