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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

タコは どうして ひふの さわりごこちまで かえられるの?

色だけでなく手ざわりも変える ── タコとコウイカの皮膚で起きていること

タコ・コウイカ類の皮膚乳頭 ── 筋肉性静水骨格による3次元の質感変化と神経制御

分野:生きもの

タコは、いわの 前に いくと、からだの 色を いわに にせて かえると いわれます。でも、すごいのは 色だけでは ありません。

ひふの ひょうめんに、ぶつぶつが ぽこっと たつ ことが あるのです。ほねの ない からだで、どうやって たてて いるのでしょう。いっしょに たどって みましょう。

岩の前のタコが、体の色を岩に似せるところまでは、聞いたことがあるかもしれません。ところがタコやコウイカ類の皮膚は、表面の手ざわりまで変えられます。つるつるだった皮膚に、1秒もかからずに、ぶつぶつやとげが立つこともあるのです。

骨も殻もない体で、どうやって突起を立てているのか。動く速さ、指令の出どころ、神経を切ったあとの実験、そして何を手がかりに立てているのかを、研究の報告を見比べながら追います。

タコ・コウイカ類の皮膚は、色素胞による色の変化に加えて、「乳頭(papillae)」という構造で表面を平らな状態から凹凸のある立体的な状態へ変えられる[1]。

このメモでは、乳頭を動かす筋肉性静水骨格[2][3]、立つ速さと神経の出どころ[4]、神経を切ったあとも立ち続ける現象[4][5]、視覚による制御[4]を、コウイカを中心とした研究から整理する。タコ固有の数値は資料で確認できた範囲に限る。

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1. いろを かえる しくみは どうなって いるの?

1. 色を変える仕組み ── 3種類の細胞と、放射状の筋肉

1. 皮膚の色に関わる細胞 ── 色素胞・虹色素胞・白色素胞

まずは 色の はなしから です。タコや イカの ひふには、色に かかわる ものが、おもに 3しゅるい あります。しゅるいや ばしょで、ちがう ことも あります[7]。そのうち ひとつは、色の つぶが 入った 小さな ふくろ です。

この ふくろの まわりには、数十本の 細い 筋肉きんにくが ついて います。筋肉きんにくが ちぢむと、ふくろが ひろがって、色が 見えます[7]。

ほかには、ひかりを はねかえして きらきら 見せる そうと、まわりの ひかりを そのまま はねかえして 白く 見せる そうが あります[7]。

ここまでが 「色」の しくみ です。色とは べつに、ひふの かたちも かわります。

皮膚の色には、色素胞・虹色素胞・白色素胞という3種類の細胞が関わっています。あるかどうかや並び方は、種類や体の部位で違います[7]。

色素の袋

色素胞は、色素の入った袋です。その周りに、数十本の放射状の筋肉がついています。筋肉が縮むと袋が引っぱられて広がり、色が見えるようになります[7]。

光をあやつる2つの細胞

虹色素胞には薄い板が積み重なっていて、光の干渉で色を作ります。白色素胞は、周りの光をそのまま反射して白い背景を作ります[7]。

ここまでは「色」の話です。この記事の中心は、色とは別の仕組みで起きる、質感の変化のほうです。

皮膚の色には、色素胞・虹色素胞・白色素胞が関わる。有無や配置は種や部位で異なる。色素胞は色素を含む袋で、周縁に数十本の放射状の筋肉が付着している。筋肉が収縮すると袋が広がり、色が見える[7]。

虹色素胞は薄い板が積み重なった構造で、薄膜干渉により構造色を作る。白色素胞は周囲の光をそのまま反射し、白い背景を作る[7]。

ここまでは色の制御である。以下で扱う乳頭は、これとは別に、皮膚表面の形そのものを変える構造にあたる。

2. ひふの ひょうめんが ぶつぶつに なるって ほんとう?

2. つるつるの皮膚が、でこぼこに変わる

2. 乳頭(papillae) ── 平らな皮膚を立体にする器官

タコや コウイカなどの ひふは、つるつるの たいらな 場所から、ぼこぼこの りったいの 場所へ、すばやく かわる ことが できます[1]。

この へんかを している ぶぶんが、ひふの 上に ある 小さな とっき、「にゅうとう」と よばれる ものです。人の からだの 「にゅうとう」とは べつの ものです[1]。

とっきの かたちは、まるい ものや、とげの ような ものなど、いろいろ あります。2014年の 研究では、タコと コウイカの 6しゅを くらべて、9つの かたちが 見つかった と ほうこくされました[2]。

タコやコウイカ類の皮膚は、平らな状態から、でこぼこの立体的な状態へすばやく変えられます[1]。この変化を担っているのが、皮膚にある小さな突起の「乳頭(papilla)」です。人の体の乳頭とは別のものです。

形は一つではない

2014年の比較研究では、タコとコウイカ類の6種を顕微鏡で調べて、形や大きさ、複雑さの異なる9タイプの乳頭が報告されました[2]。単純な円錐形のものから、もっと複雑なものまであります。

コウイカ類・タコ類は、皮膚を平滑な状態から凹凸のある3次元的な状態へ短時間で変えられ、その変化を担う器官が皮膚の乳頭(papilla、複数形papillae)である[1]。ヒトの乳頭とは別の構造である。

2014年の比較形態学的研究(Allen, Bell, Kuzirian, Hanlon)は、タコ類とコウイカ類あわせて6種で、形・大きさ・複雑さの異なる9タイプの乳頭を顕微鏡で比較した。それ以前に、コウイカの単純な円錐形の乳頭が筋肉性静水骨格として働くことは確立されていたとされる[2]。

3. なんで ひふの ひょうめんまで かえるの?

3. 手ざわりまでまねる理由 ── かくれるための追加の手がかり

3. 皮膚の質感を変えるカムフラージュ

この とっきは、まわりの ものの こまかい きめに あわせて、かくれるために つかわれる と いわれます[6]。

いわは、ごつごつ して います。かいそうは、ひらひら して います。きめを あわせて、まわりに なじむ ために つかわれると かんがえられて います。

ある けんきゅうしゃは、この りったいの きめも、かくれる ための だいじな てがかりだ、と せつめい して います[6]。

こんな ふうに ひふの かたちまで かえられるのは、タコや イカの なかまの とくちょう と いわれて います[8]。

色だけでは足りないとき

乳頭は、周りにある物の細かなきめをまねして、その場になじむために使われると考えられています。研究者の一人は、この立体的な質感を、背景にかくれるための大事な「追加の要素」だと説明しています[6]。

ごつごつした岩の前で、色だけ岩に似せても、平らな皮膚では、影のでき方が岩とちがいそうです。質感まで合わせると、その差が減ると考えられます。質感を合わせて背景になじむために使われると考えられています。

ほかの動物にはない特徴

皮膚の筋肉と水圧のような力で、単純なものから複雑なものまで皮膚の起伏を変えられることは、頭足類(タコ・イカ・コウイカ)に特有の特徴だと紹介されています[8]。「唯一」と言い切れるかは、まだ研究の途中です。

乳頭は周囲の基質の細かな質感を模して背景になじむために使われると考えられ、研究者は3次元の質感を、視覚的な欺きにとって非常に重要な追加の属性だと述べている[6]。

皮膚構造内の筋肉と静水力により、単純なものから複雑なものまで皮膚のトポグラフィーを変えられることは、頭足類に特有の特徴とされる[8]。「他の動物群にはない」という点は研究者の記述で、ここでは範囲を断定しない。

4. ほねが ないのに、どうやって たてて いるの?

4. 骨のない体で突起を立てる ── 筋肉性静水骨格

4. 筋肉性静水骨格としての乳頭

タコには、からだを ささえる かたい ほねが ありません。それでも、とっきが たちます。ひみつは、筋肉きんにくです。

とっきの なかには、ぐるっと まるく のびる 筋肉きんにくと、よこに のびる 筋肉きんにくが あります。これらが いっしょに ちからを 入れると、とっきが もちあがります。さきを ひふの 下へ ひっぱる 筋肉きんにくが ちぢむと、また ひっこみます[3]。

水の 入った ふくろを ぎゅっと おすと、かたく なりますね。それに にた かんじで、たてる 筋肉きんにくが そのまま とっきの かたちを ささえて います。ただし 本当の とっきは、ふくろでは なく、筋肉きんにくの かたまりです[2]。

乳頭は、立たせる筋肉が同時に形も支える「筋肉性静水骨格」というつくりだと考えられています[3]。

3つの筋肉の役わり

円形の筋肉と水平方向の筋肉が協力して乳頭を持ち上げます。引き込む役の筋肉が縮むと、先端が体表へ引き下げられます[3]。骨のような硬い支えは要りません。

コウイカでは、単純な円錐形の乳頭がこの仕組みで働くことが、先の研究で確立されていたと報告されています[2]。

仕組みは一つとは限らない

コウイカの一種(Sepia apama)の顔のうね状の乳頭では、筋肉が縮むと、上の皮膚の層が外へたわんで盛り上がる、別の仕組みが見つかりました[3]。乳頭の仕組みは、種や場所によって一様ではないようです。

コウイカの単純な円錐形の乳頭は、筋肉性静水骨格として機能することが先行研究で確立されていた[2]。多くの種では、円周方向と水平方向の皮膚の起立筋(dermal erector)の協調した収縮が乳頭を持ち上げ、牽引筋(retractor)が先端を体表へ引き込む。骨のような硬い支持構造は不要である[3]。

一方、Sepia apamaの顔のうね状乳頭では、起立筋の収縮が上を覆う皮膚の層を外側へ座屈させる別の機構が報告されている[3]。乳頭の駆動機構は種や部位で一様ではない。

5. とっきが たつのは、どれくらい はやいの?

5. 乳頭が1秒かからずに立つ

5. 立ち上がりの速さ ── コウイカで1秒未満

コウイカでは、とっき 1こが 1びょうよりも みじかい 時間で、すっかり たつ ことも、ひっこむことも できた と ほうこくされて います[4]。

「いち、に」と 数える まえに、ひふの ひょうめんが かわる ことに なります。

この 数字は コウイカで 見つかった ものです。タコに そのまま あてはまるかは、この 記事では 言えません。

生きているコウイカで、乳頭1つは1秒未満で完全に立つ、あるいは引っこむことができると報告されています[4]。「いち、に」と数えるより短い時間です。

この数値はコウイカの観察です。タコにそのままあてはめることはできません。タコの記述は、似た構造があるという程度にとどめます。

iScience(2018)は、生きたコウイカで個々の乳頭が1秒未満で完全に展開または収縮しうることを報告している[4]。

この値はコウイカ(Sepia officinalis)での観察であり、タコ類へ直接あてはめられない。速度・神経・保持に関する実験は、本稿で扱う範囲ではコウイカが中心である。

6. たてろという めいれいは、どこから くるの?

6. 指令は脳だけから出るのか ── 星状神経節という中継点

6. 乳頭の運動神経と星状神経節

とっきを うごかす 神経しんけいの しんごうは、脳のうの すぐ そばでは なく、からだの 外がわに ある 「せいじょうしんけいせつ」と いう ところに、あつまって いる ことが わかりました[4]。

ここは、神経しんけいが ほかの 神経しんけいに つながる 中つぎの 場所のような ものです。めいれいが 脳のうから こない、という 意味では ありません。脳のうからの しじが ここを 通って とっきに とどきます[4]。

コウイカでは、乳頭を動かす運動神経の細胞は、脳ではなく、外套膜側にある星状神経節という部分の内側の壁にあると報告されています[4]。

ここで注意したいのは、星状神経節は中継点だということです。「脳が関わらない」という意味ではありません。指令は脳から来て、ここを経由して乳頭に届きます。

コウイカでは、乳頭の運動神経(motoneurons)は、脳ではなく外套膜側の星状神経節の腹側内側壁にあるとされる(iScience 2018)[4]。

星状神経節は中継点であり、指令の起点は脳にあると考えられる。「脳が関与しない」と読むのは誤りである。

7. しんけいを きっても、とっきは たったまま なの?

7. 神経を切っても1時間以上立ち続ける

7. 神経切断後の保持 ── ラッチブリッジ様の機構の示唆

コウイカで、とっきに くる 神経しんけいを きっても、とっきは 1時間より 長く、たったままだった と ほうこくされて います[4]。

ちからを ぬかなくても、たった かたちを たもてる しくみが あるのかも しれません。かいが からを とじたままに できる ことに にている、という せつめいを した 記事も あります[5]。

ただ、これは 「そうかもしれない」と いう だんかいの はなしです。ここで しょうかいしたのは コウイカの ほうこくです。

コウイカで乳頭に来る神経を切っても、乳頭は1時間以上立ったままだったと報告されています[4]。

力を使わずに保つ仕組み?

貝が殻を閉じたままにする仕組みに似た、力をほとんど使わずに保つ仕組み(キャッチ機構、ラッチブリッジ)が関わる可能性が示されています[4][5]。ただ、「示唆」の段階で、断定はできません。ここで紹介したのはコウイカの報告です。

iScience(2018)は、コウイカで乳頭への神経を切断しても、乳頭が1時間以上、立ったままだったと報告した。ゆっくりした弛緩は、二枚貝のキャッチ機構(ラッチブリッジ)に似た、力を使わずに張力を保つ機構を示唆する[4][5]。

示唆にとどまり、機構は確定していない。ここで紹介したのはコウイカの報告である。

8. たてるか どうかは、さわって きめて いるの?

8. 何を手がかりに立てるのか ── 触覚ではなく視覚

8. 視覚による制御 ── 触覚情報を変えても変わらない

コウイカの とっきは、おもに 目で 見た ものに よって きまる、と ほうこくされて います[4]。

さわった かんじを かえても、とっきの 出かたは かわらなかった そうです[4]。

つまり、目で 見て 「ここは ごつごつして いる」と はんだんして いる ようです。ここで しょうかいしたのは コウイカの けっかです。

コウイカの乳頭は、主に視覚で決まることが報告されています。触覚の情報を変えても、乳頭の出方は変わりませんでした[4]。

目で背景を見て、必要な質感を選ぶ。手触りを確かめて決めているわけではなさそうです。ここで紹介したのはコウイカの結果です。

コウイカの乳頭の発現は視覚に強く依存し、触覚情報を操作しても変化しなかったと報告されている(Allen ら 2009、iScience 2018)[4]。

ここで紹介したのはコウイカでの結果である。

9. もっと 知りたく なったら

9. 自分でも調べてみたくなったら

9. 自分でも調べてみたくなったら

いえや こうえんで

いえの 中や 近くで、色は にて いるのに、さわると ちがう ものを さがして みましょう。はっぱと 石、木の いたと かべ、などです。色と さわりごこちは、べつべつに あることが わかります。

すいぞくかんで

もし すいぞくかんで タコや イカの なかまを 見る ことが あったら、まわりの ものと ひふの さわりごこちが どう かわるか、見て みましょう。すぐには かわらない ことも あります。

色と手ざわりを別々に探す

家の中や公園で、色はにているのに、触ると違うものを探してみましょう。葉と石、木の板と壁などです。色と質感は、別々に比べられることがわかります。

水族館で

水族館でタコやイカの仲間を見る機会があれば、周りの物によって皮膚の見た目がどう変わるか見てみます。見られるかどうかは、そのときの様子しだいです。水槽をたたいたり、ガラスにフラッシュを当てたりしないようにしましょう。

もっと知りたいとき

水族館の解説や、日本語で書かれた頭足類の本を探すと、色や質感の話が出てくるかもしれません。

確かめられること

水族館などで展示されている場合は、水槽ごしに背景の変化と皮膚の見た目の変化を観察できる。視覚で制御されるため[4]、背景の質感を変えたときの反応を見るのが手がかりになる。水槽にはふれず、フラッシュも使わない。

資料を読むなら

  • Allen ら(2013)Journal of Morphology、乳頭の形態[1]
  • Allen ら(2014)比較形態学的研究(9タイプの乳頭)[2]
  • iScience(2018)コウイカの乳頭の神経制御[4]
  • Mäthgerら 頭足類の構造色のメカニズム[7]

日本のマダコで乳頭がどう見えるか、日本語の一次資料は今回確認できていない。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

本文で実際に使った資料だけを載せています。多くは英語の論文や要旨で、コウイカでの研究が中心です。用途は各項目の末尾に記しました。

  1. Allen et al. 2013, Journal of Morphology(PubMed) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23378271/ (平らから立体への変化、乳頭の名前)
  2. Allen, Bell, Kuzirian, Hanlon, Comparative morphology of changeable skin papillae in octopus and cuttlefish, J Morphol 275, 2014 https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jmor.20221 (6種・9タイプの比較、円錐形乳頭の働き。要旨の範囲)
  3. SICB要旨 Functional morphology of changeable skin papillae in octopus and cuttlefish https://sicb.org/abstracts/functional-morphology-of-changeable-skin-papillae-in-octopus-and-cuttlefish/ (筋肉の役わり、たわみによる別の仕組み)
  4. Neural Control of Dynamic 3-Dimensional Skin Papillae for Cuttlefish Camouflage, iScience 2018 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6059360/ (立つ速さ、星状神経節、神経を切る実験、視覚による制御)
  5. Futurity「octopus and cuttlefish papillae」 https://www.futurity.org/octopus-and-cuttlefish-papillae-1682212-2/ (貝の仕組みに似るという説明)
  6. Science Friday「Secrets of cephalopod camouflage」 https://www.sciencefriday.com/articles/secrets-of-cephalopod-camouflage/ (かくれるための質感の意味)
  7. Mäthger et al., Mechanisms of structural coloration in cephalopods https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2706477/ (皮膚の色の3層)
  8. Frontiers in Physiology 2017 https://www.frontiersin.org/journals/physiology/articles/10.3389/fphys.2017.00393/full (頭足類に特有とされる皮膚の起伏の変化)

なおした ところ

更新履歴

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