1. のうが なくて、なにが あるの?
1. 司令塔はなく、神経が体に網のように広がっている
1. 散在神経系 ── 神経節も脳もない神経のつながり方
クラゲの 体には、「しんけい」の 細ぼうが あります。ただ、人のように 一か所に あつまって いません。体じゅうに ちらばって、あみの 目のように つながって います[1]。
たとえば 運動会の 「ウェーブ」を 思いうかべて ください。先頭に 指ぞくを する 人が いなくても、となりの 人が 立つのを 見て 立てば、波が 回って いきます。クラゲの あみも、そんな ふうに しんごうを つたえると 考えられて います。ただし 本当は、人が 見て 動くのと ちがい、しんけいの 細ぼうどうしが 電気の しんごうで つながって います。
クラゲの神経は、脳のように一か所に集まっていません。神経細胞が体全体に散らばり、網目のようにつながっています。こうした神経系を散在神経系といい、ヒドラやイソギンチャクなど、クラゲと同じなかまの動物にも見られます[1]。脳のような大きな中枢はありませんが、傘の縁の縁弁には神経が集まっているという見方もあります[8]。
たとえるなら、運動会の観客席のウェーブです。先頭で合図する人がいなくても、となりの人が立つのを見て立てば、波が席を回っていきます。ただし実際には、神経細胞どうしが電気の信号でつながっているので、人が目で見て合わせるのとは仕組みがちがいます。
この網では、神経細胞が交差するところで互いにはたらきかけ、信号はどちらの向きにも伝わるとされています[8]。
2. かさの ふちに ある、小さな センサー
2. 傘の縁にあるセンサーが、泳ぎのリズムを作る
2. 縁弁 ── 感覚器とペースメーカーを兼ねる構造
ミズクラゲの かさの ふちには、ふつう 8つ、小さな センサーが あります。「えんべん」と よばれます[2]。
この 中に、明るいか 暗いかが わかる 目のような ところが 2つずつ あり、ぜんぶで 16こ です。上と 下を 知る しかけも あります[7]。
それだけでは ありません。泳ぐ リズムを はじめる 「もと」も、この センサーの 中に あります[2]。
3. 波が 体じゅうに ひろがって、ぎゅっと ちぢむ
3. 少数の神経の合図が、網全体に波として広がる
3. 運動神経網の興奮波と、2つの神経網の分担
センサーの 中には、波を はじめる 「ペースメーカー」が あります。そこから、あみの ような しんけいに 波が はじまり、ひろがります。すると かさの 内がわの きんにくが、ほとんど 同時に ちぢみます[2]。
かさが ぎゅっと ちぢむと、水が おし出されて、クラゲは 前へ 進みます。
クラゲには あみが 2つ あって、大きい ほうが 泳ぐ ことを、小さい ほうが ほかの ことを 受けもつと いわれて います[7]。
4. えものが ふれたら、はりが 出る
4. 獲物にふれた瞬間の反応も、神経がになう
4. 捕食 ── 刺胞の発射と摂食行動の神経制御
クラゲの なかまの 「しほう どうぶつ」には、のうも しんぞうも ありません。水族館の ホームページでは、えものが ふれると、しょくしゅの 「しほう」という ふくろから、どくの はりが 出ると せつめい されて います[4]。
この はりで えものを しびれさせて、つかまえます[4]。かんがえて 決める 前に、体が 先に はんのうする ようなものです。
5. のうが ないのに、ねむる?
5. 脳がなくても、眠りに似た状態がある
5. 2017年、サカサクラゲの睡眠に似た状態の報告
2017ねん、カリフォルニアの 大学の 研究チームが、サカサクラゲに ねむりに にた じょうたいが あると つたえました[5]。
ひるは 1びょうに 1回ほど かさを うごかして います。夜には、そのかずが 3分の1ほど 少なく なりました。夜に つついても、うごきだすまで 昼の 3ばいほども かかりました[5]。
夜の 休みを 6〜12時間 じゃますると、つぎの 日は 元気が なくなり、休ませると もどったそうです[5]。ただし 人の ねむりと 同じと まで は、言い切って いません。
6. ぶつかった ことを、おぼえるの?
6. 障害物をよけることを学んだクラゲ
6. 2023年、カリブハコクラゲの連合学習の報告
2023ねん、ハコクラゲの なかまの カリブハコクラゲが、かべの 見えかたと、ぶつかった かんじを むすびつけて おぼえて、よけるように なると わかりました[6]。
7分半ほど れんしゅうすると、かべから はなれる きょりが 平均で 5わりほど ふえ、ぶつかる 回数は 半分に なりました[6]。
これは ミズクラゲの 話では ありません。ハコクラゲの なかまの ことです。
2023年、ベレツキ(Bielecki)さんとガーム(Garm)さんらの研究が、カリブハコクラゲ(Tripedalia cystophora)が障害物をよけることを学ぶと報告しました[6]。目に見える手がかりと、ぶつかる感覚を結びつける学習です。
約7.5分の訓練で、壁からの平均距離が約50%増え、壁に触れる回数は半分になりました[6]。
ハコクラゲは傘に24個の眼をもち、4つの縁弁に6個ずつあります[6]。縁弁だけを取り出して弱い電気で訓練しても、障害物をよける信号が出たといいます。ただしここは二次報道(ScienceDaily)の紹介で、原論文とは未照合です[6]。これはミズクラゲではなく、別の種類の話です。
7. 「のうが ない」と いいきれる?
7. 縁弁は、脳のような役をしているのか
7. 「中枢がない」といえるか ── 縁弁をめぐる議論
ここまで 見て くると、ひとつ 気に なります。ふちの センサーは、のうの ような はたらきを して いるのでしょうか。
この 点は、研究している 人の あいだでも 話し合いが あります[8]。だから 「のうが ぜんぜん ない」と いいきらず、「のうのように あつまった ところが あるかは、考えかたや なかまに よって 話し合いが ある」と 言うほうが、ただしいと いえます。
ここまで見てくると、傘の縁のセンサーは、脳の代わりをしているのではないかと思えてきます。実際、縁弁を、神経節に似た統合の中枢とみなす見方があり、研究者のあいだで議論されています[8]。
ですから「クラゲには完全に脳がない」と言い切らず、「脳のような集中した中枢があるかは、定義や種類によって議論がある」と書くほうが正確です。境目のはっきりしない部分が、まだ残っています。
縁弁を、神経節に似た統合の中枢とみなす見方がある。Do jellyfish have central nervous systems?(J Exp Biol 2011)は、この問いを取り上げた[8]。拡散型の網としての性質と、縁弁への集中という見方のあいだで、位置づけには研究者間に議論がある。
そのため本記事では、「脳がない」と言い切らず、「集中した中枢の有無は定義や種類で議論がある」と書き分けている。眠りや学習の報告が、縁弁を含む分散した神経で説明できるのかどうかは、今後の研究が決めることだ。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
今日 できること
友だちや 家の 人と、よこに ならんで 「ウェーブ」を してみましょう。先頭の 人が 決めて いない のに、となりを 見て 動くだけで、波が 進むでしょうか。
出かけて できること
水族館で、クラゲの かさの ふちを 見て みましょう。ふちに ぶつぶつが 見えますか。かさが 10びょうで 何回 ひらくか、数えて みても おもしろいです。
くわしく 知りたい とき
水族館の ホームページの 読みものが、しらべる はじめの 一歩に なります。
今日できること
数人で横一列にならび、となりの人が動いたら自分も動くというルールだけで、ウェーブを回してみてください。先頭が決めなくても波が進むのか、途中で止まるのか、どんな条件で変わるのかを見ると、神経網のイメージがつかめます。
出かけてできること
水族館でクラゲを見るときは、傘の縁に注目してみてください。縁弁が見えるかどうか、種類によって数や形がちがうかどうかを比べられます。10秒間に傘が何回開くかを、いくつかの水槽で数えてみるのもよい観察です。
公式情報・資料
海遊館や、サンシャイン水族館のクラゲの解説ページが、飼育している種類の情報に近い入口です。水族館では、解説パネルや飼育員さんの説明も読んでみてください。
今日できること
「となりの動きだけで動く」というルールで、数人によるウェーブを実験してみる。中央の合図なしに、局所ルールだけで波が伝わるかを試すことで、神経網の伝導の考え方を体で確かめられる。ただし実際の神経は電気信号で伝わるので、人のウェーブは比喩である。
出かけてできること
水族館で、傘の縁を観察する。縁弁の位置、傘の縮む周期(10秒間の回数)、水槽ごとの種のちがいを記録し、出典のミズクラゲ・サカサクラゲ・ハコクラゲの記述と照らす。ただし観察できる種類は水族館ごとに異なる。
公式情報・資料
海遊館[3]やサンシャイン水族館[4]の日本語の解説ページは、縁弁の眼点や刺胞の説明を、この記事の記述と読み比べる入口になる。英語の原論文([2][8])に進みたくなったら、その後でよい。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
本文で使った出典です。番号は本文の[ ]に対応します。原論文の一部は二次報道の紹介で確認しており、その旨を用途欄に記しました。
- コトバンク「散在神経系」 https://kotobank.jp/word/%E6%95%A3%E5%9C%A8%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%B3%BB-513453 (散在神経系の定義)
- From single neurons to behavior in the jellyfish Aurelia aurita. eLife. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6999044/ (縁弁・運動神経網・ニューロン数のモデル予測)
- 海遊館「壁に耳あり、クラゲに目あり」 https://www.kaiyukan.com/connect/notes/post-82.html (縁弁の感覚器・眼点の数)
- 池袋・サンシャイン水族館「クラゲ」 https://sunshinecity.jp/aquarium/animals/kurage.html (刺胞と獲物をとらえるしくみ)
- HHMI「Signs of Sleep Seen in Jellyfish」 https://www.hhmi.org/news/signs-sleep-seen-jellyfish (2017年のサカサクラゲの睡眠に似た状態。二次報道での確認)
- ScienceDaily(2023年9月22日付、カリブハコクラゲの学習に関する記事) https://www.sciencedaily.com/releases/2023/09/230922110845.htm (2023年の連合学習の報告。原論文とは未照合)
- PBS Nature「No brain for jellyfish? No problem」 https://www.pbs.org/wnet/nature/blog/no-brain-for-jellyfish-no-problem/ (2つの神経網の分担)
- Do jellyfish have central nervous systems? Journal of Experimental Biology, 2011. https://journals.biologists.com/jeb/article/214/8/1215/10743/Do-jellyfish-have-central-nervous-systems (神経網の性質と中枢をめぐる議論)
なおした ところ
更新履歴
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