このサイトは、ほんの入り口です

ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

筋肉きんにくが ちぢむ とき、なかの 糸は ちぢんで いる?

縮む筋肉の中で、糸は縮んでいない ── ミオシンとアクチンの綱引き

筋収縮の滑り説 ── ミオシン・アクチンとATP、カルシウムによる調節

分野:からだ

うでの 筋肉きんにくが ちぢむ とき、なかの 太い おびの 長さは、かわりませんでした。ちぢむのに、ちぢんで いない ところが あるのです。

では、なにが おきて いるのでしょう。ミオシンと アクチンという 2しゅるいの 糸の 動きと、ATPと カルシウムの 役わりが わかります。

ひじを曲げて力こぶを作るとき、筋肉は縮みます。ところが、1954年の研究では、縮んだ筋肉の中にある太い帯の長さは変わっていませんでした[2]。

縮んでいるのに、縮んでいない部分がある。これはどういうことでしょうか。ミオシンとアクチンという2種類の糸の動き、力のもとであるATPの意外な役割、その動きを合図する江橋節郎さんの発見が分かります。

1954年、縮む筋肉の中で、ミオシンを含む太い帯(A帯)の長さが変わらないことが示された。筋節が短くなっても、A帯の長さは変わらなかった[2]。糸そのものが縮むのではないなら、何が短くなっているのか。

答えは、2種類のフィラメントが滑り合う仕組み(滑り説)にある。ATPが引く動作だけでなく離す動作にも必要な理由、東京大学の江橋節郎らが見つけたカルシウムによる調節、ミオシン1分子の動きを測った実験までが分かる。

読み方を切り替えられます。画面の上にある「よみかた」のボタンで、小学校低学年むけ・小学校高学年むけ・中学生むけの3つの書き方に切り替わります。むずかしいと思ったら、いつでもやさしい方に戻ってください。選んだ読み方はブラウザが覚えているので、次に別の記事を開いたときも同じ読み方で始まります。

1. ちぢむのに、なかの おびが ちぢまないって、どういうこと?

1. 縮んでいるのに、太い帯の長さが変わらない

1. 1954年の2本の論文 ── A帯が一定という観察

ひじを まげて、力こぶを さわって みましょう。かたく もりあがります。この とき、筋肉きんにくは ちぢんで います。

でも、1954ねん、ある 研究では、ちぢんだ 筋肉きんにくの なかの 太い おびの 長さは、かわって いませんでした。ちぢんだ 分は、ほそい 糸が 太い おびの あいだに すべりこんだ から、と 考えられました[2]。

この ことは、2つの グループが ちがう 場所で 調べ、おなじ 号の ざっしに ならんで のりました。2人の ハクスリーさんは、しんせきでは ありません[1]。

では、太い 糸と ほそい 糸の 正体は、なんでしょう。

1954年5月22日号の科学雑誌『Nature』に、2本の論文が並んで載りました。アンドリュー・ハクスリーとニーダーゲルケの組と、ヒュー・ハクスリーとハンソンの組です。別々のグループで、2人のハクスリーは親戚ではありません[1]。

ヒュー・ハクスリーらの観察では、縮む筋原線維の節(筋節)が短くなっても、ミオシンを含む太い帯(A帯)の長さは同じでした。縮んだ分は、細いアクチンの糸がその間に入りこんだためと考えられました[2]。

糸そのものが縮むのではなく、糸が滑り合って重なりが増える。この「滑り説」が生まれました。では、その2種類の糸は何でできているのでしょうか。

1954年5月22日号のNatureには、A.ハクスリーとニーダーゲルケ、H.ハクスリーとハンソンの2組の論文が連続して載り、筋収縮は糸(フィラメント)の滑りで起こるという説が示された。2組は別グループで、2人のハクスリーに血縁はない[1]。

決め手になった観察は、縮む筋原線維で筋節が短くなってもA帯の長さが変わらない、という点だ。フィラメント自体の長さが変わらず、アクチンがA帯の中へ入りこむ度合いが増えたと解釈できる[2]。

では、滑る2種類の糸の実体は何か。次は、アクチンの発見の経緯を見ていく。

2. 2つの 糸は、どうやって 見つかった?

2. アクチンの発見と、体の外で縮む糸

2. 1942年セゲドの研究室 ── アクチンの発見とATPの効果

1942ねん、ハンガリーの セゲドという まちの 研究しつで、ふしぎな ことが わかりました。「ミオシンB」と 名づけられた ものは、ミオシンAと、もう ひとつの ものが くっついた 物でした。この もう ひとつが、アクチンです[3]。

この あと、筋肉きんにくから とり出した 糸に、ATPの はいった えきを 入れると、糸が ちぢみました[3]。

セント=ジョルジさんは、ガラスの 入れ物の なかで 糸が ちぢむ ところを はじめて 見た ときを、いちばん わくわくした しゅんかんの ひとつと、後で 話して います[3]。

時間をさかのぼります。1942年、ハンガリーのセゲドにあるセント=ジョルジ研究室で、「ミオシンB」と呼ばれていた物質が、ミオシンAともう1つの物質の化合物だと分かりました。この物質が「アクチン」と名づけられ、ストラウブがきれいに取り出しました[3]。

取り出した糸に、ATPをふくむ筋肉の抽出液を加えると、糸が縮みました。抽出液にあらためてATPを足すと、縮む働きがもどったといいます。セント=ジョルジは後年(1963年)、これを初めて見たときを、最も胸が高鳴った瞬間の1つとして振り返っています[3]。動く筋肉の部品を、体の外の実験で縮ませられたということです。

では、糸はどうやって引き合うのでしょうか。

セゲドのセント=ジョルジ(Szent-Györgyi)の研究室で、1942年、ミオシンBがミオシンAと別の物質の化合物だと分かり、その物質がアクチンと名づけられた。ストラウブ(Straub)が精製した[3]。

精製した糸に筋肉の水抽出液を加えると糸が縮み、抽出液に新しいATPを加えると収縮する働きが戻った。セント=ジョルジ自身が、試験管の中で初めてこの収縮を見た瞬間を最も感動した場面の1つとして回想している(1963年、引用は二次資料経由)[3]。

ここで、ATPが収縮の直接の引き金になりうることが示された。では、ミオシンとアクチンは、どんな動作で滑りを生むのか。

3. ミオシンの 頭が、アクチンを 引く

3. ミオシンの頭が「つかむ・引く・離す」をくり返す

3. クロスブリッジの周期 ── 結合・引き込み・解離

ミオシンの 糸には、小さな つきでた ところが あります。これが、アクチンの 糸に くっついて、ぐいっと 引き、また はなれます[1]。

これを くりかえして、アクチンの 糸を すこしずつ、ミオシンの 糸の あいだへ 引きこみます。ロープを、手を もちかえながら たぐりよせる のと にて います。ただし、本当の ミオシンは、目に 見えない ほど 小さな 糸の 上で はたらきます。

この 動きに、ATPが かかわって います[1]。

ミオシンの糸には、突き出た部分(クロスブリッジ)があります。これがアクチンの糸にくっつき、引き、離れる動作をくり返すことで、滑りが起こると説明されています。ATPがくっつくと離れ、ATPが分解されるとまたくっついて引く、という順番です[1]。

ロープを手たぐりで引き寄せるとき、片手で引く、離して持ちかえる、また引く、をくり返すのと似ています。ただし、ミオシンは手のように大きく動くわけではなく、はるかに小さな分子の動きです。

ここで気づく点があります。ATPは「引く」ためだけに使われるのでしょうか。それとも、別の役割もあるのでしょうか。

滑りは、ミオシンの突起(クロスブリッジ)が、アクチンフィラメントへの結合と解離を周期的にくり返すことで起こると説明される[1]。ATPが結合すると解離し、ATPの分解を経て再び結合して引く、という段階に分かれる。

1回の周期で進む距離は小さい。多数のクロスブリッジが繰り返し働くことで、筋節全体の短縮になると考えられる。

この周期のなかで、ATPは結合・引き込みだけに使われるのか。次の章の死後硬直の例が、その手がかりになる。

4. ATPは、「はなす」ためにも いる

4. ATPが切れると、手が離れなくなる ── 死後硬直

4. ATPの第2の役割 ── クロスブリッジの解離と死後硬直

おどろく ことが あります。ATPは、引く ためだけでなく、ミオシンが アクチンから はなれる ためにも いります[4]。

ATPが なくなると、ミオシンと アクチンは くっついた ままに なります。生きものが なくなった あと、からだが かたく なる「死後こうちょく」は、この せいと いわれます。あたらしい ATPが くっつくと、ミオシンの 手が はなれます[4]。

かたく なる ようすは、まわりの おんどなどで ちがいます[4]。

ATPは、引くだけでなく、手を離すためにも必要です。ATPが無くなると、ミオシンとアクチンは結びついたままになります。新しいATPがミオシンに結合すると、クロスブリッジが外れます[4]。

亡くなった後に体がかたくなる「死後硬直」は、筋肉の中のATPが尽きて、糸が結びついたままになることで起こると説明されています。かたくなり始める時刻や緩む時刻は、環境や個体によって変わります[4]。

生きている筋肉は、ATPを補いながら「つかむ・引く・離す」を続けているわけです。では、いつ縮み、いつ休むかは、だれが決めているのでしょうか。

ATPは、収縮の力源であるだけでなく、ミオシンをアクチンから外す働きも持つ。ATPが枯渇すると、ミオシンとアクチンは結合したままになる。新しいATPが結合すると、クロスブリッジが解離する[4]。

死後硬直は、この性質から説明される。筋肉中のATPが枯渇し、クロスブリッジが外れなくなるためだ。硬直が始まる時刻や緩む時刻は、環境や個体によって変わる[4]。

ATPがあれば、引いて離す周期がいつでも回るのなら、筋肉はずっと縮み続けかねない。「縮む・休む」を切り替える合図が要る。

5. 「ちぢめ」の 合図は、カルシウム

5. 江橋節郎さんが見つけたカルシウムの合図

5. カルシウムによる調節 ── 江橋節郎らの発見とトロポニン

ミオシンが いつ 引くか、合図を 出して いる ものが あります。それが カルシウムです。

うでや あしの 筋肉きんにくや 心ぞうは、細ぼうの なかの カルシウムの りょうが かわる ことで、ちぢんだり ゆるんだり します。この しくみは、1960ねんだいに、東京大学の えばし せつろうさんたちが 見つけました[5]。

カルシウムが ないとき、トロポニンと トロポミオシンという ものが、ミオシンと アクチンの 引きあいを おさえて います。カルシウムが くっつくと、おさえが はずれて、ちぢみます[6]。

骨格筋や心臓の収縮は、細胞の中のカルシウムイオンの濃度が変わることで調節されています。この現象は、1960年代に東京大学医学部の江橋節郎さんらによって発見されました[5]。

トロポニンも、このとき江橋さんらが見つけました。トロポニンはトロポミオシンと一緒に、カルシウムが無いときはミオシンとアクチンの引き合いを抑えます。カルシウムが結合すると、その抑えが外れて収縮が起こります[6]。発見年は、1960年代、または1965年と、出典によって表現が違います。

筋肉の収縮を調節するカルシウムの働きを見つけたのが、日本の研究者でした。では、糸の引き合いの1回分は、どれくらいの大きさなのでしょうか。

骨格筋と心筋の収縮は、細胞内のカルシウムイオン濃度の変化で調節される。この現象は、1960年代に東京大学医学部の江橋節郎(えばしせつろう)らが発見した(JST、2003年)[5]。

調節の担い手がトロポニンだ。トロポミオシンとともに、Ca2+が無いときはミオシンとアクチンの相互作用を抑え、Ca2+が結合すると抑制が解除されて収縮が起こる。発見の年は出典により1960年代、1965年などと表現が分かれる[6]。

収縮には、ATPの供給に加えて、Ca2+による調節も関わる。では、その引き合いの一歩は、実際にどれほどの大きさなのか。

6. ミオシン 1こが 動く 大きさを はかった

6. 光のピンセットでミオシン1分子の動きを測る

6. 1分子計測(1994)── 平均約11 nmの段階的な動き

1994ねん、フィナーさんたちは、光の ピンセットという 道具で、ミオシン 1こ 分の 動きを はかりました。

ミオシンは、へいきんすると およそ11ナノメートル ずつ、階だん のように 動いたと いわれて います。1ミリメートルの およそ 9万分の 1です。力は、およそ 3〜4ピコニュートン、とても 小さな 力でした[7]。

ただし、11ナノメートルは いつもの ことでは ありません。1回ごとの 動きが、いつも 同じ 大きさとは かぎりません。

1994年、フィナー、シモンズ、スパディックらは、光ピンセットを使って、ミオシン1分子の動きを測りました。負荷が小さいとき、平均約11nmの段階的な動きが見られ、力を測る条件では、平均3〜4pNの力が記録されたと報告されています[7]。

11nmは、1mmの約9万分の1です。この数字は平均で、1回ごとの動きが常に同じとは限りません。

糸が滑り合い、ATPが引くだけでなく離すためにも使われ、カルシウムが合図を出す。筋肉の大きな流れが、目に見えない分子の動きまでつながりました。

Finer、Simmons、Spudichは、光ピンセットでミオシン1分子の運動と力を測定した(Nature、1994)。低負荷では平均約11 nmの段階的な変位を、等尺条件では平均3〜4 pNの力を記録した[7]。11 nmは1 mmの約9万分の1にあたる(1 mm=10の6乗nmとして計算)。

数値は平均で、1回の動きが常に同じ大きさとは限らない。

糸の滑りを見た顕微鏡の観察から、1分子の一歩を測る実験へ。同じ現象を、大きさを変えて見ていく研究がつながっている。

7. ロープで、ミオシンの まねを して みよう

7. 手たぐりで、「つかむ・引く・離す」を体験する

7. 出口 ── 手たぐりの体験と、原典への案内

ながい ひもを、つくえの 上に まっすぐ おきます。ひもの はしを 手で もちます。

ひもを ぎゅっと つかんで、ひきよせ、ぱっと はなして、また つかんで、ひきます。この くりかえしで ひもが すこしずつ 手もとに きます。ミオシンの 動きに 少し にた、たとえの あそびです。

「つかむ」「引く」「はなす」の 3つを、ゆっくり 数えて みましょう。

長めのひもを机の上にまっすぐ置いて、片手でたぐり寄せてみてください。「つかむ→引く→離す」をゆっくりくり返して手もとへ寄せます。ミオシンの頭がやっていることの、ざっくりしたたとえです。

原典に当たるなら、江橋節郎さんらの発見を紹介した科学技術振興機構(JST)の発表が、日本語で読めます[5]。

長めのひもを机の上に置き、片手で「つかむ・引く・離す」を繰り返して手もとへ引き寄せてみる。あくまでクロスブリッジの動きのたとえだ。

原典に当たるなら、日本語で読める科学技術振興機構(JST)の発表[5]から入るとよい。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

出典について:滑り説と1954年論文は、ウィキペディアと生物物理学会の解説で突き合わせた。アクチンの発見は論文の解説記事、死後硬直は辞典項目、カルシウムの合図はJSTの発表と関連論文の要約、1分子の実験はNature論文の二次資料による。数値は、筆者が1mm=100万nmとして計算した。

  1. "Sliding filament theory," Wikipedia. https://en.wikipedia.org/wiki/Sliding_filament_theory (1954年のNature論文と、クロスブリッジのくり返しについて)
  2. Biophysical Society, "Muscle contraction and sliding filaments." https://biophysics.org/blog/muscle-contraction-and-sliding-filaments (A帯の長さが変わらないという観察について)
  3. アクチン発見の経緯を解説した記事(PubMed Central)。 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7109165 (1942年のセゲドの研究室での発見とATPの効果について)
  4. 「死後硬直」辞典項目。 https://www.tkgje.jp/entries/23500/23657_shigokouchoku.html (ATPが尽きたときの死後硬直について)
  5. 科学技術振興機構(JST)発表(2003年7月)。 https://www.jst.go.jp/pr/announce/20030703/index.html (江橋節郎らによるカルシウム調節の発見について)
  6. トロポニンとカルシウムによる収縮の調節を扱った論文(PubMed Central)。 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1334730/ (トロポニンとトロポミオシンの働きについて)
  7. Finer, Simmons, Spudich, Nature 368:113 (1994). https://www.nature.com/articles/368113a0 (ミオシン1分子の動きと力の測定について)

なおした ところ

更新履歴

更新履歴(改版の記録)

  •  初版を公開。

このサイトでは、公開した記事の本文は原則として書き直しません。誤りが見つかったときや、内容が古くなったときだけ手を入れ、その理由をこの欄に残します。