1. いたみを かんじる センサーは どこに あるの?
1. 痛みを感じ取るセンサーは、皮膚のむき出しの神経の先
1. 侵害受容器:自由神経終末という末端
ぶつけた ところの ひふの したには、いたみを うけとる センサーが あります。むきだしの 神経の さきっぽです。
この センサーは、ひふだけでは ありません。ほねの つなぎめや、めの くろめにも あるそうです。つよい しげきを うけると、でんきの信号に かえて、からだの おくへ おくります。
ここで だいじなのは、この 信号が まだ「いたみ」では ない ことです。
痛みを受け取るセンサーは、侵害受容器と呼ばれます。正体は、皮膚の下などにある自由神経終末、つまりむき出しになった神経の先です。
皮膚だけでなく、関節や体の深いところ、目の角膜にもあると説明されています[3]。体を傷めるおそれのある強い刺激を、電気の信号に変える役目です。
ただし、この信号そのものが痛みなのではありません。その話は最後の章に回します。
2. しんごうは どんな みちを とおって、あたまへ いくの?
2. 信号は、脊髄と視床を通って大脳へ
2. 痛みの信号が脳へ届く経路
あしで うまれた 信号は、せなかの ほねの なかを とおる ふとい 神経、せきずいに はいります。そこから のぼって、あたまの ふかい ところの 視床へ いきます。
そして さいごに、のうの ひょうめんへ たどりつきます。とちゅうで、からだの ひだりと みぎが いれかわる ことも、しられています。
のうの ひとつの ばしょだけで いたみが うまれる わけでは ないようです。
3. どうして「ズキッ」と「ジーン」の 2かいに なるの?
3. 速い線維と遅い線維が、痛みを2回に分ける
3. 第一痛と第二痛:Aδ線維とC線維の伝導速度
いたみを はこぶ 神経には、2しゅるい あります。はやい 神経と、おそい 神経です。
はやい ほうは、くるまが はしる くらいの はやさです。おそい ほうは、ひとが ゆっくり あるく くらいの はやさです。
あしから のうまで 1.5メートルと して けいさんして みましょう。はやい ほうは、0.1びょうも かかりません。おそい ほうは、1びょう ちょっと かかります。この ずれが「ズキッ」と「ジーン」に なると かんがえられて います。ただし ほんとうは、のうでの しごとの じかんも あるので、およその はなしです。
痛みを運ぶ線維は主に2種類あります。Aδ(エーデルタ)線維は細い髄鞘をもち、伝わる速さは毎秒約5〜30 mです。鋭い痛み(第一痛)を運びます。C線維は髄鞘がなく、毎秒約0.4〜2 mと遅く、鈍く広がる痛み(第二痛)を運びます[3]。資料によって数字に幅があるので、およその目安です。
足先から脳まで約1.5 mと仮定して計算してみます。毎秒20 mの線維なら、1.5÷20で約0.075秒。毎秒1 mの線維なら、1.5÷1で約1.5秒です。差は約1.4秒になります。
これは出典に載っている実測ではなく、説明のための概算です。脊髄や脳での処理の時間もかかるので、実際の「ズキッ」と「ジーン」の間隔とは一致しません。それでも、2回来る理由のイメージはつかめます。
4. とうがらしの からさは、どうして「あつい」の?
4. 唐辛子の辛さは、熱を感じるスイッチを押している
4. カプサイシン受容体TRPV1と2021年のノーベル賞
とうがらしを たべると、くちの なかが あつく なります。ほんとうに あつく なった わけでは ありません。
とうがらしの からさの もとは、カプサイシンと いう ものです。これが、「あつい」を かんじる 神経の スイッチを おすと、しられて います。このスイッチは、すごく あつい ものに ふれた ときにも はたらきます。
この スイッチを みつけた 人の ひとりは、ほかの けんきゅうしゃと いっしょに、2021ねんに ノーベルしょうを もらいました。
唐辛子の辛み成分のカプサイシンは、痛みを伝える感覚の神経を選んで働かせ、焼けるような感じを起こします。1997年、デイビッド・ジュリアスたちがその受容体の遺伝子を取り出しました[5]。
この受容体は、温度が痛みを伴うほど高くなっても働くことが分かりました。「辛い」と「熱い」は、同じスイッチにつながっているのです。のちにTRPV1と呼ばれるようになりました。
2021年のノーベル生理学・医学賞は、ジュリアスと、触覚を感じるPiezo1・Piezo2を見つけたアーデム・パタポウティアンに贈られました[6]。TRPV1は、痛みを感じるほどの熱で働きます。
カプサイシンは痛覚に関与する感覚ニューロンを選択的に活性化して灼熱感を引き起こす。Caterinaらは1997年にカプサイシン受容体をクローニングし、それが有害範囲の温度上昇でも活性化されることから、痛みを伴う熱刺激の変換器として機能する可能性を示した[5]。この受容体は後にTRPV1と呼ばれた。
2021年のノーベル生理学・医学賞はDavid JuliusとArdem Patapoutianに授与された。授賞理由は、神経が刺激を脳が感じ取れる信号に変える分子機構の発見である。TRPV1は熱で開くイオンチャネルで、Patapoutianらは触覚に関わるPiezo1・Piezo2を見出した[6]。
TRPV1は、ヒトが熱による痛みと感じる温度域で活性化される[4]。
5. ぶつけた ところを さすると、どうして らくに なるの?
5. さすると楽になる理由を説明する「ゲートコントロール説」
5. ゲートコントロール説(1965年)と、その現在
ぶつけた ところを、おもわず さすった ことは ありませんか。これには、せきずいで おきる ことが かかわると いう せつが あります。
さわった かんじを はこぶ ふとい 神経が、いたみを はこぶ ほそい 神経の しんごうを、おさえると いう かんがえです。いたみの しんごうの まえに、とびらが あるような ものです。
ただし、かならず らくに なる という わけでは ありません。まだ けんきゅうが つづいて います。
ぶつけた場所を思わずさすったことはありませんか。これを説明する説が、1965年にメルザックとウォールが『サイエンス』誌に発表した「ゲートコントロール説」です[7]。
脊髄の入り口で、触覚を運ぶ太い線維が、痛みを運ぶ細い線維の信号を抑える。痛みの信号の前に「門」があり、触覚がその門を閉めにいくというイメージです。
この説は今では単純化しすぎだと考えられています。それでも痛みの研究を大きく前に進めたとされます。さすれば必ず楽になる、という意味ではありません。
6. 「いたい」は、どこで きまるの?
6. 信号を「痛み」にするのは、脳
6. 痛みと侵害受容は別の現象
ここまでの 話では、しんごうが あしから のうへ はしりました。でも、しんごうと いたみは、おなじでは ありません。
いたみは、からだの いやな かんじです。しんごうを うけて、「いたい」と かんじさせるのは、のうの はたらきが くわわってからです。
じぶんの しんごうを すこしずつ たどると、こんなに たくさんの ばしょが かかわって いました。
痛みの国際的な定義は、2020年に改訂されました。日本疼痛学会の和訳では、痛みは「実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する、あるいはそれに似た、感覚かつ情動の不快な体験」とされています[1]。
付記には、痛みと侵害受容は異なる現象で、痛みは感覚神経の活動だけからは推測できない、とあります。センサーが信号を出しても、それを「痛み」として体験するのは脳の働きが加わってからです。
道すじがここまで分かってきた今も、ゲートコントロール説のように、議論が続いていることがあります。
IASPの2020年改訂の定義(日本疼痛学会和訳)は、痛みを「実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する、あるいはそれに似た、感覚かつ情動の不快な体験」とする。付記は、痛みと侵害受容は異なる現象であり、痛みは感覚ニューロンの活動だけからは推測できない、と明記する[1]。
ここまで見た経路は、侵害受容の信号が伝わる過程の説明にあたる。経路の終点でその信号が「痛み」として体験される過程は、感覚面と情動面が別々の領域で処理される点を含め、なお研究が続く領域である。
末梢の受容器から中枢へ、速度の異なる線維、熱を感じるチャネル、脊髄での調節、そして脳での体験へと、複数の層に分けて見る枠組みが、この分野の基本になっている。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
いま できる ことです。どこかを ぶつけて しまった とき、ズキッの あとに ジーンが くるか、きを つけて みて ください。わざと ぶつけては いけません。
もっと しりたい 人は、がっこうの としょかんで、「からだの しくみ」や「しんけい」の ほんを さがして みましょう。
今日できること。次にうっかりどこかをぶつけたとき、「ズキッ」のあとに「ジーン」が来るかどうか、気にかけてみてください。わざとぶつけたり、つねったりするのはやめましょう。
図書館で、人の体の仕組みや神経の本を探すと、脊髄や脳の絵が載っています。痛みの信号の道すじを、絵で見てみるのもおすすめです。
痛みが続く、強いなど、心配なときは、大人に伝えて、お医者さんに相談してください。
今日できること:次にどこかをぶつけたとき、痛みが2段階に分かれて感じられるかを意識してみるとよい。故意に刺激を与える必要はない。
公式情報:日本疼痛学会は、IASPの改訂定義の和訳と解説を公開している。原典にあたる場合は、Melzack and Wall (1965) と、Caterinaら (1997) の書誌を出典欄に挙げた。
痛みの診断や対処は、このメモの範囲を超える。心配なときは、医療機関に相談してください。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
数字や経路の名前は、資料によって表記や幅が異なります。本文では幅のある書き方にしています。
- 日本疼痛学会「改定版『痛みの定義:IASP』の意義とその日本語訳について」 https://jspc.gr.jp/pdf/iasp.pdf (痛みの定義・痛みと侵害受容の区別)
- 土井篤「脊髄後角における感覚伝達とゲートコントロール理論を考える」熊本保健科学大学 保健科学研究誌 No.14 (2017) https://khsu.repo.nii.ac.jp/record/170/files/02-11-p17-27cs6.pdf (痛みの伝わる経路、ゲートコントロール説の現在)
- Kenhub, "Nociceptors" https://www.kenhub.com/en/library/physiology/nociceptors (侵害受容器の分布、Aδ線維とC線維の速さ)
- Wikipedia, "Nociceptor" https://en.wikipedia.org/wiki/Nociceptor (脊髄から大脳への経路の別の説明、速度の幅、TRPV1の温度)
- Caterina MJ, et al., "The capsaicin receptor: a heat-activated ion channel in the pain pathway," Nature 389 (1997) (カプサイシン受容体の発見。抄録を確認)
- Scientific American, "2021 Nobel Prize in Physiology or Medicine Awarded for Discoveries in Sensing Temperature and Touch" https://www.scientificamerican.com/article/2021-nobel-prize-in-physiology-or-medicine-awarded-for-discoveries-in-sensing-temperature-and-touch1/ (2021年のノーベル賞の理由)
- Wikipedia, "Gate control theory of pain" https://en.wikipedia.org/wiki/Gate_control_theory_of_pain (ゲートコントロール説の内容と評価、原論文の書誌)
なおした ところ
更新履歴
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