1. 「めを とじる」って、どういう こと?
1. 近視の名前は、目を細める人から生まれた
1. 「目を閉じる」という名前 ── 古代ギリシャの記録
ずっと むかし、ギリシャの アリストテレスと いう 人の なまえで つたわる ぶんしょうに、ものを 見る とき めを ほそめる 人が でて きます。かおを ちかづけて よむ 人の ことも かかれて いました。[1]
めを ほそめると、ひかりの とおる みちが せまく なります。すると、ぼやけが すこし ちいさく なる ことが あります。でも、ほそめて 見るのは、その ときだけの ことです。やめると、また ぼやけます。
むかしの 人にも 近視は ありました。ただ、そのころ どれくらい 多かったのかは、はっきり しません。では、めの なかでは、なにが おきて いるのでしょうか。
近視を意味する英語の myopia は、古代ギリシャ語で「閉じる」を意味する言葉と、「目」を意味する言葉が合わさってできました。紀元前4世紀ごろ、アリストテレスの名で伝わる文章に、この言葉が出てきます。目を細める人、まばたきの多い人、顔を近づけて読み、小さな字を書く人のことが書かれていました[1]。
目を細めるのは、まぶたで光の通り道をせまくするしぐさです。針であけた小さな穴から見ると輪郭がはっきりする、ピンホールカメラと同じ考え方で、ピントがずれていても、にじみが小さくなります。ただし、目を細めるのは一時しのぎで、やめればまたぼやけます。
近視の人は、2300年前にもいました。ただ、当時どのくらい多かったのかは、この文章からは分かりません。では、目の中でピントはどこにずれているのでしょうか。次は、ぼやけるしくみを見ていきましょう。
医学史の論文(de Jong、2018年)によると、myopia のもとになった古代ギリシャ語は、「閉じる」(muein)と「目」(ops)を合わせた語で、紀元前4世紀ごろにアリストテレスが使った。アリストテレスは、飛び出た目、まばたきの多さ、まぶたを細めること、顔を近づけて読むこと、小さな字を書くことを、近視と結びつけて書いたという[1]。
目を細めるしぐさには、光学的な意味がある。光の通り道が細くなると、焦点が網膜からずれていても、網膜の上に広がる光の束が細くなって、にじみが小さくなる。針であけた穴から見る、ピンホールカメラの原理と同じだ。ただし効果は、細めているあいだだけで、やめれば元のぼやけに戻る。
皇帝ネロが、凹面のエメラルドをのぞいて剣闘士の試合を見た、という話もよく引かれる。ただしこの論文は、当時、凹面のエメラルドがあったとは考えにくいと書く[1]。近視を直すための凹レンズについては、1517年にラファエロが凹レンズを持つ教皇レオ10世を描いたこと、1554年にマウロリコが、近視は凹レンズで、遠視は凸レンズで直せると区別したことを、同じ論文が紹介している[1]。
名前は2300年前からあるのに、目の中で何が起きているのかが分かってきたのは、それよりずっとあとだ。次は、ぼやけるしくみから見ていく。
2. どうして とおくが ぼやけるの? めの ながさは「1ミリ」で かわる
2. 遠くがぼやけるわけ ── 目の長さが1ミリ変わると
2. 焦点が網膜の手前に来るとき ── 眼軸長1ミリの意味
めは、ひかりを まげて、おくの 網膜に、ものの すがたを うつして います。ピントが あうと、はっきり 見えます。
近視の めは、まえから うしろへの ながさが、すこし ながいです。ピントが あう ところが、網膜の すこし てまえに なります。だから、ちかくの ものは 見えるのに、とおくの ものは ぼやけます。[2][3]
おとなの めの ながさは、およそ 24ミリです。この ながさが 1ミリ ちがうだけで、めがねの かずが 3くらい かわる ことが あります。[4]
たとえば、プロジェクターで えを かべに うつす とき、かべが うしろへ さがって しまうと、ぼやけます。近視の めは、かべ(網膜)が すこし うしろに ある ような ものです。ただし ほんとうは、めの なかの レンズは、あつさを かえて ピントを あわせて います。それでも、近視の めは、とおくには ピントが とどきません。では、めは どうして のびて しまうのでしょうか。ヒントは、ヒヨコの じっけんに あります。
目は、角膜と水晶体という2つのレンズで光を曲げて、奥の網膜に像を結びます。近視の目は、光のピントが網膜より手前で合ってしまいます。日本近視学会は、その原因は主に眼軸長(目の前後の長さ)が長いことで、レンズの強さのちがいは少ないと考えられる、と説明しています[2]。
だから、近くのものにはピントが合い、遠くのものはぼやけます[3]。ぼやけずに見える限界の距離は、近視の度数で決まります。度数が−1なら約1メートル、−3なら約33センチです。マイナスをとった数で1を割った計算で、めやすにすぎませんが、度数が大きい目ほど、見える範囲が手元に近づきます。
大人の眼球の長さは、およそ23〜24ミリです[5]。眼軸長が、角膜と水晶体の強さに対して1ミリ長すぎると、およそ−3の近視になる、と研究者は書いています[4]。1ミリは、眼球の長さの約4%です。ほんの少しの長さのちがいで、見え方が大きく変わります。
眼球は、子どものあいだにも自然にのびます。小学1年生でおよそ22〜23ミリ、大人までに23〜24ミリになります[5]。ヨーロッパの調査では、6歳の平均が22.4ミリ、大人の平均が23.7ミリでした[6]。
近視の子どもでは、この伸びが速くなります。国際近視研究所(IMI)の報告書は、ふつうの成長での伸びをおよそ年0.1ミリ、近視が進むときは年0.2〜0.3ミリと書いています。しかも、伸びがいちばん速いのは、近視と診断される前の1年のようです。近視になる3年ほど前から、なったあとの5年ほどにかけて、伸びが大きいです[7]。では、目はなぜ、必要以上にのびるのでしょうか。手がかりは、ヒヨコの実験にあります。
目は、角膜と水晶体で光を屈折させ、網膜に焦点を結ぶ。近視は、遠方からの光が網膜の手前に焦点を結ぶ状態で、近くのものにはピントが合うが、遠くのものはぼやける[2][3]。焦点の位置は、角膜と水晶体の屈折力と、レンズ前面から網膜までの距離(眼軸長)で決まる。日本近視学会は、近視の原因は主に眼軸長が長いことで、レンズ系の影響は少ないと考えられている、と説明する[2]。ここでいう近視の多くは、眼軸長が過度にのびる「軸性近視」だ[3]。
数字にすると、こうなる。大人の眼軸長はおよそ23〜24ミリで[5]、屈折力に対して眼軸長が1ミリ長すぎると、およそ−3D(ディオプター)の近視になるとされる[4]。1ミリは、眼球の長さの約4%だ。近視は、目の長さが数%ずれただけで起きる。
近視の度数は、ぼやけずに見える限界の距離にも結びつく。ピントを合わせる力を使わないときの、遠点(はっきり見える最も遠い点)の距離は、およそ1÷度数(メートル。度数はマイナスをとった数)になる。次の表は、この単純な計算のめやすだ。実際の見え方は、目のピント合わせや乱視、メガネと目の距離などでも変わる。表の−0.5Dは、子どもでは、ピント合わせの力をゆるめる薬を使った検査での値が診断の基準になるので、メガネの度数から距離を計算する表とは別の話だ。
| 近視の度数 | 限界の距離のめやす(1÷度数) |
|---|---|
| −0.5D(近視の診断の基準になる度数)[19] | 約2m |
| −1D | 約1m |
| −3D | 約33cm |
| −6D(強度近視の基準)[19] | 約17cm |
眼軸長は、生まれてからのびる。文部科学省の調査報告書は、小学1年生の眼軸長をおよそ22〜23ミリ、成人までに23〜24ミリとする[5]。ヨーロッパの3つの調査を合わせた研究では、6歳の平均が22.36ミリ、大人の平均が23.67ミリだった[6]。6歳の子どもの平均と、大人の平均の差は、およそ1.3ミリだ。同じ人を追いかけた数字ではない。
近視のある子どもでは、のび方がちがう。IMIの臨床ガイドラインは、正常な成長ではおよそ年0.1ミリ、近視が進むときは年0.2〜0.3ミリと書く。さらに、近視になる子の眼軸は、近視になる約3年前から、なったあとの約5年後まで、そうでない子より大きくのびる。のびがもっとも速いのは、近視になる前の年らしい[7]。ぼやけて気づく前から、目はすでにのび始めている。
では、目はなぜ、必要以上にのびるのか。それを知る手がかりは、ヒヨコの実験にある。
3. めは、ぼやけを 見て、ながさを きめて いるの?
3. ヒヨコの実験 ── 目は、ぼやけを手がかりに長さを決めている
3. 目の成長を調節するフィードバック ── ヒヨコの実験(1987〜1988年)
ヒヨコの めに、ちいさな レンズを つけて そだてる じっけんが あります。マイナスの レンズを つけた めは、プラスの レンズを つけた めより、ながく なりました。[8]
また、ヒヨコの めが ぼやけて 見える ように して そだてると、めは とても ながく のびました。[9]
めは、ぼやけを てがかりに、どれくらい のびるかを きめて いる ようです。ただし ほんとうは、ヒヨコの めと 人の めは ちがいます。ヒヨコの けっかが、そのまま 人の こどもに あてはまる とは かぎりません。では、いちど のびた めは、もとに もどるのでしょうか。
目は、ただ大きくなるわけではありません。生まれたばかりの目は、ピントが網膜の後ろに合う遠視ぎみで、成長しながら、網膜の上にピントが合う長さに近づきます[7]。目の成長は、ほかの臓器と同じように、ちょうどよい状態を保つしくみで調節されています。ただし目では、その手がかりに「見ること」を使います[10]。
1988年の実験では、ヒヨコの頭に小さな革の頭巾をかぶせ、目の前にレンズを取りつけました。ヒヨコがピント合わせで補える強さのレンズでした。すると、目のピントの状態が、レンズをはずしても、レンズの効果を打ち消す向きにずれました。マイナスのレンズをつけた目は、プラスのレンズをつけた目より、眼球の後ろ側が長くなりました。しかも、角膜の曲がりのせいではありませんでした[8]。
1987年の実験では、像がぼやけるようにして(視覚を遮って)ヒヨコを育てると、眼球の中の硝子体腔(水晶体の後ろの空間)がのびて、強い近視になりました。この反応は、若いヒヨコほど速く起き、年をとるにつれて起きにくくなりました[9]。
どちらの論文も、目が「ぼやけ」を手がかりにして、自分の成長を調節している、という考えを支持しました[8][9]。ただし、ヒヨコと人は同じではありません。人の子どもの目が、ぼやけをどうやって見つけ、どんな信号で成長を変えるのかは、まだ研究が続いています。では、いったんのびた眼球は、もとに戻るのでしょうか。
目は、ただ大きくなるのではない。IMIの報告書によれば、正視化(emmetropization)とは、成長して長くなる眼軸長を、角膜と水晶体の焦点距離に合わせていく過程だ[7]。Wallman らのレビュー(2004年)は、目の成長は他の器官と同じように恒常性の調節を受けるが、目は、その主な入力に「視覚」を使う、と書く[10]。
1988年、Schaeffel らは、ヒヨコの頭に薄い革の頭巾をかぶせ、目の前にさまざまな強さのレンズを取りつけた。レンズは、ヒヨコが調節で補える強さにした。赤外線を使う検査(フォトレチノスコピー)で、ヒヨコが網膜像のピントを保てていることも確かめた。それでも、レンズをつけると、屈折状態がレンズの効果を打ち消す向きにずれた。摘出した目の後方節点距離(PND)を、精度およそ±50マイクロメートルで測ると、マイナスのレンズで育てた目は、プラスのレンズで育てた目より、PNDが大きかった。この効果は両目で独立に起き、角膜の曲率の変化によるものではなかった。著者たちは、この結果を、目の成長を調節する閉ループのフィードバック系として論じた[8]。
1987年の Wallman と Adams は、視覚を遮ったヒヨコが、主に硝子体腔の伸長によって強い近視になることを報告した。近視は主に、視覚を遮られた鼻側の網膜で起き、遮られなかった側頭側の網膜は影響を受けなかった。変化は若い個体で速く、年齢とともに感受性が下がる[9]。
この2つの実験から、目は、像のぼやけに応じて自分の成長を調節している、という見方が生まれた。Wallman と Winawer は、同じレビューで、そうした調節のしくみがあるにもかかわらず、なぜ子どもの近視がこれほど多いのか、を問いとして扱う[10]。人の子どもで、ぼやけをどう検出し、どの信号が強膜の成長を変えるのかは、まだ研究が続いている。では、いったんのびた眼軸は、もとに戻るのだろうか。
4. いちど のびた めは、もとに もどるの?
4. のびた眼球は、もとに戻るのか
4. のびた眼軸は戻るのか ── ヒヨコと人のちがい、仮性近視、メガネ
ヒヨコの めは、うまれて 6しゅうかん いないに、ぼやける じょうけんを なくすと、もとに もどりました。[9]
でも、人の こどもの ばあいは、ちがいます。2019ねんに せかいの せんもんかが まとめた ほうこくしょは、「いま ある ちりょうで、近視が すすむのを ずっと とめたり、もとに もどしたり できる ものは ない」と かいて います。ただし、すすむのが とまる ことは あります。[7]
とくべつな あかい ひかりを あてる ほうほうの しけんの あとで、めの ながさが すこし みじかく なった こどもが いた、という ほうこくも あります。でも、その わけや あんぜんさは、まだ はっきり しません。[21]
「近視みたいに 見える」だけの ことも あります。めの なかの ピントを あわせる きんにくが ぎゅっと かたく なると、ちかくの ものを 見た あと、いっとき 近視のように ぼやけます。これを 「仮性近視」と いいます。眼科で しらべれば、わかります。[3]
めがねは、見え方を ととのえる ものです。めの ながさを かえる ものでは ありません。
ヒヨコでは、ぼやけた状態を生まれて6週間以内にやめると、近視が回復しました[9]。人の子どもの場合はどうでしょうか。国際近視研究所(IMI)の2019年のガイドラインには、家族への説明の例が載っています。そこには、いまある近視の進行抑制の治療で、進行を永久に止めたり、逆戻りさせたりできるものはない、と書かれています。ただし、診療で進行が止まる例が見られることもあります[7]。
治療のあとで、眼軸長の測定値が短くなったという報告もあります。赤色光を当てる治療の試験を、あとから分析した論文では、12か月の治療のあと、およそ4分の1の子どもで、眼軸長が0.05ミリを超えて短くなっていました。網膜の外側にある脈絡膜が厚くなったことでは、この短縮の約28%しか説明できませんでした[21]。この短縮が長く続くのか、安全なのかは、まだ議論の途中です。IMIの2025年の報告書も、この治療の安全性への懸念が高まっていると書いています[20]。測定値が短くなったことと、目がもとの長さへ戻ったことは、同じとは限りません。
日本の学会の手引きは、進行抑制の治療の目的を、近視の度数が過度に進むことを抑えて、将来の目の病気のリスクを減らすことだと説明しています[11]。目をもとの長さに縮める治療としては書かれていません。
進みが止まる時期はあります。眼球の成長は16歳ごろまで続きます[3]。日本人の研究から、近視の進行は10代後半から20代前半でおさまると考えられています[11]。ただし、この間の進みを止めるのは難しいです[3]。
もうひとつ、「見かけの近視」があります。ピントを合わせる筋肉(毛様体筋)が緊張しすぎて、水晶体が厚くなり、網膜より手前でピントが合ってしまう状態で、仮性近視と呼ばれます[3]。子どもはピント合わせの力が強いので、点眼で力をゆるめない検査では、近視の側にずれて出やすいです[5]。眼科では、この力をゆるめる薬を使って、正しい度数を調べます[11]。
メガネは、近視のぼやけを補って、見え方をそろえます。目の長さを変えるものではありません。ふつうの度数のメガネをかけていても、近視の子どもでは、年に0.5〜1D進むことが多い、とIMIは書いています。逆に、度数を弱くしたり、かけずにいたりしても、進みは変わらないか、むしろ速くなる可能性があります[7]。
ヒヨコでは、視覚を遮る条件を、生後6週以内に取り除くと、近視が回復した。回復は、硝子体腔の伸長が止まることで起きた[9]。人の子どもでは、話が変わる。IMIの臨床ガイドライン(2019年)は、保護者への説明の例として、「現在のどの近視抑制治療も、近視の進行を永久に止めたり、逆戻りさせたりはできない。ただし診療では、進行が止まる例が見られることがある」という趣旨を書く。単焦点のメガネやコンタクトレンズだけでは、近視の子どもは、およそ年0.5〜1.0D進む、とも書かれている[7]。
ただし、その後の研究には、治療中に眼軸長の測定値が短くなったという報告がある。赤色光を繰り返し当てる治療(RLRL)の無作為化試験を事後分析した論文(Wangら、2023年)では、12か月の治療のあと、ほぼ4分の1の子どもで眼軸長が0.05mmを超えて短くなり、対照群との差は統計的に有意だった。脈絡膜(網膜の外側にある、血管の多い層)の肥厚で説明できたのは、短縮の約28%だった[21]。この短縮が、強膜そのものの変化なのか、測定に出る変化なのか、どのくらい続くのかは、この分析だけでは決まらない。IMIの2025年の報告書は、赤色光治療について、安全性への懸念が高まっているとも書く[20]。測定値が短くなったことと、眼軸が恒久的にもとの長さへ戻る治療が確立したこととは、別の話だ。
日本の手引き(日本近視学会、2025年)も、進行抑制治療の目的を、近視度数が過度に進むことを抑えて裸眼視力と生活の質を保ち、近視性黄斑症などの眼合併症の発症リスクを下げることにあると説明する。度数の程度や眼軸長の伸長を、少しでも軽く抑えることが望ましい、という書き方で、のびた眼軸を縮める治療とは位置づけられていない[11]。
進行が止まる時期は、成長に結びついている。眼球の成長は16歳ごろまで続き、近視の進行を止めるのは難しい[3]。日本人を対象とした疫学研究から、進行は10代後半から20代前半におさまると考えられている[11]。
「見かけの近視」は、これとは別の話だ。毛様体筋が過度に緊張して水晶体が厚くなり、網膜より前に焦点を結ぶ状態を、偽(仮性)近視という[3]。子どもでは調節が入りやすく、調節麻痺薬を使わない屈折検査では、度数が近視側にずれやすい[5]。日本の手引きは、診断に、調節を麻痺させる点眼薬(シクロペントラート)を使った屈折検査を勧め、低年齢の子どもでは、偽近視や弱視ではないことを特に確認するよう書く[11]。
メガネについても、よく心配される点がある。度数を弱くする「低矯正」は、進行に影響しないか、むしろ速める可能性があるという研究をIMIは挙げていて、メガネを常時かけることを勧めている[7]。メガネは、見え方を整える道具で、眼軸長そのものを変えるものではない。
まとめると、眼軸長が恒久的にもとの長さへ戻る治療が確立した、とは、IMI(2019年)も日本の手引き(2025年)も書いていない。赤色光治療では、測定値の短縮が報告され、研究が続いている。多くの研究の目標は、いまも、のびる速さを遅くすることに向いている。
5. こどもの ころに、すすみやすいのは どうして?
5. 小学生のころに進みやすいのはなぜか
5. 学童期に進みやすい ── 眼球の成長と、学校の視力の統計
近視は、しょうがっこうの ころに はじまって、すすみやすいです。めが そだつ ときと、かさなって いる からです。[11]
はやい ねんれいで はじまるほど、あとで 強く なりやすいです。[7]
ぶんぶかがくしょうの しらべで、2025ねんど に、めがねなどを つけない しりょくが 1.0 みまんの 人は、しょうがっこうで 3わり いじょう、ちゅうがっこうで 6わり くらい、こうこうで 7わり くらい でした。がくねんが あがる ほど おおいです。[12]
この かずには、近視いがいの りゆうで 見えにくい 人も ふくまれて います。では、すすむのを おそく する ほうほうは あるのでしょうか。
眼球の成長は16歳ごろまで続きます[3]。近視は、多くが学童期に始まり、小学校高学年にかけて進み方が速く、10代後半以降で止まることが多いです[11]。
近視になる年齢が早いほど、進むのも速いです。IMIは、これは性別、民族、学校、読書の時間、親の近視とは別に成り立つ、と書いています[7]。日本の手引きも、低年齢で始まると将来の度数が強くなることが示唆されていると書いています[11]。
文部科学省の令和7年度の学校保健統計では、裸眼視力(めがねなどを使わない視力)が1.0未満の子は、小学校で36.07%、中学校で59.35%、高等学校で71.51%でした。学校段階が進むほど高くなります[12]。
ただし、この数字は「近視の割合」ではありません。1.0未満には、遠視や乱視、目の病気などで見えにくい子も含まれます。健康診断の視力の数字だけでは、近視か遠視かといった中身までは分かりません。そこで文部科学省は、令和3年度から、機器で目を測る近視実態調査も始めました[5]。では、進み方を遅くする方法はあるのでしょうか。
近視の多くは学童期に発症し、小学校高学年にかけて進行が速く、10代後半以降で止まることが多い[11]。眼球の成長が16歳ごろまで続くことと重なる[3]。
近視になる年齢が低いほど、進行は速い。IMIの臨床ガイドラインは、この関係が、性別、民族、学校、読書時間、親の近視とは独立していると書く[7]。日本の手引きも、低年齢で発症すると将来の近視度数が強くなることが示唆されている、としている[11]。
日本の統計を見る。文部科学省の令和7年度学校保健統計(令和7年4〜6月の健康診断の結果、抽出調査、令和8年2月13日公表)で、裸眼視力が1.0未満の者の割合は、小学校36.07%、中学校59.35%、高等学校71.51%だった[12]。同じ統計では、この割合は、学校段階が進むにつれて高くなっている。
注意したいのは、裸眼視力1.0未満は、近視の割合そのものではないことだ。遠視、乱視、その他の目の病気で見えにくい子も入る。文部科学省の令和5年度調査報告書は、背景として、健康診断で裸眼視力を毎学年把握していても、その詳細(近視か遠視か等)が明らかでなく、十分な対策が講じられていない、と書く。そこで令和3年度から、機器を使って屈折と眼軸長を測る近視実態調査を始めた[5]。
なぜ子どもの時期に進みやすいのかには、眼球が成長する時期と重なる、という説明がある。ただ、成長を調節するしくみがあるのに、なぜ子どもの近視がこれほど多いのかは、研究者自身が「問い」として扱っている[10]。では、進み方を遅くする方法は、あるのだろうか。
6. すすむのを おそく する ほうほうは あるの?
6. 近視の進み方を遅くする方法 ── 目薬を中心に
6. 近視の進行抑制 ── 低濃度アトロピン点眼を中心に
2024ねんの おわりに、日本で はじめて、近視が すすむのを おそく する めぐすりが みとめられました。[11]
この めぐすりは、眼科で しらべて もらって、いしゃさんに だして もらいます。さす ときは ねる まえです。[11] 近視を なくす ものではなく、すすみ方を ゆっくりに する ものです。すすむのが とまる わけでは ありません。[13]
ほかにも、とくべつな めがねや コンタクトレンズなど、いろいろな ほうほうが あります。どれが あうかは、眼科で そうだん して きめます。[14]
そとで すごす じかんが かんけい するか どうか も、けんきゅうされて います。けれど、その りゆうは、まだ はっきり しません。[7]
日本で初めて、近視の進行を抑えることを目的とした目薬が承認されたのは、2024年12月27日です。リジュセアミニ点眼液0.025%という、低濃度のアトロピンの目薬で、2025年春に発売されました[11][14]。
アトロピンは、瞳を広げたり、ピント合わせを止めたりする目薬として、1970年代から使われてきました。近視の進行を抑える効果は、以前から知られていましたが、まぶしさや近くの見えにくさ、やめたあとに進みが速まる問題があり、使いにくかったのです。ところが、ごく薄い濃度なら、副作用や、やめたあとの進みの速まりを抑えつつ、効果が得られると分かってきました[11]。
効果の大きさは、日本近視学会がまとめています。0.01〜0.05%の低濃度アトロピンで、使い始めの最初の1年に、近視の進行をおよそ30〜70%抑えます[14]。香港で、3つの濃度(0.05%、0.025%、0.01%)を比べた試験(LAMP)では、濃いほうが効果が大きかったです[13]。ただし、進み方が遅くなるだけで、止まるわけではありません。
この目薬は、眼科で診断を受けたうえで処方され、3〜6か月ごとに検査を受けます。主な副作用は、まぶしさやぼやけで、就寝前に点眼します。使うのをやめると、進みが速まることがあるため、10代後半までは続けるのが望ましい、と手引きは書いています[11]。
目薬のほかにも、特殊な設計のメガネや、多焦点のコンタクトレンズ、夜のあいだだけつけるコンタクトレンズなどの方法があります。日本近視学会は、それぞれの効果の目安と、注意点をまとめています[14]。日本の手引きは、屋外で過ごす時間を増やすことなど、環境への対応も重要だと書いています[11]。
外で過ごす時間が、なぜ近視の進みに関係するのかは、まだ決まっていません。IMIは、光の明るさ、短い波長の光、網膜に映る像が均一なこと、などの候補を挙げて、理由は分からないと書いています[7]。
日本で初めて、近視の進行抑制を効能・効果とする薬として、低濃度アトロピン点眼液「リジュセアミニ点眼液0.025%」が、2024年12月27日に承認された[11]。2025年春に国内で販売が始まった[14]。
アトロピンは、1%製剤が散瞳・調節麻痺の点眼薬として、1970年代から使われている。近視の進行を抑える効果は昔から知られていたが、散瞳による羞明や霧視、調節麻痺による近見視力障害といった副作用と、治療をやめたあとのリバウンドのために、臨床応用が難しかった。近年、低濃度にすると、副作用とリバウンドを抑えながら効果が得られると分かった。詳しい作用の仕組みは不明で、網膜や強膜のムスカリン受容体を通して、強膜のリモデリングに関わり、眼軸の伸長を抑えると考えられている[11]。
効果の大きさを見る。日本近視学会は、0.01〜0.05%の低濃度アトロピン点眼で、使い始めの最初の1年に、近視の進行をおよそ30〜70%抑える、とまとめている[14]。香港の無作為化比較試験(LAMP)は、0.05%、0.025%、0.01%の3つの濃度を比べ、1年目は0.05%が、近視度数の進みと眼軸長の伸びを、もっともよく抑えた。2年間でも、0.05%の効果は、0.01%の約2倍だった[13]。ただし、どの濃度でも、近視の度数は進み続けており、止めるものではない[13]。
日本の手引きは、眼科で診断・処方し、経過観察も定期的に眼科で行うこと、初回処方の1週〜1か月後に受診し、それ以降は3〜6か月ごとに検査を受けることを求める。主な副作用は散瞳による羞明や霧視で、これを避けるために就寝前に点眼する。近視の進行が安定する10代後半までは少なくとも続けることが望ましい、とも書く。中止後は、治療中より進行が速まることが、国内の臨床試験とLAMPで報告されている。ただし、0.025%以下の濃度なら、中断による加速は、どの年齢でも臨床上問題にならない程度とも書かれている[11]。
目薬以外にも、近視管理用のメガネ、多焦点ソフトコンタクトレンズ、オルソケラトロジー、レッドライト治療などが世界で研究・使用されている。日本近視学会は、それぞれの効果の目安と、注意点(たとえばオルソケラトロジーの角膜感染症のリスク)をまとめている[14]。日本の手引きは、2025年4月の時点で、低濃度アトロピン点眼液のほかに、国内で承認された近視進行抑制治療はないと書く[11]。その後、日本近視学会のページによると、2025年8月に、多焦点ソフトコンタクトレンズ(MiSight 1day)が厚生労働省の承認を受けた[14]。赤色光治療は、家庭用の装置での試験が中心で、安全性への懸念も高まっている、とIMIの2025年の報告書は書く[20]。手引きは、これらとは別に、屋外活動を増やす、近くで見る作業を抑えるなど、環境への対応も重要だとしている[11]。
屋外で過ごす時間については、IMIの臨床ガイドラインが、近視の発症との関連を挙げつつ、その効果が、光の明るさ、短波長光や紫外線、屋外では網膜への像のぼけが均一になること、のどれによるのかは分かっていない、と書く[7]。この点は、別のメモで、調べてみたい。
7. 人に よって、ちがうのは どうして?
7. 人によって、目によって、国によってちがうのはなぜか
7. 遺伝と環境、左右差、地域差 ── 「なぜ人によってちがうのか」を分けて考える
かぞくに 近視の 人が いると、近視に なりやすい ことが あります。でも、遺伝だけで きまる わけでは ありません。まわりの くらしかたも かんけい して います。だれかの せいと いう はなしでは ありません。[3][7]
みぎの めと ひだりの めで、かずが ちがう ことも あります。ちがいが おおきい と、かたほうの めが 見えにくい ままに なる ことが あります。まわりからは わからないから、眼科で しらべて もらいましょう。[17]
くにに よっても、近視の 人の わりあいは ちがいます。ただ、しらべた ほうほうや ねんれいが ちがうと、くらべにくいです。[15][16]
遺伝と環境
日本弱視斜視学会は、アジア人には近視が多く、両親とも近視でない子どもに比べて、片親が近視の場合は2倍、両親が近視の場合は約5倍、子どもも近視になりやすいと言われる、と書いています。環境の要因として、近くを長く見ることや、屋外での活動が少ないことも挙げています[3]。IMIは、両親とも近視の子どもは、両親とも近視でない子どもの3倍以上のリスクだとしています。数字は、資料によってちがいます。IMIはまた、近視の親の子どもは、外で過ごす時間が短く、近くで読む時間が長い傾向も示されていて、遺伝なのか、家の環境なのか、その両方なのかは議論がある、と書いています[7]。学校で見られる近視について、大きな影響を持つ単一の遺伝子は見つかっていない、と2012年の総説は書いています[15]。誰かのせいと決められる話ではありません。
左右の目のちがい
ヒヨコの実験では、レンズに応じて目がのびる反応が、両目で別々に起きていました[8]。人でも、左右の目の度数がちがうことがあります。度数の差が2D以上あると、度数が強いほうの目の視力が育たない「不同視弱視」になる可能性が高まります。周囲からは全く分からず、3歳児健診や就学時健診で見つかることが多いです。早く治療を始めるほど、視力は育ちます[17]。
国によるちがい
2012年の総説は、東アジアの都市では、学校を卒業するころの80〜90%が近視だと書いています。原因には、教育の圧力と、外で過ごす時間の減少が結びついていそうだと書き、民族のちがいによる遺伝の影響は、小さいかもしれないとしています[15]。一方、2025年のヨーロッパ14か国の総説では、近視の割合は23.5%で、国によって11.9%(フィンランド)〜49.7%(スウェーデン)と幅がありました。調節麻痺薬を使った検査では18.9%、使わない検査では31.2%と、測り方でも数字が変わりました[16]。国どうしを比べるときは、年齢と測り方をそろえる必要があります。
遺伝と環境
日本弱視斜視学会は、アジア人には近視が多く、両親とも近視でない子どもに比べて、片親が近視の場合は2倍、両親が近視の場合は約5倍、子どもも近視になりやすいと言われると書く。環境要因としては、近業や屋外活動の少なさの関与が示されているという[3]。IMIの臨床ガイドラインは、両親とも近視の子どもでは、両親とも近視でない子どもより、リスクが3倍以上に高まると書く。数字は資料でちがう。同じ文章は、近視の親の子どもは、外で過ごす時間が短く、近くで読む時間が長い傾向も示されていて、遺伝的な素因なのか、近視の親がつくる環境の影響なのか、その両方なのかは、議論があるとする[7]。2012年の総説は、学校近視に、大きな影響を持つ単一の遺伝子は報告されていないと書き、多数の小さな効果を持つ遺伝子と、遺伝子と環境の相互作用が、集団内の差にどう関わるかは、今後の課題とする[15]。家族に近視の人がいるかどうかで、誰かの責任が決まる話ではない。
左右の目のちがい
1988年のヒヨコの実験では、レンズに応じて目がのびる反応は、両目で独立に起きていた[8]。人の目で同じことが言えるとは限らないが、左右で度数がちがうことは実際にある。日本弱視斜視学会は、遠視・近視・乱視に左右差が強いために起きる片眼の視力障害を「不同視弱視」と呼び、度数の差が2D以上あると、その可能性が高まる、最も多い原因は遠視だとする。弱い目の視力は良好で、周囲からは全く分からず、3歳児健診や就学時健診で見つかることが多い。早く治療するほど、視力は早く育つ[17]。
国によるちがい
Morgan らの2012年の総説は、東アジアで近視が急増し、学校を卒業する年ごろで80〜90%に達していると書く。東アジアの都市で近視が多いのは、教育の圧力と、屋外で過ごす時間を減らした生活の変化が結びついているらしい、とする。民族間の差に遺伝が寄与しているとしても小さいかもしれない、とも書く[15]。一方でIMIは、民族的な背景も近視のなりやすさに関わるとし、民族による割合のちがいを示す報告を挙げる[7]。遺伝の寄与の大きさについて、資料の書き方はそろっていない。
ヨーロッパについては、2025年の14か国の系統的レビューで、近視の割合は全体で23.5%、国によって11.9%(フィンランド)から49.7%(スウェーデン)まで幅があった。調節麻痺下の検査を使った研究では18.9%、使わない研究では31.2%と、検査のしかたでも数字が変わる。レビューは、ヨーロッパの近視はアジアより少なく、増え方も緩やかで、この増加は、調節麻痺下の検査と年齢で分けると見られなくなる、と書く[16]。国や時代を比べるときは、年齢と検査方法をそろえないと、比べにくい。
8. 「めが わるい」と「めの びょうき」は おなじ?
8. 「目が悪い」と「目の病気」はちがう? ── 眼科で調べる理由
8. 屈折異常と眼疾患 ── 強度近視・病的近視と、眼科で調べる理由
「めが わるい」は、ふだんの ことばです。近視の ときも あれば、ほかの りゆうの ときも あります。おおくの 近視は、めがねで よく 見える ように なります。[3]
でも、近視が とても つよく なると、めの おくの しくみに ふたんが かかって、めの びょうきに なる ことが あります。[11]
かたほうの めだけ 見えにくい ときは、まわりの 人には わからない ことも あります。見えにくいと おもったら、眼科の せんせいに しらべて もらいましょう。近視かどうか、ほかの りゆうか、いつ 行けば いいかも、眼科で きけます。
「目が悪い」は、ふだんの言葉です。見えにくい理由は、近視のこともあれば、遠視、乱視、弱視、目の病気のこともあります。
日本弱視斜視学会は、近視の多くは眼鏡で正常視力まで矯正できる「単純近視」で、まれに「病的近視」に進む例がある、と説明しています[3]。病的近視は、眼球の後ろ側が変形して、視神経や網膜が傷み、視力が下がる近視で、失明の原因になることもあります[2]。近視が進むと、緑内障、白内障、網膜剥離、近視性黄斑症といった、視機能に関わる目の病気になる危険も増えます[11]。
近視そのものを「病気」と呼ぶかどうかは、資料によって扱いがちがいます。2024年、アメリカの全米アカデミーズの委員会は、近視を病気として分類し、医療上の診断とするよう、公的な医療保険の運営機関に勧告しました。ぼやけを直すだけでなく、予防と管理にも力を入れるためです[18]。日本の学会の資料は、単純近視と病的近視を分けて説明しています[3]。
眼科で調べるのには、理由があります。片目の弱視は、周囲からは全く分かりません[17]。子どもは、点眼で調節をゆるめない検査では近視に出やすく、仮性近視との区別に、調節をゆるめる薬を使った検査が必要です[5][11]。早く始まるほど強くなりやすいので、早い時期の対応が望ましいと手引きは書いています[11]。日本弱視斜視学会は、黒板の字が見えにくくなったら眼鏡での矯正が必要で、眼科医の精密検査を受けて適切な眼鏡の処方を受けることが勧められる、と書いています[3]。
いつ受診するか、どんな検査が必要かは、眼科で決めることです。このメモでは目安を示しません。
「目が悪い」は日常語で、見えにくい理由は近視だけとは限らない。遠視、乱視、弱視、目の病気も含まれる。学校の視力検査(370方式)は、裸眼視力をA(1.0以上)、B(0.7〜0.9)、C(0.3〜0.6)、D(0.3未満)に分ける[5]。この区分は、見えにくさの程度を示すもので、原因までは教えてくれない。
国際的な基準(IMI、2019年)では、近視は、等価球面度数が−0.50D以下の状態で、強度近視は−6.00D以下とされる[19]。日本弱視斜視学会は、近視の多くは、眼鏡で正常視力まで矯正できる単純近視で、まれに病的近視へ進む例があると説明する[3]。日本近視学会は、病的近視を、視機能障害を伴い、失明の原因になる近視で、眼球後部の変形を特徴とし、それによって視神経や網膜が機械的に障害される状態と説明する[2]。手引きは、近視が進むと、緑内障、白内障、網膜剥離、近視性黄斑症など、視機能に影響する眼合併症のリスクが増えると書き、福岡県久山町の研究で、近視性黄斑症の有病率の増加が確かめられ、長い眼軸長が危険因子だったと報告されている、とも書く[11]。
「近視は病気か」は、資料によって扱いがちがう。2024年、全米アカデミーズ(米国)の委員会は、近視を病気として分類し、医療上の診断とするよう、公的医療保険を運営する機関に勧告した。理由は、ぼやけを直すだけでなく、近視の予防と管理に、関係者が力を入れるためだ[18]。一方、日本の学会の説明は、単純近視と病的近視を分ける書き方だ[3]。
眼科で調べる理由を、資料から3つ挙げる。第1に、片目の弱視は、周囲からは全く分からず、健診で見つかることが多い[17]。第2に、子どもは調節が強く、調節麻痺薬を使わない検査では、度数が近視側にずれやすい。正確な診断には、調節麻痺下の屈折検査が望ましい[5][11]。第3に、低年齢で発症するほど将来の度数が強くなることが示唆されており、早期の対応が望ましい[11]。日本弱視斜視学会は、黒板の字が見えにくくなったら眼鏡での矯正が必要で、眼科医の精密検査を受けて適切な眼鏡の処方を受けることが勧められる、と書く[3]。
受診の時期や検査の内容は、眼科で決めることだ。このメモでは、目安を示さない。
9. じぶんでも しらべて みたく なったら
9. 自分でも調べてみたくなったら
9. 自分でも調べてみたくなったら
めがねの かずが わかると、ぼやけずに 見える きょりの めやすが わかります。
- かず 1 → 1メートル
- かず 2 → 50センチ
- かず 4 → 25センチ
「1÷かず」で けいさん した めやすで、じっさいの 見え方は 人に よって ちがいます。
かんがえて みる もんだい。ヒヨコの めは、ぼやけを、どこで どう しって、のびる ながさを きめて いるのでしょうか。
眼鏡の度数の数字が分かれば、「1÷度数」の計算で、ぼやけずに見える限界の距離のめやすが分かります。たとえば−2なら、マイナスをとった2で1を割って、0.5メートルです。計算だけのめやすで、実際の見え方は、人によっても目によってもちがいます。
もう少し調べるなら、次の資料が入口になります。
- 日本近視学会の一般向けページ[2]や、日本弱視斜視学会の「近視について」[3]。
- 文部科学省の学校保健統計(e-Stat)。学年ごとの裸眼視力の割合の表が載っています[12]。
- ヒヨコの実験の論文の要旨(1988年)[8]。1ページで読めます。
考えてみたい問い。ヒヨコの目は、レンズによるぼやけを、どこで、どうやって見つけて、のびる長さを決めているのでしょうか。この問いは、いまも研究が続いています[10]。
眼鏡の度数が分かれば、「1÷度数」で、ぼやけずに見える限界の距離のめやすが出る。−2Dなら、数字の2で1を割って0.5m。計算だけのめやすで、実際の見え方は、人や目によってちがう。
資料を読み比べてみたい。
- IMIの臨床ガイドライン[7]と、日本近視学会の手引き[11]。同じ「近視の進行抑制」を、どう書き分けているか。
- 2012年のMorganらの総説[15]と、2025年のヨーロッパのレビュー[16]。国どうしを比べるとき、何をそろえる必要があるのか。
- 文部科学省の学校保健統計(e-Statに詳しい表がある)[12]。学年ごとの裸眼視力の割合は、どう変わっていくのか。
考えてみたい問い。ヒヨコの目は、レンズによるぼやけを、どこで、どうやって見つけて、のびる長さを決めているのだろうか。Wallman と Winawer のレビュー[10]は、この問いを正面から扱っている。
しらべた ところ
参考にした情報源
参考にした情報源
出典について:日本の学会(日本近視学会・日本弱視斜視学会・日本眼科学会誌)の資料、文部科学省の統計と調査報告書、国際近視研究所(IMI)の報告書、ヒヨコの実験の論文、近視の疫学の総説を使った。英語の資料には、何の資料かを日本語で添えた。
- de Jong PTVM「Myopia: its historical contexts」(British Journal of Ophthalmology、2018年。近視の歴史を扱った総説)。 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6059036/ (myopia の語源、アリストテレスの記述、ネロの逸話、ラファエロの絵、マウロリコ)
- 日本近視学会「近視とは?」(一般向けページ)。 https://www.myopiasociety.jp/general/about/ (近視の定義、眼軸長とレンズの影響、病的近視の説明)
- 日本弱視斜視学会「近視について」(一般向けページ)。 https://www.jasa-web.jp/general/myopia (軸性近視、仮性近視、成長は16歳ごろまで、遺伝と環境、眼鏡)
- Wang W ほか「Intraocular Amphiregulin antibody and axial elongation in nonhuman primates」(Frontiers in Ophthalmology、2022年。サルでの眼軸長の伸びの研究。序文に、眼軸長1ミリあたりの屈折誤差の目安がある)。 https://doi.org/10.3389/fopht.2022.995157 (眼軸長1ミリでおよそ−3D)
- 文部科学省「令和5年度 児童生徒の近視実態調査 事業結果報告書」(令和6年7月31日公表。調査受託事業者 イーピーエス株式会社)。 https://www.mext.go.jp/content/20240731-mxt_kenshoku-000037357_03.pdf (事業の背景、用語の解説、眼軸長22〜23ミリから23〜24ミリ、調節麻痺、370方式の区分)
- Tideman JWL ほか「Axial length growth and the risk of developing myopia in European children」(Acta Ophthalmologica、2018年。ヨーロッパの子ども・大人12,386人の眼軸長の調査)。 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29265742/ (6歳22.36ミリ、大人23.67ミリ)
- Gifford KL ほか「IMI – Clinical Management Guidelines Report」(Investigative Ophthalmology & Visual Science、2019年。国際近視研究所による診療の手引き)。 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30817832/ (眼軸の伸び方、年0.1ミリと0.2〜0.3ミリ、近視の発症前の伸び、進行を止めたり戻したりできる治療はない、低矯正、家族歴、屋外活動)
- Schaeffel F, Glasser A, Howland HC「Accommodation, refractive error and eye growth in chickens」(Vision Research、1988年。ヒヨコにレンズをつけて目の成長を調べた実験)。 https://doi.org/10.1016/0042-6989(88)90113-7 (要旨。頭巾とレンズ、マイナスとプラスでのPNDの差、両目で独立)
- Wallman J, Adams JI「Developmental aspects of experimental myopia in chicks: susceptibility, recovery and relation to emmetropization」(Vision Research、1987年。視覚を遮ったヒヨコの近視と回復の実験)。 https://doi.org/10.1016/0042-6989(87)90027-7 (要旨。硝子体腔の伸長、遮った側の網膜に対応、若いほど速い、生後6週以内の回復)
- Wallman J, Winawer J「Homeostasis of eye growth and the question of myopia」(Neuron、2004年。目の成長の調節と近視についての総説)。 https://doi.org/10.1016/j.neuron.2004.08.008 (要旨。恒常性の調節、視覚が主な入力、なぜ子どもに近視が多いのかという問い)
- 大野京子ほか「低濃度アトロピン点眼液を用いた近視進行抑制治療の手引き」(日本眼科学会雑誌 129巻10号、令和7年10月10日。日本近視学会の治療指針作成委員会による。DOI 10.60330/nggz-2025-035)。 https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/member/guideline/129-851.pdf (診断基準、進行の時期、治療の目的、承認日、アトロピンの経緯、処方の手順、中止後の進行、合併症)
- 文部科学省「令和7年度学校保健統計(学校保健統計調査の結果)について公表します」(令和8年2月13日)。 https://www.mext.go.jp/content/20260213-mxt_chousa01-000046876_1.pdf (裸眼視力1.0未満の割合、調査対象と調査期間)
- Yam JC ほか「Low-Concentration Atropine for Myopia Progression (LAMP) Study」(Ophthalmology、2019年・2020年。香港で行われた、3つの濃度を比べる無作為化試験の1年目と2年目の報告)。 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30514630/ (0.05%が最も効果が大きい。2年目は、0.05%の効果が0.01%の約2倍。2年目の報告は https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32019700/)
- 日本近視学会「近視の進行抑制治療」(一般向けページ)。 https://www.myopiasociety.jp/general/care/flow.html (低濃度アトロピンの効果の目安、国内販売、そのほかの方法と注意点)
- Morgan IG, Ohno-Matsui K, Saw SM「Myopia」(The Lancet、2012年。近視の疫学や原因についての総説)。 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22559900/ (要旨。東アジアの80〜90%、教育と屋外時間、単一の遺伝子は見つかっていない)
- Moreira-Rosário A ほか「Prevalence of myopia in Europe: a systematic review and meta-analysis of data from 14 countries」(The Lancet Regional Health – Europe、2025年)。 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40672053/ (要旨。全体で23.5%、国ごとの幅、調節麻痺の有無での差)
- 日本弱視斜視学会「弱視」(一般向けページ)。 https://www.jasa-web.jp/general/medical-list/amblyopia (不同視弱視、度数の差2D以上、発見のきっかけ、治療)
- 全米アカデミーズ(米国)「Myopia: Causes, Prevention, and Treatment of an Increasingly Common Disease」(National Academies Press、2024年。専門家の委員会による報告書)。 https://www.nationalacademies.org/read/27734/chapter/2 (要約。近視を病気として分類する勧告)
- Flitcroft DI ほか「IMI – Defining and Classifying Myopia: A Proposed Set of Standards for Clinical and Epidemiologic Studies」(Investigative Ophthalmology & Visual Science、2019年。国際近視研究所による近視の定義の報告)。 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30817826/ (近視−0.50D以下、強度近視−6.00D以下)
- Bullimore MA ほか「IMI – Interventions for Controlling Myopia Onset and Progression 2025」(Investigative Ophthalmology & Visual Science、2025年。国際近視研究所による、近視の発症と進行を抑える方法の効果を整理した報告。DOI 10.1167/iovs.66.12.39)。 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40960225/ (赤色光治療の試験の実施のしかた、安全性への懸念)
- Wang W ほか「Axial Shortening in Myopic Children after Repeated Low-Level Red-Light Therapy: Post Hoc Analysis of a Randomized Trial」(Ophthalmology and Therapy、2023年。赤色光を繰り返し当てる治療の無作為化試験の事後分析)。 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36790672/ (12か月後に眼軸長が0.05mmを超えて短くなった子どもの割合、脈絡膜の肥厚が説明する割合)
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