1. でんちゅうは うごくのに、つきは うごかない
1. 電柱は流れるのに、月だけが動かない
1. 現象 ── 近くの景色は動き、月だけが同じ場所に残る
あるいて いると、でんちゅうや いえは、うしろへ、うしろへと ながれて いきます。でも、つきだけは、いつまでも おなじ ばしょに みえます。
くるまに のって いる ときも、おなじです。まどの そとの けしきは はやく うごくのに、つきは ついて くる ように かんじます。
つきが ほんとうに おいかけて くる わけでは ありません。とおくて うごかない ように みえる ので、そう かんじるのです。
後ろへ流れる景色と、動かない月
歩くと、近くにある電柱や建物は、自分が進むにつれて見える位置がどんどん変わります。ところが月は、いくら進んでも同じあたりに見えつづけます。
このため、近い景色と比べたとき、月だけが自分との距離を変えずにいるように感じられます。それが「追いかけてくる」という感じの正体だと、天気の解説サイトは説明しています[2]。
2. つきは、どれくらい とおいの?
2. 月までは、地球を9周してもまだ遠い
2. 距離 ── 約38万kmと、その測り方
つきまでは、およそ 38まん キロメートル あります[1]。ちきゅうを ぐるっと 1しゅうしても、およそ 4まん キロメートルです。
つまり、ちきゅうを 9しゅう いじょう した ながさより、まだ とおいのです[2]。
でんちゅうは、すぐ となりに あります。とおくの やまを みる ときも、あるくと すこしだけ ずれて みえますが、つきは それより ずっと とおいので、ほとんど ずれません。
地球1周の9倍以上
月までの距離は、平均でおよそ38万kmです[1]。地球1周が約4万kmなので、地球を9周以上した長さにあたります[2]。
距離はどうやって測るのか
月の距離は、月面に置かれた反射鏡にレーザー光を当てて、戻ってくるまでの時間を測って求めます[3]。理科年表オフィシャルサイトによると、測定の誤差は1970年代のはじめで25cm程度、今は2〜3cmです。
ただし、月の軌道は円ではないので、距離は少しずつ変わります。平均の出し方にも違いがあり、この記事では約38万kmと丸めて使います[3]。
月までの平均距離は資料により約38万4千km(384,400km)[1]、385,000.5km[3]と表記が割れる。平均のとり方の差と考えられるため、本稿は約38万kmに丸める。地球1周(約4万km)の9倍以上にあたる[2]。
測定法は月レーザー測距。アポロ計画などで月面に置かれた反射鏡にレーザー光を当て、戻る光子の往復時間から距離を求める。誤差は1970年代初頭で25cm程度、現在は2〜3cm程度とされる[3]。
距離は一定でもなく、約35万6千km〜40万7千kmの間で変わる。2020年は最も近い満月(4月8日)が約35万7千km、最も遠い満月(10月31日)が約40万6千kmだった[4]。
3. 1キロ あるいても、ほとんど かわらない
3. 1km動いたとき、月の見える向きは何秒角変わるか
3. 視角の比較 ── 1km移動の変化は月の見かけの幅の約3000分の1
つきが そらで ひろがって みえる おおきさは、かくどで あらわす ことが できます。つきの はばは、およそ 0.5どです。
すうじで くらべて みましょう。1キロ よこに あるいたとき、つきの みえる むきが かわる のは、その はばの、3000ぶんの 1 ぐらいです。
これでは、めでは かわったと わかりません。だから、つきは うごかない ように みえるのです。
角度の単位を確認する
天体の見かけの大きさは、角度で表します。1度の60分の1が1分角、1分角の60分の1が1秒角です。月の見かけの幅は約30分角(約0.5度)で、秒角にすると約1800秒角です[4]。
1km動いたときの変化
月までを約38万4千kmとして計算すると、月への視線に垂直な方向へ1km動いたときに月の見える向きが変わる角度は、約0.54秒角になります。この記事での計算で、資料そのままの数字ではありません。
月の見かけの幅は約1800秒角なので、1800÷0.54で3000倍以上の差です。1kmも動いて、月の幅の3000分の1ほどしか向きが変わらないので、目には止まって見えるのです。
月の見かけの幅は約30分角(1分角=60秒角なので約1800秒角)[4]。距離を384,400kmとし、観察者が視線に垂直に1km移動したとすると、月の方向の変化は 1/384,400 ラジアン、すなわち206,265×1/384,400 ≒ 0.54秒角となる。これは本稿での計算であり、資料に載る数値ではない。
1,800 ÷ 0.54 ≒ 3,300 なので、変化は月の見かけの幅の約3000分の1(3000倍以上の差)にすぎない。分角と秒角を取りちがえると桁がずれるので注意する。
月の距離が周期的に変わる幅(約35万6千〜40万7千km)は、1km移動の効果とは桁がちがう。視直径は33分27秒角(最大時)から29分25秒角(最小時)まで変わり、近い方が約14%大きい[4]。
4. ちへいせんの つきは、おおきく みえる?
4. もう一つの錯覚 ── 地平線の月は大きく見える
4. 月の錯視(大きさ)── 地平線付近で大きく見える現象
つきが のぼった ばかりの とき、ちへいせんの ちかくの つきは、おおきく みえませんか。まるで、ぐっと ちかづいた ような かんじです。
でも、ちへいせんの ちかくでも、たかい ところでも、つきの みかけの おおきさは ほぼ おなじです[5]。これも、め の さっかくだと いわれて います。つきが ちきゅうに ちかづく ときの ちがいは、また べつの はなしです。
ためして みましょう。ごえんだまを、うでを のばして もち、かたほうの めを とじて、あなの なかに つきを のぞきます。たかい ところの つきも、ひくい ところの つきも、あなに ちょうど おさまるように みえます。おおきさが おなじに みえるか、くらべて みましょう[5]。
ついてくるのとは別の錯覚
月や太陽が地平線の近くにあるとき、空高くにあるときより大きく見えます。これも目の錯覚だといわれていて、地平線の近くでも空高くでも、月の見かけの大きさはほぼ同じです[5]。月が地球に近づく満月で見かけの大きさが約14%変わることとは、別の話です。
「月がついてくる」は距離のせいで説明できました。「地平線の月が大きい」は、月がどこにあるかによる別の話です。名前が似ていても、同じ理由では説明できません。
五円玉で確かめる
国立天文台の解説には、五円玉を腕いっぱいに伸ばして持ち、穴から月をのぞく方法があります。月がどの高さにあっても、穴にちょうどおさまるように見えます。大きさがほぼ同じに見えるか、比べてみましょう[5]。
5. どうして おおきく みえるのか、まだ わからない
5. 原因はまだはっきりしていない
5. 原因をめぐる仮説 ── 見かけの距離説と両眼視差説
ちへいせんの つきが おおきく みえる わけは、まだ はっきり わかって いません[5]。
ちかくに たてものや やまが みえて、くらべられる かどうかで、おおきさの かんじかたが かわる、と いう かんがえ かたも あります。
けんきゅうする 人たちが、いまも かんがえて いる ところです。
国立天文台も「まだ説明がついていない」
国立天文台は、この錯覚がなぜ起こるかについて、まだはっきりした説明はついていないとしています[5]。近くの建物や山と比べられるかどうかで、大きさの感じ方が変わるという説もあります。
いくつかの説
心理学では、地平線の月は遠く感じられるから大きく見える、という「見かけの距離説」が長く教科書に載ってきました。ただ、暗闇でも起こるという結果も出ていて、この説には疑問も出ているようです[7]。
別の説として、両目のずれ(両眼視差)を脳が補正する過程が原因だという論文もあります[6]。まだ査読を受ける前のもので、定説ではありません。
国立天文台は、この錯覚の原因は「まだはっきりとした説明はついていない」とし、近くの建物や山との比較で大きさの感じ方が変わるという説を紹介している[5]。
心理学では、地平線の月は遠く見えるため大きく知覚されるという見かけの距離説(Kaufman & Rock, 1962)が長く教科書に載ったが、月の錯視が暗闇でも起こるなどの結果から疑問視されている、とされる[7]。
別の仮説として、両眼視差を脳が補正する過程が知覚上の大きさを増すとする論文(arXiv:1301.2715)がある。査読前のプレプリントで、一つの仮説として読む[6]。いずれも月の実際の視角は地平線でも天頂でも同じで、変わるのは知覚である点は共通している。
6. じぶんでも たしかめて みよう
6. 自分でも調べてみたくなったら
6. 自分でも調べてみたくなったら
つきが みえる よる、おうちの人と いっしょに、あんぜんな ばしょで、つきを さがして みましょう。とまって みると、ちかくの けしきと つきの ちがいが よく わかります。
おうちの人と いっしょに、ごえんだまを つかって、たかい ところの つきと、ひくい ところの つきを くらべる ことも できます。あるきながら みる ときは、まえを よく みて、あぶなくない ように しましょう。
本や ホームページで しらべるなら、「こくりつ てんもんだい」の「つきや たいようが おおきく みえるのは なぜ?」と、「つきたんさじょうほうステーション」の Q054 が、日本語で よめます。
今日できること:月が見える夜に、安全な場所で立ち止まって、月と近くの建物を両方見て、自分が動いたときに見え方がどう違うかを確かめてみてください。五円玉を使えば、地平線近くと高い位置の月の大きさがほぼ同じに見えるか比べられます。夜道では前をよく見て、必ず大人と一緒に。
公式情報:国立天文台の「月や太陽が大きく見えるのはなぜ?」と、月探査情報ステーションのQ054は、日本語で読めます。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:国立天文台・理科年表・月探査情報ステーションなどの資料と、月の錯視についての論文を使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。
- 月探査情報ステーション「Q054」(回答:寺薗淳也)。https://moonstation.jp/faq-items/q054 (月までの距離と、動いても見える向きが変わらないことについて)
- tenki.jp「月が追いかけてくるのはなぜ?」(2024年5月21日)。https://tenki.jp/suppl/tenkijp_labo/2024/05/21/32458.html (近い景色と月の対比、地球1周との比較について)
- 理科年表オフィシャルサイト「月までの距離はどのように測定するのか」。https://official.rikanenpyo.jp/posts/6645 (平均距離と月レーザー測距、誤差について)
- 国立天文台「地球に最も近い満月(2020年4月)」。https://www.nao.ac.jp/astro/sky/2020/04-topics01.html (月の距離の変化幅と視直径について)
- 国立天文台「月や太陽が大きく見えるのはなぜ?」。https://www.nao.ac.jp/faq/a0202.html (地平線の月の錯覚、五円玉での確かめ方、原因が未解明であることについて)
- Binocular disparity as an explanation for the moon illusion (arXiv:1301.2715)。https://arxiv.org/abs/1301.2715 (両眼視差にもとづく一つの仮説について。査読前)
- Suzuki (2007), Japanese Psychological Research。https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/j.1468-5884.2007.00332.x (見かけの距離説についての紹介。検索抜粋のみ確認)
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