このサイトは、ほんの入り口です

ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

ペンギンの むれの そとがわは、さむく ないの?

群れの外側のペンギンは、なぜ凍えないのか ── 風を避ける一羽ずつの動きが全員を暖める

コウテイペンギンのハドル ── 体表面の露出の減少、風よけ、個体ルールによる熱の分配(2006〜2012年の研究)

分野:生きもの

ペンギンが ぎゅっと あつまって います。まん中は あたたかそうですが、いちばん そとがわの ペンギンは、つめたい 風を うけます。

それでも そとがわの ペンギンも、あたたかさに ちかづけて いると いわれます。どうしてなのか、しらべた 人たちの 話を 見て いきましょう。

南極の冬、コウテイペンギンは何百羽もの群れで身を寄せ合います。まん中の鳥は暖かそうですが、いちばん外側の鳥は、冷たい風をまともに受けるはずです。

それでも外側の鳥も暖かさにあずかれるのはなぜか。日本語の解説にある「順番に交代する」という説明を入口に、いくつかの研究をつなげて考えます。

コウテイペンギンは繁殖期に密集(ハドル)をつくる。外気が平均-17℃のとき、群れの中の周囲温度は0℃を超えていたと報告されている[1]。だが群れの外縁の個体は風を直接受ける。

このメモでは、ハドルの省エネを体表面の露出・風よけ・気温に分けた実験と計算[4]、個体が自分の熱損失を減らすだけで全員が暖かさにあずかれるというモデル[3]、実測の記録[1]、そして「順番に交代する」という一般向けの説明[5]との関係を整理する。

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1. 「じゅんばんに かわる」って ほんとう?

1. 「順番に交代している」という説明

1. 一般向けの説明と、研究が示すもの

日本語の ホームページには、そとがわの ペンギンが こおらないように、じゅんばんに いちを かえて いる、と 書かれて います[5]。

ペンギンが 「つぎは きみだよ」と 話しあうので しょうか。そうとは 考えにくいのです。

けんきゅうしゃたちが 見つけた ことは、もう すこし ふしぎでした。この 先で ひとつずつ 見て いきます。

おしくらまんじゅうのような説明

日本語の解説サイトには、ハドルの外側のペンギンが凍えないように、順番に位置を変えていることが知られている、と書かれています[5]。子どもにも思いうかぶ、分かりやすい説明です。

でも、鳥が順番を決めているのだろうか

研究を読むと、少し様子がちがいます。鳥どうしが順番を決める仕組みではなく、一羽ずつの小さな動きが積み重なっています。研究者が示しているのは、一羽ずつの小さな動きの積み重ねです。以下、その中身を順に見ます。

日本語の解説サイトは、ハドルの外側の個体が凍えないよう、順番に位置を変えることが知られていると説明する[5]。一般向けの表現としては分かりやすい。

ただし、個体が順番を取り決めて交代するという証拠は、本メモが参照した研究には見当たらない。以下で扱う研究が示すのは、一羽ずつの局所的な動きと、その集積としての熱の分配である。「順番に」は、その結果を言い表した言葉と読むのが安全だろう。

2. あつまると、そとに でる ぶぶんが へる

2. 寒さにさらされる面が減る

2. 体表面の露出の減少 ── ハドルの省エネの主因

ペンギンが ひとりで いると、体の まわりぜんぶが つめたい 空気に ふれます。あつまると、おなかや よこの 大きな ぶぶんは、なかまに くっついて 空気に ふれなく なります。

おふろで、ひざを かかえて 小さく なると、あたたかい のと にて います。ただし、ペンギンの 体は おふろの おゆでは ありません。

けんきゅうでは、この 「つめたい 空気に ふれる ぶぶんが へる こと」が、あたたかさの 大きな りゆうと 考えられて います[4]。

ひとりのときとの違い

一羽でいる鳥は、体の表面のほとんどが冷たい空気にさらされます。寄り集まると、体の側面などがとなりの鳥に接し、外気にふれる面積が減ります。

ハドルによる省エネの約3分の2は、この「寒さにさらされる体表面の減少」で説明でき、残りの約3分の1は、群れの中のおだやかな気温によるとされています[4]。

数字で見ると

同じ研究の計算では、風よけのある群れの鳥のエネルギー消費は72ワット、一羽でいる鳥は106ワットでした[4]。細かい数字は計算にもとづくもので、実際の鳥すべてに当てはまるとは言えません。

ペンギンがハドルから得る利益は、寒さにさらされる体表面の減少と、ハドル内の暖かい気温の二つに分けられる[3]。J Exp Biol の実験と理論の研究では、体表面の露出の減少がハドルによる省エネの約3分の2、群れ内の穏やかな気温が約3分の1を説明すると報告された[4]。

同じ論文の計算では、風よけのある群れの鳥の代謝は72W、単独の鳥は106Wで、体表面の露出は約74%減るとされる[4]。モデル計算にもとづく値で、個体差や条件の違いは含まない点に注意が要る。

3. かぜを よける だけでも ちがう

3. 風よけの効果と、外縁の弱点

3. 風よけによる代謝の低下

風が つよいと、おなじ 気おんでも もっと さむく かんじます。ペンギンたちは、なかまを 風よけに します。

けんきゅうでは、はなれて いる ペンギンより、ゆるく あつまった ペンギンは、つかう エネルギーが 39%へって いました[4]。この ちがいには、風よけが かかわって いると されて います。

ぎゅっと つめて うごく ペンギンは、ゆるい むれよりも、さらに 21%へって いたと いいます[4]。ただし、この 二つの すうじは くらべる もとが ちがうので、たしたり しないで ください。

ゆるい群れでも省エネになる

ばらばらに離れている鳥にくらべて、ゆるく集まっている鳥の代謝(生きるために使うエネルギー)は39%低く、この差には風よけが寄与していると報告されています[4]。

さらに詰めると

密集して自由に動ける鳥は、ゆるい群れの鳥よりさらに平均21%低かったそうです。39%と21%は比べる相手が別なので、足し算はできません。

外縁はどうか

それでも、風を直接受けるのは外縁の鳥です。この弱点を、群れ全体でどう分け合っているのかが次の問いです。

J Exp Biol の研究では、個体が離れている状態に比べ、ゆるく群れた個体の代謝率は39%低く、この差には風よけが寄与するとされる。密集して自由に動く個体は、ゆるい群れよりさらに平均21%低い[4]。39%と21%は基準が異なり、足し合わせたり同じ基準で読んだりはできない。

風の影響は個体の位置によって大きく違い、外縁の個体ほど受けやすい。これが、次のモデルが出発点にした事情である[3]。

4. ひとりずつの ルールだけで、みんな あたたまる

4. 「自分の熱を守る」だけで公平になる

4. 個体モデル ── 熱損失の最小化が等しい暖かさを生む

2012ねんの けんきゅうでは、コンピューターで ペンギンの むれを つくりました。ルールは ひとつだけです。「風を いちばん うけて いる ペンギンは、風の あたりにくい ほうへ うごく」。

すると、だれか ひとりが ずっと さむい ままには なりませんでした。みんなが ほとんど おなじくらい、むれの あたたかさに あずかれたと いいます[3]。

ペンギンに しれいかんは いません。それでも、それぞれが じぶんを まもろうと するだけで、いつのまにか みんなに じゅんばんが まわって くる かたちに なります。ただし、これは 計算の けっかで、じっさいの ペンギンの 話では ありません。

コンピューターの中のハドル

2012年の研究は、ペンギンのハドルを計算モデルで再現しました。仮定はひとつだけで、風を最も受ける外縁の個体が、風下側の守られた場所へ移る、というものです[3]。

結果は「ほぼ平等」

各個体が自分の熱損失を減らそうとするだけで、全員がほぼ等しくハドルの暖かさにあずかれる、という結果になりました[3]。司令塔も、交代のルールも置いていません。

これはモデルの計算です。ペンギンが本当にこの規則で動いているかどうかは、別に確かめる必要があります。

2012年のPLOS ONEのモデル研究は、風を最も強く受ける外縁の個体が風下側の守られた場所へ移動し、各個体が自分の熱損失を最小化しようとするという単一の仮定だけで、全員がほぼ等しくハドルの暖かさに近づけることを示した[3]。

この結果は計算によるもので、実測ではない。それでも、「順番を取り決める個体や司令塔がなくても、局所的な規則の積み重ねが公平な配分を生みうる」という、一般向けの説明とは別の筋道を示している。

5. ほんものの ペンギンでも、みんな あたたかかった?

5. 実際に測ってみると

5. 実測 ── 個体標識ペンギン8羽の記録

けんきゅうしゃは、ペンギン 8わの 羽に、きおんを はかる 小さな そうちを つけました。この そうちの きろくから、むれの 中に いる 時間の わりあいが ちがっても、しらべた ペンギンの きろくでは、どの ペンギンも あたたかい ばしょに ていきてきに ちかづけて いたと ほうこくされて います[1]。

ずっと ぎゅっと あつまって いるのでは ありません。あつまって いる 時間は、ぜんたいの 38%くらいで、ひとつの まとまりは へいきん 1.6時間ほど でした[1]。ひとつの まとまりは みじかく、長さも まちまちでした。

しらべた のは 8わです。ぜんぶの ペンギンが そうだと までは、いえません。

8羽に付けた装置

2006年に発表された研究では、羽に装置を付けた8羽のコウテイペンギンの記録が調べられました。ハドルのまとまり方に差があっても、調べた個体の記録では、全員が定期的にハドルの暖かさに近づけていたと報告されています[1]。

ずっと固まっているわけではない

繁殖期にオスがハドルで過ごした時間は、平均すると全体の38%ほどでした。ひとつのハドルは連続せず、短くて長さもまちまちで、平均1.6時間でした[1]。これは従来の見方とは異なる結果です。

調べたのは8羽なので、すべての鳥の証明にはなりません。

Gilbert らの研究(2006)は、羽に記録装置を貼り付けた個体標識コウテイペンギン8羽のデータから、ハドルの構成が一様でなくても、鳥たちは等しくハドルの暖かさに近づけたと結論した[1]。8羽という数は限られており、全個体への一般化はできない。

同じ研究では、繁殖期にオスがハドルで過ごした時間は平均38±18%(標準偏差)で、1回のハドルは従来の見方と異なり連続的でなく、平均1.6±1.7時間の短く不定の長さだった[1]。「ずっと固まっている」のでなく、出入りを繰り返す集団であることが、公平さと矛盾しない。

6. ちいさな 一ぽの なみ

6. 30〜60秒ごとに起こる小さな一歩

6. 波のような動きと、その役割の提案

ゆらゆらと、ペンギンたちが ほとんど 同じ ときに ちいさく 一ぽ ずつ うごく ことが あるそうです。30びょうから 60びょうごとに おきて、なみのように むれの ぜんぶに つたわって いくと ほうこくされて います[2]。

この 動きの やくわりについて、研究した 人たちは、むれを ぎゅっと つめなおす こと、むれ ぜんたいが うごいたり、小さな むれが くっついたり する こと、などを かんがえて います[2]。ただし、これは 「こうでは ないか」という ていあんです。

写真に写った波

約2000羽のコウテイペンギンを、外気マイナス33〜43℃の冬に定点で撮影した研究では、30〜60秒ごとに全員が小さく一歩ずつ動き、その動きが波のように群れ全体に伝わることが報告されました[2]。

何のための動きか

研究した人たちは、この周期的な動きの役割を三つ提案しています。密度を最大にする詰め直し、ハドル全体の移動や小さな群れの合流、そして群れの再編成です[2]。

いずれも提案された機能で、「順番を決めて交代する」と証明されたわけではありません。

約2000羽のコウテイペンギンを外気-33〜-43℃の冬に定点撮影した研究では、ハドルの密度は約21羽/㎡と報告され、30〜60秒ごとに全員が小さく一歩ずつ動き、その動きが波として群れ全体に伝わった[2]。一歩は5〜10cm、波の速さは秒速約12cmと紹介されている。

著者らは、この周期的な動きの役割を、①密度を最大にする詰め直し、②ハドル全体の移動や小集団の合流、③群れの再編成、と提案している[2]。これらは提案された機能で、モデル[3]の予測を直接確かめたものではなく、実際のペンギンが外側の個体を守るために交代しているという証拠もない。

自分でも しらべて みたく なったら

自分でも調べてみたくなったら

自分でも調べてみたくなったら

おうちで、じぶんの 体で ためして みましょう。すずしい へやで、さきに どちらの しせいから ためすか きめて、おなじ へやで 30びょうずつ くらべます。手足を ひろげて 立つのと、ひざを かかえて ちいさく すわるのです。どちらが さむく ないか 考えます。さむく なったり くるしく なったら、すぐ やめましょう。

ペンギンの ことを もっと 知りたい ときは、ホームページ「きこうへんどう いきもの だいちょうさ」も 日本語で 読めます。

今日できること:涼しい部屋で、先に試す姿勢を決め、同じ部屋で手足を広げて立った姿勢とひざを抱えて小さく座った姿勢を30秒ずつ試し、どちらが寒さを感じにくいか比べてみてください。体が外の空気にふれる面積の話を、体で確かめる方法です。冷えたり苦しくなったりしたら、すぐやめましょう。

公式情報:日本語の解説として、「気候変動いきもの大調査」(ccbio.jp)があります。研究の原典は、出典欄の論文です。

ハドルの利益の内訳は J Exp Biol の論文[4]、公平性のモデルは PLOS ONE 2012[3]、実測の記録は Gilbert らの論文[1]、波の観察は PLOS ONE 2011[2]にある。いずれも英語だが、要旨だけなら読みやすい。

日本語の入口には、「気候変動いきもの大調査」[5]がある。一般向けの表現(「順番に」)と、個体の局所的な動きを描くモデルとの違いを読み比べてみると、説明の粒度が違う理由が見えてくる。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

出典について:ペンギンの群れの行動を扱った学術論文と、日本語の一般向けサイトを使った。何に使ったかは、それぞれの項目の最後に書いている。

  1. Gilbert et al. (2006) Physiology & Behavior、著者原稿(arXiv)。https://arxiv.org/pdf/q-bio/0701051 (ハドルの時間の割合と長さ、8羽の記録について)
  2. Coordinated Movements Prevent Jamming in an Emperor Penguin Huddle, PLOS ONE (2011)。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3106014/ (30〜60秒ごとの波のような動きと、その役割の提案について)
  3. Modeling Huddling Penguins, PLOS ONE (2012)。https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371%2Fjournal.pone.0050277 (個体ルールだけで熱を公平に分け合えるモデルについて)
  4. Energy saving processes in huddling emperor penguins: from experiments to theory, Journal of Experimental Biology。https://journals.biologists.com/jeb/article/211/1/1/17434/Energy-saving-processes-in-huddling-emperor (体表面の露出の減少と風よけによる省エネの内訳について)
  5. 気候変動いきもの大調査。https://ccbio.jp/topics/k003 (「順番に位置を変える」という一般向けの説明について)

なおした ところ

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