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ひかりで さいきんを つかまえる? ひかりピンセットの はなし

光でつかむ、光ピンセット:押すだけの光が細菌を捕まえるまで

光ピンセット:放射圧と勾配力による微粒子の捕捉と、2018年ノーベル物理学賞

分野:技術

ひかりは、ものを おす ことが できます。でも、ふだんは ちっとも かんじません。ちからが、あまりに 小さいからです。それなのに、その ひかりで 細菌さいきんを つかまえる どうぐが あります。どうして そんな ことが できるのでしょうか。この メモを 読むと、ひかりで つかめるように なるまでの、ひとつの ちょうせんが わかります。

光は物を押す力を持っています。ただ、その力はごく小さく、私たちが日常で感じることはありません。ところが、微生物ほどの小さな粒にとっては、その力が「握力」になります。では、押すだけの光で、どうやって粒を一か所に捕まえたのでしょうか。

光には物を押す力(放射圧)があるが、ピコニュートン程度で、日常では感じられない。しかし細菌や細胞の大きさの粒にとっては、自分にかかる重力をはるかに上回る力になる。この力を使って、押される向きの光でなぜ粒を一か所に保てるのか。1986年の単一ビームによる捕捉、1987年の近赤外レーザーによる生きた細菌の捕捉、1993年のキネシンの歩幅の測定を通して、2018年のノーベル物理学賞につながった光ピンセットの成り立ちが分かる。

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1. ひかりに おされても、どうして かんじないの?

1. 光に押されても、なぜ感じないのか

1. 光が物を押す力は、どれほど小さいか

かべに ボールを ぶつけると、ボールは はね返って、かべも ほんの すこし おされます。ひかりの つぶ(光子こうし)も、ものに あたると、おなじように おす ちからが はたらきます[1]。

ただし、その ちからは ものすごく 小さくて、ふだんは ぜんぜん かんじません。かいちゅうでんとうを あてられても、おされた とは 思いませんよね。

ところが、とても 小さな つぶに とっては、ちがいます。細菌さいきんや 赤血球せっけっきゅうの ような 小さな ものには、ひかりに おされる ちからのほうが、じぶんの おもさより ずっと 大きいのです[1]。この ちからが、ひかりピンセットの「にぎる ちから」に なります。

壁にボールを投げると、ボールは跳ね返り、壁はほんの少しだけ押されます。光の粒である光子も、物に当たると押す力を生みます[1]。

その大きさは、せいぜいピコニュートン程度と説明されています。ピコは1兆分の1で、ニュートンは約100gの物を支える力です。レーザーポインターの光を鏡で跳ね返したときでも、数ピコニュートンほどで、私たちが感じることはまずありません[1]。

ところが、直径1μm(1mmの1000分の1)の水滴にかかる重力は、約0.005ピコニュートンです。細菌や赤血球のような微粒子では、光に押される力のほうが自分の重さをはるかに上回ります。この「握力」に目をつけたのが、光ピンセットです[1]。では、押すだけの光で、どうやって粒をつかむのでしょうか。

光子は運動量を持つため、物に当たると壁にボールを当てたときのように押す力が働く。これが放射圧(光圧)で、レーザーポインターの光を鏡で反射させても数ピコニュートン程度と、日常生活で感知できる大きさではない(1ピコニュートンは1兆分の1ニュートン。1ニュートンは約100gの物体を支える力にあたる)[1]。

しかし尺度を粒に合わせると事情が変わる。直径1μmの水滴に働く重力は約0.005ピコニュートンにすぎず、細菌や赤血球などの微粒子では、光圧が自身の重さをはるかに凌駕する[1]。しかもピコニュートン級は、生体分子が生み出す力と同じ桁でもある(5章)。ただし、光が押す力は光の進む向きに働くだけで、それだけでは粒を一点に留められない。この限界をどう越えたのかが、次の章からの問いである。

2. おすだけで、つかめるの?

2. 押すだけでは、粒は流れていってしまう

2. 光で押すだけでは粒は流れる:対向ビームによる捕捉(1970年)

水の 中の 小さな つぶに ひかりを あてたら、つぶは ひかりに おされて、すすんで いきました。1970ねんの ことです[1]。ベル研究所の アシュキンさんの 実験じっけんです。

でも、おすだけでは、つぶは どんどん とおくへ いって しまいます。そこで アシュキンさんは、おなじ ひかりを むかい合わせに あてて、つぶを はさみました。すると、つぶは そこに とまりました。つぎの 年には、下から ひかりを あてて、つぶを うかせる ことにも せいこうしたそうです[1]。

それでも、まだ もんだいが ありました。はさむ ためには、ひかりを 2ほん そろえなければ なりません。もっと かんたんに、ひかり 1ぽんだけで つかむ ほうほうは ないのでしょうか。

1970年、アメリカのベル研究所のアーサー・アシュキンは、水の中に浮かべた小さなラテックスの粒(約0.6〜2.7μm)にレーザー光を当てました。粒は、光に押されて動きました[1]。

ただ、押される粒は光の進む向きへ流れていくだけで、一か所には留まりません。そこでアシュキンは、同じビームを向かい合わせにして粒を挟み、反対向きの押す力を釣り合わせて安定して捕まえました。翌1971年には、下から光を当てて重力に逆らい、粒を浮かせる実験にも成功したとされます[1]。

これで「光で粒をつかむ」ことは、いちおう実現しました。でも、ビームを2本、ぴったり向かい合わせにしなければなりません。1本のビームだけで、しかも押す力だけに頼らずにつかむことはできないのでしょうか。

光圧は光の進行方向に働くため、単純に押すだけでは粒は流れ去る。アシュキンは1970年、ベル研究所で水中のラテックス粒子(約0.6〜2.7μm)にレーザー光を当ててこの力を観察し、同じビームを対向させて試料セルに集光することで、反対向きの光圧で粒を挟んで安定に捕捉した。翌1971年には、下から光を当てて重力に逆らって粒を浮遊させている[1]。

この方式は、2本のビームの軸を精密に合わせる必要があり、装置が大がかりになる。そこで問題は、押す力(散乱力)だけに頼らず、粒を一点へ引き戻す力を使えないか、に移る。

3. おされる はずが、まん中に ひきよせられた

3. 押されるはずの粒が、ビームの中心へ引き寄せられた

3. 散乱力と勾配力:1本のビームによる捕捉(1986年)

じつは ひかりには、おす ちからのほかに、もう ひとつ ふしぎな ちからが あります。ひかりが つよい ところへ、つぶを ひきよせる ちからです[3]。

1986ねん、アシュキンさんたちは、レンズで ぎゅっと しぼった ひかり 1ぽんだけで、みずの 中の つぶを つかまえる ことに せいこうしました[4]。おす ちからだけでなく、ひきよせる ちからも つかったのです。いま「ひかりピンセット」と よばれる ぎじゅつの、はじまりと いわれます[6]。

この ぎじゅつで、アシュキンさんは 2018ねんの ノーベル賞しょうを もらいました。ふつうは ふれないと つかめない ものを、ひかりだけで つかんだのです[1]。

光には、押す力のほかにもう一つ、強い光のほうへ粒を引き寄せる力があります。前者を散乱力、後者を勾配力といいます。散乱力は光の進む向きに粒を加速させ、勾配力はビームの強い中心へ粒を引き込みます[3]。

勾配力が粒を引き寄せるのは、粒の屈折率が周囲の水より大きいときです。粒は、光の強い焦点のほうへ引かれます。逆に、水より屈折率が小さい気泡などは、光の強い場所から押し出される傾向があります[1]。

1986年、アシュキン、ジェイ・ジエジック、ブジョークホルム、スティーブン・チューの4人は、顕微鏡のレンズで1本のビームを強く絞り、この勾配力で粒を捕まえることを初めて示しました。10μmから約25nm(1mmの4万分の1)までの粒が、水の中で捕まったと報告されています[4]。この論文が、いま光ピンセットと呼ばれる技術の出発点とされています[6]。

2018年のノーベル物理学賞は、この光ピンセットとその生物系への応用で、アシュキンに半分が贈られました。残りの半分は、別の研究のムルーとストリックランドです[1]。授賞側は、光の力で小さな粒を中心へ寄せて保持したことを評価しています[2]。しかし、粒は細菌ではなく、まだ無生物でした。生きたものをつかめるでしょうか。

光が粒に及ぼす力は2種類に分けられる。入射光が粒を進行方向へ加速する散乱力と、光強度の高いほうへ粒を引き寄せる勾配力である[3]。勾配力が粒を焦点へ引くのは、粒の屈折率が周囲の媒質より大きいときで、水より屈折率の小さい気泡などは逆に押し出される傾向がある。また、光が作るポテンシャルの井戸の深さが熱ゆらぎのエネルギー(kT)より深くなければ、捕捉は安定しない[1]。

1986年、アシュキン、ジエジック、ブジョークホルム、チューの4人は、対物レンズで強く絞った1本のビームによる勾配力トラップを、初めて実証した。捕捉できたのは、水中の誘電体粒子で、10μmから約25nmまでの範囲である[4]。この形が光ピンセットの原型とされ、設計は数十年、大きくは変わっていないという評価もある[6][3]。共著者のチュー(Steven Chu)は、別の研究(原子のレーザー冷却)で1997年にノーベル物理学賞を受けている[4]。

アシュキンは2018年のノーベル物理学賞を、光ピンセットとその生物系への応用により受けた(残る半分はムルーとストリックランド)[1]。授賞側は、レーザー光で小さな粒をビームの中心へ寄せて保持したことを、光の放射圧で物を動かすというSFの夢の実現として説明している[2]。ただし、この段階の粒は無生物のガラスやラテックスだった。生きた細菌に同じことができるかが、次の課題になる。

4. いきた さいきんは、きずを おさえて つかめる?

4. 生きた細菌を、傷を抑えてつかむ工夫

4. 近赤外レーザーによる生きた細菌の捕捉(1987年)

はじめは、ひかりで つかまえた 細菌さいきんが、いたんでしまいました[3]。

そこで、ひかりの いろを かえました。人の 目には 見えない、赤外線と いう ひかりです。いきものの からだは、この ひかりを ほとんど とおします。すると、きずが 大はばに へりました[3]。

1987ねん、アシュキンさんは、いきた 細菌さいきんを、きずを おさえて つかまえました。ノーベル賞しょうの せつめいでも、「大きな とっぱこう」と されて います[2]。

それまでは、ガラスの ほそい はりで ふれて うごかす しか ありませんでした[1]。ふれずに うごかせるように なった ことは、いきものを しらべる 人たちに とって、大きな ことだったのです。

ところが、最初のレーザーでは、細胞が傷んでしまいました。そこで使ったのが、波長1064nmの近赤外レーザーです。多くの生体物質は、この波長の光をほとんど通します。切り替えると、光による損傷を大きく減らすことができました[3][1]。「全く無害になった」わけではなく、損傷を大きく回避できるようになった、という説明です。

1987年、アシュキンは光ピンセットで生きた細菌を、傷を抑えてつかみました。ノーベル賞の説明でも「大きな突破口」とされています[2]。同じ年に、大腸菌や酵母、ヒトの赤血球を捕まえて動かすことにも成功し、タバコモザイクウイルスも捕らえられたと解説されています[1]。

それまで、細菌や細胞は、ガラスの細い針で触れて動かすものでした。光なら、触れずに、傷を抑えて、自由に動かせます。この点が、生物学に大きな影響を与えたと評価されています[1]。

最初に使った波長のレーザーでは、細胞が光で損傷した。これを解決したのが、生体物質のほとんどが透明になる波長1064nmの近赤外レーザー(Nd:YAG)への切り替えである[3]。近赤外光を使うことで光損傷は大きく回避できるが、損傷がゼロになるわけではない[1]。

アシュキンは1987年、この光ピンセットで生きた細菌を、傷を抑えて捕捉し、授賞側はこれを大きな突破口と位置づけた[2]。同年に大腸菌・酵母・ヒト赤血球の捕捉と操作に成功し、タバコモザイクウイルスの捕捉も報告された[1]。

従来、細菌や生細胞はガラスの微細な針などで接触して機械的に操作されていた。光による非接触の操作は、損傷を抑えながら自由度の高い操作を可能にした点で、生物学への影響が大きい[1]。

5. ひかりで つかんだ たまで、ぶんしの 一歩を はかれる?

5. つかむ道具が、分子の一歩を測る物差しになった

5. 1分子の力と歩幅を測る:キネシンの8nm(1993年)

ひかりの ちからは、からだの 中で はたらく ちいさな ぶんしの ちからと、おなじくらいの 大きさです[1]。だから、ひかりで つかんだ 小さな たまを、ぶんしに くっつけて しらべる ことが できました。

1993ねん、けんきゅうしゃたちが、キネシンと いう ぶんしを しらべました。キネシンは、細ぼうの 中で にもつを はこぶ ぶんしです。ひかりで たまを つかんで、キネシンを ほそい みちの 上に おいてみると、キネシンは 8ナノメートルずつ、あるいて いました[5]。

8ナノメートルは、1ミリの 12万5千ぶんの 1。目には 見えない 小さな 一歩を、ひかりの ピンセットが はかったのです。

光ピンセットの力はピコニュートン級で、生体分子が出す力と同じくらいです。そのため、DNAの両端に微小な玉を付けて引っ張り、1分子の性質を調べたり、筋肉が縮むもとになるミオシンがアクチンを引く力を、1分子ずつ測ったりする研究に使われました。日本の柳田敏雄らの研究もその一つです[1]。

1993年には、スヴォボダ、シュミット、シュナップ、ブロックの4人が、モータータンパク質のキネシンを調べました。キネシン1分子を付けたシリカの玉を、光ピンセットで微小管(細胞の中の細い管)の上に置くと、キネシンは8nmずつ歩くことが分かりました[5]。8nmは、1mmの12万5千分の1です。

授賞側は、光ピンセットが今では「生命のしくみ(machinery of life)」の研究に広く使われていると説明します[2]。光の力が細菌をつかむだけでなく、分子1個の力と歩幅を測る道具になったのです。

光圧はピコニュートンオーダーで、生体分子が生む力と同程度である。この一致を利用して、DNAの両端に微小球を付けて引っ張り1分子の性質を調べる研究や、筋収縮のもとであるミオシンがアクチンを引く力の1分子計測(柳田敏雄らの研究)が行われた[1]。

1993年、Svoboda、Schmidt、Schnapp、Blockらは、キネシン1分子を付けたシリカ玉を光ピンセットで微小管の上に置き、キネシンが8nmずつ歩くことを見いだした[5]。8nmは1mmの12万5千分の1(1mm=10⁶nm)にあたる。細胞内輸送を担うモーター分子の一歩が、光でつかんだ玉の動きとして読み取れたことになる。

授賞側は、光ピンセットが現在、生命の仕組みの研究に広く使われていると説明する[2]。

自分でも しらべて みたくなったら

自分でも調べてみたくなったら

自分でも調べてみたくなったら

家で できること

ひかりで おす ちからを 家で ためす ことは できません。そのかわり、「ピコ」が どれくらい 小さいか、かんがえて みましょう。1ニュートンは、100グラムの ものを ささえる ちから。ピコは、その 1ちょうぶんの 1です。

出かけて できること

ちかくの 科学館などで、けんびきょうや レーザーの てんじが ないか、しらべて みましょう。

今日できること

「ピコニュートン」の小ささを、数字で確かめてみましょう。1ニュートンは約100gの物を支える力で、ピコはその1兆分の1です。100gの1兆分の1は、何gか。計算してみると、光ピンセットの「握力」が、どれほど小さいかが実感できます。

出かけてできること

近くの科学館や大学の公開行事で、顕微鏡やレーザーの展示や講座がないか調べてみましょう。

公式情報を読む

日本語では、出典欄の解説論文(KAGAKU 2019年2月号)が読めます。2018年ノーベル物理学賞の発表は、王立スウェーデン科学アカデミーのプレスリリースが英語で公開されています。

原典に当たるなら、まず1986年のOptics Letters 11(5), 288(アシュキンら)の要旨で、単一ビームによる勾配力トラップの実証が確認できる。1993年のSvobodaらのNature論文は、キネシンの8nmステップの原典である。どちらも英語だが、要旨だけでも読める。授賞側の説明は王立スウェーデン科学アカデミーのプレスリリースにある。日本語の解説としては、出典[1]のKAGAKU 2019年2月号がある[1]。

自分で検討するなら、キネシンが出す力の値を原論文で探し、ピコニュートン級かどうかを確かめてみるとよい。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

記事で使った資料のうち、公開されているものです。図や文章はそのまま写さず、自分の言葉で書きなおしました。

  1. 東海林・坪井(大阪公立大学)「光ピンセット」『KAGAKU』2019年2月号(岩波書店) https://omu.ac.jp/sci/chem-advanachem/assets/KAGAKU-iwanami.2019.89.2.138-141.pdf (光圧の大きさ、1970年代の捕捉、1987年の生体への応用、1分子計測、授賞理由)
  2. 王立スウェーデン科学アカデミー 2018年ノーベル物理学賞 プレスリリース https://www.kva.se/en/news/nobelpriset-i-fysik-2018-2/ (授賞側の説明、1987年の突破口、生命のしくみへの利用)
  3. Physics Today, "Father of optical trapping awarded a share of the Nobel Prize in Physics" https://physicstoday.aip.org/news/father-of-optical-trapping-awarded-a-share-of-the-nobel-prize-in-physics (散乱力と勾配力、近赤外レーザーへの切り替え)
  4. Ashkin, Dziedzic, Bjorkholm, Chu, Optics Letters 11(5), 288 (1986) 要旨 https://opg.optica.org/abstract.cfm?URI=ol-11-5-288 (単一ビームの勾配力トラップの初の実証)
  5. Svoboda, Schmidt, Schnapp, Block, Nature (1993) 要旨(コールド・スプリング・ハーバー研究所リポジトリ) https://repository.cshl.edu/id/eprint/32576/ (キネシンの8nmの歩み)
  6. "Optical tweezers 20 years on"(セント・アンドリューズ大学研究ポータル、要旨) https://research-portal.st-andrews.ac.uk/en/publications/optical-tweezers-20-years-on/ (光ピンセットという名前の技術の出発点)

なおした ところ

更新履歴

更新履歴(改版の記録)

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