このサイトは、ほんの入り口です

ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

ふるい ほんを まもる、しずかな くすりの はなし

本を内側から守る「脱酸性化」── 酸を中和し、アルカリを残す仕事

酸性紙の脱酸性化処置 ── 中和とアルカリ緩衝材、大量処理(BK法・DAE法)と水性処理、その限界

分野:技術

ふるい ほんの ページが、ぱりっと われた ことは ありますか。ほんを こわして いたのは、そとの きずでは なく、かみの なかで うまれた さんだと いわれて います。

その さんを おさえる ほうほうが あります。としょかんの ひとたちが、なんまんさつもの ほんを まもる ために つかって きました。どんな しくみなのかが わかります。

図書館の古い本は、ページの端が茶色くなり、めくると欠けることがあります。本を傷めている大きな原因の一つは、外からの傷ではなく、紙の中でできる酸だと説明されています。

その酸を打ち消して、あとに「お守り」のような成分を残す処置が、脱酸性化です。何冊もの本を一度に処置する装置もあります。どんな仕組みで、何ができて何ができないのかが分かります。

酸性紙の劣化は、紙に含まれる硫酸アルミニウムがゆっくり分解して硫酸を生じ、セルロースを傷めることで進むと説明される[2]。この酸を中和し、アルカリ性の成分を紙に残す処理が脱酸性化である。

大量処理では、米国議会図書館が1回に3〜5冊を12〜15分ほど処理液に浸す方式を採った[5]。ただし、すでにもろい紙は救えず、写真や革装本には向かない。図書館・公文書館の資料から、仕組み、方法、限界が分かる。

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1. ほんを こわす さんは、どこから くるの?

1. 酸は紙の中でできる ── インクのにじみ止めが出発点

1. 酸性紙の原因 ── 硫酸アルミニウムの加水分解

ひとつの ほんは、かみの ながい ひもの あつまりで できて います。この ひもが、ほんの つよさを ささえて います。

むかしの かみには、インクが にじまない ように、くすりが まぜて ありました。その くすりが、ながい ときの あいだに、さんに かわって いく ことが あります[1]。

さんは、かみの ひもを すこしずつ きって いきます。ちいさな はさみが、かみの なかで ちょきちょき やって いる ような ものです。ただし ほんとうは はさみでは なく、くすりの はたらきです。

本の紙は、植物の繊維でできています。その繊維の主成分がセルロースで、長い鎖のような分子がつながって、紙の強さを支えています。

昔の紙には、インクがにじまないようにする「サイズ剤」が使われました。それを紙に定着させるために入れた硫酸アルミニウムが、年月とともに水と反応して硫酸を生じ、紙を酸性にすることがあります[1]。

東京都立図書館も、この硫酸が紙のセルロースを傷めて劣化させると説明しています[2]。外から傷をつけなくても、紙の中に、じわじわ紙を傷める原因が入っていたのです。

酸性紙の主因は、ロジンサイズ(にじみ止め)を紙に定着させる硫酸アルミニウムとされる。これが年月とともに加水分解し、硫酸と水酸化アルミニウムになって紙を酸性化する[1]。

東京都立図書館は、生じた硫酸が紙繊維のセルロースを傷めて劣化させると説明している[2]。CLIRの技術報告は、酸が巨大なセルロース分子の鎖を切る「酸加水分解」を起こし、鎖が短くなるほど紙の強度が落ちる、という枠組みで整理している[3]。

原因の詳しい測定や年代ごとの違いは、別の記事(「新聞紙が黄ばむ仕組み」「和紙の耐久性」)が扱う。ここでは「何が起きているか」を押さえ、処置の側へ進む。

2. さんを けす、「おまもり」って なに?

2. 中和して、アルカリの「お守り」を残す

2. 脱酸性化の原理 ── 中和とアルカリ緩衝材

さんを けす しごとを、「ちゅうわ」と いいます。さんの はんたいの せいしつを もつ アルカリで、さんを うち けす のです。

ここで だいじなのは、ちゅうわした あとも、アルカリを すこし かみに のこして おく ことです[2]。あとから さんが できても、その おまもりが うけとめて くれます。

ながい ひもが きれにくく なるので、ほんは ながく もつと かんがえられて います[3]。

脱酸性化処置は、紙の中の酸を中和し、アルカリ緩衝材(アルカリバッファー)を残す処理です[2]。中和だけでなく「残す」ことに意味があります。

CLIRの報告によると、酸を中和して適量の塩基性の塩を紙に含ませると、セルロースが安定し、鎖を切る反応が遅くなります[3]。鎖の長さが保たれれば、紙の強さも保たれます。

同じ報告は、アルカリ分を重さの1〜2%ほど含む酸のない紙は、人工的に劣化を早める試験の予測では、3〜5倍長持ちするとしています[3]。これは試験からの予測で、実際に何年もつかの保証ではありません。

脱酸性化処置は、紙中の酸を中和し、アルカリ緩衝材(アルカリバッファー)を残留させる処理である。大量に処置する「大量脱酸」と、1点ずつ行う「少量脱酸」がある[2]。

CLIRの報告は、酸を中和し適量の塩基性の塩を含ませるとセルロースが安定し、鎖を切る酸加水分解反応が遅くなって、鎖の長さ(強さ)が保たれる、と説明する[3]。

同報告は、アルカリ残留分を重量比1〜2%含む酸フリー紙は、促進劣化試験に基づく予測で3〜5倍長持ちするとする[3]。促進劣化からの予測値であり、実測寿命ではない。100gの紙なら、1〜2gに当たる量である(計算)。

3. なんまんさつの ほんを、どうやって まもるの?

3. 何万冊を一度に ── 12〜15分浸す「大量脱酸」

3. 大量脱酸の方式 ── 米国議会図書館のBK法とバテル法(3〜5冊・50冊)

ほんが なんまんさつも あると、1さつずつ ていねいに するのは たいへんです。そこで、たくさん いっぺんに ちゅうわする そうちが かんがえられました。

アメリカの としょかんでは、ほんを とくべつな えきに、12ふんから 15ふんほど つけて いました[5]。えきの なかには、アルカリの こなが とても こまかく まざって います。

そのあと かわかしつで しあげます。アメリカの ほうほうでは、いちどに 3さつから 5さつだけでした。ドイツの としょかんは、べつの ほうほうで、いちどに 50さつ しょりします。

大量脱酸では、本を1冊ずつ処置するかわりに、装置に何冊も入れて、一度に処理します。

米国議会図書館が採ったブックキーパー法は、酸化マグネシウムの微粒子を特別な液に分散させ、本をおよそ12〜15分浸してから、乾燥室で仕上げる方法です。1回に処理できるのは3〜5冊でした。ドイツ図書館が採ったバテル法は、1回に50冊です[5]。

同館は、酸化マグネシウム法で約550万冊と一部の手稿資料を、2001年から約20年にわたって処理したと述べています[6]。これは過去の事業についての、同館の説明による数字です。

米国議会図書館(LC)が採ったブックキーパー法は、ペルフルオロカーボンに酸化マグネシウム微粒子を分散させた液に、約12〜15分浸し、乾燥室で仕上げる。1回に3〜5冊を処理できた。ドイツ図書館採用のバテル法は、1回に50冊とされる[5]。

この選択の背景には、旧来のDEZ法が設備火災を2度起こして中止された経緯がある。LCは約180万ドルを投じてより安全な技術へ進み、2年で約72,000冊の脱酸を予定していた(当時)[5]。火災は当時の旧方式の話で、現行の方法の安全性とは分けて読む必要がある。

同館は、酸化マグネシウム法で約550万冊と一部の手稿資料を、2001年から約20年にわたり処理したと述べている[6]。過去の事業についての、同館の説明による数字である。

4. にほんでは、どんな ほうほうが ためされたの?

4. 国立国会図書館の試行 ── ガスで中和する方法と、液に浸す方法

4. 国立国会図書館の2009年度試行 ── DAE法とBK法

にほんの こくりつこっかいとしょかんでも、ちがう ふたつの ほうほうを ためしました[4]。

ひとつは、ガスで さんを ちゅうわする ほうほうです。もうひとつは、えきに アルカリの こなを まぜて つかう ほうほうです。

ためした ほんは、245さつと、しけんよう しりょう 77てんでした。どちらの ほうほうでも、さんが おさえられ、あぶない ことは みられなかったと ほうこくされて います。

日本でも、国立国会図書館が2009年度に、大量脱酸性化処理の2つの方式を試しました[4]。

1つはDAE法で、アンモニアガスと酸化エチレンガスを使う気相の方法です。化学反応で酸を中和します。日本では1999年から本格的に動いていました。もう1つはBK法で、液の中に酸化マグネシウムの微粒子を混ぜた処理液を使います。乾くと、繊維の間に酸化マグネシウムが残ります。日本では2008年に始まりました。

試行の対象は、収蔵資料245冊と試験用の資料77点でした。どちらの方法にも脱酸の効果があり、安全上の問題は見られなかったと報告されています[4]。

国立国会図書館は2009年度に、大量脱酸性化処理の2方式を試行した[4]。

DAE法(乾式アンモニア・酸化エチレン)は、アンモニアガスと酸化エチレンガスを用いる気相処理で、化学反応により酸を中和する。日本では1999年から本格稼働していた。BK法(ブックキーパー法)は液相法で、不活性な非水溶液中に酸化マグネシウムの微粒子を分散させた処理液を用い、乾燥後に繊維間に酸化マグネシウムが残る。日本では2008年に開始された。

試行は、収蔵資料245冊と試験用資料77点を対象に行われ、どちらの方式も脱酸効果があり、安全上の問題は見られなかったとされる[4]。なお、酸化エチレンの扱いや、現在の運用の詳細は、この資料からは分からない。

5. みずで あらう ほうほうも あるの?

5. 水で洗う方法 ── 国立公文書館の検討

5. 水性脱酸性化 ── 国立公文書館の研修資料から

こくりつこうぶんしょかんは、だいじな きろくを ずっと のこす しごとを して います。むかしの ぶんしょの ほんは、さんで いたんで いる ものが おおいのです。

そこで、アルカリの みずで あらって さんを おとす ほうほうも、しらべられて います[7]。えきに つけたり、ぬのの うえで すいとらせたり、いろいろな やりかたが あります。

国立公文書館は、公文書を永久に保存する責任を負っています。酸で傷んだ簿冊が多く、以前は液体に浸す非水性の脱酸性化を試した経緯があります[7]。

研修資料では、水酸化カルシウムの水溶液で紙を洗い、酸を中和する「水性脱酸性化」が検討されています。紙を液に浸す方法、サクションテーブルという台で吸い取る方法、吸い取り紙で吸わせる方法(ブロッティング)が挙がっています[7]。

資料は、酸性劣化した資料に脱酸性化を施すことは、紙そのものの劣化を抑える有効な手段だと述べています。ただし、細かな数値は文字化けで読めなかったので、ここでは方向だけ紹介しています。

国立公文書館は永久保存の責務を負い、酸性劣化した簿冊が多いため、非水性の脱酸性化を試行した経緯がある。研修資料では、水酸化カルシウム水溶液による洗浄・水性脱酸性化(浸漬・サクションテーブル・ブロッティング)が検討されている[7]。

同資料は、酸性劣化した資料への脱酸性化が、原本の媒体である紙自体の劣化抑制に有効な手段だとしている。PDFは文字化けのため、冒頭の要旨のみ確認し、個別の数値は使っていない。

大量処理が「一度に多く」を目指すのに対し、水性処理は洗浄を兼ねられる、と考えられる。ただし、この対比は資料の主張ではなく筆者の整理である。

6. まもれない ものも、あるの?

6. 脱酸にも限りがある ── もろい紙、写真、革

6. 脱酸の限界 ── 既にもろい紙と、適さない資料

この くすりは、なんでも なおせる まほうでは ありません。すでに ぼろぼろに なって しまった かみは、もとに もどりません[3]。

しゃしんや かわの ほんなどは、アルカリで いたむ おそれが あります[2]。ですから、ぜんぶの ほんに つかえるわけでは ありません。

だからこそ、まだ じょうぶな うちに てあてを する ことが たいせつだと いわれます。

CLIRの報告は、脱酸は、すでにもろくなった紙の情報を守る助けにはならないと述べています[3]。脱酸は、まだ強さが残っている紙を守る方法です。

また、青写真、写真、革装本、色材など、アルカリで劣化するおそれのある資料は、脱酸に適しません[2]。図書館では、資料ごとに向き不向きを見きわめます。

だからこそ、強さがまだ残っているうちに手当てすることが大切になります。

CLIRの報告は、脱酸はすでに脆化した紙の情報の保存には役立たないとする[3]。強度が残る紙を守る手段であり、すでにもろくなった紙の情報を守る効果は期待しにくい。

青写真・写真・革装本・色材など、アルカリで劣化するおそれのある資料は脱酸に適さない[2]。

だからこそ、強度が残るうちの早めの手当てが要点になる。

自分でも しらべて みよう

自分でも調べてみたくなったら

自分でも調べてみたくなったら

いえで できること

いえの ほんの さいごの ページや、ほんの うしろの ほうを 見て みましょう。「ちゅうせいし」と いう ことばが かいて ある ものも あります。ふるい ほんと あたらしい ほんの、ページの はしの いろを くらべても おもしろいです。

でかけて できること

としょかんで、ふるい ほんの コーナーを さがして みましょう。すこしだけ やわらかい かみの ほんが あるかも しれません。かかりの ひとに、ほんを まもる しごとに ついて きいて みるのも いいです。

こうしきの じょうほう

としょかんの ホームページに、ほんを まもる しごとの せつめいが のって います。

今日できること

家にある本の奥付や裏表紙の近くを見て、本文用紙の表示を探してみてください。「中性紙」と書かれている本もあります。古い本と新しい本の、ページの端の色を見比べるのも、手がかりになります。

出かけてできること

図書館で、古い本や、資料保存の取り組みを紹介する展示やパンフレットを探してみてください。処置のしくみを、係の人に聞いてみるのもおすすめです。

公式情報

東京都立図書館の「酸性紙資料の脱酸性化処置」のページや、国立国会図書館の資料保存の案内に、日本語で詳しい説明があります。

今日できること

手元の本の奥付や裏表紙付近で、本文用紙に関する表示(中性紙など)を探し、刊行年と紙の状態を照らして、年代ごとの違いを自分の目で確かめる。

出かけてできること

図書館・公文書館の展示や見学会で、資料保存の取り組みが紹介されていれば、脱酸性化の説明を探す。

公式情報

東京都立図書館の解説と、国立国会図書館のカレントアウェアネス(E1138・CA1030)を読み比べ、方式ごとの処理冊数のちがいを表にしてみる。国立公文書館の研修資料は、水性処理の検討過程を知る手がかりになる。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

今回は、脱酸性化の仕組みと限界は東京都立図書館とCLIRの解説、大量処理の具体は国立国会図書館のカレントアウェアネスによる。米国議会図書館の処理規模は、同館の説明による。

  1. コトバンク「酸性紙」 https://kotobank.jp/word/酸性紙 (酸性紙の原因)
  2. 東京都立図書館「酸性紙資料の脱酸性化処置」 https://www.library.metro.tokyo.lg.jp/guide/about_us/collection_conservation/conservation/deoxidation/index.html (脱酸の定義・不向きな資料)
  3. CLIR, Technical Considerations in Choosing Mass Deacidification Processes https://www.clir.org/?p=1527 (アルカリ緩衝材の効果・限界。英語)
  4. カレントアウェアネス-E1138「国立国会図書館における2009年度の大量脱酸性化処理試行結果」 https://current.ndl.go.jp/e1138 (DAE法・BK法の試行)
  5. カレントアウェアネス-CA1030「LCとドイツ図書館の新しい大量脱酸技術」 https://current.ndl.go.jp/ca1030 (浸す時間・処理冊数)
  6. 米国議会図書館 Mass Deacidification https://loc.gov/preservation/scientists/projects/mass_deacid.html (処理規模。英語)
  7. 国立公文書館 研修資料(洗浄・水性脱酸性化処理の再考) https://www.archives.go.jp/publication/training/pdf/r1_13.pdf (水性脱酸性化の検討)

なおした ところ

更新履歴

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