1. どうして もとの 高さに もどれないの?
1. 手をはなした振り子が、元の高さに戻れない理由
1. 空気抵抗と支点の摩擦 ── 力学的エネルギーが保存されない理由
かべに テープで しるしを つけます。その 高さまで、ナットを つけた 糸を 持ち上げて、そっと 手を はなします。ナットは むこうへ ゆれて、もどって きますが、しるしの 少し 下で 引きかえします。なん回 やっても、しるしまでは とどきません。
ナットは、空気を おしのけながら すすみます。空気に ぶつかりつづけると、ナットの うごく ちから(エネルギー)が 少しずつ うばわれます[1]。糸を ぶらさげて いる ところ(支点)でも、摩擦で ちからが へります[1]。
こうして ゆれが 少しずつ 小さく なる ことを、減衰と いいます[2]。ゆれの 大きさは、振幅と よびます。
では、大きな おもりと 小さな おもりでは、とまりかたは ちがうのでしょうか。
壁に付箋を貼り、その高さまで、ナットをつけた糸を持ち上げて、そっと手をはなしてみます。ナットは向こう側へ振れて戻ってきますが、付箋より少し下で折り返します。何度やっても、付箋の高さには届きません。
理由は、力学的エネルギーが保存されないからです。現実の振り子には、糸を留めた支点の摩擦に加えて、必ず空気の抵抗が働きます。空気の分子にぶつかり続けることで、ナットの持つエネルギーが少しずつ奪われていきます[1]。
このように、時間とともに振幅が小さくなっていく振動を、減衰振動と呼びます。辞典では、空気の抵抗や摩擦などで振動のエネルギーが減っていく現象と説明されています[2]。
では、おもりの違いで、減り方はどう変わるのでしょうか。
2. おもりの 大きさや 重さで、とまりかたは かわるの?
2. 大きくて軽いおもりほど、振れが早く小さくなる
2. おもりの大きさと減り方の型 ── 速さの2乗に比例する抵抗
下じきを 立てて はしると、おもく かんじます。空気が 下じきに あたって、まえに すすむ ちからを じゃまするからです。ただし ほんとうは、下じきと おもりは 形も うごきかたも ちがいます。空気の じゃまが 大きいと どうなるか、そこだけ にています。
同じ 長さの 糸に、大きくて かるい おもりと、小さくて おもい おもりを つけて くらべた けんきゅうが あります。大きくて かるい ほうが、空気の じゃまを 強く うけて、ずっと 早く ゆれが 小さく なりました[5]。
「空気の じゃまと 支点の 摩擦の どちらが 大きいか」は、振り子の 大きさや 作りで かわります。「どちらが なんわり」とは いえません[3]。
大きな団扇を持って走ると、風を強く受けて走りにくくなります。空気の抵抗が大きいと動きが鈍る、という点はおもりも同じです。ただし、団扇は振り子とは動き方が違います。
大学の授業用の実験では、大きくて軽いおもりと、小さくて重いおもりを比べています。大きくて軽いほうが空気抵抗の影響を強く受け、振れが小さくなる速さがずっと速くなりました[5]。小さくて重いおもりは、長く振れ続けます。
では、空気抵抗と支点の摩擦のどちらが主な原因なのでしょうか。これは振り子の大きさや作りで変わります。数cmから数mの大きさの振り子では、空気の抵抗は速さの2乗に比例する形になり、支点の摩擦は速さによらない項が大きいことが多い、と学会の発表要旨は述べています[3]。「空気が何割、摩擦が何割」という一般的な割合は言えません。
ところで、こうして高さが減っていくと、1往復にかかる時間も変わるのでしょうか。
減り方は、おもりの大きさで変わる。UCSBの授業用デモでは、大きくて質量の小さいおもりの動きは、小さくて重いおもりより、はるかに速く減衰した[5]。空気抵抗の影響が、大きくて軽いおもりほど強く出るためである。
では、支点の摩擦と空気抵抗のどちらが効くのか。数cmから数mの実際の振り子では、空気抵抗は速さに比例する形ではなく2乗に比例し、支点の摩擦は速さによらない静止項が支配的なことが多い[3]。速さに対する抵抗の形が定数・v・v²のどれかで、振幅の減り方は変わる[4]。
速さに比例する抵抗だけなら、振幅は初期振幅によらず指数関数的に減る[4]。しかし実際の振り子には2乗の抵抗と定数の摩擦が混ざるため、教科書どおりの指数関数にはならず、減り方は条件しだいである[3]。原因の割合も、一般には言えない。
高さがこうして減っていくなら、1往復の時間も変わりそうに思える。だが、そうではない。
3. 高さが ひくく なっても、1往復の 時間は かわらないの?
3. 振れ幅が小さくなっても、1往復の時間はほぼ同じ
3. 等時性 ── 振幅が減っても周期がほぼ変わらないわけ
ふしぎな ことが あります。ゆれが 大きい ときも、小さく なった ときも、1往復に かかる 時間は ほとんど 同じです。これを等時性と いいます[6]。
おもりの 重さでも、1往復の 時間は かわりません[6]。かわるのは、糸の 長さです。
ただし ほんとうは、大きく ふると、ほんの 少しだけ 長く なります。長さの ちがいに くらべると、その ちがいは ずっと 小さいです[6]。
この ふしぎは、1583年に ガリレオが 見つけたと つたえられて います。ピサの 大きな 教会で、ゆれる ランプを 見て 気づいた、という はなしです[7]。
高さが へっても リズムが かわらないなら、へった 分だけ おぎなえば、ずっと 時間を はかれます。とけいは、どうやって おぎなって いるのでしょうか。
ゆれが大きいときも小さくなったときも、1往復にかかる時間はほとんど同じです。これを振り子の等時性といい、おもりの重さにもよりません[6]。時間を決めるのは、主に糸の長さです。
ただし、等時性は近似です。富山県教育センターの資料は、正確に測ると振れ幅が大きいほど周期はわずかに長くなるが、その差は長さによる違いと比べて極めて小さいと述べています[6]。
この性質は、1583年にガリレオ・ガリレイが発見したと伝えられています。ピサの大聖堂で、揺れるランプを見て気づいたという逸話です[7]。
高さは減っても、リズムは変わらない。それなら、減った分のエネルギーだけを足してやれば、振り子は正確な時計の心臓になります。実際に時計は、どうやって足しているのでしょうか。
振幅が小さくなっても、周期はほぼ一定である。この等時性は、おもりの質量にもよらない[6]。だから、振幅が減衰していく振り子でも、時間を刻む基準として使える。
ただし等時性は、振れ幅が小さいときの近似である。富山県教育センターの実測表では、長さ50cmの振り子で、振れ幅5cmのとき周期は1.411秒、40cmのとき1.472秒だった[6]。振れ幅が8倍になっても、周期は約4%(1.472÷1.411≒1.043)しか長くならない。振れ幅による差が、長さによる差に比べて極めて小さい、という資料の説明と合っている。
この性質は、1583年にガリレオが発見したと伝わる。ピサの大聖堂でランプの揺れを見たという逸話である[7]。逸話なので、その場面までは断定できない。
周期が変わらないなら、減った振幅のエネルギーを補いさえすれば、振り子は正確な時計の心臓になる。この補い方を実現したのが、振り子時計の脱進機である。
4. とけいは どうやって、へった 分を おぎなって いるの?
4. 振り子時計は、1回振れるたびに「ひと押し」して補っている
4. 脱進機 ── 振り子時計が失ったエネルギーを補う仕組み
1656年、ホイヘンスという 人が、振り子とけいを 作りました[7]。うごく ちからは、おもりです。おもりが 下へ さがる ちからで、歯車が まわろうと します[7]。
その 歯車を、脱進機という しかけが とめて います。振り子と いっしょに うごく 2つの つめが、こうごに 歯車に ひっかかり、歯車を 少しずつ まわします[7]。
振り子が 1回 ゆれる たびに、歯が つめを おして、みじかい 「ひとおし」を 振り子に あたえます[9]。この ひとおしが、へった 分の ちからを おぎなって いると いわれます[8]。
ブランコを こいで もらう ときに にて います。ともだちが ちょうど よい ときに、ちょっと だけ せなかを おして くれると、ずっと ゆれ つづけます。ただし とけいの 場合は、人ではなく つめが おします。
空気の じゃまで へる 分も、おもりの ちからで おぎなわれて います[9]。
おもり式の振り子時計では、おもりが下がる間、その力で歯車が回ろうとします。その歯車に、振り子と連動する2つの爪が交互にかみ合い、歯車を少しずつ回す仕組みを、脱進機といいます[7]。ホイヘンスがこの振り子時計を作ったのは、1656年です[7]。
この仕組みで、振り子が1回振れるたびに、歯車の歯が爪を押し、短いひと押しが振り子に伝わります[9]。この衝撃が、振り子の動きに合わせて押すことで、空気抵抗や支点の摩擦で失われたエネルギーを補い、振り子を振らせ続ける役目をすると説明されています[8]。
友だちにブランコの背中を押してもらう場面に似ています。ちょうどよいタイミングで軽く押すだけで、ブランコは止まりません。ただし時計の場合、押すのは人ではなく、脱進機の爪です。
空気の粘りによる抵抗も、ぜんまいやおもりの動力で補われます[9]。おもり式の時計では、おもりがゆっくり下がる間、時計は動き続けます。
おもり式の振り子時計では、吊り下げたおもりが下がる間、その力で歯車が回ろうとする。その歯車に、振り子と連動する2つの爪が交互にかみ合い、歯車を少しずつ進める。これが脱進機である[7]。1656年にホイヘンスが実際に振り子時計を製作した、と国立科学博物館の解説は述べる[7]。
脱進機のもう一つの働きは、エネルギーの補給である。ウィキペディア(Escapement)は、衝撃作用が、振り子の動きに合わせて押すことで、空気抵抗や支点の摩擦で失われたエネルギーを補い、振動を保つと説明する[8]。これは二次資料に基づく説明である。
実際の動きは、振り子が1回振れるたびに脱進機の歯が爪を押し、振り子の棒に短い押しを与える、というものである[9]。空気の粘性による抵抗も、動力のおもりやぜんまいが補っており、その粘性は気圧・湿度・温度で変わるという[9]。
こうして、周期が変わらない性質と、失った分を補う仕組みが組み合わさり、振り子は何日も止まらない時計の心臓になった。同じ発想は、時計に限らない。
5. はくぶつかんの 大きな 振り子は、どうして とまらないの?
5. 博物館の大きな振り子は、電磁石で振れ続ける
5. フーコーの振り子を電磁石で振らせ続ける
はくぶつかんに、天じょうから 長い ワイヤーで おもりを つるした 大きな 振り子が あります。「フーコーの 振り子」と よばれます。
1851年に、フーコーという 人が、パリの パンテオンの ドームから、長さ 67メートルの ワイヤーで、重さ 28キログラムの おもりを つるしました[10]。
大きな 振り子でも、空気の じゃまで ゆれは 小さく なります。そこで、はくぶつかんの 中には、電磁石などの そうちで おもりを ゆらし つづける ものが あります[10]。ワイヤーに 鉄の わを つけて、ゆれ出す ときに 電磁石が ひく、という れいも あります[10]。
とけいの ひとおしも、はくぶつかんの 電磁石も、へった 分を おぎなう という 点では 同じ 考えです。
6. じぶんで、ゆれを はかって みよう
6. 糸とナットで、高さと時間を比べてみる
6. 出口 ── 家で測る/原典を読む
糸と、ナットや ボルトなど 小さくて おもい ものを 用意します。おとなと いっしょに、まわりに 人や こわれやすい ものが ない ところで、やります。顔の 前では ふりません。
ひとつめ。ゆれが 大きい ときと 小さい ときで、10往復の 時間を ストップウォッチで はかります。ほとんど 同じに なるはずです。ただし、ちがいは 小さいので、ストップウォッチの おしかたの ずれも 入ります。
ふたつめ。同じ 長さの 糸で、ナットと、糸を テープで つけた ピンポン玉、それぞれの ゆれが 半分に なるまでの 回数を かぞえます。大きくて かるい ほうが、早く 小さく なる ことが ある、と いわれて います[5]。家の 実験でも 同じに なるとは かぎりません。
とけいや はくぶつかんの 振り子を 見つけたら、へった 分を どこで おぎなって いるか、さがして みましょう。
用意するのは、糸と、ナットなど小さくて重いおもり、ストップウォッチ(時計の秒針でも可)です。大人と一緒に、周りに人や壊れやすい物がない場所で行い、顔の前では振らないようにします。
実験1。同じ糸の長さで、振れ幅を大きくした場合と小さくした場合の、10往復の時間を測ります。ほぼ同じになるはずですが、差は小さいので、ボタンを押す時間のずれで結果が逆になることもあります。3回ずつ測って比べてみてください。
実験2。同じ糸の長さで、ナットと、糸をテープでつけたピンポン玉を比べます。振れ幅が最初の半分になるまでの往復の回数を数えます。UCSBのデモでは、大きくて軽いおもりのほうが早く小さくなりました[5]。ただし家の実験で同じ結果になるとは限りません。
身近な振り子時計を見つけたら、おもりや歯車の動きを観察してみると、脱進機の爪が歯車を止めたり進めたりする様子が分かるかもしれません。
家で確かめるなら、糸とナット、ストップウォッチで足りる。大人と一緒に、周囲に人や壊れやすい物がない場所で行い、顔の前で振らない。
実験1は、糸の長さを固定して振れ幅だけを変え、10往復の時間を各3回測る方法である。等時性から、差はほぼないと予想されるが、富山県教育センターの表のように、振れ幅が大きいと数%長くなる可能性がある[6]。
実験2は、同じ糸の長さで、ナットと、糸をテープでつけたピンポン玉を比べ、振幅が半分になるまでの往復数を数える方法である。UCSBのデモでは大きくて軽いおもりが早く減衰したが[5]、家の実験で同じ結果になるとは限らない。
原典に当たるなら、国立科学博物館の解説PDF(日本語)は脱進機の構造が分かる[7]。富山県教育センターの資料(日本語)は、周期の実測表を載せている[6]。MITの講義資料[1]、学会要旨[3]、論文[4]は英語で読める。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
出典について:MITの講義資料、辞典(コトバンク)、学会の発表要旨、arXivの論文、UCSBの授業用デモ、富山県教育センターと国立科学博物館の資料、ウィキペディア(英語)の2項目を使った。ウィキペディアは補助の資料として使った。
- MIT OpenCourseWare RES.8-009 Lecture 4 "Introduction to Oscillations and Waves". https://www.ocw.mit.edu/courses/res-8-009-introduction-to-oscillations-and-waves-summer-2017/mitres_8_009su17_lec4.pdf (空気抵抗と支点の摩擦でエネルギーが保存されないことについて)
- 精選版 日本国語大辞典「減衰振動」(コトバンク)。 https://kotobank.jp/word/減衰振動 (減衰振動の定義について)
- APS meeting abstract "Modeling real-life pendula" (2010). https://meetings-archive.aps.org/4cs/2010/h4/5/ (空気抵抗と支点の摩擦の形について)
- Singh, "Initial-amplitude dependence in weakly damped oscillators," arXiv:physics/0206086. https://arxiv.org/pdf/physics/0206086 (抵抗の型と振幅の減り方について)
- UCSB Physics Lecture Demonstrations "Pendulum damped by air". https://web.physics.ucsb.edu/~lecturedemonstrations/Composer/Pages/40.37.html (大きくて軽いおもりの減り方について)
- 富山県教育センター「おもりの動きとはたらき(ふりこ)」。 https://www.digirika.tym.ed.jp/wp-content/uploads/2014/01/furiko.pdf (等時性と実測値について)
- 国立科学博物館 学芸員の展示場ガイド「振り子時計」(江越航)。 https://www.sci-museum.jp/wp-content/themes/scimuseum2021/pdf/study/universe/2021/01/202101_28.pdf (ガリレオの発見、ホイヘンスの振り子時計、脱進機の構造について)
- Wikipedia "Escapement". https://en.wikipedia.org/wiki/Escapement (脱進機がエネルギーを補う働きについて。二次資料)
- Wikipedia "Pendulum clock". https://en.wikipedia.org/wiki/Pendulum_clock (1回ごとのひと押しと空気の粘性について。二次資料)
- Wikipedia "Foucault pendulum". https://en.wikipedia.org/wiki/Foucault_pendulum (1851年の振り子の大きさと、電磁石による駆動について。二次資料)
なおした ところ
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