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ここにあるのは、だれかが実際に調べ、考え、作ってきたことを集めたメモです。気になったら、ページの下の「参考にした情報源」から、もとの本や記事、それを生み出した人たちに、直接ふれてみてください。このメモには書ききれないおもしろさが、そこにあります。

目も みみも ない しょくぶつは、どうして 上と 下が わかるの?

目も耳もない植物は、上と下をどうやって知るのか

植物の重力感知 ── 根冠の平衡石、ダーウィンの先端実験、2023年のLZYタンパク質

分野:自然

まっくらな つちの なかに、たねが うまって います。ひかりも みえないのに、ねは したへ、くきは うえへ のびて いきます。

たねには 目も みみも ありません。それでも どうして、上下が わかるのでしょう。ダーウィンの じっけんから、さいきんの けんきゅうまで、たどって みましょう。

暗い土の中に埋まった種は、光も見えないのに、根を下へ、茎を上へ伸ばしていきます。目も耳も、手足もありません。

植物は、重力の向きをどこで、どうやって感じているのでしょうか。ダーウィンが根の先を調べた実験から、細胞の中の「重い粒」の説、そしてその先を2023年に報告した研究までを追います。

植物は、地上では根を重力の向きへ、茎を反対向きへ伸ばす。この性質は重力屈性と呼ばれる[1]。

このメモでは、重力を感じる場所が根の先端にあること[2]、ダーウィンの先端実験[4]、デンプンを含む重い粒が沈むという平衡石説[2]、2023年に報告されたLZYタンパク質の役割[6]、そして宇宙で起こることを、複数の資料を突き合わせてたどる。

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1. まっくらでも、なぜ むきが わかるの?

1. 根は下へ、茎は上へ

1. 重力屈性とは何か

ねが したへ、くきが うえへ のびる。これを、重力屈性じゅうりょくくっせいと いいます[1]。むずかしい ことばですが、「じゅうりょくの むきに あわせて、まがる せいしつ」と おぼえれば だいじょうぶです。

うえも したも みえない つちの なかでも、ねと くきは むきを まちがえません。しょくぶつは、じゅうりょくの むきを、からだの どこかで かんじて いるようです。

重力屈性という性質

地上では、根は重力の向きへ、茎はその反対へ伸びます。この性質を重力屈性といいます[1]。光の見えない土の中でも、種は上下を取りちがえずに育ちます。

感じるための場所が、どこかにある

人の目や耳のような器官がない植物は、重力を感じる場所を、体のどこかに持っているはずです。それは根のどこなのか。最初にこの問いに迫ったのが、ダーウィンでした。

地上では、茎は重力と反対向きに、根は重力の向きに成長する。この性質を重力屈性という[1]。光の届かない土中でも、根と茎は向きを間違えない。

動物には平衡感覚の器官があるが、植物にはそのような器官が見当たらない。では植物は、重力の向きをどこで、何を使って感じているのか。以下では、その手がかりを歴史順に追う。

2. ダーウィンは、ねの さきを きって みた

2. ダーウィンが根の先を切った

2. 1880年、ダーウィンの先端実験

いきものの 進化で ゆうめいな ダーウィンは、しょくぶつの うごきも しらべました。1880年に 本に まとめた 中に、ねの さきを きる じっけんが あります[4]。

ダーウィンの 本には、さきを きられた ねは じゅうりょくが わからなく なり、あたらしい さきが そだつと、また ふつうに まがるように なったと 書かれて います[4]。

ダーウィンは、ねの さきを 「からだの つくりが かんたんな 動物の のうの ように はたらく」と たとえました[5]。のうが あると いったのでは なく、「のうの ように」と いう たとえです。

先端を切ると、重力が分からなくなる

ダーウィンは1880年の『植物の運動力』に、根の先端を切り取る実験を記しています。切られた根は重力に反応しなくなり、新しい先端が育つと、また正常に戻ったといいます[4]。

先端が重力を感じ、その刺激が、曲がる部分へ伝わっている。ダーウィンはそう考えました[4]。

「下等動物の脳」というたとえ

同じ本の結論で、ダーウィンは根の先端を「下等動物の脳のように働く」と表現しています[5]。根に脳があると言ったのではなく、感覚を受け取って動きを指図する役目がそこにある、という比喩です。ただしダーウィンは、先端の中の何が重力を感じるのかまでは、まだ知りませんでした[4]。

ダーウィンは1880年の『植物の運動力』で、根の先端を切り取ると重力への感受性が失われ、新しい先端が育つと正常に戻ること、先端が重力を感じてその刺激が曲がる部分へ伝わることを記した[4]。

同書の結論部では、根の先端が「下等動物の脳のように働く」と表現された[5]。脳があるという主張ではなくたとえであり、先端の中の何が重力を感じるかは、この段階では分かっていない。なお、これらの記述は1890年の雑誌転載を経由して確認したもので、原著の全文には当たっていない。

のちの研究でも、根冠を外科的に除くと根は重力に反応しなくなると報告されている[2]。

3. さきの さいぼうの なかで、おもい つぶが しずむ

3. 根冠の細胞の中で、重い粒が沈む

3. 根冠のコルメラ細胞が重力を感じる──デンプンをためた粒が沈んで伝える説

ねの いちばん さきには、根冠こんかんと いう ぼうしのような ところが あります。その 中の 細胞さいぼうに、でんぷんを たくさん ためた、おもい つぶが はいって います[2]。この つぶは 平衡石へいこうせきと よばれます。

ペットボトルに ビーだまを いれて たてると、したに たまります。ねの さきでも、おもい つぶが じゅうりょくの むきへ しずんで、「こっちが したです」と ばしょで しらせると かんがえられて います[2]。ただし 本当は、つぶは ビーだまのように かたくは ありません。

この かんがえの はじまりは、1900年ごろまで さかのぼります[2]。

根冠のコルメラ細胞

根の先端を覆う根冠のなかでも、重力を感じる場所は、コルメラ細胞と呼ばれる細胞だとされています[2]。ここで感じる場所と、実際に曲がる場所は別で、曲がるのは少し上の、よく伸びる部分の細胞です[2]。

デンプンをためた粒が沈む

コルメラ細胞には、デンプンを多量にためた重いアミロプラストという粒があり、平衡石とも呼ばれます。アミロプラストが細胞の中で重力の向きに沈み、信号のもとになるという考えが、デンプン平衡石説です[2]。説の起源は、ハーバーラントとネメツが1900年ごろに出した提案にさかのぼります[2]。

日本語の解説でも、根を横にして重力の向きを変えると、アミロプラストが新しい下側へ移動し、その後はほとんど動かないと紹介されています[3]。

根では、根冠全体のうちコルメラ細胞が重力感受の場とされ、実際の屈曲は少し上の伸長域で起こる[2]。感知部位と応答部位が分かれている。

デンプン平衡石説によれば、デンプンを多量に蓄えて密度の高いアミロプラスト(平衡石)が、コルメラ細胞内で重力の向きに沈降し、これが信号の起点になる。提唱はHaberlandtとNěmecの1900年にさかのぼる[2]。ただし1900年は説が出た時期であり、仕組みが解明された年ではない。

国内の解説でも、重力方向を変えるとアミロプラストが新しい下側へ移り、その後ほとんど動かないと報告されている[3]。

4. しらせを うけた ねは、どうやって まがるの?

4. 信号が届くと、根は曲がる

4. オーキシンの偏りと根・茎の逆の応答

つぶが しずんだ あと、しょくぶつは 「オーキシン」と いう ホルモンの ながれを かえます[2]。オーキシンは、しょくぶつの なかで はたらく ものの なまえです。

ねの したがわの 生長が おさえられて、ねは したへ まがります。この ときの うごきは、つぶが しずんでから すう分の うちに はじまると いわれます[2]。

下側に偏るオーキシン

重力を感じたあと、オーキシンを細胞の外へ出すタンパク質が、コルメラ細胞の下側へ移ります。刺激から数分のうちに、根の上と下でオーキシンの量に偏りができると報告されています[2]。

根と茎で、反応が逆になる

根では、オーキシンが多い側の成長が抑えられて下へ曲がり、茎では、多い側の成長が促されて上へ曲がると説明されています[9]。同じ物質が、根と茎で反対の効き方をすることが、下向きと上向きの両方を生みます。

重力を感じた後、オーキシン排出タンパク質PIN3・PIN7がコルメラ細胞の下側に再配置され、刺激から数分のうちに根の上下でオーキシンの偏りが生じる[2]。

根ではオーキシンが多い側の成長が抑えられて下向きに屈曲し、茎では多い側の成長が促進されて上向きに屈曲する、と説明される[9]。「茎はオーキシンに鈍い」という単純化は当たらず、成長への効き方が逆、と捉えるのがよい。

5. しずんだ あと、なにが つたえるの?

5. 沈んだ位置を、どう伝えるのか

5. 2023年、LZYタンパク質の報告

おもい つぶが しずむと いう かんがえは、1900年ごろに でて いました。けれど、その あと 「ここが した」という しらせが、どうやって さいぼうの ひょうめんまで つたわるのかは、ながい あいだ わかって いませんでした[6]。

2023年、日本の 基礎生物学研究所きそせいぶつがくけんきゅうじょの 教授きょうじゅたちが、その ヒントを 見つけたと 発表はっぴょうしました。「エルゼットワイ」と いう たんぱくの なかまが、ねの さいぼうで、つぶから さいぼうの まくへ うつって、つぶの いちを つたえると いう ものです[6]。

100年以上の空白

平衡石が沈むという説は1900年ごろに出ましたが、その位置の情報が細胞の表面へ、どう伝わるのかは、長く分かっていませんでした。基礎生物学研究所のプレスリリースは、この仕組みを「100年以上」の間、解けなかったと述べています[6]。

LZYタンパク質が動く

2023年8月、基礎生物学研究所の森田(寺尾)美代教授らが、科学雑誌『サイエンス』に発表しました。LZYというタンパク質が、根の細胞でアミロプラストから細胞膜へ移ることで、アミロプラストの位置、つまり重力の向きを細胞膜に伝えます。それがオーキシンの輸送の調節につながる、という報告です[6]。

もちろん、平衡石説の全部が決着したわけではありません。ここで解けたのは、位置の情報を伝える部分についての報告です。

平衡石説の提唱(1900年)から、位置情報が細胞膜にどう伝わるかが示された2023年まで、およそ120年ある。基礎生物学研究所のプレスリリースは、この仕組みが100年以上不明だったと述べる[6]。ここでの「不明」は、この情報伝達の過程を指すもので、平衡石説全体の未解決を意味するわけではない。

2023年8月、同研究所の森田(寺尾)美代教授らはScience誌で、根の細胞ではLZYタンパク質がアミロプラストから細胞膜へ移動することで、アミロプラストの位置情報=重力方向を細胞膜に伝え、オーキシン輸送の制御につながることを報告した[6]。

6. うちゅうでは、どこへ のびるの?

6. 宇宙では、向きが決まらない

6. 無重力での成長方向

宇宙うちゅうの じゅうりょくが ほとんど ない ところでは、くきも ねも、かってな むきに のびます[7]。じゅうりょくを かんじる しくみが、はたらかないからだと いわれて います。

そこで、ひとつの むきから ひかりを あてます。すると、くきは ひかりの ほうへ、ねは はんたいへ のびます[8]。

ちじょうでは あたりまえに おもえた 上と 下は、じつは じゅうりょくを かんじる しくみが あって、はじめて きまって いたのです。

重力がほとんどない宇宙では、茎も根も勝手な方向に伸びます。植物は重力センサーで重力を感じ取っていますが、無重力ではこれが働かないためだと説明されています[7]。

宇宙で植物を決まった向きに育てたいときは、一定の方向から光を当てるとよいとされます。茎は光のほうへ、根は光と反対へ伸びるからです[8]。地上で当たり前に見えた「根は下、茎は上」は、重力を感じる仕組みがあって、はじめて成り立っていたことが分かります。

JAXAの解説によれば、無重力では茎や根は勝手な方向に伸びる。重力センサーが正常に機能しなくなるためである[7]。宇宙で伸びる方向をそろえるには、一定方向から光を当てればよく、茎は光の方へ、根は光と反対へ伸びる[8]。

自分でも しらべて みたく なったら

自分でも調べてみたくなったら

自分でも調べてみたくなったら

おうちで かんがえて みよう

にわや ベランダに、まめや たねを うえた 人は、めが 出たとき ねと くきが どちらへ のびて いるか 見て みましょう。おおきな はちの 土を ほりおこすのは やめて、そっと 見るだけに します。

もっと しりたい とき

「じゅうりょくくっせい」「ダーウィン しょくぶつの うんどうりょく」を としょかんで さがして みましょう。

今日できること

発芽した豆や種が、根と茎をどの向きに伸ばしているかを観察してみます。鉢を横に倒したときの様子を、写真で数日おきに記録するのも一つの方法ですが、鉢の中の根を掘り返したりはしません。

もう少し知りたいとき

JAXAの「宇宙で植物はどう育つ?」[1]や、有人宇宙技術部門のFAQ[7][8]は日本語で読めます。基礎生物学研究所のプレスリリース[6]には、LZYの発見が日本語でまとめられています。

今日できること

発芽した種を観察し、根と茎の向きを調べる。鉢を横に倒して数日おきに撮影すれば、屈曲の様子を記録できる。根を掘り返して傷つけない。

資料をあたる

基礎生物学研究所のプレスリリース[6]は日本語版がある。重力感受の総説[2]は英語だが、図から根冠と平衡石の位置関係が読める。国内の解説[3]は日本語で、平衡石の沈降を中心に紹介している。

しらべた もとの じょうほう

参考にした情報源

参考にした情報源と、その使い方

本文の事実は、次の資料を突き合わせて書きました。

  1. JAXA「宇宙で植物はどう育つ?」 https://humans-in-space.jaxa.jp/biz-lab/case/detail/003668.html (重力屈性の定義)
  2. Journal of Experimental Botany (2015) "New insights into root gravitropic signalling" https://academic.oup.com/jxb/article/66/8/2155/496922 (コルメラ細胞・平衡石説・オーキシンの偏り)
  3. 「化学と生物」55(9)「植物の重力屈性の分子メカニズム」 https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=854 (アミロプラストの沈降の日本語解説)
  4. Popular Science Monthly, Vol. 38 (1890) "The Root-Tip" https://en.wikisource.org/wiki/Popular_Science_Monthly/Volume_38/November_1890/The_Root-Tip (ダーウィンの先端実験の引用)
  5. Darwin Correspondence Project「The power of movement in plants」 https://www.darwinproject.ac.uk/letters/darwins-works-letters/movement-plants (「脳のように働く」のたとえ)
  6. 基礎生物学研究所 プレスリリース(2023年8月) https://www.nibb.ac.jp/press/2023/08/11.html (LZYタンパク質の発見)
  7. JAXA 有人宇宙技術部門 FAQ(無重力での成長方向) https://humans-in-space.jaxa.jp/faq/detail/000743.html (無重力では勝手な方向に伸びる)
  8. JAXA 有人宇宙技術部門 FAQ(光を当てる方法) https://humans-in-space.jaxa.jp/faq/detail/000744.html (光屈性を使って向きをそろえる)
  9. Wikipedia「重力屈性」 https://ja.wikipedia.org/wiki/重力屈性 (根と茎でオーキシンへの反応が逆になること。補助的)

なおした ところ

更新履歴

更新履歴(改版の記録)

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