1. 石を おすと、石も おしかえす?
1. 「指で石を押すと、指も押される」
1. 第3法則の例 ── 指と石、馬と石
ニュートンは、本の 中で ふたつの たとえを 出しました。1つ目は、指で 石を おす 話です。石を おすと、指も 石に おされる、と 書きました[2]。
2つ目は 馬の 話です。馬が つなを つけた 石を ひくと、馬も 石の ほうへ、同じ 大きさで ひきもどされる、と 書いて います[2]。
石を おした ときの 指を 思い出して ください。おした 指の さきに、かたい 感じが かえって きませんか。それが、ニュートンの 言った 「おしかえされる」に あたります。
ニュートンが第3法則の説明に使った例は、身近なものでした。1つ目は、指で石を押すと、指も石に押される、というものです。2つ目は、綱をつけた石を馬が引くと、馬も石のほうへ同じだけ引き戻される、というものです[2]。
石を押した指先には、たしかに押し返される感触が残ります。押したほうだけが力を出しているように見えても、力は相手からも返ってきている、というのがこの例の主張です。
この記事では、この「押し返される」感覚を入り口に、3つの法則を順に見ていきます。
2. この 本は、どうして 生まれたの?
2. 1684年のハレーの問いから、1687年の出版まで
2. 『プリンキピア』の成立 ── ハレーの問いと刊行(1684〜1687)
この 本の 名前は、『プリンキピア』です。日本語では『しぜんてつがくの すうがくてき げんり』と いいます。1687年に 出ました[1]。
きっかけは、1684年に、ハレーと いう 人が ニュートンに たずねた ことでした。ハレーは、ある きまりの 力で ものが うごく とき、どんな 道すじに なるかを 聞きました。ニュートンは その年の 11月に、短い 文しょうを おくって います[4]。
本を 出すには お金が かかります。その お金は、おもに ハレーが 出した と つたえられて います[1]。三つの ほうそくは、本の はじめの ほうに、「運動の ほうそく」として のって います[2]。
『自然哲学の数学的原理』、通称『プリンキピア』は、1687年に出版されました。日本語の辞典にもこの年が示されています[1][6]。
成り立ちには、人のやりとりがありました。1684年、天文学者のハレーは、ある決まった形の力(距離の2乗に反比例する力)のもとで物体がどんな軌道を描くかを、ニュートンにたずねたとされています。ニュートンは同じ年の11月に、物体の回転運動についての小論を送りました[4]。
本を印刷するにも、費用が要ります。この費用は、おもにハレーが負担したと、アメリカ物理学会の記事は伝えています[1]。3つの法則は、この本の「公理、または運動の法則」という部分に置かれています[2]。
3. うごいて いる ものは、そのまま うごく
3. 第1法則 ── 力がなければ、そのまま動き続ける
3. 第1法則(慣性)── 原文と、ガリレオ・デカルトとの関係
1つ目の ほうそくは、こう いって います。ものは、力を くわえられて うごきを かえさせられない かぎり、止まって いる ものは 止まった まま、うごいて いる ものは まっすぐ 同じ はやさで うごき つづける[2]。これを「かんせいの ほうそく」と いいます。
「うごいて いる ものが、ずっと うごく?」と 思いますね。ゆかで おもちゃの 車を おすと、やがて 止まります。でも それは、ゆかなどが 車を 止める 力を かけるからです。
この 考え方は、ニュートンが はじめてでは ありません。ガリレオが、水平な ところでの うごきを 調べて いました。デカルトは、それを ひろく 通じる 考え方に して います[5]。ニュートンは、その 考え方に「力を くわえられない かぎり」と いう 言葉を そえた 人と いわれます[4]。
第1法則は、力を加えて状態を変えさせられない限り、すべての物体は静止か、一直線上の一様な運動を続ける、というものです[2]。現代の教育資料も、釣り合っていない力が働かなければ、止まっている物は止まり、動く物は一定の速さで直線上に動き続ける、と述べています[3]。
床の上で転がした玩具の車が止まるのは、動く性質が消えたからではなく、床などが力をおよぼすからです。力がなければ、動きはそのまま続くというのが、この法則の言い分です。
この考え方はニュートンだけのものではありません。ガリレオが水平方向の運動を考え、デカルトが一般的な形にし、ニュートンが1687年に明確な形でまとめたと説明されます。ガリレオが調べ始めてから、80年以上あとのことです[5]。デカルトの『哲学原理』は1644年です[5]。ニュートンの独自な点は、「加えられる力」にふれたことだとされます[4]。
第1法則の原文(英訳)は、「すべての物体は、加えられた力によって状態を変えさせられない限り、静止または直線上の一様な運動の状態を保つ」という趣旨である[2]。NASAの教育資料も、釣り合っていない力が働かない限り、静止物は静止、運動物体は一定の速さで直線上に運動し続けるとする[3]。
慣性の考え方は、ニュートン以前から見られる。ガリレオが水平運動で考察し、デカルトが一般化し、ニュートンが1687年に明確な形にまとめたと説明される。ガリレオの検討開始から80年以上あとである。ただしガリレオが一般的な形で述べたわけではない[5]。デカルトの『哲学原理』は1644年で、ガッサンディの1641年の著作にも慣性の原理が現れる[5][4]。ニュートン独自の点は「加えられる力」への言及だとされる[4]。
4. 「F=ma」は、ニュートンが 書いた 形?
4. 第2法則 ── 原文には、F=maの式がない
4. 第2法則 ── 原文の表現と、F=maが定着するまで
2つ目の ほうそくは、「力を くわえると、どう うごくか」です。いまの 言い方では、力が 大きいほど、はやさが かわりやすく、重いものほど、かわりにくい、と なります[3]。学校では「F=ma」という 式で おしえる ことが あります。
たとえば、空の カートと、にもつを いっぱい つんだ カートを、同じ 力で おすと、空のほうが すぐ はやく なります。ただし ほんとうは、まさつなどの えいきょうも あるので、おもさだけの ちがいを くらべるのは むずかしいです。
ところが、ニュートンの 本には、この 式は 出て きません。ニュートンは「うごきの かわりかたは、くわえた 力に ひれいし、力の むきに おこる」と 書きました[2]。式の 形は、あとの 時代の 人たちが 作ったと されて います[4]。
第2法則は、現代の言い方では、物体の加速度は、加えた力の大きさに比例し、質量に反比例する、というものです[3][6]。力が大きいほど、質量が小さいほど、加速しやすくなります。これをまとめた式が「F=ma」(力=質量×加速度)です。
ところがニュートンの原文(英訳)は、「運動の変化は、加えられた起動力に比例し、その力が働く直線の向きに起こる」という書き方でした。式も、加速度という語も出てきません[2]。
F=maの形にしたのは、ニュートン本人ではなく、あとの世代とされます。少なくとも1716年のヤコブ・ヘルマンの著作に見られ、1740年代にオイラーが基本の前提として用いたと説明されます[4]。ニュートンは幾何学的な図形を使って書いていて、加速度を独立した量としては扱いにくかったともいわれます[4]。
現代の第2法則は、加速度が力の大きさに比例し、質量に反比例する形で述べられる(F=ma)[3][6]。
対して原文(英訳)は、「運動の変化は、加えられた起動力に比例し、その力が加わる直線の向きに起こる」であり、質量も加速度も式も出てこない[2]。原文の「運動」は現代の運動量にあたる量と解釈されることが多いが、位置のずれとみる別解釈もあり、専門的にも見解が分かれる[4]。ここでは深入りしない。
F=maの形は、少なくとも1716年のヤコブ・ヘルマン、1740年代のオイラーに見られるとされ、ニュートンが幾何学的な方法で書いたことも背景にあるとされる[4]。「ニュートンがF=maと書いた」とするのは、広まった誤りである。
5. 「おす」と「おしかえす」は、うち消しあわない?
5. 第3法則 ── 作用と反作用は、別々のものに働く
5. 第3法則 ── 作用・反作用が打ち消し合わない理由
3つ目の ほうそくは、はじめの 指と 石の 話です。ものAが ものBを 力で おすと、Bも Aを、同じ 大きさで はんたいの むきに おします[3]。ニュートンは「あらゆる 作用には、いつも 同じ 大きさの反作用が ある」と 書きました[2]。
ここで、ふしぎに 思う 人が いるかも しれません。同じ 大きさで はんたいなら、うち消しあって 何も おきないのでは? ただし、この 2つの 力は、べつべつの ものに はたらきます。ひとつの ものの 上で 引きあって いるのでは ありません。
たとえば、地球は 本を 引きます。そして 本も、地球を 同じ 大きさで 引きます[7]。地球は 大きすぎて、うごきが 見えないだけです。
第3法則の原文(英訳)は、「あらゆる作用には、常に等しい反作用が対立する。二つの物体が互いに及ぼし合う作用は、常に等しく、逆向きである」というものです[2]。現代の言い方では、物体Aが物体Bに力を及ぼすと、BもAに、大きさが等しく向きが反対の力を及ぼします[3]。
「等しくて反対なら、打ち消し合うのでは」と疑問に思うことがあります。しかし作用と反作用は、別々の物体に働く力です。1つの物体の上で足し引きされるわけではないので、打ち消し合いません[7]。
例として、重力は本を地球のほうへ引き、本も地球を同じ大きさで引きます[7]。本の質量に比べて地球の質量は桁ちがいに大きいので、地球の動きは見えません。指と石でも、石を押した指先が押し返される感触は、この第3法則に当たります。
第3法則の原文(英訳)は、「あらゆる作用には常に等しい反作用が対立する。すなわち二物体が互いに及ぼす作用は常に等しく、逆向きである」[2]。現代の教育資料は、物体Aが物体Bに力を及ぼすと、BもAに等しく反対向きの力を及ぼす、と述べる[3]。
作用と反作用は別々の物体に働く力なので、打ち消し合わない。たとえば重力が本を引き、本も地球を同じ大きさで引く[7]。これはウィキペディアの記述(二次資料)に依る。第1章の指と石の例が、この法則の実例である。
3つの法則を並べると、第1法則は「力がなければ動きは変わらない」、第2法則は「力があるとどれだけ変わるか」、第3法則は「力は必ず対で現れる」と整理できる。この整理は本稿の見方であり、ニュートンの言葉ではない。
6. 空の びんと 水の びんを おして みよう
6. ペットボトルと、自分の手で確かめる
6. 出口 ── 手元で確かめる/原典を読む
つくえの 上に、空の ペットボトルと、水を 入れた ペットボトルを おきます。フタは しっかり しめて ください。
おなじ くらいの 力で、おなじ くらいの 時間 ポンと おして、おした あとの はやさが どちらが よけいに かわるか みて みます。まさつも あるので、ぴったりの くらべっこには なりません。2つ目の ほうそくの 話と、だいたい あって いるでしょうか。
もう 1つ。かたほうの 手の 指で、もう かたほうの 手を おして みます。おした 指にも、力が かえって きませんか。
机の上に、空のペットボトルと、水を入れたペットボトルを置きます。フタをしっかり閉めてから、指で同じくらいの力・同じくらいの時間でポンと押して、押したあとの速さがどちらで大きく変わるかを見比べてみてください。力や時間、机との摩擦をそろえにくいので、質量だけの正確な比較にはなりませんが、ちがいの見え方を観察できます。
次に、片手の指でもう一方の手のひらを押してみます。押した指先にも、押し返される感触があるか確かめてください。
学校の理科や物理の教科書の「運動の法則」の章を開いて、この記事の原文の言い方と、どこがちがうかを見比べるのもおすすめです。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:アメリカ物理学会の記事、ウィキソース掲載の英訳、NASAの教育資料、スタンフォード哲学百科事典、テルアビブ大学のガリレオ博物館の解説、コトバンク、ウィキペディアを使った。ウィキペディアは二次資料であり、確認の補助として使った。
- APS News「Sir Isaac Newton's Principia」。 https://www.aps.org/apsnews/2000/07/isaac-newton-principia (1687年の刊行と、費用をハレーが負担したことについて)
- Wikisource「The Mathematical Principles of Natural Philosophy (1846) / Axioms, or Laws of Motion」(英訳)。 https://en.wikisource.org/wiki/The_Mathematical_Principles_of_Natural_Philosophy_(1846)/Axioms,_or_Laws_of_Motion (三法則の原文の言い方と、指・馬の例について)
- NASA Glenn Research Center「Beginner's Guide to Aeronautics: Newton's Laws of Motion」。 https://www1.grc.nasa.gov/beginners-guide-to-aeronautics/newtons-laws-of-motion/ (現代の教育資料での三法則の言い方について)
- Stanford Encyclopedia of Philosophy「Newton's Principia」。 https://plato.stanford.edu/entries/newton-principia/ (ハレーの問い、F=maの成立の時期、慣性の先行者について)
- Tel Aviv University, Galileo Museum「The Law of Inertia」。 https://www.tau.ac.il/education/muse/museum/galileo/the_law_of_inertia.html (ガリレオ・デカルト・ニュートンの流れについて)
- コトバンク「運動の法則」。 https://kotobank.jp/word/%E9%81%8B%E5%8B%95%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87-35703 (日本語の辞典での第2法則の説明と、出版年について)
- Wikipedia「Newton's laws of motion」。 https://en.wikipedia.org/wiki/Newton's_laws_of_motion (作用と反作用が別の物体に働くことについて。二次資料)
なおした ところ
更新履歴
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