1. どうして かわいた 日に ひらくの?
1. 松ぼっくりは、なぜ乾いた日に開くのか
1. 乾いた日に開く性質:種を風で遠くへ飛ばすためとされる
こうえんで ひろった まつぼっくりが、ひなたで ぱっと ひらいて いた ことは ありませんか。
まつぼっくりは、よく かわいた 日に ひらき、しめって いると とじます[1]。ひらくと、なかの たねが かぜに のって とおくへ とびます。かわいた 日に ひらくのは、そのための せいしつだと いわれます。
では、木が 生きて いて、きんにくのように うごかして いるのでしょうか。
2. うごかして いるのは、生きて いる さいぼうなの?
2. 動かしているのは、生きた細胞ではない
2. 受動的な運動:成熟した松かさの細胞は死んでいる
こたえは、ちがいます。せかいの 研究では、せいじゅくした まつぼっくりの さいぼうは しんで いると ほうこくされました[2]。
まつぼっくりは、しめり けの へんかに あわせて、じぶんから 力を 出すのでは なく、うけみで うごきます。うごきを つくって いるのは、うろこの ような ぶぶんの つくりと、さいぼうの かべの せいしつです。
では、どんな つくりが、まげる 力を うむのでしょう。
動かしているのは、生きた細胞ではありません。1997年に、科学雑誌『Nature』にのった研究は、ラジアータマツの松かさを調べて、成熟した松かさの細胞は死んでいると報告しました[2]。開閉は、生きた細胞が働いて起こるのではなく、湿度の変化に材料のほうが受け身で反応して起こる動きです。
反応するのは、鱗片の構造と、細胞のまわりの壁(細胞壁)です[2]。以下に出てくる研究の多くは、ラジアータマツ、ヨーロッパアカマツ、ジェフリーマツなど、欧米のマツで行われたものです。
では、その構造のどこが、曲がる力を生むのでしょうか。
答えは直観に反する。Dawsonらの1997年のNature論文は、ラジアータマツ(Monterey pine)の松かさを調べ、成熟した松かさの細胞は死んでおり、開閉は相対湿度の変化に対する受動的な応答であることを示した[2]。動くのは、鱗片の構造と細胞壁の性質による。以下で扱う研究の多くは、ラジアータマツ、ヨーロッパアカマツ、ジェフリーマツなど欧米のマツを対象にしており、日本のクロマツやアカマツと同じ結果になるとは、ここでは書かない。
では、細胞壁のどんな性質が、鱗片を曲げるのか。
3. 2まいの そうが、ちがう ふくらみかたを する
3. 膨らみ方のちがう二層が、鱗片を曲げる
3. 二層モデル:膨らむ層と膨らみにくい層の差で曲がる
うろこの ねもとは、2つの そうが かさなって できて います。したの そうは、ぬれると ふくらみます。うえの そうは、あまり ふくらみません[3]。
かたほうだけ のびる 2まいの テープを はりあわせると、そって まがりますね。うろこの ねもとも、ふくらみかたが ちがう 2つの そうの せいで まがります。ぬれると とじ、かわくと ひらく 動きに なります。
ただし、これは わかりやすく した せつめいです。ほんとうは、もっと ふくざつだと わかって きました。
では、この 動きは、どれくらいの はやさで おきるのでしょう。
鱗片の付け根で曲がる部分は、二層でできています。下側の層は厚い壁をもつ細胞(厚壁細胞)でできていて、濡れると膨らみます。ある研究では、濡れた細胞は乾いたときより長さが約20%長くなっていました。上側は繊維の層で、こちらは膨らみにくい性質です[3]。
2まいの層が貼り合わさっていて、片方だけが大きく膨らむと、全体が反って曲がります。熱で曲がる「バイメタル」の湿度版といわれるのは、このためです[3]。濡れると閉じ、乾くと開く動きは、この曲がりから生まれます。約20%は細胞の長さの値で、鱗片全体の伸びではありません。
層の中のセルロースの繊維は、向きがちがうとする説明もあります。膨らみやすい層と膨らみにくい層は、繊維の向きが軸に対して直角か平行かで分かれている、というものです[4]。
ここまでの説明で、動きは全部分かったのでしょうか。その前に、この動きにかかる時間を見てみます。
鱗片の付け根の屈曲部は、二層構造をとる。下層は厚壁細胞(sclereid)の層で、濡れると膨潤して、細胞の長さが乾いたときより約20%伸びる。上層は繊維(sclerenchyma)の層で、膨潤しにくい[3]。膨潤量に差のある2層が接着されているため、濡れると下層が大きく伸び、鱗片が曲がる。熱で曲がるバイメタルの湿度版とたとえられる所以である[3]。約20%は細胞の長さ方向の値であり、鱗片全体の伸びではない点に注意したい。
2層の差の背景として、セルロース微細繊維の向きの違いが挙げられる。抵抗層(繊維)では微細繊維が鱗片の軸とほぼ平行、活動層(厚壁細胞)では主に軸と垂直で、水を吸うと繊維の向きと直角の方向に大きく膨らむ性質が効く、と説明される[4]。ただしこれは木材一般の性質から導かれた説明であり、松かさ自体の細かな測定値ではない。
これで話は終わりなのか。その前に、この動きにどれくらいの時間がかかるのかを見ておく。
4. とじるのは 1時間、ひらきなおすのは 2日?
4. 閉じるのは約1時間、開き直しには約2日かかる
4. 開閉の時間尺:数分〜数時間、水に浸すと約1時間で閉じ、開き直しは約2日
ほっかいどうだいがくの かんさつでは、まつぼっくりを 水に つけると、1時間ほどで とじました。それを かわかして ひらきなおすまでには、2日ほど かかりました[1]。とじるのは はやく、ひらくのは おそいのです。
この 動きは、なんども くりかえせます。ひらく ときは、まつぼっくりの したの ほうの うろこから さきに ひらき、うえの ほうへ じゅんに すすみます[7]。
では、二そうの せつめいだけで、水の 出入りまで わかるのでしょうか。
北海道大学の観察では、松ぼっくりを水に浸すと約1時間で閉じ、乾かして開き直すのに約2日かかりました[1]。閉じるほうが速く、開くほうが遅いのです。ただしこれは水に浸したときの時間で、雨や部屋の湿気の場合は同じにはなりません。別の研究では、膨らんだり乾いたりする時間は組織の厚さによって数分から数時間の幅があるとされ、この動きは何度でも繰り返せます[4]。
乾くときには、根元(基部)側の鱗片から先に開き、先端側へ順に開いていきました。鱗片の裏側の面から水が出入りしていて、この面をふさぐと開くまでの時間が大きく延びたそうです[7]。この観察の対象はヨーロッパアカマツなどで、すべてのマツに同じとは限りません。
水は、鱗片の裏側から入ってどこを通るのか。二層の説明で、その道すじまで分かるのでしょうか。
時間尺は、条件でかなり変わる。北海道大学の観察では、水に浸すと約1時間で閉じ、乾かして開き直すのに約2日かかった[1]。閉じるほうが速いのは水に浸したためで、雨や湿気の中では別の時間になる。組織の厚さによっては、膨潤と乾燥の時間が数分〜数時間に収まるという報告もあり、往復は繰り返し可能である[4]。
開くときの順序にも規則がある。ヨーロッパアカマツなどを調べた2024年の研究では、調べた松かさはすべて最も基部側の鱗片から開き始め、先端側の鱗片が順に続いた[7]。水は鱗片の裏面(abaxial)から出入りし、この面をふさぐと開く時間が大きく延びた[7]。鱗片は重なり合って種を守っているため、開く順序は種の出方にも関わりそうだが、その点までは資料にない。
では、水は裏面から入って、二層のどこをどう通って厚壁細胞に届くのか。この問いが、二層モデルの単純さを問い直す研究につながった。
5. 「二そう」の せつめいだけでは たりなかった?
5. 二層のたとえだけでは足りなかった:最近の研究
5. 二層モデルは単純化しすぎだった:水の通り道と繊維の軟化、多層モデルの提案
2022ねんの 研究は、二そうの せつめいは、たんじゅんに しすぎだと しめしました。水は、うろこの うらがわの かわから はいって、ぶあつい さいぼうまで とどきます[5]。
かわいた せんいは かたいのですが、しめると やわらかく なります。やわらかく なると、それまで ためて いた まがりが とけて、うろこが うごきます[5]。
2025ねんの 研究では、せんいが まわりの くみあわせに うまった、いくつもの そうの モデルの ほうが、じっさいの まがりぐあいに ちかいと わかりました[6]。
まつぼっくりの うごきの しくみは、いまも すこしずつ、あきらかに なって います。
2022年の研究は、「二層」の説明は単純化しすぎだと示しました。水は鱗片の裏側の表皮から入り、褐色組織と繊維束を通って、膨らむ厚壁細胞へ届きます。乾いた繊維は硬く、曲がりをおさえ込んでいますが、湿ると軟らかくなり、その曲がりを解き放つ、というのです[5]。この研究では、相対湿度を30%から75%に上げると、繊維束のヤング率(硬さの目安)が約800MPaから約200MPaへ、およそ75%下がったと報告されています。著者らは、この軟化が鱗片の動きに関わると説明しています[5]。
2025年には、ジェフリーマツを調べた研究が、繊維束が褐色組織に埋まった多層のモデルのほうが、実験で見られた曲がり角をよく再現すると示しました[6]。さらに、水を吸うときと乾くときで反応が異なる「ヒステリシス」もあり、一時的に湿度が下がっただけでは急に開かないための緩衝になりうる、と著者らは論じています[6]。これは著者の推測の段階です。
二層のたとえは、動きを大づかみにつかむには分かりやすいものです。水の通り道、繊維の軟化、多層モデルと、その細部は今も研究で書き換えられています。松ぼっくり一つの中にも、まだ分かっていないことが残っているのです。では、これほど材料の性質で動くなら、時間がたっても動くのでしょうか。
二層モデルは、動きを直観的に説明できる。ところが、2022年のAdvanced Science誌の研究は、この二層構造の単純化を改める内容だった。水は鱗片の裏側(abaxial)の表皮から入り、褐色組織と繊維束を通って厚壁細胞に届く。乾いた繊維は硬く、鱗片の曲がりを抑え込んでいるが、湿ると軟らかくなって曲がりを解き放つ[5]。この研究では、相対湿度30%から75%で繊維束のヤング率が約800MPaから約200MPaへ下がったと報告され(約75%減)、著者らはこの軟化が鱗片の動きに関わると説明する。ただしこの数値は繊維束についての値で、鱗片全体の軟らかさではない。
2025年には、ジェフリーマツを調べたUlrichらが、離散的な繊維束が褐色組織の基質に埋め込まれた多層の幾何のほうが、実験で観察された曲がり角をより正確に再現すると報告した[6]。この研究はさらに、吸湿時と乾燥時で応答が異なるヒステリシスにも触れ、一時的な湿度低下で急に開かないための緩衝として働きうる、と論じた。ただしこの役割は著者の推測で、実証された機能ではない[6]。
二層モデルが誤りというより、粗い見取り図が細部まで描き込まれていく過程にある、という読み方が妥当だろう。では、動きが細胞の生死ではなく材料の性質で決まるなら、時間をさかのぼっても動くのか。
6. すごく むかしの かせきの まつぼっくりも うごくの?
6. 1000万年以上前の化石の松かさも、湿度で動いた
6. 化石の松かさの吸湿運動:最古級の証拠と、人工物への応用
2017ねんの 研究では、いまから やく12万6千年 前と、やく1150万年〜1650万年 前の かせきの まつぼっくりが しらべられました。どちらも、しめり けで ひらいたり とじたり する 動きを のこして いました[3]。
この 研究では、しょくぶつの ぶぶんで、この しくみが 動く いちばん ふるい しょうこだと されて います。いのちが なくても、つくりが のこって いれば 動く、と 考えられます。
この しくみを まねして、紙と プラスチックを かさねた、ぬれると ひらく にんぎょうの はなを つくる 研究も あります[8]。あせで ひらく ふくの ぬのなども、かんがえられて いる ところです。
2017年の研究は、約12万6000年前(最終間氷期)と、約1150万〜1650万年前(中期中新世)の化石の松かさを調べました。どちらも、湿度で開閉する動きを保っていました[3]。植物の部位で、この受け身の水圧による動きが働いていた最古の証拠とされています[3]。
動きが細胞の生死ではなく、組織の構造で決まるとしたら、化石になっても動くことは矛盾しません。
この原理は、生き物の仕組みを人工物に生かすバイオミメティクス(生物模倣)の題材にもなっています。紙とプラスチックの二層で、濡れると開き乾くと閉じる人工の花が作られました[4]。汗で開く服地や日ざしで曲がるブラインドなども構想されていますが、製品になったとは書けません[8]。
2017年のPoppingaらの研究は、約12.6万年前(Eemian間氷期)と、約1150万〜1650万年前(中期中新世)の化石の松かさを調べ、どちらも湿度による開閉運動の機能を保っていたと報告した[3]。植物の部位で、受動的な水圧駆動運動が働く証拠としては、記録された中で最古とされる[3]。動きが細胞の生死ではなく組織の構造で決まるなら、化石でも動くことと矛盾しない。
この原理は生物模倣にも使われる。紙とプラスチックの二層シートで、濡れると開き乾くと閉じる人工の花が作られた[4]。汗や湿気で開く服地や、日ざしで曲がるブラインドなどが構想されている段階で、製品化済みとは書けない[8]。
一方、この記事の冒頭の疑問は、まだ半分しか答えていない。二層モデルのその先で、鱗片の中の水と繊維がどう働くのかは、研究が続いている。
自分でも しらべて みたく なったら
自分でも調べてみたくなったら
自分でも調べてみたくなったら
今日できること
ひろった まつぼっくりを 1こ、水に つけて みましょう。ひらいて いる ものが いいです。1時間ほど おいて、うろこが とじて いるか 見ます。それから かわかして、ひらきなおすまで 2日ほど まってみます。まつぼっくりに さわった あとは、手を あらいましょう。
出かけてできること
こうえんで、ひらいた まつぼっくりと、とじた まつぼっくりを さがして みましょう。天気や、さがした 時間も おぼえて おくと、くらべられます。
こうしきの 情報
ほっかいどうだいがくの ホームページに、まつぼっくりの かいせつが あります。
今日できること
拾った松ぼっくりを1個、水に浸してみてください。開いたものを選びます。1時間ほどたったら、鱗片が閉じているかを見ます。次に、風通しのよい場所で乾かして、開き直すまで待ちます。北海道大学の観察では約2日かかったので、待つ計画が要ります。松ぼっくりに触ったあとは、手を洗いましょう。
出かけてできること
公園で、開いた松ぼっくりと閉じた松ぼっくりを探して、天気や時間を書いておくと、比べられます。落ちている場所でも、乾き方はちがうかもしれません。
公式情報
北海道大学CoSTEPの解説『松ぼっくりの開閉』が、日本語で読める入り口です。
今日できること
拾った松ぼっくりを水に浸し、閉じるまでの時間と、乾燥して開き直すまでの時間を、自分で測ってみる。北大の観察では約1時間と約2日だったが、松の種類や大きさ、水温、乾かす場所で変わるはずである。条件を変えて比べると、閉じる時間や開き直す時間が条件でどう変わるかを、自分の目で見られる。
出かけてできること
公園で開いた松かさと閉じた松かさを探し、天気や時間帯を記録する。基部側の鱗片から先に開くかどうかも、乾かしながら観察できる。
資料を読むなら
化石の松かさの研究(Poppingaら2017)と、多層モデルの研究(Ulrichら2025)は、どちらも無料で読める英語論文で、読むのは任意の発展である。日本語で読みたければ、まず出典欄の日本語の解説から入るとよい。論文は図を見るだけでも、鱗片の断面や曲がり角の測り方が分かる。出典欄のURLから読める。
しらべた もとの じょうほう
参考にした情報源
参考にした情報源と、その使い方
日本語の解説は北海道大学CoSTEPに、松かさの構造と動きは学術論文に、生物模倣はAskNatureの解説に依拠する。数値は論文に書かれた範囲だけを使い、欧米のマツで調べられたものである。
- 北海道大学CoSTEP「松ぼっくりの開閉」(2020) https://costep.open-ed.hokudai.ac.jp/like_hokudai/article/11687 (乾いた日に開く性質、水に浸したときの時間)
- Dawson, Vincent & Rocca "How pine cones open", Nature 390:668 (1997) https://www.nature.com/articles/37745 (細胞が死んでいること、湿度への受動的な反応)
- Poppinga et al. "Hygroscopic motions of fossil conifer cones", Scientific Reports (2017) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5225473/ (二層のつくり、化石の松かさ)
- Reyssat & Mahadevan "Hygromorphs: from pine cones to biomimetic bilayers", J R Soc Interface (2009) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2838359 (繊維の向き、時間尺、人工の花)
- "Structural and Mechanical Basis for Passive-Hydraulic Pine Cone Actuation", Advanced Science (2022) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9284161/ (水の通り道、繊維の軟化)
- Ulrich et al. "Beyond the bilayer", Beilstein Journal of Nanotechnology (2025) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12498252/ (多層モデル、ヒステリシス)
- Horstmann, Speck & Poppinga, Plants (Basel) (2024) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11313876/ (開く順序、裏面の役割)
- AskNature "Pine cones open and close in response to weather" https://asknature.org/strategy/pine-cones-open-and-close-in-response-to-weather/ (生物模倣の応用の構想)
なおした ところ
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