1. ちぢむのに、なかの おびが ちぢまないって、どういうこと?
1. 縮んでいるのに、太い帯の長さが変わらない
1. 1954年の2本の論文 ── A帯が一定という観察
ひじを まげて、力こぶを さわって みましょう。かたく もりあがります。この とき、筋肉は ちぢんで います。
でも、1954ねん、ある 研究では、ちぢんだ 筋肉の なかの 太い おびの 長さは、かわって いませんでした。ちぢんだ 分は、ほそい 糸が 太い おびの あいだに すべりこんだ から、と 考えられました[2]。
この ことは、2つの グループが ちがう 場所で 調べ、おなじ 号の ざっしに ならんで のりました。2人の ハクスリーさんは、しんせきでは ありません[1]。
では、太い 糸と ほそい 糸の 正体は、なんでしょう。
2. 2つの 糸は、どうやって 見つかった?
2. アクチンの発見と、体の外で縮む糸
2. 1942年セゲドの研究室 ── アクチンの発見とATPの効果
1942ねん、ハンガリーの セゲドという まちの 研究しつで、ふしぎな ことが わかりました。「ミオシンB」と 名づけられた ものは、ミオシンAと、もう ひとつの ものが くっついた 物でした。この もう ひとつが、アクチンです[3]。
この あと、筋肉から とり出した 糸に、ATPの はいった えきを 入れると、糸が ちぢみました[3]。
セント=ジョルジさんは、ガラスの 入れ物の なかで 糸が ちぢむ ところを はじめて 見た ときを、いちばん わくわくした しゅんかんの ひとつと、後で 話して います[3]。
時間をさかのぼります。1942年、ハンガリーのセゲドにあるセント=ジョルジ研究室で、「ミオシンB」と呼ばれていた物質が、ミオシンAともう1つの物質の化合物だと分かりました。この物質が「アクチン」と名づけられ、ストラウブがきれいに取り出しました[3]。
取り出した糸に、ATPをふくむ筋肉の抽出液を加えると、糸が縮みました。抽出液にあらためてATPを足すと、縮む働きがもどったといいます。セント=ジョルジは後年(1963年)、これを初めて見たときを、最も胸が高鳴った瞬間の1つとして振り返っています[3]。動く筋肉の部品を、体の外の実験で縮ませられたということです。
では、糸はどうやって引き合うのでしょうか。
3. ミオシンの 頭が、アクチンを 引く
3. ミオシンの頭が「つかむ・引く・離す」をくり返す
3. クロスブリッジの周期 ── 結合・引き込み・解離
ミオシンの 糸には、小さな つきでた ところが あります。これが、アクチンの 糸に くっついて、ぐいっと 引き、また はなれます[1]。
これを くりかえして、アクチンの 糸を すこしずつ、ミオシンの 糸の あいだへ 引きこみます。ロープを、手を もちかえながら たぐりよせる のと にて います。ただし、本当の ミオシンは、目に 見えない ほど 小さな 糸の 上で はたらきます。
この 動きに、ATPが かかわって います[1]。
ミオシンの糸には、突き出た部分(クロスブリッジ)があります。これがアクチンの糸にくっつき、引き、離れる動作をくり返すことで、滑りが起こると説明されています。ATPがくっつくと離れ、ATPが分解されるとまたくっついて引く、という順番です[1]。
ロープを手たぐりで引き寄せるとき、片手で引く、離して持ちかえる、また引く、をくり返すのと似ています。ただし、ミオシンは手のように大きく動くわけではなく、はるかに小さな分子の動きです。
ここで気づく点があります。ATPは「引く」ためだけに使われるのでしょうか。それとも、別の役割もあるのでしょうか。
滑りは、ミオシンの突起(クロスブリッジ)が、アクチンフィラメントへの結合と解離を周期的にくり返すことで起こると説明される[1]。ATPが結合すると解離し、ATPの分解を経て再び結合して引く、という段階に分かれる。
1回の周期で進む距離は小さい。多数のクロスブリッジが繰り返し働くことで、筋節全体の短縮になると考えられる。
この周期のなかで、ATPは結合・引き込みだけに使われるのか。次の章の死後硬直の例が、その手がかりになる。
4. ATPは、「はなす」ためにも いる
4. ATPが切れると、手が離れなくなる ── 死後硬直
4. ATPの第2の役割 ── クロスブリッジの解離と死後硬直
おどろく ことが あります。ATPは、引く ためだけでなく、ミオシンが アクチンから はなれる ためにも いります[4]。
ATPが なくなると、ミオシンと アクチンは くっついた ままに なります。生きものが なくなった あと、からだが かたく なる「死後こうちょく」は、この せいと いわれます。あたらしい ATPが くっつくと、ミオシンの 手が はなれます[4]。
かたく なる ようすは、まわりの おんどなどで ちがいます[4]。
5. 「ちぢめ」の 合図は、カルシウム
5. 江橋節郎さんが見つけたカルシウムの合図
5. カルシウムによる調節 ── 江橋節郎らの発見とトロポニン
ミオシンが いつ 引くか、合図を 出して いる ものが あります。それが カルシウムです。
うでや あしの 筋肉や 心ぞうは、細ぼうの なかの カルシウムの りょうが かわる ことで、ちぢんだり ゆるんだり します。この しくみは、1960ねんだいに、東京大学の えばし せつろうさんたちが 見つけました[5]。
カルシウムが ないとき、トロポニンと トロポミオシンという ものが、ミオシンと アクチンの 引きあいを おさえて います。カルシウムが くっつくと、おさえが はずれて、ちぢみます[6]。
6. ミオシン 1こが 動く 大きさを はかった
6. 光のピンセットでミオシン1分子の動きを測る
6. 1分子計測(1994)── 平均約11 nmの段階的な動き
1994ねん、フィナーさんたちは、光の ピンセットという 道具で、ミオシン 1こ 分の 動きを はかりました。
ミオシンは、へいきんすると およそ11ナノメートル ずつ、階だん のように 動いたと いわれて います。1ミリメートルの およそ 9万分の 1です。力は、およそ 3〜4ピコニュートン、とても 小さな 力でした[7]。
ただし、11ナノメートルは いつもの ことでは ありません。1回ごとの 動きが、いつも 同じ 大きさとは かぎりません。
1994年、フィナー、シモンズ、スパディックらは、光ピンセットを使って、ミオシン1分子の動きを測りました。負荷が小さいとき、平均約11nmの段階的な動きが見られ、力を測る条件では、平均3〜4pNの力が記録されたと報告されています[7]。
11nmは、1mmの約9万分の1です。この数字は平均で、1回ごとの動きが常に同じとは限りません。
糸が滑り合い、ATPが引くだけでなく離すためにも使われ、カルシウムが合図を出す。筋肉の大きな流れが、目に見えない分子の動きまでつながりました。
Finer、Simmons、Spudichは、光ピンセットでミオシン1分子の運動と力を測定した(Nature、1994)。低負荷では平均約11 nmの段階的な変位を、等尺条件では平均3〜4 pNの力を記録した[7]。11 nmは1 mmの約9万分の1にあたる(1 mm=10の6乗nmとして計算)。
数値は平均で、1回の動きが常に同じ大きさとは限らない。
糸の滑りを見た顕微鏡の観察から、1分子の一歩を測る実験へ。同じ現象を、大きさを変えて見ていく研究がつながっている。
7. ロープで、ミオシンの まねを して みよう
7. 手たぐりで、「つかむ・引く・離す」を体験する
7. 出口 ── 手たぐりの体験と、原典への案内
ながい ひもを、つくえの 上に まっすぐ おきます。ひもの はしを 手で もちます。
ひもを ぎゅっと つかんで、ひきよせ、ぱっと はなして、また つかんで、ひきます。この くりかえしで ひもが すこしずつ 手もとに きます。ミオシンの 動きに 少し にた、たとえの あそびです。
「つかむ」「引く」「はなす」の 3つを、ゆっくり 数えて みましょう。
長めのひもを机の上にまっすぐ置いて、片手でたぐり寄せてみてください。「つかむ→引く→離す」をゆっくりくり返して手もとへ寄せます。ミオシンの頭がやっていることの、ざっくりしたたとえです。
原典に当たるなら、江橋節郎さんらの発見を紹介した科学技術振興機構(JST)の発表が、日本語で読めます[5]。
長めのひもを机の上に置き、片手で「つかむ・引く・離す」を繰り返して手もとへ引き寄せてみる。あくまでクロスブリッジの動きのたとえだ。
原典に当たるなら、日本語で読める科学技術振興機構(JST)の発表[5]から入るとよい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:滑り説と1954年論文は、ウィキペディアと生物物理学会の解説で突き合わせた。アクチンの発見は論文の解説記事、死後硬直は辞典項目、カルシウムの合図はJSTの発表と関連論文の要約、1分子の実験はNature論文の二次資料による。数値は、筆者が1mm=100万nmとして計算した。
- "Sliding filament theory," Wikipedia. https://en.wikipedia.org/wiki/Sliding_filament_theory (1954年のNature論文と、クロスブリッジのくり返しについて)
- Biophysical Society, "Muscle contraction and sliding filaments." https://biophysics.org/blog/muscle-contraction-and-sliding-filaments (A帯の長さが変わらないという観察について)
- アクチン発見の経緯を解説した記事(PubMed Central)。 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7109165 (1942年のセゲドの研究室での発見とATPの効果について)
- 「死後硬直」辞典項目。 https://www.tkgje.jp/entries/23500/23657_shigokouchoku.html (ATPが尽きたときの死後硬直について)
- 科学技術振興機構(JST)発表(2003年7月)。 https://www.jst.go.jp/pr/announce/20030703/index.html (江橋節郎らによるカルシウム調節の発見について)
- トロポニンとカルシウムによる収縮の調節を扱った論文(PubMed Central)。 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1334730/ (トロポニンとトロポミオシンの働きについて)
- Finer, Simmons, Spudich, Nature 368:113 (1994). https://www.nature.com/articles/368113a0 (ミオシン1分子の動きと力の測定について)
なおした ところ
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